2014年10月30日木曜日

線形代数II演習(10/24)の宿題について

直前になってですが、宿題について考える助けを書いておきます.
ほとんどの人ができると思いますので全くできない人向けです.

C-3-1は $f'(X)$ は当然多項式 $f(X)$ に対する導関数のことです.
$f''(X)$ も2回微分したものです.
$f(X)$ を具体的 $a_0+a_1X+a_2X^2$ などと数値を置いてやればよいでしょう.

ちなみに、いくつかのベクトルが基底であるためには、ある基底によって表示した
その表示行列が正則であることと同値です.
これは教科書の定理6.4そのものですよね.

第2回の宿題で基底であることを示せという問題が
ありましたが、そのときは、定義に沿って一次独立性と
一次結合性を示してもらいました.
しかし、今回はそのようことをしなくても表示行列の正則性
示せれば十分です.
つまり、表示行列の行列式が$0$ でないことを示せればいいわけです.
そのためには多項式の係数はどうでなければならないか?
もちろん、定義に戻ってやってもいいです.

2回の宿題をやったとき、一次独立性も一次結合性も
結局同じ条件じゃないか、と思った人もいると思いますが.
その通りです.
それを上の表示行列の正則性と言っているわけです.

C-3-2ですが、
2回目の演習の授業の最初にやったとおり数列のベクトル空間は
$(a_n)+(b_n)=(a_n+b_n)$ のように、$n$項目同士を足します.
スカラー倍についても、$\alpha(a_n)=(\alpha a_n)$ と各 $n$ 項目に同時にスカラー倍を
すればよいです.
(1) は漸化式から明らかでしょうか.
(2) は一次独立性は $\alpha\neq \beta$ であることからすぐわかります.
一次結合性については、漸化式を解けばよいでしょう.
(3) ${\bf w}_1,{\bf w}_2$ もフィボナッチ数列だから、(2) の基底の一次結合を使って
かけるはずです.基底であるためには基底 ${\bf v}_1,{\bf v}_2$ による
表示行列が正則であることです.

C-3-3ですが、これは毎年出している問題で、いつもよくできているので
今回はヒントはなしです.


ヒントについては気が向いたら出しますが、
メールやブログのコメント欄、手習い塾など積極的に質問していただければ
出しやすいです.

2014年10月26日日曜日

微積分II演習(第3回)

[数学1クラス対象(金曜日5限)]

HPに行く.

今日は、以下のような演習を行いました.
  • 接平面の方程式の求め方.
  • 法線の方程式の求め方.
  • 合成関数の微分の演習.
  • 曲面と接平面との交わりについて

接平面、法線の方程式の求め方
接平面とは、関数 $z=f(x,y)$ のグラフ $(x,y,f(x,y))$ 上の点 $(a,b,f(a,b))$
において、そのグラフにもっとも近い平面を指します.

高校のころに習った関数のグラフの接線の2次元バージョンです.
比べてみると、
$$y=f'(a)(x-a)+f(a)$$
であったのに対して、
今回は、
$$z=f_x(a,b)(x-a)+f_y(a,b)(y-b)+f(a,b)$$
となります.

同じように法線に関しては、
$$(a,b)+t(f'(a),-1)$$
$$(a,b,f(a,b))+t(f_x(a,b),f_y(a,b),-1)$$
となります.

一変数の場合に比べて成分が2つに増えていますね.
また、この法線方向のベクトル $(f'(a),-1)$ や $(f_x(a,b),f_y(a,b),-1)$ は
接線、および接平面の方程式の係数を並べたものになっています.

$y,z$ を特別視しないで方程式を
$$f'(a)(x-a)-(y-f(a))=0$$
$$f_x(a,b)(x-a)+f_y(a,b)(y-b)-(z-f(a,b))=0$$
と変形すれば、この方程式は、ベクトル $(f'(a),-1)$ と $(x-a,y-f(a))=(x,y)-(a,f(a))$
との内積、および
$(f_x(a,b),f_y(a,b),-1)$ と $(x-a,y-b,z-f(a,b))=(x,y,z)-(a,b,f(a,b))$
との内積がそれぞれ $0$ であることを意味します.

${\bf v}=(f_x(a,b),f_y(a,b),-1)$
${\bf x}=(x,y,z)$
${\bf a}=(a,b,f(a,b))$
とおけば、接平面の方程式は
${\bf v}\cdot({\bf x}-{\bf a})=0$
というかたちなので、 ${\bf v}$ 方向に直交する ${\bf a}$ を
通る点全体を表しています.

春学期でやったとおり、接線は関数の一次近似であるという見方は
多変数において、接平面が多変数関数の一次近似であるという見方もできます.
つまり、

$f(x,y)=f(a,b)+f_x(a,b)(x-a)+f_y(a,b)(y-b)+(\text{高次の項})$

です.
話の続きとしては、この高次の項を次回以降解析していくことになります.


合成関数の微分法
$z=f(x,y)$ を2変数関数、$x=x(t), y=y(t)$ とすると、
合成した関数 $F(t)=f(x(t),y(t))$ の $t$ での微分は、
$$\frac{dF}{dt}=\frac{df((x(t),y(t))}{dt}=\frac{\partial f}{\partial x}((x(t),y(t))\frac{dx}{dt}+\frac{\partial f}{\partial y}((x(t),y(t))\frac{dy}{dt}$$
となります.
比較のために、一変数関数 $y=f(x)$ の $x=x(t)$ による合成関数 $F(t)=f(x(t))$ の $t$ での微分は、
$$\frac{dF}{dt}=\frac{df}{dt}(x(t))\frac{dx}{dt}$$
となります.

ちなみに、$\frac{df((x(t),y(t))}{dt}$ は、$x(t)$ と$y(t)$ を代入してから$t$-微分
こちら $\frac{\partial f}{\partial x}((x(t),y(t))$ は$x$ に関して偏微分してから $x(t)$ と $y(t)$ を代入することを意味します.

この合成関数の微分は、関数 $f(x,y)$ を$(x,y)$-平面の曲線 $(x(t),y(t))$ に
制限して得られる関数 $f(x(t),y(t))$ の$t$-微分ととらえることができます.

なので、$(x,y)=(t,b)$ という平面上の曲線で $t=a$ において $t$-微分を計算すると、
$$\frac{df(t,b)}{dt}(a)=\frac{\partial f}{\partial x}(a,b)t'+\frac{\partial f}{\partial y}(a,b)b'=\frac{\partial f}{\partial x}(a,b)$$
となり、$f(x,y)$ の $x$ での偏微分がでてきます.
偏微分は軸の方向に沿った微分のみを意味しましたが、方向を指定してやることで
その方向での偏微分を計算することができるようになったわけです.

つまり、 $(a,b)$ 方向の $(0,0)$ での偏微分とは、曲線(この場合直線ですが) $(at,bt)$
を合成した関数の $t=0$ での微分として定義できます.

それを実行すると、 $\frac{\partial f}{\partial x}a+\frac{\partial f}{\partial y}b$ となります.
つまり、偏微分の一次結合の形に書けます.

$(1,0)$ 方向、$(0,1)$ 方向の偏微分は $x$ に関する偏微分と $y$ に関する偏微分
に対応します.

また、曲線 $(t\cos(t),t\sin (t))$ に沿った $t=0$ での微分は、回りながら近づいたときの関数の微分です.
計算結果は、$\frac{\partial f}{\partial x}$ となりますが、
これは原点の近くで曲線の方向が $(t,0)$ に収束しながら近づいているので結果
 $x$ による偏微分と同じになっています.
$(t\cos(t),\sin(t))$ のテイラー展開の初項をそれぞれ計算してみてください.

実際、合成関数の微分法は、

$$\frac{\partial f}{\partial x}\frac{dx}{dt}+\frac{\partial f}{\partial y}\frac{dy}{dt}=(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y})\begin{pmatrix}\frac{dx}{dt}\\\frac{dy}{dt}\end{pmatrix}$$
とベクトルの内積ですが、
$$(\frac{\partial f}{\partial x},\frac{\partial f}{\partial y})$$
は 勾配ベクトル (gradient vector) とよばれ、接平面上の方向ベクトルで
もっとも勾配が大きい方向を表す $(x,y)$ 平面上のベクトルのことです.

