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2015年10月5日月曜日

群について

代数学の群の話です.


まずは定義

定義を書きます.

集合 G があって、その集合に、2項演算 \cdot が定義されており、
この演算で閉じているとします.つまり、任意の g,h\in G に対して、この演算による
積が g\cdot hG の元になっているとします.

このことを積によって閉じているといいます.この閉じているという操作が代数学では重要となります.

さらにこの積が以下を満たすとき、 Gといいます.
  1. f\cdot(g\cdot h)=(f\cdot g)\cdot h  を満たす.
  2. e\cdot g=g\cdot e=g を満たすe\in G が存在する.
  3. g\in G に対してg\cdot g^{-1}=g^{-1}\cdot g を満たす g^{-1}\in G が存在する.
2. の e のことを 単位元 といい、3. にある g^{-1}g逆元 といいます.

さらに、群の特徴のひとつとして、逆元が取れることがあります.



定義から

便宜上ここでは群の元のことを操作ということにします.
1. は掛け算の仕方は順番さえ変えなければ、どこから掛けても同じということを言っています.
2. は何もしない操作が含まれていることを言っています.
3. は逆の操作も含まれていることを言っています.


群が存在するところ


もの(集合)を動かすときは、

動かすもの、動かされるもの

をセットにして考えます.群というのは、動かすもの(前者)の方です.

何かが動いているとき、何かを動かしている方が群の存在するところです.
大抵は動いているものに目を奪われがちですが、動かす仕組みの方に、焦点を当てるのです.動動かす仕組みがわかれば、その働きがわかるということなのです.

数学では、群によって集合を動かすことを、作用といいます.
集合 X を群 G を使って動かすことを GX への作用といいます.


群の大事なところ

また、群の哲学は、群を調べるとき、個々の動き方だけではなく、その群全体が大事であるということです.
群(Group)という名称も、群はその集団(全体)としての動きが重要であるということを意味しています.

その哲学がまさに生きたのが、群論を創り出したガロアによる、ガロア理論です.
ガロア理論が出てくる源泉についてはコチラに書きました.

方程式が如何様に解けるのかということを見るためには、ガロア群の個々の操作を見るのではなく、ガロア群の群全体としての動き(構造)を見ることが重要であるというのです.


可換性と非可換性

群が可換であるとは、任意の元 g,h\in G に対して、
gh=hg
を満たすことです.そのような群は可換群、またはアーベル群といいます.そうでない群は非可換群または、非アーベル群といいます.

非可換性は、ここでいう、群全体の構造の複雑さに関係があります.

g\in G に対して、g^n=e となる最小の正の整数 n のことを g の位数といいます.
G が可換群であるとします.そうすると、その群は、個々の元の位数によって全て決定されます.

しかし、非可換群の場合はそうではありません.


ガロア群が可換群である場合、その方程式はべき根を使って表示することができますが、非可換群の場合にはその積の順番を変えたときにどのように変化するかを詳細に見る必要があります.その差がさらに可換群であるなら、方程式はべき根を使って解くことができます.



生成元

G の生成元の集合 S とは、任意の G の元 gS のいくつかの積によって書けることをいいます.つまり、生成元 x_i\in S を幾つかとってこれば、任意の元 g
g=x_1^{n_1}x_2^{n_2}\cdots x_m^{n_m}
のように書き表されます.ここで、n_1,\cdots,n_m はある整数です.
ベクトル空間における基底のようなものです.しかし、基底のように表し方が一意である必要はありません.普通は生成元の間には関係式が存在します.

位数

G の位数とは、その群の中に入っている、操作の数のことをいいます.


対称群

対称群とは、群の例の中で、もっとも最初にでてくるものです.
定義は、1 から n までの数字を並び替えるという操作をする群です.
上の、動かすものと、動かされるものの構図でいうと、

対称群 が動かすもの
\{1,..., n\} が動かされるもの

です.群を集合として書くと、
\{\sigma|\sigma:\{1,\cdots,n\}\to \{1,\cdots,n\}:\text{ 全単射 }\}
となります.対称群が集合 \{1,...,n\} に作用していることになります.
これを n 次対称群といい、 S_n と表すのが一般的です.
また、対称群のひとつの元を置換ということがあります.

n 枚のカードを並び替えるというシャッフルの群です.あるカードのシャッフルのさせ方がある対称群の元に対応します.

