2015年12月4日金曜日

ベクトル空間の準同型定理

ベクトル空間の商空間の続きで準同型定理について書きます.

線形写像

ベクトル空間 $V,W$ があり、その間の線形写像 $f:V\to W$ が与えられているとします.
線形写像とは、$f({\bf v}+{\bf w})=f({\bf v})+f({\bf w})$ かつ、$f(\lambda{\bf v})=\lambda f({\bf v})$
が成り立つような写像のことです.
このような線形写像のことを準同型写像と言ったりします.

準同型写像というのは、元々代数の群論という分野で使われるもののことで、
2つの群の間の写像で、$f(g_1g_2)=f(g_1)f(g_2)$ という条件を満たすもののことを指します.
群については、このブログ上のこの記事(←ここ)にも書きましたが、2項演算(積)が定義されており、
その他もろもろの性質 (結合律、単位元の存在、逆元($g$ に対して $g^{-1}$ が存在する))
を満たすものです.

ベクトル空間も、実は群のひとつです.
群としての2項演算を和だとして定義すると、和は可換なので、結合律が自然に成り立ち、
単位元(ゼロベクトル)の存在、
逆元(${\bf v}$ に対して $-{\bf v}$ の存在)です.
ですので、線形写像は準同型写像と言ってもよいわけです.

また、$\text{Ker}(f)$ を $f$ により、$0$ に行くような $V$ の部分空間のことをいいます.
また、$\text{Im}(f)$ は、$W$ の部分空間で、$f$ の像となっているものをいいます.
集合の言葉で書けば、
$$\text{Ker}(f)=\{{\bf v}\in V|f({\bf v})=0\}$$
$$\text{Im}(f)=\{f({\bf v})\in W|{\bf v}\in V\}$$
となります.
これらは、自然に、$V,W$ の部分ベクトル空間です.


準同型定理

まずは、準同型定理を述べておきます.

定理(準同型定理)
線形写像 $f:V\to W$ に対して、
$$V/\text{Ker}(f)\cong \text{Im}(f)$$
が成り立つ.


ということです.
ここで、$\cong$ は2つのベクトル空間が同型であることを意味します.
$V/\text{Ker}(f)$ は部分ベクトル空間 $\text{Ker}(f)$ による商空間です.

よって、特に $V,W$ が有限次元ベクトル空間の場合、両辺は次元が等しくなりますから、
$\dim(V/\text{Ker}(f))=\dim\text{Im}(f)$ が成り立ちます.

商空間の次元の計算式を使って、$\dim(V)-\dim(\text{Ker}(f))=\dim\text{Im}(f)$ となりますが、
この右辺は $\text{rank}(f)$ (線形写像のランク)で、$\dim\text{Ker}(f)=\text{null}(f)$ は
線形写像の退化次数といいます.
つまり、
$$\text{null}(f)+\text{rank}(f)=\dim(V)$$
という線形写像におなじみの次元等式となります.

この準同型定理が意味しているのは、さらにあります.
$f:V\to W$ という線形写像は自然に、$\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to W$ を定義しており、
この写像の値域を $\text{Im}(f)$ に制限したものを同じ $\tilde{f}$ で表すと、上の同型写像
$$\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to \text{Im}(f)$$
が作れるということです.


準同型定理の証明

まずは、$f:V\to W$ が自然に線形写像 $\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to W$ が存在する、
というのは、次のような意味です.

写像の定義

$\tilde{f}$ を $\tilde{f}([{\bf v}])=f({\bf v})$ と定義します.
これが自然に定義されるという意味です.
この定義がwell-definedかどうかということがこの定理の最重要なポイントです.

つまり、代表元を取り替えてもこの定義でうまくいっているかどうかを示します.

Well-defined性

$[{\bf v}]=[{\bf w}]$ とします.つまり、${\bf w}-{\bf v}={\bf u}\in \text{Ker}(f)$ が成り立ちます.
$[\cdot]$ の書き方については、こちらの記事もしくは教科書をみてください.
よって、
$$\tilde{f}([{\bf w}])=f({\bf w})=f({\bf v}+{\bf u})=f({\bf v})+f({\bf u})=f({\bf v})=\tilde{f}([{\bf v}])$$
となります.
つまり、代表元を取り替えても、同じ元に写ることがわかりました.

よって、$\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to W$ は写像が定義できたことになります.

