ランダウの記号 $o(x^2)$ や$o(\sqrt{x^2+y^2})$ について説明します.
全微分可能のところに、いきなりランダウの記号 $o$ (スモールオー)が出てきましたが、
説明する暇がなかったので、ここで少しだけ解説します.
(といいつつ、長くなってしまいましたが、少なくとも一変数の部分は分かるようには書いてある
つもりです.)
大文字の $O$ (ラージオー)を用いたものもありますが、
違う記号ですので、混同しないようにしましょう.
大文字の方はここでは扱いません.
大文字の方はこちらに書きました.
その後(2016/5/26)、こちら(リンク)にもランダウの記号について書きました.(2016年微積分I演習)
このベージには、以下のような流れで書いてあります.
ランダウ記号の定義.
意味としては、
$f(x)$ が $x\to a$ で $0$ に収束する関数であれば、
$f(x)$ と $h(x)$ を比較すると、$f(x)$ の方がより速く $0$ に収束する.
$f(x)$ が $x\to a$ で $\infty$ に発散する関数であれば、
$f(x)$ と $h(x)$ を比較すると、$h(x)$ の方がより速く $\infty$ に発散する.
ということになります.
ここでは、$0$ に収束する方の例として使っていきます.
普通関数 $h(x)$ は収束の速さが分かりやすい $x^n$ など
が用いられます.
例えば関数 $\sin x-x$ は
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=0$ となります.
実際、これは不定形の極限ですから
値を求めようとすれば、ロピタルの定理から、
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=\lim_{x\to 0}\frac{\cos x-1}{2x}=\lim_{x\to 0}\frac{-\sin x}{2}=0$
がいえるわけです.
よって、$\sin x-x=o(x^2)\ \ (x\to 0)$ などと書くことができます.
または、$x$ を移項して、
$\sin x=x+o(x^2)\ \ \ (x\to 0)$
の形で書くこともできます.
また、$(x\to 0)$ は文脈から明らかに分かる場合は省略することがあります.
この $=$ の使い方は下に書くように、普通の式のイコールとしては厳密には
役割が異なりますので注意が必要です.
数学において、記号を濫用するということは、実際は違うものを同じ記号で書くことです.
でも、「記号の濫用は、最初は使い方に慣れなくても
注意点が分かって慣れてくると大変使いやすいことがあります.」
濫用しても通用するかどうかは、その記号のセンスと使う側の多少の努力にかかっています.
ランダウの記号でできることとその計算例
ランダウの記号は以下のような計算をすることができます.以下$(x\to 0)$ を省略します.
を用いて、$\sin x(1-\cos x)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)$ を
以下のようにして求めることができます.
$\sin x(1-\cos x)=(x+o(x^2))(\frac{1}{2}x^2+o(x^2))$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^2)(\frac{1}{2}x^2)+xo(x^2)+o(x^2)o(x^2)$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^4)+o(x^3)+o(x^4)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)+o(x^4)$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)$
となります.
ランダウの記号でしてはいけないこと
$o(x^2)$ などはある特定の関数で置き換えてはいけません.
例えば、$x^2=o(x)$ ですが、$-x^2=o(x)$ と書くこともできます.
しかし、$o(x)$ の部分にそれらを代入して、$x^2=-x^2$ などはなりません.
なので、$x^2+x^2=o(x)-o(x)=0$ などのランダウの記号同士の引き算もできません.
連続性と微分可能性について
$f(x)$ の $x=a$ での連続性は$f(x)=f(a)+o(1)\ \ (x\to a)$ と書くことができます.
$f(x)$ の $x=a$ での微分可能性は $f(x)=f(a)+\alpha (x-a)+o(x-a)$ なる $\alpha$
が存在することとして定義することができます.
つまり、微分可能とは、$f(x)$ が $x=a$ の周りで一次式とその他の部分に分けられ、
その他の部分は一次式より速く $0$ に収束するということです.
多変数の場合
多変数関数においてもランダウの記号を用いて $(x,y)\to (a,b)$ なる極限において、
関数 $f(x,y)$ と $h(x,y)$ を比較することができます.
$h(x,y)$ に対する関数はいろいろありますが、ここでは $o(h(x,y))$ は $o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
を扱います.
まず、
$f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$
なる一変数関数を二変数関数として、見直すと
$f(x)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$
が成り立ちます.
これを証明すると、
$f(x)=o(x^n)$, なる任意の(一変数)関数を $f(x)$ に対して、
$|\frac{f(x)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}|\le |\frac{f(x)}{x^n}|\to 0\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
となるからです.
また、$f(x,y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$
なる関数とすると、任意の $y$ に対して、
$f(x,y)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$ とはいえません.
