2015年1月30日金曜日

第12回線形代数II演習のレポートの注意点

前回の宿題について、

C-12-1

解答の流れ
  1. 実対称行列かどうか、チェック.違うので、とりあえず固有多項式を求めてみる.
    (もしそうなら対角化可能.ユニタリー行列でも同じ.)
  2. 固有多項式を求めてみると、$|tE-A|$ は3次多項式であり、相異なる3つの根をもつかどうか.チェック.違うので、固有空間の次元を求めてみる.
    (もし相異なる固有値が多項式の次元分出てきたら対角化可能となる.)
  3. 固有値は $2,-1$ であるので、それぞれ、固有空間 $W_{-1},W_2$ の次元を求める.
  4. 連立一次方程式を解いて、$\dim W_{-1}=1, \dim W_2=1$ ですので、$1+1\neq 3$ となり、対角化出来ないことになります.

対角化可能性について、レポートの解答に関してコメント
  • 固有多項式が重解をもつからといって対角化できないとはかぎりません.
  • 線形変換 $F:V\to V$ において、$W_{\lambda_1},W_{\lambda_2},\cdots,W_{\lambda_r}$ を固有空間とした時に、これらの次元の和がベクトル空間 $V$ の次元に等しくなることが $F$ の表現行列が対角化可能であるための必要十分条件です. $W_{\lambda_i}$ を定めている行列のランクの和ではありません
  • 最小多項式が重解をもたないことは対角化出来るための必要十分条件.
C-12-2

解答の流れ。
  1. $V$の基底を一つ選ぶ.($1,X,X^2$ で構わない)
  2. その基底に従った表現行列 $A$ を求める.
  3. 固有ベクトルからなる基底が存在するための必要十分条件がこの表現行列が対角化出来ることであることを確認。
  4. $A$ が対角化出来るかどうか判定する.
  5. まず、$A$ の固有多項式を計算する.
  6. この場合、$A$ の固有多項式は相異なる三つなので、対角化可能である.
  7. 固有ベクトルをそれぞれ求めれば、その3つが $V$ の基底となる.
  8. 数ベクトル空間に帰着させて連立方程式を求めるが、最後は$V$ の元に戻す.
    例えば、基底 $1,X,X^2$ を選んだ時、数ベクトル空間に帰着させて解いたときに、$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}$ が答えとして出たとしても、すぐに答えとせず、$(1,X,X^2)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\a_3\end{pmatrix}=a_1+a_2X+a_3X^2$ と元のベクトルの表示に直しておく.
レポートの解答に関するコメント
  • $V$ の次元は3なのに一つのベクトルを挙げて基底だと言っているものが多数でした.
  • $V$ の基底が $\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}$ だけだと思っている解答も多数でした.基底とは、$V$ を生成して、一次独立であれば何でも基底になります.しかも、数ベクトルであると勘違いしています.例えば、$\{X,1+X,1+X+X^2\}$ だって基底になりえます.
  • $V$ は数ベクトル空間ではありませんのであたかも数ベクトルのような書き方はしないでください.一般のベクトルをある基底によって、数ベクトルと同じにみなすやり方(同型写像)あるというだけです.
  • 最終的に何が基底になるのか明確に書かれていないものは△にしています
  • 基底に沿って表現行列を求めることは皆よくできていました。
  • 最後に $V$ の元にしていないものは△にしました.

C-12-3

解答の流れ

和が直和になる事を示すには、${\bf v}_1\in W_\lambda,{\bf v}_2\in W_{\eta}$ を選んで、${\bf v}_1+{\bf v}_2=0$ となるとき ${\bf v}_1=0$ かつ ${\bf v}_2=0$ を示せばよいわけです.これは、$W_\lambda\cap W_\eta=\{{\bf 0}\}$ を示すことと同じです.
任意の ${\bf v}\in W_\lambda\cap W_\eta$ をとって、このベクトルが $F({\bf v})=\lambda{\bf v}$ かつ、$F({\bf v})=\eta{\bf v}$ を満たすから、$(\lambda-\eta){\bf v}=0$ をみたし、$\lambda\neq\eta$ であるから、${\bf v}=0$ が成り立つ.

レポートの解答に関するコメント
  • $W_\lambda+W_\eta=W_\lambda\oplus W_\eta$ であることは、定義から $W_\lambda\cap W_\eta=\{{\bf  0}\}$ を示すことと同値です.なので $W_\lambda\cap W_\eta=\{{\bf 0}\}$ を示してください.
  • ベクトル空間に表現行列 $A$ を左から掛けるという表現が多く見られました.そもそも、表現行列はベクトルに掛けることはできません.
    $({\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n)$ などに$n\times n$ 行列を右から掛けることはできます.

2015年1月27日火曜日

微積分II演習(第13回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

今日は
  • べき級数展開
  • 広義一様収束
について演習を行いました.
べき級数(テイラー)展開
 $\sum_{n=0}^\infty a_n(z-c)^n$ のような級数をべき級数と言います.また、ある関数をこのようなべき級数の形に書くこと意をべき級数展開(テイラー展開)といいます.
このべき級数は、収束するための $z$ の範囲があり、それを収束半径と言います.
つまり、$|z-c|<r$ である $z$ に対して絶対収束するような $r$ の上限のことを収束半径と言い、その値を $R$ とすると、アダマールの公式により、 
$\frac{1}{R}=\overline{\lim}_{n\to \infty}\sqrt[n]{|a_n|}$
と計算されます.
例題13-2(1)
アダマールの定理から
$f(z)=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}z^{2n+1}$
なる級数について収束半径を求めてみると、
$\lim_{n\to \infty}\sqrt[n]{\frac{1}{2n+1}}=1$
となり、収束半径が $1$ となることがわかります.また、この極限がわからなくても、
以下の方法があります.
不等式を用いた方法
$0<r<1$ となる任意の実数 $r$ をとり、$|z|<r$ に対して、
$\sum_{n=0}^\infty \frac{|z|^{2n+1}}{2n+1}=\sum_{n=0}^\infty \frac{r^{2n+1}}{2n+1}<\sum_{n=0}^\infty r^{2n+1}=\frac{r}{1-r^2}$
となり、$\sum_{n=0}^\infty \frac{r^{2n+1}}{2n+1}$ は部分和は有界な単調増加数列なので、収束することがわかります.つまり、$\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{2n+1}z^{2n+1}$ は $|z|<r$ なる領域で絶対収束します.
これは、$|z|<1$ となる任意の $z$ に対してこの級数が絶対収束することを意味します.
また、$z=1$ を入れてやると、$\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}$ は絶対収束しません.
というのも、
$\sum_{n=0}^m \frac{1}{2n+1}>\sum_{n=0}^m\frac{1}{2n+2}=\frac{1}{2}\sum_{n=0}^m\frac{1}{n+1}\to \infty $
が成り立つからです.
よって、収束半径の定義は絶対収束する $|z|<r$ の上限なので、収束半径が $1$ となるのです.
(最後まで詰めれば、もし、$R>1$ であるとすると、$z=1$ で絶対収束しないことに矛盾し、$R<1$ であれば、$R<r<1$ なる実数をとれば$R<|z|<r$ なる $z$ において絶対収束することに矛盾する.よって、$R=1$ となる.)
ダランベールの方法
$|\frac{a_{n+1}z^{n+1}}{a_nz^n}|=\frac{2n+1}{2n+3}|z|\to |z|$
であり、$|z|<1$ で級数は絶対収束し、$|z|>1$ で級数は発散します.
よって、収束半径は $1$ となります.
このような場合、ダランベールの方法は簡単に計算できますね.
収束半径での一般論
前回も書きましたが、収束半径内においては、べき級数を関数項級数として考えれば、広義一様収束します.また、収束半径内においては、関数項級数は項別微積分ができ、できたべき級数も同じ収束半径を持ちます.
よって、このべき級数は、$|z|<1$ において、$f'(z)=\sum_{n=0}^\infty (-1)^nz^{2n}=\sum_{n=0}^\infty(-z^2)^n=\frac{1}{1-(-z^2)}=\frac{1}{1+z^2}$ が成り立ちます.
つまり、$f(0)=0$ を考慮すれば、$f(z)=\int_0^z\frac{dt}{1+t^2}$ がいえます.
いま、$x=\tan y$とすると、
$\text{Arctan}(x)$ は$\frac{d}{dx}\text{Arctan}(x)=\frac{1}{\frac{d(\tan y)}{dy}}=\frac{1}{\frac{1}{\cos^2y}}=\frac{1}{1+\tan^2y}=\frac{1}{1+x^2}$ であるから、
これを積分し、$\text{Arctan}(0)=0$ を代入すると、$\int_0^x\frac{dt}{1+t^2}=\text{Arctan}(x)$ が成り立ちます.よって、
$$\text{Arctan}(z)=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}z^{2n+1}$$
が成り立ちます.

例題13-1(3)
$\sum_{n=0}^\infty \frac{(z+1)^n}{2^{n+1}}$ の収束半径も、
ダランベールの方法により、級数の比をとると、
$|\frac{\frac{(z+1)^n}{2^{n+1}}}{\frac{(z+1)^n}{2^n}}|=\frac{|z+1|}2$
であり、$|\frac{z+1}{2}|<1$ であれば、絶対収束し、$|\frac{z+1}{2}|>1$ であれば、発散します.
よって、収束半径は $-1$ を中心として $2$ となります.
また、この級数は各点で、等比級数なので、この収束域において和をとることができて、
$$\sum_{n=0}^\infty \frac{(z+1)^n}{2^{n+1}}=\frac{1}{1-z}$$
となります.つまり、$\frac{1}{1-z}$ を $-1$ で級数展開をしたものだったのです.
$z=0$ で級数展開すると、$\sum_{n=0}^\infty z^n$ で、同じ関数ですが、級数展開する点
を変えると級数展開も違うものになり、
収束半径は展開した点から $\frac{1}{1-z}$ で無限になる点(極と言う)までの距離に等しくなります.
つまり
$0$ で展開すれば、$|1-0|=1$ が収束半径.
$-1$ で展開すれば、$|1-(-1)|=2$ が収束半径.
また、実は
$\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{2n+1}z^{2n+1}$ は$z=\pm1$ で絶対収束しませんが、 $[-1,1]$ で一様収束が言えます.
というのも、次の定理をここで紹介します.
連続な関数項級数が一様収束すれば極限は連続関数ですが、その逆(極限が連続なら一様収束しているか?)は一般的には成り立ちませんが、逆が成り立つ場合があるということです.
定理(ディニ)
あるコンパクト集合(有界閉集合) $K$ 上の連続関数列 $f_n(x)$ が $K$ の各点において単調増加(もしくは単調減少)であり、ある連続関数 $f(x)$ に各点収束しているなら、$f_n(x)$ は $K$ 上で一様収束する.
例えば、例題13-2(2) $\sum_{n=0}\frac{(2n+1)!!}{(2n)!!}\frac{z^{2n+1}}{2n+1}$ は $[-1,1]$ において、連続関数 $\text{Arcsin}(x)$ に各点収束します.
ちなみに、$\sum_{n=0}^\infty\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{1}{2n+1}$ が収束することは

$\frac{a_n}{a_{n+1}}=\frac{(2n+2)(2n+3)}{(2n+1)^2}=1+\frac{3}{2n}-\frac{2n+3}{n(4n^2+4n+1)}$ となり、
$-\frac{2n+3}{n(4n^2+4n+1)}=O(\frac{1}{n^2})$ となることはすぐわかりますのでガウスの
判定法を用いれば、収束が言えます.

よって、ディニの定理により、
$\sum_{n=0}^\infty\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}\frac{z^{2n+1}}{2n+1}$ は $[-1,1]$ で一様収束することがわかります.

$\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2n+1}z^{2n+1}$ は各項は交代級数なので単調増加ではありませんが、部分和を $s_n(x)$ とし、$s_{2n+1},s_{2n}$ が単調増加であるので、それぞれディニの定理を用いれば、$s_n(x)$ が$[-1,1]$ で一様収束が言えます.


