2016年12月31日土曜日

トポロジー入門演習(第9回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今回も多くの人に発表してもらいました.

積空間
積空間について解いた人がいたので、ここですこしだけ、注意点を述べておきます.
有限個の位相空間 $X_1,\cdots, X_n$ の積空間
$\prod_{i=1}^nX_i=X_1\times X_2\times \cdots\times X_n$ に入る積位相は、
$U_i$ を $X_i$ の開集合として、
$U_1\times U_2\times \cdots\times U_n$ を開基とするような位相のことを意味します.
また、積空間の一つ一つの位相空間を因子空間といいます.

もう一度言うと、積位相の開基は、
$$\{U_1\times U_2\times \cdots\times U_n|U_i\in\mathcal{O}_i\}$$
となります.($\mathcal{O}_i$ を $X_i$ の位相とします.)
このとき、自然な射影 $p_i:\prod_{i=1}^nX_i\to X_i\ \ (p_i:(x_1,\cdots,x_n)\mapsto x_i)$ は連続写像となります.
どうしてかというと、$U_i$ を$X_i$ の任意の開集合とすると、
$$p_i^{-1}(U_i)=X_1\times \cdots\times X_{i-1}\times U_i\times X_{i+1}\cdots \times \cdots X_n$$
となるからです.この右辺は、当然、上の開基の作り方から開集合です.

次に、無限個の位相空間の場合の積空間を定義します.
これは、各成分の空間から開集合を任意の取ってきて掛け合わせるのが標準的ではありません.正解は、
無限個の位相空間 $\{X_\lambda|\lambda\in\Lambda\}$ に対して、
$p_\lambda^{-1}(U_\lambda)$ を準開基とするような位相を入れたものを積位相といいます.
ここで、$p_\lambda$ は、因子空間への射影 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda\to X_\lambda$ を表します.

このように積位相を定義すると、積位相とは、因子空間への射影
$p_\lambda:\prod_{\lambda\in\Lambda}X_\lambda\to X_\lambda$
を連続にするような、最弱の位相ということになります.

つまり、積位相では、$\lambda_1\cdots\lambda_n\in \Lambda$ に対して、
$X_{\lambda_i}$ の任意の開集合 $U_i$ に対して、$p_{\lambda_i}^{-1}(U_1)\cap\cdots\cap  p_{\lambda_n}^{-1}(U_n)$ を開基としています.

たとえば、$X_i={\mathbb R}$ として $\Lambda={\mathbb N}$、${\mathbb R}^\infty$ に積位相を入れますと、
$(0,1)^\infty$ は開集合ではなくなります.
そのような任意の位相空間の開集合 $U_\lambda$ に対して、$\prod_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda$ を
開集合の開基として認める積空間を箱型積位相といいます.

$p=(p_1,p_2,\cdots)\in(0,1)^\infty$ をとると、$p\in  U\subset (0,1)^\infty$ となる開基の元 $U$ が存在することになりますが、上のような開基を取るとすると、有限個以外の ${\mathbb N}$ の元 $n$ に対して、$U$には、全ての ${\mathbb R}$ が含まれているはずなので、そのような $n$ に対して、$p\in p_1\times \cdots \times{\mathbb R}\times \cdots\subset U$ となる.これは、$(0,1)^\infty$ の全ての ${\mathbb N}$ の成分に対して、因子空間が有界であることに反するので、$(0,1)^\infty$ は積位相では開集合ではなくなります.


また、積空間への写像が連続であるための必要十分条件として以下のものが分かります.

定理
$f:Y\to \prod_{\lambda\in \Lambda}X_\lambda$ が連続であるための必要十分条件は、任意の$\lambda$ に対して $p_\lambda\circ f$ が連続であることである.

(証明)
$f$ が連続であるとする.任意の開基の逆像が開集合であればよい.
$U=p_{\lambda}^{-1}(U_{\lambda})$ とする.
よって、$f^{-1}(U)=f^{-1}(p_{\lambda}^{-1}(U_{\lambda}))=(p_{\lambda}\circ f)^{-1}(U_{\lambda})$ が開集合であるから、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して、$p_\lambda\circ f$ は連続になる.
逆に、$p_\lambda\circ f$ が連続になるとする.
このとき、$f$ が連続であるためには、任意の開基の逆像が開集合であればよい.
$U$ を任意の開基の元とする.このとき、有限個 $\lambda_1\cdots\lambda_n\in \Lambda$ に対して、$U=\cap_{i=1}^np_{\lambda_i}^{-1}(U_{\lambda_i})$ とかける.

$f^{-1}(U)=f^{-1}(\cap_{i=1}^np_{\lambda_i}^{-1}(U_{\lambda_i}))=\cap_{i=1}^nf^{-1}(p_{\lambda_i}^{-1}(U_{\lambda_i})))=\cap_{i=1}^n(p_{\lambda_i}\circ f)^{-1}(U_{\lambda_i})$
今、$p_\lambda\circ f$ は連続であるから、$(p_{\lambda_i}\circ f)^{-1}(U_{\lambda_i})$ は開集合である.
よって、位相の定義から、$\cap_{i=1}^n(p_{\lambda_i}\circ f)^{-1}(U_{\lambda_i})$ すなわち、$f^{-1}(U)$ は開集合.
これは、$f$ が連続であることを意味する.

コンパクト性と分離公理

$\mathcal{U}$ が位相空間の被覆であるとは、部分集合の族 $\mathcal{U}$ で、
任意の $p\in X$ に対して$\mathcal{U}$ の中のある部分集合
$A\in \mathcal{U}$ が存在して $p\in A$ となることをいいます.

被覆 $\mathcal{U}$ が有限個の被覆であるとき、有限被覆であるという.

$\mathcal{V}$ が被覆 $\mathcal{U}$ の部分集合で、$\mathcal{V}$ が被覆である
とき、$\mathcal{V}$ は $\mathcal{U}$ の部分被覆と言います.


コンパクト、リンデレフと正規性
まずは、コンパクト空間とリンデレフ空間の定義をしておきます.
コンパクト
任意の開被覆が有限部分被覆をもつ.

リンデレフ
任意の開被覆が可算部分被覆をもつ.

コンパクト性と分離公理の関係についての最も基本的な定理は以下です.
演習でも証明した人がいましたね.

定理1
コンパクトかつハウスドルフな空間は正規空間である.

正規、正則などの定義はここではしませんが、リンク(ここ)にあります.

この定理において、コンパクトをリンデレフに弱めた時、
結果として正規とは限りません.もっと言えば、正則ともならないような空間があります.

${\mathbb N}$ に対して、$(a,b)=1$ となる正の整数に対して、
$U_b(a)=\{b+an\in {\mathbb N}| n\in {\mathbb N}\}$ とすると、$U_b(a)$ を開基とする
位相空間を ${\mathbb N}$ に入れることができます、ハウスドルフであることは、
任意の異なる正整数は異なる等差数列に含まれるので、明らか.
可算集合なので、リンデレフは明らか、しかし、正則ではありません.
例えば、任意の2点は、閉近傍によって分離できません.


話を元のリンデレフに戻します.
因子空間がコンパクトである積空間はコンパクト(チコノフの定理)ですが、
リンデレフでは、任意の積空間はリンデレフとも限りません.

リンデレフ空間と分離公理の関係として以下が成り立ちます.


定理2
リンデレフかつ正則な空間は正規空間.

つまり、リンデレフまで弱めるなら、正則まで仮定すれば、正規が
いえるということです.


パラコンパクトと正規性
リンデレフの他に、コンパクトの周辺の重要な性質としてパラコンパクトがあります.
部分被覆という方向ではなく、次のような被覆の細分に対する有限性に関する定義です.

2つの被覆 $\mathcal{U},\mathcal{V}$ が $X$ の被覆であるとき、$\mathcal{V}$ が $\mathcal{U}$ の細分であるとは、任意の $V\in \mathcal{V}$ に対してある $\mathcal{U}$ の元 $U$ が存在して、 $V\subset U$ となることをいいます.またこのとき、$\mathcal{V}<\mathcal{U}$ とかきます.

局所有限
任意の点 $p\in X$ に対して、$p$ の近傍 $U(p)$ が存在して、$\{U\in \mathcal{U}|U\cap U(p)\neq \emptyset\}$ が有限集合となる.


パラコンパクト
任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、$\mathcal{V}<\mathcal{U}$ なる局所有限開被覆 $\mathcal{V}$ が存在する.


パラコンパクト性は、正規性とも関係があります.
先ほどの定理1はリンデレフまでは弱められませんでしたが、パラコンパクト
までなら次のように弱めることができます.


定理3
パラコンパクトハウスドルフ空間は正規である.


この定理は、パラコンパクトは、距離空間や離散空間など、基本的な性質を持つものに
入っていますが、ある意味、正規より強い性質だということになります.

(証明の概略)パラコンパクトで $T_2$ が正則であることがわかれば、任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、$\text{Cl}(\mathcal{V})<\mathcal{U}$ なる開被覆 $\mathcal{V}$ が
存在し、パラコンパクトから、この $\text{Cl}(\mathcal{V})$ は局所有限な閉被覆であることがわかります.そのような被覆が存在すれば、空間が正規であることがわかります.

よって、パラコンパクトハウスドルフ空間が正則であることを示せばよいといことになります.
任意の点 $x\in X$ と$x$ を含まない任意の閉集合 $F$ とする.$x$ の開近傍 $U$ で、$\text{Cl}(U)\cap F=\emptyset$ となるものが存在することを示せばよい.
ハウスドルフ空間であることから、任意の $y\in F$ に対して、$V(y)$ で、$x\not\in\text{Cl}(V(y))$ となる.ここで $\mathcal{V}=\{V(y)\}\cup (X-F)$ は $X$ の被覆であり、パラコンパクト性から $\mathcal{H}<\mathcal{V}$ なる局所有限な開被覆 $\mathcal{H}$ が存在する.$V=\cup \{G\in \mathcal{H}|G\cap F\neq \emptyset\}$ とすると、$F$ は $F\subset V$ ですが、
任意の $H\in \mathcal{H}$ に対して、$H\subset V$ があって、$V\in \mathcal{V}$ なので、
$x\not\in \text{Cl}(H)$ である.$\mathcal{H}$ は局所有限であることから、
$x\not\in \text{Cl}(V)$ がいえる(下の補題1).よって、$X$ は正則.

先ほどのリンデレフの定理はこれだけでもかなり有用ですが、以下のものもあります.

定理4
リンデレフかつ正則ならば、パラコンパクト.

定理2では、リンデレフかつ正則なら正規まで言えたのですが、
この場合、さらに強くパラコンパクトまで言えるということです.


また、リンデレフより強いコンパクトまで仮定すれば、正則を仮定しなくても
パラコンパクトは言えますから、正則とリンデレフという弱いものの合わせ技で
パラコンパクトが言えるという定理です.
これもかなり有用です.


コンパクト性と分離公理の間に面白い関係性があるということがわかりましたが、
関係性ばかりでなく、正規性の被覆を用いた同値条件を得ることもできますが、
それはどこかでまた書こうと思います.
最後に、定理3で使った補題を書いておきます.
今回の定理の詳しい証明については、位相空間の教科書(例えば参考文献の教科書)を見てください.
演習でも扱うかどうか?

注意として、上の定理1,2,4は定義からではなく、ちゃんと証明が必要です.また、定理3ももっとちゃんと証明する必要があります.
下に、上の定理3で使った補題を書いておきます.

補題1
位相空間の $X$ 部分集合族 $\mathcal{A}$ が局所有限であれば、任意の部分族も局所有限、$\text{Cl}(\mathcal{A})$ も局所有限であり、以下が成り立つ.
$$\text{Cl}(\cup\{A|A\in \mathcal{A}\})=\cup\{\text{Cl}(A)|A\in \mathcal{A}\}$$

補題2
$X$ が正則であれば、任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、$\text{Cl}(\mathcal{H})<\mathcal{U}$ なる開被覆 $\mathcal{H}$ が存在する.

補題3
$X$ が $T_1$ ならば、任意の有限開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、$\mathcal{V}<\mathcal{U}$ なる局所有限な閉被覆が存在するなら、$X$ は正規.

参考文献

  • 森田紀一, 位相空間論, 岩波全書

2016年12月29日木曜日

微積分II演習(化学類)(第8回)

[場所1E102(水曜日4限)]

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今回は、円盤上の積分をやりました.
つまり、極座標を使って変換するやり方です.
基本は変数変換を置換積分を行うのですが、式を書いておけば、
$D$が原点を中心とした半径 $r_0$ の円盤だとすると、
$D$ 上の積分は、$E=[0,2\pi)\times [0,r_0]$ 上の積分となり、

$$\int\int_Df(x,y)dxdy=\int\int_Ef(r\cos\theta,r\sin\theta)rdrd\theta=\int_0^{2\pi}\left(\int_0^{r_0}f(r\cos\theta,r\sin\theta)rdr\right)d\theta$$
となります.つまり、極座標変換のヤコビアンは $r$ というわけです.
極座標のヤコビアンは $r$ です.証明をしておけば、

$x=r\cos\theta=\varphi(r,\theta)$
$y=r\sin\theta=\psi(r,\theta)$
とすると、ヤコビ行列は
$\begin{pmatrix}\varphi_r&\varphi_\theta\\\psi_r&\psi_\theta\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\theta&-r\sin\theta\\\sin\theta&r\cos\theta\end{pmatrix}$
であり、行列式をとれば、$\cos\theta\cdot r\cos\theta-(-r\sin\theta\cdot \sin\theta)=r(\cos^2\theta+\sin^2\theta)=r$
となります.

授業中にやった計算をもういちどやっておきます.

$D=\{(x,y)|0\le x\le 1,0\le y\le x\}$
$\int\int_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dxdy$ です.

例題8-2(1) 
置換積分を用いて累次積分を行う方法です.
三角形領域で、まず、$x$ を先に積分し、あとで、$y$ で積分します.
なので、$y$ を固定して考えると、$D$ とぶつかる線分は、$y\le x\le 1$ となります.

なので、積分は、
$$\int_0^1\left(\int_y^1\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dx\right)dy$$
と累次積分の形になります.

