2016年12月29日木曜日

微積分II演習(化学類)(第8回)

[場所1E102(水曜日4限)]

配付プリント
HPに行く

今回は、円盤上の積分をやりました.
つまり、極座標を使って変換するやり方です.
基本は変数変換を置換積分を行うのですが、式を書いておけば、
$D$が原点を中心とした半径 $r_0$ の円盤だとすると、
$D$ 上の積分は、$E=[0,2\pi)\times [0,r_0]$ 上の積分となり、

$$\int\int_Df(x,y)dxdy=\int\int_Ef(r\cos\theta,r\sin\theta)rdrd\theta=\int_0^{2\pi}\left(\int_0^{r_0}f(r\cos\theta,r\sin\theta)rdr\right)d\theta$$
となります.つまり、極座標変換のヤコビアンは $r$ というわけです.
極座標のヤコビアンは $r$ です.証明をしておけば、

$x=r\cos\theta=\varphi(r,\theta)$
$y=r\sin\theta=\psi(r,\theta)$
とすると、ヤコビ行列は
$\begin{pmatrix}\varphi_r&\varphi_\theta\\\psi_r&\psi_\theta\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\theta&-r\sin\theta\\\sin\theta&r\cos\theta\end{pmatrix}$
であり、行列式をとれば、$\cos\theta\cdot r\cos\theta-(-r\sin\theta\cdot \sin\theta)=r(\cos^2\theta+\sin^2\theta)=r$
となります.

授業中にやった計算をもういちどやっておきます.

$D=\{(x,y)|0\le x\le 1,0\le y\le x\}$
$\int\int_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dxdy$ です.

例題8-2(1) 
置換積分を用いて累次積分を行う方法です.
三角形領域で、まず、$x$ を先に積分し、あとで、$y$ で積分します.
なので、$y$ を固定して考えると、$D$ とぶつかる線分は、$y\le x\le 1$ となります.

なので、積分は、
$$\int_0^1\left(\int_y^1\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dx\right)dy$$
と累次積分の形になります.

$x=y\tan\theta$ として変数変換をすると、
$dx=\frac{y}{\cos^2\theta}d\theta$ なので、
$$\int\int_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dxdy=\int_0^1\left(\int_y^1\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dx\right)dy$$
よって、
$$\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\frac{1}{\sqrt{(\tan^2\theta)y^2+y^2}}\frac{y}{\cos^2\theta}d\theta\right)dy$$
$$=\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\cos\theta\cdot\frac{1}{\cos^2\theta}d\theta\right)dy=\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\frac{d\theta}{\cos\theta}\right)dy\ \ \ (\ast)$$
ここで、$\int\frac{d\theta}{\cos\theta}$ を計算しておきます.(積分定数は省略します.)

$$\int\frac{d\theta}{\cos\theta}=\int\frac{\cos\theta d\theta}{\cos^2\theta}=\int\frac{\cos\theta d\theta}{1-\sin^2\theta}$$
$\sin\theta=s$ とおけば、上の式は以下のように計算できます.
下の計算で、最後に逆双曲線関数の公式を用いました.つまり、$\text{Arsinh}(x)$ は$y=\sinh(x)=\frac{e^x-e^{-x}}{2}$ の逆関数で、$(\text{Arsinh}(x))’=\frac{1}{\sqrt{1+x^2}}$ となります(この微分は後で使います).
$$\int\frac{1}{1-s^2}ds=\frac{1}{2}\int\left(\frac{1}{1-s}+\frac{1}{1+s}\right)ds$$
$$=\frac{1}{2}\left(-\log(1-s)+\log(1+s)\right)=\frac{1}{2}\log\frac{1+s}{1-s}=\frac{1}{2}\log\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}$$
$$=\frac{1}{2}\log\frac{(1+\sin\theta)^2}{1-\sin^2\theta}=\log\frac{1+\sin\theta}{\cos\theta}=\log(\tan\theta+\sqrt{\frac{1}{\cos^2\theta}})$$
$$=\log(\tan\theta+\sqrt{1+\tan^2\theta})=\text{Arsinh}(\tan\theta)$$
となります.
つまり、$\frac{1}{\cos x}dx$ の原始関数は $\text{Arsinh}(\tan x)$ であることがわかりました.
特に、$\text{Arsinh}(\tan x)$ は次のような簡単な積分表示ができるということになります.
$$\text{Arsinh}(\tan x)=\int_0^x\frac{d\theta}{\cos\theta}$$


よって上の式 ($\ast$) に入れてやると、
$$\int_0^1\left(\int_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}\frac{d\theta}{\cos\theta}\right)dy=\int_0^1\left[\text{Arsinh}(\tan\theta)\right]_{\frac{\pi}{4}}^{\text{Arctan}(\frac{1}{y})}dy$$
$$=\int_0^1\left(\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)-\text{Arsinh}(1)\right)dy=\int_0^1\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)dy-\text{Arsinh}(1)$$
部分積分をすることで、
$$=\left[y\cdot\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)\right]_0^1-\int_0^1y\frac{-\frac{1}{y^2}}{\sqrt{1+\frac{1}{y^2}}}dy-\text{Arsinh}(1)$$
$$=-\lim_{y\to 0}\left(y\cdot\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)\right)+\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1+y^2}}dy$$

ここで、ロピタルの定理を用いて、$\lim_{y\to 0}\left(y\cdot\text{Arsinh}\left(\frac{1}{y}\right)\right)=\lim_{z\to \infty}\frac{\text{Arsinh}(z)}{z}=\lim_{z\to \infty}\frac{\frac{1}{\sqrt{1+z^2}}}{1}=0$

なので、上の積分は、
$$=\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1+y^2}}dy=\text{Arsinh}(1)$$
となります.
ここで、逆双曲線関数の積分表示 $\text{Arsinh}(x)=\int_0^x\frac{1}{1+y^2}dy$ を使いました.
この逆双曲線関数の値は、上の公式をもう一度用いれば、
$$\text{Arsinh}(1)=\log(1+\sqrt{2})$$
と、すこし具体的な値(よく知っている形)になりました.


例題8-2(2)

極座標表示による変数変換を用いて行うやリ方です.
$x=\cos\theta, y=\sin\theta$ とすると、
この三角形内の、原点からの線分で、
$0\le \theta\frac{\pi}{4}$ かつ、$0\le r\le l$ となります.
ここで、$l$ は、上の図の線分の長さですが、$\theta$ の式で書けば、
$l=\frac{1}{\cos\theta}$ となります.

$$\int\int_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dxdy=\int_0^{\frac{\pi}{4}}\int_0^{\frac{1}{\cos\theta}}\frac{1}{r}rdrd\theta=\int_0^{\frac{\pi}{4}}[r]_0^{\frac{1}{\cos\theta}}d\theta$$
$$=\int_0^{\frac{\pi}{4}}\frac{1}{\cos\theta}d\theta=[\text{Arsinh}(\tan\theta)]_0^{\frac{\pi}{4}}=\text{Arsinh}(1)$$
と計算できます.

まとめ
この2つの計算で分かる通り、重積分では、積分の方法を変えるだけで、劇的に計算を楽にすることができる場合があります.先ずは、$(x,y)$-座標でやるか、極座標表示でやるかの選択肢があります.
今回は、領域の形からだけではなく、式の形からも考えて積分方法を考える必要があるといえると思います.

0 件のコメント:

コメントを投稿