ここでは、関係や、同値関係、同値類、商ベクトル空間について説明します.
同値関係
集合 $S$ に関係をいれるというのは、直積集合 $S\times S=\{(a,b)|a,b\in S\}$ の部分集合 $A$ を決めることです.つまり、$a$ と $b$ に関係があるということを、$(a,b)\in A$ と定義しておくのです.
このとき、$S$ の関係が同値関係であるということを、次の条件を満たすこととして定義します.
$a,b,c\in S$に対して、
(1) $(a,a)\in A$ である.(反射律)
(2) $(a,b)\in A$ ならば $(b,a)\in A$ である.(対称律)
(3) $(a,b)\in A$ かつ $(b,c)\in A$ ならば、$(a,c)\in A$ である.(推移律)
また、$A\subset S$が同値関係の条件を満たすとき、$(a,b)\in A$ であることを $a\sim b$ とかくことにします.
また、集合 $S$ に上のような $A$ を決めることを、$S$に同値関係を入れるといいます.
$C(x):=\{y\in S|x\sim y\}$ として、$S$ の $x$ を含むクラス(同値類)といいます.
同値類の集合を
$S/\sim:=\{C(x)|x\in S\}$ と書きます.
集合 $S$ 上に同値関係が入ったとき、大事なことは、$S$ のどの元もただ一つのクラスに入るということです.
つまり、小学校に入学した小学生は必ずどこかのクラスに一つだけ入るのであって、ある子供が1組と2組の両方に属することはありません.
数学の言葉でいえば、
$$S=\coprod_{x\in S/\sim}C(x)$$
となります.$\coprod$ という記号は $S$ たちが、$C(x)$ と $C(y)$ の互いに交わらない集合たちの和集合であることを意味しています.
条件で書けば、$C(x),C(y) \in S/\sim$ に対して、$C(x)\neq C(y)$ ならば、$C(x)\cap C(y)= \emptyset$ となります.
同値類の集合がここで一番理解しにくいものだと思いますが、要するに、
クラスの集合と思えばよいでしょう.
つまり、ある小学校の一年生は3クラスまでなら、$\{1,2,3\}$ が同値類の集合です.
ある小学校の小学生一年生全体 $S$ にクラスが同じという同値関係を入れることで、その同値類集合というクラス全体からなる有限集合が決まります.
このとき、写像 $S\to S/\sim$ を $x\in S$ に対して、$x$ が属するクラスを対応させるもの.つまり、
$$S\ni x\mapsto C(x)\in S/\sim$$
を定義することができます.これを自然な写像といいます.
また、$C(x)$ に対して選んだ $x$ のことを集合 $C(x)$ の代表元といいます.
代表という言葉が表すとおり、クラスの中から代表を選んだことになります.
クラスのでいえば学級委員のようなものでしょうか?
例
同値関係や同値類の例として最初に出てくるものがベクトル空間の商空間です.
ベクトル空間$V$とその部分空間$W\subset V$に関して$V$に同値関係をいれます.
${\bf v},{\bf w}\in V$に対して、
$${\bf v}\sim {\bf w}\Leftrightarrow {\bf v}-{\bf w}\in W \ \ \ \ (\ast)$$
と定義する.
この関係によって構成される同値類全体を$V/W$とかくことで、$V/W$ は自然にベクトル空間となります.このベクトル空間のことを商空間といいます.商空間については(リンク)にも書きました.
ベクトル空間の商空間が同値関係に基づいていることの証明
この $(\ast)$ の関係が本当に同値関係であることの確認をします.
これは、上記の (1),(2),(3) を満たすことを示します.
$V$ を同値関係を入れるベクトル空間とし、商空間の関係に相当する集合を $A=\{({\bf v},{\bf w})\in V\times V|{\bf v}-{\bf w}\in W\}$ とします
(1) ${\bf v}-{\bf v}=0\in W$ なので、$({\bf v},{\bf v})\in A$ を意味します.
(2) ${\bf v}-{\bf w}\in W$ ならば、$W$ が $V$ の部分ベクトル空間であるから、$-1$ 倍も$W$ に入るので、$-{\bf v}+{\bf w}\in W$ がいえる.これは、$({\bf w},{\bf v})\in A$ を意味します.
(3) ${\bf v}-{\bf w}\in W$ かつ、${\bf w}-{\bf u}\in W$ ならば、$W$ は$V$ の部分集合だから、${\bf v}-{\bf w}+{\bf w}-{\bf u}={\bf v}-{\bf u}\in W$ がいえて、これは、$({\bf v},{\bf u})\in A$ を意味します.