$x=y\tan\theta$ として変数変換をすると、
$dx=\frac{y}{\cos^2\theta}d\theta$ なので、
$$\int\int_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dxdy=\int_0^1\left(\int_y^1\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dx\right)dy$$
よって、
$$\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\frac{1}{\sqrt{(\tan^2\theta)y^2+y^2}}\frac{y}{\cos^2\theta}d\theta\right)dy$$
$$=\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\cos\theta\cdot\frac{1}{\cos^2\theta}d\theta\right)dy=\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\frac{d\theta}{\cos\theta}\right)dy\ \ \ (\ast)$$
ここで、$\int\frac{d\theta}{\cos\theta}$ を計算しておきます.(積分定数は省略します.)

$$\int\frac{d\theta}{\cos\theta}=\int\frac{\cos\theta d\theta}{\cos^2\theta}=\int\frac{\cos\theta d\theta}{1-\sin^2\theta}$$
$\sin\theta=s$ とおけば、上の式は以下のように計算できます.
下の計算で、最後に逆双曲線関数の公式を用いました.つまり、$\text{Arsinh}(x)$ は$y=\sinh(x)=\frac{e^x-e^{-x}}{2}$ の逆関数で、$(\text{Arsinh}(x))’=\frac{1}{\sqrt{1+x^2}}$ となります(この微分は後で使います).
$$\int\frac{1}{1-s^2}ds=\frac{1}{2}\int\left(\frac{1}{1-s}+\frac{1}{1+s}\right)ds$$
$$=\frac{1}{2}\left(-\log(1-s)+\log(1+s)\right)=\frac{1}{2}\log\frac{1+s}{1-s}=\frac{1}{2}\log\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}$$
$$=\frac{1}{2}\log\frac{(1+\sin\theta)^2}{1-\sin^2\theta}=\log\frac{1+\sin\theta}{\cos\theta}=\log(\tan\theta+\sqrt{\frac{1}{\cos^2\theta}})$$
$$=\log(\tan\theta+\sqrt{1+\tan^2\theta})=\text{Arsinh}(\tan\theta)$$
となります.
つまり、$\frac{1}{\cos x}dx$ の原始関数は $\text{Arsinh}(\tan x)$ であることがわかりました.
特に、$\text{Arsinh}(\tan x)$ は次のような簡単な積分表示ができるということになります.
$$\text{Arsinh}(\tan x)=\int_0^x\frac{d\theta}{\cos\theta}$$


よって上の式 ($\ast$) に入れてやると、
$$\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\frac{d\theta}{\cos\theta}\right)dy=\int_0^1\left[\text{Arsinh}(\tan\theta)\right]_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}dy$$
$$=\int_0^1\left(\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)-\text{Arsinh}(1)\right)dy=\int_0^1\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)dy-\text{Arsinh}(1)$$
部分積分をすることで、
$$=\left[y\cdot\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)\right]_0^1-\int_0^1y\frac{-\frac{1}{y^2}}{\sqrt{1+\frac{1}{y^2}}}dy-\text{Arsinh}(1)$$
$$=-\lim_{y\to 0}\left(y\cdot\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)\right)+\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1+y^2}}dy$$

ここで、ロピタルの定理を用いて、$\lim_{y\to 0}\left(y\cdot\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)\right)=\lim_{z\to \infty}\frac{\text{Arsinh}(z)}{z}=\lim_{z\to \infty}\frac{\frac{1}{\sqrt{1+z^2}}}{1}=0$

なので、上の積分は、
$$=\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1+y^2}}dy=\text{Arsinh}(1)$$
となります.
ここで、逆双曲線関数の積分表示 $\text{Arsinh}(x)=\int_0^x\frac{1}{1+y^2}dy$ を使いました.
この逆双曲線関数の値は、上の公式をもう一度用いれば、
$$\text{Arsinh}(1)=\log(1+\sqrt{2})$$
と、すこし具体的な値(よく知っている形)になりました.


例題8-2(2)

極座標表示による変数変換を用いて行うやリ方です.
$x=\cos\theta, y=\sin\theta$ とすると、
この三角形内の、原点からの線分で、
$0\le \theta\frac{\pi}{4}$ かつ、$0\le r\le l$ となります.
ここで、$l$ は、上の図の線分の長さですが、$\theta$ の式で書けば、
$l=\frac{1}{\cos\theta}$ となります.

$$\int\int_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dxdy=\int_0^{\frac{\pi}{4}}\int_0^{\frac{1}{\cos\theta}}\frac{1}{r}rdrd\theta=\int_0^{\frac{\pi}{4}}[r]_0^{\frac{1}{\cos\theta}}d\theta$$
$$=\int_0^{\frac{\pi}{4}}\frac{1}{\cos\theta}d\theta=[\text{Arsinh}(\tan\theta)]_0^{\frac{\pi}{4}}=\text{Arsinh}(1)$$
と計算できます.

まとめ
この2つの計算で分かる通り、重積分では、積分の方法を変えるだけで、劇的に計算を楽にすることができる場合があります.先ずは、$(x,y)$-座標でやるか、極座標表示でやるかの選択肢があります.
今回は、領域の形からだけではなく、式の形からも考えて積分方法を考える必要があるといえると思います.

2016年12月21日水曜日

微積分II演習(化学類)(第7回)

[場所1E102(水曜日4限)]

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今回の演習は積分に入りました。

今回は、四角形領域と三角形領域だけ扱いました.

$D=[a,b]\times [c,d]$ を平面上の $a\le x\le  b$ かつ $c\le y\le d$ を満たす領域とします.
このとき、
$$\int\int_Df(x,y)dxdy$$
は、$\int_c^d\left(\int_a^bf(x,y)dx\right)dy$ と逐次積分(累次積分)として計算されます.
これが四角形上の積分です.
例えば、
$f(x,y)=xy$ とすると、$D=[0.1]\times [0,1]$
$\int\int_Dxydxdy=\int_0^1\left(\int_0^1xydx\right)dy=\int_0^1\left[\frac{x^2y}{2}\right]_0^1dy=\int_0^1\frac{y}{2}dy=\left[\frac{y^2}{4}\right]_0^1=\frac{1}{4}$
などと計算します.

変数変換の公式

重積分の変数変換の公式とは、一変数の置換積分をしていることと同じです.
まず、${\mathbb R}^2$ 上の領域 $D$ の積分に対して、その積分を、$(u,v)$-平面の積分に変換する方法です.$x=\varphi(u,v), y=\psi(u,v)$ なる一対一写像あるとします.
このとき、$(u,v)$-平面の領域 $E$ が領域 $D$ に移るとします.

また、ヤコビアン $\frac{\partial (x,y)}{\partial(u,v)}$ を $\begin{pmatrix}\varphi_u&\varphi_v\\\psi_u&\psi_v\end{pmatrix}$ の行列式として定義します.

そうすると、$D$ 上の関数 $f(x,y)$ の重積分は、
$\int\int_Df(x,y)dxdy$ は
$$\int\int_Ef(\varphi(u,v),\psi(u,v))|\frac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)}|dudv$$
と変数変換されます.ここで、絶対値が付いていることに注意してください.

例えば、
$f(x,y)=x^2+y^2$ で、
$|x+y|\le 2, |x-y|\le 2$ を満たす領域を $D$ とする.
このとき、$x=u+v, y=-u+v$ とすると、
$|v|\le 1$ かつ、$|u|\le 1$ になります.
ここで、ヤコビ行列は、
$\begin{pmatrix}1&1\\-1&1\end{pmatrix}$ の行列式であり、$2$ となります.
また、$x^2+y^2=(u+v)^2+(-u+v)^2=2u^2+2v^2=2(u^2+v^2)$ となります.

よって、$\int\int_D(x^2+y^2)dxdy=\int\int_{|u|\le 1,|v|\le 1}2(u^2+v^2)2dudv=4\int_{-1}^1\left(\int_{-1}^1(u^2+v^2)du\right)dv=4\int_{-1}^1\left[\frac{u^3}{3}+uv^2\right]_{-1}^1dv=4\int_{-1}^1\left(\frac{2}{3}+2v^2\right)dv=8\left[\frac{v}{3}+\frac{v^3}{3}\right]_{-1}^1=\frac{32}{3}$
と計算されます.

積分の順序交換
積分の順序は交換することができます.
例えば、$(0,0),(a,0),(0,b)$ を頂点とする三角形を $D$ とする.
$\int\int_Df(x,y)dxdy=\int_0^b\left(\int_0^{a-\frac{a}{b}y}f(x,y)dx\right)dy=\int_0^a\left(\int_0^{b-\frac{b}{a}x}f(x,y)dy\right)dx$

$\int_0^b\left(\int_0^{a-\frac{a}{b}y}x^2ydx\right)dy=\int_0^b\left[\frac{x^3y}{3}\right]_0^{a-\frac{a}{b}y}dy=\int_0^b(a-\frac{a}{b}y)^3\frac{y}{3}dy=\frac{1}{12}\left(-\frac{b}{a}\left[(a-\frac{a}{b}y)^4y\right]_0^b+\frac{b}{a}\int_0^b(a-\frac{a}{b}y)^4dy\right)=\frac{b}{12a}\int_0^b(a-\frac{a}{b}y)^4dy=\frac{b}{12a}\left[-\frac{b}{5a}(a-\frac{a}{b}y)^5\right]_0^b=\frac{b^2}{60a^2}a^5=\frac{a^3b^2}{60}$
$\int_0^a\left(\int_0^{b-\frac{b}{a}x}x^2ydy\right)dx=\int_0^a\left[\frac{x^2y^2}{2}\right]_0^{b-\frac{b}{a}x}dx=\int_0^ax^2\frac{(b-\frac{b}{a}x)^2}{2}dx=\frac{1}{2}\int_0^a(b^2x^2-\frac{2b^2}{a}x^3+\frac{b^2}{a^2}x^4)dx=\frac{1}{2}\left[b^2\frac{x^3}{3}-\frac{2b^2}{a}\frac{x^4}{4}+\frac{b^2}{a^2}\frac{x^5}{5}\right]_0^a=\frac{1}{60}a^3b^2$


2016年12月19日月曜日

トポロジー入門演習(第8回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今回は慌ただしく、15人の人の発表を見ました。
一人5分くらいということですが、いつも、もう少しで、できるかもしれないと
期待して一人の人に時間をかけてしまうことがあります。
これからは、もう少し早めに行って黒板に早く書いた人から見ようと思います。
今の段階で、92回の発表を見ました.すでに去年の113回にもう迫ろうとしています.
ちなみに、一昨年は97問ですから、年々解く人が増えています.
その前はもっと少なかった(最高で7問の人がいたくらい)ですから.

有志で自主ゼミをしたせいかでしょうか.これだけ位相空間が好きな人が
集まれば、今後位相空間を専門にする人が多く現れると面白いですね.
そもそも筑波は、昔から他のどこの主要大学より、位相空間が強い土地です.

個人的には、位相空間に強い人がドンドン現れて、
数学の他の分野と融合しながら、数学の風景が変わって来ると面白いなぁ
と思っています.

来年以降も自主ゼミが伝統で続くといいと思います.

正則空間と正規空間
ここで、正則空間と正規空間をまとめておきます。
定義をここで述べておきます。

正則空間
任意の閉集合とその閉集合にない一点は開集合で分離される。

正規空間
任意の2つの交わらない閉集合は開集合で分離される。

です.分離されるということは、その2つの集合を含む開集合 $U,V$ が存在して、
$U\cap V=\emptyset$ となるということです.


正則空間であることの必要十分条件
$X$ が正則であることは $X$ の閉近傍全体が基本近傍系となることとは必要十分.

(証明)
$X$ が正則であるとする.$R(X)$ を $X$の閉近傍全体とする.
$x\in X$ とする.$U$ を $x$ の任意の近傍とする.
このとき $U$ は近傍なので、$x\in V\subset U$ なる開集合 $V$ が存在する.
$X-V$ は閉集合なので、正則性から、ある開集合 $U_0,U_1$ が存在して、
$x\in U_0$ かつ $X-V\subset U_1$ となり、かつ $U_0\cap U_1=\emptyset $ となる.
よって、$W=X-U_1$ は閉集合であり、$x\in W$ となる.また、$x\in U_0\subset W$ となるので、$W$ は $x$ の閉近傍となる.
よって、任意の近傍 $U$ に対して、 $x\in W\subset U$ なる閉近傍 $W$ が存在する.
これは、$R(X)$ が$X$ の基本近傍系となることを意味している.

逆に、閉近傍全体が基本近傍系となるとすると、$x$ を任意の点として、$F$ を $x\not\in F$ なる任意の閉集合とする.
このとき、$U=X-F$ は $x$ の開近傍であり、$x$ のある閉近傍 $W$ が存在して、$x\in W\subset U$ となる.よって、$X-W$ は $F$ を含む開集合で、$W$ は閉近傍であることから、ある開集合 $x\in V\subset W$ が存在する.
よって、$V, X-W$ は、$x, F$ を分離する開集合となる.



正規空間であることの以下のような必要十分条件があります.
$X$ が正規であることは $X$ の閉集合 $F$ と開集合 $G$ に対して、$F\subset G$ ならば、開集合 $U$ で、$F\subset U\subset \bar{U}\subset G$ となるものが存在する.
(証明)
$X$ が正規とする.$X$ の閉集合 $F$ と $G$ を開集合であり、$F\subset G$ を満たすとする.このとき、$F$ と、$X-G$ に対して開集合 $U,V$ が存在して、$F\subset U$ かつ、$X-G\subset V$ かつ、$U\cap V=\emptyset$となるものが存在する.
よって、$U\subset X-V\subset G$ となり、$X-V$ は閉集合なので、$U\subset \bar{U}\subset X-V$ となる.ゆえに、$F\subset U\subset \bar{U}\subset G$ となる開集合 $U$ が存在する.
逆に、閉集合 $F$ と開集合 $G$ で、$F\subset G$ となるものに対して、$F\subset U\bar{U}\subset G$ なる開集合が存在するとするとする.
今、閉集合 $V_0,V_1$ に対して、$V_0\cap V_1=\emptyset$ となるものを任意にとる.
このとき、$V_0\subset X-V_1$ となり、$X-V_1$ は開集合.
よって、開集合 $U$ が存在して、$V_0\subset U\subset \bar{U}\subset X-V_1$ となる.
このとき、$X-\bar{U}$ は、開集合であり、$V_1\subset X-\bar{U}$ であり、
$V_0\subset U_0$ であるので、$V_0,V_1$ は $U_0$ $X-U_0$ によって分離できる.


パラコンパクトと可算パラコンパクト
位相空間 $X$ とそのある部分集合の族が存在した時、その族が、局所有限とは、任意の点 $p$ において、その点の近傍 $U(p)$ が存在して、$U(p)$ と共通部分をもつ部分集合が有限個しかないことを言います.
ここで、コンパクト空間の周辺の定義をいくつか紹介して終わります.

コンパクト
任意の開被覆が有限部分被覆をもつ.

パラコンパクト
任意の開被覆に対して局所有限な開細分をもつ.

部分被覆ではなく、開細分であるということに注意してください.
つまり開被覆の任意の開集合 $A$ に対して、局所有限な開被覆の開集合 $U$ が存在して、$U\subset A$ となるということです.

可算パラコンパクト
任意の可算開被覆に対して局所有限な開細分をもつ.

メタコンパクト
任意の開被覆に対して、点有限な開細分をもつ

点有限であるとは、任意の点 $x$ に対して、その点とぶつかる被覆が有限であることをいいます.

オーソコンパクト
任意の開被覆において、次のような性質(内部保存)を満たす開細分が存在する.
任意の点 $x$ について、$x$ をその開細分の共通部分をとると、再び開集合となる.

コンパクト $\Rightarrow$ パラコンパクト
パラコンパクト $\Rightarrow$ メタコンパクト
メタコンパクト $\Rightarrow$ オーソコンパクト

となることがすぐわかると思います.また、

パラコンパクト  $\Rightarrow$ 可算パラコンパクト

もすぐわかります.

2016年12月12日月曜日

微積分II演習(化学類)(第6回)

[場所1E102(水曜日4限)]

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今回はラグランジュの未定乗数法をやりました.
多項式など簡単な場合です.

前提となるのは、${\mathbb R}^2$ 上の有界閉集合上の連続関数は
最大値と最小値を持つということです.(${\mathbb R}^2$ だけではなく一般に ${\mathbb R}^n$ で成り立ちますが、あまり一般的な空間はここでは扱いません.)
本当は最初に有界閉集合であることをチェックする必要があります.
閉集合であることは、以前やった様な示し方もありますが、ここでは、多項式(一般に連続関数)の零点集合などは、閉集合になります.
また、有界であるかどうかは、$g(x,y)=0$ なる多項式の場合、
$x^ny^mg(1/x,1/y)=0$ なる式、(ここで、$n,m$が$x,y$のそれぞれ最高次の係数とする)が
$(x,y)=(0,0)$ なる点がなければ、有界ですが、ここではあまりそれらにはこだわりません.