級数展開について
上の級数展開
$$\text{Arctan}(z)=\sum_{n=0}^\infty \frac{(-1)^n}{2n+1}z^{2n+1}$$
は実数で考えると、右辺は収束域が$|z|<1$ および、$z=\pm1$ であるのに対して、
左辺は、全実数に対応可能です.
これは何をしているのか.

これは、恒等式ですので、ある関数を2種類の表示の仕方をしていると考えることができます.しかし表示の仕方ゆえ、その表示に意味のある領域が決まっていると考えるとよいでしょう.
級数展開をすることは、ある関数をその点の周りにだけスポットライトを当てて見るようなものです.
このスポットライトを自在に動かしながら照らしていくと、関数の本来の定義域が見えてきます.しばしば複素平面上にも拡張可能です.そのスポットライトを複素領域に最大限に拡張してやったものはリーマン面と呼ばれる複素多様体になります.詳しくは3年生で習う関数論ですね.

2015年1月26日月曜日

線形代数II演習(第13回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

今日は
  • 直交行列による対角化
  • $e$の行列乗 $e^A$ の話
を行いました.


直交行列による対角化
 対角化に関する条件において、よく用いられているのは次の定理です.


定理1
実対称行列の固有値は実数であり、直交行列によって対角化できる.
つまり、実対称行列 $A$ はある直交行列 $P$ によって、
$$P^{-1}AP=D$$
とすることができる.ただし、$D$ はある対角行列.

まず、実対称行列の固有値は実数であるということです.普通実行列であっても固有値は実数とは限りません.

また、実対称行列は対角化可能ということです.行列が対角化可能かどうかは、実対称行列であれば、行列を見て判断できるということです.また、実対称行列であることと、固有値が全て異なるかどうかは関係が有りません.

直交行列 $P$ とは、$P^t\cdot P=E$ ということです.この条件は、$P$ の列(行でもよい)ベクトルが正規直交基底となっていることと同値です.

また、定理が言っていることは、実対称行列であれば、固有空間同士は直交するということです.
つまり、$\lambda\neq \eta$ が異なる固有値であれば、
$W_\lambda\perp W_{\eta}$ であるということです.
$W_\lambda\perp W_{\eta}$ の意味は全ての ${\bf v}\in W_{\lambda},{\bf w}\in W_{\eta}$ に対して、${\bf v}\cdot{\bf w}=0$ が成り立つということです.

注意として、対角化される行列はいつでも直交行列というわけではなく、うまく正則行列をとれば、$P$ が直交行列で、 $P^{-1}AP$ が対角行列にできるということです.

対角化可能性についてまとめると、
実対称行列なら、行列だけで判断できる。
固有値が全て異なるなら、固有多項式だけで判断ができる.
一般の行列なら、固有空間の次元の総和で判断できる.
ということになります.

この定理が基本ですが、複素のヴァージョンにしたものは、以下になります.

定理2
エルミート行列の固有値は実数であり、ユニタリー行列によって対角化できる.
つまり、対角化 $P^{-1}AP=D$ のための正則行列 $P$ としてユニタリー行列が取れるということです.

エルミート行列とは、$A^\ast=A$ を満たす行列のことです.
ただし $A^\ast=\overline{A^t}$ です.
また、ユニタリー行列とは、$P^\ast P=E$ を満たす行列のことです.
実ユニタリー行列とは直交行列のことです.

定理1を実行列として当てはめると、上の定理1を意味しています.
なので、この定理は複素行列の場合を含んだ主張なのです.

行列によって対角化出来るための条件は、実対称行列だけではありません.
じつは、下のような正規行列の条件があります.
これはややこしいので授業では言いませんでした.

定義(正規行列)
$A^\ast A=AA^\ast$ を満たす行列のことを正規行列という.

定理3
あるユニタリー行列によって対角化できるための必要十分条件は行列が正規行列であることである.


対称行列やエルミート行列以外で正規行列であるものは、実交代行列や、直交行列などです.
実交代行列は $A^t=-A$ を満たす実行列のことです.
また、交代行列を複素にしたものを歪エルミート行列( $A^\ast=-A$ )といい、これも正規行列です.
直交行列やユニタリー行列も正規行列ですので対角化することができます.

また、固有値についてまとめれば、
エルミート行列(実の場合は対称行列)は固有値が実数
歪エルミート行列(実の場合は交代行列)は固有値が純虚数
ユニタリー行列(実の場合は直交行列)は固有値が絶対値 $1$ の複素数
となります.

シュミットの方法を用いた正則行列の直交化の計算例は授業でやりましたのでここでは省略します.


次は$e^{A}$ の計算ですが、これは次回の講義の準備です.
この計算は特に直交行列による対角化とは特に関係ありません.

$e^{tA}$ の計算
 
 行列乗について
$$e^A=E+A+\frac{A^2}{2!}+\frac{A^3}{3!}+\cdots$$
と定義します.なので、
$$e^{tA}=tE+tA+\frac{t^2A^2}{2!}+\frac{t^3A^3}{3!}+\cdots$$
となります.

行列 $A$ が対角化可能である場合、
$P^{-1}AP=D$ であるとする.ここで、$D$ は対角行列であるとする.
$D=\begin{pmatrix}\lambda_1&0&0&\cdots\\0&\lambda_2&0&\cdots\\\cdots&\cdots&\cdots&\cdots\\0&\cdots&0&\lambda_n\end{pmatrix}$ であるとすると、$e^D=\begin{pmatrix}e^{\lambda_1}&0&0&\cdots\\0&e^{\lambda_2}&0&\cdots\\\cdots&\cdots&\cdots&\cdots\\0&\cdots&0&e^{\lambda_n}\end{pmatrix}$
$$e^D=e^{P^{-1}AP}=E+P^{-1}AP+\frac{(P^{-1}AP)^2}{2!}+\frac{(P^{-1}AP)^3}{3!}+\cdots$$
$$=E+P^{-1}AP+\frac{1}{2!}P^{-1}A^2P+\frac{1}{3!}P^{-1}A^3P+\cdots$$
$$=P^{-1}\left(E+A+\frac{A^2}{2!}+\frac{A^3}{3!}+\cdots\right)P=P^{-1}e^AP$$
よって、
$$e^A=Pe^DP^{-1}$$
となります.

B-13-3(1)
$A=\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}$ とすると、
$P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ とすると、$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}3&0\\0&1\end{pmatrix}$
となります.
よって、$e^{tA}=Pe^{tD}P^{-1}=P\begin{pmatrix}e^{3t}&0\\0&e^{t}\end{pmatrix}P^{-1}$
が成り立ち、
$\begin{pmatrix}\frac{e^t+e^{3t}}{2}&\frac{-e^t+e^{3t}}{2}\\\frac{-e^t+e^{3t}}{2}&\frac{e^t+e^{3t}}{2}\end{pmatrix}$
となる.

B-13-3(2)
$A=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ 乗を計算する.
$P=\begin{pmatrix}-i&i\\1&1\end{pmatrix}$ とすると、
$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}i&0\\0&-i\end{pmatrix}$ となるので、
$P^{-1}e^{tA}P=\begin{pmatrix}e^{it}&0\\0&e^{-it}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos t+i\sin t&0\\0&\cos t-i\sin t\end{pmatrix}$
よって、
$e^{tA}=\begin{pmatrix}-i&i\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos t+i\sin t&0\\0&\cos t-i\sin t\end{pmatrix}\frac{1}{2i}\begin{pmatrix}-1&i\\1&i\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos t&\sin t\\-\sin t&\cos t \end{pmatrix}$
となります.

上の計算例の中で、
$$e^{\theta i}=\cos \theta+i\sin \theta$$
を使いました.これは意味深な等式ですが、ドモアブルの公式
$(\cos \theta+i\sin t)^n=\cos n\theta+i\sin n\theta$ は単なる指数公式
$(e^{it})^n=e^{int}$
となりますし、級数展開においても、
$e^{\theta i}=1+\theta i+\frac{(\theta i)^2}{2!}+\frac{(\theta i)^3}{3!}+\frac{(\theta i)^4}{4!}+\cdots$
よって、実部と虚部をみると、
$1-\frac{\theta^2}{2!}+\frac{\theta^4}{4!}+\cdots=\cos \theta$
$\theta-\frac{(\theta)^3}{3!}+\frac{(\theta)^5}{5!}+\cdots=\sin\theta$
となるので、級数展開においても成り立ちます.
なので、指数関数を複素数にまで広げて $e^{s+it}=e^s(\cos t+i\sin t)$ として定義することができます.

2015年1月22日木曜日

微積分II演習(第12回)後半

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

HPに行く.

第12回の後半です.

一様収束しない関数項級数の例、杉浦光夫著の解析入門I(p306の例6)の例だと、
$$f(x)=\sum_{n=0}^\infty\frac{x^2}{(1+x^2)^n}$$
のように簡単に(別に病的な例ではない)作ることができます.
これは、$x\neq 0$ であるとすると、等比級数の和の公式から、
$f(x)=\frac{x^2}{1-\frac{1}{x^2+1}}$
となり、$f(x)=1+x^2$ となります.$x=0$ であれば、定義から $0$ です.
よって、
$$f(x)=\begin{cases}0&x=0\\1+x^2&x\neq 0\end{cases}$$
となり、$x=0$ で不連続であることがわかります.
もし一様収束するなら連続関数列は連続関数に移るはずですから、これは一様収束ではないということがわかります.

絶対収束
 級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ が絶対収束するとは、$\sum_{n=1}^\infty |a_n|$ が収束するということです.絶対値をとらないもとの級数が収束することを条件収束と言います.
条件収束するが、絶対収束しない例としてはすぐ挙げられるのは、
$\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^{n-1}}{n}$ です.
実際、この値は $\log(2)$ ($\log(1+z)$ の級数展開を使え)ですが、絶対値をとった収束は調和級数ですから収束しません.


べき級数
 関数項級数の中で、もっとも初等的でよくつかわれるのがべき級数
$$\sum_{n=1}^\infty a_nz^n$$
です.$z$ は複素数で考えられるのでこの場合はそうすることにします.最初の問題はこの級数はいつ収束するのかということです.それを保証しているのが収束半径というやつです.収束半径とは、$|z|<R$ となる $z$ ではいつでもべき級数が絶対収束するような $R$ の上限として定義します.数学の言葉で書けば、
$$R=\sup\left\{r||z|<r\Rightarrow \sum_{n=0}^\infty a_nz^n\text{は絶対収束する}\right\}$$
となります.
また、アダマールの公式は、収束半径は
$$\frac{1}{R}=\overline{\lim}_{n\to \infty }\sqrt[n]{a_n}$$
のように計算されます.

例えば、定数でも多項式でもない一番簡単なべき級数は $\sum_{n=0}^\infty z^n$ だと思いますが、
$a_n=1$ ですので、この計算方法によって、収束半径 $R$ は$1$ となります.
また、$\overline{\lim}$ をとっているから、ところどころ係数に $0$ が有ってもよいことになります.
なので、
$\sum_{n=1}^\infty z^{n^2}$ や $\sum_{n=1}^\infty z^{n!}$ なども
収束半径が $1$ です.


ここで少し脱線します.
また、$e^z$ の級数展開は $\sum_{n=0}^\infty\frac{z^n}{n!}$ となりますが、このとき、各点 $z$ でこの級数は収束しますので、収束半径は $\infty$ となります.つまり計算公式からは、
$\lim_{n\to \infty}\sqrt[n]{\frac{1}{n!}}=0$ となります.
これは特に、$\lim_{n\to \infty}\frac{n}{\sqrt[n]{n!}}=e$ となるのです.
なので、$\frac{1}{\sqrt[n]{n!}}\sim\frac{e}{n}$ となります.
$\frac{1}{\sqrt[n]{n!}}$ は漸近的に $\frac{e}{n}$ と同等ということです.
なので、級数にしたものも発散します.
つまり、$\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{\sqrt[n]{n!}}=\infty$.
です.

これを $n$ 乗してやったものは、$\frac{n^n}{n!}\sim e^n$ とは違います.
数列の $n$ 乗に関する話はこちらの中に書きましたのでそちらも参照ください.
数列の $n$ 乗の漸近的極限はその数列に依存します.

