[物理2 クラス対象(金曜日4限)]
今日は
- 直交行列による対角化
- $e$の行列乗 $e^A$ の話
直交行列による対角化
対角化に関する条件において、よく用いられているのは次の定理です.
定理1
実対称行列の固有値は実数であり、直交行列によって対角化できる.
つまり、実対称行列 $A$ はある直交行列 $P$ によって、
$$P^{-1}AP=D$$
とすることができる.ただし、$D$ はある対角行列.
まず、実対称行列の固有値は実数であるということです.普通実行列であっても固有値は実数とは限りません.
また、実対称行列は対角化可能ということです.行列が対角化可能かどうかは、実対称行列であれば、行列を見て判断できるということです.また、実対称行列であることと、固有値が全て異なるかどうかは関係が有りません.
直交行列 $P$ とは、$P^t\cdot P=E$ ということです.この条件は、$P$ の列(行でもよい)ベクトルが正規直交基底となっていることと同値です.
また、定理が言っていることは、実対称行列であれば、固有空間同士は直交するということです.
つまり、$\lambda\neq \eta$ が異なる固有値であれば、
$W_\lambda\perp W_{\eta}$ であるということです.
$W_\lambda\perp W_{\eta}$ の意味は全ての ${\bf v}\in W_{\lambda},{\bf w}\in W_{\eta}$ に対して、${\bf v}\cdot{\bf w}=0$ が成り立つということです.
注意として、対角化される行列はいつでも直交行列というわけではなく、うまく正則行列をとれば、$P$ が直交行列で、 $P^{-1}AP$ が対角行列にできるということです.
対角化可能性についてまとめると、
実対称行列なら、行列だけで判断できる。
固有値が全て異なるなら、固有多項式だけで判断ができる.
一般の行列なら、固有空間の次元の総和で判断できる.
ということになります.
この定理が基本ですが、複素のヴァージョンにしたものは、以下になります.
定理2
エルミート行列の固有値は実数であり、ユニタリー行列によって対角化できる.
つまり、対角化 $P^{-1}AP=D$ のための正則行列 $P$ としてユニタリー行列が取れるということです.
エルミート行列とは、$A^\ast=A$ を満たす行列のことです.
ただし $A^\ast=\overline{A^t}$ です.
また、ユニタリー行列とは、$P^\ast P=E$ を満たす行列のことです.
実ユニタリー行列とは直交行列のことです.
定理1を実行列として当てはめると、上の定理1を意味しています.
なので、この定理は複素行列の場合を含んだ主張なのです.
行列によって対角化出来るための条件は、実対称行列だけではありません.
じつは、下のような正規行列の条件があります.
これはややこしいので授業では言いませんでした.
定義(正規行列)
$A^\ast A=AA^\ast$ を満たす行列のことを正規行列という.
定理3
あるユニタリー行列によって対角化できるための必要十分条件は行列が正規行列であることである.
対称行列やエルミート行列以外で正規行列であるものは、実交代行列や、直交行列などです.
実交代行列は $A^t=-A$ を満たす実行列のことです.
また、交代行列を複素にしたものを歪エルミート行列( $A^\ast=-A$ )といい、これも正規行列です.
直交行列やユニタリー行列も正規行列ですので対角化することができます.
また、固有値についてまとめれば、
エルミート行列(実の場合は対称行列)は固有値が実数
歪エルミート行列(実の場合は交代行列)は固有値が純虚数
ユニタリー行列(実の場合は直交行列)は固有値が絶対値 $1$ の複素数
となります.
シュミットの方法を用いた正則行列の直交化の計算例は授業でやりましたのでここでは省略します.
次は$e^{A}$ の計算ですが、これは次回の講義の準備です.
この計算は特に直交行列による対角化とは特に関係ありません.
$e^{tA}$ の計算
行列乗について
$$e^A=E+A+\frac{A^2}{2!}+\frac{A^3}{3!}+\cdots$$
と定義します.なので、
$$e^{tA}=tE+tA+\frac{t^2A^2}{2!}+\frac{t^3A^3}{3!}+\cdots$$
となります.
行列 $A$ が対角化可能である場合、
$P^{-1}AP=D$ であるとする.ここで、$D$ は対角行列であるとする.
$D=\begin{pmatrix}\lambda_1&0&0&\cdots\\0&\lambda_2&0&\cdots\\\cdots&\cdots&\cdots&\cdots\\0&\cdots&0&\lambda_n\end{pmatrix}$ であるとすると、$e^D=\begin{pmatrix}e^{\lambda_1}&0&0&\cdots\\0&e^{\lambda_2}&0&\cdots\\\cdots&\cdots&\cdots&\cdots\\0&\cdots&0&e^{\lambda_n}\end{pmatrix}$
$$e^D=e^{P^{-1}AP}=E+P^{-1}AP+\frac{(P^{-1}AP)^2}{2!}+\frac{(P^{-1}AP)^3}{3!}+\cdots$$
$$=E+P^{-1}AP+\frac{1}{2!}P^{-1}A^2P+\frac{1}{3!}P^{-1}A^3P+\cdots$$
$$=P^{-1}\left(E+A+\frac{A^2}{2!}+\frac{A^3}{3!}+\cdots\right)P=P^{-1}e^AP$$
よって、
$$e^A=Pe^DP^{-1}$$
となります.
B-13-3(1)
$A=\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}$ とすると、
$P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ とすると、$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}3&0\\0&1\end{pmatrix}$
となります.
よって、$e^{tA}=Pe^{tD}P^{-1}=P\begin{pmatrix}e^{3t}&0\\0&e^{t}\end{pmatrix}P^{-1}$
が成り立ち、
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