$\frac{f(x,y)}{x^n}=\frac{f(x,y)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}\frac{(\sqrt{x^2+y^2})^n}{x^n}$
としたときに、右辺の2つ目の項は $x\to 0$ で有界な振る舞いをしますが、
右辺の1つ目の項は $(x,y)=(0,0)$ の近くでは、$0$ に収束しますが、$(0,y)$ のところでは
よく分かりません.
なので、 $o(x^n)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)$ と書きたいところですが、左辺の関数が右辺の
関数として捉えられないのでイコールとしては書き方が強すぎます.
$o(x^n)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)$
という書き方がよいかもしれません.
これは一般的な記号法ではありません.
これを応用して、
$f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$
$g(y)=o(y^n)\ \ (y\to 0)$
なら、$f(x)g(y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})\ \ (x,y)\to (0,0)$
も成り立ちます.
これらを書き表すと、
$o(x^n)o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})$
となり、
$o(x^n)+o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (n\le m)$
もいえます.
そうすると例えば、
$\sin(x)(1-\cos(y))-\frac{xy^2}{2}=(x+o(x^2))(\frac{y^2}{2}+o(y^2))-\frac{xy^2}{2}$
$\subset xo(y^2)+\frac{y^2}{2}o(x^2)+o(x^2)o(y^2)$
$\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^3)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)$
$=o((\sqrt{x^2+y^2})^3)$
と計算でき、
$\sin(x)\cos(y)=\frac{xy^2}{2}+o((\sqrt{x^2+y^2})^3)$
が成り立ちます.
全微分をランダウの記号でかくと
$f(x,y)$ が $(a,b)$ で全微分可能であるとは
$f(x,y)=f(a,b)+\alpha (x-a)+\beta (y-b)+o(\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2})\ \ (x,y)\to (a,b)$
なる$\alpha, \beta$ が存在することです.
つまり、$f(x,y)$ は $(a,b)$ の周りで、一次式と一次式より速く $0$ に収束する部分に
分けられることを意味しています.
全微分可能のところに、いきなりランダウの記号 $o$ (スモールオー)が出てきましたが、
説明する暇がなかったので、ここで少しだけ解説します.
(といいつつ、長くなってしまいましたが、少なくとも一変数の部分は分かるようには書いてある
つもりです.)
大文字の $O$ (ラージオー)を用いたものもありますが、
違う記号ですので、混同しないようにしましょう.
大文字の方はここでは扱いません.
大文字の方はこちらに書きました.
その後(2016/5/26)、こちら(リンク)にもランダウの記号について書きました.(2016年微積分I演習)
このベージには、以下のような流れで書いてあります.
- ランダウ記号の定義
- ランダウの記号でできることとその計算例
- ランダウの記号でしてはいけないこと
- 連続性、微分可能性について
- 多変数について
- 全微分をランダウの記号でかくと
ランダウ記号の定義.
$f(x)$ と $h(x)$ が $\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{h(x)}=0$
なる関数であるとき、
$f(x)=o(h(x))\ \ (x\to a)$
と書く.
なる関数であるとき、
$f(x)=o(h(x))\ \ (x\to a)$
と書く.
意味としては、
$f(x)$ が $x\to a$ で $0$ に収束する関数であれば、
$f(x)$ と $h(x)$ を比較すると、$f(x)$ の方がより速く $0$ に収束する.
$f(x)$ が $x\to a$ で $\infty$ に発散する関数であれば、
$f(x)$ と $h(x)$ を比較すると、$h(x)$ の方がより速く $\infty$ に発散する.
ということになります.
ここでは、$0$ に収束する方の例として使っていきます.
普通関数 $h(x)$ は収束の速さが分かりやすい $x^n$ など
が用いられます.
例えば関数 $\sin x-x$ は
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=0$ となります.
実際、これは不定形の極限ですから
値を求めようとすれば、ロピタルの定理から、
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=\lim_{x\to 0}\frac{\cos x-1}{2x}=\lim_{x\to 0}\frac{-\sin x}{2}=0$
がいえるわけです.
よって、$\sin x-x=o(x^2)\ \ (x\to 0)$ などと書くことができます.
または、$x$ を移項して、
$\sin x=x+o(x^2)\ \ \ (x\to 0)$
の形で書くこともできます.
また、$(x\to 0)$ は文脈から明らかに分かる場合は省略することがあります.
この $=$ の使い方は下に書くように、普通の式のイコールとしては厳密には
役割が異なりますので注意が必要です.
数学において、記号を濫用するということは、実際は違うものを同じ記号で書くことです.
でも、「記号の濫用は、最初は使い方に慣れなくても
注意点が分かって慣れてくると大変使いやすいことがあります.」
濫用しても通用するかどうかは、その記号のセンスと使う側の多少の努力にかかっています.
ランダウの記号でできることとその計算例
ランダウの記号は以下のような計算をすることができます.以下$(x\to 0)$ を省略します.
