2018年12月31日月曜日

トポロジー入門演習(第11回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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商写像
商写像についてまとめておきます。

位相空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ と $(Y,\mathcal{O}_Y)$ の間の
全射写像 $f:X\to Y$ が商写像であるとは、
$U\in \mathcal{O}_Y\Leftrightarrow f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$
を満たすことをいいます。

この矢印の右向きの条件から、$f$ は連続であることがわかります。

全射連続写像 $f$ が開写像であるとき、
$U\in \mathcal{P}(X)$ が $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ であるとき、
$f(f^{-1}(U))=U\in \mathcal{O}_Y$ であるから、矢印の左向きも成り立つので
商写像になります。

つまり、全射連続開写像は商写像になります。
同じようにして、全射連続閉写像も商写像になります。

しかし、この逆は成り立たず、全射連続で開でも閉でもない写像が商写像に
なることがあります。
どのような例があるか考えてみください。
例としては、数理科学2018年12月号(例題形式で探求する集合・位相10)
をみてください。

商写像はその名の通り、商集合に入る位相を定めます。

商位相
$X$ を位相空間とし、$\mathcal{O}_X$ をその位相とし、
$\sim$ を $X$ の同値関係とします。
$p:X\to X/\sim$ を商集合を作る自然な射影とします。
このとき、$p$ は全射となります。
$p$ を連続とする $X/\sim$ 上の最大の位相 $\mathcal{O}$ を定めることができます。
$\mathcal{O}$ は、$\mathcal{O}=\{U\subset X/\sim|p^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X\}$ 
と定められます。
$\mathcal{O}$ が位相であることは、すぐわかります。

このとき、この $(X,\mathcal{O}_X)$ と $(X/\sim,\mathcal{O})$ の間の写像
$p$ は商写像となります。
連続性は条件から明らかで、
反対の条件 $U\in \mathcal{P}(X/\sim)$ に対して、$p^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ であるとすると、 $\mathcal{O}$ の条件から、$U\in \mathcal{O}$ となりますから、
商写像の左向きの条件が成り立ちます。
よって、$p$ は商写像となります。

また、$f:X\to Y$ を商写像とします。
このとき、$f$ に従って $X$ に同値関係 $\sim_f$ を
$f(x)=f(y)\Leftrightarrow x\sim_f y$ として
定義することができます。
この同値関係によって作られる自然な射影 $p:X\to X/\sim_f$ 
によって作られる $X/\sim_f$ 上の商位相は $Y$ と同相となります。
これは、自然な射影が商写像となる位相(商位相)が
一意的に決まるからです。

例えば、${\mathbb R}$ の同値関係 $x,y\in {\mathbb R}$ が $x-y\in {\mathbb Z}$
によって与えられる同値関係による商集合 ${\mathbb R}/\sim$ 上の
商位相は、${\mathbb R}^2$ の単位円
$S^1=\{(x,y)\in {\mathbb R}^2|x^2+y^2=1\}$ と同相であることがわかります。

2018年12月19日水曜日

トポロジー入門演習(第10回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は、小テストを行いました。
難し目だった問題も加えましたのでそれほどできていませんでした。
特に後半の問題は問題の内容もわかっていない人も多かったようです。
これらの解答については、以前何回か書いたのでそちらを参照してください。

位相は、わかってしまえば簡単なのですが...

まずは位相について理解する必要があると思い、少し前に戻ろうと思いました。

位相をやる前にまずは、距離空間の理解が欠かせません。

もう一度距離空間を復習しておきます。

距離空間 
集合 $X$ 上の距離関数 $d:X\times X\to {\mathbb R}$
とは、以下を満たすものです。

(1) $d(x,y)\ge 0$ かつ、$d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y$ となる。
(2) $d(x,y)=d(y,x)$
(3) $d(x,y)+d(y,z)\ge d(x,z)$

このような距離関数が定まった空間、$(X,d)$ のことを距離空間と言います。
この最後の不等式のことを一般に三角不等式といいます。

このとき、距離空間が定まると、開集合の概念が生まれます。

$U$ が開集合であるとは、

$\forall x\in U$ に対して、ある $\epsilon>0$ が存在して、$B(x,\epsilon)\subset U$ となること

と定義します。
ここで、$B(x,\epsilon)=\{y\in X|d(x,y)\le \epsilon\}$ とし、$x$ を中心とした $\epsilon$-近傍といいます。

このとき、開集合の集まり $\{U\subset X|U\text{は開集合}\}$ を距離空間の開集合系
(別の言い方では位相)といいます。

開集合の補集合を閉集合といいます。
つまり、$V^c$ が開集合となる集合 $V$ のことを閉集合といいます。
したがって $\{V|V^c\text{は開集合}\}$ は閉集合の集まりです。
閉集合系ともいいます。

ここで、開集合の性質として以下の3つが挙げられます。

(I)  空集合、全体集合 $X$ は開集合である。
(II) 有限個の開集合の共通部分も開集合である。
(III) 任意個の開集合の和集合も開集合である。

(I) は明らかです。空集合が開集合であることは理解しにくいのですが、
任意の $x$ に対してある $\epsilon$ が存在しないといけないのですが、
任意の点がない場合は、$\epsilon$ が存在する必要はありませんから、
無条件に成り立つことになり、空集合が開集合となるのです。

(II) を証明しましょう。有限個の開集合 $U_1,\cdots, U_n$ とすれば、
$\forall x_i\in U_i$ に対して $\epsilon_i>0$ が存在して、
$B(x_i,\epsilon_i)\subset U_i$ が存在します。

そこで、$\forall x\in \cap_{i=1}^nU_i$ に対して、
$\epsilon_i>0$ が存在して、$B(x_i,\epsilon_i)\subset U_i$ が成り立ち、
$\epsilon=\min\{\epsilon_i|i=1,\cdots n\}$ とすると、
$B(x,\epsilon)\subset \cap_{i=1}^nU_i$ が成り立ちます。

よって、$ \cap_{i=1}^nU_i$ も開集合ということがわかります。

(III) を証明しましょう。
$\{U_\lambda|\lambda\in \Lambda\}$ を任意個の開集合とします。
$U=\underset{\lambda\in \Lambda}{\cup}U_\lambda$ とします。
このとき $\forall x\in U$ に対して、ある $\lambda\in \Lambda$ が
存在して、$x\in U_\lambda$ が成り立ちます。
このとき、$\epsilon>0$ が存在して、$B(x,\epsilon)\subset U_\lambda$ が
成り立つので、$B(x,\epsilon)\subset U$ が成り立ちます。

よって、$U$ も開集合だということがわかります。

この3つの性質(I), (II), (III) は一般の位相空間上の性質に引き継がれます。
というか、この3つの性質を満たす集合系を開集合とする空間を位相空間といいます。

開集合が定義されれば、内点を定義することができます。
$A\subset X$ を $X$ の部分集合としたとき、$x$ が $A$ の内点であるとは、
ある $\epsilon>0$ が存在して、
$x\in B(x,\epsilon)\subset A$ となることをいいます。
内点を集めた集合を内部といいます。

特に、開集合とは全ての点が内点となる部分集合ということになります。
また、部分集合 $A\subset X$ の内部とは、
$A$ に包まれる開集合のなかで最も大きいものといっても同じことになります。

位相空間
位相空間を定義します。集合 $X$ が位相空間であるとは、
$X$ の部分集合の集合 $\mathcal{O}$ が定まった空間として定義されます。
つまり、$\mathcal{O}$ は $X$ の部分集合をいくつか集めた集合です。

(I)  $\mathcal{O}$ は空集合、全体集合 $X$ を含む。
(II) $\mathcal{O}$ の有限個の集合の共通部分も $\mathcal{O}$ の集合である。
(III) $\mathcal{O}$ の任意個の集合の和集合も $\mathcal{O}$ の集合である。

この性質をもつ部分集合の集合 $\mathcal{O}$ を位相といい、$\mathcal{O}$ に
含まれる集合を開集合といいます。

距離空間の開集合は、$\epsilon$-近傍を使って構成できたのに対して、
位相空間の場合は、開集合がどういうものかを性質によって定義しているところが
距離空間と異なります。

自然に、距離空間から定まる開集合全体をとると、それは、上の位相空間の
開集合の条件を満たし、距離空間は位相空間と見なせます。

また、集合 $X$ を単純にして考えましょう。
$X$ として有限集合をとります。
このとき、$X$ に位相を定めることができます。
例えば、$X=\{1,2,3\}$ に位相を定めてみましょう。

$\{1,2,3\}$ の部分集合を定めればよいのですから、

例えば、$\mathcal{O}$ として $X$ の冪集合
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{2\},\{3\},\{1,2\},\{2,3\},\{1,3\},\{1,2,3\}\}$
をとると、この部分集合の集まりは、位相の条件 (I), (II), (III) を満たします。
冪集合をとったものがもっとも大きいですが、これをその集合の
離散位相といいます。

一番小さくとって、
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1,2,3\}\}$
としても位相の条件 (I), (II), (III) を満たします。
このように、位相に必要な、空集合と全体集合しか含まないものを密着位相といいます。

そのほかにも、
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{1,2,3\}\}$
としても位相の条件を満たします。
同じように、
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{2\},\{1,2,3\}\}$
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{3\},\{1,2,3\}\}$
も同じ条件を満たします。これらは、1,2,3 を入れ替えること一致するので、
本質的に3点集合上の同じ位相を定めているといえます。
このような $X$ 上の全単射のことを同相といいます。

つまり、$(X,\mathcal{O}_1)$, $(Y,\mathcal{O}_2)$ が同相であるとは、
$f:X\to Y$ に全単射が存在して、$\forall U\in \mathcal{O}_1$ に対して
$f(U)\in \mathcal{O}_2$ となり、$\forall V\in \mathcal{O}_2$ に対して
$f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_1$ となることをいいます。

また、3点集合上の位相は、1,2,3の入れ替えをして得られるものを除けば、
ほかに6つあります。

$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{1,2\},\{1,2,3\}\}$
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{2,3\},\{1,2,3\}\}$
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{1,2\},\{1,3\},\{1,2,3\}\}$
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{2\},\{1,2\},\{1,2,3\}\}$
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},\{2\},\{1,2\},\{1,3\},\{1,2,3\}\}$
$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1,2\},\{1,2,3\}\}$

よって3点集合上の位相で、同相でないものは全部で9個あるということになります。
この9個の分類について以前、別の観点から眺めた文章を
リンク(←)に書きましたので繋いでおきます。

2018年12月13日木曜日

トポロジー入門演習(第9回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は演習はせずに、6,7回の問題の解答を前でもう一度解きました。
ここでは、7だけやっておきます。

7-2
距離空間であれば、可分であることと第2可算であることは同値である。

この証明は(第8回)に書きました。

7-3
下限位相 $({\mathbb R},\mathcal{O}_u)$ はユークリッド位相 $({\mathbb R},\mathcal{O}_{d^{(1)}})$ より真に大きいことを示せ。

下限位相では、半開区間を含めることが特徴でしたから、
$[a,b)$ が $\mathcal{O}_u$ が真に含まれる開集合であることを示せばよいです。

示すべきことは、
$\mathcal{O}_{d^{(1)}}\subset \mathcal{O}_u$ であり、
$\mathcal{O}_{d^{(1)}}\neq \mathcal{O}_u$ であることを示すこと。

$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d^{(1)}})$ の開集合 $\mathcal{O}_{d^{(1)}}$ の元が
すべて $\mathcal{O}_u$ に含まれていることを示す必要があります。

任意の開区間が $\mathcal{O}_u$ に含まれることを示せばよいです。

というのも、
開区間全体は $\mathcal{O}_{d^{(1)}}$ の開基であるので、
$\mathcal{O}_{d^{(1)}}$ の任意の開集合 $U$ は、
$U=\underset{(a,b)\subset U}{\cup} (a,b)$ を満たします。

もし、任意の開区間が $\mathcal{O}_u$  の開集合であるとします。
$(a,b)\in \mathcal{O}_u$ であるので、$U=\underset{(a,b)\subset U}{\cup} (a,b)$
と位相の条件から、任意の $U\in \mathcal{O}_{d^{(1)}}$ は $ \mathcal{O}_u$ 
に含まれます。よって、$U\in \mathcal{O}_u$ です。

つまり、$(a,b)\in \mathcal{O}_u$ を証明します。

$(a,b)=\underset{[x,y)\subset (a,b)}{\cup}[x,y)$ を満たします。
なぜかというと、$I=\underset{[x,y)\subset (a,b)}{\cup}[x,y)$ とおきます。
$I\subset (a,b)$ であることは和集合の各成分が $[x,y)\subset (a,b)$ であることから
明らかです。

また、$z\in (a,b)$ とします。このとき、$[z,b)\subset (a,b)$ であり、
$z\in [z,b)$ であるから、$z\in I$ となり、$(a,b)\subset I$ が成り立ちます。

よって、$(a,b)=\underset{[x,y)\subset (a,b)}{\cup}[x,y)$ が成り立ちます。
開集合の性質から、$(a,b)\in \mathcal{O}_u$ が成り立つので、
$\mathcal{O}_{d^{(1)}}\subset \mathcal{O}_u$ が成り立ちます。

よって、$\mathcal{O}_{d^{(1)}}\subset\mathcal{O}_u$ が成り立つことがわかりました。

また、$[0,1)$ は$\mathcal{O}_u$ の開集合ですが、$\mathcal{O}_{d^{(1)}}$ の開集合
ではありません。
もし、$[0,1)\in \mathcal{O}_{d^{(1)}}$ であるとすると、開区間全体は $\mathcal{O}_{d^{(1)}}$ の開基となる
ので、$[0,1)\subset (a,b)\subset [0,1)$ となる $(a,b)$ が存在する必要があります。
このとき、最初の $\subset $ から、$a<0$ が成り立ち、2つ目の $\subset$ から
$0\le a$ が成り立ちます。よって、矛盾が成立します。

よって、$\mathcal{O}_{d^{(1)}}\subset \mathcal{O}_u$ かつ $\mathcal{O}_{d^{(1)}}\neq \mathcal{O}_u$ が成り立ちます。

