2016年5月31日火曜日

線形代数続論演習(第5回)つづき

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.


エルミート内積空間

内積空間(計量空間)とは、計量 $(\cdot ,\cdot )$ の入ったベクトル空間のことを言います.

まず、(半線形)双線型性というのは、 $(\cdot ,\cdot ):V\times V\to {\mathbb C}$ が次のように2重に線型性を満たすものを言います.ここでは、内積を考えるため、第二成分への線型性は、反線形(つまり、スカラー倍が複素共役として形式の外に出るようにしたもの)となります.

(a) 第一成分の線型性

  • $({\bf v}_1,{\bf v}_2+{\bf v}_3)=({\bf v}_1,{\bf v}_2)+({\bf v}_1,{\bf v}_3)$
  • $(\lambda{\bf v},{\bf w})=\lambda({\bf v},{\bf w})$

(b) 第二成分の線型性

  • $({\bf v}_1+{\bf v}_2,{\bf v}_3)=({\bf v}_1,{\bf v}_3)+({\bf v}_2,{\bf v}_3)$
  • $({\bf v},\lambda{\bf w})=\bar{\lambda}({\bf v},{\bf w})$

計量とは、この双線型性と、

(c) 対称性
  • $({\bf v},{\bf w})=\overline{({\bf w},{\bf v})}$
と、

(d) 正定値性
  • ${\bf v}\neq 0$ ならば、$({\bf v},{\bf v})$  は正の実数
が成り立つものです.

このような (a,b,c,d)$ が成り立った空間をエルミート内積(計量)空間と言います.

実数をスカラーとする内積空間の場合は、このエルミート性は、普通の線型性(第二成分のスカラー倍が普通に外に出る.また、$({\bf v},{\bf w})=({\bf w},{\bf v})$ 成り立つ.)

$({\bf v},{\bf v})$ は 0 以上の実数ということになりますが、その平方根をノルムといい、
$||{\bf v}||$ と書きます.
正定値性は、ノルムを使って、

$$||{\bf v}||=0\text{ ならば }{\bf v}=0$$
を言います.

このようにすると、ベクトル同士の距離を測ることができるようになります.

つまり、${\bf v}$ と ${\bf w}$ に対して、
$d({\bf v},{\bf w})=||{\bf v}-{\bf w}||$
としてやると、距離の公理、
  1. $d({\bf v},{\bf w})=0$ ならば、${\bf v}={\bf w}$
  2. $||{\bf v}+{\bf w}||\le ||{\bf v}||+||{\bf w}||$ (三角不等式)
が成り立ちます.
つまり、距離の入ったベクトル空間と言えます.



もっとも単純な例は、${\mathbb C}^n$ 上の標準内積です.
$({\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_n)$
$({\bf b}_1,\cdots,{\bf b}_n)$
に対して、
$({\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_n, {\bf b}_1,\cdots,{\bf b}_n)=\sum_{i=1}^na_i\bar{b_i}$ 
とします.
この時、${\mathbb C}^n,(\cdot,\cdot))$ はエルミート内積空間となります.

ここで、上の定義で複素共役をとった意味がわかったと思います.


内積空間の標準化

実は、次の定理が成り立ちます.


定理
$(V,(\cdot,\cdot))$ を $n$ 次元複素エルミート内積空間とします.この時、
$V$ は、 ${\mathbb C}^n$ 上の標準エルミート内積空間に計量同型である.

一般に、2つの内積空間 $V,W$ が計量同型であるとはどういうことかというと、

$F:V\to W$ なる線型同型写像があって、
任意の ${\bf v},{\bf w}\in V$ に対して、

$(F({\bf v}),F({\bf w}))=({\bf v},{\bf w})$

が成り立つということです.

この定理は、あらゆる複素エルミート内積空間は、ある同型写像を使って全て同じと見なせるということです.ただし、ある同型写像を使って座標変換をしなければなりません.

次元が同じベクトル空間があれば、同型写像が作れることは、以前にやりましたが、計量こみでも同じように同型写像が作れることになるのです.

別の言葉で言えば、内積空間は計量同型を除いてただ一つしかない、ともなります.

実内積空間でも同じことが成り立ちます.

直交補空間の求めかた

直交補空間 $W'$ とは、部分ベクトル空間 $W\subset V$ の補空間であり、$W$ のベクトルとは全て直交している空間のことです.



例として、前回のブログ(リンク)で行ったものを用います.



$V={\mathbb C}^3$ とし、$W= \left\langle \begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}\right\rangle$
として、$W$ の直交補空間を求めてみます.

$$V=W\oplus \left\langle \begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\right\rangle$$

だったので
$ \left\langle \begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\right\rangle$

は$W$ の補空間となります.しかし、直交補空間ではありません.
補空間として直交するものを取るためには、$W$ の全ての元と直交する必要があります.
方針は、この補空間を直して、直交補空間にする方法です.