線形写像であること

この写像が線形であることを示すと、

$$\tilde{f}([{\bf v}]+[{\bf w}])=\tilde{f}([{\bf v}+{\bf w}])=f({\bf v}+{\bf w})=f({\bf v})+f({\bf w})=\tilde{f}([{\bf v}])+\tilde{f}([{\bf w}])$$
$$\tilde{f}(\lambda[{\bf v}])=\tilde{f}([\lambda{\bf v}])=f(\lambda{\bf v})=\lambda f({\bf v})=\lambda\tilde{f}([{\bf v}])$$
この一つ一つのイコールは、商空間のベクトル空間の定義、上の写像 $\tilde{f}$ の定義などを一つずつ
使ったものです.
全てのイコールの意味を考えながら進んで下さい.

線形写像 $\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to W$ が定義できました.

単射性

次に、$\text{f}:V/\text{Ker}(f)\to W$が単射であることを示します.
線形写像が単射であることは、$0$ の逆像が $0$ であることを示せばよいです.
つまり、$\text{Ker}(\tilde{f})=\{0\}$ です.

$\tilde{f}([{\bf v}])=0$ とすると、$\tilde{f}$ の定義から、$\tilde{f}([{\bf v}])=f({\bf v})=0$
となり、${\bf v}\in \text{Ker}(f)$ となります.つまり、$[{\bf v}]=[0]$ となり、$[0]$ 
は $V/\text{Ker}(f)$ のゼロベクトルです.

これは、$\tilde{f}$ が単射であることを意味しています.

全射性

値域を $\text{Im}(f)$ に制限すれば、$\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to \text{Im}(f)$ は全射になります.



ゆえに、$\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to \text{Im}(f)$ は同型写像ということになり、
$V/\text{Ker}(f)\cong \text{Im}(f)$ が成り立ちます.



最後だけ取り出せば、
もし単射線形写像 $f:U\to W$ があれば、$U\cong \text{Im}(f)$ となるということです.
単射でなければ、さらに、$U$ を $\text{Ker}(f)$ で商をとればよいということになり、
準同型定理を意味します.

例や使い方など

例1

$f:{\mathbb C}[x]\to {\mathbb C}[x]_n$
を、多項式 $p(x)\in {\mathbb C}[x]$ に対して、$p(x)$ の $n$ 次以下の部分をとる写像とします.
つまり、$m>n$ のとき、
$$a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_mx^m\mapsto a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_nx^n$$
$m\le n$の場合は恒等写像という写像です.
テイラー展開の $n$ 次以下の部分の項という言い方もできます.

このとき、$f$ は線形写像です(証明はしませんが).
この $f$ は全射であり、$\text{Ker}(f)=\{a_{n+1}x^{n+1}+a_{n+2}x^{n+2}+\cdots+a_mx^m|a_i\in {\mathbb K}\}$
です.これを $W$ とすると、
${\mathbb C}[x]/W\cong{\mathbb C}[x]_n$
なる同型写像が成り立ちます.


例2

$V/W$ という商空間とします.
ここで、$W\subset V$ は部分空間ですので、$W$ を連立一次方程式の解空間とするベクトル空間を作ることができます.
(その作り方は、数ベクトル空間の場合に演習の授業でやりましたね.)

つまり、$V\to {\mathbb K}^r$ となる線形写像で、$\text{Ker}(f)=W$ となります.
作り方により、$f$ は全射になります.

準同型定理から、同型 $\tilde{f}:V/\text{Ker}(f)\to{\bf K}^r$ が成立します.
これにより、$V/W\cong {\mathbb K}^r$ という数ベクトル空間が構成できることになります.


$V={\mathbb R}^3$, $W=\langle {}^t(2,3,-1)\rangle$
のときに、$V/W$ と同型となるような自然な線形写像を作ります.

$W$ を線形写像の解空間となるような線形写像を作ると、
$\begin{pmatrix}2&3&-1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&3/2&-1/2\end{pmatrix}$
なる簡約化を使って、$x_1=c, x_2=3c/2, x_3=-c/2$ となり、代入して、
$x_2=3x_1/2, x_3=-x_1/2$ となる2つの式がでるので、これを行列でかけば、
$\begin{pmatrix}3&-2&0\\1&0&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}={\bf 0}$
となります.
$A=\begin{pmatrix}3&-2&0\\1&0&2\end{pmatrix}$ とおけば、
$L_A:V\to {\mathbb R}^2$ なる線形写像を使って、$W=\text{Ker}(L_A)$ となり、$\text{rank}(A)=2$ なので、$L_A$ は全射となります.
よって、自然な同型写像 $\tilde{L_A}:V/W\to {\mathbb R}^2$ が作られたことになります.

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