問題7-4
$f:X\to Y$ が連続であることの必要十分条件は、$Y$ の任意の準開基 $\mathcal{T}$
に対して $\forall S\in \mathcal{T}$ に対して $f^{-1}(S)$ が $X$ の開集合であることを示せ。

です。$X$ 上の位相を $\mathcal{O}_X$ とし、$Y$ 上の位相を $\mathcal{O}_Y$ とします。

まず、$f$ が連続であることは、

$Y$の任意の開集合 $U\in \mathcal{O}_Y$ に対して $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ となること  $(\ast)$

と必要十分です。

$\mathcal{B}$ を $\mathcal{O}_Y$ の開基とします。
このとき、$\forall U\in \mathcal{O}_Y$ に対して、$U=\underset{V\in \mathcal{B},V\subset U}\cup V$ と書くことができます。

よって、$(\ast)$ が成り立つことは、

任意の $Y$ の開基 $V\in \mathcal{B}$ に対して、$f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$ となること   $(\ast\ast)$

と必要十分です。

なぜかというと、
もし、$Y$ の開基 $\mathcal{B}$ の任意の元 $V\in \mathcal{B}$ に対して、$f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$ であるとします。

このとき、$\forall U\in \mathcal{O}_Y$ に対して、$U=\underset{V\in \mathcal{B},V\subset U}\cup V$ とかけるから、$f^{-1}(U)=\underset{V\in \mathcal{B},V\subset U}\cup f^{-1}(V)$
となり、位相の条件から、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ となります。

また、逆に、
$\forall U\in \mathcal{O}_Y$ に対して $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ であるなら、
$\mathcal{B}\subset \mathcal{O}_Y$ であることから、
$\forall V\in \mathcal{B}$ に対して、$f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$ を満たす。

また、$(\ast\ast)$ が成り立つことは、

任意の $Y$ の準開基の元 $S\in \mathcal{T}$ に対して、$f^{-1}(S)\in \mathcal{O}_X$
が成り立つこと        $(\ast\ast\ast)$

と同値である。
なぜかというと、
もし、$Y$ の準開基 $\mathcal{T}$ の任意の元 $S\in \mathcal{T}$ に対して、
$f^{-1}(S)\in \mathcal{O}_X$ であるとします。

このとき、$\forall V\in \mathcal{B}$ に対して、ある有限個の準開基
$V_1,\cdots, V_n$ が存在して、$V=V_1\cap \cdots \cap V_n$ となるので、
$f^{-1}(V)=f^{-1}(V_1\cap \cdots \cap V_n)=f^{-1}(V_1)\cap \cdots \cap f^{-1}(V_n)$
となり、位相の条件から、$f^{-1}(V)\in \mathcal{O}_X$ となる。

逆に、 $(\ast\ast)$ が成り立つとすると、$f$ は連続なので、
任意の $U\in \mathcal{O}_Y$ に対して、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ が
成り立ち、$S\subset \mathcal{O}_Y$ であるので、
特に、$S\in \mathcal{T}\subset \mathcal{O}_Y$ に対して、$f^{-1}(S)\in \mathcal{O}_X$ が成り立つ。

よって、$(\ast\ast)$ が成り立つことと、$(\ast\ast\ast)$ が成り立つことは同値となります。

ゆえに、$f$ が連続であること $\Leftrightarrow $ $(\ast)$ $\Leftrightarrow$ $(\ast\ast)$ $\Leftrightarrow$ $(\ast\ast\ast)$
となります


2018年12月7日金曜日

表現行列の基底の変換行列による変換則

今週、とある学生が、手習い塾に表現行列の変換規則がわからなくなったということで
質問に来ていました。

それ以前に、彼は、同じ質問を手習い塾でして理解して帰ったのですが、
再びわからなくなったということのようでした。

装着写像と取り外し写像

まず、ベクトル空間の基底とはどのような役割をしているかから始めます。
ベクトル空間 $V$ の元は、基底 $v_1,\cdots, v_n$ を用いて、
$x_1v_1+\cdots+x_nv_n$ と一意的に書くことができます。

これを、数ベクトル空間の形を借りて、

$(v_1,\cdots, v_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$ のように表します。
これは、横ベクトルと縦ベクトルを行列のようにして掛けることで、
ある $V$ の元 $x_1v_1+\cdots+x_nv_n$ を表していると思うことにします。
通常、数ベクトル空間 ${\mathbb R}^n$ は縦ベクトルで書くことが多いですから
基底の方は自然と横並びになります。

こうすると、自然と、ベクトル空間の元 $x_1v_1+\cdots+x_nv_n$ に対して
数ベクトルの元 $\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$ を一つ定めることになります。
一次結合の一意性から、そのような数ベクトルはただ一つに定まり、
その逆写像も定まります。
その逆写像 $\varphi:{\mathbb R}^n\to V$  を、
$$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto (v_1,\cdots, v_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$
と定めましょう。

この写像を装着写像といい、逆写像を、取り外し写像ということにします。

装着とは、基底 $(v_1,\cdots, v_n)$ を左に装着することで、ベクトル空間の元を
実現させているイメージです。取り外しとはその反対です。

基底の変換行列
$(v_1,\cdots, v_n)$、$(w_1,\cdots, w_n)$ を$V$ の2つの基底とします。
すると、
$w_i$ は $v_1,\cdots, v_n$ の一次結合で書くことができます。
その一次結合の係数を数ベクトル $p_i$ にしておくと、$w_i=(v_1,\cdots, v_n)\cdot p_i$ 
と表すことができます。
それらをまとめて、$P=(p_1\cdots p_n)$ なる行列を作っておけば、
$(w_1,\cdots, w_n)=(v_1,\cdots, v_n)P$ となります。
$(v_1,\cdots, v_n)$、$(w_1,\cdots, w_n)$ は $V$ の基底であることから、$P$ は
正則行列となります。
この行列 $P$ のことを基底の変換行列といいます。

$v_1,\cdots, v_n$ による装着写像を $\varphi_1:{\mathbb R}^n\to V$
とし、
$w_1,\cdots, w_n$ による装着写像を $\varphi_2:{\mathbb R}^n\to V$
とします。

装着写像 $\varphi_2$ により $(w_1,\cdots, w_n)$ を装着し、
今度は、取り外し写像 $\varphi^{-1}_1$ により $(v_1,\cdots, v_n)$ 
を取り外してみましょう。そうすると、

$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto (w_1,\cdots, w_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}=(v_1,\cdots, v_n)P\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto P\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}$ 
となります。

つまり、$\varphi_1^{-1}\circ \varphi_2$ は $P$ を左から掛け算する写像となることが
わかります。

表現行列
線形代数で表現行列というのを習うと思います。

ある線形写像(変換) $f:V\to V$ があったときに、
$V$ の基底を$v_1, \cdots, v_n$ としたときに、

$(f(v_1),\cdots, f(v_n))=(v_1,\cdots, v_n)A$

としたときの、$n\times n$ 行列 $A$ を表現行列というのでした。

ここで、$(v_1,\cdots v_n)A$ などの書き方ですが、上と同じで、
$A=\begin{pmatrix}a_{11}&\cdots &a_{1n}\\\cdots &\cdots &\cdots  \\a_{n1}&\cdots &a_{nn}\end{pmatrix}$ とするとき、

$$(v_1,\cdots v_n)A =(a_{11}v_1+\cdots +a_{n1}v_n,\cdots ,a_{1n}v_1+\cdots +a_{nn}v_n)$$

を意味します。

$x_1v_1+\cdots +x_nv_n=(v_1,\cdots, v_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$ を $f$ で写すと、
$f(x_1v_1+\cdots+x_nv_n)=x_1f(v_1)+\cdots+x_nf(v_n)=(f(v_1),\cdots f(v_n))\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}=(v_1,\cdots, v_n)A\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$ 
となります。

つまり、線形写像 $f$ により、
$$(v_1,\cdots, v_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto (v_1,\cdots, v_n)A\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$
のように写され、基底を取り外すことで、
数ベクトルの世界では、線形写像 $f$ は

$$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto A\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$
を意味することになります。 




表現行列の変換則
ここで、基底を取り替えたら表現行列がどのように異なるか?
ということを考えましょう。

ここで、$v_1,\cdots, v_n$ による $f$ の表現行列を $A$ とし、
$w_1,\cdots, w_n$ による $f$ の表現行列を $B$ とします。

つまり、
$(f(v_1),\cdots, f(v_n))=(v_1,\cdots, v_n)A$ 
$(f(w_1),\cdots, f(w_n))=(w_1,\cdots, w_n)B$
となります。


装着写像と$f$ を合成したものは、
$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\ x_n\end{pmatrix}\mapsto (v_1,\cdots v_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\to (v_1,\cdots, v_n)A\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\ x_n\end{pmatrix}$ 
であり、

表現行列 $A$ を左からかけて、装着したものは、
$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto A\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto (v_1,\cdots, v_n)A\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\ x_n\end{pmatrix}$ 
となり、同じ写像です。

同じように、

$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\ x_n\end{pmatrix}\mapsto (w_1,\cdots w_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\to (w_1,\cdots, w_n)B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\ x_n\end{pmatrix}$ 
$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto (w_1,\cdots, w_n)B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\ x_n\end{pmatrix}$ 

は同じ写像です。
これを図にすると下のようになります。


上で言っていることは、この図の矢印に沿って写像を合成することで
ある空間からある空間へ行く時、どのようなルートを通っても同じ写像になります。

例えば、この図式の上の四角形についてもう一度やっておけば、
$B$ を左から掛け算する写像

$$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$
は、$(w_1,\cdots, w_n)$ を装着し、$f$ を施し、再び $(w_1,\cdots, w_n)$ を取り外す操作に
対応しますが、実際やってみると、

$$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto (w_1,\cdots, w_n)\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto (f(w_1),\cdots, f(w_n))\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}= (w_1,\cdots w_n)B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}\mapsto B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots\\x_n\end{pmatrix}$$
となります。

このように、道によらずに写像が一意に定まっている図式のことを可換図式と言います。

左と右の三角形が可換であることは明らかです。

また、$\varphi^{-1}_1\circ\varphi_2$ は $P$ を左から掛ける写像だったことも
ここで思い出しておきましょう。

今、左上の ${\mathbb R}^n$ から出発して右上の ${\mathbb R}^n$ にたどり着く道を
考えます。一番近道をすると、
$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto B\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}$

ですが、一番外回りを通ってくると、

$\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto P\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto AP\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}\mapsto P^{-1}AP\begin{pmatrix}x_1\\\vdots \\x_n\end{pmatrix}$
となり、これらは同じ写像を意味しますから、

$$B=P^{-1}AP$$
が成り立つことになります。
この等式を表現行列の変換規則といいます。

また、ベクトル空間上で考えるとするなら、$(w_1,\cdots, w_n)$ を装着して
$(w_1,\cdots,w_n)P^{-1}AP=(v_1,\cdots, v_n)AP= (f(v_1),\cdots , f(v_n))P = (f(w_1),\cdots, f(w_n))=(w_1,\cdots, w_n)B$
とするとよいでしょう。

2018年12月2日日曜日

トポロジー入門演習(第8回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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ここでは可算公理の周辺の基礎知識についてまとめておきます。
可算公理
可算公理には、第1可算公理と第2可算公理の2種類あります。

第1可算公理は、各点の基本近傍系として可算個のものが存在すること。
第2可算公理は、可算個の開基をもつこと。

をいいます。

また、可分であるとは、
可算な稠密部分集合が存在することをいいます。

基本的な性質を述べていきます。

まず、

距離空間なら、第1可算公理が成り立ちます。
$\mathcal{N}^\ast(x)=\{B(x,\frac{1}{n})|n\in{\mathbb N} \}$ は距離空間の基本近傍系
となります。

$(X,\mathcal{O})$ を距離位相空間とします。
$V$ を $x$ の近傍とします。
このとき、$x$ は$V$の内点であるので、$x\in V^i$
であり、ある$\epsilon$ が存在して、$B(x,\epsilon)\subset V^i\subset V$ となります。
また、アルキメデスの公理により、$\frac{1}{n}<\epsilon$ となる自然数
$n$ が存在する。つまり、
$B(x,\frac{1}{n})\subset B(x,\epsilon)\subset V^i\subset V$ となるので、
$\mathcal{N}^\ast(x)$ は基本近傍系の条件を満たします。

つまり、第1可算公理は位相空間が距離空間であるための必要条件です。

また、

第2可算であれば、可分かつ第1可算が成り立ちます。

$\mathcal{B}$ を位相 $\mathcal{O}$ の可算開基とします。
つまり、$\mathcal{B}$ は可算個の集合からなる開基です。
$V\in \mathcal{B}$ に対して、$x_V\in V$ を一つ選んでおきます。
このとき、$A=\{x_V|V\in \mathcal{B}\}$ とすると、
$A$ は $X$ の可算稠密集合となります。

$\bar{A}=X$ となることを示します。

$\forall x\in X$ とします。 $x\in U$ を$x$ の近傍とします。
このとき、開基の性質から、$x\in V\subset U^i$ となる $V\in \mathcal{B}$ が
存在します。このとき、$x_V\in V$ であるから、$V\cap A\neq \emptyset$ となります。
よって、$\emptyset \neq V\cap A\subset U\cap A$ より、$U\cap A\neq \emptyset$ となります。
$A$ は $x$ の任意の近傍と共通部分を持つので、$A$ は $X$ において稠密となります。

また、第2可算公理を満たす空間が第1可算公理を満たすことは、
$\mathcal{N}^\ast(x)=\{V\in \mathcal{B}|x\in V\}$ とおくと、この集合は可算個からなり、

$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、$x\in U\subset V^i$ となる開基の元 $V\in \mathcal{B}$
が存在し、とくに条件から、$V\in \mathcal{N}^\ast(x)$ となる。
ゆえに、$\mathcal{N}^\ast(x)$ は、$x$ の基本近傍系であり、可算個の集合からなるから
第1可算である。