$x^2+y^2-1=0$ となる条件の元、$xy$ などの関数の最大値を求めよ.

のような問題を解きます.例えば、$x=\cos\theta, y=\sin\theta$としておけば、
$xy=\cos\theta\sin\theta=\frac{1}{2}\sin2\theta$ となるので、
最大値は $1/2$で、
$\theta=\frac{\pi}{4},\frac{5\pi}{4}$ のとき、
最小値は、$-1/2$ で、
$\theta=\frac{3\pi}{4},\frac{7\pi}{4}$ のとき、
となり、簡単に求まりますが、このように極座標表示がすぐ求められるわけではありません.そのような場合も含めて、関数のまま、行います.

最大、最小の求め方
$f=xy$ とし、$g=x^2+y^2-1$ としておきます.
このとき、$H=f-\lambda g=xy-\lambda(x^2+y^2-1)$ とします.

このとき、$f$ の $g=0$ での臨界点(微分がゼロになる点)は、
$H$ の $(x,y,\lambda)$ での3変数関数としての臨界点である.

これが、手法の核となる部分です.
本当は最大最小を求めたいのに、微分が消えているだけの臨界点を求めるのは手法として弱いと思うかもしれませんが、最大、最小は臨界点であることを考慮し、最大と最小があらかじめ存在が確定している場合は、臨界点を求めるだけで意味があります.

臨界点の方程式を作って見ると、
$\begin{cases}H_x=y-2\lambda x\\H_y=x-2\lambda y\\H_\lambda=-x^2-y^2+1\end{cases}$
となります.この方程式を解きますが、授業で示したように、最初の2つは、$x,y$ についての線形な方程式であり、3番目の方程式から、$(x,y)\neq (0,0)$ が満たされるので、
この線形方程式の行列式 $(-2\lambda)(-2\lambda)-1=0$ でなければなりません.
よって、$\lambda=\frac{1}{2}, -\frac{1}{2}$ となります.
このとき、もう一度式に戻して、$(x,y)$ を求めると、
$\lambda=\frac{1}{2}$ の場合、$(x,y)=(\pm\frac{1}{\sqrt{2}},\pm\frac{1}{\sqrt{2}})$ (複合同順)
$\lambda=-\frac{1}{2}$ の場合、$(x,y)=(\pm\frac{1}{\sqrt{2}},\mp\frac{1}{\sqrt{2}})$ (複合同順)
となり、それらは、最大、最小に対応することになります.

$\lambda$ の値が3つ現れた時は、そのうちの最大のものが最大値であり、最小のものが最小値に対応します.真ん中の値がある場合は、その点は、極大、極小( $y=x^3$ の原点の様に停留点かもしれません)かもしれませんが、それがすぐにどちらかはわかりません.
$g(x,y)=0$ を一度、陰関数の定理で、陰関数に直してから議論する必要があります.

円盤上の最大、最小

円盤(有界で閉集合)の内部上での最大最小を求める問題も発展問題としてやりました.
ここでは、例を挙げてはしませんが、まとめておきます.

円盤を $D=\{(x,y)|x^2+y^2\le 1\}$ (ディスクの $D$ )としておくと、
$A=\{(x,y)|x^2+y^2< 1\}$ とし、
$B=\{(x,y)|x^2+y^2= 1\}$ とします.

このとき、$A\cup B=D$ の最大値最小値は、$A,B$ のそれぞれの最大値、最小値のうち大きい方(同じ場合はその値)となります.

ただ、$A$ の方は、有界閉集合ではありません(有界だが、開集合)ので、最大、最小が存在しないかもしれません.実際授業中でやった通り、$f(x,y)=xy$ は内部 $A$ で最大値、最小値を持ちませんでした.

なので、$A$ の方の最大値、最小値を考慮する必要があるかどうかは、もちろん、最大値、最小値が存在するときに限ります.
$B$ の方は必ず、最小値最大値がありますので、全体 $D$ としては必ず、最大値最小値は存在します.

参考のため、以下のページも挙げておきます。

  • 微積分II演習(2015年度)
  • 微積分II演習(2014年度)ここでも円盤上の最大最小を扱っています.(今回授業でやった同じ例を扱っています.)


トポロジー入門演習(第7回)

[場所1E103(月曜日4限)]

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先日手習い塾にいきましたら、
問題3-21を解いている人が多かったので、ここでもう一度やっておきます。

ここに、簡単な問題の解答を載せていくので、発表ゼロの人はまずはこちらから解き始めて(発表し始めて)ください.
今回は、(3,4,5),(6,7) の問題を一つずつ紹介しました.

問題3-21
$X$ を距離空間とする.$A$ の内点 $x$ を、$x$ を中心とした $A$ に含まれる $\epsilon$-球が存在することと定義し、 $A$ の内部 $A^\circ$ を $A$ の内点全体とする.また、 $A$ の触点(任意の $\epsilon>0$ に対して $U_\epsilon(x)\cap A\neq \emptyset$ となる点全体)を $\bar{A}$ を $A$ の閉包という.このとき、以下のそれぞれに答えよ.
(1)  $A^\circ$ は、$A$ に含まれる最大の開集合であることを示せ.
(2) $\bar{A}$ は $A$ を含む最小の閉集合であることを示せ.

つまり、$A^\circ=\{x\in X|\text{ ある }\epsilon>0\text{ に対して }U_{\epsilon}(x)\subset A\}$
となる集合とすると、(1) は、$A^\circ$ が $A$ に含まれる開集合であり、それが、$A$ に含まれるものの中で、最小であるということを示せということです.


(1) についてやると、まず、$A^\circ$ が $A$ の部分集合であることは、$x\in A^\circ$ に対して、$x\in U(x,\epsilon)\subset A$ となることから明らかです.次に $A^\circ$ が開集合であることを示します.$A^\circ$ が開集合であることは、$A^\circ$ の任意の点 $x$ に対して $U(x,\epsilon)\subset A^\circ$ を満たすような $\epsilon>0$ が存在することです.

条件から、$U(x,\epsilon)\subset A$ となる $\epsilon>0$ は存在するのだから、
あとは、そのような $U(x,\epsilon)\subset A^\circ$ となることを示せばよいことになります.

しかし、$U(x,\epsilon)$ が開集合であることを使えば、
任意の $y\in U(x,\epsilon)$ に対して、ある $\delta$ が存在して、$U(y,\delta)\subset U(x,\epsilon)$ となります.$U(x,\epsilon)\subset A$ であることと $A^\circ$ の定義から
$y\in A^\circ$ であることがわかります.

ゆえに、$U(x,\epsilon)\subset A^\circ$ となることがわかりました.
つまり、$A^\circ$ は開集合であることがわかりました.

よって、$A^\circ$ は開集合であり、$A$ に含まれるすべての開集合が含まれている
ということもわかったと思います.

要するに、$\cup\{S|A\text{ に含まれる開集合}\}\subset A^\circ$
であることもわかります.$A^\circ$ も $A$ の開集合であることから、
$$A^\circ\subset \cup\{S|S\text{ は }A\text{に含まれる開集合}\}\subset A^\circ$$
となります.

ゆえに、$A^\circ = \cup\{S|S\text{ は }A\text{に含まれる開集合}\}$ となります.
つまり、$A^\circ$ は $A$ に含まれる開集合で、$A$ に含まれる開集合をすべて含んでいるので、$A^\circ$ は、$A$ に含まれる最大の開集合ということになります.

最大であることを実際証明することもできます.

$x\in A-A^\circ$ が、ある$A$ に含まれる開集合 $B$ の点であるとすると、
ある $\epsilon>0$ が存在して、$U(x,\epsilon)\subset B\subset A$ となります.
$A^\circ$ の定義から、$x\in A^\circ$ であることから条件に反します.

同じようにして、(2) についても証明することができます.


次に、6,7の問題でも手習い塾でやっていた問題は、

問題6-1-1の
${\mathbb R}$ の部分集合の族を $\mathcal{O}=\{(a,\infty)|a\in {\mathbb R}\cup\{-\infty\}\}\cup\{\emptyset\}$
とすると位相空間であることを示せ.

という問題でした.(最初配ったプリントにはミスプリがありましたので直しました.最後の部分は $\cap$ ではなく、$\cup$ が正しいです.)

$X$ が位相空間であることを示すには、$X$ の部分集合族 $\mathcal{O}$ が以下の性質を満たすことを示せば良いことになります.
[1] $\emptyset \in \mathcal{O}$ かつ $X\in\mathcal{O}$
[2] 有限個の $U_1,\cdots,U_n\in \mathcal{O}$ に対して、$U_1\cap U_2\cdots\cap U_n\in\mathcal{O}$ となる.
[3] 任意個の $U_\lambda\in\mathcal{O}$ に対して、$\cup_{\lambda\in\Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}$ となる.

上の6-1-1についてやって見ると、
[1] については $\emptyset\in \mathcal{O},(-\infty,\infty)=X\in \mathcal{O}$ であるから成り立つ.
[2] について、$(a_1,\infty),\cdots,(a_n,\infty)\in\mathcal{O}$ とし、$\cap_{i=1}^n(a_i,\infty)$ を考える.$a_1\cdots,a_n$ の中で $-\infty$ が一つでもあれば、 のぞいて考えても構わない.(もし、そのような物しかなければ、この共通集合は $(-\infty,\infty)$ となりこのときも[2] は成り立っている.)
任意の $i$ に対して、$-\infty<a_i<\infty$ として構わない.このとき、$\cap_{i=1}^n(a_i,\infty)$ は $(\max\{a_i\},\infty)$ となるので、$\cap_{i=1}^n(a_i,\infty)\in\mathcal{O}$ となる.
[3] $\cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)$ を考える.この中で、一つでも、$(-\infty,\infty)$ があるとすると、この和集合は $(-\infty,\infty)$ になる.なので任意の $\lambda\in\Lambda$ に対して $a_\lambda\neq -\infty$ と仮定してよい.
このとき、$\cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)=(\inf\{\lambda|\lambda\in\Lambda\},\infty)$ となる.
実際、$a\in \cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)$ とすると、ある$\lambda\in \Lambda$ に対して、$a_\lambda<a$ が成り立つので、$\inf\{a_\lambda|\lambda\in \Lambda\}<a$ が成り立つ.
よって、$\cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)\subset (\inf\{\lambda|\lambda\in\Lambda\},\infty)$
逆に、$a\in (\inf\{\lambda|\lambda\in\Lambda\},\infty)$ とすると、$\inf\{\lambda|\lambda\in\Lambda\}<a$ となり、$a$ は $\{\lambda|\lambda\in\Lambda\}$ の下界ではないので、ある $\lambda\in\Lambda$ に対して、$a_\lambda<a$ となる.よって、
$a\in \cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)$ がいえる.
よって、$\cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)=(\inf\{\lambda|\lambda\in\Lambda\},\infty)$ がなりたつ.
つまり、$\cup_{\lambda\in\Lambda}(a_\lambda,\infty)\in \mathcal{O}$ が成り立ったので、[3]が成り立つことがわかる.



2016年11月25日金曜日

トポロジー入門演習(第6回)

[場所1E103(月曜日4限)]

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今日は、位相空間や開基の問題を解いた人もいましたが、半分近くの人が
分離公理や連結性についての問題でした.

位相空間の定義が分かれば、そのほかの定義は簡単に理解できますので、
自主的に定義を読んで勉強を進めておきましょう.

また、分からない部分が出てきましたら、授業時間にいつでも質問してください.
そろそろ1/3を超えましたので、発表回数が低い人にはこちらから声をかけます.

私も、時間がありましたら、補足スライドの方も作っていく予定です.


以下では、質問にもあった、少し難しめの話です.


超空間のトポロジー

位相空間 $X$ に対して、$X$ の部分集合の族

$CL(X)=\{A\subset X|A\text{は $X$ の閉集合}\}$
$2^X=\{A\subset X|A\text{は空ではない $X$ の閉集合}\}$
$\mathcal{K}(X)=\{A\subset X|A\text{は $X$ のコンパクト集合}\}$
$\mathcal{F}(X)=\{A\subset X|A\text{は $X$ の有限集合}\}$

を考えます.これらの集合にトポロジーを導入したものを超空間(hyperspace)といいます.
これ以降、$X$ はハウスドルフ $T_2$ 空間であると仮定します.
なので、任意の一点集合は、閉集合です.

ちなみに、上で書いたように、数学でよく言われる、○○の族というのは、単に集まりを指し、○○を満たすもの全てもってきた集合というわけではありません。

超空間に入るトポロジーはいくつかあります.

代表的なものは、ハウスドルフ距離(ハウスドルフ位相)とヴィエトリス位相(ヴィエトリストポロジー)や、フェル位相(フェルトポロジー)があります.

ハウスドルフ距離位相(Hausdroff metric space)

この距離は、以下のようにして定義します。
$(X,\rho)$ を距離空間とする.$\sup(\rho(x,y)|x,y\in X\}<\infty$ を満たすとき、有界距離空間という.

有界距離空間 $(X,\rho)$ に対して、
$A,B\in 2^X$ とする.

$$\rho_H(A,B)=\max\{\sup\rho(a,B),\rho(b,A)\}$$

として、$2^X$ に対して距離空間 $\rho_H$ とします.
これは、$X$ 上の閉集合上の距離ですが、一般に、コンパクト距離空間の間の距離として、微分幾何で使われる、グロモフハウスドルフ距離があります.
これは、
$X_1,X_2$ をコンパクト距離空間とすると、$\phi_i:X_i\to X$ を等長埋め込みとし、
$$d_{GH}(X_1,X_2)=\inf_{X,\phi_1,\phi_2}\rho_X(\phi_1(X_1),\phi_2(X_2))$$
としたものをグロモフハウスドルフ距離といいます.
ここで、下限は、距離空間 $X$ と等長埋め込み全体にわたった距離になり、
これにより、コンパクト距離空間全体の等長を同値関係にした空間上の距離となります.
つまり、$d_{GH}(X_1,X_2)=0$ ならば、$X_1$ $X_2$ は等長な距離空間となります.

距離空間 $X_1,X_2$ が等長であるとは、$X_1$ から $X_2$ の間に距離を保つような全単射が存在することです.


ヴィエトリス位相(Vietoris topology)

ヴィエトリス位相とは、 $2^X$ 上の位相

$U_1,\cdots, U_n$ を $X$ の開集合とします.
$$\langle U_1,\cdots, U_n\rangle=\{B\in 2^X|B\subset \cup_{i=1}^nU_i, B\cap U_i\neq \emptyset\}$$
を位相空間のベースとするような位相です.これは、$X$ が距離空間でなくても定義できるのが特徴です.

$\mathcal{K}(X)$ や $\mathcal{F}(X)$ は、$2^X$ の部分空間としてのトポロジーを誘導することが
でき、それらを一般に超空間といいます.

ここで、超空間上に成り立つトポロジーの基本的な性質をまとめておきます.

