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2014年10月13日月曜日

ランダウの記号

ランダウの記号 o(x^2)o(\sqrt{x^2+y^2}) について説明します.


全微分可能のところに、いきなりランダウの記号 o (スモールオー)が出てきましたが、
説明する暇がなかったので、ここで少しだけ解説します.
(といいつつ、長くなってしまいましたが、少なくとも一変数の部分は分かるようには書いてある
つもりです.)

大文字の O (ラージオー)を用いたものもありますが、
違う記号ですので、混同しないようにしましょう.
大文字の方はここでは扱いません.
大文字の方はこちらに書きました.

その後(2016/5/26)、こちら(リンク)にもランダウの記号について書きました.(2016年微積分I演習)

このベージには、以下のような流れで書いてあります.
  • ランダウ記号の定義
  • ランダウの記号でできることとその計算例
  • ランダウの記号でしてはいけないこと
  • 連続性、微分可能性について
  • 多変数について
  • 全微分をランダウの記号でかくと

ランダウ記号の定義.

f(x)h(x)\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{h(x)}=0
なる関数であるとき、
f(x)=o(h(x))\ \ (x\to a)
と書く.


意味としては、
f(x)x\to a0 に収束する関数であれば、
f(x)h(x) を比較すると、f(x) の方がより速く 0 に収束する.

f(x)x\to a\infty に発散する関数であれば、
f(x)h(x) を比較すると、h(x) の方がより速く \infty に発散する.

ということになります.
ここでは、0 に収束する方の例として使っていきます.

普通関数 h(x) は収束の速さが分かりやすい x^n など
が用いられます.

例えば関数 \sin x-x
\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=0 となります.
実際、これは不定形の極限ですから
値を求めようとすれば、ロピタルの定理から、
\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=\lim_{x\to 0}\frac{\cos x-1}{2x}=\lim_{x\to 0}\frac{-\sin x}{2}=0
がいえるわけです.

よって、\sin x-x=o(x^2)\ \ (x\to 0) などと書くことができます.
または、x を移項して、
\sin x=x+o(x^2)\ \ \ (x\to 0)
の形で書くこともできます.
また、(x\to 0) は文脈から明らかに分かる場合は省略することがあります.

この = の使い方は下に書くように、普通の式のイコールとしては厳密には
役割が異なりますので注意が必要です.

数学において、記号を濫用するということは、実際は違うものを同じ記号で書くことです.

でも、「記号の濫用は、最初は使い方に慣れなくても
注意点が分かって慣れてくると大変使いやすいことがあります.」

濫用しても通用するかどうかは、その記号のセンスと使う側の多少の努力にかかっています.


ランダウの記号でできることとその計算例

ランダウの記号は以下のような計算をすることができます.以下(x\to 0) を省略します.
  • x^{n+1}=o(x^n)
  • c\cdot o(x^n)=o(x^n) ただし、c は定数.
  • x^no(x^m)=o(x^{n+m})
  • o(x^n)o(x^m)=o(x^{n+m})
  • o(x^n)+o(x^m)=o(x^n) ただし、n\le m
\sin x=x+o(x^2)1-\cos x=\frac{1}{2}x^2+o(x^2) 
を用いて、\sin x(1-\cos x)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)
以下のようにして求めることができます.

\sin x(1-\cos x)=(x+o(x^2))(\frac{1}{2}x^2+o(x^2))
=\frac{1}{2}x^3+o(x^2)(\frac{1}{2}x^2)+xo(x^2)+o(x^2)o(x^2)
=\frac{1}{2}x^3+o(x^4)+o(x^3)+o(x^4)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)+o(x^4)
=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)
となります.


ランダウの記号でしてはいけないこと

o(x^2) などはある特定の関数で置き換えてはいけません.
例えば、x^2=o(x) ですが、-x^2=o(x) と書くこともできます.
しかし、o(x) の部分にそれらを代入して、x^2=-x^2 などはなりません.
なので、x^2+x^2=o(x)-o(x)=0 などのランダウの記号同士の引き算もできません.


連続性と微分可能性について

f(x)x=a での連続性はf(x)=f(a)+o(1)\ \ (x\to a) と書くことができます.
f(x)x=a での微分可能性は f(x)=f(a)+\alpha (x-a)+o(x-a) なる \alpha
が存在することとして定義することができます.
つまり、微分可能とは、f(x)x=a の周りで一次式とその他の部分に分けられ、
その他の部分は一次式より速く 0 に収束するということです.


多変数の場合

多変数関数においてもランダウの記号を用いて (x,y)\to (a,b) なる極限において、
関数 f(x,y)h(x,y) を比較することができます.

f(x,y)h(x,y)\lim_{(x,y)\to (a,b)}\frac{f(x,y)}{h(x,y)}=0 なる関数のとき、
f(x,y)=o(h(x,y))\ \ (x,y)\to (a,b) と定義します.


h(x,y) に対する関数はいろいろありますが、ここでは o(h(x,y))o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ \ (x,y)\to (0,0)
を扱います.


まず、
f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)
なる一変数関数を二変数関数として、見直すと
f(x)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)
が成り立ちます.

これを証明すると、
f(x)=o(x^n),  なる任意の(一変数)関数を f(x) に対して、
|\frac{f(x)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}|\le |\frac{f(x)}{x^n}|\to 0\ \ \ (x,y)\to (0,0)
となるからです.

また、f(x,y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)
なる関数とすると、任意の y に対して、
f(x,y)=o(x^n)\ \ (x\to 0) とはいえません.

\frac{f(x,y)}{x^n}=\frac{f(x,y)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}\frac{(\sqrt{x^2+y^2})^n}{x^n}
としたときに、右辺の2つ目の項は x\to 0 で有界な振る舞いをしますが、
右辺の1つ目の項は (x,y)=(0,0) の近くでは、0 に収束しますが、(0,y) のところでは
よく分かりません.

なので、 o(x^n)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n) と書きたいところですが、左辺の関数が右辺の
関数として捉えられないのでイコールとしては書き方が強すぎます.
o(x^n)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)
という書き方がよいかもしれません.
これは一般的な記号法ではありません.

これを応用して、
f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)
g(y)=o(y^n)\ \ (y\to 0)
なら、f(x)g(y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})\ \ (x,y)\to (0,0)
も成り立ちます.

これらを書き表すと、
o(x^n)o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})
となり、

o(x^n)+o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (n\le m)
もいえます.

そうすると例えば、
\sin(x)(1-\cos(y))-\frac{xy^2}{2}=(x+o(x^2))(\frac{y^2}{2}+o(y^2))-\frac{xy^2}{2}
\subset xo(y^2)+\frac{y^2}{2}o(x^2)+o(x^2)o(y^2)
\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^3)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)
=o((\sqrt{x^2+y^2})^3)
と計算でき、
\sin(x)\cos(y)=\frac{xy^2}{2}+o((\sqrt{x^2+y^2})^3)
が成り立ちます.

全微分をランダウの記号でかくと

f(x,y)(a,b)  で全微分可能であるとは
f(x,y)=f(a,b)+\alpha (x-a)+\beta (y-b)+o(\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2})\ \ (x,y)\to (a,b)
なる\alpha, \beta が存在することです.
つまり、f(x,y)(a,b) の周りで、一次式と一次式より速く 0 に収束する部分に
分けられることを意味しています. 

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