[数学1 クラス対象(金曜日5限)]
などをやりました。
線積分
線積分とは、平面上の曲線上に沿った、$f(x,y)dx+g(x,y)dy$ の形の$dx,dy$ つきの"関数"の積分のことです.この$dx,dy$ つきの関数をどのように解釈するかということは微積の範囲では難しいです.
普通、積分は $\int (\cdots)dx$ などと最後にまとめて $dx$ が付くのが普通ですが積分の中に $dx$ や $dy$ の1次式が入っています.
こういう形の式 $f(x,y)dx+g(x,y)dy$ を1次形式といいます.つまり、$dx$ と $dy$ の1次式で、係数が関数のものをいいます.だから2次形式とは $dx,dy$ の2次式で係数が関数の式です.このような形の式を微分形式と言います.初めて出てくるのはベクトル解析です.
筑波大の授業では、ベクトル解析と幾何(演習)などで習うのではないでしょうか?
この線積分は何かというと、曲線 $C$ をパラメータ表示 $C(t)=(x(t),y(t))\ \ (t_0\le t\le t_1)$ としておき、
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_{t_0}^{t_1}\left(f(x(t),y(t))\frac{dx}{dt}+g(x(t),y(t))\frac{dy}{dt}\right)dt$$
の値です.プリントにも書きましたが、この値は、曲線のパラメータを表示することによって計算されますが、そのパラメータの表示の方法に依らないという特徴があります.
例えば、単位円 $\{(x,y)|x^2+y^2=1\}$ なる集合上で積分する場合には、
$(\cos t,\sin t)$ で計算しようが、円を $(x,\pm\sqrt{1-x^2})$ のように2つに分けて、それぞれわけて計算しようが、線積分の値は変わらないのです.その証明はプリントに書きましたので省略します.
ただし、 $C$ には向きが入っています.事前に決めておく必要があります.$C$ の向きを逆向きにすれば、積分も $-1$ 倍になります.積分の始点と終点を逆にすれば $-1$ 倍になるようなものです.このように、向きが入った曲線のことを有向曲線といいます.
思い切ってまとめれば、1次形式の積分は(微分形式とは何かということを知る必要がありますが...)、計算するには曲線のパラメータ(座標というかその位置)の情報がいるが、値そのものにはそのパラメータには依らないのです.
パラメータの取り方に依らないということは、曲線にどのような座標が入るかということではなく、曲線がどのような形をしているかにしか依らないということです.
そうすると。。。
微分形式は座標に依らない図形の形を認識できるのではないだろうか?
このアイデアに幾何学者は萌えるわけです.
幾何学者(およびトポロジスト)は図形そのものがもつ性質に興味があります.
トポロジストとはトポロジー(位相幾何学)を専門とする研究者のことです.
図形と微分形式の関係は?
など、このような疑問は研究対象として、はっきりと成り立っています.
そのような初学者向けの有名な本として Bott (ボット) とTu(トゥー) の
「微分形式と代数トポロジー(Differential Forms in Algebraic Topology )」があります.
日本語版もあります.
この本はベクトル解析や微積分、線形代数、多様体の初歩など学んだ人
(大体大学3から4年生くらい)向けですが、大変面白い本です.
私も学生の頃にセミナーで読みました.
本のタイトルにあるように多様体上の微分形式と、多様体の幾何学的な(座標の取り方に依らない)性質に存在する関係を解き明かしていきます.
座標の取り方に依らない性質のことは、物理ではゲージ不変性と言ったりすることもあります.
少し脱線しましたので微積分に戻します.(閑話休題)
ここで計算例を与えてみます.
講義の方で $ydx+xdy$, $-ydx+xdy$ などの線積分を習ったようなので、
定義に従って、これらの単位円上での積分を計算してみます.
$$\int_0^{2\pi}(\sin t\cdot (-\sin t)+\cos t\cdot (\cos t))dt=\int_0^{2\pi}\cos(2t)dt=0$$
$$\int_0^{2\pi}(-\sin t\cdot (-\sin t)+\cos t\cdot (\cos t))dt=\int_0^{2\pi}dt=2\pi$$
グリーンの公式
グリーンの公式は上の値の意味について考えることができます.