この数列 $\frac{n^n}{n!}$ を見積もる公式としてスターリングの公式があります.
それによると、
$$n!\sim\sqrt{2\pi n}\left(\frac{n}{e}\right)^n$$
となりますので
$$\frac{n^n}{n!}\sim\frac{e^n}{\sqrt{2\pi n}}$$
どこからともなく、$\frac{1}{\sqrt{2\pi n}}$ が出てきました.$e^n$ より若干小さいということがわかりました.


脱線したので、話を元に戻します.収束半径の内側(境界は含めない)では、各 $z$ に対してべき級数は絶対収束しますので、べき級数はその範囲内で一様収束します.
というか、正確には、広義一様収束です.例えば、
$$1+z+z^2+\cdots$$
なる関数項級数 $s_n(z)=\sum_{k=0}^{n-1}z^k$ は、収束半径内 $|z|<1$ においては $s(z)=\frac{1}{1-z}$ に(各点において)絶対収束します.
つまり、$|s_n(z)-s(z)|=|\frac{z^n}{1-z}|$ は$|z|<1$ で $0$ に収束します.しかし、$|z|<1$ で一様収束していません.例えば $z=1-\frac{1}{n}$ をとると、無限大に発散することができるからです.

このように開区間などでの一様収束性をいうのに、広義一様収束があります.

定義(広義一様収束)
ある領域 $B$ において関数列 $f_n(x)$ が広義一様収束するとは、$B$ 内の任意の有界閉集合(実数の場合は任意の閉区間)において、一様収束することをいいます.

広義一様収束は $[0,1)$ などの閉区領域でない場合に適用されますが、今の等比級数の例の場合、$|z|<1$ において各点において絶対収束していましたが、一様収束しませんでした.
しかし、広義一様収束はしています.

実際、$|z|<1$ の任意の有界閉集合 $S$ はある実数 $0<\rho<1$ が存在して、
$S\subset \{z||z|<\rho\}=:B(\rho)$とすることができます.そうすると、
$|s_n(z)-s(z)|\le \frac{\rho^n}{|1-|z||}\le \frac{\rho^n}{1-\rho}$
が成り立ち、この右辺は$z$ の値に依らずに収束しますので、そのような $S$ において一様収束したことになります.つまり、$1+z+z^2+\cdots$ は $|z|<1$ において広義一様収束しているのです.

広義一様収束をする関数列において以下が言えます.

定理(広義一様収束する関数列の極限の連続性)
ある連続関数列 $f_n(z)$ がある領域において $f(z)$ に広義一様収束する時、$f(z)$ はその領域で連続である.


まとめると、


べき級数
$$\sum_{n=0}^\infty a_nz^n$$
はその収束半径内 $|z|<R$ においてある関数 $f(z)$ に広義一様収束しており、連続である.


さらに、級数が広義一様収束しているとすると、収束半径内において項別微積分を行うことができます.特に、収束半径内においてこのことから、収束半径内のべき級数は $C^\infty$級関数であるといえます.

ランダウの記号(ラージオー)

極限の記号で、以前スモールオーを書きました.
ここでは、ラージオーについて書いたあと、数列、級数の極限について書きます.
(このオーはオーではなくギリシャ文字のオミクロンだという意見もありますが、ここではオーです.)

ラージオーの定義
 
$$f(x)=O(g(x))\ \ \ (x\to a)$$
であるとは、
$$\overline{\lim}_{x\to a}|\frac{f(x)}{g(x)}|<\infty$$
となることを意味します.$\overline{\lim}$ はたとえ $|\frac{f(x)}{g(x)}|$ の極限が存在しなくても、有界であればよいということです.

また、定数倍(および有界関数)を無視して $x=a$ の近く( $a=\infty$ のときは無限大で) で漸近的に $g(x)$ に等しくなるということです.
$x$ が自然数をとる場合は、自然数の行き先は無限大しかありませんから、$(n\to \infty)$ は省略して、
$$f(n)=O(g(n))$$
として、$\overline{\lim}_{n\to \infty}|\frac{f(n)}{g(n)}|<\infty$ のことを指します.

また、$\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=1$ の場合、
$$f(x)\sim g(x)\ \ (x\to a)$$
と書きます.
これは、$f(x)$ は $x=a$ の近くで漸近的に $g(x)$ に近いということですが、その有界関数が定数 $1$ であることを言っています.つまり、比の関数の極限の値まで決定しているので $f(x)=O(g(x))$ と書くよりさらに精度が細かい書き方です.

ラージオーはスモールオー $o$ と似ていますが、スモールオーの方は、$f(x)=o(g(x))$ と書くと $f(x)$ は $g(x)$ より確実に小さい量(極限で消える)であることを保証しますが、ラージオーの場合は確実に小さい量を記述することもできますが、同等の量を記述することもできます.

それは、不等号の $<$ と $\le $ の役割に似ているともいえます.

スモールオーと同じく、$f(x)-g(x)=O(h(x))$ のとき $g(x)$ を移項して、$f(x)=g(x)+O(h(x))$ と書くこともできます.


 $\sin x=O(x)\ \ ( x\to a)$
もちろんテイラー展開を進めて
$\sin x= x-\frac{x^3}{6}+O(x^4)$ とかくこともできます.
一般に、$x=a$ でテイラー展開可能な関数に関して、
$$f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots+\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n+O((x-a)^{n+1})$$
と書くことができます.スモールオーの場合は最後は $o((x-a)^n)$ と書いていたことを思い出してください.スモールオーは $(x-a)^n$ よりは確実に小さいことを言っていただけですが、ラージオーは$(x-a)^{n+1}$ 以下くらいの微小量だと言っています.

注意点

上の例は、さらに、$\sin x\sim x$ と書くことができます.
この書き方には注意が必要で、$O$ のように移項する操作がありません.例えば
$\sin x-x=O(x^3)$ なので、$\sin x-x\sim -\frac{x^3}{6}$ と書いて意味がありますが.$x$ を移項してやると、
$\sin x\sim x-\frac{x^3}{6}$ となりますが、この $-\frac{1}{6}$ は移項する前は意味が有りましたが、$x$ を移項してしまっては、もう係数の意味がなくて、
$\sin x\sim x-\frac{x^3}{6}\sim x+x^3$
としてしまってよく、再び移項して
$\sin x-x\sim x^3$
などとなり、これは正しくないわけです.
よって、$\sim$ を使いながらむやみに移項はできないのです.

$O(x)$ と同じくより小さい量を勝手に付け加えることはできます.
つまり、$\sin x\sim x+x^3+x^5\sim x$ となるのです.


してよいこと
 ラージオーでもしてよいことは、スモールオーと同じです.
  • $x^n=O(x^n)$
  • $c\cdot O(f(x))=O(f(x))$
  • $x^nO(x^m)=O(x^{n+m})$
  • $O(x^n)O(x^m)=O(x^{n+m})$
  • $O(x^n)+O(x^m)=O(x^n)\ \ (n\le m)$


数列の $n$乗について

数列の場合にも同じようにラージオーが使えることが便利です.
$a_n=O(f(n))$ として、数列の極限の様子があたかも関数のように扱えるのが便利です.

ここで、数列に関する注意点を挙げます.(数列に関する例だけではありませんが...)
数列 $a_n=O(f(n))$ が成り立ったとするとき、数列 $a_n^n=O(f(n)^n)$ とは限らないということです.
もちろん、$a_n\sim f(n)$ ならば、$a_n^n\sim f(n)^n$ も成り立つとは限りません.
($n$ に無関係な $k$ で $a_n^k=O(f(n)^k)$ は上の公式が示すように成り立ちます.)

これは、微積分の最初に出てくるネイピア数の定義で、$a_n=1+\frac{1}{n}$ をとれば、
$a_n^n\to e$ に行きますので、$a_n^n=O(1)$ は成り立ちますが、$a_n\to 1$ に行くからと言って、$a_n^n\sim 1$ とはなっていませんね.ネイピア数を知っていれば当たり前と言えば当たり前ですが、$a_n^n$ の極限の計算を $a_n$ の極限をとってから、その後でその $n$ 乗を計算するという議論は成り立たないことになります.

この例がいうように $O$ の方は大丈夫かと思うかもしれませんがそうでもありません.

例えば、$a_n=1+\frac{1}{\sqrt{n}}$ としますと、$a_n=O(1)$ ですが、
$\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n=O(1)$ ではありません.
むしろ無限大に発散してしまいます.
つまり、
$$\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n=\infty$$
なのです.この無限を測ってみようとすると、結果
$$\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n=O(e^{\sqrt{n}})$$
となります.さらに$\sim$ を使ってみてみると、
$$\left(1+\frac{1}{\sqrt{n}}\right)^n\sim e^{\sqrt{n}-\frac{1}{2}}$$
となります.
一般には、 $m$ 乗根をとった $a_n=1+\frac{1}{\sqrt[m]{n^{m-1}}}$ を使って計算してみると、
$m\ge 3$ のとき、
$$\left(1+\frac{1}{\sqrt[m]{n^{m-1}}}\right)^n\sim e^{\sqrt[m]{n}}$$
が成り立ちます.

$a_n=1+\frac{1}{\log n}$ のように取ってやった
$$\left(1+\frac{1}{\log n}\right)^n$$
はどのような数列に漸近されるでしょうか?

このようなことは、関数列 $f_n(x)=x^n$ が、$1$ を含む任意の区間で一様収束しないことから解釈することができます.
$x=1$ では $f_n(1)=1$ であるのに対して、$0\le x<1$ に対しては、$f_n(x)\to 0$ に各点で収束し、$x=1$で左不連続です.また、$1<x$ においては、$f_n(x)$ は各点で発散します.

ネイピア数は $1+\frac{1}{n}$ という数列をとって上から $1$ に近づきつつ、 $f_n(x)$ の値をとっています.つまり、$f_n(x)$ が一様収束しないことを利用して、発散列 $f_n(x)$ をうまく縫って何かに収束しているという状況なのです.$1$ より大きい他の値 $\alpha$ に近づきたいなら $a_n=1+\frac{\log \alpha}{n}$ などとすればよいです.$1$ より小さい正の数 $1/\alpha$ に近づくには $a_n=1-\frac{\log \alpha}{n}$ ととればよいでしょう.

2015年1月19日月曜日

微積分II演習(第12回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

今日は数列、級数についてやりました.
  • 数列や級数が収束する条件
  • 一様収束.一様収束であるための条件.
  • べき級数、収束半径

級数
 数列や級数が収束することの定義はおそらく春にやっていると思うのでここでは省略します.ここでは、いろいろな級数が収束することを示す方法を学びます.ここでは収束することを示すだけですが、数列が収束して値がいくつになるかということはまた別問題であり、難しい場合があります.またこれまた別問題ですが、その値がどのような値か、例えば有理数か、無理数かも難しい場合があります.値が収束する時、有理数の数列でも極限は無理数になることはもちろんあります.無理数に近づく小数展開が当たり前の例です.

級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ の収束がすぐ分からないときは収束や発散がよく分かっている級数と比べることが多いです.

収束発散がよく分かっている級数とは、例えば、$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}$ は発散しますが、
$\sum_{n=1}^\infty ar^{n-1}$ は $|r|<1$ のとき収束する.などです.
などです.
前者は、積分を使うと、$\sum_{n=1}^N\frac{1}{n}>\int_1^{N+1}\frac{1}{x}dx=\log(N+1)$ が言えるので簡単に発散が示されますが、$f(n)=\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}-\log n$ とおくと、$f(n+1)-f(n)=\frac{1}{n+1}-\log\frac{n+1}{n}=\frac{1}{n+1}(1-\log(1+\frac{1}{n})^{n+1})<0$
最後の不等式は $(1+\frac{1}{n})^{n+1}$ が単調増加で、 $e$ に近づくことからわかります.
よって、 $f(n)$ は単調減少で、$f(n)=\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}-\log(n+1)+\log\frac{n+1}{n}>0$
が成り立ちます.また有界かつ単調減少関数は収束値を持ちますので、$\lim_{n\to \infty}f(n)$ は
収束値をもちます.この収束値のことをオイラー定数といい、$\gamma$ と書きます.
$0<\gamma<1$ ですが、有理数とも無理数とも分かっていない定数の一つです.


