2017年7月31日月曜日

数学外書輪講I(第13回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今日は、

  • LangのSection VII (Symmetric Hermitian and Unitary Operators)をよみました。
Symmetric Operators

作用素(operator)とは、ベクトル空間 $V$ 上の自己線形写像 $V\to V$ のことを
いいます。自己とは、同じ $V$ の上に働く写像なのでそう呼んでいます。
$V$ 上の線形な作用ということもできます。

体 ${\mathbb K}$ をベクトル空間のスカラーとします。
このとき、写像 $V\times V\to {\mathbb K}$ であって、
以下を条件を満たすものを考えます。
ただし、この写像は、$(u,v)\in V\times V$ に対して、$\langle u,v\rangle\in {\mathbb K}$ 
として書きます。

$\forall u,v,w\in V$かつ $\forall c\in {\mathbb K}$ に対して
(i) $\langle u,v\rangle =\langle v,u\rangle$
(ii) $\langle u+v,w\rangle=\langle u,w\rangle+\langle v,w\rangle$ 
(iii) $\langle cu,v\rangle =\langle u,cv\rangle=c\langle u,v\rangle$

この3つの条件を満たす写像 $V\times V\to {\mathbb K}$ のことを
内積(scalar product)といいます。
内積というと、正定値 ($v\in V$ かつ $v\neq 0$ のとき、$(v,v)>0$ ) 
という条件も付随している場合もありますが
この本の場合では仮定していません。
正定値を満たす内積のことは、正定値内積、負定値($v\in V$ かつ $v\neq 0$ のとき、$(v,v)<0$ )
の内積のことを負定値内積といいます。
また、定値(正定置もしくは負定値)でない内積のことは、不定値内積
と言います。相対論で出てくるミンコフスキー計量は、
不定値内積です。

内積をもつベクトル空間のことを内積空間といいます。

また、ベクトル空間 $V$ の双対空間を $V$ からスカラー ${\mathbb K}$ への
線形写像全体の空間を $V^\ast$ とかき、$V$ の双対空間といいます。

つまり、$V^\ast=\{f:V\to {\mathbb K}|f\text{は線形写像}\}$
です。また、この本では、$f\in V^\ast$ のことをfunctional (関数)と言っています。

$w\in V$ をとります。

$V\to V^\ast$ を
$v\in V$ に対して、$\langle v,w\rangle\in {\mathbb K}$ を対応させることで、$V^\ast$
の元を定めることができます。それを、$f_w$ とします。
つまり、$f_w(v)=\langle v,w\rangle$  です。
$w$ から $f_w$ への対応

$$w\mapsto f_w$$
は、写像 $V\to V^\ast$ を定めます。

また、スカラー積が非退化(non-degenerate)であるとは、
この写像 $V\to V^\ast$ が同型写像であるときをいいます。

ベクトル空間の間の写像 $V\to W$ が同型であるとは、この写像が線形写像かつ、
全単射であることをいいます。
有限次元ベクトル空間の間に同型写像が存在すれば、特に次元は等しくなります。

また、$L(v)=\langle Av,w\rangle$ とおきますと、$L$ は、$L\in V^\ast$ であるので、
先ほどの同型写像 $V\to V^\ast$ から、$w’\in V$ が一意的に存在して、
$L(v)=\langle v,w’\rangle$ を満たします。

よって、$w$ から $w’$ が一意的に決められるので、
$w\mapsto w’$ は、写像 $V\to V$ を与えます。

この写像を $w’=B(w)$ としておくと、
$$\langle Av,w\rangle=\langle v,B(w)\rangle$$
となります。この写像 $B$ は線形写像であることがわかります。
この写像$B$ を $A$ の転置(transpose) といい、${}^tA$ と書きます。
また、$A={}^tA$ であるような作用素を対称作用素(symmetric operator)といいます。

この状況を複素数上の内積(${\mathbb C}^n$ では、${}^tX\cdot \bar{Y}$ )
に置き換えて得られる同様の作用素は、
随伴作用素(Hermitian oparatorもしくはself-adjoint operator)といいます。

複素数上の内積では、$\langle v,aw\rangle=\bar{a}\langle v,w\rangle$
となるので注意が必要です。 

2017年7月29日土曜日

微積分I演習(物理学類)(第14回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今回は、

  • 微積分の総復習
を行いました。


宿題の解答を見ていて、気づいたことをかいておきます。

積分計算をしていて、ある関数が三角関数で置換することが予測されたとき、
$\sin x$ とおくより $\cos x$ を置いた方がよい場面も
あってその選択を間違えてしまうと、迷い道に入ってしまうことがあります。

