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2014年11月4日火曜日

微積分II演習(第4回)

[数学1 クラス対象(金曜日5限)]

今日の授業は、
  • 合成関数の微分法II
  • テイラー展開
  • 極値を求める問題
です.

合成関数の微分法II
 先週やった合成関数の微分法は、f(\varphi(t),\psi(t))
x,y に入る関数が一変数でしたが、今回は、f(\varphi(s,t),\psi(s,t))
二変数ありました.

F(s,t)=f(\varphi(s,t),\psi(s,t)) とおくと、
\left(\frac{\partial F}{\partial s},\frac{\partial F}{\partial t}\right)=\left(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y}\right)\begin{pmatrix}\frac{\partial \varphi}{\partial s}&\frac{\partial \varphi}{\partial t}\\\frac{\partial \psi}{\partial s}&\frac{\partial \psi}{\partial t}\end{pmatrix}
となります.

前回の合成関数の微分法を s と t で行ってから横ベクトルとして並べれば
この形になります.

最後の行列はヤコビ行列といい、その行列式はヤコビアンといいます.

 テイラーの定理
 多変数関数のテイラーの定理は一変数の定理を応用すればでます.
書いておきます.
h=x-a,\ k=y-b とし、d=h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial }{\partial y} とおくと、
f(x,y)=f(a,b)+(df)(a,b)+\frac{df}{2!}(a,b)+\frac{d^2f}{3!}(a,b)+\cdots+\frac{d^{n-1}f}{(n-1)!}(a,b)+\frac{d^nf}{n!}(a+\theta h,b+\theta k)\ \ 0<\theta<1
のように展開できます.

多変数の関数を多変数の多項式で近似するための定理です.
授業中では、d^nf の扱いに手間取って最後まで計算出来ませんでしたが、
d^nの計算を途中で勘違いしたためです.

ここで、もう一度やっておくと、展開式はやはり
d^n=\sum_{r=0}^\infty\binom{n}{r}h^rk^{n-r}\frac{\partial^n}{\partial x^r\partial y^{n-r}}
であっており、テイラー展開を定義通り計算するには高次偏微分を
計算出来ないといけませんでした.
ちなみに、この2項係数\binom{n}{r}
\frac{n!}{r!(n-r)!}={}_rC_{n-r} のことです.

授業では f(x,y)=\frac{y^3}{1-x^2y} を定義通りやってしまい挫折しました.

こんな簡単な関数でも高階の偏微分を計算するのは難しいですね.
そういうわけで、他の方法を試しましょう.

まず、多項式のテイラー展開(無限級数展開)をランダウの記号を使ってまとめておきます.
C^n級関数とすると、
r=\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2} として
f(x,y)=f(a,b)+\frac{df}{1!}(a,b)+\cdots+\frac{d^nf}{n!}(a,b)+o(r^n)\ \ (r\to 0)
ちなみに、\frac{d^nf}{n!}(a,b)
\sum_{r=0}^n\frac{h^r}{r!}\frac{k^{n-r}}{(n-r)!}\frac{\partial^nf}{\partial x^r\partial y^{n-r}}(a,b)
を意味します.

一変数のテイラー展開を使いましょうか.
|x^2y|<1 であれば、
f(x,y)=y^3(1+x^2y+(x^2y)^2+(x^2y)^3+\cdots+x^{2n}y^n+o((x^2y)^n)\ \ (x^2y\to 0)
と展開できます.ランダウの記号を
o(r^N)\ (r\to 0)
の形にしましょう.

u(x,y)=o((x^2y)^n)\ \ (x^2y\to 0) となる任意の関数 u(x,y) を置きます.
このとき、極限を (x,y)\to (0,0) に変えて、
\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{u(x,y)}{r^{3n}}=\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{u(x,y)}{(x^2y)^n}\frac{(x^2y)^n}{r^{3n}}
(x,y)\to (0,0) ならば、x^2y\to 0 ですから、
最初の項は定義とこの性質から 0 に収束します.

任意の点列 x_n=r_n\cos\theta_n,\ y_n=r_n\sin\theta_n をとります.
ただし r_n\to 0\ \ (n\to  \infty) です.
\limsup_{n\to\infty}|\frac{(x_n^2y_n)^n}{r_n^{3n}}|= \limsup_{n\to \infty}|\frac{r_n^{3n}\cos^{2n}\sin\theta_n\sin^n\theta_n}{r_n^{3n}}|
=\limsup_{n\to \infty}|\cos^{2n}\theta_n\sin^n\theta_n|\le 1
つまり、後半の項は収束しないかもしれないが極限の近くで有界ではあります.

ゆえに、
\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{u(x,y)}{r^{3n}}=0
つまり、o((x^2y)^n)=o(r^n)\ \ (x,y)\to (0,0) が成り立ちます.