ところで、上の収束発散を使った応用例があります.
$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{\sqrt[n]{n!}}$ があります.(授業中にやりましたので省略します.)
簡単な不等式評価で、$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}$ に持ち込めますし、
等比級数と比べる判定としてよくあるダランベールの判定法、コーシーの判定法があります.

ダランベールの方法(収束のための十分条件)
正項級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ に対してある $r<1$ が存在して有限個の $n$ を除いて $\frac{a_{n+1}}{a_n}\le r<1$ を満たす.

コーシーの方法(収束のための十分条件)
正項級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ に対してある $r<1$ が存在して有限個の $n$ を除いて $\sqrt[n]{a_n}\le r<1$ を満たす.

どちらの判定法も $\frac{a_{n+1}}{a_n}$ や $\sqrt[n]{a_n}$ が $1$ より小さいことが求められますが、この値が $1$ に収束してしまっては判定は分からなくなります.
これらの判定を当てはめる例は授業中やりましたのでここではやりません.

こちらはガウスの判定法です.
正項級数 $\sum_{n=1}^\infty a_n$ がある正の数 $\alpha$ が存在して、
$\frac{a_n}{a_{n+1}}=1+\frac{\alpha}{n}+O(\frac{1}{n^2})$
が成り立つとき、$\alpha>1$ なら収束し、$\alpha\le 1$ なら発散する.

これは $\frac{a_{n+1}}{a_n}\to 1$ となったときの判定法ということになります.
例えば調和級数の和は $\frac{a_n}{a_{n+1}}=\frac{n+1}{n}=1+\frac{1}{n}$ となり
発散が言えます.


ランダウの記号 $O$ (ラージオー)

ここで、$O(\frac{1}{n^2})$ は漸近的な関数の挙動を表すランダウ記号であり、
$f(n)=O(g(n))$ であるとは、
$\limsup_{n\to \infty }|\frac{f(n)}{g(n)}|<\infty$
であることを意味します.
(スモールオー $o(g(n))$ は別の記事
スモールオーは2つの関数の比が $0$ に収束する関数でしたが、ラージオーはその比が有界な関数です.なので、有界な関数の違いこそあれ、2つの関数は同じスピードで極限に向かうということです.漸近的に関数が近づくという言い方が確かにあっています.
また、$\limsup=\overline{\lim}$ を使っているのは、極限がたとえ定まらない場合でも、
$\sin(n)=O(1)\ \ (n\to \infty)$ のように書くためです.

他の使い方としては $3n^2+2n+1=O(n^3)\ \ (n\to \infty)$ のようになるわけです.
また、$\lim_{n\to \infty}\frac{f(n)}{g(n)}=1$ のときに
$f(n)\sim g(n)$ かくこともあります.

上の調和級数の和も、$\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}=O(\log(n))$ さらに、
$\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}\sim \log(n)$ となります.上のオイラー定数を使って
$\sum_{k=1}^n\frac{1}{k}=\log(n)+\gamma+o(1)$
となります.この $o(1)$ の $0$ に収束する部分をさらに解析していくとどうなるんでしょうか.
解析数論の人たちの仕事です.

また、さらに脱線すると、wikipediaによると
$$\sum_{p:\text{素数},p\le n}\frac{1}{p}\sim \log\log(n)$$
が成り立つようです.素数だけの調和級数を取っていっても $\log $ よりも大分緩やかですが発散します.
有名な素数定理は、$\frac1{n}\sum_{p:\text{素数},p\le n}1\sim \frac{1}{\log n}$ です.

また、$\sum_{n=2}^\infty\frac{1}{n\log n}$ も発散します.
$\sum_{n=2}^N\frac{1}{n\log n}>\int_2^{N+1}\frac{dx}{x\log x}$
が成り立ち、$\int_2^{N+1}\frac{dx}{x\log x}=\int_{\log 2}^{\log(N+1)}\frac{1}{e^tt}e^tdt=\int_{\log 2}^{\log(N+1)}\frac{dt}{t}=[\log t]_{\log 2}^{\log(N+1)}=\log\log(N+1)-\log\log 2\to \infty $
これは上の素数だけの調和級数と同じオーダーですね.


一様収束
 ある区間 $I=[a,b]$ 上の関数列 $f_n(x)$ 一様収束とは、任意の$\epsilon>0$ に対してある $N$ があって、それ以上の $n>N$ についてはみな、
$$\forall x\in I, |f_n(x)-f(x)|<\epsilon$$
なる関数 $f(x)$ が存在することをいいます.
$x\in I$ の値に限らず押し並べて(一様に)$f(x)$ に収束しています.$\epsilon$ と $N$ が$x\in I$ に依らずに取れることが重要ですが、ようするに、$M_n=\max_{x\in I}(|f_n(x)-f(x)|)$ とおくと、$M_n$が普通の収束の意味で $0$ に収束することを意味します.
関数項級数列 $\sum_{n=1}^\infty f_n(x)$ が一様収束することは部分和の関数がある関数に一様収束することとして定義します.

また、収束関数がわからないときの一様収束の定義は

任意の$\epsilon>0$ に対してある $N$ が存在して、$n,m>N$ なる任意の $n,m$に対して、
$$\forall x\text{に対して}|f_n(x)-f_m(x)|<\epsilon$$
が成り立つ

また、次のような定理が成り立ちます.

定理
関数列 $f_n(x)$ が連続であり、ある関数 $f(x)$ に一様収束するとすると、$f(x)$ も連続である.

授業では関数列 $f_n(x)=nxe^{-nx}\ \ x\in [0,1]$ を扱いました.この関数列は、各点で、$\frac{nx}{e^{nx}}<\frac{nx}{\frac{(nx)^2}{2}}<\frac1{2nx}\to 0$ が成り立つので、
各点での収束先は $0$ です.
つまり、$\max_{x\in I}|f_n(x)|$ が$0$ に収束すればよいのですが、$f'_n(x)=ne^{-nx}+nx(-n)e^{-nx}=(n-n^2x)e^{-nx}$なので、$[0,1]$ での最大値は、
$f_n(\frac{1}{n})=e^{-1}$ となります.

一様収束でないことを証明するには $\epsilon=\frac{1}{10}$ として、任意の $N$に対して
$n>N$ なる$n$ に対して、
$$x=\frac{1}{n}\text{に対して}\ \ \ |f_n(\frac{1}{n})|=e^{-1}>\frac{1}{10}$$
が成り立っている.最大値が変わらず $e^{-1}$ となるので、これは一様に $0$ に収束しているとはいえない.
ただ、一様に収束はしていないが、収束先 $f(x)=0$ は連続 である.

例題-12-3(2)
まず各点収束先がどうなるか考える.各点 $x$ において、
$\sum_{k=1}^\infty \frac{1}{n^2+x^2}<\sum_{k=1}\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}$
なので、この正項級数は何か値に収束します.

任意の $\epsilon>0$ に対して、
$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}$ は収束するので、ある、$N$ が存在して $n,m>N$ なる整数 $n,m$ は、
$0<\sum_{k=n}^m\frac{1}{k^2+x^2}<\sum_{k=n}^m\frac{1}{k^2}<\epsilon$
が成り立ちます.
この$n,m$ は $x$ に依っていないので、$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2+x^2}$ は
ある関数に一様収束します.

線形代数II演習(第12回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

今日は
  • 行列が対角化可能であるかどうか.
  • 対角化可能であるための必要十分条件.

を中心にやりました.

対角可能条件
 行列 $A$ が対角化可能であるとは、ある正則行列 $P$ があって、$P^{-1}AP$ が対角行列であることである.つまり、
$$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}\lambda_1&0&\cdots &0\\0&\lambda_2&0&\cdots\\
\cdots&0&\ddots&0\\
0&\cdots&0&\lambda_n\end{pmatrix}$$
となることです.

対角化できるかどうかは、その固有値と深く関係します.
固有値は前回やったように $A{\bf v}=\lambda{\bf v}$となるゼロベクトルでないベクトル ${\bf v}$ が存在するような $\lambda$ のことです.

対角化の条件 $AP=PD$ を縦ベクトルごとに見ます.ここで、$D$ は上のような対角行列のことです.そうすると
$$A{\bf  p}_i=\lambda_i{\bf p}_i$$
となるわけで、これは ${\bf p}_i$ が固有ベクトルであることを示しています.${\bf p}_i$ は正則行列 $P$ の $i$ 番目の縦ベクトルです.
もちろん $P$ は正則行列ですので、当然 ${\bf p}_i$ はゼロベクトルではありません.
よって、対角化されているとすると、${\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n$ は正則行列を作りますので、これらは基底になります.また、それぞれは固有ベクトルです.

よって、対角化出来るための必要十分条件は全て固有ベクトルであるような ${\Bbb C}^n$ 上の基底が存在することになります.必要条件は今言ったことから分かりますが、十分条件も成り立つことはわかりますね.

ところで、数ベクトル空間の線形写像の固有空間は部分空間であり、固有値が異なれば、その共通部分は ${\bf 0}$ のみです.つまり $W_\lambda\cap W_\eta=\{\bf 0\}$ $\lambda\neq \eta$ が成り立ちます.
つまり、$\{\lambda_1,\cdots,\lambda_r\}$ が全ての固有値とすると、
$$W_{\lambda_1}+W_{\lambda_2}+\cdots+W_{\lambda_r}$$
は ${\Bbb C}^n$ の部分ベクトル空間ですが、特に、
$$W_{\lambda_1}\oplus W_{\lambda_2}\oplus \cdots\oplus W_{\lambda_r}$$
となります.もちろん、一般には $r$ 個の部分ベクトル空間において、任意の2つの部分空間の共通部分が $\{\bf  0\}$ だからと言ってそれらが直和になるとは限りません.

しかし、今の場合、${\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r={\bf 0}$
が成り立つとします.ここで、 ${\bf v}_i\in W_{\lambda_i}$ とします.
$A({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r{\bf v}_r={\bf 0}$
$A^2({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1^2{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r^2{\bf v}_r={\bf 0}$
$A^3({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1^3{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r^3{\bf v}_r={\bf 0}$
$A^{r-1}({\bf v}_1+\cdots+{\bf v}_r)=\lambda_1^{r-1}{\bf v}_1+\cdots+\lambda_r^{r-1}{\bf v}_r={\bf 0}$
この $r$ 個の関係式から
$$\begin{pmatrix}{\bf v}_1&{\bf v}_2&\cdots&{\bf v}_r\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&\lambda_1&\cdots&\lambda_1^{r-1}\\1&\lambda_2&\cdots&\lambda_2^{r-1}\\\cdots&\cdots&\cdots\\1&\lambda_r&\cdots&\lambda_r^{r-1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}{\bf 0}&{\bf 0}&\cdots&{\bf 0}\end{pmatrix}$$
この行列はファンデルモントの行列式にでてきますね.
この行列が正則であることは$\lambda_1,\cdots,\lambda_r$ が全て相異なることと同値です.
ゆえに、この行列の逆行列を右から掛けてやって
${\bf v}_1=\cdots={\bf v}_r={\bf 0}$ が成り立つのです.
これは、$W_{\lambda_1}+W_{\lambda_2}+\cdots+W_{\lambda_r}$ が直和になることを意味しています.

戻りますと、${\Bbb C}^n\supset W_{\lambda_1}\oplus W_{\lambda_2}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}$
が部分空間となりますが、いつ右の部分空間が ${\Bbb C}^n$ と一致するかという条件が $A$ の対角化条件と一致します.
つまり、

定理
$A$ が対角化出来るための必要十分条件は、$\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_r$ をその固有値とし、$W_{\lambda_i}$ をその固有空間とします.このとき、
$${\Bbb C}^n=W_{\lambda_1}\oplus W_{\lambda_2}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}$$
となることである.