例えば、下のグラフは $z=x^2+y^2$ の関数のグラフに、$(\frac{1}{2},\frac{1}{2})$
で平面が接しています.
つまり、接平面は、$z=x+y-\frac{1}{2}$ なのですが、この場合、
勾配ベクトルは$(1,1)$ です.
このベクトルは、接平面が $(x,y)$-平面と交わったときにできる直線 $x+y-\frac{1}{2}=0$
と直交するベクトル $(1,1)$ になっています.


例として、$f(x,y)=x^2+y^2$ とし、曲線を $(\sin(t),\sin(2t))$ とすると、曲線は、
となりますが、合成関数は、

となります.この関数の微分は、勾配ベクトルと曲線の接線方向のベクトル
の内積で表されます.
下のように、勾配ベクトル(矢印)と曲線を描いておきます.

曲線の接線方向は $(\cos(t),2\cos(2t))$ で、勾配ベクトルは $(2x,2y)$ です.

この図から、合成関数の微分を理解することはできるでしょうか?
例えば、$t$-微分が $0$ となる点が8か所ありますが、この点を
上の矢印と曲線の図から探し出せますか?

微分が $0$ となる場所は、勾配ベクトルと曲線の接線方向が直交する場所です.
勾配ベクトルと直交するということは、以下のようにして経験からわかります.

自分がある山の斜面に立っているして、その斜面の勾配が一番きつい方向に
向いているとします.
そうすると、その真左と真右をみると丁度山の勾配が$0$ になっているはずです.

なので、自分の標高を保ちながら山を移動したいなら、斜面の勾配がきつい方向を
真右もしくは、真左に見ながら進めばいいわけです.
それは、平地を歩いているのと変わりません.
そんなことをすれば、大抵、正規の山道から外れてしまいますが...

曲面と接平面の交わり
 曲線のある点での凹凸を調べるには、その点での接線と曲線の交わりを
考えることでわかります.
たとえば、 $y=x^2$ は下に凸ですが、接線は $y=2a(x-a)+a^2$ です.

(i) $x^2>2a(x-a)+a^2\ \Leftrightarrow x\neq a$
(ii) $x^2<2a(x-a)+a^2\ \Leftrightarrow \emptyset$
(iii) $x^2=2a(x-a)+a^2\ \Leftrightarrow x=a$

これは、$x=a$ において曲線が下に凸であることを意味します.
また、$y=-x^2$ の場合の接線は $y=-2a(x-a)-a^2$

(i) $-x^2>-2a(x-a)-a^2\ \Leftrightarrow \emptyset$
(ii) $-x^2<-2a(x-a)-a^2\ \Leftrightarrow x\neq a$
(iii) $-x^2=-2a(x-a)-a^2\ \Leftrightarrow x=a$

これは、 $x=a$ において曲線が上に凸であることを意味します.

これらは一変数での話ですが、二変数以上ではどのようになるでしょうか?

宿題3-2(2つめの宿題3-1)は関数 $f(x,y)=x^2-y^2$ に対して任意の $(a,b)$ に
対して接平面との上下関係を調べる問題です.
これは、点 $(a,b)$ で
上に凸になっているでしょうか?
下に凸になっているでしょうか?
それとも、それ以外でしょうか?

2014年10月25日土曜日

線形代数II演習(第3回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

第3回プリント
HPに行く.

今日の授業は以下の通りでした。
  • 基底の変換行列.(今日の必須事項)
  • いくつかのベクトルの行列表示.(今日の必須事項)
  • 同値な一次関係
  • 基本変形と一次関係
  • 対称式
大まかに言っていくつかのベクトルを基底の一次結合を書く(表示する)こと
をやりました.

まず、

基底というのは、一次独立性と一次結合性の2つの性質をもつものをいいますが、
ベクトル空間に対して、一意的に(すぐに)きまるものではありません.
数ベクトル空間 ${\Bbb R}^n$ や ${\Bbb C}^n$ に対しては、
標準基底${\bf e}_1,{\bf e}_2,\cdots,{\bf e}_n$ がありますが、それは
数ベクトル空間特有の現象です.
一般には、基底をとることには任意性があります.
基底を一つ決めてしまえば、全てのベクトルの表示の仕方は一意的です.
今日出したC-3-3の問題です.
C-3-1, C-3-2 についてはまた、要望がありましたら書きます.

さて、今日やったことをもう一度説明していきます。

基底の変換行列
基底が2通り $\mathcal{V}=\{{\bf v}_1\cdots,{\bf v}_n\}$, $\mathcal{W}=\{{\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n\}$
とあったときに、$\mathcal{V}$ から $\mathcal{W}$ へ変換する基底の変換行列とは、

$({\bf w}_1,\cdots,{\bf w}_n)=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)\begin{pmatrix}
a_{11}&a_{12}&\cdots & a_{1n}\\
a_{21}&a_{22}&\cdots & a_{2n}\\
\cdots&\cdots&\cdots&\cdots\\
a_{n1}&a_{n2}&\cdots & a_{nn}\\
\end{pmatrix}\hspace{1cm}(*)$

と書いた時の後ろの $n\times n$行列 $(a_{ij})$ のことです.

この式は、

例えば、一つ目のベクトル ${\bf w}_1$ を基底 $\{{\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n\}$ の
一次結合で書いて、

${\bf w}_1=a_{11}{\bf v}_1+a_{21}{\bf v}_2+\cdots+a_{n1}{\bf v}_n$

とします.
そうすると、
${\bf w}_1=({\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n)\begin{pmatrix}a_{11}\\a_{12}\\\vdots\\ a_{n1}\end{pmatrix}=({\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n)\cdot{\bf a}_1$
とかけます.
同じ事を ${\bf w}_2,\cdots,{\bf w}_n$ に対して行って、

$({\bf w}_1,\cdots,{\bf w}_n)=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)({\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_n)$

と並べることで、$(*)$  の式が出来上がっているのです.


注意すべきことは、かならずこの形 $(*)$ に書くことです.
ベクトルの元を縦に書いたり、行列を左から書けるような形にすると、
基底の変換行列が違うものになります.
正確に言えばそれらを行うと行列が転置されます.

授業でも言いましたが、
基底を表示するとき使っている中カッコ、$\mathcal{V}=\{\cdots\}$ は
集合を表示するときの記号と同じです.
$\mathcal{V}=\{\cdots\}$ はベクトルの集合の意味もありますが、さらに順番も気にしています.

基底の変換行列を考えるときは ${\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n$ の順番に基底を並べたときの
基底の変換行列を計算してください.
好きに並べ替えてから行列を計算すると、違う行列になってしまいます.
正確にいえば列を並び変えたものになります.

ベクトルの行列表示
 次は基底とは限らないいくつかのベクトル $\mathcal{X}=\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$
があったときに、それを同じように基底 $\mathcal{V}$ の一次結合で書く方法です.
つまり、
$$({\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m)=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A$$
です.この行列 $A$ は $n\times m$ 行列です.
この式をベクトル $\mathcal{X}$ の基底 $\mathcal{V}$ による行列表示ということにします.
また、行列表示によって現れたこの行列 $A$ のことを、
ベクトル $\mathcal{X}$ の基底 $\mathcal{V}$ による表示行列 いうことにします.
行列表示や表示行列は教科書の言葉でも、講義での言葉でもないですが、
便利なのでこのまま使っていこうと思います.

当然のことながら、 $\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ が基底であれば、
表示行列は基底の変換行列と同じものになります.

計算方法は、基底の変換行列と同じです.

$\mathcal{X}$ が基底であるための必要十分条件は
表示行列 $A$ が正則行列であることです.
これは、講義の方の授業でもやったとおり定理6.4と同じ主張です.

一次関係が同じということ
 いくつかのベクトル $\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ が用意されているとします.
そのとき、そのベクトルたちがどのような関係を持つのかということが気になります.
たとえば、一次独立か一次従属か、一次従属とすればどのような関係があるか?
$\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ と $\{{\bf y}_1,\cdots,{\bf y}_m\}$ の一次関係が同じである
とは、そのような関係が同じであるということで、式で書けば、

スカラー$c_1,c_2,\cdots,c_m$ が
$c_1{\bf x}_1+\cdots+c_m{\bf x}_m={\bf 0}$
を満たす
$\Leftrightarrow$
スカラー$c_1,c_2,\cdots,c_m$ が
$c_1{\bf y}_1+\cdots+c_m{\bf y}_m={\bf 0}$
を満たす.