さらに、

距離空間であれば、可分な空間は、第2可算公理を満たします。

距離空間なら第1可算公理を満たすので、可算個からなる
基本近傍系 $\mathcal{N}^\ast(x)=\{B(x,\frac{1}{n})|n\in {\mathbb N}\}$ をとっておきます。
また、$A$ を $X$ の稠密可算集合とします。
このとき、$\mathcal{B}=\{V|V\in \mathcal{N}^\ast(x),x\in A\}$ となる集合をとると、
$\#\mathcal{B}\le \aleph_0\times \aleph_0\approx \aleph_0$ であるので
$\mathcal{B}$ は開集合からなる可算集合となります。

いま、$U\in \mathcal{O}$ を任意の開集合とします。

このとき、近傍 $B(x,\frac{1}{n})$ が存在して、
$x\in B(x,\frac{1}{n})\subset U^i\subset U$ となります。
ここで、$A$ の稠密性により、$a\in B(x,\frac{1}{2n})\cap A$ が存在して、$d(x,a)<\frac{1}{2n}$ を満たします。
$x\in B(a,\frac{1}{2n})\subset B(x,\frac{1}{n})\subset U$
となります。

つまり、$\mathcal{B}$ はこの位相空間の開基となります。

よって、
距離空間ならば、可分であることと第2可算であることは同値になります。

この同値性は、距離空間を第1可算公理を満たす空間に弱めると成り立ちません。
その反例がゾルゲンフライ直線です。


下限位相(ゾルゲンフライ直線)
とは、$\{[a,b)|a,b\in {\mathbb R}\}$ を開基として定義される ${\mathbb R}$ 上の
位相空間のことを言います。

このように、開基を1つ指定してやることで1つの位相空間を定めることができます。
比較のために書いておけば、$\{(a,b)|a,b\in {\mathbb R}\}$ を開基として定めた
位相空間は、通常の ${\mathbb R}$ 上の位相空間となります。

ゾルゲンフライ直線は、通常と開基の入れ方が違うので、${\mathbb R}$ とは
異なる位相空間となります。

※開基の入れ方が異なるから異なる位相空間となるとは限らないことは注意しておきます。
例えば、${\mathbb R}$ 上の通常の距離位相空間は、$d_1(x,y)=|x-y|$ として
距離を定義して得られる $\mathcal{B}_1=\{B_{d_1}(x,\epsilon)|\epsilon>0\}$ を開基とするのと、
$d_2(x,y)=\frac{|x-y|}{1+|x-y|}$ を距離として、$\mathcal{B}_2=\{B_{d_2}(x,\epsilon)|\epsilon>0\}$
を開基とするのでは開基の集合は異なりますが、同じ位相を定めます。
例えば、$\mathcal{B}_1$ は全体集合 ${\mathbb R}$ は含まれないが、$\mathcal{B}_2$ には
全体集合 ${\mathbb R}$ が含まれている。

しかし、ゾルゲンフライ直線と通常の距離位相は異なります。

まず、ゾルゲンフライ直線は、第1可算空間です。
$\mathcal{N}^\ast(x)=\{[x,x+\frac{1}{n})|n\in {\mathbb N}\}$
は、可算個の基本近傍系となります。

また、${\mathbb Q}$ は可算個の稠密部分集合となります。
しかし、

第2可算公理を満足しません。
$\mathcal{B}$ をゾルゲンフライ直線の開基とします。
$a\in {\mathbb R}$ と $[a,b)$ とすると、$a\in V_a\subset [a,b)$
となる $V\in \mathcal{B}$ が存在することになります。
$\min{V_a}=a$ なので、$\{V_a|a\in {\mathbb R}\}\subset \mathcal{B}$
は非可算個の集合からなるから、$\mathcal{B}$ は非可算開基
である。
よって、任意の開基は非可算集合からなるので、
ゾルゲンフライ直線は第2可算公理を満たしません。

ゾルゲンフライ直線は、第1可算公理を満足するが、
可分性と第2可算公理の同値性が成り立たちません。

特にゾルゲンフライ直線は距離空間ではないことになります。

以前、ゾルゲンフライ直線や平面についてまとめたことが
あったので、位相的性質をさらに詳しく知りたい場合はこちら
をご覧ください。

2018年11月26日月曜日

トポロジー入門演習(第7回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は第7回目だったんですが、演習の予習をしている人が少なくなりました。
必ず自宅で問題を解くようにしてください。

開基
位相空間の理解のためには開基についてマスターする必要があります。

問題6-1
相空間 $(X,\mathcal{O})$ の $\mathcal{B}\subset \mathcal{O}$ について、以下の同値性を証明せよ。
(1) $\forall U\in \mathcal{O}$対してある$\mathcal{B}_U\subset \mathcal{B}$が存在して $U=\cup\mathcal{B}_U$ を満たす。($\mathcal{B}$ が $(X,\mathcal{O})$ の開基であることの定義。)
(2) $\forall U\in \mathcal{O}$ と $\forall x\in U$ に対して $x\in V\subset U$ となる $V\in \mathcal{B}$ が存在する。

この問題をやっている人はあまりいませんでした。

(1) は $\mathcal{B}$ が $\mathcal{O}$ の開基であることの定義です。
(2) はそれと同値な性質です。

この言い換えは重要なので、是非とも理解していただきたいと思っています。

もし、$\mathcal{B}$ が $\mathcal{O}$ の開基である((1)を満たす)とします。
このとき、$\forall U\in \mathcal{O}$ とします。
$\mathcal{B}_U\subset \mathcal{B}$ が $U=\cup \mathcal{B}_U$ となる集合とします。

よって、$\forall x\in U$ に対して $V\in \mathcal{B}_U$ が存在して、
$x\in V\subset U$ となります。

逆に、$\forall U\in \mathcal{O}$ に対して、$\forall x\in V\subset U$ となる開集合 $V\in \mathcal{B}$
が存在するとする。
このとき、$\mathcal{B}_U$ として、そのような $V$ を集めた集合とします。
そうすると、$\mathcal{B}_U\subset \mathcal{B}$ であり、
$\cup\mathcal{B}_U=U$ となります。

最後の等式を一応示しておきます。
$\forall x\in U$ に対して $x\in V\in \mathcal{B}_U$ かつ $V\subset U$ であったので、
$x\in V \subset \cup\mathcal{B}_U$ 、つまり、$U\subset \cup\mathcal{B}_U$
であることはわかります。
逆に $x\in \cup\mathcal{B}_U$ であるとします。
このとき、$x\in V\in \mathcal{B}_U$ であり、$V\subset U$ であったので、
$x\in U$ が成り立ちます。よって、$\cup\mathcal{B}_U\subset U$ が成り立ちます。

基本近傍系
基本近傍系も位相空間において重要なものです。
まず、$x\in X$ に対して $V$ が $x$ の近傍であるとは、$x$ が $V$ の内点となることです。
$x$ の近傍全体の集合を $\mathcal{N}(x)$ とします。

$\mathcal{N}^\ast(x)\subset \mathcal{N}(x)$ が基本近傍系であるとは、
任意の近傍 $V\in \mathcal{N}(x)$ に対して、
$W\in \mathcal{N}^\ast(x)$ が存在して、
$x\in W\subset V$ となることです。

つまり、基本近傍系とは、いくらでも小さい近傍
(任意の近傍に包まれる基本近傍系に含まれる近傍)
が存在する近傍の部分集合ということです。
問題6-2は基本近傍系についての問題です。
距離空間の開集合 $U$ は、任意の点 $x\in U$ にある $\epsilon$ 球が包まれるので
$\epsilon$ 球全体は基本近傍系になります。

また、開基とは、問題6-1で言い換えたように、任意の開集合 $U$ に
対して、$x\in V\subset U$ となる開集合の集まりとも思えるので、
各点の開集合からなる基本近傍系集めてこれば開基になります。

準開基
準開基とはその有限共通部分をとったとき、開基となるものをいいます。
準開基の理解には、例をいくつかみることがよいと思います。
${\mathbb R}$ の開基とは、例えば開区間全体 $\{(a,b)|a,b\in{\mathbb R}\}$
がそうですが、開区間は、$(-\infty,b)$ と$(a,\infty)$ の2つの
開集合の共通部分となります。つまり、このような形の開集合の集合は
準開基になります。
また、${\mathbb R}\times (a,b)$ や $(a,b)\times {\mathbb R}$
のような開集合は、${\mathbb R}^2$ 上の通常の距離位相において準開基となります。

2018年11月18日日曜日

トポロジー入門演習(第6回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回の演習をした時に、あまり理解ができていなさそうだったところを書いておきます。


問題4-1
$f$ が連続であることと
任意の部分集合 $A$ が $f(\bar{A})\subset \overline{f(A)}$ であることは
同値であることを示せ。

補足ですが、連続写像 $f:X\to Y$ に対して、$A$ は $X$ の部分集合です。

$f:X\to Y$ が連続であるとすると、任意の開集合 $U\subset Y$ に対して $f^{-1}(U)$ も
開集合であることと同値です。
さらに言い換えて、任意の閉集合 $F\subset Y$ に対して $f^{-1}(F)$ も
$X$ の閉集合であること同値です。

この関係を使いましょう。

もし $f$ が連続であるとします。
$X$ の任意の部分集合を $A$ とします。
$A\subset f^{-1}(f(A))\subset f^{-1}(\overline{f(A)})$  が成り立ちます。
$f^{-1}(\overline{f(A)})$  は閉集合であり、$\bar{A}$ は $A$ を包む閉集合の中で
最小のものだから、$\bar{A}\subset f^{-1}(\overline{f(A)})$ となり、
両辺に $f$ をかけて、
$f(\bar{A})\subset \overline{f(A)}$ となります。

つぎに、任意の部分集合 $A\subset X$ に対して $f(\bar{A})\subset \overline{f(A)}$
が成り立つと仮定しましょう。
このとき、
$F$ を任意の $Y$ の閉集合とします。
このとき、$f(\overline{f^{-1}(F)})\subset \overline{f(f^{-1}(F))}=\bar{F}=F$ となり、
$\overline{f^{-1}(F)}\subset f^{-1}(F)\subset \overline{f^{-1}(F)}$ より、
$f^{-1}(F)=\overline{f^{-1}(F)}$ が成り立ちます。
よって、$f^{-1}(F)$ も閉集合であるから、$f$ が連続である
ことになります。


問題4-3
$x\in X$ が $A\subset X$ の触点であることと、$d(x,A)=0$ であることは
同値であることを示せ。


この問題の証明についてまだあまりできていませんでした。
$d(x,A)$ の定義は inf を使って次のように定義します。

$$d(x,A)=\inf \{d(x,a)|a\in A\}$$

つまり、$A$ のある点 $a$ からの距離 $d(x,a)$ の下限として定義されます。

$d(x,A)=0$ とは、$A$ のある点からの距離の下限が $0$
ということなのですが、
$d(x,A)=0$ から言えることは、$d(x,A)\ge 0$ なので当然
$d(x,A)=\epsilon>0$ではないので、
$\epsilon$ より近い $x$ からある $A$ までの元は必ず存在します。

よって、$\forall \epsilon>0$ について、$d(x,a)< \epsilon$ となる $a\in A$ が存在します。
もう少し言い換えれば、任意の $\epsilon>0$ に対して、$B_d(x,\epsilon)\cap A$ の元は
存在することになります。

$\forall \epsilon>0$ に対して、$B_d(x,\epsilon)\cap A\neq \emptyset$ であることは
$x\in \bar{A}$ であることの定義でしたので、よって、$x\in \bar{A}$ となります。

また、逆に、$x\in \bar{A}$ であるとすると、任意の $\epsilon>0$ に
対して、$B_d(x,\epsilon)\cap A\neq \emptyset$ であることより、
$\forall \epsilon>0$ に対して、$d(x,a)<\epsilon$ かつ $a\in A$ であることになるので、
$0$ より大きい実数は $\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界になりません。
また、$0$ より小さい実数は、下界の最大にもなりません。
$d(x,a)\ge 0$ であるので、$0$ より小さい実数 $-\delta$ より大きい実数でも
$0$ 以下であれば、$\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界になります。
よって、 $0$ が $\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界の最大になります。

よって、$d(x,A)=\inf\{d(x,a)|a\in A\}=0$ となります。


これで証明はおわりです。
少し丁寧すぎるくらい長々と証明をしました。

また、$d(x,A)=0$ だからといって、$x\in A$ にはならないので気をつけてください。
問題4-2でそのような例を与えました。
$A=B((0,0),1)$ 、$x=(1,0)$ とするとき、$d(x,A)=0$ ですが、$x\not\in A$ です。

今回渡した問題の基本近傍系ですが、まだ、講義では行なっていないかもしれません。

定義はこうです。

$x\in X$ に対して、$\mathcal{R}(x)$ を $x$ の近傍系( $x$ の近傍全体の集合) とし、
$N(x)\subset \mathcal{R}(x)$ が $x$ の基本近傍系であるとは、
$\forall V\in \mathcal{R}(x)$ に対して、ある $W\in N(x)$ が存在して、
$W\subset V$ となることです。

どんな近傍にもそれに含まれる基本近傍系の元が含まれることになります。
とくに、基本近傍系の中にはいくらでも小さい近傍が存在することになります。

2018年11月11日日曜日

トポロジー入門演習(第5回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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位相空間
講義の方は位相空間に入りました。
距離空間の距離の概念を用いると、部分集合の内部、閉包、境界、
開集合、閉集合、などが定義できるようになりました。

また、開集合と閉集合が定義できれば、近傍が定義できます。
この近傍を用いて写像の連続性が定義できるようになるのです。
正確に言えば近傍を用いなくても開集合だけでも連続性は定義はできます。

距離を用いることで写像の連続性について議論できるようになったのですが
距離空間の連続性は、距離の性質ではなく、距離から作られた
開集合の性質と捉えることができます。

例えば、${\mathbb R}^n$ 上の距離として、ユークリッド距離
$$d^{(n)}({\bf x},{\bf a})=\sqrt{(x_1-a_1)^2+\cdots +(x_n-a_n)^n}$$
を用いても、
$$d_{MH}({\bf x},{\bf a})=|x_1-a_1|+\cdots+|x_n-a_n|$$
を用いても、${\mathbb R}^n$ の中の開集合全体は変わりません。
${\bf x}=(x_1,\cdots, x_n)$ かつ ${\bf a}=(a_1,\cdots, a_n)$ です。
すなわちどちらの意味の距離を用いても写像の連続性には変わりはないということに
なります。