固有空間の基底は全てその固有値の固有ベクトルですから、その基底をとって全て並べておけば、直和の次元公式から、
$$n=\dim W_{\lambda_1}+\dim W_{\lambda_2}+\cdots+\dim W_{\lambda_r}$$
なる条件は固有ベクトルを使って$n$ 個の ${\Bbb C}^n$ の基底が作れることを意味しています.
つまり、上の対角化の条件を満たしていますよね.

また、対角化出来るためのうまい条件があります.これも演習の授業で説明しましたが、$\dim W_\lambda\ge 1$ であることを使う方法です.

十分条件
行列 $A$ の固有値が丁度 $n$ 個あるとする.$\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ であるとする.このとき、行列 $A$ はある正則行列によって対角化される.

全ての固有空間の次元の和が $n$ であればいいのですが、そもそも固有値が $n$ 個あるなら $\dim W_\lambda\ge 1$ であるから、
$n\le \dim W_{\lambda_1}+\dim W_{\lambda_2}+\cdots+\dim W_{\lambda_n}\le \dim {\Bbb C}^n=n$ であるから、
これは丁度 $\dim W_{\lambda_1}+\dim W_{\lambda_2}+\cdots+\dim W_{\lambda_n}=n$
しかないのです.

この条件は固有多項式 $\Phi_A(t)$ を見ればすぐわかるので簡単な十分条件と言えます.$\Phi_A(t)$ が相異なる $n$ 個の解をもてばよいのです.

ここまでが共通して理解しておくべきところです.(最後に、B-12-1(6) をもう一度やってあります.)

演習の授業では対角化のための他の同値条件を見ました.
これはプラスアルファの話なので理解できる人だけ学習してください.
行列 $A$ の最小多項式 $m_A(t)$ を以下のように定義します.
最高次の係数が $1$ の多項式 $f(x)$ で、 $f(A)=O$ となるものの中で最小次数のものを $m_A(t)$ とする.

上の条件は $f(x)=x^s+a_1x^{s-1}+\cdots+a_{s-1}x+a_s$ であるとき、
$f(A)=A^s+a_1A^{s-1}+\cdots+a_{s-1}A+a_sE=O$ となる多項式ということです.
ここで、$E$ は単位行列、$O$ はゼロ行列です.
実はそのような多項式 $m_A(t)$ は一意に決まり、
  • $\Phi_A(t)$ を多項式として割り切ることができ、
  • $A$ の全ての固有値を根として持っています.
このとき、$A$ が対角化可能であるための必要十分条件は、


定理
$A$ が対角化可能であるための必要十分条件は
$m_A(t)$ が重複度のない一次の $t-\lambda_i$ の積に分解されることである.


つまり、
$$m_A(t)=(t-\lambda_1)(t-\lambda_2)\cdots(t-\lambda_r)$$
となることです.このとき、ポイントは因数分解したときに $(t-\lambda_1)^2$ などの2次の項が表れないことです.

授業中扱った簡単な例でいけば、 $A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ とすると、$A$ の固有値は $1$ のみなので、$\Phi_A(t)=(t-1)^2$ です.$m_A(t)$ を求めてみると、上に書いた条件から、 $m_A(t)=t-1$ もしくは $(t-1)^2$ のどちらかになります.
同値条件から、対角化可能であるための必要十分条件は $m_A(t)=t-1$ であることです.よって $m_A(t)=(t-1)^2$ は対角化不可能を表します.これはどちらか実際に計算してみればよいです.
$t-1$ に $A$ を代入すると、$A-E=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}\neq O$ ですから、この行列は最小多項式の条件に合いません.よって $A$ は対角化不可能ということになります.

よって、$2\times 2$ 行列が対角化可能であるためには、固有値が互いに異なるか、スカラー行列かどちらかということになります.


B-12-1(6)
$A=\begin{pmatrix}1&2&1\\-1&4&1\\2&-4&0\end{pmatrix}$
とします.$\Phi_A(t)=(t-2)^2(t-1)$ となるので、固有値は$1,2$ です.固有空間を求めてみると、
$W_1=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}0&-2&-1\\1&-3&-1\\-2&4&1\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}=\left\langle\begin{pmatrix}1\\1\\-2\end{pmatrix}\right\rangle$
となり、
$W_2=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}1&-2&-1\\1&-2&-1\\-2&4&2\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}=\left\langle\begin{pmatrix}2\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}\right\rangle$
よって、次元を計算すれば、$2+1=3$ となり対角化可能となります.これらの3つのベクトルは固有ベクトルであり、${\Bbb C}^3$ の基底となります.

また、最小多項式は、
$(A-E)(A-2E)=\begin{pmatrix}0&-2&-1\\1&-3&-1\\-2&4&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2&-1\\1&-2&-1\\-2&4&2\end{pmatrix}=O$
となるので、$m_A(t)=(t-1)(t-2)$ となり、対角化の条件を満たしますね.

2015年1月14日水曜日

線形代数II演習(第11回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

今日は
  • 固有値、固有ベクトル、固有空間の計算

を行いました.
これらの計算では以下のように行います.

固有値、固有多項式
 線形変換 $F:V\to V$ に対して、あるゼロではないベクトル ${\bf v}$ が存在して、$F({\bf v})=\lambda{\bf v}$ が成り立つ時、$\lambda$ を固有値と言います.
この固有値を求めるには次のような固有多項式を計算する必要が有ります.

まず、$V$ の基底 ${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n$ をとってきます.その基底に関して、表現行列 $A$ を計算します.つまり $A$ は $F({\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n)=({\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n)A$ です.

この$A$の固有多項式 $\Phi_A(t)=\det(tE-A)$ を線形変換 $F$ の固有多項式と言います.
線形変換 $F$ の固有値は全て、この多項式 $\Phi_A(t)$ の根、つまり $\Phi_A(t)=0$ の解になっていて、逆にこの解は $F$ の固有値にもなっています.

ここで注意すべきことは、固有値の計算において、$V$ の基底を選んでやって表現行列 $A$ を作りましたが、計算される固有多項式 $\Phi_A(t)$ は基底の取り方に依らないということです.

これにはどんな意味があるかというと、
基底を選んだということは、その空間の座標軸をとったということです.座標軸を導入した理由としては、目盛を入れて数値化して、数として認識することがあげられます.線形写像は、どのような目盛を入れるかによって性質が異なるわけでは有りません.ただし、人為的に入れた目盛による表現行列は変わるかもしれません.固有値も、定義から、その値がどのような目盛をいれるかには関係がないはずですから、固有多項式も入れる基底には依存しないはずなのです.
だから、$\Phi_A(t)$ と書かずに $\Phi_F(t)$ と書いた方がいいくらいです.

もっと言えば、固有値を計算しやすくするためには基底をそれに合わせて変えてやってもいいわけです.そうすると、標準基底がいい基底とは限らなくなってきます.
計算しやすい良い基底は線形写像によって変わってくるのです.


ちょっと脱線したのでまとめると、固有値を求めるためには、適当な基底を選んで、その表現行列の固有多項式を計算する.その多項式 $\Phi_A(t)$ の根が固有値となる.

固有値は基底の取り方に依らない、$F$ 本来の性質に由来するものである.


固有ベクトルと固有空間
 固有ベクトルとは、固有値 $\lambda$ に対して、存在するゼロではないベクトル ${\bf v}$ で、$F({\bf v})=\lambda{\bf v}$ を満たすベクトルのことです.
固有値 $\lambda$ に対して $F({\bf v})=\lambda {\bf v}$ を満たす ${\bf v}$ 全体がどれほどあるか求めなければならないことが有ります.それを固有空間と言います.つまり、$\lambda$ に対して、
$$W_\lambda=\{{\bf v}\in V|F({\bf v})=\lambda{\bf v}\}$$
を $\lambda$ に対する(付随する)固有空間といいます.この集合は $V$ の部分ベクトル空間であり、次元は $1$ 以上あります.これは宿題に出しましたので定義にしたがって解いてください.

固有空間のあたりの演習をすると、必ずレポートに見受けられるのは、固有空間を計算した結果 0 次元ベクトル空間にしてしまうことです.上に書いたように固有空間が0次元ベクトル空間になることはありません.(どこかで計算まちがいなどしているというこですが.)少々の書き間違えや計算ミスをすると、0次元ベクトル空間になってしまいますので、このことは逆に計算のチェックになるかと思います.

普段からレポートを書いたら、計算の見直しなどチェックすることはお勧めしますが.

次元が $1$ 次元以上になることは固有値の定義からすぐわかることですが、そうした確認のために宿題にしました.


授業中にやった例をもう一度やっておきます.
B-11-1(2)

$F:{\Bbb C}^2\to {\Bbb C}^2$ で、標準基底による表現行列 $A=\begin{pmatrix}2&1\\4&-3\end{pmatrix}$ の場合.
固有多項式を計算すると、
$$\det\begin{pmatrix}t-2&-1\\-4&t+3\end{pmatrix}=(t-2)(t+3)-4=t^2+t-10$$
となります.よって、固有値は
$$\frac{-1+\sqrt{41}}2,\frac{-1-\sqrt{41}}2$$
です.これ以降計算はこのままだとややこしいのでそれぞれ順番に $\alpha,\beta$ としておきます.
固有ベクトルを求めるには固有空間を先にもとめるとよいです.

$$W_\alpha=\left\{{\bf v}\in {\Bbb C}^2|\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\-4&\alpha+3\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}$$
$$W_\beta=\left\{{\bf v}\in {\Bbb C}^2|\begin{pmatrix}\beta-2&-1\\-4&\beta+3\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}$$
この行列を簡約化して連立一次方程式を解けばよいです.第1行に $\frac4{\alpha-2}$ をかけて第2行に足します.そうすると、
$\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\-4&\alpha+3\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\0&\alpha+3-\frac4{\alpha-2}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\0&\frac{\alpha^2+\alpha-10}{\alpha-2}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\0&0\end{pmatrix}$
となり、rank=1 の行列が表れます.

これは、どうしてかというと、$W_\alpha$ は少なくとも1次元以上はあり(今回の宿題)、2次元はありません.
どうして2次元ないかというと、 同じように$W_\beta$ の方も1次元以上ありますか $W_\alpha$ の方で2次元全部場所をとってしまうことはないからです.

正確にいえば、$\lambda,\eta$ が異なる固有値であれば、
$W_\lambda+W_\eta$ は直和として、$W_\lambda\oplus W_{\eta}$ となるのです.
要するに $W_\lambda\cap W_\eta=\{{\bf 0}\}$ となるのです.これは次回のB-問題として出してみようと思います.

元に戻ると、$1\le \dim(W_\alpha)<2$ なので、$\dim(W_\alpha)=1$ が成り立つはずです.
そうすると、次元公式 ($\dim(W)=n-\text{rank}(F)$ )から、$\text{rank}(F)=1$ つまり、$\text{rank}\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\-4&\alpha+3\end{pmatrix}=1$ となるから、
ベクトル $\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}-4&\alpha+3\end{pmatrix}$ は平行でなければならないのです.

このようなちょっとしたテクニックで、
$\begin{pmatrix}\alpha-2&-1\\-4&\alpha+3\end{pmatrix}\to\begin{pmatrix}-4&\alpha+3\\0&0\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&\frac{\alpha+3}{-4}\\0&0\end{pmatrix}$
とすぐさま簡約化ができます.
ゆえに、  $W_\alpha=\langle\begin{pmatrix}\alpha+3\\4\end{pmatrix}\rangle=\langle\begin{pmatrix}5+\sqrt{41}\\8\end{pmatrix}\rangle$
なので、固有ベクトルは、
$\begin{pmatrix}5+\sqrt{41}\\8\end{pmatrix}$
となります.
同じように $W_\beta$ の方も求めることができるでしょう.

B-11-1(6)
この線形写像の固有値、固有空間を求めてみます.
まず、基底 $1,x,x^2$ をとって表現行列を求めてみると、
$F(1)=0-2\cdot 1=-2$, $F(x)=1-2(2x)=1-4x$, $F(x^2)=2x-2(2x)^2=2x-8x^2$ となります.
そうすると、表現行列は
$$F(1,x,x^2)=(1,x,x^2)\begin{pmatrix}-2&1&0\\0&-4&2\\0&0&-8\end{pmatrix}$$
となります.
よって、固有多項式は、$(t+2)(t+4)(t+8)$ となるから、固有値は $-2,-4,-8$ となります.