言いたいことは、この分かれ道はあとでちゃんと簡単に合流できます。
ということです。

どういうことかというと、例えば、

$\int_0^1(1-x^2)^{\frac{n-1}{2}}dx$ を計算するのに、
$x=\sin t$ と置換すると、$dx=\cos tdt$ となり、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\cos^n  dt$$
となります。
一方、$x=\cos t$ と置換すると、$dx=-\sin tdt$となり、
$$-\int_{\frac{\pi}{2}}^0\sin^n  dt=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^n tdt$$
となり、置換の仕方を変えることで、$\sin$ と $\cos$ が逆になってしまいました。


しかし、$\sin$ と $\cos$ は $\frac{\pi}{2}$ で対称な関数なので、
$t=\frac{\pi}{2}-x$ と置換してやることで、
すぐに $\sin$ を $\cos$ に変換してやることができます。

この変換を用いることで、
一般に $f(x)$ を連続関数(もっと一般に、積分できる関数でも)として、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(\sin x)dx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}f(\cos x)dx$$
が成り立ちます。
例えば、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin(\sin x)dx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin(\cos x)dx$$
なども示せるわけです。

また、授業中出した問題の中で、宿題として出した問題に少々問題あったようです。
授業の中で質問を受けたので、ここで書いておきます。

$\int_0^1\frac{x^5dx}{1+x^7}$ をガンマ関数によって表せという問題ですが、
例えば、積分区間を変えて、$\int_0^\infty\frac{x^5dx}{1+x^7}$ という積分なら、
$\frac{1}{1+x^7}=t$ とおいてやることで、
$x^7=\frac{1-t}{t}$ となり、$dt=-\frac{7x^6}{(1+x^7)^2}dx=-7(\frac{1-t}{t})^{\frac{6}{7}}t^2dx$
$$\int_0^\infty\frac{x^5dx}{1+x^7}=-\frac{1}{7}\int_1^0(\frac{1-t}{t})^{\frac{5}{7}}t(\frac{t}{1-t})^{\frac{6}{7}}t^{-2}dt=\frac{1}{7}\int_0^1t^{\frac{-6}{7}}(1-t)^{-\frac{1}{7}}dt=\frac{1}{7}B\left(\frac{1}{7},\frac{6}{7}\right)=\frac{1}{7}\Gamma\left(\frac{1}{7}\right)\Gamma\left(\frac{6}{7}\right)=\frac{\pi}{7\sin \frac{\pi}{7}}$$
とすることができます。

しかし、この問題の場合 $0$ から $1$ までの積分ですから、そういうわけにも
行かなかったかと思います。
そういうわけで、以下のようにします。

$t=x^7$ と置換をします。このとき、$dt=7x^6dx=7t^{\frac{6}{7}}dx$ となり、
$$\int_0^1\frac{x^5}{1+x^7}dx=\frac{1}{7}\int_0^1\frac{t^{\frac{5}{7}}}{1+t}t^{-\frac{6}{7}}dt$$
$$=\frac{1}{7}\int_0^1t^{-\frac{1}{7}}\frac{1}{1+t}dt$$
となります。
ここで、$\frac{1}{1+t}=\sum_{n=0}^\infty\frac{(-1)^n}{2^{n+1}}(t-1)^n=\sum_{n=0}^\infty \frac{1}{2^{n+1}}(1-t)^n$ とします。
そうすると、
$$\frac{1}{7}\int_0^1t^{-\frac{1}{7}}\frac{1}{1+t}dt=\frac{1}{7}\int_0^1\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}} t^{-\frac{1}{7}}(1-t)^{n}dt$$
$$=\frac{1}{7}\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}}\int_0^1t^{-\frac{1}{7}}(1-t)^ndt=\frac{1}{7}\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}} B\left(\frac{6}{7},n+1\right)$$

とすることができます。
このように、無限個のベータ関数によってかけることはわかりましたが、実際、
有限個のベータ関数の和にかけるかどうかはよくわかりません。

またさらに、
$$\frac{1}{7}B\left(\frac{6}{7},n+1\right)=\frac{\Gamma(\frac{6}{7})\Gamma(n+1)}{7\Gamma(\frac{6}{7}+n+1)}$$
$$=\frac{n!\Gamma(\frac{6}{7})}{7(\frac{6}{7}+n)(\frac{6}{7}+n-1)\cdots \frac{6}{7}\Gamma(\frac{6}{7})}=\frac{n!7^{n}}{\prod_{k=0}^n(7k+6)}=\frac{(7n)!_7}{(7n+6)!_7}$$

とかけます。
ここで、多重階乗 $n!_k$ は $n!_k=n\cdot(n-k)!_k$
かつ $n!_k=n $  ($0<n\le k$)として帰納的に定義します。
つまり、$n!=n!_1$ で、$n!!=n!_2$ や $n!!!=n!_3$ を意味します。

よって、

$$\int_0^1\frac{x^5}{1+x^7}dx=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{2^{n+1}}\frac{(7n)!_7}{(7n+6)!_7}$$
とかけます。