  1. $\langle U_1,\cdots,U_m\rangle \cap \langle V_1,\cdots,V_n\rangle=\langle U_1\cap V,\cdots,U_m\cap V,U\cap V_1,\cdots, U\cap V_n\rangle$
    ここで、$U=\cup_{i=1}^mU_i$, $V=\cup_{i=1}^nV_i$ とします.
  2. $\langle U_1,\cdots,U_m\rangle \subset \langle V_1,\cdots,V_n\rangle$ であることは、$\cup_{i=1}^mU_i\subset \cup_{i=1}^nV_i$ かつ 任意の $i$ に対して、ある $j$ が存在して、$U_j\subset V_i$
  3. $\langle U_1,\cdots,U_m\rangle$ のVietoris 位相の閉包は $\langle \overline{U_1},\cdots,\overline{U_m}\rangle$ と一致する.
  4. $\mathcal{U}$ を $X$ の被覆であれば、$\langle \mathcal{U}\rangle=\{\langle U_1\cdots,U_k\rangle| U_1,\cdots,U_k\in \mathcal{U},k\in{\mathbb N}\}$ は $\mathcal{K}(X)$ の被覆
  5. $\mathcal{U}$ を $X$ の開基であれば、$\langle \mathcal{U}\rangle=\{\langle U_1\cdots,U_k\rangle| U_1,\cdots,U_k\in \mathcal{U},k\in{\mathbb N}\}$ は $\mathcal{K}(X)$ の開基
  6. $\hat{X}=\{\{x\}|x\in X\}$ は $2^X$ で閉集合.$\mathcal{F}(X)$ は、$2^X$ で稠密
  7. $f:X\to Y$ を写像とする.このとき、以下のように、$f^\ast$, $f^{-1\ast}$, $f^{-1\ast\ast}$ を以下のように定義できる.
    $f^\ast:\mathcal{K}(X)\to \mathcal{K}(Y)$ を $f^\ast(E)=f(E)$
    $f^{-1\ast}:Y\to 2^X$ を $y\in Y$ に対して $f^{-1\ast}(y)=f^{-1}(y)$
    $f^{-1\ast\ast}:CL(Y)\to 2^X$ を $f^{-1\ast\ast}(E)=f^{-1}(E)$
  8. $f^\ast$ が連続であることと $f$ が連続であることは同値.
    $f^{-1\ast}$ が連続であることと、$f$ が開かつ閉でることと同値.
    $f^{-1\ast\ast}$ が連続であることと、$f^{-1\ast}$ が連続であることと同値.
問題として、
$X$ の性質はどのようにして、$2^X$ $\mathcal{K}$, $\mathcal{F}(X)$ 上の性質に引き継がれるか?

が挙げられますが、これまで、分かっているよく知られている事柄を挙げると、以下のものがあります.

$X$ が正則であることは、$2^X$ がハウスドルフと同値こと.
$X$ が完全正則 $T_{3\frac{1}{2}}$ であることは、$2^X$ が ストーン空間であることと同値.
$X$ が正規であることは、$2^X$ が完全正則であることと同値であり、それは $2^X$ が正則であることも同値.
$X$ はコンパクトであることは、$2^X$ がコンパクトであることと同値.
$X$ がコンパクト距離付け可能であることは、$2^X$ がコンパクト距離づけ可能であることと同値であり、$2^X$ が距離づけ可能であることと同値.

コンパクト距離空間上の Vietoris 位相は、ハウスドルフ距離位相と同値.

次の性質は、$X$ と $\mathcal{K}(X)$ 上において同値となる.

ハウスドルフ性、ストーン空間、コンパクトハウスドルフ、距離化可能性、0次元、
完全非連結、第二可算.

また、演習問題であった、のは、やはり、$X$ が $T_1$ ならば、$2^X$ が $T_1$ であるという命題で、よく知られており、$X$ に $T_1$ が仮定されないと証明できないようです.下の Michaelの論文でも $T_1$ は仮定していますね.
もちろん、この記事のように、ハウスドルフを仮定してもよいですが、上の同値関係は、$T_1$ であれば成り立ちます.(Michaelの論文)

$X$ が $T_1$ であれば、$X$ がコンパクトであることと、$2^X$ が正規であることは同値.(Velichko)

ストーン空間とは、一般に、コンパクトハウスドルフ0次元な位相空間のこと.
ストーン自身については、距離空間がパラコンパクトであることを
証明した偉いトポロジスト.トポロジーへの招待(寺澤順著)にも出てきます.

フェル位相(Fell topology)
$X$ の任意の開集合 $V$ に対して、$\{A\in 2^X|A\cap V\neq \emptyset\}$ を準開基
とする $2^X$ 上の位相のこと.
この空間の開集合は、ヴィエトリス位相の開集合として含まれるので、一般にフェル位相はヴィエトリス位相より弱い位相ということになります.


参考文献
  • Edited by K.P. Hart, J. Nagata and J. E. Vaughan, Encyclopedia of General topology, Elsevier
  • E.A. Michael, Topologies on spaces of subsets, Trans. Amer. Math. Soc. 71 (1951)152-182
  • 寺澤順, トポロジーへの招待, 日本評論社
  • N. V. Velichko, On the space of closed subsets, Siberian Math. J. 16 (1975) 484–486

2016年11月23日水曜日

微積分II演習(化学類)(第5回)

[場所1E102(水曜日4限)]

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今回は、少し話題を戻った内容も含め、
  • 全微分可能
  • 陰関数の定理
についてやりました.

全微分可能性

$(x,y)=(a,b)$ で $f(x,y)$ が全微分可能というのは、教科書的に書けば、
$h=x-a$, $k=y-b$ とすると、

$$f(x,y)=f(a,b)+\alpha h+\beta k+o(\sqrt{h^2+k^2})\ \ (h,k)\to (0,0)$$

となる、$\alpha,\beta$  が存在することです.全微分可能とは、微分可能を
多変数の場合に定義したものです.なので、一変数同様、
接平面が存在するということと同値です.

これは、一変数関数の微分可能の一般化といえます.この定義を一変数にすれば、

$$f(x)=f(a)+\alpha h+o(h)$$

となるので、これは、$\frac{f(x)-f(a)}{h}\to \alpha$ ($h\to 0$) と同値ですから、
$f'(a)$ の存在と同じですね?

全微分可能の全というのは、偏微分可能という言い方と区別するためです.
偏微分可能とは、$x,y$ の軸上に沿った微分の仕方といえます.

例えば、偏微分は、

$$f_x(a,b)=\lim_{h\to 0}\frac{f(x,b)-f(a,b)}{h}$$
なので、$x$ 軸や $y$ 軸に沿った微分であるのに対して、
全微分の全とは、全ての方向(全ての近づき方)からの微分が存在するということです.

ここで、$f(x,y)$ が全微分可能であることを、上の $o$ を使わずに書いておきます.

(全微分可能であるための証明の方針)
$g(x,y)=f(x,y)-f(a,b)-f_x(a,b)(x-a)-f_y(a,b)(y-b)$ とおく.
このとき、 $\lim_{(x,y)\to (a,b)}\frac{g(x,y)}{\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2}}$ が収束して、
その極限値が $0$ であるとき、 $f(x,y)$ は全微分可能となります.

(全微分可能でないことの証明の仕方)
上の$g(x,y)$ に対して、 $\lim_{(x,y)\to (a,b)}\frac{g(x,y)}{\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2}}$ が収束しないか、その収束先が $0$ でないとき、$f(x,y)$ は全微分不可能となります.


例1
関数 $f(x,y)=\frac{x^3+y^3}{\sqrt{x^2+y^2}}$
が $(x,y)=(0,0)$ で全微分可能であることは、次のようにしてわかります.
これは今回の問題の一部でもあります.

$g(x,y)=f(x,y)$ とすると、
$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{g(x,y)}{\sqrt{x^2+y^2}}=\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}$
となり、ここで、$(x,y)=(r\cos\theta,r\sin\theta)$ とし、$r\to 0$ なる極限を考える.

$|\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}|=|\frac{r^3(\cos^3\theta+\sin^3\theta)}{r^2}|=r|\cos^3\theta+\sin^3\theta|\le 2r\to 0$
となるので、$(x,y)\to (0,0)$ となるとき、$\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}\to 0$ となる.

よって、$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}=0$ となり、
$g(x,y)=f(x,y)=o(\sqrt{x^2+y^2})$ となる.

よって、$\frac{x^3+y^3}{\sqrt{x^2+y^2}}$ は $(0,0)$ で全微分可能であり、特に
$f_x(0,0)=0$ かつ $f_y(0,0)=0$ となる.


例2
関数 $f(x,y)=\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}$ が $(0,0)$ で全微分可能でないことの証明.
$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}=0$ であることは
$(x,y)=(r\cos\theta,r\sin\theta)$ とすると、$|f(x,y)|=|r(\cos^3\theta+\sin^3\theta)|\le 2r\to 0$ であることから分かる.
よって、$f(0,0)=0$ とする.

まず、偏微分を求める.
$f_x(0,0)=\lim_{h\to 0}\frac{f(h,0)-f(0,0)}{h}=\lim_{h\to 0}1=1$ となる.
同様に、
$f_y(0,0)=\lim_{h\to 0}\frac{f(0,h)-f(0,0)}{h}=\lim_{h\to 0}1=1$ となる.

もし、$f(x,y)$ が原点で全微分可能とすると、
$g(x,y)=f(x,y)-f(0,0)-f_x(0,0)x-f_y(0,0)y=-\frac{xy(x+y)}{x^2+y^2}$ とすると、

$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{g(x,y)}{\sqrt{x^2+y^2}}=0$ となるはずである.
今、$(h,h)\to (0,0)$ として $h>0$ で近づくとします.
このとき、

$\lim_{h\to +0}\frac{-h^2(h+h)}{(h^2+h^2)\sqrt{h^2+h^2}}=\lim_{h\to +0}\frac{-2h^3}{2h^2\sqrt{2}|h|}=\frac{-1}{\sqrt{2}}$
となり、$0$ に収束しない.

よって、$f(x,y)=\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}$ は、$(0,0)$ で全微分可能ではない.

これで証明終わりですが、斜め45度から近づけた理由は、
例えば、$(h,0)\to (0,0)$ で正の数 $h$ で近づくと $g(h,0)=0$ なので、
$\lim_{h\to +0}\frac{g(h,0)}{\sqrt{h^2+0^2}}=0$ となってしまい、うまく満たさないことを示せません.

陰関数の定理
陰関数の定理についてやりました.
少しだけ抽象的なので、わからなくなったら、$F(x,y)=x^2+y^2-1$ となる簡単な場合を
想定して考えてください.

陰関数の定理は、
$F(x,y)$ を $C^1$ 級関数とする.このとき、$F_y(x_0,y_0)\neq 0$ であるなら、
$(x_0,y_0)$ の近くで、$F(x,y)=0$ を満たす関数 $y=\varphi(x)$ が存在し、$x=x_0$ において$C^1$ 級となる.

$C^1$ 級というのがわからなければ無視しても構いません.
要するに、$F(x,y)=0$ を満たす集合が、なめらかな曲線で、その点が、$x$ 軸からのグラフになっている場所はどこか?ということです.

例えば、$F(x,y)=x^2+y^2-1$ の場合、これは、平面上の単位円を表していますが、
その単位円の点 $(x_0,y_0)$ で、その周りで、$x$ 軸からのグラフのようになっている点は、ちょうど $F_y(x,y)=2y\neq 0$ つまり、$(1,0),(-1,0)$ となる点以外の点だということです.

ここ(リンク先)に一昨年書いた陰関数を教えた時のグラフがあります.
微積分II演習(第5回)例1」ですが、この絵のように、$(1,0),(-1,0)$ の点以外の円上の点では、その点を含む小さい区間を取れば、$x$ 軸からのグラフになっていますね?

また、$y$ 軸からのグラフになっている、つまり、$x=\psi(y)$ なる関数になっているための条件は、$F_x(x,y)\neq 0$ となることです.今の円の場合では、$2x\neq 0$ であるので、$(0,1),(0,-1)$ となる点以外の点ということになります.

宿題の$\varphi(x)$ の2回微分を求めよ、という問題は、

1回微分の求め方を真似て求めてください.
つまり、$F(x,y)=0$ の陰関数 $y=\varphi(x)$ の1回微分は、
$F(x,\varphi(x))=0$ という恒等式を微分をすることで、
$F_x(x,\varphi(x))+F_y(x,\varphi(x))\varphi’(x)=0$ となります.
ここで、合成関数の微分を用いています.
よって、移項して整理することで、
$\varphi’(x)=-\frac{F_x(x,y)}{F_y(x,y)}$ となります.
ここで、$y=\varphi(x)$ が陰関数であることから、その点の周りで、$F_y(x,y)\neq 0$ を満たすことを思い出してください.
この方法を真似ることで、$\varphi’’(x)$ が表記の式になることを示して下さい.

やり方は、$F_x(x,\varphi(x))+F_y(x,\varphi(x))\varphi’(x)=0$ をさらに、$x$ で微分してください.合成関数の微分法を何回か使うことになります.

問題5-2(1) の方は、具体的に与えられた関数から、陰関数の微分法を用いて、
接線、法線の方程式を求めてください.それらの公式は、プリントに書きました.

また、最後の問題は、極値の応用問題です.
一定体積を $V$ 各辺の長さを $a,b,c$ などとおいて、表面積をある2変数関数
として書けばできるのではないでしょうか?

2016年11月18日金曜日

トポロジー入門演習(第5回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

トポロジー入門の講義の方では位相や、開基にはすでに入っているようですね。
位相の定義をもう一度書いておくと、

$(X,\mathcal{O})$ が位相空間であるとは、
$X$ を集合とする.$\mathcal{O}$ が $X$ の部分集合の族であり、
以下の性質を満たすものをいいます.

  1. $X\in \mathcal{O}$ かつ、$\emptyset\in \mathcal{O}$
  2. $U_1,\cdots, U_n\in \mathcal{O}$ であれば、$U_1\cap U_2\cap\cdots\cap  U_n\in \mathcal{O}$
  3. $\mathcal{O}$ の族 $\{U_\lambda\}_{\lambda\in \Lambda}$ であるなら、$\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}$
2. は有限個の共通部分は必ず、位相に入っている.
3. は有限個とは限らない和集合であれば、その和集合も位相に入っている.

ということになります.

位相空間上の開集合は $\mathcal{O}$ によって特徴付けられているので、
$\mathcal{O}$ のことを $X$ 上の位相といい、$\mathcal{O}$ のことそのものを位相と言ったりも
します.
 
 
今回の授業では、有限点上の位相空間を解いた人が何人かいました。
$n$ 点集合の部分集合は全部で $2^n$ 個ありますが、その部分集合の族を与えるのが
位相ということです.
なので、部分集合の族全体は、 $2^{2^n}$ 個あります.その中で、
位相となる集合があるのです.

ただ、そのうち、全体集合と、空集合は必ず入りますから、$2^{2^{n}-2}$ の部分だけを考えればよいことになります。

$n=2$ の場合は、部分集合の族全体で、自明に位相でないものを抜いたものの数、
$2^{2^{2}-2}=4$ が全て位相になります.つまり、$4/4$ が位相になります.

$n=3$ の場合は、$2^{2^3-2}=2^6=64$ が部分集合の族全体で、自明に位相でないものを抜いたものの数ですが、実際位相となりうるのは、そのうち、29個です.$29/64$ ですからだいぶん小さくなることがわかります.
一般の $n$ について $T(n)$ を $n$ 点集合の位相の数とすると、比 $T(n)/2^{2^n-2}$ はだんだんと小さくなっていくと思われます.しかし、その極限
$\lim_{n\to \infty}\frac{T(n)}{2^{2^n-2}}$
は存在するのか? $0$ に収束するのか?一定の値に近づくのか知られていません.