このように、固有値が3つ現れましたから、上で考慮した固有空間の次元に関することを3次元において考えると、固有空間も1次元ずつあることになります.

$W_{-2}=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}0&-1&0\\0&2&-2\\0&0&6\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}$
$W_{-4}=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}-2&-1&0\\0&0&-2\\0&0&4\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}$
$W_{-8}=\left\{{\bf v}|\begin{pmatrix}-6&-1&0\\0&-4&-2\\0&0&0\end{pmatrix}{\bf v}={\bf 0}\right\}$

となり、 $W_{-2},W_{-4},W_{-8}$ の基底を求めることで、固有ベクトルが求まります.
あとは皆さんに任せることにします.

2015年1月11日日曜日

微積分II演習(第11回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

HPに行く.

今日は $n$次元球面の体積を計算しました.(途中になってしまいました.)

スカラー値の関数の線積分、面積分、体積積分についてもまとめました.
スカラー値関数とは単なる関数のことで、例えば3次元空間では、$f(x,y,z)$ のことです.

線積分はある曲線に沿った積分. 
$\int_CfdC=\int_{t_0}^{t_1}f(x(t),y(t))|C'(t)|dt$
面積分はある曲面に沿った積分.
$\int_SfdS=\int\int_Df(x(u,v),y(u,v),z(u,v))|S_u\times S_v|dudv$
体積積分はある立体に沿った積分.
$\int_VfdV=\int\int\int_Df(x(s,t,u),y(s,t,u),z(s,t,u),w(s,t,u))|V_s\wedge V_t\wedge V_u|dsdtdu$
$n$次元体積積分はある$n$次元対象に沿った積分.
$\int_VfdV=\int\int_Df(x(s,t,u,...),y(s,t,u,...),z(s,t,u,...),w(s,t,u,...),..)|V_s\wedge V_t\wedge V_u\wedge...|dsdtdu...$

この $|S_u\times S_v|dudv$ の部分は、平面 $S$ 上の微小区間で、$|S_u\times S_v|$ は $S$ 上の微小区間と、積分を実行する $(u,v)$-平面の微小区間の比を意味します.

高次元の極座標
 ${\Bbb R}^n$ の極座標は以下のようになります.
$$\begin{cases}
x_1=r\cos\theta_1\\
x_2=r\sin\theta_1\cos\theta_2\\
x_3=r\sin\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_3\\
\cdots\\
x_{n-1}=r\sin\theta_1\cdots\sin\theta_{n-2}\cos\theta_{n-1}\\
x_n=r\sin\theta_1\cdots\sin\theta_{n-2}\sin\theta_{n-1}\end{cases}$$

これは、回転体を次々に考えることでちゃんとわかります.演習の授業でやりました。

とりあえず、演習の宿題を書くために宿題を書きます.
${\Bbb R}^4$ の中の 3次元球面 $S^3_r$ の体積を計算します.

$$S^n_r=\{(x_1,x_2,\cdots,x_{n+1})\in {\Bbb R}^{n+1}|x_1^2+x_2^2+\cdots+x_{n+1}^2=r^2\}$$
とします.また、球体の方も定義しておきます.
$$S^n_r=\{(x_1,x_2,\cdots,x_{n})\in {\Bbb R}^{n}|x_1^2+x_2^2+\cdots+x_{n}^2\le r^2\}$$

$$\begin{cases}
x=r\cos\theta_1\\
y=r\sin\theta_1\cos\theta_2\\
z=r\sin\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_3\\
w=r\sin\theta_1\sin\theta_{2}\sin\theta_3
\end{cases}$$

としておきます.$S^3_r$ を計算します.
$V=(x,y,z,w)$ とします.それぞれのパラメータの偏微分を計算します.
$V_{\theta_1}=(x_{\theta_1},y_{\theta_1},z_{\theta_1},w_{\theta_1})$
$V_{\theta_2}=(x_{\theta_2},y_{\theta_2},z_{\theta_2},w_{\theta_2})$
$V_{\theta_3}=(x_{\theta_3},y_{\theta_3},z_{\theta_3},w_{\theta_3})$
としておきます.

さらに、
$$V_{\theta_1}\wedge V_{\theta_2}\wedge V_{\theta_3}=(X,Y,Z,W)$$
を次のように定義します.
$X=\begin{pmatrix}
y_{\theta_1}&z_{\theta_1}&w_{\theta_1}\\
y_{\theta_2}&z_{\theta_2}&w_{\theta_2}\\
y_{\theta_3}&z_{\theta_3}&w_{\theta_3}\\
\end{pmatrix}$
$Y=-\begin{pmatrix}
x_{\theta_1}&z_{\theta_1}&w_{\theta_1}\\
x_{\theta_2}&z_{\theta_2}&w_{\theta_2}\\
x_{\theta_3}&z_{\theta_3}&w_{\theta_3}\\
\end{pmatrix}$
$Z=\begin{pmatrix}
x_{\theta_1}&y_{\theta_1}&w_{\theta_1}\\
x_{\theta_2}&y_{\theta_2}&w_{\theta_2}\\
x_{\theta_3}&y_{\theta_3}&w_{\theta_3}\\
\end{pmatrix}$
$W=-\begin{pmatrix}
x_{\theta_1}&y_{\theta_1}&z_{\theta_1}\\
x_{\theta_2}&y_{\theta_2}&z_{\theta_2}\\
x_{\theta_3}&y_{\theta_3}&z_{\theta_3}\\
\end{pmatrix}$



このとき、$(3,3)$行列を次のように置きます.
$\begin{pmatrix}
V_{\theta_1}\cdot  V_{\theta_1}&V_{\theta_1}\cdot  V_{\theta_2}&V_{\theta_1}\cdot  V_{\theta_3}\\
V_{\theta_2}\cdot  V_{\theta_1}&V_{\theta_2}\cdot  V_{\theta_2}&V_{\theta_2}\cdot  V_{\theta_3}\\
V_{\theta_3}\cdot  V_{\theta_1}&V_{\theta_3}\cdot  V_{\theta_2}&V_{\theta_3}\cdot  V_{\theta_3}
\end{pmatrix}$

宿題-11-1は、
$|V_{\theta_1}\wedge V_{\theta_2}\wedge V_{\theta_3}|^2=X^2+Y^2+Z^2+W^2$
$$\det\begin{pmatrix}V_{\theta_1}\cdot  V_{\theta_1}&V_{\theta_1}\cdot  V_{\theta_2}&V_{\theta_1}\cdot  V_{\theta_3}\\V_{\theta_2}\cdot  V_{\theta_1}&V_{\theta_2}\cdot  V_{\theta_2}&V_{\theta_2}\cdot  V_{\theta_3}\\V_{\theta_3}\cdot  V_{\theta_1}&V_{\theta_3}\cdot  V_{\theta_2}&V_{\theta_3}\cdot  V_{\theta_3}\end{pmatrix}$$

に等しいことを示せ.

です.
また、この後ヤコビアンとの関係を授業では見ましたが、途中で混乱したのでここで整理しておきます.

$J=\begin{pmatrix}\cos\theta_1&\sin\theta_1\cos\theta_2&\sin\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_3&\sin\theta_1\sin\theta_{2}\sin\theta_3\\x_{\theta_1}&y_{\theta_1}&z_{\theta_1}&w_{\theta_1}\\x_{\theta_2}&y_{\theta_2}&z_{\theta_2}&w_{\theta_2}\\x_{\theta_3}&y_{\theta_3}&z_{\theta_3}&w_{\theta_3}\\\end{pmatrix}$

この行列式 $|J|$ は
$|J|=X\cos\theta_1+Y\sin\theta_1\cos\theta_2+Z\sin\theta_1\sin\theta_2\cos\theta_3+W\sin\theta_1\sin\theta_{2}\sin\theta_3$
ですが、
$|J|=\sqrt{X^2+Y^2+Z^2+W^2}$ と等しくなります.
というのも
$|J|=(X,Y,Z,W)\cdot(\cos\theta_1,\sin\theta_1\cos\theta_2,\sin\theta_1\cos\theta_2,\sin\theta_1\sin\theta_{2}\sin\theta_3)$
です.
また、
$(\cos\theta_1,\sin\theta_1\cos\theta_2,\sin\theta_1\cos\theta_2,\sin\theta_1\sin\theta_{2}\sin\theta_3)$
は $\frac{V}{r}$ なので、$V$ の方向を向いています.
また、このベクトルは長さが $1$ であることは確認しておきましょう.

さらに、$(X,Y,Z,W)\cdot V_{\theta_1}=0$ かつ $(X,Y,Z,W)\cdot (V_{\theta_2})=0$ かつ $(X,Y,Z,W)\cdot V_{\theta_3}=0$ が成り立ちます.

何故かというと、
$(X,Y,Z,W)\cdot V_{\theta_i}=\det\begin{pmatrix}V_{\theta_i}\\V_{\theta_1}\\V_{\theta_2}\\V_{\theta_3}\end{pmatrix}$
が成り立ちます.
右辺を第1行に沿って展開してみてください.左辺が得られるはずです.
そして、$i=1,2,3$ のとき、右辺はいつでも $0$ になります.$(4,4)$ 行列に同じ行ベクトルが表れるからですが.

そうすると、$V_{\theta_1}$ と $V_{\theta_2}$ と $V_{\theta_3}$ は $S_r^3$ の3次元の接空間の方向を向いています.接空間の基底をなしています.
よって、$(X,Y,Z,W)$ は$S^3_r\subset {\Bbb R}^4$ の接平面に直交します.
つまり、$V$ に平行なわけです.

だから、内積の ${\bf u}\cdot {\bf v}=|{\bf u}||{\bf v}|\cos\theta$ の公式を用いて、
(今は$\theta=0$ です.)

$$|J|=(X,Y,Z,W)\cdot(\cos\theta_1,\sin\theta_1\cos\theta_2,\sin\theta_1\cos\theta_2,\sin\theta_1\sin\theta_{2}\sin\theta_3)=\sqrt{X^2+Y^2+Z^2+W^2}|\frac{V}{r}|=\sqrt{X^2+Y^2+Z^2+W^2}$$
となるわけです.

一般の場合も同じ定義の元
$|J|=\sqrt{X^2+Y^2+Z^2+\cdots}$
となることが予想されますね.

宿題-11-2は
一般の $n$ 次元の極座標のヤコビアンを計算してください.

帰納法で行うとよいと思います.
$S^{n-1}_r$ から回転体を作る方法から $S^n_r$ を作りましたが、
そのとき、ヤコビ行列がどのように増えたか見ることでヤコビアンを計算することができるはずです.

宿題-11-3は
同じ問題です.

前の問題はトーラスの表面積でしたが、今回は体積を計算してください.

2015年1月9日金曜日

微積分II演習(第10回)後半

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]


曲面積

第10回の前半では線積分を行いました.対応して面積分というものもあります.
とりあえず、用意するのは空間の中の曲面 $S$ と空間上の関数 $f(x,y,z)$ です.
そのとき、面素 $dS$ というのを、定義することができます.

その前に曲線の時のように $S$ にパラメータを導入する必要があります.
それを、 $S(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v))$ とします.曲線の時と違ってパラメータが2つあるのは曲面の自由度が2個あるからです.このパラメータは、$(u,v)$-平面のある領域から、空間の $S$ への一対一の連続写像であることがわかります.つまり
$$\{(u,v)\text{-平面}\}\supset D \to S\subset {\Bbb R}^3$$
となります.

これは曲線が数直線上のある線分からの連続写像としてパラメータづけがあることからすれば極自然なことです.

このとき、面積分は、このパラメータを使って
$$\int_Df(S(u,v))\left|S_u\times S_v\right|dudv$$
と定義されます.