ここでの大きな問題は、極限と積分の順序交換ですが、ここでは詳しく
述べないことにします。

交代級数定理

また、授業中に述べた交代級数の定理について少しいいまちがえたので
訂正します。正しくは、こうです。

定理
$a_n (n=0,1,2,...)$ が正項の数列とする。$a_n$ が単調減少しながら $0$ に収束するとする。
このとき、$\sum_{n=0}^\infty (-1)^na_n$ は収束する。


この定理の証明は授業中述べた通りです。
$s_n=\sum_{k=0}^na_k$ とすると、区間 $I_n=[s_{2n+1},s_{2n}]$ は、
$I_n\supset I_{n+1}$ を満たしながら $I_n$ の幅は $a_n$ の条件から
ゼロに収束していきます。
そのとき、求められる収束先の実数が交代級数の収束値ということになります。

2017年7月28日金曜日

微積分I演習(数学類)(第13回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今回は
  • 広義積分の収束について
をもう一度やりました。

広義積分

広義積分 $\int_a^bf(x)dx$ はうまく積分できる(できない)部分をふるい出すことが
必要です。


$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log \sin xdx$ が広義積分できるかどうかの判定
をします。


問題の1つ目は、どこで広義積分が起こっているか?をみることです。

そのため、積分区間の間で無限大に発散するところを探します。

この例の場合、$x\to 0$ において、$\log\sin x\to -\infty$ となります。
なので、$x=0$ において、この積分は広義積分になっています。
それ以外の点では、通常の積分であり、有限区間、かつ連続関数なので、
積分可能です。


問題の2つ目は広義積分が可能かどうかの見極めですが....

$x=0$ で積分できるかを考えます。
まず、
$\log \sin x=\log x+\log\frac{\sin x}{x}$ をして、$\log x$ の部分を無理やりくくり出します。

どうしてこのようにするのか?というと、$\sin x$ は、
$x=0$ の近くで、$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\cdots$ のようにテイラー展開ができます。
$x=0$ の中で積分の収束の判定にはそのトップの項 $x$ が必要なので、
その部分をくくりだそうとしたのです。
($\log \sin x$ より、$\log x$ の方が収束の判定としては計算しやすいので
その部分に置き換えたいということもできます。)

また、$x$ をくくり出した残り、$\log \frac{\sin x}{x}$ が積分可能かどうかですが、
$x\to 0$ において、$\frac{\sin x}{x}\to 1$ なので、$x\to 0$ において
$\log\frac{\sin x}{x}$ も有限な値 $0$ に近づきます。なので、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{\sin x}{x}dx$ は通常の積分と思えるわけです。

このことから、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log \sin xdx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx+\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log\frac{\log x}{x}dx$$
のうち、前者 $\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx$ の広義積分可能性を考えれば
良いことになります。

しかし、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx$ は、そのまま積分してやると、
$$\lim_{\epsilon\to 0}\left[x\log x-x\right]_\epsilon^{\frac{\pi}{2}}$$
となります。問題は、$\lim_{x\to 0}x\log x$ の存在ですが、
ロピタルの定理を用いてやると、

$$\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{\frac{1}{x}}{-\frac{1}{x^2}}=0$$
がいえるので、結局、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx=\frac{\pi}{2}\left(-1+\log\frac{\pi}{2}\right)$ ということになります。


このようなくくり出しの議論により、
$\int_0^{\frac{\pi}{4}}\log(\tan x)dx$ や、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log(\text{Arcsin} x)dx$
の収束の証明もすることができます。


例2
$a,b,c>0$ のとき、
$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt[a]{x^b(1-x)^c}}$ の広義積分の収束判定をせよ。

この例の場合も、$x=0,1$ の両方で無限大に発散するので、この場所で広義積分
となります。
次は広義積分の場所を探した後、広義積分の見極めです。
前の例のように、くくり出すのは大変そうです。
なので、関数比較(優関数法)を行いましょう。

まず、この積分は、$t=1-x$ とおくと、
$$\int_0^1\frac{dt}{\sqrt[a]{t^c(1-t)^b}}$$
となり、$b,c$を入れ替えたものになるので、$x=0$ のときだけ
行えば十分です。

$x=0$ のときの広義積分の収束判定を行います。
$$\frac{\frac{1}{\sqrt[a]{x^b(1-x)^c}}}{\frac{1}{\sqrt[a]{x^b}}}=\frac{1}{\sqrt[a]{(1-x)^c}}$$
となり、$0<x<1/2$ のように $x=0$ の十分近くで考えると、
この値は、$\sqrt[a]{2^c}$ 以下になります。
つまり、

$$|\frac{1}{\sqrt[a]{x^b(1-x)^c}}|\le \frac{\sqrt[a]{2^c}}{\sqrt[a]{x^b}}$$
なる不等式が成り立ちます。