一般の有限点集合上の位相空間の考え方を以前(ここ)書いたので、参照してください。
有限集合上の位相をその中で、ある点を含む最小の開集合を使ってある順序集合ができ、
その順序集合のハッセ図によって分類を行うものです.


一般の位相の話に戻ります.
このように、位相を定義すると、位相空間の間の連続写像 $f:X\to Y$ が以下のように定義されます。つまり、

位相空間 $Y$ 上の任意の開集合 $U$ に対して、$f^{-1}(U)$ は $X$ の開集合になる

と簡単にいうことができます.この中には、距離空間における、$\epsilon-\delta$ 論法のステートメントも含まれています.ただ、これが連続の定義だと最初に見せられるより、まずは、$\epsilon-\delta$ 論法を学んでから、この定義を学んだ方が連続のイメージはしやすいと思います.

また、開基(ベース、base)という概念が重要です.
位相空間において、開基のいくつかの元の和集合によってかける開集合全体が、
その位相と一致するものをその位相空間の開基といいます.

開基の線形空間の基底と似ており
全ての開集合が、開基の元の和集合としてかけるという性質があります.

よって、開基を決めておけば、一意的に集合上に位相を入れることができます.

例えば、${\mathbb R}$ 上の通常の位相は、開基として、$(a,b)$ なる開区間の
集合を開基としてもつことで、得られます.これは、${\mathbb R}$ の開集合が
距離空間としての開集合であることからすぐにわかると思います.
 

2016年11月10日木曜日

トポロジー入門演習(第4回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今回は、以下の問題についてやった人がいました.

収束点列

位相空間 $X$ の中の点列 $\{x_n\}$ が収束点列とは、$x\in X$ が存在して、
任意の $x$ の開近傍 $U$ に対して、$\{x_n\}$ の中の有限個を除いて、$x_n\in U$ となる
ことを言います.

別な言い方をすれば、任意の開近傍 $U$ に対して、ある自然数 $N$ が存在して、 $n\ge N$ なる任意の $n$ に対して $x_n\in U$ となる、となります.

距離空間の場合には、任意の開近傍の代わりに、$x$ を含む任意の開球 $U(x,\epsilon)$ に変えて成り立つもので十分です.

また、$\{x_n\}$ がコーシー列であるとは、それが、距離区間の点列であり、
任意の $\epsilon>0$ に対してある自然数 $N$ が存在して、$N\le n,m$ なる任意の自然数 $n,m$ に対して、$d(x_n,x_m)\le \epsilon$ となることをいいます.

距離空間において、コーシー列と収束点列の違いは、
収束点列は収束先が存在する(一意性は問わない)が、コーシー列は、収束先が存在しなくてもよいという点です.
例えば、正の実数からなる空間 $X={\mathbb R}_{>0}$ に通常の距離位相を入れておけば、
$\{1/n\}$ はコーシー列ですが、収束先が $X$ に存在しないので、収束点列では
ありません.

今回示してくれたように、距離空間の部分集合 $F$ に対して、$F$ が閉集合であることと、$F$ の中のコーシー点列が $F$ 内に収束点を持つことは同値です.

また、上の収束点列の定義を用いれば、
$f:X\to Y$ が位相空間の間の連続写像とすると、
$\{x_n\}$ が収束点列であるなら、$\{f(x_n)\}$ が $Y$ で収束点列となります.

つまり、連続であるなら、収束点列を収束点列に移すといえます.
もちろん、距離空間の間の連続写像であれば、コーシー列はコーシー列に移ります.


商写像

商写像について解いている人がいました

まずは定義から
写像 $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ が商写像であるというのは、$f$ が全射であり、
$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X\Leftrightarrow U\in \mathcal{O}_Y$
を満たすものを言います.

右から左へ向かう性質は、$f$ が連続であることと同値です.
なので、商写像は全射連続写像が、左から右へ向かう性質をもつものともいえます.

その時の $Y$ 上の位相
$f:X\to Y$ が商写像であるとき、$Y$ に入る位相のことを $f$ による商位相といいます.
言い換えれば、位相空間 $X$ から、ある集合 $Y$ 上に全射 $f:X\to Y$ があるとき、 上の商写像の定義を満たすように $Y$ 上に一意的に位相を定めることができ、それを $Y$ の商位相だということができます.$Y$ 上の位相が $X$ から一意的に誘導されるので誘導位相ということもあります.

極大性としての商位相
普通、$f:X\to Y$ は $Y$ に開集合が少なければ少ないほど連続になりやすいです.
極端な話、 $Y$ が密着位相であれば、どんな写像も連続です.

$f$ が商写像となるような $Y$ 上の位相は、$f^{-1}$ により $X$ に引き戻して開集合になるものはすべて $Y$ の開集合として付け加えているので、$Y$ 上の商位相は、$f$ が連続全射となる目一杯の開集合を $Y$ に入れているということになります.

商空間としての商位相
商写像や商位相の“商"とは商空間の商のことです.

$f$ が全射であることから、$X$ において $f$ の逆像の点をすべて同一視してできる集合(商空間)は $Y$ と一致します.つまり、同一視 $X/\sim=Y$ が存在します.$Y$ 上の商位相と、$X/\sim$ 上に自然に定まる位相( $V=f^{-1}(U)$ が $X$ の開集合となるとき $V/\sim$ を $X/\sim$ 上の開集合とする )はこの同一視により、同相となります.
$$(X/\sim,\mathcal{O}_{X,f})\cong (Y,\mathcal{O}_Y)$$
とかけます.

ここで、$\mathcal{O}_{X,f}$ を商空間に自然に定まる位相とし、$\mathcal{O}_{Y}$ を $Y$ 上の商位相とする.

2016年11月9日水曜日

微積分II演習(化学類)(第4回)

[場所1E102(水曜日4限)]

配付プリント
HPに行く

今日のことを書く前に、今回返すレポートについて悪い例です.

問題2-2の(d)を例としてとります.

$n\ge 4$のときに、$(x,y)\to (0,0)$ のときに
$$\frac{x^3+y^3}{(x^2+y^2)^{\frac{n}{2}}}$$
が発散することについて、

収束することを示す時には、これに絶対値をつけて評価し、極限を考えればよいですが、
発散を示す場合は、そのようなことをする必要はありません.
また、$(0,0)$ への行き方を指定して考えても構いません.

収束は、すべての道に対して収束することを言わなければならなかったのですが、
それを否定した命題を示す場合には、ある道に対して収束しないことを示せば
十分だからです.

それはさておき、答案として以下のような解答がいかに多いことか.

極座標を取ってやって、

$|\frac{x^3+y^3}{(x^2+y^2)^{\frac{n}{2}}}|=|\frac{r^3(\cos^3\theta+\sin^3\theta)}{r^n}|=\frac{1}{r^{n-3}}|\cos^3\theta+\sin^3\theta|\le \frac{2}{r^{n-3}}\to \infty$

としているのです.絶対値をっている上、$\frac{2}{r^{n-3}}\to \infty$
とまでやっています.完全に蛇足です.
収束の時になぜ絶対値を取って上から評価したのか考えてください.
(注:発散を示す場合、絶対値を取って、下から評価しても発散を示すことはできます.)


つまり、$(0,0)$ にいくに従って $0$ から $\infty$ の間( $\infty$ を含めて)のどこかに行くということ主張しているに他なりません.

何も示したことにはなりません.
収束だろうが、発散だろうがどのような場合にも成り立つことを示したに過ぎないからです.

正しくは、絶対値を取る必要はなく、さらに、$\theta=0$ などと固定したまま $(0,0)$ に収束するなどするとよいでしょう.

そのようなとき、
$y=0$ かつ、$x\to 0$ として $(0,0)$ に近づくとすると、$n\ge4$ であることを考慮すると

$\frac{x^3+y^3}{(x^2+y^2)^{\frac{n}{2}}}=\frac{x^3}{x^{\frac{n}{2}}}=\frac{1}{x^{\frac{n}{2}-3}}\to \infty$

となり、発散が示せます.

このような極めて単純な解答を書いた人はいませんでした.


この他、(b) において正確でない文章

極限において
$0\le |\frac{x^3+y^3}{x^2+y^2}|\le 0$
となるので、収束する

このような文章が大量発生していますが、
他人の文章を写すにしても、自分の文章としても、正しくない式を使って議論することは
できません.自分の文章が正しいことを言っているのかどうか判断しながら書いてください.
このような訓練をすることはかなり大変ですが、自分の文章が正しいのか、確認するなどの習慣だけでも身につけて下さい.


第4回の授業の内容について書きます。
内容は

  • 2次近似
  • 極値の判定でした。
この内容と同じ内容で、
一昨年のブログをここ
また、去年のブログをここ
にかいてあります。

また、ここには2変数関数のグラフの凹凸についてのヘッセ行列ごとの
グラフの凹凸について綺麗な絵をのせています。

今回やったことは、2次近似の式から2変数関数のグラフの凹凸が描けるという
ことです。

これは、高校で習う微積分の教科書にもある通り、関数の極値を求め、
その凹凸を知ることで、その極値が極大値か極小値かということを調べる手法です。

一変数の場合を復習しておきます。
ここで、用語を一つ用意しておきます。
$y=f(x)$ の微分が消える場所を臨界点もしくは停留点といいます.
プリントにはすでに書いてあるのですが、授業中に説明がなかったですね.
2変数の場合は、
$z=f(x,y)$ であれば、$f_x(x,y)=0$ かつ $f_y(x,y)=0$ となる点 $(x,y)=(a,b)$ のことを
同じように臨界点、停留点といいます.


問題:$y=f(x)$ の極値を求めたい。
Step 1:  $f(x)=0$ となる点(臨界点) $x=a$ を求める.
Step 2:  そのような点 $x=a$ に対して、$f’(x)$ が負の数の数から正の数に切り替わる点であれば、$y=f(x)$ は $x=a$ でその点は極小.また、$f’(x)$ が正の数から負の数に切り替わる点であれば、$y=f(x)$ は $x=a$ でその点は極大.

Step2’:  Step2 の代わりに、特に、$f’’(a)>0$ であれば、$x=a$ で $y=f(x)$ は極小をとり、$f’’(a)<0$ であれば、$x=a$ で $y=f(x)$ は極大をとる.



つまり、臨界点が極値であるための十分条件として、2回微分を調べることで、

$f’’(a)>0$ ならば、極小、
$f’’(a)<0$ ならば、極大ということです。

また、$f’(a)=0$ であるとするとき、極大か極小は決められません。
例えば、$f(x)=x^3$ は臨界点は $x=0$ のみで、2回微分は $f’’(a)=0$ですが、$x=0$ で、$f(x)$ は極大でも極小でもありません。

また、$f(x)=x^4$ の臨界点は、やはり $x=0$ のみで、$f’’(0)=0$ となります.
しかし、$x=0$ では、$f(x)$ は極小です。 なぜかというと、$f’(x)=3x^3$ という関数は、$x=0$ において、負から正の数をとるからです.Step 2が適用できるからです.

なので、臨界点において、$f''(a)=0$ だからといって、極値だとか、極値でないとかをいうことはできません.$y=x^3$ の原点での様子は、極値ではありませんが、
臨界点(その値のことは臨界値)は正しいいいかたです.


問題:$z=f(x,y)$ の極値を求めたい。
Step 1:  $f_x(x,y)=0$ かつ $f_y(x,y)=0$ を満たす点 $(x,y)=(a,b)$ (臨界点)を求める.

Step 2’: ヘッセ行列 $H=\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}$ の行列式 $\det(H)$ (ヘッシアンという)が、$0$ でないとする.

$\det(H)>0$ であるとすると、$(x,y)=(a,b)$ は極値となる.
 さらに、$f_{xx}(a,b)>0$ とすると、極小値である.
 さらに、$f_{xx}(a,b)<0$ とすると、極大値である.
$\det(H)<0$ であるとすると、$(x,y)=(a,b)$ は極値ではない.
 どのような形かというと、鞍点である.


鞍点がどのような点であるかというと、下のようなグラフのことをいいます.
馬の背中っぽいですよね?

このグラフは $z=x^2-y^2$ のグラフをmathematicaに描いてもらった図です.
具体的な2回微分などは授業中にやったはずなので、例の計算などはここでは省略しておきます.

同じように、$\det(H)=0$ であるからといって、極値だとか、極値でないとかをいうことはできません.

レポートでよくある間違いは、$\det(H)=0$ という点が出てきたとき、すぐさま、
極値ではないということを結論づけている解答があります.
上と同じ例を与えれば、

$z=x^3+y^3$ は、極値でも馬の鞍でもありません.試しに描いてみせれば、

という、なんとも言えないグラフになります.
同じように、$z=x^4+y^4$ というグラフは、ヘッシアンは消えますが、極値になります.

2016年11月7日月曜日

トポロジー入門演習(第3回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今回発表してもらった内容をおさらいしておきます.

$A$ の内部の定義は2種類あります。

  • $A$ に含まれる最大の開集合.
  • $x\in U_\epsilon(x)\subset A$ となる $\epsilon>0$ が存在するような $x$ 全体.

また、$A$ の閉包についても、同値な条件として、
  • $A$ を含む最小の閉集合.
  • 任意の $\epsilon>0$ に対して、$x\in U_\epsilon(x)\cap A\neq \emptyset$ となる $x$ 全体.
もあります.これらのことが同値であることを示す問題が今日は見受けられました.
これらの同値性について、講義の方の先生の通達で、演習をしておいてくださいとの依頼されています.

それについては、HP(リンク)の補足プリントにおきました.

p-進位相
についての問題もありました.

$p$-進位相は、距離空間ですが、非アルキメデス的距離を持ちます.

$p$ を素数として、
${\mathbb Z}$ 上の $p$-進位相とは、距離関数 $d$ を $d(n,m)=\varphi_p(n-m)$ とし、$\varphi_p$ は以下のようにして定義します.
$\varphi_p$ は、$N$ を整数として、$N=ap^k$ とかきます.
ここで $a$ は $p$ と互いに素である場合、$\varphi_p(N)=2^{-k}$ と定義し、$N=0$ の場合、$\varphi_p(N)=0$ とします.

この距離は、普通の距離空間の関係以上に、

任意の $x,y,z$ に対して、
$$d(x,y)\le \max\{d(x,z),d(z,y)\}\ \ \ \ \ (\ast)$$
が成り立ちます.

この式が成り立てば、距離空間の三角不等式、$d(x,y)\le d(x,z)+d(z,y)$
が成り立ちます.$(\ast)$ の関係式が満たされる距離を非アルキメデス距離といいます.

${\mathbb Z}$ に $p$-進位相を与えるとします. $d$ を $p$-進距離とします.

今回の問題では、$U(x,\epsilon)=\{y\in X|d(x,y)<\epsilon\}$ が閉集合となることをいうという問題もありました.

$U(n,\epsilon)$ はどのような集合かというと、
$U(n,\epsilon)=\{m|\varphi_p(n-m)\le \epsilon\}=\{n+\alpha p^k|\alpha\in {\mathbb Z},k\ge -\log_2\epsilon\}$
となり、ある程度大きい $k$ によって、 $p^k$ によって割り切れる数を $n$ に
足した数全体です.
とくに、$U(n,\epsilon)$ は無限個の元が含まれます.


2点以上の要素をもつ集合上の非アルキメデス距離空間 $X$ は、以下の性質を満たします.
  • $U(x,\epsilon))$ は閉集合
  • 非連結
最初の主張は、以下のようにして示します.