つまり、連続性の本質は距離関数には依存せず、距離から作られた開集合にのみ
依存するということになります。
開集合さえ存在すれば連続性の議論ができるのですから、
最初から距離はなくとも、ある一定の性質をもつ開集合の存在が仮定されていれば
連続性を議論することができるはずです。

そこで、位相空間という概念が登場します。
距離なしに、最初から開集合が存在する状況とは以下の状況です。

$X$ を集合とし、以下のような冪集合の部分集合 $\mathcal{O}\subset \mathcal{P}(X)$
を考えます。

(1) $\emptyset \in \mathcal{O}$ かつ $X\in \mathcal{O}$ である。
(2) 有限個の $O_1,\cdots, O_n\in \mathcal{O}$ をとると $O_1\cap \cdots \cap O_n\in \mathcal{O}$
(3) $\{O_\lambda\in \mathcal{O}|\lambda\in \Lambda\}$ を$\mathcal{O}$ の族とすると、$\underset{\lambda\in \Lambda}\cup O_\lambda\in \mathcal{O}$ である。

この3つを満たす $\mathcal{O}$ を $X$ の位相と言います。
$\mathcal{O}$ の元のことを開集合と言います。
位相 $\mathcal{O}$ をもつ空間 $X$ のことを位相空間と言います。
位相空間を $(X,\mathcal{O})$ と書きます。

位相空間の定義には、もはや距離がなくなります。
距離 $d$ から作られる開集合全体を $\mathcal{O}_d$ とすると、
$\mathcal{O}_d$ はこの3つの性質を満たします。
このような位相空間 $(X,\mathcal{O}_d)$ を距離位相空間といいます。
距離から作られない位相空間もあります。

例えば、$X$ を任意の集合とし、$\mathcal{O}=\{\emptyset,X\}$ とすると、
$(X,\mathcal{O})$ は定義から位相空間となります。
この位相を密着位相と言います。

しかし、この位相空間は一般に距離からくるものではありません。
$X$ を2点以上ある集合とします。
このとき、$p,q\in X$ を異なる2点とします。$p$ を含む開集合は、密着位相なら唯一つ $X$
しかありませんが、
距離空間からくる距離位相空間なら、$\delta=d(p,q)$ とすると、
$B_d(p,\delta)$ も $p$ を含む開集合であり、 $q$ を含まないので、$X$ とは
違う開集合となります。
なので、$p$ を含む開集合は、$X$ 以外に $B_d(p,\delta)$ もあります。

よって、密着位相は、一般に距離位相とは同じにはなりません。

このように、位相空間を定義したことによって距離位相空間とは違う位相空間が山ほど
構成できるようになります。

距離空間から、部分集合の内部、閉包、境界が得られていましたが、
位相空間においてもこれらを定義することができます。

$(X,\mathcal{O})$ を位相空間とします。
内部 $A\subset X$ を部分集合とする。$A$ の内部 $A^i$ を $A$ に包まれる開集合のうち最大のものと定義する。$A^i$ の点を $A$ の内点という。

閉包 $A\subset X$ を部分集合とする。$A$ の閉包 $\bar{A}$ を $A$ を包む閉集合のうち最小のものと定義する。$\bar{A}$ の点を $A$ の触点という。

境界 $A\subset X$ を部分集合とする。$A$ の境界 $A^f$ を $\bar{A}\setminus A^i$ と定義する。$A^f$ の点を境界点という。

また、位相空間 $(X,\mathcal{O}_X)$ と $(Y,\mathcal{O}_Y)$ の間の写像 $X\to Y$
が連続であるとは、
$\forall U\in \mathcal{O}_Y$ に対して、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ を満たす写像を言います。

このようにして距離がなくても、部分集合の内部、閉包、境界、連続性について
議論することができるようになりました。

2018年10月29日月曜日

トポロジー入門演習(第4回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は、開集合、連続の性質について発表してもらいました。
後半は連続性についての問題でした。

開集合の性質
$A$ の内部の点 $x$ とは、
$x$ のある $\epsilon$-近傍が $A$ に包まれるような点
のことをでした。
数式を用いれば、
$\exists \epsilon>0$ に対して $N(x;\epsilon)\subset A$
となります。

また、

$A$ の閉包の点 $x$ とは、
$x$ の任意の$\epsilon$-近傍が $A$ と共通部分をもつような点
のことです。
数式を用いることで、
$\forall  \epsilon>0$ に対して $N(x;\epsilon)\cap  A\neq \emptyset$
となります。

よって、補集合 $A^c$ の内部は、
ある $\epsilon$-近傍が $A^c$ に包まれるような点です。
($\exists \epsilon>0$ に対して、$N(x;\epsilon)\subset A^c$)

その否定は、

任意の $\epsilon$-近傍が $A^c$ に包まれない点
($\forall \epsilon>0$ に対して、$N(x;\epsilon)\not\subset A^c$)

つまり、任意の $\epsilon$-近傍が $A$ と共通部分をもつ点ということで、
($\forall \epsilon>0$ に対して、$N(x;\epsilon)\cap A\neq \emptyset$)

これは、$A$ の閉包を表しているのに違いありません。

このことは、

$A$ の内部を $A^i$ で表し、閉包を $\bar{A}$ と表せば、

$((A^c)^i)^c=\bar{A}$
と言うことになります。

$\bar{A}\setminus A^i=A^f$ とすると、
$((A^c)^i)^c=\bar{A}=A^i\sqcup A^f$
となります。ここで、$\sqcup$ は交わりのない和集合を表します。

よって、全体集合を $X$ とすると、
$X=(A^c)^i\sqcup ((A^c)^i)^c =(A^c)^i\sqcup A^i\sqcup A^f$
となります。
$(A^c)^i=A^e$ とおき、$A$ の外部と呼ぶことにすれば、

全体集合 $X$ は
$A^i\sqcup A^f\sqcup A^e$ のような
3つの交わりのない集合の和集合としてかけることがわかります。

$A^i\sqcup A^f$ は $A$ の閉包で、$A^f\sqcup A^e$ は、$A^c$ の閉包となります。


今回説明してもらったことは、
$A$ の内部 $A^i$ とは、$A$ に包まれる最大の開集合である

ということと

$A$ の閉包 $\bar{A}$ とは、$A$ を包む最小の閉集合である
ということです。
内部と閉包をこのように言い換えることができます。

連続写像
連続関数の定義は1年生のころに習ったと思います。
1変数のときは、$\epsilon$-$\delta$ 論法を使ったやり方、
多変数のときは、任意の近づき方によってその(1次元での意味での)
極限が存在するということ。
これらのことについては、先週クラスセミナーでも話しましたし
その話はブログ(リンク)にも書きました。

このように連続性について、空間が違うと少し違った見方をしているようにみえます。
しかし、実はそれはどちらも距離空間の上の関数の連続性として同じ定義に基づくものです。
基礎となるのは $\epsilon$-$\delta$ 論法のときに出てきた極限の考え方です。

距離空間から距離空間への写像が連続であることの定義を
$\epsilon$-$\delta$ 論法を一般化して以下のように定義します。

$f:X\to Y$ が $x\in X$ で連続であるとは、

$\forall \epsilon>0$ に対して、ある $\delta>0$ が存在し、
$\forall y\in N(x;\delta)\Rightarrow f(y)\in N(f(x),\epsilon)$
が成り立つ。
($N(x;\delta)$ の記号は、$x$ での) $\delta$-近傍を表します。)

となります。
つまり、
$\forall \epsilon>0$ に対して、ある $\delta>0$ が存在し、
$f(N(x;\delta))\subset N(f(x),\epsilon)$
が成り立つ。

と書き直すことができます。

また、$f^{-1}$ を両辺にかけることで、
$N(x;\delta)\subset f^{-1}(N(f(x);\epsilon))$
と同値となります。

この性質は、$N(x;\delta)$ を包むような $x$ を含む集合は
$x$ の近傍である。
よって、$x\in X$ で連続であるとは、
$f^{-1}(N(f(x);\epsilon))$ が $x$ の近傍であることを意味します。

さらに、$N(f(x);\epsilon)\subset V$ は $f(x)$ の近傍となるので、

$x\in X$ で $f$ が連続であるとは、
$V$ を $f(x)$ の近傍とするとき、$f^{-1}(V)$ は $x$ の近傍である
ことである。

とかなり簡潔にかけることがわかります。
よって、

$f:X\to Y$ が連続であることと、

$Y$ の開集合 $U$ に対して $f^{-1}(U)$ は $X$ の開集合である

と言い換えることができます。

2018年10月24日水曜日

クラスセミナー(第3回)

[場所1E202(金曜日5限)]

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今回はクラスセミナーで多変数関数の連続性・全微分可能性について
やりました。

多変数関数の連続
$z=f(x,y)$ という関数が $(a,b)$ で連続であるということは、
$(a,b)$ に向かう任意の道に沿っても $f(x,y)$ が連続であるということです。
$(a,b)$ を通る道とは、
連続関数 $x(t),y(t)$ に対して、$x(0)=a$ かつ $y(0)=b$ となるものを用いて
$(x(t),y(t))$ と書けるものをいいます。
このとき、$f(x(t),y(t))$ は実数上の実数値関数ですが、
上の任意の道において連続であるとは、この実数値関数が $t=0$ で連続であるということです。

つまり、
$z=f(x,y)$ という関数が $(a,b)$ で連続であるとは、
任意の $t=0$ で $x(0)=a$ かつ $y(0)=b$ となる連続関数 $x(t),y(t)$ に対して、
1次関数として $f(x(t),y(t))$ が連続となることを言います。

このとき、
$\lim_{(x,y)\to (a,b)}f(x,y)=f(a,b)$ と書きます。

例えば、
$f(x,y)=\begin{cases}\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}&(x,y)\neq (0,0)\\0&(x,y)=(0,0)\end{cases}$ が $(0,0)$ で連続であるということを示すには、
$x(t),y(t)$ で、$t=0$ で連続で、$x(0)=y(0)=0$ となる関数を任意に取ったときに、
$f(x(t),y(t))$ が $t=0$ 連続であることを示せば良いことになります。

そうすると、$r(t)=\sqrt{x(t)^2+y(t)^2}$ とすると、
$r(t)$ も連続な関数で、$t\to 0$ のとき $r(t)\to 0$ となります。
$|f(x(t),y(t))|=\frac{|x(t)^3+y(t)^3|}{r(t)^2}\le \frac{r(t)^3+r(t)^3}{r(t)^2}=2r(t)$
ここで、右辺は、$r(t)\to 0\ \ (t\to 0)$ であるので、
はさみうちの原理により、$f(x(t),y(t))\to 0\ \ (t\to 0)$ となります。

この証明をもっと簡略化すれば、以下のようにすることもできます。
$r=\sqrt{x^2+y^2}$ とするとき、$(x,y)\to(0,0)$ ならば、$r\to 0$ である。
よって、
$|f(x,y)|\le \frac{|x^3+y^3|}{r^2}\le \frac{|x^3|+|y^3|}{r^2}\le \frac{r^3+r^3}{r^2}=2r\to 0$
であるので、はさみうちの原理により、$f(x,y)\to 0$ であることがわかる。


他の例で、連続でないことを示すには、ある関数
$x(t),y(t)$ を取ったときに、$(a,b)$ で連続ではなくなることを示せばよい
ことになります。例えば、道を2通り取ったときに
そのとき、$f(x(t),y(t))$ は収束しても、その行き先が違うなどを
確かめることで、関数が不連続であること確かめることができます。
その例は、上のHPのリンクの中のクラスセミナー第3回のスライドにあります。


全微分可能性
$z=f(x,y)$ が $(x,y)=(a,b)$ で全微分可能であるとは、下の条件を満たすことです。
$f(x,y)=f(a,b)+m(x-a)+n(y-b)+o(\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2})$
を満たすような $m,n$ が存在することです。
これは、次のように言い換えることができます。

$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{f(x,y)-f(a,b)-m(x-a)-n(y-b)}{\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2}}=0$
となります。つまり、$\lim$ の中の関数が $(0,0)$ で連続であり、
$0$ に収束するということです。

つまり、やることは、収束するように、$m,n$ を選ぶことができるかということです。
もし選ぶことができるなら、特に、$m=\frac{\partial f}{\partial x}(a,b)$ であり、
$n=\frac{\partial f}{\partial y}(a,b)$ であることもわかります。

例として、$\frac{x^4+y^4}{x^2+y^2}$ が原点で全微分可能であることを
証明できます。上のHPのリンクのスライドを見てください。

また、上に例として出した $\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}$ は連続でしたが、
全微分可能ではないこともそこで示していますのでそちらを見てください。

概念の関係性
連続、全微分可能、偏微分可能、$C^1$ 級について
以下の論理関係が一般に成り立ちます。
$C^1$ 級とは、1階の偏導関数が全て連続であることです。

$C^1$ 級 $\Rightarrow$ 全微分可能 $\Rightarrow $ 連続
全微分可能 $\Rightarrow $ 偏微分可能

この矢印のいずれも逆は言えません。
また、連続であることと偏微分可能であることの間には論理的関係性はありません。
例えば、$f(x,y)=\begin{cases}\frac{xy}{x^2+y^2}&(x,y)\neq (0,0)\\0&(x,y)=(0,0)\end{cases}$ は偏微分可能ですが、連続ではありません。

2018年10月22日月曜日

トポロジー入門演習(第3回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今回は、開集合、閉集合についての演習についてやりました。

距離空間において以下を説明してもらいました。
(問題2-1) 開区間 $(a,b)$が開集合であること
(問題2-2)  $(a,b)\times (c,d)$ が開集合であること
(問題2-2) 1点集合が閉集合であること
(問題2-3) $U,V$ が開集合なら $U\cap V$ も開集合、$U_\lambda(\lambda\in \Lambda)$ なら $\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda$ も開集合
(問題2-4) $U$ が開集合であれば、$U^c$ は閉集合である。

とくに、1点が閉集合であることが特に困ったようです。
これらのことの証明は、定義に戻って議論することが重要です。

1点集合が閉集合であることだけここでやっておきます。
$(X,d)$ を距離空間とする。$p\in X$ に対して、$q\in X\setminus\{p\}$ に対して、
$\delta=d(p,q)$ とする。
$N(q;\delta)\subset X\setminus \{p\}$ であるから、$X\setminus \{p\}$ は開集合であることがわかる。