と書くことができます.

そこで、さきほどの行列表示の話に戻りますが、
任意のベクトル $\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ を基底によって
$$({\bf x}_1\cdots,{\bf x}_m)=({\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n)A$$
と表示したとし、行列 $A$ を $A=({\bf a}_1\cdots {\bf a}_m)$ とたてベクトルを
並べたものとして書いておきます.

このとき、実は
$\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ と
$\{{\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_m\}$ の一次関係は同じになります.

これは、何がしたいのかというと、


$\{{\bf x}_1,\cdots,{\bf x}_m\}$ は一般のベクトル空間の元であり、
その一次関係を探すことは(場合にも依りますが)結構大変です.

しかし $\{{\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_m\}$ は数ベクトル空間の元であり、
少なくとも数字の列で書かれている以上もう少し分かりやすい対象です.

これにより、抽象的なベクトルを具体的な数ベクトルで置き直して考えることが
できるようになったわけです.

しかし、数ベクトルにしたからといって、一次関係が分かるようになるわけではありません。
それをどうするかが次の話題です.

基本変形と一次関係
 行列の基本変形とは、行列のランクを求めたり、連立一次方程式を求めたりするため
手段ですが、ここではもう一つ使用法があります.

それは数ベクトルの一次関係を探すことです.
$A=({\bf a}_1\cdots{\bf a}_m)$ の一次関係を探したいとします.
例えば、どのベクトルとどのベクトルが一次独立だとか
どのような一次関係があるかとか.

そこで、

基本変形をおさらいをすると、行列を(行で)基本変形をすることは、
(左から)ある正則行列をかけることに対応します.

つまり、$n\times m$ 行列 $A$ に行の基本変形をして $n\times m$ 簡約(階段)行列 $B$ にすることは、左から 
ある $n\times n$ 正則行列 $P$ をかけて、
$$B=PA\hspace{1cm}(**)$$
とすることに対応します.

このとき、$P$ は正則行列ですので、$P=({\bf p}_1\cdots{\bf p}_n)$ と書いたときに
$\{{\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\}$ は${\Bbb C}^n$ 上の基底となります.
また、$B=({\bf b}_1\cdots {\bf b}_m)$ 、$A=({\bf a}_1\cdots {\bf a}_m)$ と書いておけば、

$(**)$ は
$({\bf b}_1\cdots {\bf b}_m)=({\bf p}_1\cdots {\bf p}_n)({\bf a}_1\cdots {\bf a}_m)$
と書くことができます.

この式 $(**)$ は上の書き方と通じますよね?
つまり、ひとつ上で言ったことを加味すれば、
$\{{\bf b}_1,\cdots,{\bf b}_m\}$ と
$\{{\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_m\}$ の一次関係は同じなのです.

もともと $\{{\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_m\}$ の一次関係が調べたかったわけですが、
その一次関係は $\{{\bf b}_1\cdots {\bf b}_m\}$ の一次関係を調べればよい
ということになります.


数ベクトル空間の $\{{\bf a}_1,\cdots, {\bf a}_m\}$ の一次関係が難しくても
簡約化された $\{{\bf b}_1,\cdots, {\bf b}_m\}$ の一次関係なら
誰でも、一目でそれらの一次関係が分かるようになります.
どういうことでしょうか?
このことの演習は次回以降に回しましょう.

今回は、いくつかのベクトルを基底の一次結合で書き
それを行列で表すことの練習です.
ポイントは、いつでも
$({\bf x}_1,\cdots, {\bf x}_m)=({\bf v}_1,\cdots, {\bf v}_n)A$
の形に書くことです.

対称式
 長くなりすぎるのでまた別なところでまた書くことにします.

2014年10月13日月曜日

ランダウの記号

ランダウの記号 $o(x^2)$ や$o(\sqrt{x^2+y^2})$ について説明します.


全微分可能のところに、いきなりランダウの記号 $o$ (スモールオー)が出てきましたが、
説明する暇がなかったので、ここで少しだけ解説します.
(といいつつ、長くなってしまいましたが、少なくとも一変数の部分は分かるようには書いてある
つもりです.)

大文字の $O$ (ラージオー)を用いたものもありますが、
違う記号ですので、混同しないようにしましょう.
大文字の方はここでは扱いません.
大文字の方はこちらに書きました.

その後(2016/5/26)、こちら(リンク)にもランダウの記号について書きました.(2016年微積分I演習)

このベージには、以下のような流れで書いてあります.
  • ランダウ記号の定義
  • ランダウの記号でできることとその計算例
  • ランダウの記号でしてはいけないこと
  • 連続性、微分可能性について
  • 多変数について
  • 全微分をランダウの記号でかくと

ランダウ記号の定義.

$f(x)$ と $h(x)$ が $\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{h(x)}=0$
なる関数であるとき、
$f(x)=o(h(x))\ \ (x\to a)$
と書く.


意味としては、
$f(x)$ が $x\to a$ で $0$ に収束する関数であれば、
$f(x)$ と $h(x)$ を比較すると、$f(x)$ の方がより速く $0$ に収束する.

$f(x)$ が $x\to a$ で $\infty$ に発散する関数であれば、
$f(x)$ と $h(x)$ を比較すると、$h(x)$ の方がより速く $\infty$ に発散する.

ということになります.
ここでは、$0$ に収束する方の例として使っていきます.

普通関数 $h(x)$ は収束の速さが分かりやすい $x^n$ など
が用いられます.

例えば関数 $\sin x-x$ は
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=0$ となります.
実際、これは不定形の極限ですから
値を求めようとすれば、ロピタルの定理から、
$\lim_{x\to 0}\frac{\sin x-x}{x^2}=\lim_{x\to 0}\frac{\cos x-1}{2x}=\lim_{x\to 0}\frac{-\sin x}{2}=0$
がいえるわけです.

よって、$\sin x-x=o(x^2)\ \ (x\to 0)$ などと書くことができます.
または、$x$ を移項して、
$\sin x=x+o(x^2)\ \ \ (x\to 0)$
の形で書くこともできます.
また、$(x\to 0)$ は文脈から明らかに分かる場合は省略することがあります.

この $=$ の使い方は下に書くように、普通の式のイコールとしては厳密には
役割が異なりますので注意が必要です.

数学において、記号を濫用するということは、実際は違うものを同じ記号で書くことです.

でも、「記号の濫用は、最初は使い方に慣れなくても
注意点が分かって慣れてくると大変使いやすいことがあります.」

濫用しても通用するかどうかは、その記号のセンスと使う側の多少の努力にかかっています.


ランダウの記号でできることとその計算例

ランダウの記号は以下のような計算をすることができます.以下$(x\to 0)$ を省略します.
  • $x^{n+1}=o(x^n)$
  • $c\cdot o(x^n)=o(x^n)$ ただし、$c$ は定数.
  • $x^no(x^m)=o(x^{n+m})$
  • $o(x^n)o(x^m)=o(x^{n+m})$
  • $o(x^n)+o(x^m)=o(x^n)$ ただし、$n\le m$
$\sin x=x+o(x^2)$ と $1-\cos x=\frac{1}{2}x^2+o(x^2) $
を用いて、$\sin x(1-\cos x)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)$ を
以下のようにして求めることができます.

$\sin x(1-\cos x)=(x+o(x^2))(\frac{1}{2}x^2+o(x^2))$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^2)(\frac{1}{2}x^2)+xo(x^2)+o(x^2)o(x^2)$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^4)+o(x^3)+o(x^4)=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)+o(x^4)$
$=\frac{1}{2}x^3+o(x^3)$
となります.


ランダウの記号でしてはいけないこと

$o(x^2)$ などはある特定の関数で置き換えてはいけません.
例えば、$x^2=o(x)$ ですが、$-x^2=o(x)$ と書くこともできます.
しかし、$o(x)$ の部分にそれらを代入して、$x^2=-x^2$ などはなりません.
なので、$x^2+x^2=o(x)-o(x)=0$ などのランダウの記号同士の引き算もできません.


