2016年5月29日日曜日

線形代数続論演習(第5回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、
  • 商空間について
  • 商空間の基底を求める問題の復習
  • 直交補空間の求めかた
  • エルミート計量空間
についてやりました。
実際、計量空間についてはほとんどできませんでしたが、直交補空間の求め方については少しだけやりました.

商空間

商空間とは、ざっくり言えば、ベクトル空間 $V$ の部分ベクトル空間 $W$ の方向を潰してできるベクトル空間です.

$V/W$ の元を $[{\bf v}]$ という書き方をしますが、これは、${\bf v}$ を通る $W$ の方向を全てを表します.任意の ${\bf w}$ に対して、${\bf v}+{\bf w}$ なる元を全て $[{\bf v}]$ という元にするということです.
$V/W$ の一点は $[{\bf v}]$ です.$V$ では、${\bf v}$ を通る空間に対応します.
集合としては、 ${\bf v}+{\bf w}$ という形の元全て、つまり、${\bf v}+W$ となります.
そういうわけで、商空間の元は ${\bf v}+W$ と表すこともあります.

商空間のイコール

商空間において等しいことを $=_{V/W}$ と書くことにします.
商空間において、
$$[{\bf v}_1]=_{V/W}[{\bf v}_2]$$
であるということは、
$${\bf v}_1-{\bf v}_2\in W$$
であると定義されます.


商空間のゼロ元

ゼロ元とは、抽象ベクトル空間において、任意の元にゼロ元を足しても変わらないという性質があります.
つまり、
$${\bf x}+0_V=_{V}{\bf x}$$

ということです.ここで、$0_V$ と書いたのは、$V$ の中で、ゼロ元を意味しています.
イコールの下に $V$ が書かれているのは、等式が $V$ のものであるということです.

商空間のゼロ元もこのような性質を持つ元のことを指します.
それは、カッコを使った書き方だと、$[0]\in V/W$ となり、
集合としては、$0+W$ となる元で、つまり、$W$ と書いても同じものです
つまり、$0_{V/W}=[0]$ となるのです.
集合のような書き方とすると、$0_{V/W}=0+W$ となります.

この元が $V/W$ のゼロ元であることを示しましょう.

$V/W$ の任意の元は、ある ${\bf v}\in V$ に対して、$[{\bf v}]$ と書かれます.
なので、

$[0]+[{\bf v}]=_{V/W}[0+{\bf v}]=_{V/W}[{\bf v}]$

となります.また、ゼロ元は ${\bf w}\in W$ に対して、$[{\bf w}]$ と書かれますので
この場合もやってみると、

$[{\bf w}]+[{\bf v}]=_{V/W}[{\bf w}+{\bf v}]$

となり、${\bf w}+{\bf v}-{\bf v}={\bf w}\in W$ なので、商空間のイコールとして、

$[{\bf w}+{\bf v}]=[{\bf v}]$ と書かれることがわかります.

よって、$[{\bf w}]+[{\bf v}]=_{V/W}[{\bf w}+{\bf v}]=_{V/W}[{\bf v}]$

となるので、$[{\bf w}]$ もゼロ元の性質を満たしています.
よって、ゼロ元であることは、代表元の取り方によらず決まる、つまりwell-definedであることが
わかりました.

つまり、${\bf w}\in W$ のとき、$0_{V/W}=_{V/W}[0]=_{V/W}[{\bf w}]$
となります.

記号の濫用

$V$ でのゼロ元は $0_V$ のことであり、
$V/W$ でのゼロ元は $0_{V/W}$ のことであり、それ以外
には存在しないので、
これ以降ゼロ元はどこでも $0$ とかき、 イコールはどの場合も $=$ と書くことにします.
これを記号の濫用と言います.

どの場合のイコールなのか、($V$ なのか $V/W$ なのか)自分でよく見極めてください.


商空間の和

$[{\bf v}_1]$ と $[{\bf v}_2]$ の和の定義は、
$[{\bf v}_1+{\bf v}_2]$
となります.

また、スカラー倍は $\lambda[{\bf v}]=[\lambda{\bf v}]$ と定義します.