この証明の前に、以下が成り立っていたことに注意しておきます。

命題
距離空間の部分集合 $A\subset X$ をとる。
$\forall p\in A$ に対して、 $\epsilon$ が存在して $N(p;\epsilon)\subset A$ となることと、
$A$ が開集合であることは同値である。

(証明)
もし、$\forall p\in A\subset X$ に対して、$N(p;\epsilon)\subset A$ となるなら、
$a$ は $A$ の内点である。よって、$A\subset A^i$ である。
本来 $A^i\subset A$ であるので、$A=A^i$ であるので、$A$ は開集合である。
逆に $A$ が開集合であるとすると、$A=A^i$ であり、$\forall p\in A$ に
対して、$N(p;\epsilon)\subset A$ となることがわかる。

命題
閉集合の補集合は開集合である。

(証明)
$F$ を閉集合とする。
$a\in (F^c)$ とする。
$a$ は $F$ の触点ではないので $\epsilon >0$ が存在して、$N(a;\epsilon)\cap F=\emptyset$
である。
つまり、$N(a;\epsilon)\subset F^c$ である。
よって、$a$ は $F^c$ の内点であるから、$F^c\subset (F^c)^i$ となり、
$F^c=(F^c)^i$ であるから、$F^c$ は開集合である。


この命題は開集合の性質として基本的です。

2018年10月15日月曜日

トポロジー入門演習(第2回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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トポロジー入門演習を行いました。
先週に引き続き、内点、内部、触点、閉包の演習を行いました。

$[0,1)$ の内部が $(0,1)$ であることを証明してもらいましたが、
時間内に終わったグループもありましたが、そうでないグループも
ありました。

距離空間の場合の内点の定義を再び書きます。
$(X,d)$ が距離空間の場合に、
部分集合 $A\subset X$ に対して、$a\in A$ が $A$ の内点であるとは、

ある$\epsilon>0$ が存在して、
$B_d(a;\epsilon)\subset A$ であること

です。また、内点の全体の集合を内部といいます。
ここで、$B_d(a;\epsilon)=\{x\in X|d(x,a)<\epsilon\}$ を表します。
同じものは、教科書では $N(a;\epsilon)$ と書いてあります。
下のように、${\mathbb R}^n$ における、定義 $B_n(x;\epsilon)=\{y\in {\mathbb R}^n|d(y,x)<\epsilon\}$ と混同しないようにしましょう。


たとえば、$[0,1)$ の内部は、$(0,1)$ ですが、
このことは、以下のようにして示すことができます。

$(0,1)$ のすべての点が $[0,1)$ の内点であることを示す必要があります。
$a\in (0,1)$ に対して、
$r=\min\{a,1-a\}$ とします。これは、$r$ は、$a$ の $[0,1)$ の端からの距離の
近い方の意味です。
そうすると、$r\le a$ かつ $r\le 1-r$ が成り立ちます。
このとき、$B_1(a;r)\subset[0,1)$ が成り立ちます。
この包含関係を証明すればよいが、そのためには $\forall b\in B_1(a;r)$ に対して $b\in [0,1)$
であることを証明すればよいです。

$a-r<b<a+r$ となります。
よって、
$b>a-r\le a-a=0$
かつ
$b<a+r\le a+1-a=1$ であるので、
$0<b<1$ つまり、$b\in [0,1)$ である。
よって、$B_1(a;r)\subset [0,1)$ であることがわかる。

ゆえに、$(0,1)$ の各点は、$[0,1)$ の内点であることがわかった。
では、$[0,1)$ の内点は、$[0,1)$ の部分集合なので、$0$ が内点でないことを示す
必要があります。

$a\in [0,1)$ が $[0,1)$ の内点でないとは、
内点の定義を否定すれば良いので、

$\forall \epsilon>0$ に対して $B_1(a,\epsilon)\not\subset [0,1)$ であること

となります。

$0\in [0,1)$ が内点ではないことを示します。
$\forall \epsilon>0$ に対して $b\in B_1(0,\epsilon)$ が存在して $b\not\in [0,1)$ となることを
示します。

$b$ を見つければ良いのですが、$b=-\frac{\epsilon}{2}$ を取れば、
$b\in B_1(0,\epsilon)$ であり、$-\frac{\epsilon}{2}<0$ なので、$b\not\in [0,1)$ となります。

よって、$0\in [0,1)$ は $[0,1)$ の内点ではないことになります。

ゆえに、$[0,1)^i=(0,1)$ であることがわかります。

この問題は1次元の場合(つまり ${\mathbb R}^1$)の話ですが、次の問題では、
2次元 ${\mathbb R}^2$ の場合の証明になります。

2018年10月12日金曜日

クラスセミナー(第2回)

[場所1E202(金曜日5限)]

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テフ(tex or Latex)について書いておきます。
(注意:以下は、2018年度に行った筑波大学数学類のクラスセミナーやフレッシュマンセミナーで
行った内容をもとに書かれています。
これを読んでいる方は、現在の状況とは異なりますので注意してお読みください。)

テフは、数式や文章を書くためのソフトで、ほとんど全ての数学者は
テフを使って、論文を書いたり、発表のスライドを作ったりしています。

簡単に綺麗に数式を打つことができます。
数式の配置など自動で計算して出力してくれるので、
WordやPower Pointよりも自然な感じのファイルを短時間で
作ってくれます。

ただ、環境を整えるのが少々ハードルが高いこともあり、
最初はとっつきにくいですが、一度インストールしてしまえば、
いつでも綺麗な数式入り文章を書くことができます。
もちろん大学のレポートの作成などに使うことができます。

この文章は、大学のレポートをtexで書いて提出したい!!という
超意欲的な学生向けのもので、texの文章にかける(知識はなくてもいい)情熱と根性を
持ち合わせているかたにむいています。

その代わり、一度高みに登れば、超一流の研究者と同じ環境で数式いりの文章
作成をする環境を整えることができます。

インストール
MacWindowsにインストールには、

Windows なら、リンク などを見ながらやると良いと思います。
初心者向けに簡単インストールの方法も整備されており、
最近では、ボタン一つで少々時間がかかりますが
インストールをやってくれます。
Pathなどのややこしい設定などは不要になります。

Mac なら、こちら を利用するとよいと思います。

エディタ選び
texをインストールした後しなければならないことは、文生を書くための
エディタ(メモ帳などの文章作成ソフト)
を選ぶ必要があります。
確かに、windowsに入っているようなメモ帳でもtex作成が
できるようですが(コマンドプロンプトなどを立ち上げてやらなければ
ならない。

一つの方法は、デフォルトで入っているものを使うということです。
texworksというのがデフォルトで入っている場合が一般的ですので
それほど拘らなければそれを使うのがよいです。

その場合日本語環境が設定されていない場合がありますので、セットアップする必要があります。
https://texwiki.texjp.org/?TeXworks%2F設定
を参照してください。

他のエディタを選ぶ場合には、正解はありませんが、多くの選択肢があります。
私が使ったことのあるものは、
Winshellや、K2editorや、easytexなどです。

macの場合は多くの場合、texshopというものがあって一般的です。

texの設定の構築に断念した人には、
インターネットの環境があれば、Cloud Latexというサイトで、texで作成された
文章を作ってくれます。

すでにインストールした環境を
ウェブ上で作ってくれる上、もちろんpdfなどのファイルを
ダウンロードすることもできます。
サイトは Cloud Latex にあります

インストールの設定を頓挫した人はこちらを試してみるとよいかもしれません。

それではやってみよう

春学期に、サテライト室において日本語を使えるテフ環境を整えましたので、
それを用いれば、何かスライドをつくることができます。

texのコードの中身は特殊なプログラムによってできています。

まず、インターネット上にtexプログラムのコマンド集が多くあります。
たとえば、コマンド集 などがあります。
この中から、自分が出力したいコードや環境を探し出して
いろいろと試してみてください。
また、このコマンド集にないものを試したい場合はさらに検索すると、
styファイルをダウンロードして行う、少し高度なコマンドもいくつかよういされている
場合があります。


ここでは、春学期のページスライドを見てまずは基礎を学習しましょう。

テフのコードの中身はざっくりと

\documentclass[オプション]{文書クラス}
プリアンプル
\begin{document}
本文
\end{document}

のようになっています。

「オプション」と「文書クラス」ところには、には、文章
の種類を指定します。
例えば、
上のスライドの中には、オプションはなく、
\documentclass{article}
としています。日本語を打つ場合は、
\documentclass{jarticle}
とします。jをいれなくても日本語自体は打てます。

また、スライドを作りたい場合は、
春学期のページで書いたスライドの文章(リンク)にあるtexファイルというのを
クリックして中を見て見てください。
jsarticle
という文書クラスを使っています。

「プリアンプル」のところには、使いたいパッケージなどを入れます。
何を入れたら良いか(入れなければならないか)は、その場合ごとに変わってきます。
「本文」のところには、何か文章を入れるとその部分が文章になって出力されます。

[文字]
文字はエディターに直打ちすることにより、出力されます。
文字の大きさを変える場合は、
{\small 文字}

{\large 文字}
のように大きさを変えることができます。
\smallや \large は他にも大きさがあり、1
(サイト)にその大きさの違いが書かれていますので自分で調整してください。
太字にする場合は {\bf ...}
イタリックにする場合は {\it ...}
とします。

[数式]
$”と”$”によって数式を挟むと、数式モードになり、綺麗なTexの数式に
することができます。

数式のあらゆるコマンドは(リンク)などで勉強して作ってください。

例えば、
\int_0^{\infty}e^{-x^2}dx=\frac{\sqrt{\pi}}{2}
のように書いたものをドルマークでくくると、
$\int_0^{\infty}e^{-x^2}dx=\frac{\sqrt{\pi}}{2}$

のようになります。
ドルを1ではなく、2つ繋ぐと
$$\int_0^{\infty}e^{-x^2}dx=\frac{\sqrt{\pi}}{2}$$
のようにセンターよせになります。

[改行]
\\ のようにバックスラッシュを2個入れると、入れたところで文章は改行されます。

[環境]
Texには様々な環境が用意されています。
例えば、センターよせにしたい場合は、

$\verb|\begin{center}|$
文章や数式
$\verb|\end{center}|$

のようにして書くと、文章や数式の部分がセンターよせになります。

他によく使うのは、
$\verb|\begin{enumerate}|$
$\verb|\item|$
$\verb|\item|$
$\verb|\end{enumerate}|$
もあります。(番号付き)箇条書きになります。
$\verb|\begin{itemize}|$
$\verb|\item|$
$\verb|\item|$
$\verb|\end{itemize}|$
とすると、箇条書きだが、先頭が黒丸になります。

このように、\begin{...} と \end{..} によって、他に様々な環境にすることができます。
他の環境については、他のサイトなどでも書かれていますのでそちらを参照してください。

さらに詳しい使い方は、既存のtexファイルなどをどこかで手に入れるか、
コマンド集をみながら使い方を学習するとよいと思います。

2018年10月3日水曜日

トポロジー入門演習(第1回)

[場所1E202(月曜日4限)]

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今日(10/1)からトポロジー入門演習の授業が始まりました。
大学2年生むけです。

この時間の前の時間にトポロジー入門の講義があり、それに付随する演習の授業です。
是非ともどちらも受講して、トポロジーについて理解を深めてください。

名前はトポロジーですが、内容は、位相空間について主にやります。

授業の形式はグループワークです。
グループワークでは、数学の内容を正しく理解するだけではなく、
  1. 人に正しくわかりやすく伝えること。
  2. 人の話が数学的に正しいかどうか判断すること。
  3. 人と問題を解決していくこと。
を養ってもらおうと思っています。
授業の最初に前回の復習を兼ねて詳しく解説し、解答は与えますが、
あとはグループ内で議論をしてもらいます。
必要に応じて私が議論に参加します。

また、今日やってみて授業時間内では到底考える時間は足りないと感じましたので、
割り当てられた問題は次回に必ず考えて持ってくる。
(答えを具体的に書いても良い。)を義務付けようと思います。

今日行ったことは、集合論の復習と ${\mathbb R}^n$ 内の部分集合の内点、内部、
触点、閉包です。一部距離空間という言葉も登場しました。


設定は、とりあえず、${\mathbb R}^n$ で、${\mathbb R}^n$ には
$d^{(n)}({\bf x},{\bf y})=\sqrt{(x_1-y_1)^2+\cdots +(x_n-y_n)^2}$
のようなユークリッド距離があり、それを用います。

また、$B_n({\bf x},r)=\{{\bf y}\in {\mathbb R}^n|d^{(n)}({\bf x},{\bf y})\le r\}$
を、$r$-開球体と言うことにする。

内点の定義
$A\subset {\mathbb R}^n$ を部分集合とする。

${\bf x}\in A$ が $A$ の内点であるとは、

ある$\epsilon>0$が存在して、$B_n({\bf x},\epsilon)\subset A$ となることをいう。

$A$ の内点全体の集合を $A^i$ と書いて、それを $A$ の内部という。

定義から、 $A^i\subset A$ となる。
また、$A^i=A$ となる部分集合 $A$ のことを開集合という。

触点の定義
$A\subset {\mathbb R}^n$ を部分集合とする。

${\bf x}\in {\mathbb R}^n$ が $A$ の触点であるとは、

任意の$\epsilon>0$が存在して、$B_n({\bf x},\epsilon)\cap A\neq \emptyset$ となることをいう。

$A$ の触点全体の集合を $\bar{A}$ と書いて、それを $A$ の閉包という。

定義から、 $A\subset \bar{A}$ となる。
また、$\bar{A}=A$ となる部分集合 $A$ のことを閉集合という。

境界点の定義
$A\subset {\mathbb R}^n$ を部分集合とする。

$\bar{A}\setminus A^i$ のことを $A$ の境界といい、$A^f$ とかく。
境界の点のことを境界点という。

上の内点、触点、内部、閉包、それと開集合と閉集合の定義をしっかりと
頭に叩き込んでください。
境界点については、内点と触点から導き出されます。


これらを求める問題を今回はやってもらいました。
一部持ち越したので、来週はそこからまたやってもらいます。

大事なことは、定義をしっかり身に付けることです。
中々わからないときはいろいろな問題を解いてみると次第にわかってきます。


この定義を読んでわかる通り、
内部、触点などの定義は ${\mathbb R}^n$ で行う必要などなく、
距離が定義されている集合であればなんでも定義可能です。
距離が定義されている集合を距離空間と言います。
ただ、距離といっても、``普通"の距離でないといけないので、
以下の条件を満たす必要があります。