$C$ が単純閉曲線(同じ点に戻ってくる閉じた曲線で途中で交わりがないもの)とします.
このとき、
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_D\left(\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}\right)dxdy$$
となります. $D$ は $C$ で囲まれた領域のことです.
この公式を先ほどの計算に当てはめると、
$$\int_C(ydx+xdy)=\int_D(1-1)dxdy=0$$
$$\int_C(-ydx+xdy)=\int_D(1-(-1))dxdy=2\int_Ddxdy=2\pi$$
最後のイコールは $D$ の面積(つまり半径1の円の面積)を計算していることになりますから $\int_Ddxdy=\pi$ となるわけです.
最初の計算に注目すると、この積分は、半径1でなくても、0になります.つまり、
$C_r=\{(x,y)|x^2+y^2=r^2\}$ としても、
$$\int_{C_r}(ydx+xdy)=\int_{D_r}(1-1)dxdy=0$$
です.また、$C$ が実は閉曲線であればいつでも $0$ になってしまいます.
これはどういうことかというと、微分形式 $ydx+xdy$ に秘密があります.
右辺は、$f=y,g=x$ として、$\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}$ となりますが、
もし、$(f,g)$ がある共通の関数の $F(x,y)$ の偏微分だったらどうでしょうか?
つまり、$(f,g)=\left(\frac{\partial F}{\partial x},\frac{\partial F}{\partial y}\right)$ (これは勾配ベクトル場ですね!)
とすると、グリーンの公式の右辺は、
$\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}=\frac{\partial^2 F}{\partial x\partial y}-\frac{\partial^2 F}{\partial y\partial x}$
となります.この最後の式は $F(x,y)$ が $C^2$ 級であればいつでも0になります.
つまり、線積分の $(f,g)$ がある関数の勾配ベクトルであれば、その上の任意の有向単純閉曲線の積分は0となります.
今の例の場合、$F(x,y)=xy$ が取れますね.その勾配ベクトルは、もう授業で何度もやっていますが、確かに $(y,x)$ になりました.授業でもそのベクトル場を書いたはずなので覚えている人も多いと思います.
この積分が0の現象を定理にしておけば、下のようになります.
定理
ベクトル場 $(f(x,y),g(x,y))$ がある $C^2$ 級関数 $F(x,y)$ の勾配ベクトル場 $\left(\frac{\partial F}{\partial x},\frac{\partial F}{\partial y}\right)$ に等しいとき、
$f(x,y)dx+g(x,y)dy$ の任意の有向単純閉曲線 $C$ の線積分は
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=0$$
となる.
(実はこの逆もある意味成り立つのですが....長くなるのでこれ以上は書きません.参考文献をみてください.)
プリントの例題10-4 について書いておきます.
$C$ は下の左図のような平面上の円とします.向きもつけておきます.さらに $L$ は真ん中の縦線とします.このとき、$C_1$ をこの円の左半分と $L$ からなる半月状の形の境界.$C_2$ を円の右半分と $L$ からなる半月状の形の境界とします.
$C_1,C_2$ を少し離して書いてありますが、これは図を分かりやすくするためで $C_1,C_2$ はこの $L$ で共有されています.$C_1,C_2$ には $C$ に合わせた向きが入っています.
このとき、例題10-4 は
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_{C_1}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)+\int_{C_2}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$$
となります.説明としては $C_1$ を $L$ の部分とそれ以外に分けると、
$$\int_{C_1}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_L(f(x,y)dx+g(x,y)dy)+\int_{C_1-L}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$$
となります. $C_2$ の方も同じです.そうすると、2つの $\int_L(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$ が
登場しますが、実は上の図のように向きが逆に向いています.なので、2つの $L$ 上の積分は0になって $C_1-L$ と $C_2-L$ 上の積分だけが残ります.これを2つ合わせて $C$ 上の積分が出来上がるということなのです.
この等式のミソは共有する線分において積分が相殺するというだけですから、円に限らない任意の閉曲線のこのような分割に対して成り立つことがわかります.
残りの面積分については後ほど書くことにします.
参考文献
おめでとうございます.今年最初のブログです.
去年残したところを書いていきます.
今日は
去年残したところを書いていきます.