ここで、
$$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{dx}{x^{\frac{b}{a}}}$$
が収束するための必要十分条件は、$\frac{b}{a}<1$ です。
これは、そのまま広義積分の定義通りに積分しても求めることができます。

結局、元々あった条件も加えれば、$0<b<a$ ということになります。
これを$c$ に置き換えた、$0<c<a$ も成り立つということになります。


(参考)
この積分はベータ関数になおすことができて、
$B(\frac{-b}{a}+1,\frac{-c}{a}+1)$ とすることができます。
なので、ベータ関数の収束域から、$b<a$ かつ、$c<a$ とすることもできます。

2017年7月27日木曜日

数学外書輪講I(第12回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今回は、

  • 33-Miniature のMiniature 4
  • LangのVII章
を読みました。

Miniature 4 (Same-Size Intersections)

この話は、極値集合論の話です。
前回も書いたように、ある集合の中で与えられた条件を満たす部分集合の
うち、最大、最小を満たす部分集合について研究するものを
極値集合論といいました。



しかし、最後に書くように、組み合わせ論のデザイン理論の一部(の変種)でもあります。

Miniature 3で出てきた定理以下のようなものでした。

定理(Miniature 3)
$n$ 点集合の部分集合 $C_i\ \ (i=1,...,m)$ を以下のようにとる。
  • $|C_i|$ は奇数
  • $|C_i\cap C_j|$ は偶数
(ただし、集合の絶対値はその集合に含まれる元の個数とする。)
このとき、$m\le n$ である。



つまり、そのような $n$ 点集合の部分集合は、
重複を除いてたかだか $n$ 個しかとれないということになります。


Miniature 4でのセッティングでの定理は以下のようになります。

定理(Miniature 4)
ある $n$ 点集合の相異なる部分集合 $C_i\ \ \ (i=1,...,m)$ があったときに、
$|C_i\cap C_j|$ が一定数 $t$ であれば、$m\le n$ が成り立つ。


証明は以下のようにしてできます。

(証明の概略)
Miniature 3と同様に、$a_{ij}$  を $1$ if $j\in C_i$ かつ、$0$ if $j\not\in C_i$ として
定義して、$A=(a_{ij})$ とおくと、$A$ は $m\times n$ 行列ができる。

ある $i$ に対して $|C_i|=t$ となる場合と、任意の $i$ に対して $|C_i|>t$ となる場合と
場合分けが必要。

後者の場合は、行列 $A\cdot A^T$ を、$B$ としてその成分を $(b_{ij})$ とすると、
$B$ は $m\times m$ 行列で、$b_{ii}=|C_i|$ であり、$B_{ij}=|C_i\cap C_j|$ となり、
$m=\text{rank}(B)\le \text{rank}(A)\le n$ がいえる。


このような不等式のことをフィッシャーの不等式(Fisher’s inequality)と呼びます。
これは、組み合わせ論におけるブロックデザイン(block design)の分野の初歩に出てくる
不等式です。

ブロックデザイン
有限集合 $\mathcal{P}$ と有限集合 $\mathcal{B}$ が与えます。
$\mathcal{P}$ を点の集合とよび、$\mathcal{B}$ をブロックの集合といいます。
また、$\mathcal{P}$ と $\mathcal{B}$ に、ある関係(incidence)があり、
それを、$\mathcal{I}\subset \mathcal{P}\times \mathcal{B}$ とします。
このとき、$B\in \mathcal{B}$ が以下を満たすとき、
デザイン(もしくは、2-デザイン)といいます。
$\mathcal{P}$ の要素のことを点ということにします。

  • $|\mathcal{P}|=v$
  • 任意のブロック $B\in \mathcal{B}$ に対して、$(p,B)\in\mathcal{I}$ となる(incidentな)点は $k$ 個
  • 任意の 2点 $x,y\in \mathcal{P}$ に対して、$x,y$ を共にincidentなブロックはちょうど $\lambda$ 個
このようなデザインを 2-$(v,k,\lambda)$ デザインといいます。

また、この3番目の条件の任意の2点を任意の相異なる $t$ 個の点
とき、$t$-$(v,k,\lambda)$-デザインといいます。

この状況の時、フィッシャーの不等式とは、$k\ge v$ を満たします。
証明は上で書いたものと同じです。


この、Same-Size Intersections にでてくる状況はいわゆるデザインではありませんが、
それに似た状況です。
$X=\{C_i\}$ とし、$B_i=\{x\in X|x\in C_i\}$ としておくと、

$C_i$ に含まれる点(ブロックに相当する)全体の数は、
一定ではありませんので、上の定義でいうデザインではありません。

Matousekの本では、
場合分けの後者の状況で、$C_i,C_j\in \mathcal{P}$ に対して、$C_i$ と $C_j$ と共通して
incidentな点全体は、$C_i\cap C_j$ に一致しますので、デザインの2番目の条件が
成り立っています。
なので、$C_i$ に入る点全体が一定数であれば、2-デザインということになります。