対称群の元はカードからカードへの全単射を表しますので、それを \sigma とすると
つまり、
i 番目のカード → \sigma(i) 番目のカード
シャッフルをしてもカードは増えたり減ったりしませんし、k 番目にはたった一つのカードしかこれませんから、この写像は全単射となります.

群の積 \cdot は、写像としての合成を取ります.
これは、シャッフルを続けて行うことを意味します.
記号としては、\sigma,\tau\in S_n とするとき、\sigma\cdot \tau\sigma\cdot\tau(i)=\sigma(\tau(i)) として表します.また、
\sigma の表し方として、\sigma(k)=i_k となる置換を、記号として、
\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3&\cdots&n\\i_1&i_2&i_3&\cdots&i_n\end{pmatrix}
と書くことがあります.

ちょっと高度な内容ですが、こちらに対称群の自己同型群について書いたことがあります.


巡回群

位数が n の巡回群 C_n とは、正 n 角形を用意し、それを 平面上動かして、再び同じ正 n 角形の位置に合わせる操作の群です.つまり、

位数 n の巡回群が動かすもの
n 角形が動かされるもの

です.積は、操作の合成とします.

n 角形の頂点に 0,1,2,,...,n-1 と番号を振っていったとき、この操作で、0 の行き先は n 種類あります.そして、その他の頂点はその位置関係から自動的に決まってしまいます.1は0の隣、2は0の隣のとなり....という風に.

そうすると、C_n の操作の個数が n 個だけあることがわかります.

この操作は、たとえば、0 の行き先を k としたとき、そのような操作は 角度 2k\pi/n だけ回転させたものと同じであることがわかると思います.

つまり、巡回群 C_n の操作はすべて回転によって表されます.

このとき、C_n を回転する角度だけ書けば、
0, 2\pi/n,\ 4\pi/n,\ 6\pi/n,\ \ ....,  (n-1)2\pi/n
となります. つまり C_n の元の個数は n で、それぞれは、2k\pi/n だけの回転となるのです.

この群の生成元は、2\pi/n 回転の操作です.この回転を何回かしてやると、全ての位数 n の巡回群の元を作ることができます.

また、上の角度を、下のように生成元の倍数だけを簡略化して書くと、

0,1,2,\cdots,n-1

のようになります.つまり、C_n の元はこの n この整数と思っても問題ないことになります.
このとき、群の積は、この整数同士の足し算になります.つまり、
4\pi/n 回転と 6\pi/n 回転の積は、10\pi/n 回転の元を生みます.

よって、整数で表したときは、2+3=5 となり、整数の足し算とも符合します.
また、足し算した結果が n 以上になるときは、n で割った余りをとれば、よいこともすぐわかるでしょう.

整数の上の足し算の規則において、普通に整数として足したあと、n で割った余りを取るような規則で得られるものを {\mathbb Z}/n{\mathbb Z} と書きます.{\mathbb Z}/n{\mathbb Z} は、集合としては 0 から n-1 までの整数からなり、足し算を上のように入れたものを表します.この集合は、足し算を群の積と考えることで、群になります.

よって、この {\mathbb Z}/n{\mathbb Z} は群として C_n と全く同じ構造を持ちます.そのことを同型といいます.ちゃんと同型の定義を書きます.
G,G' が同型であるとは、全単射な写像 f:G\to G' が存在して、任意の x,y\in G に対して、
f(xy)=f(x)f(y)
が成り立つことです.つまり、群の積の構造を含めて全単射が存在することです.

C_n{\mathbb Z}/n{\mathbb Z} は同型となり、
C_n\cong {\mathbb Z}/n{\mathbb Z}
と書きます.

よって、足し算は可換ですから、位数 n の巡回群も可換となることがわかると思います.よって、群を調べるときは、この同型対応をみることで、その性質が判明することがあります.

ちなみに、正 n 角形を動かす操作として裏返しの操作もありとしてやると、この操作全体はもはや巡回群ではありません.位数 2n の非可換群になります.

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