今日は
- 線積分、グリーンの公式。
- 面積分、第一基本量
などをやりました。
線積分
線積分とは、平面上の曲線上に沿った、$f(x,y)dx+g(x,y)dy$ の形の$dx,dy$ つきの"関数"の積分のことです.この$dx,dy$ つきの関数をどのように解釈するかということは微積の範囲では難しいです.
普通、積分は $\int (\cdots)dx$ などと最後にまとめて $dx$ が付くのが普通ですが積分の中に $dx$ や $dy$ の1次式が入っています.
こういう形の式 $f(x,y)dx+g(x,y)dy$ を1次形式といいます.つまり、$dx$ と $dy$ の1次式で、係数が関数のものをいいます.だから2次形式とは $dx,dy$ の2次式で係数が関数の式です.このような形の式を微分形式と言います.初めて出てくるのはベクトル解析です.
筑波大の授業では、ベクトル解析と幾何(演習)などで習うのではないでしょうか?
この線積分は何かというと、曲線 $C$ をパラメータ表示 $C(t)=(x(t),y(t))\ \ (t_0\le t\le t_1)$ としておき、
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_{t_0}^{t_1}\left(f(x(t),y(t))\frac{dx}{dt}+g(x(t),y(t))\frac{dy}{dt}\right)dt$$
の値です.プリントにも書きましたが、この値は、曲線のパラメータを表示することによって計算されますが、そのパラメータの表示の方法に依らないという特徴があります.
例えば、単位円 $\{(x,y)|x^2+y^2=1\}$ なる集合上で積分する場合には、
$(\cos t,\sin t)$ で計算しようが、円を $(x,\pm\sqrt{1-x^2})$ のように2つに分けて、それぞれわけて計算しようが、線積分の値は変わらないのです.その証明はプリントに書きましたので省略します.
ただし、 $C$ には向きが入っています.事前に決めておく必要があります.$C$ の向きを逆向きにすれば、積分も $-1$ 倍になります.積分の始点と終点を逆にすれば $-1$ 倍になるようなものです.このように、向きが入った曲線のことを有向曲線といいます.
思い切ってまとめれば、1次形式の積分は(微分形式とは何かということを知る必要がありますが...)、計算するには曲線のパラメータ(座標というかその位置)の情報がいるが、値そのものにはそのパラメータには依らないのです.
パラメータの取り方に依らないということは、曲線にどのような座標が入るかということではなく、曲線がどのような形をしているかにしか依らないということです.
そうすると。。。
微分形式は座標に依らない図形の形を認識できるのではないだろうか?
このアイデアに幾何学者は萌えるわけです.
幾何学者(およびトポロジスト)は図形そのものがもつ性質に興味があります.
トポロジストとはトポロジー(位相幾何学)を専門とする研究者のことです.
図形と微分形式の関係は?
など、このような疑問は研究対象として、はっきりと成り立っています.
そのような初学者向けの有名な本として Bott (ボット) とTu(トゥー) の
「微分形式と代数トポロジー(Differential Forms in Algebraic Topology )」があります.
日本語版もあります.
この本はベクトル解析や微積分、線形代数、多様体の初歩など学んだ人
(大体大学3から4年生くらい)向けですが、大変面白い本です.
私も学生の頃にセミナーで読みました.
本のタイトルにあるように多様体上の微分形式と、多様体の幾何学的な(座標の取り方に依らない)性質に存在する関係を解き明かしていきます.
座標の取り方に依らない性質のことは、物理ではゲージ不変性と言ったりすることもあります.
少し脱線しましたので微積分に戻します.(閑話休題)
ここで計算例を与えてみます.
講義の方で $ydx+xdy$, $-ydx+xdy$ などの線積分を習ったようなので、
定義に従って、これらの単位円上での積分を計算してみます.
$$\int_0^{2\pi}(\sin t\cdot (-\sin t)+\cos t\cdot (\cos t))dt=\int_0^{2\pi}\cos(2t)dt=0$$
$$\int_0^{2\pi}(-\sin t\cdot (-\sin t)+\cos t\cdot (\cos t))dt=\int_0^{2\pi}dt=2\pi$$
グリーンの公式
グリーンの公式は上の値の意味について考えることができます.