フィッシャーの不等式(Fisher’s inequality)自体、一つのブロックに関係する点が一定でなくても成り立ちます。これは今回の内容でした。
そういう意味で、この不等式を一般化されたフィッシャーの不等式(Generalized Fisher’s inequality)と呼んでいます。


射影平面

ブロックデザイン応用例で一番よく出てくるのは、有限射影幾何です。
有限個の点に対して射影幾何を考えることができます。

詳しくは、下の、参考文献かその文献にあたってみるとよいと思います。

射影平面の公理とは、
  1. 任意の相異なる2点はただ一つの直線で結ばれる。
  2. 相異なる2直線の交わりは、ただ一つの点である。
  3. どの3点も一直線上にない4点が存在する。
をいいます。
射影空間を考えることもできますが、その場合は、任意の部分空間をブロックとすること
で定義ができます。

射影平面を有限集合とすると、ある自然数 $n$ に対して、
2-$(n^2+n+1,n+1,1)$-デザインになります。
この $n$ のことを射影平面の位数(order)といいます。

そもそも射影空間とは、ベクトル空間の直線全体の空間をいいます。
射影空間を有限集合として考えているので、体は有限体となりますが、
ここではもっと一般に、上の公理にあう有限集合ならばかまいません。

有限射影平面の標準的な例は、有限体 ${\mathbb F}_q$ の3次元ベクトル空間の中の
直線全体があります。これをデザルグ平面といいます。記号では
$PG(2,q)$ と書きます。

例えば、$q=2$ の場合だと、
ベクトル空間 $V={\mathbb F}_2^3$ における直線は、ゼロでないベクトル全体と
同じです。というのも、$0$ でない元でスカラー倍することは、$1$ をかけることになる
ので、$V$ 上の直線全体は、次の、7つの元

$[x,y,z]=[0,0,1], [0,1,0],[0,1,1],[1,0,0],[1,0,1],[1,1,0],[1,1,1]$ と同じになります。
つまり、$|PG(2,2)|=7$ です。

また、平面上では、相異なる2直線は、一点で交わることが要請されます。

よって、$PG(2,2)$ 上の直線(ブロック)は、一つの平面を表します。
なので、平面は、$z=0,y=0,y+z=0, x=0,x+z=0,x+y=0,x+y+z=0$ の7つになります。

(ブロックデザインの定義のところで、点とブロックを入れ替えた条件がそれぞれ、
対応する個数が等しくなるとき、対称デザインといいます。
例えば、任意の点に関係するブロックは $k$ 個となる。)

このとき、一つの平面に入る直線は、3つになります。例えば、$z=0$ に入る直線は
$[1,0,0],[0,1,0],[1,1,0]$ です。

また、相異なる2直線 ($V$ 上では2平面) の交わりは、1つの点 ($V$ では1つの直線)
を定めます。
よって、$PG(2,2)$ は 2-(7,3,1)-デザインだということがわかりました。


問題は、有限射影平面は全てデザルグ的か?ということですが、じつは
そうではありません、ここでは書ききれないくらい、非デザルグ的な
射影平面が存在します。それは、下の参考文献をみてください。

(しかし、3次元以上の有限射影空間はデザルグ的であることは古くから知られている。
例えば、参考文献の2つ目をみよ)

そこでも、多くの面白い幾何学があるようです。
例えば、射影平面として実現できるorderは素べきか?
という問題がありますが、未だ解決していません。


また、以前のMotousekででてきたコーディング(error detecting codes)の話も、
このブロックデザインを使った応用もあります。コードの
文字が位数が2の有限体だったことを思い出してください。

コーディングを用いて有限射影平面へ応用することもできるようです。


参考文献
  • 平峰豊, 有限射影平面概観, 数理解析研究所講究録1214(2001)46-61 (リンク)
  • P. Dembowski, Finite Geometries, Springer-Verlag, Berlin, 1997. xii+375 pp. ISBN: 3-540-61786-8 

微積分I演習(物理学類)(第13回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今回は、去年の微積分I演習の過去問を解きました。

積分値

$$\int_0^1x^2\log xdx$$
の積分について。
まず、ロピタルの定理を使って、
$$\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{\frac{1}{x}}{-\frac{1}{x^2}}=-\lim_{x\to 0}x=0$$
が求まります。$n\ge 1$のときに、
よって、$\lim_{x\to 0}x^n\log x=\lim_{x\to 0}x^{n-1}x\log x=0$ となります。

$$\int_0^1x^2\log xdx=\left[\frac{x^3}{3}\log x\right]_0^1-\int_0^1\frac{x^2}{3}dx$$
$$=\left[\frac{x^3}{3}\log x\right]_0^1-\int_0^1\frac{x^3}{3}\frac{1}{x}dx=-\frac{1}{3}\left[\frac{x^3}{3}\right]_0^1=-\frac{1}{9}$$