連続性と微分可能性について

$f(x)$ の $x=a$ での連続性は$f(x)=f(a)+o(1)\ \ (x\to a)$ と書くことができます.
$f(x)$ の $x=a$ での微分可能性は $f(x)=f(a)+\alpha (x-a)+o(x-a)$ なる $\alpha$
が存在することとして定義することができます.
つまり、微分可能とは、$f(x)$ が $x=a$ の周りで一次式とその他の部分に分けられ、
その他の部分は一次式より速く $0$ に収束するということです.


多変数の場合

多変数関数においてもランダウの記号を用いて $(x,y)\to (a,b)$ なる極限において、
関数 $f(x,y)$ と $h(x,y)$ を比較することができます.

$f(x,y)$ と $h(x,y)$ が $\lim_{(x,y)\to (a,b)}\frac{f(x,y)}{h(x,y)}=0$ なる関数のとき、
$f(x,y)=o(h(x,y))\ \ (x,y)\to (a,b)$ と定義します.


$h(x,y)$ に対する関数はいろいろありますが、ここでは $o(h(x,y))$ は $o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
を扱います.


まず、
$f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$
なる一変数関数を二変数関数として、見直すと
$f(x)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$
が成り立ちます.

これを証明すると、
$f(x)=o(x^n)$,  なる任意の(一変数)関数を $f(x)$ に対して、
$|\frac{f(x)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}|\le |\frac{f(x)}{x^n}|\to 0\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
となるからです.

また、$f(x,y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (x,y)\to (0,0)$
なる関数とすると、任意の $y$ に対して、
$f(x,y)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$ とはいえません.

$\frac{f(x,y)}{x^n}=\frac{f(x,y)}{(\sqrt{x^2+y^2})^n}\frac{(\sqrt{x^2+y^2})^n}{x^n}$
としたときに、右辺の2つ目の項は $x\to 0$ で有界な振る舞いをしますが、
右辺の1つ目の項は $(x,y)=(0,0)$ の近くでは、$0$ に収束しますが、$(0,y)$ のところでは
よく分かりません.

なので、 $o(x^n)=o((\sqrt{x^2+y^2})^n)$ と書きたいところですが、左辺の関数が右辺の
関数として捉えられないのでイコールとしては書き方が強すぎます.
$o(x^n)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)$
という書き方がよいかもしれません.
これは一般的な記号法ではありません.

これを応用して、
$f(x)=o(x^n)\ \ (x\to 0)$
$g(y)=o(y^n)\ \ (y\to 0)$
なら、$f(x)g(y)=o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})\ \ (x,y)\to (0,0)$
も成り立ちます.

これらを書き表すと、
$o(x^n)o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^{n+m})$
となり、

$o(x^n)+o(y^m)\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^n)\ \ (n\le m)$
もいえます.

そうすると例えば、
$\sin(x)(1-\cos(y))-\frac{xy^2}{2}=(x+o(x^2))(\frac{y^2}{2}+o(y^2))-\frac{xy^2}{2}$
$\subset xo(y^2)+\frac{y^2}{2}o(x^2)+o(x^2)o(y^2)$
$\subset o((\sqrt{x^2+y^2})^3)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)+o((\sqrt{x^2+y^2})^4)$
$=o((\sqrt{x^2+y^2})^3)$
と計算でき、
$\sin(x)\cos(y)=\frac{xy^2}{2}+o((\sqrt{x^2+y^2})^3)$
が成り立ちます.

全微分をランダウの記号でかくと

$f(x,y)$ が $(a,b)$  で全微分可能であるとは
$f(x,y)=f(a,b)+\alpha (x-a)+\beta (y-b)+o(\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2})\ \ (x,y)\to (a,b)$
なる$\alpha, \beta$ が存在することです.
つまり、$f(x,y)$ は $(a,b)$ の周りで、一次式と一次式より速く $0$ に収束する部分に
分けられることを意味しています. 

微積分II演習(第2回)(後半)

[数学1クラス対象(金曜日5限)]

HPに行く.

後半です.
前半では全微分可能であることを定義に基づいて示しました.
後半ではその続きです。

まず、全微分可能であることを偏導関数 $f_x(x,y)$, $f_y(x,y)$ が連続であることから導く
方法ですが、これは授業でもやりましたのでここでは省略します.

実際、宿題2-3はそれをやる問題です.

もしまったく分からないという人がコメントかメールをください.
そのときはやり方をもういちど書きます.

ここからは全微分可能でないことを定義を用いて示すことにします

その例となっていたのが、$\sqrt{|xy|}$ でした.、

偏微分係数 $f_x(0,b)$ を求めてみましょう.
授業でやりましたが、その係数は

$\lim_{x\to 0}\frac{f(x,b)-f(0,b)}{x}=\lim_{x\to 0}\frac{\sqrt{|xb|}}{x}=\sqrt{|b|}\lim_{x\to 0}\frac{\sqrt{|x|}}{x}$

ですが、$b\neq 0$ では、この極限は、$\lim_{x\to 0}\frac{\sqrt{|x|}}{x}$
が存在するかどうかにかかっていますが、
右極限は、$\infty$ に左極限は$-\infty$ に発散してしまいます.
よって、偏微分できないことが言えます.

つまり、$b\neq 0$ では、$(0,b)$ では全微分できません.
この ”$b\neq 0$ では”というところは授業では抜けていたと思います.


しかし、$b=0$ とするとどうでしょう.
$\lim_{x\to 0}\frac{f(x,0)-f(0,0)}{x}=0$
となり、収束しますから、偏微分可能です.
もちろん $y$ 方向にも偏微分可能です.
$f_x(0,0)=f_y(0,0)=0$ です.

では、原点では全微分可能でしょうか?
しかし、偏微分可能だからといって、全微分可能とはいませんので
証明が必要です.

この関数が $(0,0)$ で全微分可能かどうか調べましょう.
これは授業ではしませんでしたね.

今、$(0,0)$ では関数は偏微分できますから、
全微分可能かどうかは定義に戻るしかありません.
もし、全微分できるとすると、

$f(x,y)=f(0,0)+\alpha x+\beta y+o(\sqrt{x^2+y^2})$
となりますが、いま、$\alpha=f_x(0,0)=0$ かつ、$\beta=f_y(0,0)=0$
です.
よって、$f(x,y)=\sqrt{|xy|}=o(\sqrt{x^2+y^2})\ \ \ \ (x,y)\to (0,0)$
かどうかを調べればよいことになります.

$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{\sqrt{|xy|}}{\sqrt{x^2+y^2}}=0$
であれば、全微分可能です.

${\bf x}_n=(\frac{1}{n},\frac{1}{n})$ としますと、
$\lim_{n\to \infty}\frac{\sqrt{\frac{1}{n}\cdot\frac{1}{n}}}{\sqrt{\frac{1}{n^2}+\frac{1}{n^2}}}=\frac{1}{\sqrt{2}}$
となり、$0$ に収束しません.

他の点列を考えれば分かる通り、この極限はそもそも収束はしません. 
実際、$(r_n\cos\theta_n,r_n\sin\theta_n)$ なる点列をとれば、

$\frac{\sqrt{|xy|}}{\sqrt{x^2+y^2}}=\frac{r_n\sqrt{|\cos\theta_n\sin\theta_n|}}{r_n}=\sqrt{|\cos\theta_n\sin\theta_n|}$
となり、$\theta_n$の数列によってさまざまな値に近づいてしまいます.
(もしくは発散します.)

まとめると、
$f(x,y)=\sqrt{|xy|}$ は
$x$-軸と$y$-軸で全微分不可能で、
そのうち、$(0,0)$でないところでは偏微分も可能でない。
$(0,0)$ では、偏微分可能だが、全微分可能でない.

関数としては、下のようになっています.


確かに軸上$x=0$, $y=0$ では関数がとがっていて微分できなさそうです.
なので、接平面は存在しません.
また、そこでは、関数は $0$ ですから、
原点でのみ$x$-方向、$y$-方向に偏微分できる関数になっています.

この原点での様子は偏微分可能だが、全微分できるとは限らない例になっています.

2014年10月12日日曜日

微積分II演習(第2回)

[数学1クラス対象(金曜日5限)]


今日の内容
  • 連続関数(もしくは不連続関数)であることの証明のしかた.
  • 偏微分の計算方法.
  • 全微分の定義
  • 全微分可能であることの定義に基づく証明
  • 全微分可能であることの偏微分を用いた証明
  • 全微分可能でないための証明

でした.
このようなことを理路整然と説明すればよかったですが
いろいろな証明方法を話しているうちに時間が来てしまったようです.
そのうちのいくつかは宿題に出しました.
また、以下の文章の中には授業中に話さなかったことも含まれています.
それらはオレンジ色で色付けしました.


