[物理2 クラス対象(金曜日4限)]
今日は
- 行列が対角化可能であるかどうか.
- 対角化可能であるための必要十分条件.
を中心にやりました.
対角可能条件
行列 $A$ が対角化可能であるとは、ある正則行列 $P$ があって、$P^{-1}AP$ が対角行列であることである.つまり、
$$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}\lambda_1&0&\cdots &0\\0&\lambda_2&0&\cdots\\
\cdots&0&\ddots&0\\
0&\cdots&0&\lambda_n\end{pmatrix}$$
となることです.
対角化できるかどうかは、その固有値と深く関係します.
固有値は前回やったように $A{\bf v}=\lambda{\bf v}$となるゼロベクトルでないベクトル ${\bf v}$ が存在するような $\lambda$ のことです.
対角化の条件 $AP=PD$ を縦ベクトルごとに見ます.ここで、$D$ は上のような対角行列のことです.そうすると
$$A{\bf p}_i=\lambda_i{\bf p}_i$$
となるわけで、これは ${\bf p}_i$ が固有ベクトルであることを示しています.${\bf p}_i$ は正則行列 $P$ の $i$ 番目の縦ベクトルです.
もちろん $P$ は正則行列ですので、当然 ${\bf p}_i$ はゼロベクトルではありません.
よって、対角化されているとすると、${\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n$ は正則行列を作りますので、これらは基底になります.また、それぞれは固有ベクトルです.
よって、対角化出来るための必要十分条件は全て固有ベクトルであるような ${\Bbb C}^n$ 上の基底が存在することになります.必要条件は今言ったことから分かりますが、十分条件も成り立つことはわかりますね.
ところで、数ベクトル空間の線形写像の固有空間は部分空間であり、固有値が異なれば、その共通部分は ${\bf 0}$ のみです.つまり $W_\lambda\cap W_\eta=\{\bf 0\}$ $\lambda\neq \eta$ が成り立ちます.
つまり、$\{\lambda_1,\cdots,\lambda_r\}$ が全ての固有値とすると、
$$W_{\lambda_1}+W_{\lambda_2}+\cdots+W_{\lambda_r}$$
は ${\Bbb C}^n$ の部分ベクトル空間ですが、特に、
$$W_{\lambda_1}\oplus W_{\lambda_2}\oplus \cdots\oplus W_{\lambda_r}$$
となります.もちろん、一般には $r$ 個の部分ベクトル空間において、任意の2つの部分空間の共通部分が $\{\bf 0\}$ だからと言ってそれらが直和になるとは限りません.
しかし、今の場合、${\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r={\bf 0}$
が成り立つとします.ここで、 ${\bf v}_i\in W_{\lambda_i}$ とします.
$A({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r{\bf v}_r={\bf 0}$
$A^2({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1^2{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r^2{\bf v}_r={\bf 0}$
$A^3({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1^3{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r^3{\bf v}_r={\bf 0}$
$A^{r-1}({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1^{r-1}{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r^{r-1}{\bf v}_r={\bf 0}$
この $r$ 個の関係式から
$$\begin{pmatrix}{\bf v}_1&{\bf v}_2&\cdots&{\bf v}_r\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&\lambda_1&\cdots&\lambda_1^{r-1}\\1&\lambda_2&\cdots&\lambda_2^{r-1}\\\cdots&\cdots&\cdots\\1&\lambda_r&\cdots&\lambda_r^{r-1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}{\bf 0}&{\bf 0}&\cdots&{\bf 0}\end{pmatrix}$$
この行列はファンデルモントの行列式にでてきますね.
この行列が正則であることは$\lambda_1,\cdots,\lambda_r$ が全て相異なることと同値です.
ゆえに、この行列の逆行列を右から掛けてやって
${\bf v}_1=\cdots={\bf v}_r={\bf 0}$ が成り立つのです.
これは、$W_{\lambda_1}+W_{\lambda_2}+\cdots+W_{\lambda_r}$ が直和になることを意味しています.
戻りますと、${\Bbb C}^n\supset W_{\lambda_1}\oplus W_{\lambda_2}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}$
が部分空間となりますが、いつ右の部分空間が ${\Bbb C}^n$ と一致するかという条件が $A$ の対角化条件と一致します.
つまり、
定理
$A$ が対角化出来るための必要十分条件は、$\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_r$ をその固有値とし、$W_{\lambda_i}$ をその固有空間とします.このとき、
$${\Bbb C}^n=W_{\lambda_1}\oplus W_{\lambda_2}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}$$
となることである.