$C$ が単純閉曲線(同じ点に戻ってくる閉じた曲線で途中で交わりがないもの)とします.
このとき、
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_D\left(\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}\right)dxdy$$
となります. $D$ は $C$ で囲まれた領域のことです.
この公式を先ほどの計算に当てはめると、
$$\int_C(ydx+xdy)=\int_D(1-1)dxdy=0$$
$$\int_C(-ydx+xdy)=\int_D(1-(-1))dxdy=2\int_Ddxdy=2\pi$$
最後のイコールは $D$ の面積(つまり半径1の円の面積)を計算していることになりますから $\int_Ddxdy=\pi$ となるわけです.
最初の計算に注目すると、この積分は、半径1でなくても、0になります.つまり、
$C_r=\{(x,y)|x^2+y^2=r^2\}$ としても、
$$\int_{C_r}(ydx+xdy)=\int_{D_r}(1-1)dxdy=0$$
です.また、$C$ が実は閉曲線であればいつでも $0$ になってしまいます.
これはどういうことかというと、微分形式 $ydx+xdy$ に秘密があります.
右辺は、$f=y,g=x$ として、$\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}$ となりますが、
もし、$(f,g)$ がある共通の関数の $F(x,y)$ の偏微分だったらどうでしょうか?
つまり、$(f,g)=\left(\frac{\partial F}{\partial x},\frac{\partial F}{\partial y}\right)$ (これは勾配ベクトル場ですね!)
とすると、グリーンの公式の右辺は、
$\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}=\frac{\partial^2 F}{\partial x\partial y}-\frac{\partial^2 F}{\partial y\partial x}$
となります.この最後の式は $F(x,y)$ が $C^2$ 級であればいつでも0になります.
つまり、線積分の $(f,g)$ がある関数の勾配ベクトルであれば、その上の任意の有向単純閉曲線の積分は0となります.
今の例の場合、$F(x,y)=xy$ が取れますね.その勾配ベクトルは、もう授業で何度もやっていますが、確かに $(y,x)$ になりました.授業でもそのベクトル場を書いたはずなので覚えている人も多いと思います.
この積分が0の現象を定理にしておけば、下のようになります.
定理
ベクトル場 $(f(x,y),g(x,y))$ がある $C^2$ 級関数 $F(x,y)$ の勾配ベクトル場 $\left(\frac{\partial F}{\partial x},\frac{\partial F}{\partial y}\right)$ に等しいとき、
$f(x,y)dx+g(x,y)dy$ の任意の有向単純閉曲線 $C$ の線積分は
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=0$$
となる.
(実はこの逆もある意味成り立つのですが....長くなるのでこれ以上は書きません.参考文献をみてください.)
プリントの例題10-4 について書いておきます.
$C$ は下の左図のような平面上の円とします.向きもつけておきます.さらに $L$ は真ん中の縦線とします.このとき、$C_1$ をこの円の左半分と $L$ からなる半月状の形の境界.$C_2$ を円の右半分と $L$ からなる半月状の形の境界とします.
$C$, $L$,$C_1,C_2$ の例 |
このとき、例題10-4 は
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_{C_1}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)+\int_{C_2}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$$
となります.説明としては $C_1$ を $L$ の部分とそれ以外に分けると、
$$\int_{C_1}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_L(f(x,y)dx+g(x,y)dy)+\int_{C_1-L}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$$
となります. $C_2$ の方も同じです.そうすると、2つの $\int_L(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$ が
登場しますが、実は上の図のように向きが逆に向いています.なので、2つの $L$ 上の積分は0になって $C_1-L$ と $C_2-L$ 上の積分だけが残ります.これを2つ合わせて $C$ 上の積分が出来上がるということなのです.
この等式のミソは共有する線分において積分が相殺するというだけですから、円に限らない任意の閉曲線のこのような分割に対して成り立つことがわかります.
残りの面積分については後ほど書くことにします.
参考文献
- Bott and Tu. Differential Forms in Algebraic Topology, Graduate Texts in Mathematics, Springer
- ボット・トゥー, 微分形式と代数トポロジー, シュプリンガー・フェアラーク東京
0 件のコメント:
コメントを投稿