連続であることの証明

$f(x)$ が連続であることは、

$(a,b)$ に収束する任意の点列 ${\bf x}_n=(a_n,b_n)$ に対して、$f(a_n,b_n)=f({\bf x}_n)$ が $f(a,b)$ 収束する

これを否定すれば、不連続であることは、

$(a,b)$ に収束する点列 ${\bf x}_n=(a_n,b_n)$ が存在して、$f(a_n,b_n)=f({\bf x}_n)$ が $f(a,b)$ 収束しない


です.授業では、

関数 $f(x,y)=y\sin\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}$ の$(0,0)$ での連続性
関数 $f(x,y)=\frac{2x}{\sqrt{x^2+y^2}}$ の$(0,0)$ での不連続性

を扱いました.
任意の点列として、${\bf x}_n=(r_n\cos\theta_n,r_n\sin\theta_n)$ ($r_n\to 0$)
を用い、

それぞれ

$f({\bf x}_n)=r_n\sin\theta_n\sin(\frac{1}{r_n})$
$f({\bf x}_n)=2\cos\theta_n$

となりますが、
前者の方は、$|f({\bf x}_n)|\le r_n\to 0$ですから、収束しますが、
後者の方$2\cos\theta_n$ は$\theta_n$の方を適当にとれば、
いかようにも収束しますし、発散もします.
例えば、$\theta_n=\alpha$ (定数)として点列を取っておけば、
当然$2\cos\alpha$ に収束します.
実際Mathematicaで描かせてみると、下のようになります.
原点のところに、長さが4の棒があり、その棒のいずれの点にも周りの点から
近づくことができるようになっています.


証明としては、違う点に収束する列を2つとればよいでしょう.

偏微分の計算
関数 $z=f(x,y)$ の微分ですが最初は偏微分です.
$(a,b)$での$x$方向の偏微分係数は、$f(x,b)$ を$x=a$で微分係数のことです.
つまり、微分の定義を用いれば、$(a,b)$ に関する偏微分係数は
$f_x(a,b)=\lim_{h\to 0}\frac{f(a+h,b)-f(a,b)}{h}$
となります.

計算は授業中に何回かやって見せたので省略します.

$f_x(x,y)$ は $(a,b)$ に対して一般の $(x,y)$ として得られる関数のことです.
この関数を偏導関数と言います。

$f_{xx}(x,y)$ は $(f_x(x,y))_x$ のことです.
つまり、$x$ で偏微分した後もう一度 $x$ で偏微分せよということです. 例えば、$f_{xy}(x,y)=(f_x(x,y))_y$


全微分可能性
まず、$f(x,y)$ が $(a,b)$ で全微分可能であるとは、
$f(x,y)=f(a,b)+\alpha(x-a)+\beta(y-b)+o(\sqrt{(x-a)^2+(y-b)^2})$
となるような $\alpha$, $\beta$ が存在すること.
さらに、全微分可能であれば、
$\alpha=f_x(a,b), \beta=f_y(a,b)$ が成り立つ.


ここで、まず分かってほしいことは、
$$f_x(x,y),f_y(x,y)\text{が両方連続}\Rightarrow f(x,y)\text{が全微分可能}\Rightarrow f(x,y) \text{が偏微分可能}\hspace{2cm} (\star)$$

であることと、
このいずれも逆が成り立ちません.

つまり、

全微分可能を示すには、
  1. 定義から行う.
  2. $f_x(x,y),f_y(x,y)$が両方連続であることを示す.
があります.

全微分可能でないことは示すには、
  1. 定義から行う.
  2. 偏微分不可能であることを示す.
この2. は$(\star)$の2つめの$\Rightarrow$の対偶をとっています.


定義から全微分可能を証明する方法

例として $f(x,y)=\sin(x+y)$ の $(0,0)$ の全微分可能を行う.
一般の場合には、$f(x,y)$ の $x$ での偏微分、 $y$ での偏微分を
行って、引く.つまり、
$f(x,y)=f(0,0)+f_x(0,0)x+f_y(0,0)y+\cdots$
として、$\cdots$ の部分が $o(\sqrt{x^2+y^2})$ であることをいえばよいですが、
授業では、$\sin$ のマクローリン展開を使って証明しました.
これは、全微分可能を示すための一例にすぎませんので
"いつでもこの方法で出来るわけではありません."

$\sin z=z-\frac{z^3}{3!}+\cdots$ というテイラー展開ができますから、
その際、$\sin(x+y)=x+y+o((x+y)^2) (x+y\to \infty)$となったわけです.

つまり、$o((x+y)^2)\ \ \ (x+y\to \infty)$は$o(\sqrt{x^2+y^2})\ \ \ ((x,y)\to (0,0))$ であることを示す必要があります.

このとき、実は、気をつけたいことは、一つ目の極限の取り方は$x+y\to 0 $ですが、
二つ目の極限の取り方は$(x,y)\to (0,0)$ であることです.
これは授業時間内ではコメントしませんでした.

正確にいえば、
$o((x+y)^2)\ \ (x+y\to 0)$ となる関数 $g(x,y)$ は、
$o(\sqrt{x^2+y^2})\ \ ((x,y)\to (0,0))$ なる関数になるかということです.
今、$g(x,y)$ は$\sin(x+y)-x-y$ のことです。

これは次のようにしていうことができます。

$\lim_{x+y\to 0}\frac{o((x+y)^2}{(x+y)^2}=0$ですが、
$(x,y)\to (0,0)$ ならば、$x+y\to 0$ ですから、
$\lim_{x+y\to 0}\frac{o((x+y)^2)}{(x+y)^2}=\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{o((x+y)^2)}{(x+y)^2}$
が言えます.
よって、$o((x+y)^2)\ \ (x+y\to 0)$ なる関数は $o((x+y)^2)\ \ ((x,y)\to (0,0))$ であることが分かりました.

あとは、授業でも言ったように、
$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{o((x+y)^2}{\sqrt{x^2+y^2}}=\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{o((x+y)^2)}{(x+y)^2}\frac{(x+y)^2}{\sqrt{x^2+y^2}}$
となり、

$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{(x+y)^2}{\sqrt{x^2+y^2}}$の収束性をいえばよいですが、
やはり、ここでも、$(0,0)$に収束する点列を$(x_n,y_n)=(r_n\cos\theta_n,r_n\sin\theta_n)$ とおきましょうか.ただし、$r_n\to 0\ \ (n\to \infty)$

そうすると、
$\lim_{n\to \infty}\frac{r_n^2(\cos\theta_n+\sin\theta_n)^2}{r_n}=\lim_{n\to \infty}r_n(\cos\theta_n+\sin\theta_n)^2=0$
となります.
ゆえに、任意の点列で収束したから、
$\lim_{(x,y)\to (0,0)}\frac{o((x+y)^2}{\sqrt{x^2+y^2}}=0$
つまり、$o((x+y)^2)\ \ (x+y\to 0)$は$o(\sqrt{x^2+y^2})\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
と書ける.
つまり、
$\sin(x+y)=x+y+o(\sqrt{x^2+y^2})\ \ \ (x,y)\to (0,0)$
となる.ゆえに、$\sin(x+y)$ は$(0,0)$ で全微分可能.


宿題2-2 はこのマクローリン展開の方法ではできません.
$f(x,y)=f(0,0)+f_x(0,0)x+f_y(0,0)y+g(x,y)$ として、
$g(x,y)$ が$o(\sqrt{x^2+y^2})$ であることを証明してください.

とりあえず、長いので一旦おわります.
続きはのちに書きます.


もし、間違い、わからないところがありましたら報告くださいませ.

2014年10月11日土曜日

線形代数II演習(第2回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]

第2回プリント
HPに行く.

今日の授業は、基底でした.

基底というのは、ベクトル空間 $V$ の中の $\{{\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n\}$ が
以下の性質を満たすものです.

(i) $\{{\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n\}$ は一次独立である.
(ii) $V$の任意の元 ${\bf v}$ があるスカラー$a_1,\cdots,a_n$ を用いて、
  ${\bf v}= a_1{\bf v}_1+a_2{\bf v}_2+\cdots+a_n{\bf v}_n$
  とかけることである.