距離空間の定義
$X$ を集合とする。関数 $d:X\times X\to {\mathbb R}_{\ge 0}$ が定義されており、
以下が成り立つとき、集合と関数の組み $(X,d)$ を距離空間と言います。

(1) $d(x,x)=0$ かつ、逆に $d(x,y)=0$ ならば $x=y$
(2) $d(x,y)=d(y,x)$
(3) $d(x,y)+d(y,z)\ge d(x,z)$  (三角不等式)

2018年8月7日火曜日

外書輪講I(第15回)

[場所1E503(月曜日5限)]

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現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回が春学期は最後でした。Miniature 18, 19をやりました。

Miniature 18
は、直径縮小分割の問題です。

ある集合 $X\subset {\mathbb R}^d$ の $k$ 個の直径縮小分割とは、
$X$ が $X_1,\cdots, X_k$ の部分に分割されていて、各 $i$ に対して、
$\text{diam}(X_i)<\text{diam}(X)$ となることを言います。

ボルスクの予想とは、以下のようになります。

予想(1930 Borsuk)
${\mathbb R}^d$ に対して、直径有限な集合は、必ず $d+1$ 個の直径縮小分割をもつ。

この予想を線形代数を用いて否定的に解決します。

$p$ を素数として $n=4p$ とします。$n$ 個の点集合の中の
$2p-1$ 個の部分集合全体からなる集合を $\mathcal{A}$ とします。
$A\in \mathcal{A}$ に対して、$u_A\in {\mathbb R}^n$ を、
$i\in A$ であれば、$u_A$ の第 $i$ 成分は、1であり、$i\not\in A$ であれば
$u_A$ の第 $i$ 成分は、 $-1$ として定義します。

このとき、${\mathbb R}^{n^2}$ の中に、$|\mathcal{A}|$ 個の点集合を
$A\in \mathcal{A}$ に対して、${\bf q}_A=u_A\otimes u_A$ としておきます。
こうすることで、${\mathbb R}^{n^2}$ に、$\binom{4p}{2p-1}$ 個の
点を置くことができます。
それを $Q_{\mathcal{A}}:=\{{\bf q}_A|A\in \mathcal{A}\}$ とおきます。

今、$A,B\in \mathcal{A}$ として、$||{\bf q}_A-{\bf q}_B||^2$ を計算すると、
$||{\bf q}_A-{\bf q}_B||^2=\langle {\bf q}_A,{\bf q}_A\rangle +\langle {\bf q}_B,{\bf q}_B\rangle-2\langle {\bf q}_A,{\bf q}_B\rangle$
$=\langle u_A,u_A\rangle +\langle u_B,u_B\rangle-2\langle u_A,u_B\rangle$
となります。

学生には、$|A\cap B|=s$ としたときに、
$\langle u_A,u_B\rangle=4(s-p+1)$ であることを示してもらいました。

よって、$s=p-1$ のときに、この値は $0$ となります。
$\langle u_A,u_B\rangle$ は非負の整数なので、
$||{\bf q}_A-{\bf q}_B||$ の最大はこの値が $0$ のとき、つまり、
$\langle u_A,u_A\rangle +\langle u_B,u_B\rangle$ のときが最大となります。
この値は、$A,B$ のとり方によらず $8p$ となり、$Q_{\mathcal{A}}$ の直径
は $\sqrt{8p}$ ということになります。

集合 $\mathcal{A}$ の $m$ 個の分割 を考えます。
それを、$\mathcal{F}_1,\mathcal{F}_2,\cdots, \mathcal{F}_m$ とします。
$\mathcal{F}_i$ のいずれもが、 $A,B\in \mathcal{F}_i\Rightarrow |A\cap B|\neq p-1$
を満たすとします。このとき、Miniature 17 を使うと、任意の $i$ に対して、
$|\mathcal{A}|\ge 1.1^n|\mathcal{F}_i|$
となります。よって、
$m|\mathcal{A}|\ge 1.1^n(|\mathcal{F}_1|+|\mathcal{F}_2|+\cdots+|\mathcal{F}_m|)\ge 1.1^n|\mathcal{A}|$
となり、$m\ge 1.1^n$ が成り立ちます。
対偶をとれば、$1.1^n>m$ であれば、$m$ 個の分割 $\mathcal{F}_1,\mathcal{F}_2,\cdots, \mathcal{F}_m$ の中には、$|A\cap B|=p-1$ となる、$A,B$ を含む $\mathcal{F}_i$ が
存在するということになります。

今、$Q_{\mathcal{A}}$ を $1.1^n$ より少ない個数 $m$ 個の分割を考えます。
そのような分割を $Q_i:=\{{\bf q}_A|A\in \mathcal{F}_i\}$ とすると、
ある $i$ が存在して、$A,B$ が $\mathcal{F}_i$ の中に含まれて、$|A\cap B|=2p-1$
ということになります。
つまり $Q_i$ の直径の2乗は、$||{\bf q}_A-{\bf q}_B||^2=\langle {\bf q}_A,{\bf q}_A\rangle +\langle {\bf q}_B,{\bf q}_B\rangle=8p$
となるので、$Q_{\mathcal{A}}$ の直径と等しくなります。

この $Q_i$ は $Q_{\mathcal{A}}$ の直径と同じになるので、
この分割は直径縮小分割ではないということになります。
$m$ 個の任意の分割に対してそのような成分を含んでしまうので、
結果、この集合 $Q_{\mathcal{A}}$ は $m$ 個への直径縮小分割は存在しないという
ことになります。

今、$n^2$ と $1.1^n$ を比べてみれば、$n$ を十分大きくとれば、
$n^2$ より $1.1^n$ の方がはるかに大きくなりますから、そのような
$n$ に対して、$Q_{\mathcal{A}}$ は $n^2+1$ 個の直径縮小分割が存在しなくなります。

Miniature 19
は、discrepancy理論についての問題です。

まずは問題の設定です。

[設定]
ある国(設定はヨーロッパ?)の通貨のうち、1ユーロ以下は使えなくなり、
1ユーロ未満のお金は切り上げるか、切り下げるかのどちらかを選ばなければ
ならなくなった。

このとき、以下の問題を考えよう。

[問題]
ある商店の各商品の値段の切り上げ、切り下げを決めるとき、
いくつかの注文の請求金額と実際の代金の差をできるだけ小さくすることが
できるか?

[定理]
ある商店には 、ある日 $m$ 枚の注文書が届いた。
各注文書には、各商品の注文が高々1つであり、
各商品の総注文数が $t$ を超えないとき、
各注文書において、実際の代金と請求金額の差を $t$ ユーロ
以内にすることができる。


つまり、この日の各商品の切り上げ、切り下げを一斉に決めることで、
これら $m$ 枚の注文書の売り上げの差を $t$ ユーロ以内にするということです。

$i=1,\cdots, n$ を全ての商品とし、$c_i$ をその値段とします。
$c_i$ は $(0,1)$ の元であることを仮定しましょう。
各注文には、高々1つの商品の注文が入っているので、
$S_j\subset \{1,2,\cdots, n\}$, $j=1,\cdots, m$ としておけば、
$j$ 番目の注文書を表すことができます。

ここで、$\sum_{j\in S_i}x_j=\sum_{j\in S_i}c_j\ \ \ (\ast)$ という
連立一次方程式を考えます。
$x_i=c_i$ をその解の初期値としておきます。

(観察)
今、$S_i$ が $t$ 個以下の集合であれば、$c_i$ をどのように丸めても、
必ず、$|\sum_{j\in S_i}z_j-\sum_{j\in S_i}c_j|\le t$ となることは
すぐわかります。ここで、$z_j$ は $z_j\in \{0,1\}$ となる任意の値。

なので、$S_i$ の元の個数が $t$ 以下の集合(注文書)はとりあえず無視して、
$S_i$ の元の個数が $t$ より大きいもののみをを考えれば十分です。

そのような $S_i$ を危険な集合(注文書)ということにします。
そうではない注文書を安全な集合(注文書)ということにします。
このとき、危険な集合の数は必ず、変数の数より小さくなります。

危険な集合に含まれる変数の総数 $N$ は、
$$tm’<N\le tn$$
となるからです。
$m’$ は危険な集合の数とします。
$F$ を危険な集合に含まれる変数の集合とします。

よって、上の方程式 $(\ast)$ は、解空間は一次元以上は存在することになり、
$\sum_{j\in S_i}x_j=\sum_{j\in S_i}c_j$ が $(0,1)^{|F|}$
の内点を通るので、その解空間はその境界の点が存在します。
つまり全体として $(\ast)$ を満たしながらも、その成分のいくつか(1つ以上)は
$\{0,1\}$ の中に値を持つことができるようになります。

そのような解は、危険な集合に含まれる変数の一つを $0$ もしくは $1$ に
選んだことになります。
選ばれた変数はその値 $0,1$ を固定することで、
危険な集合の中の変数としては定数とみなすことにします。
それ以外を変数と考えます。

そうすると、$F$ の元はひとつ以上減り、
このとき、危険な集合は危険でなくなるかもしれませんが、危険でなくなった時点
でその注文書のことは無視します。また、新しい危険な注文書だけ
考えます。
同じようにして、新しい危険な集合の数はその中に含まれる変数よりは小さくなります。
そうすると対応する連立方程式 $(\ast)$ を考えると、
その解は1次元以上存在し解を少しずらすことで、関係を保ったまま
ある変数は $0,1$ を達成させることができます。

これを続けることで、危険な集合は徐々に少なくなっていきます。
集合 $S_i$ が危険でなくなった時点でも、
$\sum_{j\in S_i}x_i=\sum_{j\in S_i}c_j$
が成り立ちますが、その後、無視して、その後の危険な集合に含まれる変数が
そこに含まれていても、その中で動く変数は上記の(観察)の事実から、
高々、$|\sum_{j\in S_i}x_i-\sum_{j\in S_i}c_i|\le t$ に限られます。

このように危険な注文書の変数をひとつずつ少なくして行くことで、
最終的に危険な集合は全て無くなります。
そうすると、固定されていない変数は、各 $S_i$ に対して高々 $t$ なので、
$|\sum_{j\in S_i}x_j-\sum_{j\in S_i}c_j|\le t$ は守られたまま全ての変数を $0,1$
のどちらかにすることができます。

2018年8月1日水曜日

外書輪講I(第14回)

[場所1E503(月曜日5限)]


現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature 15 18をやりました。

Miniature 15
前回の続きです。

${\mathbb R}^d$ に長さがちょうど2種類となる $n$ 個の点が存在するような
$n$ の最大を $n(d)$ とする。

前回の続きで、以下を証明してもらいました。

定理
$n(d)\le \frac{1}{2}(d^2+5d+4)$

ここでポイントとなるのは、2種類の長さが正の実数 $a,b$ であるとして、
${\mathbb R}^d$ の中の ${\bf p}_i$  $(i=1,..., n)$ 任意の2つの互いの長さが
2種類であるとき、$n$ 個の点を関数 $f_i({\bf x})=(||{\bf x}-{\bf p}_i||^2-a^2)\cdot( ||{\bf x}-{\bf p}_i||^2-b^2)$
に言い換えることです。
この関数は、${\mathbb R}^d$ から ${\mathbb R}$ への関数です。
とりわけ、連続関数となります。

${\bf p}_i\mapsto f_i$ として
点を ${\mathbb R}^d$ から ${\mathbb R}$ への関数と言い換えます。
関数をベクトル空間のベクトルとして表すことで、
線形代数の知識が使えるようになります。

このとき、この関数は、${\mathbb R}^d$ 上の関数全体の中で一次独立となります。
つまり、$n$ は、${\mathbb R}^d$ から ${\mathbb R}$ への関数 $f_i({\bf x})$ で
張られるベクトル空間 $V$ の次元となります。

$V$ がどのようなベクトル空間かについて考えます。
$f_i$  がいくつかの関数の一次結合で書けるとき、
$V$ 全体もその関数たちの一次結合で書けることになります。
つまり、その関数の集合を $G$ とすると、$V\subset \langle G\rangle$
となります。ここで、$\langle G\rangle$ は $G$ の元によってはられるベクトル
空間のこととします。
この包含関係により、$n\le \dim(\langle G\rangle)$ として不等式が得られます。

$f_i$ は、$x_1,\cdots, x_d$ の多項式関数なので、その成分がどのような
関数で書けているか?を考えます。
$f_i$ を慎重に展開を行うと、

$$(\sum_{i=1}^dx_i^2)^2,\ x_j\sum_{i=1}^dx_i^2,\ x_j^2,\ x_ix_j,\ x_j,\ 1$$
たちの一次結合でかけていることがわかります。
よって、これらの数を数えると、
$$n=\dim(V)\le \frac{1}{2}(d^2+5d+4)$$
となります。

最後に、${\mathbb R}^{d+1}$ の中の $\sum_{i=1}^{d+1}x_i=2$ となる超平面を
考えれば、この中に、$\{0,1\}^{d+1}$ の中で、ちょうど2つが $1$ となる
点が含まれます。これら $\binom{d+1}{2}$ 個の点は明らかに長さが2つもつ
点集合です。よって、上からの評価と下からの評価を合わせると、
$$\frac{1}{2}(d^2+d)\le n(d)\le \frac{1}{2}(d^2+5d+4)$$
となります。
この評価式から、$n(d)\sim \frac{1}{2}d^2$ がわかり、上からの評価はそれほど悪くない
ということがわかります。