$y\in\text{Cl}( U(x,\epsilon))$ とすると、$U(y,\epsilon)\cap U(x,\epsilon)\neq \emptyset$ となります.その $z\in U(y,\epsilon)\cap U(x,\epsilon)$ とすると、$d(x,y)\le \max\{d(x,z),d(y,z)\}<\epsilon$ となります.
よって、$\text{Cl}(U(x,\epsilon))=U(x,\epsilon)$ となります.
つまり、$U(x,\epsilon)$ は閉集合ということになります.

特に、$\{U(x,\epsilon)\}$ は、開かつ閉な近傍をもつ基本近傍系となるので、
非アルキメデス距離をもつ空間の位相は0次元(zero-dimensional)となります.

上の2つ目の主張を示します.

まず、位相空間 $X$ が連結であるとは、2つの違いに交わらない、空ではない2つの開集合の和集合ではないことをいいます.

上記の位相空間は、2点以上あるので、それを、$p,q$ としておきます.
ここで、$p,q$ の間の距離より小さく正の実数 $\epsilon$ を取っておけば、
$U(p,\epsilon)$ は、$q$ を含まない $p$ の開近傍となります.
よって、$X=U(p,\epsilon)\cup U(p,\epsilon)^c$ とすれば、$p\in U(p,\epsilon)$ かつ $q\in U(p,\epsilon)^c$ となり、もちろん交わりはありません.
上記のことから、$U(p,\epsilon)$, $U(p,\epsilon)^c$ はどちらも空ではない開集合です.
ゆえに、この空間は非連結となります.

${\mathbb Z}$ 上の $p$-進距離空間は(2点以上あり)、$n$ を任意の整数とすると、$U(n,\epsilon)$ と $U(n,\epsilon)^c$ の(共通部分のない)開集合の和集合です.よって、${\mathbb Z}$ 上の $p$-進位相として連結ではないということになります.

$p$-進距離空間は、非コンパクト空間ですが、これは
また演習で問題にしますので、解いてください.

$p\neq 2$であるとき、
$1$, $1+p$, $1+p+p^2$, $1+p+p^2+p^3$, $\cdots$

なる点列を考えるとうまくいきます.
また、この距離における完備化(コーシー点列の収束先を全て付け加えること)をされた
空間を考えると、コンパクトになります.それを $p$-進整数といい、
数論の一部の世界では、崇め奉られています.

2016年10月27日木曜日

微積分II演習(化学類)(第3回)

[場所1E102(水曜日4限)]

今日は、
  • 接平面の方程式の計算方法
  • 合成関数の微分法I
  • 合成関数の微分法II
をやりました.少し計算が多かったと思います.

内容を通して、偏微分の内容は仮定して話をしました.
むしろ、偏微分の計算の仕方を練習しながら接平面や合成関数の微分法を
学んだと言っても良いかもしれません.
もし、偏微分に関して不十分でしたら、教科書などで復習しておいてください.

上にpdfとしてアップした配付プリントは、授業中配ったもので以下の点で訂正してあります.

・解説の方のプリントで3-2の微分の計算例.
・例題3-1.(2)の問題の言い方を訂正.
・例題3-2.(2)を少し授業中に補足した言い方に変えました.


接平面の方程式の計算方法

接平面とは、2変数関数 $z=f(x,y)$ のグラフのある点 $(x,y,f(x,y))$ に接する平面のことで、
点 $(x,y,z)=(a,b,f(a,b))$ での接平面の方程式は、

$$z=f_x(a,b)(x-a)+f_y(a,b)(y-b)+f(a,b)$$
と書き表せます.

1変数関数の場合を思い起こせば、1変数関数 $y=f(x)$ の $(x,y)=(a,f(a))$ での接線の方程式は
$$y=f'(a)(x-a)+f(a)$$
であったと思います.上の式はこの式の2次元バージョンと思えるでしょう.


いくつか、例をやりましたが、もう一度ここでも復習しておきます.

例1

$f(x,y)=xy$ のときの $(x,y)=(a,b)$ での接平面の方程式は、
$f_x(x,y)=y, f_y(x,y)=x$ であり、$(a,b)$ を代入すると、$f_x(a,b)=b,f_y(a,b)=a$ となり、
公式に当てはめれば、

$$z=b(x-a)+a(y-b)+ab=bx+ay-ab$$
となります.この式が接平面の方程式です.

注意して欲しいのは、接平面の方程式は、変数 $x,y$ の1次式であるということです.
たまに、$f_x,f_y$ を計算するのはいいが、$(a,b)$を代入するのを忘れて、
接平面なのに、$x,y$ の2次関数や、はたまた一般の関数になってしまう人がいます.

できた式は必ず $x,y$ などの1次関数になっているかどうか確認してください。

例題3-1.(1)

$z=be^{ab}(x-a)+ae^{ab}(y-b)+e^{ab}=be^{ab}x+ae^{ab}y+e^{ab}(1-2ab)$
$z=2a(x-a)+4b(x-b)+a^2+2b^2=2ax+4by-a^2-2b^2$

となります.

合成関数の微分法I

2変数関数の大事な公式である、合成関数の微分法の計算練習をしました.

関数 $f(x,y)$ と $x=x(t)$, $y=y(t)$ を合成した関数 $F(t)=f(x(t),y(t))$ を$t$-微分します.
そのとき、以下の公式成り立ちます.

$$F’(t)=f_x(x(t),y(t))x’(t)+f_y(x(t),y(t))y’(t)$$

$f_x(x(t),y(t))$ は $f(x,y)$ を $x$ において偏微分してから、
$(x(t),y(t))$ を代入したものです.$f_x(x(t),y(t))$ も同じです.


$f(x,y)=5x+3y$, $x=t^2$, $y=t^3$ とすると、$f_x(x,y)=5$, $f_y(x,y)=3$ です.
この場合は、 $(t^2,t^3)$ 代入しても、同じ $f_x(t^2,t^3)=5$, $f_y(t^2,t^3)=3$ です.
また、$x’=2t, y’=3t^2$ なので、公式に当てはめて、

$F'(t)=5\cdot 2t+3\cdot 3t^2=10t+9t^2$ となります.

また、例題の答えは以下のようになります.

例題3-1.(2)

(a) $2\cdot f_x(2t+1,t^2)+2t\cdot f_y(2t+1,t^2)$
(b) $\cos t\cdot f_x(\sin t,\cos t)-\sin t f_y(\sin t,\cos t)$

となります.

例題3-2.(1) 
$f(x,y)$ を実際に当てはめて計算すれば、

(a) $f_x(x,y)=2x+y, f_y(x,y)=x+2y$ より、代入して、
$f_x(2t+1,t^2)=2(2t+1)+t^2=t^2+4t+2$
$f_y(2t+1,t^2)=2t+1+2(t^2)=2t^2+2t+1$ から、
$2\cdot f_x(2t+1,t^2)+2t\cdot f_y(2t+1,t^2)=2(t^2+4t+1)+2t(2t^2+2t+1)=4t^3+6t^2+10t+4$

となります.

(b) の方も同様です.

合成関数の微分法II
次の合成関数は、
$f(x,y)$ に対して、$x=x(s,t), y=y(s,t)$ を代入します.
まとめの方のプリントでは、$x=\varphi(s,t), y=\psi(s,t)$ と書いていますが、
記号 $\varphi,\psi$ が新たに増えると、ややこしいので、ここでは、
$x,y$ のままの公式にしておきます.

このとき、$F(s,t)=f(x(s,t),y(s,t))$ のように新しく、$s,t$ の2変数の関数が得られ、
$s,t$ の偏微分を計算することができるようになります.そのときの
偏微分係数を求めます.
公式は、

$$F_s(s,t)=f_x(x(s,t),y(s,t))x_s(s,t)+f_y(x(s,t),y(s,t))y_s(s,t)$$
$$F_t(s,t)=f_x(x(s,t),y(s,t))x_t(s,t)+f_y(x(s,t),y(s,t))y_t(s,t)$$

となりますが、授業中でも少し説明したように、この微分法は、上の
合成関数の微分法I を2回適用したものに他なりません.

偏微分は、着目する変数以外は全て定数と思うので、例えば、
$F_s(s,t)$ を行うときは、$s$ 以外の変数 $t$ は定数だと思います.
ですので、例えば、$t=t_0$ とかおけば、

$F(s,t_0)=f(x(s,t_0),y(s,t_0)$
という $s$ の1変数関数が得られ、その関数を、$s$ で微分することになるので、
これは、上の合成関数の微分法I が使えるというわけです.

よって、上記のような合成関数の微分法IIが得られるということになります.

また、上の $F_s(s,t), F_t(s,t)$ の公式をまとめて、行列の形に書くことができます.

このとき、

$$\begin{pmatrix}F_s\\F_t\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}x_s(s,t)&y_s(s,t)\\x_t(s,t)&y_t(s,t)\end{pmatrix}\begin{pmatrix}f_x(x(s,t),y(s,t))\\f_y(x(s,t),y(s,t))\end{pmatrix}$$

プリントのまとめに書いてある公式はこの公式の転置に対応するものが書いてあるので注意してください.


例題3-2.(2)について

$F_s(s,t)=f_x(\cos (s+t),\sin(s-t))(-\cos(s+t))+f_y(\cos(s+t),\sin(s-t))\cos(s-t)$
$F_t(s,t)=f_x(\cos (s+t),\sin(s-t))(-\cos(s+t))+f_y(\cos(s+t),\sin(s-t))(-\cos(s-t))$

となります.また、$f(x,y)=xy$ とすると、$f_x(x,y)=y, f_y(x,y)=x$ とすると、
$f_x(\cos (s+t),\sin(s-t))=\sin(s-t)$
$f_y(\cos (s+t),\sin(s-t))=\cos(s+t)$

$F_s(s,t)=-\sin(s-t)\cos(s+t)+\cos(s+t)\cos(s-t)=\cos(2s)$
$F_t(s,t)=-\sin(s-t)\cos(s+t)-\cos(s+t)\cos(s-t)=-\cos (2t)$

となります.

2016年10月25日火曜日

トポロジー入門演習(第2回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今日は、下限についての不等式を使った証明で困った人が多かったようです。
また、集合の扱いにまだ慣れていないのか、適当な証明で終わらせようと
している人がいました.

$\inf$の使い方

$\inf\{x\in {\mathbb R}|x\in X\}$ を復習してみます.
$\inf\{x\in {\mathbb R}|x\in X\}$ は、$X$ の下界の最大値として定義されます.
もし下界が存在しない場合は、$\inf\{x\in{\mathbb R}|x\in X|\}=-\infty$ となります.

つまり、下界が存在する場合、$\inf\{x\in {\mathbb R}|x\in X\}$ は、$\max\{b\in {\mathbb R}|b\le x, \forall x\in X\}$
として定義されます.

今日やってくれた人の解答に沿ってやってみます.

問題は、
不等式 $|d(x,A)-d(y,A)|\le d(x,y)$ を成り立つことを示す

ということです.
$d(x,A)-d(y,A)\le d(x,y)$ を示す必要があります.

まず、三角不等式から、$a\in A$ に対して、
$$d(x,a)\le d(x,y)+d(y,a)$$
が成り立つ.$a$ を $A$ において $\inf$ をとると、$\inf\{d(x,a)|a\in A\}\le d(x,y)+d(y,a)$ が成り立つ.

よって、左辺は、$d(x,A)$ であるから、
$d(x,A)\le d(x,y)+d(y,a)$ となり、
$$d(x,A)-d(x,y)\le d(y,a)\ \ \ \ (\ast)$$
 が成り立つ.

ここで、任意の $a\in A$ に対して、上の不等式($\ast$)が成り立つことに注意しましょう.
そうすると、$d(x,A)-d(x,y)$ は $\{d(y,a)\in {\mathbb R}|a\in A\}\subset {\mathbb R}$ の下界であることがわかります.
上に書いたように、下界の最大が $\{d(y,a)\in {\mathbb R}|a\in A\}\subset {\mathbb R}$ の $\inf$ なので、

$d(x,A)-d(x,y)\le \inf\{d(y,a)\in {\mathbb R}|a\in A\}$ となり、
$d(x,A)-d(x,y)\le d(y,A)$ が成り立ちます.

よって、$d(x,A)-d(y,A)\le d(x,y)$ となり、$x,y$ の役割を入れ替えて、
$d(y,A)-d(x,A)\le d(y,x)=d(x,y)$ となり、
問題の不等式が成り立つことがわかります.



また、別の問題で、
$d(x,A)=0$ であることと、$x$ が $A$ の集積点であることが同値であること


の証明ですが、
$d(x,A)=0$ であることから、$d(x,a)=0$ となる $a\in A$ としている人もいましたが、
そうではありません. $d(x,A)$ は $\inf$ で定義されていることを思い出してください.

定義は、$d(x,A)=\inf\{d(x,a)\in{\mathbb R}|a\in A\}$
です.これは、$A$ の点列で $x$ との距離が $d(x,A)$ に収束するような、
ものが存在するということです.
$A=\{1/n|n\in{\mathbb N}\}$ であれば、$d(0,A)$ は $0$ ですが、$A$ には、$0$ からの距離が $0$ の点、つまり、$0$ 自身は含まれません.

実際証明をしてみると、$d(0,1/n)$ は $0$ に収束するので、$d(0,A)$ は $0$ 以下であることがわかります.
$d$ は距離関数なので、$d(0,A)\ge 0$ であるので、$d(0,A)=0$ であることがわかります.


元の問題に戻ると、
$d(x,A)=0$ であるとすると、$x$ との距離が いくらでも $0$ にちかいような $A$ の点列が取れます.
つまり、任意の $\epsilon>0$ に対して、$d(x,a)<\epsilon$ となる $a\in A$ が存在します.
これは、$x$ が $A$ の集積点であることを意味しますね.

逆も同じように示してください.



集合のイコール

また、
$\cap_{n\in{\mathbb N}}(-\frac{1}{n},1+\frac{1}{n})=[0,1]$ であることを示す.
という話もありました.
開集合の共通部分を使って、閉集合を表わせという問題でした.

このとき、$-\frac{1}{n}\to 0$ であるから、とか $1+\frac{1}{n}\to 1$ となる議論から
上記のイコールがなりたつなどの直接的な議論はよくありません.
集合の単なる無限共通集合ですからそのような直感はここでは役立ちません.

ちなみに、証明は他人を説得させる手法ではないことを覚えておいてください.

では、何なのか?どのようなことを示せばよいのか?
示すべきことは大概決められています.

これこれはある性質を満たすか?という問題であれば、
その性質が定義されており、その定義どおりかどうかを問うているのです.
例えば、連続なら、連続の定義に当てはまるのかどうか?
つまり、定義に戻って議論できるかどうか?ということです.


採点をしている人たちは、決められたもの(定義)に沿って決められたとおりに示しているか?
を見ているだけなのです.レポートを採点しているときなどもそうです.

なんとなくのイメージをするのは、証明するもののゴールを考えるときと、
証明の方針を決めるときくらいです.

実際の証明は道筋立てて論理的に書かなければなりません.


この場合では、極限のイメージはあって、イコールは正しそうだな、では証明を付けてみよう、
ということになります.

証明は、集合のイコールなので、イコールの意味に立ち返れば、

$\cap_{n\in{\mathbb N}}(-\frac{1}{n},1+\frac{1}{n})\subset [0,1]$
$\cap_{n\in{\mathbb N}}(-\frac{1}{n},1+\frac{1}{n})\supset [0,1]$
の両方示せばよく、この包含関係は、

$a\in \cap_{n\in{\mathbb N}}(-\frac{1}{n},1+\frac{1}{n})$ ならば、$a\in [0,1]$

$a\in [0,1]$ ならば、$a\in \cap_{n\in{\mathbb N}}(-\frac{1}{n},1+\frac{1}{n})$

を証明することに対応します.


