2015年1月22日木曜日

ランダウの記号(ラージオー)

極限の記号で、以前スモールオーを書きました.
ここでは、ラージオーについて書いたあと、数列、級数の極限について書きます.
(このオーはオーではなくギリシャ文字のオミクロンだという意見もありますが、ここではオーです.)

ラージオーの定義
 
$$f(x)=O(g(x))\ \ \ (x\to a)$$
であるとは、
$$\overline{\lim}_{x\to a}|\frac{f(x)}{g(x)}|<\infty$$
となることを意味します.$\overline{\lim}$ はたとえ $|\frac{f(x)}{g(x)}|$ の極限が存在しなくても、有界であればよいということです.

また、定数倍(および有界関数)を無視して $x=a$ の近く( $a=\infty$ のときは無限大で) で漸近的に $g(x)$ に等しくなるということです.
$x$ が自然数をとる場合は、自然数の行き先は無限大しかありませんから、$(n\to \infty)$ は省略して、
$$f(n)=O(g(n))$$
として、$\overline{\lim}_{n\to \infty}|\frac{f(n)}{g(n)}|<\infty$ のことを指します.

また、$\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=1$ の場合、
$$f(x)\sim g(x)\ \ (x\to a)$$
と書きます.
これは、$f(x)$ は $x=a$ の近くで漸近的に $g(x)$ に近いということですが、その有界関数が定数 $1$ であることを言っています.つまり、比の関数の極限の値まで決定しているので $f(x)=O(g(x))$ と書くよりさらに精度が細かい書き方です.

ラージオーはスモールオー $o$ と似ていますが、スモールオーの方は、$f(x)=o(g(x))$ と書くと $f(x)$ は $g(x)$ より確実に小さい量(極限で消える)であることを保証しますが、ラージオーの場合は確実に小さい量を記述することもできますが、同等の量を記述することもできます.

それは、不等号の $<$ と $\le $ の役割に似ているともいえます.

スモールオーと同じく、$f(x)-g(x)=O(h(x))$ のとき $g(x)$ を移項して、$f(x)=g(x)+O(h(x))$ と書くこともできます.


 $\sin x=O(x)\ \ ( x\to a)$
もちろんテイラー展開を進めて
$\sin x= x-\frac{x^3}{6}+O(x^4)$ とかくこともできます.
一般に、$x=a$ でテイラー展開可能な関数に関して、
$$f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots+\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n+O((x-a)^{n+1})$$
と書くことができます.スモールオーの場合は最後は $o((x-a)^n)$ と書いていたことを思い出してください.スモールオーは $(x-a)^n$ よりは確実に小さいことを言っていただけですが、ラージオーは$(x-a)^{n+1}$ 以下くらいの微小量だと言っています.

注意点

上の例は、さらに、$\sin x\sim x$ と書くことができます.
この書き方には注意が必要で、$O$ のように移項する操作がありません.例えば
$\sin x-x=O(x^3)$ なので、$\sin x-x\sim -\frac{x^3}{6}$ と書いて意味がありますが.$x$ を移項してやると、
$\sin x\sim x-\frac{x^3}{6}$ となりますが、この $-\frac{1}{6}$ は移項する前は意味が有りましたが、$x$ を移項してしまっては、もう係数の意味がなくて、
$\sin x\sim x-\frac{x^3}{6}\sim x+x^3$
としてしまってよく、再び移項して
$\sin x-x\sim x^3$
などとなり、これは正しくないわけです.
よって、$\sim$ を使いながらむやみに移項はできないのです.

$O(x)$ と同じくより小さい量を勝手に付け加えることはできます.
つまり、$\sin x\sim x+x^3+x^5\sim x$ となるのです.


してよいこと
 ラージオーでもしてよいことは、スモールオーと同じです.
  • $x^n=O(x^n)$
  • $c\cdot O(f(x))=O(f(x))$
  • $x^nO(x^m)=O(x^{n+m})$
  • $O(x^n)O(x^m)=O(x^{n+m})$
  • $O(x^n)+O(x^m)=O(x^n)\ \ (n\le m)$


数列の $n$乗について

数列の場合にも同じようにラージオーが使えることが便利です.
$a_n=O(f(n))$ として、数列の極限の様子があたかも関数のように扱えるのが便利です.

ここで、数列に関する注意点を挙げます.(数列に関する例だけではありませんが...)
数列 $a_n=O(f(n))$ が成り立ったとするとき、数列 $a_n^n=O(f(n)^n)$ とは限らないということです.
もちろん、$a_n\sim f(n)$ ならば、$a_n^n\sim f(n)^n$ も成り立つとは限りません.
($n$ に無関係な $k$ で $a_n^k=O(f(n)^k)$ は上の公式が示すように成り立ちます.)

これは、微積分の最初に出てくるネイピア数の定義で、$a_n=1+\frac{1}{n}$ をとれば、
$a_n^n\to e$ に行きますので、$a_n^n=O(1)$ は成り立ちますが、$a_n\to 1$ に行くからと言って、$a_n^n\sim 1$ とはなっていませんね.ネイピア数を知っていれば当たり前と言えば当たり前ですが、$a_n^n$ の極限の計算を $a_n$ の極限をとってから、その後でその $n$ 乗を計算するという議論は成り立たないことになります.

この例がいうように $O$ の方は大丈夫かと思うかもしれませんがそうでもありません.

例えば、$a_n=1+\frac{1}{\sqrt{n}}$ としますと、$a_n=O(1)$ ですが、
$\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n=O(1)$ ではありません.
むしろ無限大に発散してしまいます.
つまり、
$$\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n=\infty$$
なのです.この無限を測ってみようとすると、結果
$$\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n=O(e^{\sqrt{n}})$$
となります.さらに$\sim$ を使ってみてみると、
$$\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n\sim e^{\sqrt{n}-\frac{1}{2}}$$
となります.
一般には、 $m$ 乗根をとった $a_n=1+\frac{1}{\sqrt[m]{n^{m-1}}}$ を使って計算してみると、
$m\ge 3$ のとき、
$$\left(1+\frac{1}{\sqrt[m]{n^{m-1}}}\right)^n\sim e^{\sqrt[m]{n}}$$
が成り立ちます.

$a_n=1+\frac{1}{\log n}$ のように取ってやった
$$\left(1+\frac{1}{\log n}\right)^n$$
はどのような数列に漸近されるでしょうか?

このようなことは、関数列 $f_n(x)=x^n$ が、$1$ を含む任意の区間で一様収束しないことから解釈することができます.
$x=1$ では $f_n(1)=1$ であるのに対して、$0\le x<1$ に対しては、$f_n(x)\to 0$ に各点で収束し、$x=1$で左不連続です.また、$1<x$ においては、$f_n(x)$ は各点で発散します.

ネイピア数は $1+\frac{1}{n}$ という数列をとって上から $1$ に近づきつつ、 $f_n(x)$ の値をとっています.つまり、$f_n(x)$ が一様収束しないことを利用して、発散列 $f_n(x)$ をうまく縫って何かに収束しているという状況なのです.$1$ より大きい他の値 $\alpha$ に近づきたいなら $a_n=1+\frac{\log \alpha}{n}$ などとすればよいです.$1$ より小さい正の数 $1/\alpha$ に近づくには $a_n=1-\frac{\log \alpha}{n}$ ととればよいでしょう.

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