- $x^{n+1}=o(x^n)$
- $c\cdot o(x^n)=o(x^n)$ ただし、$c$ は定数.
- $x^no(x^m)=o(x^{n+m})$
- $o(x^n)o(x^m)=o(x^{n+m})$
- $o(x^n)+o(x^m)=o(x^n)$ ただし、$n\le m$
を用いて、$\sin x(1-\cos x)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)$ を
以下のようにして求めることができます.
$\sin x(1-\cos x)=(x+o(x^2))(\frac{1}{2}x^2+o(x^2))$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^2)(\frac{1}{2}x^2)+xo(x^2)+o(x^2)o(x^2)$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^4)+o(x^3)+o(x^4)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)+o(x^4)$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)$
となります.
ランダウの記号でしてはいけないこと
$o(x^2)$ などはある特定の関数で置き換えてはいけません.
例えば、$x^2=o(x)$ ですが、$-x^2=o(x)$ と書くこともできます.
しかし、$o(x)$ の部分にそれらを代入して、$x^2=-x^2$ などはなりません.
なので、$x^2+x^2=o(x)-o(x)=0$ などのランダウの記号同士の引き算もできません.
連続性と微分可能性について
$f(x)$ の $x=a$ での連続性は$f(x)=f(a)+o(1)\ \ (x\to a)$ と書くことができます.
$f(x)$ の $x=a$ での微分可能性は $f(x)=f(a)+\alpha (x-a)+o(x-a)$ なる $\alpha$
が存在することとして定義することができます.
つまり、微分可能とは、$f(x)$ が $x=a$ の周りで一次式とその他の部分に分けられ、
その他の部分は一次式より速く $0$ に収束するということです.
多変数の場合
多変数関数においてもランダウの記号を用いて $(x,y)\to (a,b)$ なる極限において、
関数 $f(x,y)$ と $h(x,y)$ を比較することができます.
$f(x,y)$ と $h(x,y)$ が $\lim_{(x,y)\to (a,b)}\frac{f(x,y)}{h(x,y)}=0$ なる関数のとき、
$f(x,y)=o(h(x,y))\ \ (x,y)\to (a,b)$ と定義します.
$f(x,y)=o(h(x,y))\ \ (x,y)\to (a,b)$ と定義します.
$h(x,y)$ に対する関数はいろいろありますが、ここでは $o(h(x,y))$ は $o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
を扱います.
まず、
$f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$
なる一変数関数を二変数関数として、見直すと
$f(x)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$
が成り立ちます.
これを証明すると、
$f(x)=o(x^n)$, なる任意の(一変数)関数を $f(x)$ に対して、
$|\frac{f(x)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}|\le |\frac{f(x)}{x^n}|\to 0\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
となるからです.
また、$f(x,y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$
なる関数とすると、任意の $y$ に対して、
$f(x,y)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$ とはいえません.
$\frac{f(x,y)}{x^n}=\frac{f(x,y)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}\frac{(\sqrt{x^2+y^2})^n}{x^n}$
としたときに、右辺の2つ目の項は $x\to 0$ で有界な振る舞いをしますが、
右辺の1つ目の項は $(x,y)=(0,0)$ の近くでは、$0$ に収束しますが、$(0,y)$ のところでは
よく分かりません.
なので、 $o(x^n)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)$ と書きたいところですが、左辺の関数が右辺の
関数として捉えられないのでイコールとしては書き方が強すぎます.
$o(x^n)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)$
という書き方がよいかもしれません.
これは一般的な記号法ではありません.
これを応用して、
$f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$
$g(y)=o(y^n)\ \ (y\to 0)$
なら、$f(x)g(y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})\ \ (x,y)\to (0,0)$
も成り立ちます.
これらを書き表すと、
$o(x^n)o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})$
となり、
$o(x^n)+o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (n\le m)$
もいえます.
そうすると例えば、
$\sin(x)(1-\cos(y))-\frac{xy^2}{2}=(x+o(x^2))(\frac{y^2}{2}+o(y^2))-\frac{xy^2}{2}$
$\subset xo(y^2)+\frac{y^2}{2}o(x^2)+o(x^2)o(y^2)$
$\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^3)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)$
$=o((\sqrt{x^2+y^2})^3)$
と計算でき、
$\sin(x)\cos(y)=\frac{xy^2}{2}+o((\sqrt{x^2+y^2})^3)$
が成り立ちます.
全微分をランダウの記号でかくと
$f(x,y)$ が $(a,b)$ で全微分可能であるとは
$f(x,y)=f(a,b)+\alpha (x-a)+\beta (y-b)+o(\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2})\ \ (x,y)\to (a,b)$
なる$\alpha, \beta$ が存在することです.
つまり、$f(x,y)$ は $(a,b)$ の周りで、一次式と一次式より速く $0$ に収束する部分に
分けられることを意味しています.
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