2016年11月25日金曜日

トポロジー入門演習(第6回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今日は、位相空間や開基の問題を解いた人もいましたが、半分近くの人が
分離公理や連結性についての問題でした.

位相空間の定義が分かれば、そのほかの定義は簡単に理解できますので、
自主的に定義を読んで勉強を進めておきましょう.

また、分からない部分が出てきましたら、授業時間にいつでも質問してください.
そろそろ1/3を超えましたので、発表回数が低い人にはこちらから声をかけます.

私も、時間がありましたら、補足スライドの方も作っていく予定です.


以下では、質問にもあった、少し難しめの話です.


超空間のトポロジー

位相空間 $X$ に対して、$X$ の部分集合の族

$CL(X)=\{A\subset X|A\text{は $X$ の閉集合}\}$
$2^X=\{A\subset X|A\text{は空ではない $X$ の閉集合}\}$
$\mathcal{K}(X)=\{A\subset X|A\text{は $X$ のコンパクト集合}\}$
$\mathcal{F}(X)=\{A\subset X|A\text{は $X$ の有限集合}\}$

を考えます.これらの集合にトポロジーを導入したものを超空間(hyperspace)といいます.
これ以降、$X$ はハウスドルフ $T_2$ 空間であると仮定します.
なので、任意の一点集合は、閉集合です.

ちなみに、上で書いたように、数学でよく言われる、○○の族というのは、単に集まりを指し、○○を満たすもの全てもってきた集合というわけではありません。

超空間に入るトポロジーはいくつかあります.

代表的なものは、ハウスドルフ距離(ハウスドルフ位相)とヴィエトリス位相(ヴィエトリストポロジー)や、フェル位相(フェルトポロジー)があります.

ハウスドルフ距離位相(Hausdroff metric space)

この距離は、以下のようにして定義します。
$(X,\rho)$ を距離空間とする.$\sup(\rho(x,y)|x,y\in X\}<\infty$ を満たすとき、有界距離空間という.

有界距離空間 $(X,\rho)$ に対して、
$A,B\in 2^X$ とする.

$$\rho_H(A,B)=\max\{\sup\rho(a,B),\rho(b,A)\}$$

として、$2^X$ に対して距離空間 $\rho_H$ とします.
これは、$X$ 上の閉集合上の距離ですが、一般に、コンパクト距離空間の間の距離として、微分幾何で使われる、グロモフハウスドルフ距離があります.
これは、
$X_1,X_2$ をコンパクト距離空間とすると、$\phi_i:X_i\to X$ を等長埋め込みとし、
$$d_{GH}(X_1,X_2)=\inf_{X,\phi_1,\phi_2}\rho_X(\phi_1(X_1),\phi_2(X_2))$$
としたものをグロモフハウスドルフ距離といいます.
ここで、下限は、距離空間 $X$ と等長埋め込み全体にわたった距離になり、
これにより、コンパクト距離空間全体の等長を同値関係にした空間上の距離となります.
つまり、$d_{GH}(X_1,X_2)=0$ ならば、$X_1$ $X_2$ は等長な距離空間となります.

距離空間 $X_1,X_2$ が等長であるとは、$X_1$ から $X_2$ の間に距離を保つような全単射が存在することです.


ヴィエトリス位相(Vietoris topology)

ヴィエトリス位相とは、 $2^X$ 上の位相

$U_1,\cdots, U_n$ を $X$ の開集合とします.
$$\langle U_1,\cdots, U_n\rangle=\{B\in 2^X|B\subset \cup_{i=1}^nU_i, B\cap U_i\neq \emptyset\}$$
を位相空間のベースとするような位相です.これは、$X$ が距離空間でなくても定義できるのが特徴です.

$\mathcal{K}(X)$ や $\mathcal{F}(X)$ は、$2^X$ の部分空間としてのトポロジーを誘導することが
でき、それらを一般に超空間といいます.

ここで、超空間上に成り立つトポロジーの基本的な性質をまとめておきます.