この演習を見ていていつものように、トポロジー入門演習の証明を書くことにこれまで以上に
ギャップを感じ始めるのは、第3回くらいです.
自分の証明がいかに証明になっていないか分かると思います.

来週からもわかっていなさそうなところはどんどん指摘していきます!!


火曜日は、手習い塾に行くので、もし解きたい問題で解けない問題
やわからないところがありましたら、ご相談ください。

2016年10月12日水曜日

微積分II演習(化学類)(第2回)

[場所1E102(水曜日4限)]


今日は、
  • 2変数関数の連続性
  • ランダウの記号

についてやりました。

2変数関数の連続性

関数が連続であることは、極限値が一致すること、

$$\lim_{(x,y)\to (a,b)}f(x,y)=f(a,b)$$
であることが必要十分ですが、今日やったことは、左辺が存在することを示す方法です.

$\lim_{(x,y)\to (a,b)}f(x,y)$ が存在する、つまり、 $(x,y)\to (a,b)$ のときに、
$f(x,y)$ が収束するということは、$(x,y)$ から、$(a,b)$ に近づくあらゆる道
に関して、$f(x,y)$ が収束するということになります.


収束性の証明方法の例として、授業でやった同じ(例1)をもう一度書いておきます.

$(x,y)$ を$(x,y)=(a+r\cos\theta,b+r\sin\theta)$ のように極座標表示を
すると、ある点 $(x,y)=(a,b)$ に収束するすべての道は、
$r\to0$ が成り立ちます.
このようにして、$(x,y)$ が $(a,b)$ に近づくとき、
$0$ に収束するような $r$ に関する極限の問題にすり替えられるのです.


(例1)[収束することの証明]

(証明)
$f(x,y)=\frac{xy(|x|+|y|)}{x^2+y^2}$ とする.$x=r\cos \theta, y=r\sin \theta$ とする.
このとき、
$|f(x,y)|\le\frac{|r^2\cos\theta\sin\theta|(r|\cos\theta|+r|\sin\theta|)}{r^2}=r|\cos\theta\sin\theta|(|\cos\theta|+|\sin\theta|)\le 2r$

となる.よって、$2r\to 0$ なので、挟み撃ちの原理から、
$(x,y)\to (0,0)$ のとき、$\frac{xy(|x|+|y|)}{x^2+y^2}\to 0$ となる.
よって、$\frac{xy(|x|+|y|)}{x^2+y^2}$ は原点で極限値 $\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{xy(|x|+|y|)}{x^2+y^2}=0$ をもつ.(証明終了)

最初の不等式は、三角不等式を用い、最後の不等式は、$|\cos\theta|\le 1$ や $|\sin \theta|\le 1$ を使っています.

全ての道に対してある一定の値に収束することを示すことで、関数
が極限値を持つことが示されました.

一方、収束しないことを示すには、このことを否定すればよく、
ある道を取ると収束しないことを示すか、収束先が一致しないことを示せば良いわけです.

下の例では、収束先が一致しないような道が取れることを示します.


(例2)[収束しないことの証明]

(証明)
$f(x,y)=\frac{xy}{x^2+y^2}$ とする.
$(x,y)=(t,0)$ なる道をとると、
$f(t,0)=0$ であり、
$(x,y)=(t,t)$ なる道をとると、
$f(t,t)=\frac{t^2}{t^2+t^2}=\frac{1}{2}$ となる.
よって、原点 $(0,0)$ に収束する2つの異なる道に対して収束先が一致しないので、
この関数は $(0,0)$ で極限値をもたない.(証明終了)


例題2-1

授業でもやったように、収束を示しなさい、もしくは、
収束しないことを示しなさいという問題ではなく、
近づき方(角度 $\theta$ )によってどのような値に近づくかということです.
要は、$f(r\cos\theta,r\sin\theta)$ の値を計算しなさいという問題です.


例題2-2

(1-b) について.

授業の途中で
$$\frac{x^5+y^6}{x^2+y^4}$$
の原点での収束性について、うやむやになってしまったのでここで書いておきます.

(証明)
$x=r\cos\theta$, $y=r\sin\theta$ とする.
$x^2+y^4=r^4\sin^4\theta+r^2\cos^2\theta=r^4\sin^4\theta+r^2(1-\sin^2\theta)$ 
ここで、$\sin^2\theta=t$ とする.
$x^2+y^4=r^4t^2-r^2t+r^2=r^4(t-\frac{1}{2r^2})^2-\frac{1}{4}+r^2\ \ \ \ \ (\ast)$

ここで、$r$ を $0$ に収束するとき.$r$ を十分 $0$ に近い正の数とする.
特に、$\frac{1}{2r^2}>1$ が成り立つとする.

$0\le t\le 1$ であることに注意すると、このとき、$(\ast)$ は、$t=1$ のとき最小であるので、
このとき、

$x^2+y^4\ge r^4$ となる.また、
$|x^6+y^5|\le r^5|r\cos^6\theta+\sin^5\theta|\le r^5(r+1)$ となる. 
よって、これらの不等式を合わせることで、

$\Big|\frac{x^6+y^5}{x^2+y^4}\Big|\le \frac{r^5(r+1)}{r^4}=r(r+1)\to 0$ ($r\to 0$)

がいえ、よって、$f(x,y)\to 0$ がいえる.(証明終了)


(別解)

授業中回ったときに解いていた学生の答えはこうでした.黒板にも書きました.

(証明)
$$\Big|\frac{x^6+y^5}{x^2+y^4}\Big|\le \frac{x^2}{x^2+y^4}|x^4|+\frac{y^4}{x^2+y^4}|y^2|\le |x^4|+|y^2|\ \ \ \ (\ast\ast)$$
このときに、同じように $(x,y)$ の極座標表示をしても良いですが、
$(x,y)\to (0,0)$ の時、それぞれ、$x\to 0$, $y\to 0$ となるとき、
$x\to 0$ かつ $y\to 0$ となるので、

この $(\ast\ast)$ は $0$ に収束する.(証明終了)


(2-a) についてやっておきます.

$\frac{xy\sin(x^2y)}{(x^2+y^2)^2}=\frac{x^3y^2}{(x^2+y^2)^2}\frac{\sin(x^2y)}{x^2y}$
この時、積の2つめは1に収束しますので、$\frac{x^3y^2}{(x^2+y^2)^2}$ を $0$ に収束することを
示す.この最後の収束性は、上と同じなのでここでは省略します.


(2-b) について.
$\frac{\log\cos(xy)}{x^2+y^2}$ についても、上のようにすれば良いですが、

その前に、一変数の極限について考察が要ります.

$\frac{\log\cos(x)}{x^2}=-\frac{1}{2}$ ということを証明してください.

その後は、上の(2-a)と同じようにして、
$\frac{\log\cos(xy)}{x^2+y^2}\to 0$ が証明できると思います.


ランダウの記号

定義
ある関数 $f(x,y),h(x,y)$ が $\lim_{(x,y)\to (a,b)}f(x,y)/h(x,y)=0$ となるとき、
$$f(x,y)=o(h(x,y))\ \  (x,y)\to (a,b)$$
とかく.


これを用いて、問題2-2を考えて下さい.また、わからないという人がいましたら、下に
何か書くかもしれません.

また、ランダウの記号については、こちらに今から丁度2年前くらいに記事を書きました.

2016年10月5日水曜日

微積分II演習(化学類)(第1回)

[場所1E102(水曜日4限)]

今日から微積分II演習(化学類対象)が始まりました.
ガイダンスと、
  • 春学期の復習(マクローリン展開、積分)
  • 開集合、境界点

について演習を行いました。

春学期の復習

春学期で重要なところを本当にざざっとおさらいをしました.

テイラー展開(マクローリン展開)

テイラー展開とは、関数をある点 $x=a$ の近くで、多項式で近似する方法をいうのでした.
$a=0$ でのテイラー展開をマクローリン展開といいます.

公式は、
$$f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\frac{f'''(a)}{3!}(x-a)^3+\cdots$$
$$=\sum_{n=0}^\infty\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n$$
となります.ここで、$f^{(n)}(a)$ は、関数 $f(x)$ の $n$ 回微分に $a$ を代入したものを表します.

この方法で展開すると、マクローリン展開の公式として、

$$e^x=\sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}$$
$$\sin x=\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}$$
$$\cos x=\sum_{n=0}^\infty(-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!}$$
などが成り立ちます.今回の宿題でも使うのは、
$$(1+x)^a=\sum_{n=0}^\infty \binom{a}{n}x^n$$
です.ちなみに、この係数 $\binom{a}{n}$ は2項係数で、
$$\binom{a}{n}=\frac{a(a-1)\cdots(a-n+1)}{n!}$$
と定義されます.

今回の例題でもあった $a=\frac{1}{2}$ の場合は、
$$\binom{\frac{1}{2}}{n}=\frac{\frac{1}{2}(-\frac{1}{2})\cdots(\frac{1}{2}-n+1)}{n!}=(-1)^{n-1}\frac{1\cdot 1\cdot 3\cdot 5\cdots (2n-3)}{2^nn!}=(-1)^{n-1}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}$$
この式を用いて、問題1-1(1)のテイラー展開を行ってください.

積分

今日行った積分は、
  • 有理関数
  • 置換積分
  • $\sin^nx$ の積分(部分積分)
でした.

有理関数の積分は、必ず、部分分数展開により、$\frac{1}{(x-a)^n}$ の形か、$\frac{1}{1+x^2}$ の形に直してから、積分しましょう.後者は、
$$\int_0^a\frac{1}{1+x^2}dx=\text{Arctan}(a)$$
と計算できます.

置換積分は、$\int_a^b f(g(x))g'(x)dx$ の形の積分で、
$$\int_a^b f(g(x))g'(x)dx=[F(g(x))]_a^b$$
と計算されます.ここで、$F(x)$ は $f(x)$ の原始関数です.
例題では、$f(x)=\frac{1}{1+x}$ であり、$g(x)=\sin x$ なる関数である場合の計算でした..
置換積分により、
$\int_0^1\frac{\cos x}{1+\sin x}dx=[\log(1+\sin x)]_0^1$ となり、計算の結果 $\log 2$ となります.

最後は、 $\sin^nx$ の計算ですが、これはやり方を忘れてしまった人もいたようですが、漸化式を用いる方法が一般的です.一般に、$I_n=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx$ とすると、
$$I_n=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^{n-1}x\sin xdx$$
$$=[-\sin^{n-1}x\cos x]_0^{\frac{\pi}{2}}+\int_0^{\frac{\pi}{2}}(n-1)\sin^{n-2}x\cos^2xdx$$
$$=(n-1)I_{n-2}-(n-1)I_{n}$$
となり、$I_n=\frac{n-1}{n}I_{n-2}$ となり、この方法で、2つずつ次数を下げていき、
あとは、
$I_0=\frac{\pi}{2}$ もしくは、$I_1=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin xdx=[-\cos x]_0^{\frac{\pi}{2}}=1$
を使うことで、求めましょう.

授業中注意したように、問題1-1(2-b) をやる際に、$28\cdot 26\cdot 24\cdots2$ などを計算することになりますが、
$(2n)!!=2n(2n-2)(2n-4)\cdots 4\cdot 2$ や
$(2n-1)!!=(2n-1)(2n-3)(2n-5)\cdots 3\cdot 1$
などの公式を使って2重階乗の記号 $!!$ を用いてください.

開集合、境界点

ここから先は、微積分IIの講義の予習となります.教えたのは、開集合と境界点だけです.

開集合

とりあえずここでは、$X$ を ${\mathbb R},{\mathbb R}^2$ などとしておきます.

$X$ 内のある領域 $A$ に対して、$A$ が開集合であるとは次のようなものをいいます.(ここで、領域とは、$X$の (直線上の、または平面上の)あらゆる部分集合をさします.)


定義(開集合)
$A$ が開集合であるとは、任意の ${\bf x}\in A$ に対して、${\bf x}$ を中心として半径が $\epsilon>0$ の開区間 $\{r\in{\mathbb R}|{\bf x}-\epsilon<r<{\bf x}+\epsilon\}$ が存在して、その開区間の全ての元が $A$ の中に含まれる.

$X={\mathbb R}^2$ の場合は、上の定義の開区間は$x$ を中心とした半径 $\epsilon>0$ の開円盤(境界はない)と書き換えてください.

$X$ が直線の場合は、${\bf x}$ はある実数を表し、$X$ が平面の場合は、${\bf x}$ はある点 $(x,y)$ を表します.

開区間の場合は、$\{y|x-\epsilon<y<x+\epsilon\}\subset A$ とでき、
開円盤の場合は、$\{(x',y')\in {\mathbb R}^2|(x-x')^2+(y-y')^2<\epsilon^2\}\subset A$

とできるということです.
 $A=\{r\in {\mathbb R}|0<r<1\}$ の場合の証明を書いておくと、
(証明)$x\in A$ を任意にとる.このとき、$\epsilon$ を $\epsilon=\frac{1}{2}\min(|1-x|,|0-x|)$ とすると、$x-\epsilon>0$ であり、$x+\epsilon<1$ が成り立ちます.
ゆえに、$\{y\in{\mathbb R}|x-\epsilon<y<x+\epsilon\}\subset A$ が成り立つので、$A$ が開集合であることがわかる.$\Box$

ここで、$\min$ をとってさらに $\frac{1}{2}$ をしていますが、これはなくても大丈夫ですし、$\frac{1}{3}$ としても証明は成り立ちます.
また、$\min(\alpha,\beta)$ は、$\alpha,\beta$ のうち、小さい方をとるという関数です.

この区間、円盤は、次元によって区別せず、どちらも教科書では、$U_\epsilon({\bf x})$ と書いてありますね.これ以降はこの記号を使っていきます.

境界点

定義(境界点)
$x\in X$ が $A$ の境界点であるとは、
任意の $\epsilon>0$ に対して、
$U_\epsilon(x)\cap A\neq \emptyset$ かつ、
$U_\epsilon(x)\cap A\neq \emptyset$
の両方が成り立つ.

ということです.$X$ が平面の場合は、この区間 $U_\epsilon(x)$ の代わりに $(x,y)$ を中心とした半径が $\epsilon$ の円盤に変わるだけです.


つまり、境界点の定義は、その点の周りにどんな小さい区間、もしくは円盤を取ってきても、$A$ の元もそうでない元も両方現れるということを言っています.

$A=\{r\in{\mathbb R}|0<r<1\}$ の場合に、$0,1$ が境界点であることを示すには、以下のように書くと良いでしょう.

(証明) $x=0$ とします.この時、任意の$\epsilon>0$ をとる.
$\epsilon_1=-\frac{1}{2}\epsilon\in U_\epsilon(0)$
$\epsilon_2=\frac{1}{2}\min(\epsilon,1)\in U_\epsilon(0)$
をとる.
このとき、$\epsilon_1<0$ であり、$0<\epsilon_2<1$ なので
 $\epsilon_1\in A^c$ かつ、$\epsilon_2\in A$ が成り立つ.
よって、任意の $\epsilon$ に対して、$U_\epsilon(x)$の元で、$A$ にも入るものも、$A$ に入らないものも見つかるので、$0$ は境界である.