一次独立性については多くの人が理解していたようでしたが、
(ii) の一次結合性(一般にそう呼ばれているわけではないですが、ここではそう書くことにします)
についての方は理解することは難しかったようです.

一応復習しておくと、${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots,{\bf v}_n$が
一次独立であることは、$c_1{\bf v}_1+c_2{\bf v}_2+\cdots+c_n{\bf v}_n={\bf  0}$
となる $c_1,c_2,\cdots,c_n$ が自明なもの$(0,0,\cdots,0)$ しかないことを証明すればよく、
これは、連立一次方程式を解けばいいわけです.

今日何人かの人がやってくれたと思います.

しかし、一結合性の方は何をすればよいのか、なかなか分からなかったと思います.

もう一度書くと、
任意の${\bf v}\in V$の元に対して、あるスカラー$a_1,a_2,\cdots,a_n\in {\Bbb K}$が
存在して、${\bf v}=a_1{\bf v}_1+a_2{\bf v}_2+\cdots+a_n{\bf v}_n$が成り立つことです.

まず問題となるのは、任意の元 ${\bf v}$ をどうやって与えればよいかということですが、
これは場合により異なります.

例えば、多項式全体 ${\Bbb K}[X]$ や $P({\Bbb K})$ の場合を考えます.
このとき、任意の多項式の与え方は、$a_i\in {\Bbb K}$ を用いて
$a_0+a_1X+a_2X^2+\cdots+a_nX^n$
と書くことになります.

他の例でいえば、${\Bbb C}^n$ の任意のベクトルは、スカラー $a_i\in {\Bbb C}$ を用いて
$\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$
と与えることができます.

さらに他の例でいえば、閉区間 $[0,1]$ 上連続関数全体 $C([0,1])$ のベクトルであれば
単に $f\in C([0,1])$ と書くしかありません.
ただし、任意の $x=a\in [0,1]$ において $f(x)$ は連続です.

次なる問題は、いつこれがそのベクトルたちの一次結合でかけるかという問題ですが、
式を立ててしまって、その式の解の存在条件を探ればよいことになります.


例として、B-2-2の(1) をもう一回やっておくと、

(i)   $f_1,f_2,f_3$の線形独立性については、
$c_1f_1+c_2f_2+c_3f_3=0$ という式を立てます.

そうすると、$(c_1+c_2+c_3)+(c_2+c_3)X+c_3X^2=0$
ですが、係数を比較することで、
$\begin{cases}c_1+c_2+c_3=0\\c_2+c_3=0\\c_3=0\end{cases}$
が成り立ちます.

(どうして係数比較すればよいかということは授業中に話しましたので省略します.
ポイントは、右辺の $0$ が多項式として $0$ ということです.
説明がほしい人はコメント欄にでも何か書いてください.)

この連立一次方程式をとくことで、$c_1=c_2=c_3=0$ が成り立ちます.

次に

(ii) 一次結合性ですが、
任意の$P({\Bbb R})_2$ の元 ${\bf v}$ は、あるスカラー $a_0,a_1,a_2$ を用いて、
${\bf v}=a_0+a_1X+a_2X^2$ とかけます.
この${\bf v}$ が $\{1,1+X,1+X+X^2\}$ の一次結合で書けるかという問題ですが、
問題は、任意の $a_0+a_1X+a_2X^2$ が $c_0+c_1(1+X)+c_2(1+X+X^2)$
となるのは$a_0,a_1,a_2$がどのような状況か?
$a_0,a_1,a_2$ のとりかたによらずに(無条件に)成り立てば一次結合性成立です.
この式もやはり係数比較をすると、
$$\begin{pmatrix}1&1&1\\0&1&1\\0&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c_0\\c_1\\c_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_0\\a_1\\a_2\end{pmatrix}\hspace{2cm}(\star)$$

となりますから、この行列を基本変形して、
$\begin{pmatrix}1&1&1\\0&1&1\\0&0&1\end{pmatrix}\rightarrow \cdots\rightarrow \begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}$
となります.
つまり、この行列の rank が full rank つまり、$3$ですので、
この方程式$(\star)$には必ず解が存在することになります.
このとき、 $\{a_0,a_1,a_2\}$ の値によっていません.

この、rank を調べれば解が存在するか分かるという事実は、
教科書の P53 の定理2.15のことです.
もしくは、春学期のノートを復習するとよいでしょう.


また、
B-2-4(2) は途中まででしたので、最後までやっておきます.
$x_1-x_2-x_3=0$ を満たす ${\Bbb C}^3$ の解はある、$c,d\in {\Bbb C}$ を用いて、
$\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}+d\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}$
となります.
$V$ の基底は $\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}$
なのですが、

(i)  一次独立性ですが、
$c_1\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}={\bf 0}$
となる$c_1,c_2$をみつければよいですが、$x_2,x_3$の変数のところをみれば分かる通り、
すぐさま$c_1=c_2=0$ がいえます.

(ii) 一次結合性ですが、
上に書いてある通り、解空間 $V$ を解いたときに、任意の${}^t(x_1,x_2,x_3)$ は
$\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}+d\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}$
とかけるわけですから、それらの一次結合でかけているわけですね.
このことをコメントすれば、明らかです.

解をあのように、パラメータと定数 $c,d$ の一次結合の形に書いた意味はここにあったわけです.


これで、おそらく、C問の C-2-1,C-2-3
は解けるでしょう.

ただ、C問の C-2-2 はおそらく少し変わった問題ですので、
もしかしたら苦労する人もいるかもしれません.

どうしてもわからなければメールをするか、コメントを書いてください.

2014年10月9日木曜日

ベクトル空間であること.部分ベクトル空間であること.

下のような加法とスカラー倍をもつ $V$ がベクトル空間であることを示すこと

${\bf u},{\bf v},{\bf w}\in V$ 、$\alpha,\beta\in {\Bbb C}$ などとし、
${\bf u}+{\bf v}\in V$ かつ、$\alpha\cdot {\bf v}\in V$
であり、

VS1  $({\bf u}+{\bf v})+{\bf  w}={\bf u}+({\bf v}+{\bf w})$
VS2  ${\bf u}+{\bf  v}={\bf v}+{\bf u}$
VS3  ${\bf v}+{\bf  0}={\bf v}$ となる${\bf  0}$ が存在する.
VS4....

を示すこと.


ベクトル空間 $V$ の中の部分集合$W$ が部分ベクトル空間であることを示すこと.

任意の ${\bf v},{\bf w} \in W$ と $\alpha\in {\Bbb C}$ に対して、
  1. ${\bf v}+{\bf w}\in W$ ($V$の加法)
  2. $\alpha\cdot {\bf v}\in W$ ($V$のスカラー倍)
を示すこと.


今回のC問題ですが、

C-1-1
ベクトル空間であることを示す問題ですが、
部分ベクトル空間は再びベクトル空間ですから
$V$ が $P({\Bbb R})_3$ の部分ベクトル空間であることを示せばよいことになります.
(もちろん、ベクトル空間になるための性質VS1からVS8を示してもかまいません.)

$f,g\in P({\Bbb R})_3$ と $\alpha\in {\Bbb R}$ に対して
$f+g\in P({\Bbb R})_3$、$\alpha\cdot f\in P({\Bbb R})_3$
であることを示せばいいことになります.

$f+g\in P({\Bbb R})_3$、$\alpha\cdot f\in P({\Bbb R})_3$

であることは、

$P({\Bbb R})_3$の加法とスカラー倍は何を意味したか?(多項式の係数同士の足し算.)
$V$に入ることは何を意味するのか?($V$ の2つの条件式)

C-1-2
この問題では、行列 $A$ を固定して考えてください.
$W_{a,b}$ が部分ベクトル空間になるには、
上の式 1. 2. から $a,b$ に条件式がでるはずです.
$A=\begin{pmatrix}a_{11}&a_{12}&a_{13}\\a_{21}&a_{22}&a_{23}\end{pmatrix}$
と成分表示してもよいし、そうでなくてもでるはずです.

また、部分ベクトル空間であるためには、$V$ の ${\bf 0}$ を含んでいなければ
なりません.
つまり、数ベクトル空間でいう原点を通らなければならないのです.
これは部分ベクトル空間であるための大切な性質です.
これを使うともう少し早く示すことができますね.
 