ところで、$S_u,S_v$ はベクトル値関数 $S(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v))$ の偏微分で、
$S_u=(x_u,y_u,z_u)$ かつ $S_v=(x_v,y_v,z_v)$ です.
さらに、$\times$ はベクトル積で、線形代数で登場するものですが、ここでは、
$$S_u\times S_v=\det\begin{pmatrix}{\bf e}_1&{\bf e}_2&{\bf e}_3\\x_u&y_u&z_u\\x_v&y_v&z_v\end{pmatrix}$$
を意味します.
ここで、${\bf e}_1,{\bf e}_2,{\bf e}_3$ は ${\Bbb R}^3$ 上の標準基底です.つまり、上の式の意味は、第一行に沿って展開してやることで、$S_u\times S_v$ は
$$S_u\times S_v=\left(\det\begin{pmatrix}y_u&z_u\\y_v&z_v\end{pmatrix},-\det\begin{pmatrix}x_u&z_u\\x_v&z_v\end{pmatrix},\det\begin{pmatrix}x_u&y_u\\x_v&y_v\end{pmatrix}\right)$$
$$=\left(\det\begin{pmatrix}y_u&z_u\\y_v&z_v\end{pmatrix},\det\begin{pmatrix}z_u&x_u\\z_v&x_v\end{pmatrix},\det\begin{pmatrix}x_u&y_u\\x_v&y_v\end{pmatrix}\right)$$

この面積分の特徴は、線積分の時と同じようにパラメータの取り方に依らず、${\Bbb R}^3$ に埋め込まれた曲面の形状と、その周りの関数 $f(x,y,z)$ にしか依りません.

$$\int_Sf\cdot dS$$
と書くことがあります.ここにでてくる $dS$ が面素というやつです.これは、積分をするときに後ろにつける $dx$ とか、$dxdy$ とかそういうたぐいの微小量のことです.微小単位といってもよいですが、 $S$ が曲がった曲面の場合は曲がり具合に合わせて変わります.
上の計算では、これは、$\left|S_u\times S_v\right|dudv$ と計算されるものであり、パラメータ表示で曲面を表示したときに、 $(u,v)$-平面の微小量 $dudv$ を $\left|S_u\times S_v\right|$ だけ引き延ばしたものです. 言い換えれば、$dudv$ は $(u,v)$-平面の微小な単位区画のことであり、 $\left|S_u\times S_v\right|$ はそれを、パラメータの写像で写したときに、引き延ばされる面積の割合だと思ってください.
$$(1,0)\to S_u,\ \ \ (0,1)\to S_v$$
のように引き延ばされるので、 面積として $|S_u\times S_v|$ だけ引き延ばされるのです.


ところで、演習の授業では空間の中の曲面の面積を求めることを行いました.
$S$ の面積を求めることは、今の説明の中では、$f(x,y,z)=1$ となる関数の面積分を行ったことに対応します.$S$ の上の高さ $1$ の $S$-柱の体積を求めていると思えばこれまた然りです.

$S_u\times S_v$ は $S_u$ と $S_v$ と直交し、その長さは、$S_u$ と $S_v$ で作られる空間内の平行四辺形の面積と一致します.このことについては最後に書いています.

$$|S_u\times S_v|^2=\left(\det\begin{pmatrix}y_u&z_u\\y_v&z_v\end{pmatrix}\right)^2+\left(\det\begin{pmatrix}z_u&x_u\\z_v&x_v\end{pmatrix}\right)^2+\left(\det\begin{pmatrix}x_u&y_u\\x_v&y_v\end{pmatrix}\right)^2=(x_u^2+y_u^2+z_u^2)(x_v^2+y_v^2+z_v^2)-(x_ux_v+y_uy_v+z_uz_v)^2\hspace{2cm} (\ast)$$
となります.

これは、 $|S_u\times S_v|$ は $S_u$ と $S_v$ で作られる平行四辺形の面積なので、$|S_u\times S_v|^2=|S_u|^2|S_v|^2\sin^2\theta$ です.ここで $\theta$ は二つのベクトルの間の角度です.
高校のときに、2辺の長さ $a,b$ と間の角が $\theta$ の三角形の面積は
$$\frac{1}{2}ab|\sin\theta|$$
と習ったでしょう.平行四辺形は三角形2つ分だから、 $ab|\sin\theta|$ となるわけです.

これをさらに変形すれば、$|S_u|^2|S_v|^2(1-\cos^2\theta)=|S_u|^2|S_v|^2-|S_u|^2|S_v|^2\cos^2\theta=|S_u|^2|S_v|^2-(S_u\cdot S_v)^2$
となるからです.

ここで、$E=|S_u|^2$ と $F=S_u\cdot S_v$, $G=|S_v|^2$ と置けば、
$|S_u\times S_v|^2=EG-F^2$ となります.

それで、 $|S_u\times S_v|=\sqrt{EG-F^2}$ となります.
なので、授業で説明なしに教えた公式は、空間内の曲面の面積は
$$\int\int_D\sqrt{EG-F^2}dudv$$
となるわけです.今までのことからして、面積の計算は曲面の面積はパラメータの取り方に依らないのです.

宿題に出したトーラス(ドーナツ)の面積も、どんなパラメータ表示をしても値は変わりません.つまり曲面の面積は、空間に埋め込まれた曲面の形状にしか依らない幾何学的な量と言えます.特にこのように計算した面積は、図形を平行移動をしたり回転をしても変わりません.

しかし、面積がわかったからと言って図形がわかるとも限りません.

今計算した、$E,F,G$ は、曲面の第一基本量といいます.
また、この $E,F,G$ を
$$I=Edu^2+2Fdudv+Gdv^2$$
と書いて第一基本形式といいます.

この形式は、形式は形式でも、微分形式の形式とは少し違うものです.
説明はここではすぐに出来ないのでまたどこか他の場所で.

ちなみに、名前から推察するに第一基本形式以外にも第二基本形式というのもあります.実は第一基本形式は曲面の曲がり方(ガウス曲率)と深くかかわっていますが、第二基本形式は曲面の ${\Bbb R}^3$ への埋め込まれ方としての曲がり方、面積とかかわる曲率(平均曲率)と関係します.

第一基本量や第二基本量のそれぞれは、座標の取り方によって変わってくる量です.つまり、基本量をそれぞれを見ても幾何学的な面白さは見えてきません.しかし、それを組み合わせて曲率(ここでは曲率そのものを定義していないので少々苦しいのですが....)とすると、それは座標の取り方に依らなくなるのです.組み合わせないとそのような大事な量が取り出せないのですが、やはり大事なことは見えにくいという世の中の真理を突いているのでしょうか.

どちらの曲率も現在の"微分幾何学"の研究において、主要な役割を果たしています.
これらに関しては2年生以降で幾何学の授業で習ってください.

ここでは、とりあえず曲面の面積が上のようにして重積分として求められればよいです.

演習の授業でも取り上げた曲面積の計算をここでもやっておきます.
$z=x^2+y^2$ となる空間内のグラフの $x^2+y^2\le r^2$ での部分での面積を求めてみます.
定義から、$D=\{(x,y)|x^2+y^2\le r^2\}$ とし、$S(x,y)=(x,y,x^2+y^2)$ としますと、
$E=1+4x^2, G=1+4y^2$ $F=4xy$ となります.
$EG-F^2=(1+4x^2)(1+4y^2)-(4xy)^2=1+4x^2+4y^2$

ゆえに、極座標 $x=s\cos\theta,y=s\sin\theta$ をして曲面積を計算をすれば、
$$\int\int_D\sqrt{1+4x^2+4y^2}dxdy=\int_0^{2\pi}\int_0^r\sqrt{1+4s^2}sdsd\theta=2\pi\int_0^r\sqrt{1+4s^2}sds$$
$$=2\pi\frac{1}{8}\left[\frac23(1+4s^2)^{\frac32}\right]_0^r=\frac{\pi}{6}\left((1+4r^2)^{\frac32}-1\right)$$
となります.



$S_u\times S_v$ の長さが空間内の $S_u,S_v$ で作られる平行四辺形の面積であること.
 ${\bf f}\in{\Bbb R}^3$ を$S_u,S_v$ の両方に垂直な長さが $1$ のベクトルとします. $\det\begin{pmatrix}{\bf f}\\S_u\\S_v\end{pmatrix}$ はこれらのベクトルを並べてできる行列の行列式とします.
そうすると、この行列式は、$\{{\bf e},S_u,S_v\}$ で作られる平行六面体の体積 $V$ と一致します.これは春学期の授業に登場しました.この平行六面体は平行四辺柱であり、高さが1なので、$V$は底面の平行四辺形の面積と一致します.また、行列式を展開すれば
$$\det\begin{pmatrix}{\bf f}\\S_u\\S_v\end{pmatrix}=f_1\det\begin{pmatrix}y_u&z_u\\y_v&z_v\end{pmatrix}+f_2\det\begin{pmatrix}z_u&x_u\\z_v&x_v\end{pmatrix}+f_3\det\begin{pmatrix}x_u&y_u\\x_v&y_v\end{pmatrix}$$
となります.${\bf f}=(f_1,f_2,f_3)$ とします.
この式は内積を使うことで、 ${\bf f}\cdot (S_u\times S_v)=|{\bf f}||S_u\times S_v|\cos\varphi$ と書けます.$|{\bf f}|=1$ であり、${\bf e}$ も $S_u\times S_v$ $S_u$ と $S_v$ の両方に垂直なベクトルですので、 $\varphi=0$ が成り立ちます.
結局のところ、$V=|S_u\times S_v|$ となるわけです.これは平行四辺形の面積でもあるので、上の表題のことがなりたつのです.

2015年1月7日水曜日

線形代数II演習(第10回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

今日は、シュミットの直交化について行いました.
  • 正射影ベクトルの作り方.
  • シュミットの直交化
の2本立てでした.
正射影ベクトル
 ベクトル ${\bf v}\in V$ のベクトル ${\bf w}\neq {\bf  0}$ への正射影ベクトル ${\bf a}$ とは、${\bf w}$ に平行で、${\bf v}-{\bf a}$ が ${\bf w}$ に直交するものをいいます.
そのようなベクトルはただ一つ定まります.
正射影