テイラー展開は
\frac{1}{1-x^2y}=1+x^2y+(x^2y)^2+\cdots+(x^2y)^n+o(r^n)
となり、同じように、y^3o(r^{3n})=o(r^{3n+3})\ \ (x,y)\to (0,0) ですから、
f(x,y)=\frac{y^3}{1-x^2y}=y^3+x^2y^4+x^4y^5+\cdots+x^{2n}y^{n+3}+o(r^{3n+3})\ \ (x,y)\to (0,0)
となります.

つまり、逆に言えば、f_{xxxxyyy}(0,0) などまじめに計算しなくても、0 になる
ことがわかります.


極値問題
 多変数関数の極値を考えます.一変数の極値問題の流れと比較しましょう.

一変数
(1) 微分 f'(a)=0 となる点 a を考える
(2) a での2階微分 f''(a) が正か負かを調べる
(3) f''(a)>0 であれば、極小、f''(a)<0 であれば、極大.(a の周りでf'(x) が増えているか減っているかを調べている.)
(4) 微分が0 でない点において、関数は、f''(x)>0 なら下に凸、
f''(x)<0 なら上に凸に膨らませて書く.

(3)' f''(a)=0 でも、a の前後でf'(x) の符号の様子から極大、極小を判定する.

関数の振る舞いは増減表に集約されていました.
また、関数は上に凸か下に凸か、変曲点かのどれかでした.

多変数関数(ここでは2変数)の場合、一変数ほど正確なグラフは描けませんので、
調べ方は少し荒くなります.増減表も書けませんので極値の位置などを調べる
のみになります.また、関数は上に凸、下に凸以外にも形状が存在します.

まず、2階偏微分そのものの代わりに
H(a,b)=\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}
なる行列を考えます.ヘッセ行列といいます.またその行列式のことをヘッシアンといいます.
\begin{cases} \det(H(a,b))>0,\ f_{xx}(a,b)>0&\text{正定値}\\ \det(H(a,b))>0,\ f_{xx}(a,b)<0&\text{負定値}\\ \det(H(a,b))<0&\text{不定値} \end{cases}
といいます.

二変数
(1) 偏微分 f_x(a,b)=f_y(a,b)=0 なる点 (a,b) を考える.(偏微分が両方消えている点を臨界点といいます.)
(2) (a,b) でのヘッセ行列 H が正定値か負定値かを調べる.
(3) H(a,b) が正定値であれば、極小点、負定値であれば、極大点、不定値ならば、
鞍点(馬の背中(鞍)).
(4) 偏微分が0 でない点では、関数は H が正定値なら下に凸、H が負定値なら上に凸、不定値なら馬の背中.

(3)' ヘッシアンが 0 の臨界点でも a の近くの点で全て接平面より上側にあれば極大点、下側にあれば極小点になります.そうでなければ、極大でも極小でもありません.鞍点であるかどうかも
分かりません.

宿題ではヘッシアンが 0 となる点を含む問題も出しましたので
授業でやった要領で答えてください.

まとめると以下のようになります.

上に凸\hspace{1cm}\Leftrightarrow ヘッシアンが正定値
下に凸\hspace{1cm}\Leftrightarrow ヘッシアンが負定値
馬の鞍(鞍点)\hspace{1cm}\Leftrightarrow 不定値


実2次対称行列 (固有値、固有ベクトルをよく知っている人向け)
 
 A=\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix} を2次の対称行列といいます.
まず、実対称行列は固有値が実数であり、対角化できます.

実対称行列が正定値、負定値というのは、任意の (h,k)\neq(0,0) に対して
(h,\ k)H\begin{pmatrix}h\\k\end{pmatrix} がいつでも正の数かいつでも負の数かという
ことです.
不定値とは、(h,k)\neq (0,0) の値によって正の数か負の数か変わるということです.
n 次対称行列でも定義は同じことです.
実2次対称行列が
正定値であることは \det(A)>0,a>0 と同値であり、
負定値であることは \det(A)>0,a<0 と同値であり、
不定値であることは \det(A)<0 と同値なのです.

関数の状況に直せば、臨界点の位置に立って四方八方を見たときに、
いつでも関数が上向きになっている状況が正定値
いつでも関数が下向きになっている状況が負定値
関数が上向きになったり、下向きになったりしている状況が不定値

不定値の場合、上向きになったり、下向きになったりする方向は2か所あります.
その一番上向きになっているところが、 A の正の固有値の固有ベクトルの方向で、
その一番下向きになっているところが、 A の負の固有値の固有ベクトルの方向です.

つまり、山の峠において、頂上に向かうルートが固有値の正の方向で、
麓に直行する方向が固有値負の方向ということになります.
また、頂上に向かうルートと麓に直行ルートはいつでも直交しています.

この直交性は秋学期の線形代数でも習います.

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