しかし、$W$ の基底の場合にやれば済むので、
それぞれの基底 $\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}$ を
$\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}$ と直交させればよいことになります.

これには、シュミットの直交化を用います.ここでは、${\mathbb C}^3$ に標準内積を入れておきます.

$$\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}-\frac{(\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix})}{||\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}||^2}\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}-\frac{1}{6}\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}=\frac{1}{6}\begin{pmatrix}5\\-2\\1\end{pmatrix}$$

同じように、もう一つのベクトルについてもやると、

$$\frac{1}{3}\begin{pmatrix}-1\\1\\1\end{pmatrix}$$

となります.よって、

$W$ の直交補空間 $W^\perp$ は
$$\langle\begin{pmatrix}5\\-2\\1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}-1\\1\\1\end{pmatrix} \rangle$$

となります.このように、$W$ の成分をそれぞれ、引けばよいのですが、$W$ の基底が複数ある場合も成分として複数回成分を引けばよいことになります.

無限次元の場合

無限次元空間上に入れた内積空間はヒルベルト空間ということもあります.
無限次元ヒルベルト空間は、上のような距離の概念に加えて、完備化という操作が加わります.完備化というのは、コーシー列の収束先を全て付け加えて得られる空間のことです.

コーシー列というのは、
無限列 ${\bf v}_n\in V$ であり、任意の $\epsilon>0$ に対して、ある自然数 $N$ があって、$n,m\ge N$ なる任意の $n,m$ に対して、 $||{\bf v}_n-{\bf v}_m||<\epsilon$ を満たす.

ということです.

一年生の微積分の授業で出てきたと思います.

有限ベクトル空間の場合には、コーシー列というのは、必ずある値(もしくはベクトル)があって、その値(もしくはベクトル)に収束しましたが、無限次元空間の場合には、そのようなことは起こらないことがあります.

上の例において、${\mathbb R}^\infty$ にその収束先がないことがあります.
ちなみに、実無限次元ベクトル空間 ${\mathbb R}^\infty$ という場合は、
${\mathbb R}^\infty$ の中の有限個の成分を除いて全て $0$ でないといけません.
(勿論定義によりますが、今はこのような定義を用いて ${\mathbb R}^\infty$ を定めています.)

例えば、
$$(1,0,0,0,\cdots),(1,\frac{1}{2},0,0,\cdots),(1,\frac{1}{2},\frac{1}{3},0,\cdots)$$
なる数列は、コーシー列ですが、その収束先は、${\mathbb R}^\infty$ には入りません.
ここで、内積を $||(a_1,a_2,\cdots)||=\sqrt{a_1^2+a_2^2+\cdots}$
と定めます.
(実は、ノルムを定めておけば、一般の内積 $(\cdot,\cdot)$ も定義できます.)

この列がコーシー列であることは、省略します.また、その収束先は全ての成分で $0$ でない値のベクトルになることはすぐわかると思います.
つまり、${\mathbb R}^\infty$ をはみ出してしまいます.

しかし、このようにコーシー列であって収束先が存在しないとなると、いろいろと不便なことが多いです.関数解析や微分方程式などの観点から無限次元ベクトル空間を扱う場合などです.
また、面白いベクトルを全て排除していることにもなります.

例えば、多項式の空間 ${\mathbb R}[x]$ は、代数としては面白い対象ですが、この空間を自然に実数上の関数空間として埋め込んだ時、関数空間という広い世界では、もの足りない存在に落ちます.例えば、指数関数や対数関数、三角関数という自然な関数が含まれないからです.このような空間を含むようにするには、やはり、ベクトル空間を完備化して、そのような関数も仲間に入れる必要があります.

さらに、そのような関数たちの列の収束先たちも全て加えていくことで、
その中での任意のコーシー列が全て含まれるようにした空間が必要となるのです.
そのような付け加え全て行うことを完備化といい、
そのようにして作られた内積空間をヒルベルト空間と言います.



この完備化という操作は、無限次元空間ならではであり、有限次元ヒルベルト空間というのは、単なる有限次元内積空間ということと同じです.


多項式からなるベクトル空間からなるベクトル空間は、$[0,1]$ 区間上の関数空間の空間に内積を $(f(x),g(x))=\int_0^1f(x)g(x)dx$ 
として埋め込むことができます.その完備化には、指数関数や、対数関数、
などよく知られた関数も含まれますが、一般に、$[0,1]$ 上で、各点でいくらでも微分できる関数も全て含まれています.また、各点で微分できないような関数も含まれています.

できた空間は $L^2([0,1])$ と書きます.二乗可積分空間といいます.
これ以上の話は関数解析の話ですので、ここでやめておきます.

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