また、$n(d)\le \binom{d+2}{2}$ も成り立つことがわかり、
上からの評価はさらに良くなるようです。

Miniature 18
では、直径縮小分割の話です。

$X\subset {\mathbb R}^d$ の分割 $X_1,X_2,\cdots, X_{k}$ で、任意の $i$ に対して
$\text{diam}(X_i)<\text{diam}(X)$ となるものを $X$ の $k$ 個への直径縮小分割
と言います。分割とは、$X=X_1\cup X_2\cup \cdots \cup X_k$ となることを意味します。

ボルスクの予想(Borsuk’s conjecture)というのは次です。

予想
$X\subset {\mathbb R}^d$ を直径有限な集合とするとき、 $X$ には
$d+1$ 個の直径縮小分割が存在する。

例として、${\mathbb R}^{d+1}$ 次元の $d$-単体の頂点を考えます。
この $d$-単体 $\sigma_d$ の直径は $1$ です。
$\sigma_d$ には $d+1$ 個の頂点が存在し、その $d$ 個の分割には、
必ず2点が含まれるので、$d$ 個への直径縮小分割は存在しない
ことになります。しかし、$d+1$ 個への直径縮小分割は、
それぞれの点を $X_i$ としてとることで、直径 $0$ の直径縮小分割が
存在することになります。

ボルスクの予想は、$\sigma_d$ の頂点集合だけでなく、
一般に、$d$ 次元球体においても $d+1$ 個の直径縮小分割が
知られています(1930 Borsuk)。
さらに、2,3次元のあらゆる集合においても、任意次元の
smooth convex setにおいてもボルスクの予想が成り立つことが知られています。

このMiniatureではこの予想が一般に成り立たないことを線形代数を使って
示しています。

2018年7月23日月曜日

外書輪講I(第13回)

[場所1E503(月曜日5限)]


現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature 14, 15をやりました。

Miniature 14

内周が $g$ で、最小次数が $r$ となるグラフの中で最小頂点数を
もつグラフの頂点数を $n(r,g)$ とします。

内周が $g=2k+1$ のとき、
$$1+r+r(r-1)+r(r-1)^2+\cdots +r(r-1)^{k-1}\le n(r,g)$$
となります。このイコールが成り立つグラフのことを
Mooreグラフ(ムーアグラフ)といいます。

例えば、内周が5 の場合、ムーアグラフの頂点数は、
$1+r+r(r-1)=r^2+1$ となります。

内周が偶数 $g=2k$ の場合もありますが、そのときは、
$$1+r+r(r-1)+r(r-1)^2+\cdots+r(r-1)^{k-2}+(r-1)^{k-1}\le n(r,g)$$
が成り立ちます。このイコールが成り立つグラフのことを generalized polygon
といいます。

このminiatureでは、内周が5となるムーアグアフの
最小次数 $r$ がスペクトラルグラフ理論により高々3種類に絞られる
という定理について紹介されています。


定理
$G$ が内周が5のムーアグラフであるなら、$G$ の最小次数 $r$ が
$r\ge 3$ であるならば $r\in \{3,5,57\}$ である。


$r=3$ の場合は、前回も登場したペテルセングラフであり、$r=5$ の場合は、
ホフマン-シングルトングラフといいます。

$r=57$ の場合だけ、その存在が未だ保証さていません。
もし存在すれば、頂点数 $3250$ で、最小次数が $57$ で、内周が $5$ の
グラフになります。
もし発見できれば、発見者の名前が付けられて 誰々のグラフということに
なるのではないでしょうか?

ムーアグラフは、正則グラフになることを注意しておきます。
つまり、最小次数とはいえ、すべての頂点で同じ次数を持ちます。


上の定理を証明するには、以下の補題を証明する必要があります。

補題
内周が $5$ で、最小次数 $r$ が $3$ 以上のムーアグラフの頂点 $u,v$
が辺で結ばれていないとき、$u,v$ の共通の近傍はちょうど1点である。

この補題はよく考えればわかりますから、省略します。


しかし、この性質が今後定理を証明するのに生きてきます。
また、$u,v$ が隣接しているとき、$u,v$ の共通の近傍は存在しませんので、
ムーアグラフの隣接行列 $A$ の2乗 $B$ を $B=(b_{ij})$ とするとき
$$b_{ij}=\begin{cases}r&i=j\\1&\{i,j\}\not\in E(G)\\0&\{i,j\}\in E(G)\end{cases}$$
が成り立ちます。ここで、$E(G)$ はグラフの辺の集合です。
ここで上の補題を使いました。

よって、
$$B=A^2=rI_n+J_n-I_n-A$$
が成り立ちます。
この関係式から、$r$ 以外の固有値 $\lambda$ は、$\lambda^2+\lambda-(r-1)=0$
を満たします。

つまり、固有値 $r$ の固有空間の次元は、1であり、
この2つの解とトレースゼロ条件とランクの式から、
$m_1\rho_1+m_2\rho_2+r=0$ かつ
$m_1+m_2+1=n=r^2+1$
となります。

これらの式から、$r=3,5,57$ しかないことがわかります。

$r=57$ の場合のデータをもう一度書いておくと、
頂点数 3250
最小次数 57
隣接行列の固有値は、$57$, $7$, $-8$
その重複度は $1$, $1729$, $1520$
となります。

Miniature 15
${\mathbb R}^d$ の中へのいくつかの点の埋め込みで、点同士の距離が
2種類のものを求めるとき、その頂点の最大値 $n(d)$ が $d$ によって
上から

$$n(d)\le \frac{1}{2}(d^2+5d+4)$$
による不等式が成り立つという内容です。

2018年7月21日土曜日

外書輪講I(第12回)

[場所1E503(月曜日5限)]

HPに行く

現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature 13, 14をやりました。

その前に、12で出されている下の主張を詳しく証明してもらいました。

Miniature 12

$R$ を平面上の長方形とする。
その互いに垂直な2辺の長さを $a,b$ とする。
${\mathbb R}$ を ${\mathbb Q}$ 上のベクトル空間とする。
このとき、 $f$ を線形写像 ${\mathbb R}\to {\mathbb R}$ とする。
平面上の長方形から ${\mathbb R}$ への写像 $v$ を、
$v(R)=f(a)f(b)$ として定義する。

$R$ の1辺に平行な直線で $R$ を二分したとき、できる長方形を $R_1, R_2$ とする。
このとき、$f$ の線型性により、$v(R)=v(R_1)+v(R_2)$ が成り立ちます。

一般に、$R$ がいくつかの長方形 $R_1,R_2,\cdots, R_n$ によって
タイリングされているとします。
タイリングとは、$R_i$ と $R_j$ に対して、$i\neq j$ となるなら、
$R_i\cap R_j$ は、$R_i,R_j$ の境界のある線分に含まれることをいいます。

主張
このとき、$v(R)=\sum_{i=1}^nv(R_i)$ となります。

これは、$v(R)=v(R_1)+v(R_2)$ の性質だけを使って
証明をすることができます。
証明は授業中にした通りですので、ここでは省略します。
ヒントは、長方形の各辺と平行な直線を使って区切られた長方形の
網目 $R=R_{11}\cup\cdots \cup R_{1n}\cup R_{21}\cup\cdots R_{m1}\cup\cdots \cup R_{mn}$
によって $R$ がタイリングされている場合について証明することです。

Miniature 13
をやりました。これはスペクトラルグラフ理論の話です。
グラフの隣接行列を使って、グラフの性質を引き出します。
グラフ $G$ に対してその頂点を $v_1,v_2,\cdots,v_n$ とするとき、
隣接行列 $A=(a_{ij})$ とは、

$v_i,v_j$ が辺で結ばれているとき、$a_{ij}=1$
となり、そうでなければ、$a_{ij}=0$ である

として定義される行列です。

また、隣接行列は、自然に実対称行列であって、その主要な性質は、
以下となります。

  • 固有値は全て実数
  • 対角化可能
  • 相異なる固有空間は互いに直交
  • トレース(対角成分の和)はゼロ

ここでの話は、頂点数が 10 のグラフの話です。
前回(リンク) に基礎的な用語については書きました。
$K_{10}$ は、頂点数が $10$ の完全グラフです。
ペテルセングラフというのは、頂点数が10で、各辺からは、
3つの辺が存在する(次数が3という)正則グラフです。
また、内周は5です。証明してもらったのは、以下の定理です。


定理
$K_{10}$ を頂点数 10 の完全グラフとします。
ペテルセングラフと同型な3つ部分グラフによって $K_{10}$
を覆うことができない。

覆うの意味については、前回の外書輪講のページを見てください。

このペテルセングラフの隣接行列は、$A^2+A=J_{10}+2I_{10}$
を満たすことがわかるのですが、その理由は次のMiniature 14を読むとわかります。
$J_{10}$ はすべての成分が 1 のサイズが 10 の正方行列です。

注意したいのは、この関係式から、$A$ の固有値がわかるということです。
$\lambda$ を $A$ の固有値とし、その固有ベクトルを ${\bf v}$ とすると、
$A$ が次数が3の正則グラフであることから、直ちに、$\lambda=3$ となることが
できて、その固有ベクトルは、${\bf 1}=(1,1,\cdots,1)^T$ となります。
また、この固有ベクトルと独立な固有ベクトルは、${\bf 1}$ に直交し、
${\bf 1}\cdot {\bf v}=0$ となります。
とくに、$J_{10}{\bf v}={\bf 0}$ となります。
そのような固有値は、$(\lambda^2+\lambda ){\bf v}=2{\bf v}$ であり、${\bf v}\neq {\bf 0}$ であるので、$\lambda^2+\lambda-2=0$ が成り立ちます。
よって、固有値3の固有空間は1次元で、${\bf 1}$ がその基底となります。
それ以外の固有値は $1$ か $-2$ となります。

固有値の重複度込みの和は、隣接行列のトレースと言われ、隣接行列の場合
いつもゼロです。
$m_1,m_{-2}$ を 固有値 $1,-2$ のそれぞれの重複度とすると、
3 の重複度は $1$ であるから、$m_1-2m_{-2}+3=0$ であり、
$m_1+m_{-2}=9$ がなりたち、この方程式から、$m_1=5$ と $m_{-2}=4$ がわかります。

というわけで、次の補題が証明されます。

補題
ペテルセングラフの隣接行列 $A$ は、$1$ を固有値にもち、
その固有空間の次元は $5$ であり、$-3$ を固有値にもたない。



また、完全グラフが3つの部分グラフで覆われる時、
$J_{10}-I_{10}=A_P+A_Q+Q_R$ となるペテルセングラフと同型なグラフの隣接行列$A_P,A_Q,A_R$ がでます。
ここで、$J_{10}-I_{10}$ が $K_{10}$ の隣接行列です。

$A_P,A_Q,A_R$ の固有値 3 の固有空間は、 ${\bf 1}$ から生成され、
そのほかの固有空間は、${\bf 1}$と直交する9次元部分空間です。
$A_P$ と$A_Q$ の固有値 1 の固有空間は、5次元ずつあるので、
9次元の中で、それぞれの固有値1 の固有空間になっている
ゼロでないベクトル ${\bf w}$ が存在することになります。
$A_P{\bf w}={\bf w}$ かつ、$A_Q{\bf w}={\bf w}$
です。このベクトルを使って、
$A_R{\bf w}=(J_{10}-I_{10}-A_P-A_Q){\bf w}=-{\bf w}-{\bf w}-{\bf w}=-3{\bf w}$
となります。よって上に書いたことから矛盾となります。

Miniature 14
は、Miniature 13 からのつづきのグラフの話です。

内周が $g=2k+1$ 最小次数(頂点に関して最小の次数)が $r$ のグラフで、
頂点数が $1+r+r(r-1)+\cdots+r(r-1)^{k-1}=\frac{r(r-1)^k-2}{r-2}$ となるグラフを
Moore グラフといいます。
内周 $2k+1$ で、最小次数が $r$ のグラフの頂点数は、$\frac{r(r-1)^k-2}{r-2}$
を下回ることはありません。
つまり、そのようなグラフの頂点はこの値以上となるのです。
それについては、マトウセク

また、この数がちょうど頂点数となるグラフが存在するかどうかは
難しい問題となります。
また、上からのboundを求めることもグラフ理論での興味深い問題の1つですが、
その決定も難しいです。

Miniature 13で出てくるペテルセングラフは、内周が $5$ で、最小次数が3の
Mooreグラフとなります。これは、各次数が全て3となる正則グラフにもなっています。

2018年7月17日火曜日

数学類特別セミナーI(第1回)

[場所1E203(金曜日6限)]

HPに行く
スライド

フレッシュマンセミナーの続きの内容についてやりました。
前回は、いくつかの多項式関数の連続性について示しました。
今回は、指数関数の連続性についてやりました。
まずは、下の問題を見ておきましょう。


(例題)
$y=e^x$ が $x=a$ で連続であることを示せ。



まず、$x=a$ で関数 $f(x)$ が連続であるとは、
関数 $f(x)$ が下の定義を満たすことをいいます。

(連続関数の定義)
任意の $\epsilon>0$ に対して、ある $\delta>0$ が存在して、
$|x-a|<\delta$ が成り立つ任意の $x$ に対して、
$|f(x)-f(a)|<\epsilon$ を満たす。



つまり、値域の点 $f(a)$ のどんなに近く $|f(a)-y|<\epsilon$ にしても、その
その中に、$a$ のある近くの全ての点 $|x-a|<\delta$ が像として入れることができる
ということです。


$y=e^x$ が $x=a$ において、連続であることを証明しましょう。

その前に、$ |e^x-1|\le e^{|x|}-1$ を満たすことを示しましょう。

$x\ge 0$ とすると、$e^{|x|}-1=e^x-1=|e^x-1|$ となる。
また、$x<0$ とすると、$e^{|x|}-1=e^{-x}-1=-1+\frac{1}{e^x}=e^{-x}(1-e^{x})=e^{-x}|e^{x}-1|\ge |e^x-1|$
となる。

(例題の証明)
$\forall \epsilon>0$ をとります。
今、$\delta=\log(1+\epsilon e^{-a})$ としましょう。
このとき、$|x-a|<\delta$ となる任意の $x$ に対して
$|f(x)-f(a)|=e^a|e^{x-a}-1|\le e^a(e^{|x-a|}-1)<e^a(e^\delta-1)=\epsilon$