また、積分 $\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx$ は、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx=\left[-\cos x\sin^2x\right]_0^{\frac{\pi}{2}}+\int_0^{\frac{\pi}{2}}2\sin x\cos^2xdx$$
$$=2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin x(1-\sin^2x)dx$$
$$=2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin xdx-2\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx$$
よって、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx=\frac{2}{3}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin xdx=\frac{2}{3}\left[-\cos x\right]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{2}{3}$$

このようにしていけば、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx$ を求めるには、$\int_0^{\frac{\pi}
2}\sin^{n-2}xdx$ を求めることに帰着されます。

または、
$\cos x=t$ と $dt=-\sin xdx$ とすると、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3xdx=\int_0^{\frac{\pi}{2}}(1-\cos^2x)\sin xdx=-\int_1^{0}(1-t^2)dt$$
$$=\left[t-\frac{t^3}{3}\right]_0^{1}=\frac{2}{3}$$

のように計算できます。
この手法は $\sin $ または $\cos$ の指数が奇数の場合だけ計算できます。
偶数の場合は、


$\int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}$ を計算します。
$\sqrt{x}=t$ とすると、$dx=2tdt$ とすると、
$$\int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}=\int_0^1\frac{2tdt}{t^2+t}=2\int_0^1\frac{dt}{1+t}=2\log2 $$
となります。

ここで、約分できることを忘れずに。
この約分せずに部分分数展開をすると、広義積分は収束しません。

$$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$$

の積分可能性について。

この積分は、今学期は本当によく出てきました。


優関数では、$0<x<\frac{1}{2}$ とすると、
$$|\frac{\sqrt{x}}{\sqrt{x(1-x)}}|=\frac{1}{\sqrt{1-x}}\le \frac{1}{\sqrt{1-\frac{1}{2}}}=\sqrt{2}$$
よって、$|\frac{1}{\sqrt{x(1-x)}}|\le \frac{1}{\sqrt{1-x}}$

また、$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{x}}dx=2$
であるから、$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$ は広義積分可能となります。

同じように、$\int_{\frac{1}{2}}^1\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$ は広義積分可能が言えるので、
これらの結果を合わせることで広義積分
$$\int_0^1\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$$
が可能となる。

2017年7月20日木曜日

微積分I演習(数学類)(第12回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今回は、
  • ガンマ関数
  • ベータ関数
についての演習を行いました。

ガンマ関数

ガンマ関数 $\Gamma(s)$ は、
$$\Gamma(s)=\int_0^\infty e^{-x}x^{s-1}dx$$
として定義されます。
この定義からすぐわかるように、$s>0$ においてこの積分は収束します。
$s\le 0$ ではこの積分 ($x=0$ での広義積分) は収束しません。

このとき、部分積分を使って、簡単に、

$$\Gamma(s+1)=s\Gamma(s)\ \ (\ast)$$
が成り立ち、また、$\Gamma(1)=1$ となるので、
$n\in {\mathbb N}$ であるとき、
$\Gamma(n)=(n-1)!$ であることがわかります。

また、$\Gamma(s)$ を $-1<s<0$ のときにも、$(\ast)$ の式を満たすような関数として
$\Gamma(s)=\frac{\Gamma(s+1)}{s}$ として定義しておけば、
右辺は定義されているので、このような範囲の $s$ に対しても一意的に
拡張することができます。おなじように、$-2<s<-1$ のときにも、値を定めることが
でき、$-n<s<-n+1$ のときに一般に、$\Gamma(s)$ の値を帰納的に定めることができます。

このような関数も $\Gamma(s)$ とかき、ガンマ関数と言います。
また、$\lim_{s\to 0}\Gamma(s)=\lim_{s\to 0}\frac{\Gamma(s+1)}{s}$
から、$s=0$ での値は無限に発散することがわかります。

$\Gamma(s)=\frac{\Gamma(s+1)}{s}$ を使えば、無限に発散する状況は、$s$ は負の整数
である場合と同じなので、この場合、同じく無限に発散します。

このように無限に発散する点のことを複素関数論では極(きょく)といいます。
つまり、実数関数としての $\Gamma(s)$ の極は、非正なる整数全体ということ
になります。

また、ガンマ関数の他の公式を書いておくと、
$$\Gamma(s)\Gamma(1-s)=\frac{\pi}{\sin \pi s}$$
があります。これは、ガンマ関数の無限積表示などから得られます。