よって、商空間が定義する関係は確かに同値関係であることがわかりました.
商空間の表し方
(リンク)でも書きましたが、$V/W$ の元の書き方は2種類ありました。
$${\bf v}+W$$
として同値類の集合をそのまま書く方法と
$$[{\bf v}]$$
と代表元だけ記述する方法です.
${\bf v}+W$ は $\{{\bf v}+{\bf w}|{\bf w}\in W\}$ のことを意味しますので、同一視される(同じ同値類に属するベクトル全体の)集合そのものを書いています.
つまり、最初の方は同値類が集合であることがイメージしやすくなっています.
しかし、この方法に頼ると、同値類上での計算がややこしくなります.例えば、
${\bf v}+W$ と ${\bf w}+W$ の足し算は、
${\bf v}+W+{\bf w}+W$ ですが、2つの項の足し算なのに、項がやたらと多いですね.
そもそも
$({\bf v}+W)+({\bf w}+W)$
と書いたほうがよいものです.$+$ の意味がそれぞれ異なります.
この結果は、もちろん ${\bf v}+{\bf w}+2W$ ではなく、
$$({\bf v}+W)+({\bf w}+W)={\bf v}+{\bf w}+W$$
であって、最初の $2W$ は全く意味がありません.
なので、${\bf v}+W$ のように集合そのままで書くのではなく、ここでイッパツ、抽象化の階段を上ってください.
同値類の元を集合だと思うのではなく、一つの点としてみるのです.
それが、$[{\bf v}]$ という記述法です.これは、同じ ${\bf v}+W$ のことを表しています.
この記法は、集合という面影がなくなり、一つの点と思えます.ただし、その代償もあって、$[{\bf v}]$ の表し方が一意ではなくなります.
${\bf v}-{\bf w}\in W$ である ${\bf w}$ なら全て、同じ点であり、$[{\bf v}]=[{\bf w}]$ となります.もちろんこのイコールは $V/W$ の点でのイコールであり、$V$ でのイコールではありません.
こうすると、ベクトルの足し算も $[{\bf v}]+[{\bf w}]=[{\bf v}+{\bf w}]$ となり、なんだかすっきりします.スカラー倍も
$$\alpha[{\bf v}]=[\alpha\cdot {\bf v}]$$
となります.
同値関係
集合 $S$ に関係をいれるというのは、直積集合 $S\times S=\{(a,b)|a,b\in S\}$ の部分集合 $A$ を決めることです.つまり、$a$ と $b$ に関係があるということを、$(a,b)\in A$ と定義しておくのです.
このとき、$S$ の関係が同値関係であるということを、次の条件を満たすこととして定義します.
$a,b,c\in S$に対して、
(1) $(a,a)\in A$ である.(反射律)
(2) $(a,b)\in A$ ならば $(b,a)\in A$ である.(対称律)
(3) $(a,b)\in A$ かつ $(b,c)\in A$ ならば、$(a,c)\in A$ である.(推移律)
また、$A\subset S$が同値関係の条件を満たすとき、$(a,b)\in A$ であることを $a\sim b$ とかくことにします.
また、集合 $S$ に上のような $A$ を決めることを、$S$に同値関係を入れるといいます.
$C(x):=\{y\in S|x\sim y\}$ として、$S$ の $x$ を含むクラス(同値類)といいます.
同値類の集合を
$S/\sim:=\{C(x)|x\in S\}$ と書きます.
集合 $S$ 上に同値関係が入ったとき、大事なことは、$S$ のどの元もただ一つのクラスに入るということです.
つまり、小学校に入学した小学生は必ずどこかのクラスに一つだけ入るのであって、ある子供が1組と2組の両方に属することはありません.
数学の言葉でいえば、
$$S=\coprod_{x\in S/\sim}C(x)$$
となります.$\coprod$ という記号は $S$ たちが、$C(x)$ と $C(y)$ の互いに交わらない集合たちの和集合であることを意味しています.
条件で書けば、$C(x),C(y) \in S/\sim$ に対して、$C(x)\neq C(y)$ ならば、$C(x)\cap C(y)= \emptyset$ となります.
同値類の集合がここで一番理解しにくいものだと思いますが、要するに、
クラスの集合と思えばよいでしょう.
つまり、ある小学校の一年生は3クラスまでなら、$\{1,2,3\}$ が同値類の集合です.
ある小学校の小学生一年生全体 $S$ にクラスが同じという同値関係を入れることで、その同値類集合というクラス全体からなる有限集合が決まります.