となるので、$x=a$ において、$y=e^x$ が連続であることがわかる。


授業中では、以下の問題を解いてもらいました。

(問題)
$y=e^{x^2}$ が $x=a$ で連続であることを示せ。

以下のように、同じように解くことができます。

(問題の証明)
$\forall \epsilon>0$ に対して、
$\delta=\min\left\{1,\frac{\log(1+e^{-a^2}\epsilon)}{1+2|a|}\right\}$ とします。
このとき、$|x-a|<\delta$ となる任意の $x$ に対して、
$|x+a|\le |x-a|+2|a|\le 1+2|a|$ を満たします。
よって
$$|e^{x^2}-e^{a^2}|=e^{a^2}|e^{x^2-a^2}-1|=e^{a^2}|e^{x^2-a^2}-1|\le  e^{a^2}(e^{|x-a||x+a|}-1)$$
$$<e^{a^2}(e^{\delta(1+2|a|)}-1)\le \epsilon$$
となりますので、$y=e^{x^2}$ は $x=a$ で連続となります。(証終)

2018年7月9日月曜日

外書輪講I(第11回)

[場所1E503(月曜日5限)]


現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature -11, 12, 13をやりました。

Miniature-11
は行列の検算ついての話でした。

2つの $n\times n$ 行列を掛けるには、通常では $O(n^3)$ の手間がかかります。
その計算の確かめる確率的な方法があります。
この方法だと、$O(n^2)$ のオーダーくらいの手間です。

たとえば、${\bf x}\in \{0,1\}^n$ を適当に(確率$ 1/2^n$ )持ってくるとき、
$AB$ とその計算結果を $C$ としたとき、$AB{\bf x}$ と $C{\bf x}$ を
計算して、値が違えば、間違えているということがわかります。

この方法だと、ベクトルに行列を掛け算して得られる手間だけ、つまり
$O(n^2)$ の手間で検算ができることになります。

このMiniature の中に次の主張が含まれています。


$AB\neq C$ であるとき、この手法を使えば、少なくとも確率1/2で $AB\neq C$
を見出せる。


 $D=C-AB$ として、$D$ がゼロ行列でないとします。
このとき、${\bf x}\in \{0,1\}^n$ を同確率で選ぶ時、
$D{\bf x}\neq 0$ となる確率は、少なくとも 1/2 であることを示せばよいです。

今、$D=(d_{kl})$ とし、${\bf y}=D{\bf x}$ とし
${\bf y}=(y_1,\cdots, y_n)^T$ とします。

$d_{kl}\neq 0$ とします。
このとき、$D{\bf x}=d_{k1}x_1+\cdots+d_{kn}$ とします。
今、$l=n$ としてもかまいません。
$y_n=d_{k1}x_1+\cdots+d_{kn}x_n=S+d_{kn}x_n$ とします。
$x_1,\cdots, x_{n-1}$ を固定して、$x_n$ を確率1/2で0か1を出すとします。

よって、$S$ は固定されており、$S$ か $S+d_{kn}$ のどちらかは $0$ ではないので、
そのどちらかで $y_n\neq 0$ が検出できます。
つまり、$D\neq 0$ が検出できます。
$x_1,\cdots, x_{n-1}$ が動いても同じ状況なので、
確率は少なくとも1/2で$y_n\neq 0$ かつ、${\bf y}\neq 0$ つまり、$D\neq O$ が検出できます。

Miniature 12
この話は、${\mathbb Q}$ 上のベクトル空間 ${\mathbb R}$ を用いることで、
次の幾何学的な定理を示します。

定理
$x$ を無理数とします。$1,x$ を辺に持つ長方形 $R$ に対して、この長方形を
任意の有限個の正方形によって埋め尽くすことができない。


という内容です。ここで、有限個の正方形 $Q_1,Q_2,\cdots, Q_n$
によって埋め尽くすとは、
$R=Q_1,Q_2,\cdots, Q_n$ かつ、$i\neq j$ に対して、$Q_i\cap Q_j$ が、
$Q_i$, $Q_j$ の境界に含まれる。
ということを指します。

(証明)
有限個の正方形 $Q_1,Q_2,\cdots, Q_n$ によって $R$ を埋め尽くすとします。
$Q_i$ の辺の長さを $s_1,s_2,\cdots, s_n$ とします。

このとき、$V$ を $1,x,s_1.\cdots, s_n$ によって生成されれているベクトル空間
とします。

$x$ が無理数なので、$1,x$ は一次独立であり、
線形写像 $f:V\to {\mathbb R}$ で$f(1)=1$, $f(x)=-1$
を満たすものが存在します。

例えば、$b_1,b_2,\cdots, b_k$ を$V$ の基底とし、$b_1=1, b_2=x$ とすることができます。
$f(b_i)=0$, $i\ge 3$ とすればよいのです。
$s_1,s_2,\cdots, s_n$ は $1,x$ の ${\mathbb Q}$ 上の1次結合となる可能性は
あるので、改めて、$f(s_1)$ の行き先を自由に決めることはできるかどうかわかりません。
$s_1$ が有理数なら、$f(s_1)=s_1$ となります。

この写像を用いて、上の定理を示します。
$R$ を辺の長さが $a,b$ の長方形とします。
このとき、$v:\{\text{長方形}\}\to {\mathbb R}$ を
$v(R)\to f(a)f(b)$ と定義します。

このとき、
$v(R)=f(1)f(x)=-1=\sum_{i=1}^n(Q_i)=\sum_{i=1}^nf(s_i)^2\ge 0$
となり矛盾します。

ここで、示さなければならないのは、$Q_1,\cdots, Q_n$
が $R$ を埋め尽くしているとすると、$v(R)=\sum_{i=1}^n(Q_i)$ となることです。

Miniature 13
は、グラフ理論の話ですが、途中まででした。

内容は、以下となります。

定理
$K_{10}$ を頂点数 10 の完全グラフとします。
ペテルセングラフを $P$ とすると、$K_{10}$
を $P$ と同型な 3個の部分グラフによって覆うことができない。

ここで、グラフ $G$ がその部分グラフ $G_1,\cdots ,G_n$ で覆うとは、
$G_1,\cdots ,G_n$ が $G$ の部分グラフで、$G_1,\cdots,G_n$
の辺集合の和集合は、ちょうど $G$ の辺集合と一致します。
つまり、それらは、お互いに重複はありません。

ペテルセングラフについては、ここにリンクを貼っておきます。
リンクではピーターセンとなっていますが、どっちの発音が正しいのかは
知りません。

完全グラフ $K_n$ とは、どの2つの頂点も辺で結ばれるものをいいます。
頂点 $v$ に対して、$v$ に1つの辺でつながる頂点全体の集合を $v$ の
近傍といい、その個数を次数といいます。
$G$ が正則グラフとは、$G$ の各頂点の次数が一定のグラフのことをいいます。

また、$G$ の内周とは、$G$ に含まれる最小のサイクル(閉路)
の辺の数のことをいいます。

うえの定理を証明するのには、スペクトラルグラフ理論を用います。
スペクトラルグラフ理論で活躍するのは、隣接行列です。
隣接行列 $A=(a_{ij})$ を以下で定義します。

グラフ $G$ の頂点の個数を $n$ とし、$G$ の頂点に $1,2,\cdots, n$ の名前をつける。
$A$ は $n\times n$ 行列であって、
$$a_{ij}=\begin{cases}1&i,j\text{が辺で結ばれる}\\0&\text{上記以外}\end{cases}$$
としたものをいいます。

ペテルセングラフは頂点数が10で、次数が3の正則グラフです。
なので、ペテルセングラフの辺の数は、$10\times 3/2=15$ であり、
$K_{10}$ の辺の数は、$\binom{10}{2}=45$ すので、 ペテルセングラフで
$K_{10}$ を覆えるとすると、3つということになります。


次数が $r$ の正則グラフの隣接行列の固有値の絶対値の最大は
ちょうど $r$ ということが知られています。

2018年7月2日月曜日

フレッシュマンセミナー(第10回)

[場所1E202-203(金曜日6限)]

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スライド

今回は、イプシロンエヌ論法とイプシロンデルタ論法についてやりました。

イプシロン-エヌ論法

数列 $a_n$ が $a$ に収束することを $\epsilon$ と $N$ を使って、以下のように定義します。


任意の $\epsilon>0$ に対してある自然数 $N$ が存在し、
$n>N$ なる任意の自然数 $n$ に対して、
$$|a_n-a|<\epsilon$$
が成り立つとき、
$$\lim_{n\to \infty}a_n=a$$
とかく。


つまり、数列 $a_n$ が $a$ に収束するということは、
ある番号から先は全て任意に決めた $a$ の近くの範囲 $(a-\epsilon,a+\epsilon)$ の中に
入っているということです。
確かに、このような定義だと、数列の収束をうまく言い表していますね。


これにより、数列 $a_n$ が収束するかどうかを調べることができます。
$a_n=\frac{1}{n}$ や $a_n=\frac{1}{1+e^n}$ $a_n=\sqrt{n+1}-\sqrt{n}$
などを解いてもらいました。
解き方などは、上のスライドを見てください。

$a_{n+1}=1+\frac{1}{a_n}$ かつ $a_1=1$ を満たす数列が
$a=\frac{1+\sqrt{5}}{2}$ に収束することを示しましょう。
$\frac{\sqrt{5}-1}{2}=\frac{1}{a}$ を用いると、

$$|a_{n+1}-a|=|1+\frac{1}{a_n}-\frac{1+\sqrt{5}}{2}|=\frac{1}{a_n}|a_n(\frac{\sqrt{5}-1}{2})-1|$$
$$=\frac{1}{a_na}|a_n-a|<\frac{1}{a}|a_n-a|$$
となります。
よって、この不等式を用いることで、

$|a_n-a|<\frac{1}{a^{n-1}}|a_1-a|=\frac{1}{a^n}$ となります。

今、$\epsilon>0$ を任意に取ります。
このとき、$N=\lceil -\log_a\epsilon\rceil$ とすると、
$a^N>a^{-\log_a\epsilon}>1/\epsilon$

$n>N$ となる任意の $n$ に対して、
$$|a_n-a|<\frac{1}{a^n}<\frac{1}{a^N}<\epsilon$$
となるので、$\epsilon$-$N$ 論法により、
数列 $a_n$ は $a$ に収束する。


イプシロン-デルタ論法
関数の連続性についての話もやりました。

関数 $y=f(x)$ が $x=a$ において連続であることは、



任意の $\epsilon$ に対して、ある $\delta$ が存在して、
$|x-a|<\delta$ を満たす任意の $x$ に対して、$|f(x)-f(a)|<\epsilon$ を満たす



となります。
つまり、値域の $f(a)$ の(どんなに縮めた)近くの領域 $|f(x)-f(a)|<\epsilon$ に対しても、
そこに入って来る $a$ の近くの領域 $|x-a|<\delta$ がある。
ただし、$|x-a|<\delta$ の全ての $x$ が $|f(x)-f(a)|<\epsilon$ に入って
こなければなりません。

つまり、連続ではないというのは、ある程度 $\epsilon$ で狭めた
$f(a)$ の近くの領域には、$|x-a|<\delta$ となる $x$ で、
$|f(x)-f(a)|<\epsilon$ に全て入ってこれないものが存在することを言います。

例えば、

$f(x)$ を $x$ の符号を与える関数とします。
つまり、$x>0$ なら、$f(x)=1$、$x=0$ なら $f(x)=0$、かつ、$x<0$ なら $f(x)=-1$
とします。

このとき、$x=0$ で、この関数が不連続であることを示します。
感覚としては明らかですが。

$\epsilon=1/2$ としましょう。
このとき、$|y-0|<1/2$ において、いかなる $\delta>0$ に
対しても、$|x-0|<\delta$ となる $x$ が存在して、その像 $y$ が
$|y|<1/2$ にすることができないものが存在します。
例えば、$x>0$ ならば、$f(x)=1$ ですから、$|f(x)|<1/2$ にすることができません。
$x<0$ でもそうです。

ですので、この関数は不連続となります。


次に、$\epsilon$-$\delta$ 論法を用いて関数が連続であることを示してみましょう。

(証明)
$y=x^2$ が $x=a$ で連続であることを示します。
まず、$\epsilon>0$ を任意に取ります。

次に、$\delta=\min\left\{1,\frac{\epsilon}{1+2|a|}\right\}$ とします
$|x-a|<\delta$ となる $x$ を任意に取ります。
このとき、

$|x+a|\le |x-a+2a|\le |x-a|+2|a|\le \delta+2|a|\le 1+2|a|$

となります。よって、
$|f(x)-f(a)|=|x-a||x+a|< \delta(1+2|a|)\le \epsilon$
となるので、
$f(x)$ は $x=a$ で連続となります。


この証明はわかるけれども、何をしているかわからないという人のために
書いておきます。

$|f(x)-f(a)|$ は、$|x-a|<\delta$ の$\delta$ が小さくなるに従って、
小さくなっていかなければならないが、
$|x-a||x+a|$と分けたことで、小さくなる部分 $|x-a|$ とそうでもない部分 $|x+a|$
が明確になる。$|x-a|<\delta$ となる $x$ を任意にとったとき、

$|x+a|$ はそれほど大きくはならない。しかし、$|x-a|$ の部分はどんどん小さくできる。

実際、任意に与えた $\epsilon$ に対してそれよりは小さくできる。

連続性を示すには、$\epsilon$ に対して、$\delta$ をどれほど小さくとっておけばよいか?
が問題でした。

いきなり、$\delta$ として、$\delta=\min\left\{1,\frac{\epsilon}{1+2|a|}\right\}$
としていますが、これはいきなり思いつくのではなく、

最後の式から、$\delta(1+2|a|)\le \epsilon$ を満たすように、$\delta$ を取っておけばよい
ことがわかるので、
$\delta\le \frac{\epsilon}{1+2|a|}$ とすればよいということがわかります。

証明の途中で $|x+a|$ がそれほど大きくならないことを示すために、
$|x+a|$ が $\delta$ の評価式が入っていると少し面倒なので、
$\delta\le 1$ を使いました。$\delta\le 2$ でもかまいません。
結局、そのどちらよりも小さくしておけばよいのだから、
$\delta=\min\left\{1,\frac{\epsilon}{1+2|a|}\right\}$ としたわけです。