 つまり、${\bf v}={\bf a}+({\bf  v}-{\bf a})$ と分解すると、
${\bf a}$ は ${\bf w}$ に平行な成分、${\bf v}-{\bf a}$ は ${\bf w}$ に直交する成分です.
なのでこの分解は、ベクトル ${\bf v}$ を、あるベクトル ${\bf w}$ とそのベクトルに直交する成分に分けたものということになります.${\bf a}$ はどのように求めるかというと、
まず、${\bf w}$ に平行ですから、${\bf a}=k{\bf w}$ と書けます.
そして、直交条件から、$({\bf v}-k{\bf w},{\bf w})=0$ です.
つまり、内積の線形性から、 $({\bf v},{\bf w})=k\cdot({\bf w},{\bf w})$ となり、
$$k=\frac{({\bf v},{\bf w})}{({\bf w},{\bf w})}=\frac{({\bf v},{\bf w})}{||{\bf w}||^2}$$
となります.
よって、ベクトル空間 $V$ を直交直和分解として、$V=\langle {\bf w}\rangle\oplus \langle {\bf w}\rangle^{\perp}$
と分解したときのそれぞれの成分が ${\bf a}$ と ${\bf v}-{\bf a}$ となるわけです.
まとめれば、${\bf v}$ の ${\bf w}$ への正射影は $\frac{({\bf v},{\bf w})}{||{\bf w}||^2}{\bf w}$ となります. 
シュミットの直交化
 正射影を用いてシュミットの直交化を行います.シュミットの直交化はある一次独立なベクトル
$${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots, {\bf v}_n$$
に対して、ある、互いに直交化されたベクトル
$${\bf w}_1,{\bf w}_2,\cdots, {\bf w}_n$$
を作ることです.互いに直交化されたベクトルとは、$i\neq j$ に対して $({\bf w}_i,{\bf w}_j)=0$
となることです.
さらに直交されたベクトルはその長さで割ることで、
$${\bf e}_1,{\bf e}_2,\cdots,{\bf e}_n$$
となります.つまり、${\bf e}_i=\frac{{\bf w}_i}{||{\bf w}_i||}$ です.
また、この直交化は、その性質から
$$\langle {\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n\rangle=\langle {\bf w}_1,{\bf w}_2,\cdots,{\bf w}_n\rangle$$
$$=\langle {\bf e}_1,{\bf e}_2,\cdots,{\bf e}_n\rangle$$
を満たします.
もとの ${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n$ が基底であるなら、
${\bf w}_1,{\bf w}_2,\cdots,{\bf w}_n$ は直交基底となり、
${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n$ は正規直交基底となります.
この直交化は以下のようにして行います.
特徴として、${\bf w}_i$ は ${\bf v}_i$ を修正する形で行います.
  1. ${\bf w}_1={\bf v}_1$
  2. ${\bf w}_2={\bf v}_2-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}{\bf w}_1$. つまり、 ${\bf v}_2$ の成分のうち ${\bf w}_1$ に直交する成分だけ取り出しているのです.それ以外の ${\bf w}_1$ に平行な成分は正射影です.
    よって、$({\bf w}_2,{\bf w}_1)=({\bf v}_2-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}{\bf w}_1,{\bf w}_1)=({\bf v}_2,{\bf w}_1)-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}({\bf w}_1,{\bf w}_1)=0$
    が成り立ちます.
  3. ${\bf w}_3={\bf v}_3-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}{\bf w}_1-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_2)}{||{\bf w}_2||^2}{\bf w}_2$ です.これは、 ${\bf w}_1$ に平行な成分の他に ${\bf w}_2$ に平行な成分も抜いたものです. 実際、
    $({\bf w}_3,{\bf w}_1)=({\bf v}_3-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}{\bf w}_1-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_2)}{||{\bf w}_2||^2}{\bf w}_2,{\bf w}_1)=({\bf v}_3,{\bf w}_1)-\frac{({\bf v}_3,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}({\bf w}_1,{\bf w}_1)=0$
    かつ、
    $({\bf w}_3,{\bf w}_2)=({\bf v}_3-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}{\bf w}_1-\frac{({\bf v}_2,{\bf w}_2)}{||{\bf w}_2||^2}{\bf w}_2,{\bf w}_2)=({\bf v}_3,{\bf w}_2)-\frac{({\bf v}_3,{\bf w}_2)}{||{\bf w}_2||^2}({\bf w}_2,{\bf w}_2)=0$
  4. これを繰り返して、
    ${\bf w}_i={\bf v}_i-\frac{({\bf v}_i,{\bf w}_1)}{||{\bf w}_1||^2}{\bf w}_1-\cdots-\frac{({\bf v}_{i-1},{\bf w}_{i-1})}{||{\bf w}_{i-1}||^2}{\bf w}_{i-1}$
    とすると、同じように $({\bf w}_i,{\bf w}_j)=0\ \ (j<i)$ がなりたちます. 
シュミットの直交化の図形的な意味については下に書いた絵を見てください.



$v_2$ から $w_1$ に平行な成分(正射影ベクトルの分)を抜いて$w_2$ にしたところ.
${\bf v}_2$ と ${\bf w}_1$ は最初の段階では直交していませんが、正射影ベクトルの成分の分だけ引いてやって ${\bf w}_2$ を作ってやると、 ${\bf w}_1$ と ${\bf w}_2$ は直交しています.
要は、適当な(直交しているとは限らない)ベクトルに対して、次々と、${\bf v}_i$ を直して${\bf w}_1,{\bf w}_2,\cdots,{\bf w}_{i-1}$ に直交するようにベクトルを直して(立てて)いく操作がシュミットの直交化ということになります.
例については宿題にも出しましたのでここでは省略します.宿題が解けないという人がいましたらここで少し書きます.

微積分II演習(第10回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

おめでとうございます.今年最初のブログです.
去年残したところを書いていきます.

今日は
  • 線積分、グリーンの公式。
  • 面積分、第一基本量

などをやりました。

線積分

 線積分とは、平面上の曲線上に沿った、$f(x,y)dx+g(x,y)dy$ の形の$dx,dy$ つきの"関数"の積分のことです.この$dx,dy$ つきの関数をどのように解釈するかということは微積の範囲では難しいです.
普通、積分は $\int (\cdots)dx$ などと最後にまとめて $dx$ が付くのが普通ですが積分の中に $dx$ や $dy$ の1次式が入っています.

こういう形の式 $f(x,y)dx+g(x,y)dy$ を1次形式といいます.つまり、$dx$ と $dy$ の1次式で、係数が関数のものをいいます.だから2次形式とは $dx,dy$ の2次式で係数が関数の式です.このような形の式を微分形式と言います.初めて出てくるのはベクトル解析です.
筑波大の授業では、ベクトル解析と幾何(演習)などで習うのではないでしょうか?

この線積分は何かというと、曲線 $C$ をパラメータ表示 $C(t)=(x(t),y(t))\ \ (t_0\le t\le t_1)$ としておき、
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_{t_0}^{t_1}\left(f(x(t),y(t))\frac{dx}{dt}+g(x(t),y(t))\frac{dy}{dt}\right)dt$$
の値です.プリントにも書きましたが、この値は、曲線のパラメータを表示することによって計算されますが、そのパラメータの表示の方法に依らないという特徴があります.

例えば、単位円 $\{(x,y)|x^2+y^2=1\}$ なる集合上で積分する場合には、
$(\cos t,\sin t)$ で計算しようが、円を $(x,\pm\sqrt{1-x^2})$ のように2つに分けて、それぞれわけて計算しようが、線積分の値は変わらないのです.その証明はプリントに書きましたので省略します.
ただし、 $C$ には向きが入っています.事前に決めておく必要があります.$C$ の向きを逆向きにすれば、積分も $-1$ 倍になります.積分の始点と終点を逆にすれば $-1$ 倍になるようなものです.このように、向きが入った曲線のことを有向曲線といいます.

思い切ってまとめれば、1次形式の積分は(微分形式とは何かということを知る必要がありますが...)、計算するには曲線のパラメータ(座標というかその位置)の情報がいるが、値そのものにはそのパラメータには依らないのです.

パラメータの取り方に依らないということは、曲線にどのような座標が入るかということではなく、曲線がどのような形をしているかにしか依らないということです.


そうすると。。。

微分形式は座標に依らない図形の形を認識できるのではないだろうか?
このアイデアに幾何学者は萌えるわけです.
幾何学者(およびトポロジスト)は図形そのものがもつ性質に興味があります.
トポロジストとはトポロジー(位相幾何学)を専門とする研究者のことです.

図形と微分形式の関係は?
など、このような疑問は研究対象として、はっきりと成り立っています.
そのような初学者向けの有名な本として Bott (ボット) とTu(トゥー) の
微分形式と代数トポロジー(Differential Forms in Algebraic Topology 」があります.
日本語版もあります.

この本はベクトル解析や微積分、線形代数、多様体の初歩など学んだ人
(大体大学3から4年生くらい)向けですが、大変面白い本です.
私も学生の頃にセミナーで読みました.
本のタイトルにあるように多様体上の微分形式と、多様体の幾何学的(座標の取り方に依らない)性質に存在する関係を解き明かしていきます.

座標の取り方に依らない性質のことは、物理ではゲージ不変性と言ったりすることもあります.


少し脱線しましたので微積分に戻します.(閑話休題)

ここで計算例を与えてみます.
講義の方で $ydx+xdy$, $-ydx+xdy$ などの線積分を習ったようなので、
定義に従って、これらの単位円上での積分を計算してみます.
$$\int_0^{2\pi}(\sin t\cdot (-\sin t)+\cos t\cdot (\cos t))dt=\int_0^{2\pi}\cos(2t)dt=0$$
$$\int_0^{2\pi}(-\sin t\cdot (-\sin t)+\cos t\cdot (\cos t))dt=\int_0^{2\pi}dt=2\pi$$

グリーンの公式
 グリーンの公式は上の値の意味について考えることができます.
$C$ が単純閉曲線(同じ点に戻ってくる閉じた曲線で途中で交わりがないもの)とします.
このとき、
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_D\left(\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}\right)dxdy$$
となります. $D$ は $C$ で囲まれた領域のことです.

この公式を先ほどの計算に当てはめると、
$$\int_C(ydx+xdy)=\int_D(1-1)dxdy=0$$
$$\int_C(-ydx+xdy)=\int_D(1-(-1))dxdy=2\int_Ddxdy=2\pi$$
最後のイコールは $D$ の面積(つまり半径1の円の面積)を計算していることになりますから $\int_Ddxdy=\pi$ となるわけです.

最初の計算に注目すると、この積分は、半径1でなくても、0になります.つまり、
$C_r=\{(x,y)|x^2+y^2=r^2\}$ としても、
$$\int_{C_r}(ydx+xdy)=\int_{D_r}(1-1)dxdy=0$$
です.また、$C$ が実は閉曲線であればいつでも $0$ になってしまいます.

これはどういうことかというと、微分形式 $ydx+xdy$ に秘密があります.
右辺は、$f=y,g=x$ として、$\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}$ となりますが、
もし、$(f,g)$ がある共通の関数の $F(x,y)$ の偏微分だったらどうでしょうか?
つまり、$(f,g)=\left(\frac{\partial F}{\partial x},\frac{\partial F}{\partial y}\right)$ (これは勾配ベクトル場ですね!)
とすると、グリーンの公式の右辺は、
$\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}=\frac{\partial^2 F}{\partial x\partial y}-\frac{\partial^2 F}{\partial y\partial x}$
となります.この最後の式は $F(x,y)$ が $C^2$ 級であればいつでも0になります.
つまり、線積分の $(f,g)$ がある関数の勾配ベクトルであれば、その上の任意の有向単純閉曲線の積分は0となります.

今の例の場合、$F(x,y)=xy$ が取れますね.その勾配ベクトルは、もう授業で何度もやっていますが、確かに $(y,x)$ になりました.授業でもそのベクトル場を書いたはずなので覚えている人も多いと思います.

この積分が0の現象を定理にしておけば、下のようになります.


定理
ベクトル場 $(f(x,y),g(x,y))$ がある $C^2$ 級関数 $F(x,y)$ の勾配ベクトル場 $\left(\frac{\partial F}{\partial x},\frac{\partial F}{\partial y}\right)$ に等しいとき、
$f(x,y)dx+g(x,y)dy$ の任意の有向単純閉曲線 $C$ の線積分は
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=0$$
となる.


(実はこの逆もある意味成り立つのですが....長くなるのでこれ以上は書きません.参考文献をみてください.)


プリントの例題10-4 について書いておきます.
 $C$ は下の左図のような平面上の円とします.向きもつけておきます.さらに $L$ は真ん中の縦線とします.このとき、$C_1$ をこの円の左半分と $L$ からなる半月状の形の境界.$C_2$ を円の右半分と $L$ からなる半月状の形の境界とします.

$C$, $L$,$C_1,C_2$ の例
$C_1,C_2$ を少し離して書いてありますが、これは図を分かりやすくするためで $C_1,C_2$ はこの $L$ で共有されています.$C_1,C_2$ には $C$ に合わせた向きが入っています.

このとき、例題10-4 は
$$\int_C(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_{C_1}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)+\int_{C_2}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$$
となります.説明としては $C_1$ を $L$ の部分とそれ以外に分けると、
$$\int_{C_1}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)=\int_L(f(x,y)dx+g(x,y)dy)+\int_{C_1-L}(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$$
となります. $C_2$ の方も同じです.そうすると、2つの $\int_L(f(x,y)dx+g(x,y)dy)$ が
登場しますが、実は上の図のように向きが逆に向いています.なので、2つの $L$ 上の積分は0になって $C_1-L$ と $C_2-L$ 上の積分だけが残ります.これを2つ合わせて $C$ 上の積分が出来上がるということなのです.

この等式のミソは共有する線分において積分が相殺するというだけですから、円に限らない任意の閉曲線のこのような分割に対して成り立つことがわかります.


残りの面積分については後ほど書くことにします.

参考文献
  1. Bott and  Tu. Differential Forms in Algebraic Topology, Graduate Texts in Mathematics, Springer
  2. ボット・トゥー, 微分形式と代数トポロジー, シュプリンガー・フェアラーク東京