ガンマ関数の無限積表示に関しては、

2015年微積分II演習(第10回)(リンク)
にも書きました。

ベータ関数

ベータ関数 $B(a,b)$ は、
$$B(a,b)=\int_0^1t^{a-1}(1-t)^{b-1}dt$$
として定義されます。

この関数は、重積分などを用いると、
$$B(a,b)=\frac{\Gamma(a)\Gamma(b)}{\Gamma(a+b)}$$
が成り立ちます。これは、重積分などを介して証明できますが、ここでは認めて
おくことにします。

そのとき、$\text{arcsin}(x)=\int_0^x\frac{1}{\sqrt{1-t^2}}dt$ なので、
$\frac{\pi}{2}=\text{arcsin}(1)=\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-x^2}}dx$ となります。

また、この右辺を計算すると、
$t=x^2$ とすると、

$\int_0^1\frac{1}{\sqrt{1-t}}\frac{dt}{2\sqrt{t}}=\frac{1}{2}\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{t(1-t)}}=\frac{1}{2}B(\frac{1}{2},\frac{1}{2})$ となります。
よって、$B(\frac{1}{2},\frac{1}{2})=\pi$ が成り立ちます。

上の公式から、
$$B(\frac{1}{2},\frac{1}{2})=\frac{\Gamma(\frac{1}{2})\Gamma(\frac{1}{2})}{\Gamma(1)}=\Gamma(\frac{1}{2})^2$$
となり、
$$\Gamma(\frac{1}{2})=\sqrt{\pi}$$
がいえます。

この値と、公式 ($\ast$) から、
$\Gamma(\frac{2n-1}{2})$ ($n=1,2,...$) は$\sqrt{\pi}$ の有理数倍ということがわかります。

2017年7月16日日曜日

数学外書輪講I(第11回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今回は、
  • Langの線形代数における直和、直積(Chapter1)
  • Matousek のMiniature 4の途中までやりました。
直和

$W_i\subset V$ が部分ベクトル空間であるとき、
$W_1+W_2$ を集合 $\{w_1+w_2|w_i\in W_i\}$ として定義します。

このとき、この集合は $V$ の部分空間となります。


定義(直和)
部分ベクトル空間 $W_1,W_2\subset V$ が
$V=W_1+W_2$ を満たし、$\forall v=w_1+w_2$ となるような $w_i\in W_i$ が一意に決まる時、$V$ は $W_1, W_2$ の直和といい、$V=W_1\oplus W_2$ と書きます。


$W_1,W_2\subset V$ が $V$ の直和であるための必要十分条件は、
$W_1\cap W_2=\{0\}$ であり、$V=W_1+W_2$ であることです。

この同値性はすぐ証明できます。また、この条件を直和の定義とする本もあります。
また、Langは直積の定義もしています。

定義(直積)
$W,U$ をベクトル空間として、を $(w,u)$ ($w\in W$, $u\in U$) なる
ペアとして得られる、 $(w,u)$ の集合全体を $W,U$ の直積といい、
$W\times U$ とかく。そのようなペア全体は、成分どうしの和とスカラー倍で
ベクトル空間になります。


直積と直和は考え方として同一ですが、最初の設定と構成方法が違います。


直和は、あるベクトル空間の2つの部分空間のうち、一意 $w_1+w_2$ と書き表せられる
ものをいい、
直積は、勝手な2つのベクトル空間に対してその直積として定義されます。
なので、直積の方はちゃんと和とスカラー倍を定義してやらないとベクトル空間に
なりません。


また、
$W_1=W\times \{0\}$ $W_2=\{0\}\times U$ として定義すると、
$W_i\subset W\times U$ は部分ベクトル空間で、
$W=W_1\oplus W_2$ となります。

例えば、$W=U=V$ であるような場合、直積 $V\times V$ は、
$(v_1,v_2)$ $v_i\in V$ のようなペアについてのベクトル空間となります。

基本的に、2つの部分ベクトル空間があったときに、その和で、共通部分が
$\{0\}$であっときに、できる直和のことを内部直和といったりします。

また、抽象的にベクトル空間 $W,U$ があったときに、その(上の意味での)直和
を取ることを外部直和と言ったりします。

どちらの直和も2つのベクトル空間を重ねる(ペアをとる)ことで一致しているので、
次元はそれぞれの次元の和になります。


Same-size intersections

極値集合論というのは、組み合わせ数学の中の一つの分野で、与えられた条件を
満たす一番大きな、もしくは一番小さな部分集合族の構造を調べるものをいいます。
(下記の参考文献を参照)

この参考文献の徳重さんの文章は、極値集合論の日本語の良い解説であり、
最初の方は、Babai-FranklのWarm-upの最初の文章、MatousekのMiniature 4
の日本語訳を含んでいます。
(そもそも、Matousekの本は徳重さんによる日本語訳が出ています。)

Babai-Frankl の本は出版する気は無いらしいですが、大層良い本で、前知識は
ほとんどいりませんので、大学一年生でも読めるレベルだと思います。
また、多くの演習問題が付属しており、関連問題をといて、力をつけるのにも
適していると思います。