$x=1$ とします.この時、任意の$\epsilon>0$ をとる.
$\epsilon_1=1-\frac{1}{2}\epsilon\in U_\epsilon(1)$
$\epsilon_2=1+\frac{1}{2}\min(\epsilon,1)\in U_\epsilon(1)$
をとる.
このとき、$\epsilon_1>1$ であり、$0<\epsilon_2<1$ なので
 $\epsilon_1\in A^c$ かつ、$\epsilon_2\in A$ が成り立つ.
よって、任意の $\epsilon$ に対して、$U_\epsilon(1)$の元で、$A$ にも入るものも、$A$ に入らないものも見つかるので、$1$ は境界である.$\Box$

$A^c$ は $A$ ではない集合、つまり、$A$ の補集合を表します.

同じことは、2日後の微積分IIの講義の方でもやると思いますので、
そちらを復習ということで聞いておいてください.


問題1-2について

手習い塾でこの問題について質問した人がいました。
この問題を解くには、定義に戻って考えることができるかということです。

$B=\{(x,y)|x^2+y^2<1\}$ が開集合であることを示すには、上の定義に戻ってください。
示せば良いことは、$B$ の任意の元 $p=(x,y)\in B$ を取ってこれば、
その点 $p$ を中心とした半径が $r$ の円盤が取れて、その円盤が $B$ の中に収めることができる、ということです。

示すことは、$r$ をどれほど小さく取れば、$B$ の中に $p$ を中心とした半径 $r$ の円盤を $B$ の中に置くことができるかを示して下さい。

$p$ の場所によって、 $r$ は違ってきます。一般に $(x,y)$ に対して
どのように $r$ を取れば良いでしょうか?
例えば、$p=(1/2,0)$ を取った時にはどうなるでしょうか?
おそらく、$r=1/2$ くらいで大丈夫でしょう.
$p=(0,1/2)$ の場合はどうでしょうか?
$(1/2,1/2)$ の場合は?色々考えて行けば、一般に、$p=(x,y)\in B$ の場合もわかると思います。

ヒントは、$p$ を中心とした円を $B$ の境界が交わらないように(さらにその円を $B$ の内部に)取れば良いことがわかるはずです.

$(x,y)$ に対してどのように $r$ を取れば良いかが書かれていれば正解とします。


次に境界点ですが、上に書いたように、境界点は、その点を中心としてどんなに小さい(大きい)半径を取っても $B$ の元も $B$ でない元も取ることができることを示してください。

つまり、$p$ を中心とする半径が $r$ の円盤を $U_r(p)$ とすると、$U_r(p)\cap B$ も
$U_r(p)\cap B^c$ の空集合ではないことを示せば良いです。
$B^c$ は平面上で $B$ でない点(補集合)を表します。

つまり、どんな$r$ を取っても、そのような点を一つずつ選ぶことができれば良いです。

$\{(x,y)|x^2+y^2=1\}$ の点 $p=(x,y)$ を取ると、$U_r(p)$ には、原点からの距離が1以下の点
も1以上の点も含まれることを示して下しさい。

これは、紙の上に絵を描いてじっくり考えればわかると思います。
どこらへんに取れば良いでしょうか?

わからなければ、メールするか、下のコメント欄に書いても構いません。


手習い塾で質問してきた人に出したもっと簡単な演習問題を出しておきます.
$(x,y)$ 平面上の原点を $A$ とします.つまり、$A=\{(0,0)\}$ です.
このとき、$A$ の内点はどこでしょう?(もしくは、$A$ は開集合でしょうか?)
また、$A$ の境界点はどこでしょうか?

答えだけ下に書きます.証明を考えて下さい.















$A$ の内点は空集合.$A$ は開集合ではない.また、$A$ の境界点は $\{0,0)\}$ となる.
$A$ 外点は、$A$ の補集合の内点のことであり、原点以外の平面の全ての点となる.

2016年10月3日月曜日

トポロジー入門演習(第1回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今日から秋学期が始まりました。
トポロジー演習も始まりました。今日の内容は、
授業についてのガイダンスや成績のつけ方などと


  • 距離空間であることの示し方
  • 開集合、境界点、内点
などです。初回はあまり解いてくれる人も少ない時もありますが、今日は、比較的多くの人が解いていたような気がします。解いた人の情報は、ホームページ上に
近々アップします。

ここでは今日の復習をします。

距離空間であること

距離空間であることを示す方法は、去年のものがありましたので、リンクさせて
おきます.去年やった同じ問題についての解説を書いています.
今日発表してくれた人も何人かいますね.


このページと、今日の解説を見ればわかると思いますが、
空間 $X$ と関数 $d:X\times X\to {\mathbb R}$ が $X$ 上で距離関数の性質を満たせば
$d$ が距離関数になり、$(X,d)$ が距離空間になります.距離空間の性質を今日説明した感じで書いておくと、


(1) $d(x,y)\ge 0$、かつ  $d(x,y)=0\Leftrightarrow x=y$
(2) $d(x,y)=d(y,x)$、
(3) $d(x,z)\le d(x,y)+d(y,z)$ 


となります.
さらに去年の同じページに、以前書いた、距離空間と位相空間についての関係について
も書きました.


距離空間や位相空間で何をするのかがわかると想います.

また、今日配ったプリントは、がなかったので、
来週は、トポロジー演習で使う用語集の方も作成して渡します.

内点、境界点、外点

今日のトポロジー入門の授業ではやらなかったようですが、問題を解いている人が
いたので、ここで先に説明しておきます.
ここで、中心を $x$ とし半径が $r$ となる球体
$$\{y\in X|d(x,y)<r\}$$
のことを、
$$B(x,r)$$

と書くことにします.この書き方は、共通なものではなく、本によっては、
$U(x;r)$ と書いたり、$B_r(x)$ や $B_x(r)$ などと書くこともあります.
どれも同じものです.

開集合
まず、$A\subset X$ が距離空間 $X$ の開集合であるとは、任意の $p\in A$ に対して、
ある $\epsilon>0$ が存在して、$p\in B(p,\epsilon)\subset A$ となるようにできる.

つまり、開集合とは、どのどの点でも、その点を中心とした開球体を内部に置く
ことができるということです.ある集合が開集合であることを示すには、
必ずこの定義に戻って考えます.

ちなみに、開球は、名前の通り、開集合です.

距離空間 $X$ において、部分集合 $A\subset X$ の内点、外点、境界点は
以下のようにして定義します.

内点
$p$ が $A$ の内点であるとは、ある $\epsilon>0$ が存在して、$B(p,\epsilon)\subset A$ となることをいう.

外点
$p$ が $A$ の外点であるとは、ある $\epsilon>0$ が存在して、 $B(p,\epsilon)\subset A^c$ となることをいう.

境界点
$p$ が $A$ の境界点であるとは、任意の $\epsilon>0$ に対して、$B(p,\epsilon)\cap A\neq \emptyset $ かつ $B(p,\epsilon)\cap A^c\neq \emptyset $となることをいう.

となります.今日、証明してくれたいたように、境界点は、距離空間の中で、内点でも外点でもない点ということになります.


最後に、

トポロジー(位相空間論)の演習は、発表中心に行いますが、どんな簡単な問題でも、
論理的に飛躍があったり、ごまかしたりするところがありましたら、どんどん突っ込んで
いこうと思っています.これまでの演習より厳しめかもしれませんが、そのような
演習を通して、位相空間論に限らず、ちゃんと証明できる技術を養っていければと思っています.

また、

あたりまえだと思えることでも、
数学の命題は、定義に戻れば必ず証明することができる

ことを忘れてはいけません.自分の感覚で、いつもこうだから
では数学はできません.

いかにして、数学の証明を書くか、発表をするかについての心構えについては、
去年のトポロジー入門演習のページに書きましたので、これについても
リンクしておきます.

トポロジー入門演習(第3回)の後半部分



この演習を通して、それらを身につけていってください.

2016年8月8日月曜日

微積分I演習(第15回)

[場所1E101(水曜日4限)]
HPに行く.

今日は、定期試験でした.

5問あり、それぞれ20点ずつの100点満点としました.全体として以下のような成績でした.

平均点:56.1点
最高得点:80点
最低得点:20点
よくできる人もおらず、全く不勉強もおらずという感じで、
最低でも、最後の5問目E、もしくは連続の定義はできていたようでした.

各設問の得点率は、以下のようになりました.

問題ABCDE
得点率(%)87.969.025.017.981.0

感想として、B などの基本的な積分計算もよく間違っている印象でした.

C は、広義積分可能であることを不等式などを使って証明して欲しかったのですが、
その記述をしている人はほとんどおらず、収束性を示した人は皆無でした.

D は、テイラー展開の問題ですが、授業中では、よく知られている関数と、それを組み合わせた関数を展開する方法について重点的に計算させたので、テイラー展開の式を直接使ってやる計算をもう少しさせるべきだったかと思います.2次までテイラー展開を正確に完成させた人は一人もいませんでした.

これらの内容は基本的なので、配付プリントを用いて夏休み中にでも復習しておくことを勧めます.後期からはさらに発展させた内容となりますので、積分計算は完璧にできるようにしておくと良いでしょう.
試験直後に試験解答をホームページに貼り付けましたが、このページには、採点後の感想と少し別解をつけて貼り付けます.

問題-15-A

(1) 任意の正の実数 $\epsilon$ に対してある正の実数 $\delta$ が存在して、任意の $|x-a|<\delta$となる $x$ に対して、$|f(x)-f(a)|<\epsilon$ が成り立つ.
(2) 任意の$\epsilon$に対して$\delta<\min\left\{1,\frac{\epsilon}{3}\right\}$ なる正の実数 $\delta$ に対して、$|x|<\delta$なる任意の $x$ に対して、
$$|f(x)-f(0)|=|2x^2+x|\le |x|(2|x|+1)<3\delta<\epsilon$$
となり、$x=0$ での連続性が言える.


注:定義に関してはよくできていました.(2) の方では、2次関数を解いている人がほとんどで、上記のような $\delta$ を選ぶ方法は簡単なのですが、少数派でした.

問題-15-B

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{\cos x\,dx}{1+\sin x}=[\log (1+\sin x)]_0^{\frac{\pi}{2}}=\log 2$$
$$\int_0^1x^2\log x\,dx=\left[\frac{x^3}{3}\log x\right]_0^1-\int_0^1\frac{x^2}{3}dx=-\frac{1}{9}$$
ここで、ロピタルの定理から $\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{\frac{1}{x}}{-\frac{1}{x^2}}=\lim_{x\to 0}(-x)=0$ が言える.
$$\int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}=\int_0^1\frac{2t\,dt}{t^2+t}=2\int_0^1\frac{dt}{t+1}=2[\log (t+1)]_0^1=2\log 2$$
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3x\,dx=-\int_0^{\frac{\pi}{2}}(1-\cos^2x)(\cos x)'dx=\left[t-\frac{t^3}{3}\right]_0^1=\frac{2}{3}$$

より、各積分値の絶対値を計算すると、$\frac{1}{9}<\frac{2}{3}<\log 2<2\log 2$ であるから、それらが小さい順に積分を並び替えると、
$$\int_0^1x^2\log x\,dx,\ \ \int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3x\,dx,\ \ \int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{\cos x\,dx}{1+\sin x},\ \ \int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}$$
となる.


注1:$x^2\log x$ の $x\to 0$ での極限が 0 となることがわかっていない人がいました.
注2:なぜか、0.6666より、0.69...の方が小さいと答えている人もいました.

問題-15-C

$0<x<\frac{1}{2}$のとき、
$$\Big|\frac{\sqrt{x}}{\sqrt{x(1-x)}}\Big|= \frac{1}{\sqrt{1-x}}\le \sqrt{2}$$
よって、$\Big|\frac{1}{\sqrt{x(1-x)}}\Big|\le \Big|\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{x}}\Big|$ が成り立ち、
$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{\sqrt{2}\,dx}{\sqrt{x}}$ は広義積分可能なので、$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$ も広義積分可能.

$x=1$ での広義積分可能性は同様なので省略する.

以下、積分値を求める.
$-x^2+x=\frac{1}{4}-(x-\frac{1}{2})^2$ となり、ここで、$x-\frac{1}{2}=\frac{1}{2}\sin t$ とおくと、
$-x^2+x=\frac{1}{4}(1-\sin^2t)=\frac{\cos^2t}{4}$、$dx=\frac{1}{2}\cos t dt$ となり、
$$\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{x(1-x)}}=\int_{-\frac{\pi}2}^{\frac{\pi}{2}} dt=\pi$$



注1:広義積分可能性については、何度かやったはずですね.
有限の端での広義積分であるなら、
積分 $\int_0\frac{dx}{x^s}$ $(0<s<1)$ の収束性、

無限区間なら、
$\int^\infty \frac{dx}{x^s}$ ($s>1$) の収束性

と比較するのが一般的です.

注2:後半の積分計算もそれほどできていませんでした.無理関数の中が2次式であるなら、三角関数、もしくは双曲線関数で置換するのが常套です.

問題-15-D

$f'(x)=-\frac{e^x x-e^x+1}{\left(e^x-1\right)^2}$ より、ロピタルの定理を用いて $f'(0)=-\frac{1}{2}$
$f''(x)=\frac{e^x \left(e^x x+x-2 e^x+2\right)}{\left(e^x-1\right)^3}$ より、再びロピタルの定理を用いて $f''(0)=\frac{1}{6}$ となる.
ゆえに、$y=f(x)$の$x=0$ での2次までのテイラー展開は、
$$1-\frac{x}{2}+\frac{x^2}{12}+o(x^2)$$
となる.



テイラー展開の公式に戻らなくても、以下のようにすることもできます.

(別解)
$\frac{1}{1+x}$ の級数展開を応用することで、$x=0$ の十分近くで関数を展開することで、
$$\frac{x}{e^x-1}=\frac{x}{x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots}=\frac{1}{1+\frac{x}{2!}+\frac{x^2}{3!}+\cdots}$$
$$=1-(\frac{x}{2!}+\frac{x^2}{3!}+\cdots)+(\frac{x}{2!}+\frac{x^2}{3!}+\cdots)^2-\cdots$$
$$=1-\frac{x}{2}-\frac{x^2}{6}+\frac{x^2}{4}+o(x^2)$$
$$=1-\frac{x}{2}+\frac{x^2}{12}+o(x^2)$$

とできる.

ただし、
$$\frac{1}{1+x}=1-x+x^2-x^3+x^4+\cdots$$
なる級数展開を用いた.

注 1:分母を展開してそのままの人や、テイラー展開の式に $e^x$ が残ってしまう人などがいました.
注2:多くの人は、微分を実行してロピタルの定理を使うまで合っていましたが、計算が最後までできた人はいませんでした.
注3:この、$o(x^2)$  などの項を残した展開は普段はテイラー展開とは呼ばないかもしれません.物の本には、漸近展開と書いてあるものもあります.テイラー展開は、剰余項を残したものとする言い方もあります.問題によって注意が必要です.今回は、剰余項を書いている人はいませんでした.剰余項についてはあまり演習をしなかったので、理解している人はいないだろうということで、上のような解答も正解にしています.

問題-15-E

ロピタルの定理を用いて、
$$\lim_{x\to 0} \, \frac{x-\sin x}{\sin x (1-\cos x)}=\lim_{x\to 0}\frac{1-\cos x}{\cos x-\cos^2x+\sin^2x}=\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{-\sin x-2\cos x(-\sin x)+2\sin x\cos x}$$
$$=-\lim_{x\to 0}\frac{1}{1-4\cos x}=\frac{1}{3}$$