固有空間の基底は全てその固有値の固有ベクトルですから、その基底をとって全て並べておけば、直和の次元公式から、
$$n=\dim W_{\lambda_1}+\dim W_{\lambda_2}+\cdots+\dim W_{\lambda_r}$$
なる条件は固有ベクトルを使って$n$ 個の ${\Bbb C}^n$ の基底が作れることを意味しています.
つまり、上の対角化の条件を満たしていますよね.
また、対角化出来るためのうまい条件があります.これも演習の授業で説明しましたが、$\dim W_\lambda\ge 1$ であることを使う方法です.
十分条件
行列 $A$ の固有値が丁度 $n$ 個あるとする.$\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ であるとする.このとき、行列 $A$ はある正則行列によって対角化される.
全ての固有空間の次元の和が $n$ であればいいのですが、そもそも固有値が $n$ 個あるなら $\dim W_\lambda\ge 1$ であるから、
$n\le \dim W_{\lambda_1}+\dim W_{\lambda_2}+\cdots+\dim W_{\lambda_n}\le \dim {\Bbb C}^n=n$ であるから、
これは丁度 $\dim W_{\lambda_1}+\dim W_{\lambda_2}+\cdots+\dim W_{\lambda_n}=n$
しかないのです.
この条件は固有多項式 $\Phi_A(t)$ を見ればすぐわかるので簡単な十分条件と言えます.$\Phi_A(t)$ が相異なる $n$ 個の解をもてばよいのです.
ここまでが共通して理解しておくべきところです.(最後に、B-12-1(6) をもう一度やってあります.)
演習の授業では対角化のための他の同値条件を見ました.
これはプラスアルファの話なので理解できる人だけ学習してください.
行列 $A$ の最小多項式 $m_A(t)$ を以下のように定義します.
最高次の係数が $1$ の多項式 $f(x)$ で、 $f(A)=O$ となるものの中で最小次数のものを $m_A(t)$ とする.
上の条件は $f(x)=x^s+a_1x^{s-1}+\cdots+a_{s-1}x+a_s$ であるとき、
$f(A)=A^s+a_1A^{s-1}+\cdots+a_{s-1}A+a_sE=O$ となる多項式ということです.
ここで、$E$ は単位行列、$O$ はゼロ行列です.
実はそのような多項式 $m_A(t)$ は一意に決まり、
- $\Phi_A(t)$ を多項式として割り切ることができ、
- $A$ の全ての固有値を根として持っています.
定理
$A$ が対角化可能であるための必要十分条件は
$m_A(t)$ が重複度のない一次の $t-\lambda_i$ の積に分解されることである.
つまり、
$$m_A(t)=(t-\lambda_1)(t-\lambda_2)\cdots(t-\lambda_r)$$
となることです.このとき、ポイントは因数分解したときに $(t-\lambda_1)^2$ などの2次の項が表れないことです.
授業中扱った簡単な例でいけば、 $A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ とすると、$A$ の固有値は $1$ のみなので、$\Phi_A(t)=(t-1)^2$ です.$m_A(t)$ を求めてみると、上に書いた条件から、 $m_A(t)=t-1$ もしくは $(t-1)^2$ のどちらかになります.
同値条件から、対角化可能であるための必要十分条件は $m_A(t)=t-1$ であることです.よって $m_A(t)=(t-1)^2$ は対角化不可能を表します.これはどちらか実際に計算してみればよいです.
$t-1$ に $A$ を代入すると、$A-E=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}\neq O$ ですから、この行列は最小多項式の条件に合いません.よって $A$ は対角化不可能ということになります.
よって、$2\times 2$ 行列が対角化可能であるためには、固有値が互いに異なるか、スカラー行列かどちらかということになります.
B-12-1(6)
$A=\begin{pmatrix}1&2&1\\-1&4&1\\2&-4&0\end{pmatrix}$
とします.$\Phi_A(t)=(t-2)^2(t-1)$ となるので、固有値は$1,2$ です.固有空間を求めてみると、
$W_1=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}0&-2&-1\\1&-3&-1\\-2&4&1\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}=\left\langle\begin{pmatrix}1\\1\\-2\end{pmatrix}\right\rangle$
となり、
$W_2=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}1&-2&-1\\1&-2&-1\\-2&4&2\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}=\left\langle\begin{pmatrix}2\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}\right\rangle$
よって、次元を計算すれば、$2+1=3$ となり対角化可能となります.これらの3つのベクトルは固有ベクトルであり、${\Bbb C}^3$ の基底となります.
また、最小多項式は、
$(A-E)(A-2E)=\begin{pmatrix}0&-2&-1\\1&-3&-1\\-2&4&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2&-1\\1&-2&-1\\-2&4&2\end{pmatrix}=O$
となるので、$m_A(t)=(t-1)(t-2)$ となり、対角化の条件を満たしますね.
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