2014年10月4日土曜日

微積分II演習(第1回)

[数学1クラス対象(金曜日5限)] 



このページは筑波大学で行われている数学1クラス対象の微積分II演習に
関するブログのページです.

微積分II演習が始まりました.
このページには、演習の内容や、授業中伝わりきれなかったところを補足
したいと思います。

線形代数の方のページにも書きましたが、
数学手習い塾についてここで宣伝しておきます.


---------------------------------------------------------
筑波大学の学期中に毎週水曜日5,6限を使って、1E403に設けられた
学類生を対象とした数学質問コーナーです。
いつも、何人かの院生が待機しており、その時間にいつでも
数学の質問を受け付けることができます。
数学の内容の質問はもちろんのこと、数学の院生の生活やその実態
院試の難しさなど質問してもよいのではないでしょうか?
---------------------------------------------------------
今日やったことは、
  • 春学期の復習(連続性、微分法、マクローリン展開、広義積分をちょっと)
  • 多変数関数の連続性はどうやって定義するか
  • 内点、外点、境界点、開集合、閉集合

でした.
春学期の復習を一気にやったので、めまぐるしかったかもしれません.

連続性について
 
連続性は$\epsilon-\delta$ 論法で普通定義されます.
つまり、$f(x)$ が $x=a$ で連続であるとは、

任意の$\epsilon>0$に対して、ある$\delta>0$ があって、
$|x-a|<\delta$ なら、$|f(x)-f(a)|<\epsilon$ がなりたつ.

ですが、点列を使って連続性を定義することができます.
つまり、関数 $y=f(x)$ が $x=a$ で連続であることは、

点 $a$ に収束する任意の点列 $a_n$に対して、$f(a_n)$ が $f(a)$ に収束する.

ということができます.これは多変数関数でも同じ定義です.

実は、これは点列連続といわれる定義で、上の定義とは厳密には違うものですが、
${\Bbb R}^n$ 上の連続関数である場合はこれらは同値です.

この事実は証明が必要ですが、解析学では普通は認めて先に進みます.
講義の方ではもしかしたら証明したかもしれませんが.

多変数関数では$\epsilon-\delta$論法で行うより、
点列連続で行う方が何かと便利なので、
点列連続で、連続性を示すことがあります.

しかし、$\epsilon-\delta$論法を学習することは、将来位相を学ぶ観点からも、
論理を身につけることや、大学数学的思考力を身につける点からも
意味があります.

点列連続を使うときにポイントとなるのは、$a$ に収束する任意の点列をもってくることです.

宿題では、$(0,0)$ に収束する任意の点列の表し方をやってもらうことにしました.

微分法について
 秋学期で習う微積分は多変数ですが、春学期に習った
積の微分、合成関数の微分、逆関数の微分などは使う予定です.


マクローリン展開について
 $x=0$ でのテイラー展開のことですが、一般の関数を多項式で近似するための
展開方法です.一般公式は、

$$f(x)=f(0)+f'(0)x+\frac{f''(0)}{2!}x^2+\frac{f'''(0)}{3!}x^3+\cdots+\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n+\cdots$$

となります.
複雑な関数では一般項が簡単に求まらないことも多いです.

展開として必須なのは、指数、対数、三角関数、などのマクローリン展開ですが、
公式はたいていの教科書にあるのでここでは省きます.
こちら(wiki)にたくさん展開式が載っています.

ここでは、べき関数の展開だけもう一度書きます.

$$(1+x)^\alpha=\sum_{n=0}^\infty \binom{\alpha}{n}x^n$$
で、この2項係数は
$$\binom{\alpha}{n}=\frac{\alpha(\alpha-1)(\alpha-2)\cdots(\alpha-n+1)}{n!}$$
と定義されます.

例えば、 $(1-x)^{-\frac{1}{2}}$ は、
$$\binom{-\frac{1}{2}}{n}=(-1)^n\frac{\frac12\frac32\cdots\frac{2n-1}{2}}{n!}=(-1)^n\frac{(2n-1)!!}{2^nn!}=(-1)^n\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}$$
$$(1-x)^{-\frac{1}{2}}=\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}(-x)^n=\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}x^n$$
ゆえに、$\text{Arcsin}(0)=0$ であることから、
$$\text{Arcsin}(x)=\int_0^x\frac{1}{\sqrt{1-t^2}}dt=\int_0^x\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}t^{2n}dt=\sum_{n=0}^\infty \frac{(2n-1)!!}{(2n)!!(2n+1)}x^{2n+1}$$

最後は項別積分をしていますが、中の級数が一様収束している必要が
あります.

広義積分の収束について
  
   広義積分は無限区間での積分や、関数の値が発散点を含む区間上の積分のことです.
つまり、$\int_1^\infty e^{-t}dt$ や、$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{x}}$ の積分の
ことです.

この積分はどちらも無限区間やある値で関数が発散する状況での積分になっています.
これらの積分が収束するかは、

$\lim_{M\to\infty}\int_0^Me^{-t}dt=\lim_{M\to \infty}[-e^{-t}]_0^M=\lim_{M\to \infty}(-e^{-M}+1)$ が
収束するかどうかということになります.

広義積分の収束の判定問題は、簡単に積分できないような関数の収束の場合、
もしくは収束の判定だけが問題となる場合において現れます.


  広義積分の収束性の判定には、収束性のよくわかっている関数を用いて行います.
つまり、例として、$\int_1^\infty f(x)dx$ が収束することをいうには、
$x\to \infty $ において、$f(x)$ 上の広義積分より収束性がよくわかっている
$g(x)$ で、$|f(x)|<g(x)$ となっている状況を設定します.

もし、広義積分 $\int^\infty_1 g(x)dx$が収束するなら、
広義積分 $\int^\infty_1 f(x)dx$ は収束します.
この収束は絶対収束(優関数法)といわれており、よく使われる判定法です.
例えば、授業でもあったとおり、ガンマ関数
$\Gamma(x)=\int^\infty_1 t^{x-1}e^{-t}dt$ の収束を示すには、
$x+1<n$となる自然数をとり、
$t\to \infty $のとき、
$t^{x-1}e^{-t}t^2=t^{x+1}e^{-t}<\frac{t^n}{e^t}<\frac{t^n}{\frac{t^n}{n!}}<n!$
よって、$t\to \infty $において、
$t^{x-1}e^{-t}<\frac{n!}{t^2}$
が言えます.
$\frac{n!}{t^2}$が$\infty $において広義積分が収束します.
$\int_1^\infty \frac{n!}{t^2}dt=\lim_{M\to \infty}\int_1^M\frac{n!}{t^2}dt=\lim_{M\to \infty }[-\frac{n!}{t}]_1^M=\lim_{M\to \infty}(-\frac{n!}{M}+n!)=n!$
よって、$\int_1^\infty t^{x-1}e^{-t}dt$も収束します.
$t=0$ での収束も同じように上から収束する関数でおさえることで行います。
逆に、 $\int_1^\infty f(x)dx$ が発散することをいうには、
$0<g(x)<f(x)$ なる関数 $g(x)$ で、発散する広義積分
$\int_1^\infty g(x)dx$ をもつもので評価すればよいことになります.
例えば $\int_1^\infty \frac{1}{x}dx$ など
でおさえることで、証明します.
演習問題:
広義積分 $\int_1^\infty\frac{dx}{x+\sqrt{x}}$ が発散することを示せ.
プリントにも書いたように、この判定に使われる関数 $g(x)$ は、
$\frac{1}{x^s}$ なる関数が使われることが多いです.
注1ちなみに、$x=\infty$での広義積分 $\int^\infty f(x)dx$ の収束を言うためには、
少なくとも、$\lim_{x\to \infty}f(x)=0$ が言えていないといけません.
注2:また有界の$x=a$についての広義積分 $\int_a^bf(x)dx$ は
$\lim_{x\to a}f(x)$が発散していないと普通の積分に戻ります.
${\Bbb R}^n$上の集合について
内点
外点
境界点
開集合
閉集合
について例を用いて学習しました.定義は教科書に載っているし、
プリントにも書いたのでここでは省きます.

どれも、その点における$\epsilon$-近傍を用いて定義することができます.
$\epsilon$-近傍というのは、その点から距離$\epsilon$ 以内に
存在する点全体のことで、解析や距離空間などよく出てくる用語です.
今日は復習が中心でしたが、来週からはどんどん新しいことが出てきます.
  