商空間の基底を求めること

商空間の基底を求めるには、補空間の基底を求めることで行いました.
補空間の基底を求めれば、商空間の基底が誘導されるということを
証明してくれた人もおり、これは、有限次元のベクトル空間の場合には一般に成り立ちます.
つまり、

定理
${\bf v}_1,\cdots {\bf v}_k$ がベクトル空間 $V$ の部分ベクトル空間 $W$ の補空間の基底であるとする.このとき、$[{\bf v}_1],\cdots, [{\bf v}_k]$ は $V/W$ の基底となる.


ここで、補空間は単なる補空間で構わなく、直交補空間である必要はありません.



$V={\mathbb C}^3$ とし、$W= \left\langle \begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}\right\rangle$

とします.このとき、$V/W$ の基底を求めます.

まず、$W$ の補空間の基底を求めます.
そのために、このベクトル $\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}$ のベクトルの基底の延長をします.そのとき、標準基底を並べて簡約化をしましたが、このやり方に慣れてきたら、

$$\begin{pmatrix}1&1&0\\2&0&1\\-1&0&0\end{pmatrix}$$

という正方行列を作り、その行列式を計算します.
このとき、 この行列を $A$ とすると、$\det(A)=-\det\begin{pmatrix}1&1\\-1&0\end{pmatrix}=-1\neq 0$ ですので、

$$\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}, \begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}$$

は $V$ の基底であることになります.


(これがどうして基底であるかについて)
行列 $A$ の行列式が 0 でないことから、その縦ベクトルは、一次独立である.
一次独立であるベクトルが、その次元分(つまり3つ)だけ存在したので、
その3つのベクトルは基底であることになります.
つまり、これは、部分ベクトル $W\subset V$ が $\dim W=\dim V$ ならば、$W=V$ であるということに基づきます.これは、背理法により簡単に証明可能です.



話を元に戻します.

というわけで、
$$V=W\oplus \left\langle \begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\right\rangle$$

となります.
よって、$\left\langle \begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\right\rangle$

は $W$ の補空間ということになり、この2つのベクトルは補空間の基底であることが
わかりました.


次に、$V/W$ において、
$\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right], \left[\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\right]$

が $V/W$ の基底であることを示します.
上の定理に書いてあることはそいうことです.補空間の基底にカッコをつけたベクトルたちは、$V/W$ において、基底になるのです.

定理で書いていあることを実際確かめてみます.
ただし、ここでは、イコールやゼロ元がどこの空間の元でのイコールのなのか?
自分で考えてください.

一次独立性

$c_1\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]+c_2\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]=[0]$ とします.

商空間の和とスカラー倍の定義から、

$c_1\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]+c_2\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]=\left[\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\0\end{pmatrix}\right]=[0]$ とします.

このとき、$V/W$ のイコールであるとは、$\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\0\end{pmatrix}\in W$ となります.

よって、$\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\0\end{pmatrix}=c_3\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}$
となり、整理することで、
$\begin{pmatrix}1&0&-1\\0&1&-2\\0&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\c_3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}$

となります.この $3\times 3$ 行列の行列式の計算は、上三角行列なので、対角成分の積となり、$ \det=1$ となる.

よって、ゼロでないので、$c_1=c_2=c_3=0$ となります.特に、



$\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right], \left[\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\right]$

は一次独立であることがわかりました.


$V/W$ の元を生成すること

$V/W$ の任意の元は、 ある ${\bf v}\in V$ の元を使って、$[{\bf v}]$ と書くことができます.
これは、$p:V\to V/W$ という写像が全射があることです.
$$p({\bf v})=[{\bf v}]$$

という写像です.この写像は全射準同型です.これを自然な準同型といいます.

自然な写像が線型であることは、
$p({\bf v}_1+{\bf v}_2)=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]=[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=p({\bf v}_1)+p({\bf v}_2)$
$p(\lambda{\bf v})=[\lambda{\bf v}]=\lambda[{\bf v}]=\lambda p({\bf v})$

となり、 わかります.
よって、任意の $V/W$ の元 $[{\bf v}]$ は、

${\bf v}=a_1\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}+a_2\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}+a_3\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}$

と書けるので、この式全体にカッコをつけると、

$[{\bf v}]=\left[a_1\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}+a_2\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}+a_3\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}\right]=a_1\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]+a_2\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]+a_3\left[\begin{pmatrix}1\\2\\-1\end{pmatrix}\right]=a_1\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]+a_2\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]$

よって、任意の $V/W$ の元 $[{\bf v}]$ が

$\left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right], \left[\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}\right]$

の一次結合で書くことができました.

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