  1. $\langle U_1,\cdots,U_m\rangle \cap \langle V_1,\cdots,V_n\rangle=\langle U_1\cap V,\cdots,U_m\cap V,U\cap V_1,\cdots, U\cap V_n\rangle$
    ここで、$U=\cup_{i=1}^mU_i$, $V=\cup_{i=1}^nV_i$ とします.
  2. $\langle U_1,\cdots,U_m\rangle \subset \langle V_1,\cdots,V_n\rangle$ であることは、$\cup_{i=1}^mU_i\subset \cup_{i=1}^nV_i$ かつ 任意の $i$ に対して、ある $j$ が存在して、$U_j\subset V_i$
  3. $\langle U_1,\cdots,U_m\rangle$ のVietoris 位相の閉包は $\langle \overline{U_1},\cdots,\overline{U_m}\rangle$ と一致する.
  4. $\mathcal{U}$ を $X$ の被覆であれば、$\langle \mathcal{U}\rangle=\{\langle U_1\cdots,U_k\rangle| U_1,\cdots,U_k\in \mathcal{U},k\in{\mathbb N}\}$ は $\mathcal{K}(X)$ の被覆
  5. $\mathcal{U}$ を $X$ の開基であれば、$\langle \mathcal{U}\rangle=\{\langle U_1\cdots,U_k\rangle| U_1,\cdots,U_k\in \mathcal{U},k\in{\mathbb N}\}$ は $\mathcal{K}(X)$ の開基
  6. $\hat{X}=\{\{x\}|x\in X\}$ は $2^X$ で閉集合.$\mathcal{F}(X)$ は、$2^X$ で稠密
  7. $f:X\to Y$ を写像とする.このとき、以下のように、$f^\ast$, $f^{-1\ast}$, $f^{-1\ast\ast}$ を以下のように定義できる.
    $f^\ast:\mathcal{K}(X)\to \mathcal{K}(Y)$ を $f^\ast(E)=f(E)$
    $f^{-1\ast}:Y\to 2^X$ を $y\in Y$ に対して $f^{-1\ast}(y)=f^{-1}(y)$
    $f^{-1\ast\ast}:CL(Y)\to 2^X$ を $f^{-1\ast\ast}(E)=f^{-1}(E)$
  8. $f^\ast$ が連続であることと $f$ が連続であることは同値.
    $f^{-1\ast}$ が連続であることと、$f$ が開かつ閉でることと同値.
    $f^{-1\ast\ast}$ が連続であることと、$f^{-1\ast}$ が連続であることと同値.
問題として、
$X$ の性質はどのようにして、$2^X$ $\mathcal{K}$, $\mathcal{F}(X)$ 上の性質に引き継がれるか?

が挙げられますが、これまで、分かっているよく知られている事柄を挙げると、以下のものがあります.

$X$ が正則であることは、$2^X$ がハウスドルフと同値こと.
$X$ が完全正則 $T_{3\frac{1}{2}}$ であることは、$2^X$ が ストーン空間であることと同値.
$X$ が正規であることは、$2^X$ が完全正則であることと同値であり、それは $2^X$ が正則であることも同値.
$X$ はコンパクトであることは、$2^X$ がコンパクトであることと同値.
$X$ がコンパクト距離付け可能であることは、$2^X$ がコンパクト距離づけ可能であることと同値であり、$2^X$ が距離づけ可能であることと同値.

コンパクト距離空間上の Vietoris 位相は、ハウスドルフ距離位相と同値.

次の性質は、$X$ と $\mathcal{K}(X)$ 上において同値となる.

ハウスドルフ性、ストーン空間、コンパクトハウスドルフ、距離化可能性、0次元、
完全非連結、第二可算.

また、演習問題であった、のは、やはり、$X$ が $T_1$ ならば、$2^X$ が $T_1$ であるという命題で、よく知られており、$X$ に $T_1$ が仮定されないと証明できないようです.下の Michaelの論文でも $T_1$ は仮定していますね.
もちろん、この記事のように、ハウスドルフを仮定してもよいですが、上の同値関係は、$T_1$ であれば成り立ちます.(Michaelの論文)

$X$ が $T_1$ であれば、$X$ がコンパクトであることと、$2^X$ が正規であることは同値.(Velichko)

ストーン空間とは、一般に、コンパクトハウスドルフ0次元な位相空間のこと.
ストーン自身については、距離空間がパラコンパクトであることを
証明した偉いトポロジスト.トポロジーへの招待(寺澤順著)にも出てきます.

フェル位相(Fell topology)
$X$ の任意の開集合 $V$ に対して、$\{A\in 2^X|A\cap V\neq \emptyset\}$ を準開基
とする $2^X$ 上の位相のこと.
この空間の開集合は、ヴィエトリス位相の開集合として含まれるので、一般にフェル位相はヴィエトリス位相より弱い位相ということになります.


参考文献
  • Edited by K.P. Hart, J. Nagata and J. E. Vaughan, Encyclopedia of General topology, Elsevier
  • E.A. Michael, Topologies on spaces of subsets, Trans. Amer. Math. Soc. 71 (1951)152-182
  • 寺澤順, トポロジーへの招待, 日本評論社
  • N. V. Velichko, On the space of closed subsets, Siberian Math. J. 16 (1975) 484–486

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