2016年5月26日木曜日

微積分I演習(第5回)

[場所1E101(水曜日4限)]


今日は微分を使った次の話をしました.

  • ロピタルの定理
  • ランダウの記号
ロピタルの定理

ロピタルの定理は講義では扱わないようですので、演習で扱うことにしました.
不定形の極限の求め方です.

定理15(ロピタル)
関数 $f(x)$ と $g(x)$ が $x\to a$ で微分可能で、$0$ とする.$f(x),g(x)$ が $x=a$ で、微分可能で、$\lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)}$ が存在するとき、
$$\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to a}\frac{f'(x)}{g'(x)}$$
となる.

ロピタルの定理を使うと、いろいろなことがわかります.後でやったランダウの記号についてもその応用と考えられます.
定理15は2つの関数がどちらも $0$ に収束するような場合にのみ書いてありますが、
どちらも $\pm\infty$ に行く場合も同じような定理が存在します.

ロピタルの定理を使うとこんな感じになります.



$\lim_{x\to0}\frac{\sin^3x-x^2\sin x}{x^5}$

を求めるとき、分母分子の微分を計算して、その極限を計算します.
そうすると、

$\frac{-x^2\cos x -2x\sin x+3\cos x\sin^2x}{5x^4}$

となります.この形も $x\to 0$ で不定形となりますので、
もう一度、分母分子を微分すると、

$\frac{-4x\cos x-2\sin x+x^2\sin x+6\cos^2x\sin x-3\sin^3x}{20x^3}$

これも、不定形ですので、さらにさらに分母分子を微分をして、

$\frac{-6\cos x+x^2\cos x+6\cos^3x+6x\sin x-21\cos x\sin^2x}{60x^2}$

これも、やはり不定形ですね.

分母分子をまた微分して、

$\frac{8x\cos x+12\sin x-x^2\sin x-60\cos^2x\sin x+21\sin^3x}{120x}$

さらにやると、

$\frac{20\cos x-x^2\cos x-60\cos^3x-10x\sin x+183\cos x\sin^2x}{120}$

となります.このとき、極限は不定形でないので、ここで初めて $x\to 0$ とできるので、

$\lim_{x\to 0}\frac{20\cos x-x^2\cos x-6-\cos^3x-10x\sin x+183\cos x\sin^2x}{120}=-\frac{1}{3}$

となります.ゆえに、

$\lim_{x\to 0}\frac{\sin^3x-x^2\sin x}{x^5}=-\frac{1}{3}$

となりました.
このようにして、不定形の極限を求めるときには、分母分子を微分しながら、不定形でない形にまで持っていけばよいというのがロピタルの定理だとも言えます.


また、極限の性質を使うともう少し効率よくすることができます.

$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}\frac{\sin^2x-x^2}{x^4}$ の極限と同じなので、

$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}=\lim_{x\to 0}\frac{\cos x}{1}=1$ となり、

$\frac{\sin^2-x^2}{x^4}$ の方にさらにロピタルの定理を用いて、

一回目 $\frac{2\sin x\cos x-2x}{4x^3}=\frac{\sin x\cos x-x}{2x^3}$
二回目 $\frac{\cos^2x-\sin^2x-1}{6x^2}$
三回目 $\frac{-2\cos x\sin x-2\sin x\cos x}{12x}=-\frac{\sin x}{x}\frac{\cos x}{3}$

となり、$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}$ は $1$ だから、三回目の極限は、
$\lim_{x\to 0}\left(-\frac{\sin x}{x}\frac{\cos x}{3}\right)=-\frac{1}{3}$

となります.

よって、$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{x}\frac{\sin^2x-x^2}{x^4}=-\frac{1}{3}$

となるのです.五回も微分しなくても、三回で済みました.


このように極限の計算において使える式は以下です.
上でも下の定理16の公式を使いました.

定理16
$\lim_{x\to a}f(x)$ と $\lim_{x\to a}g(x)$ が存在して、それぞれ、$\alpha,\beta$とするとき、以下が成り立つ.
ただし、$c,d$ は定数とする.
(1) $\lim_{x\to a}(cf(x)+dg(x))=c\alpha+d\beta$
(2) $\lim_{x\to a}f(x)g(x)=\alpha\beta$
(3) $\beta\neq 0$ ならば、$\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}=\frac{\alpha}{\beta}$

もちろん、定理 16 は、 $\epsilon-\delta$ 論法を使って証明可能です.


ランダウの記号

ランダウの記号について説明をしました.ランダウの記号については、
このブログ内(リンク)にも書いてあります.
ここでは、ランダウの記号のうちスモールオー $o$ の方だけやります.

未だランダウの記号どういうことなのかよくわからないという人も多いかと思います.
まず、定義を書いておくと、

定義17
$$\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{(x-a)^n}=0$$
である事を、
$$f(x)=o((x-a)^n)\ \ (x\to a)$$
と定義します.

また、移項した形で、
$$\lim_{x\to a}\frac{f(x)-h(x)}{(x-a)^n}=0$$
である事を、
$$f(x)=h(x)+o((x-a)^n)\ \ (x\to a)$$
と定義します.

定義としては、これだけです.後ろの $(x\to a)$ が文脈からわかる場合は、省略する事があります. $x\to \infty$ を取ってもかまいません.