線形代数II演習(第1回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)] 

 


このページは、筑波大学の物理2クラス対象の線形代数II演習について
のブログです.
TAは宮本君が付いてくれました.とりあえず、授業時間内にいてくれるようですので、
質問がある人は、彼にもどしどし質問してみてください.


ところで、秋学期が始まりました。
このブログはもともと数学手習い塾の様子を主に伝えていましたが、
今学期は私の授業についてのブログも兼ねようと思います.


(手習い塾について一応宣伝しておくと.....)
筑波大学の学期中に毎週水曜日5,6限を使って、1E403に設けられた
学類生を対象とした数学質問コーナーです。
いつも、何人かの院生が待機しており、その時間にいつでも
数学の質問を受け付けることができます。
数学の内容の質問はもちろんのこと、数学の院生の生活やその実態
院試の難しさなど質問してもよいのではないでしょうか?

春学期は数学徒のみを対象としていたようですが、
秋学期からは、他の物理、化学、地球にも対象が広げられました。(のはずです。)
是非とも皆様ご活用ください。


ここで、線形代数II演習に戻りますが、今日やったことは、
  • 春学期の復習(主に連立一次方程式の解き方)
  • ベクトル空間であることの示し方.
  • 部分ベクトル空間であることの示し方
でした.

まず、春学期にやった連立一次方程式の解法は
いつでも計算できるようにしておくことが必要不可欠です.
今後は、いろいろなベクトル空間がでてきますが、最終的に、解を求めたり、
一次独立なベクトルを見つけたりするのは、決まって連立一次方程式を
解くことに帰着します(特に簡約化や基本変形).


今学期、まず、最初に身につけることは、いろいろな場面に潜むベクトル空間です。

ベクトル空間(ベクトルの構造をもつもの)とは一体どのようなものなのか?
それはどうやって示されるのかということです。

いままで習ったベクトル空間では、${\Bbb C}^n$ やら、${\Bbb R}^n$ なんかが
あって、$(x_1,x_2,\cdots,x_n)$ と書けるものがベクトルであって、どんなベクトルも
このように書けると認識しているかもしれませんが、それも性質の一つといえば
そうですが、実は、

ベクトルの本質は、このように成分でかけることというわけではありません。

ベクトル空間の本質は、和とスカラー倍がある性質を満たすように
定義されていることです.(これは線形性といいます.)

(このある性質とは、教科書で出てきたベクトル空間の8つの性質(VS1-VS8)のことです.)

ちょっと抽象的(アブストラクト)ですが。数学っていつもこんな感じです.
大事なことはいつも抽象的に記述されることが多いのです.(その理由は後でかきますが....)
だから、数学の本は抽象的な定義であふれていて、無味乾燥な感じがします.
でも、定義の一つ一つは実は大事で、意味であふれているのです.


今日、ベクトル空間であるために何をすればいいか教えましたが、
これは、単なる集合に、ベクトル空間という命を吹き込む作業だと思ってください.
数学の定義は実は一つ一つ生き物なのです.


今日の授業は今学期の中で一番重要だといえるでしょう.

つまり、やる作業は

単なる集合(たとえば、${\Bbb C}^n$)を用意し、
加法とスカラー倍を定義します.
例えば、$(x_1,x_2,\cdots,x_n)+(y_1,y_2,\cdots,y_n)=(x_1+y_1,x_2+y_2,\cdots,x_n+y_n)$

$\alpha(x_1,x_2,\cdots,x_n)=(\alpha x_1,\alpha x_2,\cdots,\alpha x_n)$ など.
それが、教科書にある、VS1からVS8 まで満たすかどうかチェックする.

そうして初めて、ある集合がベクトル空間になれるのです.

これは、
単なるサイヤ人→スーパーサイヤ人になる
普通の女の子→プリキュアになる
みたいな感じでしょうか。


また、どこまで厳密に示せばよいか分からないという人がいましたが、
それは正しい感覚で、

どこまでもどればいいのだろう?どこまで使っていいのだろう?
と考えながらやることは、当たり前の感覚がどこまで当たり前なのかを探ることにになります.
でも、その基準は感覚の問題ではなく、使っている操作全てが定義から来ているか
が判断基準です.
つまり、全ての操作は定義から導出しなければなりません.


こうすると、抽象的に定義したおかげで、普段ベクトルだと思えないものもこれからベクトル
と思うことができるようになります.(集合として、${\Bbb C}^n$ や ${\Bbb R}^n$ で
ないようなものでも.)
ベクトルは矢印のことだという認識は高校まででしょう.
抽象的な定義をした一番の理由は、適用範囲を最大限広げるためなのです.
結果、集合の形にとらわれないで思考を広げることができます.


でも、これはある種、お寺の修行のようなものです.
あるものをじーっとみていると、何かが見えてきて、なるほど、とはっとするわけです.
別に滝に打たれたりする必要はありませんが.


最初の修行は多項式全体です.
教科書では、${\Bbb K}[X]$  と書かれています.

$${\Bbb K}[X]=\{f(X)|f(X)=a_0+a_1X+a_2X^2+\cdots +a_nX^n\}$$

です.この集合は上のような ${\Bbb C}^n$ や ${\Bbb R}^n$ の形では
有りませんが、よくよく見てみると、ベクトルの性質を持っています.

これは宿題でも、B問題でも出してみましたが。

このような多項式全体の集合はこれまで考えたことがなかったかもしれません。
多項式というと普通単独で使ったり、関数として微分してみたりすることが多かったからです.

扱うのに戸惑うかもしれませんが、
この集合はベクトル空間と思うには、率直に、
$V={\Bbb K}[X]$ とおいてやって、${\bf v}\in V$となるベクトルは
${\bf v}=a_0+a_1X+a_2X^2+\cdots +a_nX^n$ となるだけです.
べつのベクトルは、${\bf w}=b_0+b_1X+b_2X^2+\cdots +b_mX^m$ とかけますが、

$n\le m$ であれば、$a_{n+1},a_{n+2},\cdots,a_m$は全て$0$としておき、
${\bf v}=a_0+a_1X+a_2X^2+\cdots +a_mX^m$

加法は授業でやったとおり、

${\bf v}+{\bf w}=(a_0+b_0)+(a_1+b_1)X+(a_2+b_2)X^2+\cdots +(a_m+b_m)X^m$
とすればよいわけです.

このような操作はある程度は慣れが必要ですね.


まとめ

  • まずは、多項式全体がベクトル空間であることが見えるか?
  • $V$ がベクトル空間であることを示す方法(次のいずれか)

    1. 集合に加法とスカラー倍が定義されており、8つの条件を満たすことをチェックする.
    2. $V$ がもっと大きいベクトル空間 $U$ に入っていて、(つまり$V\subset U$ となっており)
    $U$ がベクトル空間であることが分かっているとき、$V$ が $U$ の部分ベクトル空間
    であるなら、$V$はベクトル空間になっている.


  • 2で示されるのは、たとえば、数ベクトル空間内の(斉次)連立一次方程式の解空間など.


  • $\emptyset\neq W\subset V$ が部分ベクトル空間であることを示す方法(次の全てを満たす)
     ${\bf v}, {\bf w}\in W$, $\alpha\in {\Bbb K}$ のときに、

    1.  ${\bf  v}+{\bf w}\in W$
    2.  $\alpha {\bf v}\in W$

    ただし、${\Bbb K}$ はスカラー倍.


注意:教科書では多項式全体は ${\Bbb R}[X]$ と書かれており、講義や今日の演習の方では、
$P({\Bbb R})$ と書きました.なぜ、同じものなのに違う記号で書いているかというと、
${\Bbb R}[X]$ は単なる代数的なであり、$P({\Bbb R})$ の方は${\Bbb R}$上の
多項式で定義される多項式関数と思っているからです.多項式があれば、それから作られる
多項式関数があり、多項式関数があれば、その関数を定義している多項式があるわけだから、
実質的には両者は同じもの(正確には同一視できるもの)ではありますが、
式と関数は似て非なるものであります.そもそも$P({\Bbb R})$ は関数だから、
連続関数など関数空間の部分集合とみなされる点でも違うことがわかるでしょう.
この授業では必要がなければそれほど厳密に区別はしないことにします.