このとき、写像 $S\to S/\sim$ を $x\in S$ に対して、$x$ が属するクラスを対応させるもの.つまり、
$$S\ni x\mapsto C(x)\in S/\sim$$
を定義することができます.これを自然な写像といいます.
また、$C(x)$ に対して選んだ $x$ のことを集合 $C(x)$ の代表元といいます.
代表という言葉が表すとおり、クラスの中から代表を選んだことになります.
クラスのでいえば学級委員のようなものでしょうか?
例
同値関係や同値類の例として最初に出てくるものがベクトル空間の商空間です.
ベクトル空間$V$とその部分空間$W\subset V$に関して$V$に同値関係をいれます.
${\bf v},{\bf w}\in V$に対して、
$${\bf v}\sim {\bf w}\Leftrightarrow {\bf v}-{\bf w}\in W \ \ \ \ (\ast)$$
と定義する.
この関係によって構成される同値類全体を$V/W$とかくことで、$V/W$ は自然にベクトル空間となります.このベクトル空間のことを商空間といいます.商空間については(リンク)にも書きました.
ベクトル空間の商空間が同値関係に基づいていることの証明
この $(\ast)$ の関係が本当に同値関係であることの確認をします.
これは、上記の (1),(2),(3) を満たすことを示します.
$V$ を同値関係を入れるベクトル空間とし、商空間の関係に相当する集合を $A=\{({\bf v},{\bf w})\in V\times V|{\bf v}-{\bf w}\in W\}$ とします
(1) ${\bf v}-{\bf v}=0\in W$ なので、$({\bf v},{\bf v})\in A$ を意味します.
(2) ${\bf v}-{\bf w}\in W$ ならば、$W$ が $V$ の部分ベクトル空間であるから、$-1$ 倍も$W$ に入るので、$-{\bf v}+{\bf w}\in W$ がいえる.これは、$({\bf w},{\bf v})\in A$ を意味します.
(3) ${\bf v}-{\bf w}\in W$ かつ、${\bf w}-{\bf u}\in W$ ならば、$W$ は$V$ の部分集合だから、${\bf v}-{\bf w}+{\bf w}-{\bf u}={\bf v}-{\bf u}\in W$ がいえて、これは、$({\bf v},{\bf u})\in A$ を意味します.
よって、商空間が定義する関係は確かに同値関係であることがわかりました.
商空間の表し方
(リンク)でも書きましたが、$V/W$ の元の書き方は2種類ありました。
$${\bf v}+W$$
として同値類の集合をそのまま書く方法と
$$[{\bf v}]$$
と代表元だけ記述する方法です.
${\bf v}+W$ は $\{{\bf v}+{\bf w}|{\bf w}\in W\}$ のことを意味しますので、同一視される(同じ同値類に属するベクトル全体の)集合そのものを書いています.
つまり、最初の方は同値類が集合であることがイメージしやすくなっています.
しかし、この方法に頼ると、同値類上での計算がややこしくなります.例えば、
${\bf v}+W$ と ${\bf w}+W$ の足し算は、
${\bf v}+W+{\bf w}+W$ ですが、2つの項の足し算なのに、項がやたらと多いですね.
そもそも
$({\bf v}+W)+({\bf w}+W)$
と書いたほうがよいものです.$+$ の意味がそれぞれ異なります.
この結果は、もちろん ${\bf v}+{\bf w}+2W$ ではなく、
$$({\bf v}+W)+({\bf w}+W)={\bf v}+{\bf w}+W$$
であって、最初の $2W$ は全く意味がありません.
なので、${\bf v}+W$ のように集合そのままで書くのではなく、ここでイッパツ、抽象化の階段を上ってください.
同値類の元を集合だと思うのではなく、一つの点としてみるのです.
それが、$[{\bf v}]$ という記述法です.これは、同じ ${\bf v}+W$ のことを表しています.
この記法は、集合という面影がなくなり、一つの点と思えます.ただし、その代償もあって、$[{\bf v}]$ の表し方が一意ではなくなります.
${\bf v}-{\bf w}\in W$ である ${\bf w}$ なら全て、同じ点であり、$[{\bf v}]=[{\bf w}]$ となります.もちろんこのイコールは $V/W$ の点でのイコールであり、$V$ でのイコールではありません.
こうすると、ベクトルの足し算も $[{\bf v}]+[{\bf w}]=[{\bf v}+{\bf w}]$ となり、なんだかすっきりします.スカラー倍も
$$\alpha[{\bf v}]=[\alpha\cdot {\bf v}]$$
となります.
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