$o$ の中身の関数は、 べき関数 $(x-a)^n$ のような物以外に、$x\to a$ に行った時に、 $0$ に収束するような関数になっている場合もあります.
例えば、 $o(\log(x))\ \ (x\to 1)$ などでも良いですが、これは、よく考えればわかると思いますが、
$o((x-1))\ \ (x\to 1)$ と同じです.

たまに、 $o(1)$ という事もあり、これも文字通りの定義で言えば、
$f(x)=o(1)\ \ (x\to a)$ と書いたら、$f(x)$ が $x=a$ で連続であり、 $f(a)=0$ である事を表します.
($\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{1}=0$ だからです.)



ランダウの記号の意味(一つ目の使い方)


この記号の意味は、$f(x)$ という関数の $x\to a$ で $0$ になる速さが、
$o(\cdot)$ の中の関数、例えば、$o((x-a)^n)$ なら $(x-a)^n$ の関数よりも真に速いということを表しています.

それを確かめるために、ロピタルの定理が役に立ちます.



$f(x)=\sin^2 x$ の $x=0$ で $0$ になる速さを見てやると、

$\lim_{x\to 0}\frac{\sin^2x}{x}=\lim_{x\to 0}\frac{2\sin x\cos x}{1}=0$

となり、 $x$ より、 $0$ になるスピードが真に速いことがわかったので、

$\sin^2x=o(x)$ だということが分かりました.

もう一つ次数を上げてやると、

$\frac{\sin^2x}{x^2}\to 1$ となるので、 $\sin^2x$ は $o(x^2)$ とは書けないことが分かります.

よって、 $\sin^2x=o(x)$ はスモールオーを用いた最良の書き方となります.
(この際、最良かどうかはあまり問題ではありませんが。それに、$\sin^2x=o(x^{\frac{3}{2}})$ のような書き方もあります.)



ランダウの記号の意味(二つ目の使い方)

スモールオーの2番目の書き方ですが、関数 $f(x)$ を分解するという方法です.

ここで、$a=0$ と制限しましょう.また、$o$ の中の関数を $x^n$ とします.

つまり、$\frac{f(x)-h(x)}{x^n}\to 0$ であるとき、

$f(x)=h(x)+o(x^n)$ となります.

授業でも言った通り、これは、関数 $f(x)$ を2つのパートに分解していると思いましょう.つまり、

$f(x)$ のうち、 関数 $h(x)$ が $f(x)$ の主要項となります.

主要項の性質は、$h(x)$ が $f(x)$ とかなり近いということです.まず、 $f(0)=h(0)$ です.
さらに、$n\ge 1$ であれば、$f'(0)=h'(0)$ です.同じように、 $n$ が十分高いと、
$f$ の $x=0$ での微分係数と $h(x)$ の $x=0$ での微分係数はある程度一致します.

つまり、 $h(x)$ は $f(x)$ の近似関数といえるでしょう.

一方、 $o(x^n)$ の方は、それ以外の、かなり小さくなるパートです.
どれくらい小さいかというと、$x^n$ の $x=0$ の付近での小ささより小さいものだということです.

つまり、$f(x)=h(x)+k(x)$ と関数で書いたとき、 $k(x)$ は $\lim_{x\to 0}\frac{k(x)}{x^n}=0$ となるくらい小さい関数なのです.( $x=0$ の近くでは.)

$f(x)$ の成分の中では、 $h(x)$ に比べると、 $k(x)$ はゴミのようなものと言えます.
ただ、ゴミだからといって、捨ててはいけません.関数として成立するには、この成分がないと、 $x$ が大きくなったときに、無視できなくなるようになります.相対的に小さいというだけです.


ランダウの記号で注意するところ

上のように $k(x)$ とわざわざ書かずに、そんな関数ということで、まとめて、$o(x^n)$ と書いているところです.この辺に個性を無視したようなゴミと思わせる部分があるかもしれません.


例えば、ランダウの記号を使ったときに、

$\sin^2x=x^2-\frac{x^4}{3}+o(x^4)$

とかけますが、同じように、

$\tan^2x-x^4=x^2-\frac{x^4}{3}+o(x^4)$

ともかけます.右辺は同じですね.
だからと言って、

$$\sin^2x\neq \tan^2x-x^4$$

であることは明らかですね.つまり、$o(x^3)$ という書き方には、そのような性質を持つある関数が当てはまるだけなので、それが一致するとは限りません.
ただ、2つの関数は似通っている(近いと言うこと)とは言えます.

上の例なら、

$\sin^2x=x^2-\frac{x^4}{3}+\frac{2x^6}{45}+o(x^6)$

$\tan^2x-x^4=x^2-\frac{x^4}{3}+\frac{17x^6}{45}+o(x^6)$

となり、それぞれの、 $o(x^4)$ に含まれていた関数の主要項が
それぞれ、

$\frac{2x^6}{45}$

$\frac{17x^6}{45}$

と違いますね.

なので、小さくなる部分をさらに解析して調べることによって、その関数の違いがわかるようになるのです.

なので、関数全体を
 $$\mod\text{$o(x^n)$ に入るような関数全体}$$

として見ていると考えてよいのです.
線形代数で出てくる、商空間(一年生の後期と2年生で出てくる)の概念によっても理解することができます.

今後ランダウの記号を用いた演習を重ねますので、そのうち慣れていきましょう.

来週はいよいよ、テイラー展開です.

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