Warm-Upの2つ目の話題は、Matousekの本でもMiniature 15としてとりあげており、
読み応えのある話だと思います。


この分野の感想としては、組み合わせ論などの非常に複雑な世界の話が
大学一年生レベルの数学を用いて面白い結果が出るというのは面白いと思います。
設定を微妙に替えれば、すぐにいろいろな問題を作れますが、その中で
解ける面白い問題を見つけるのはセンスが必要となるでしょう。

しかし、使われる技術は、応用数学や、その他様々な研究の中で
汎用性が高い場合もあるので、勉強して技術を身につけて、
将来研究者になるのはよい選択肢だと思います。


3回前の外書輪講でのblogで奇数町のクラブについての話を
しましたが、もう一度しておきます。

2017年数学外書輪講I第8回(リンク)

奇数町のクラブ数についての問題をもう一度書いておきます。

問題
$n$ 人の市民がいる。その市民たちはクラブをいくつか作っている。
市民はやたらクラブをつくるので、市議会は法律を使ってそれを規制したい。
どのような規則をつくればいいか?


これは大雑把な問題ですが、さらに問題を制限して、以下のような
規則を作ります。

同じメンバーを持つようなクラブは作れないと仮定することは自然です。
これを認めてしまえば、同じメンバーで違うクラブをいくらでも作ることは
簡単にできてしまうからです。

この規則を課せば、クラブに入るかどうかを指定することで、
クラブの数はせいぜい $2^n$ 個です。


しかし、$2^n$ 個のクラブでもまだ多いのでもう少し小さくすることを考えます。
そのため、以下のような規則を作ります。
  1. クラブに入る市民の数は奇数。
  2. 任意の2つのクラブに共通して入っている市民の数は偶数。
まず、同じメンバーをもつクラブを作ることはできないことはすぐわかります。
また、だれも入っていないクラブも作ることはできません。
よって、この規則1. 2. は最初の規則よりは厳しいことになります。


定理
この規則を課せば、作ることができるクラブの数は $n$ を超えることはできない。


これを、奇数町定理(Oddtown theorem)といいます。

Matousekの本では、Babai-Franklの内容の、second proof をしていますが、
ここではFirst proofをしてみます。これらの証明は、本質的には同じです。

(証明)
$m$ をクラブの数とします。$1,..,n$ を市民の名前とします。
また、$C_1,...,C_m$ は各クラブで、所属する市民の集合とします。
このとき、$v_i\ \ (i=1,...,m)$ を $v_i\in {\mathbb F}_2^n$ として、
$v_i$ の $j$ -成分を 
$\begin{cases}1&j\in C_i\\0&j\not\in C_i\end{cases}$
として定義します。
$\{v_i\}$ ($i=1,...,m$) は線型独立であることが示されれば、

$m=\dim(\langle v_1,...,v_m\rangle)\le \dim {\mathbb F}_2^n=n$
が成り立ち、主張が示されます。

$\{v_i\}$ が線型独立であることを示します。
$v_i\cdot v_j=|C_i\cap C_j|\bmod 2$ となります。
ここで、$|C_i\cap C_j|$ は $C_i$ と $C_j$ の両方に入っている人数とします。
条件 1. 2. から、
$v_i\cdot v_j=\delta_{ij}$
となります。ここで、$\delta_{ij}$ はクロネッカーのデルタで、
$i=j$ ならば、$\delta_{ij}=1$ であり、$i\neq j$ であれば、$\delta_{ij}=0$ となる数です。
$\lambda=\lambda_1v_1+\cdots +\lambda_nv_n=0$ とすると、
$\lambda\cdot v_i=\lambda_iv_i\cdot v_i=\lambda_i=0$ となり、
一次独立が簡単に示されます。

また、Babai-Franklの演習問題には、1. 2. のルールの奇数と偶数を逆にしたもので
も、同じ結論(不等式 $m\le n$) がわかるとなっています。証明はほぼ同じなので、
ここでは割愛します。

ちなみに、
$J_m$ を全ての成分が $1$ の $m\times m$ 行列とし、$I_m$ を $m\times m$ 
単位行列としますと、

$\text{rank}(J_m-I_m)=\begin{cases}m&m:\text{even}\\m-1&m:\text{odd}\end{cases}$
となります。

連休明けの火曜日は振替で月曜日の授業ですので、気をつけてください。


参考文献
  • 徳重典英, 極値集合論における線形代数的手法, 数理解析研究所講究録1956, 2015年7月101-110
    http://www.cc.u-ryukyu.ac.jp/~hide/kokyuroku-revised.pdf
  • L. Babai, P. Frankl, Linear algebra methods in combinatorics (with applications to Geometry and Compute Science), 

2017年7月14日金曜日

微積分I演習(物理学類)(第12回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今回は、
  • 広義積分の収束
をやりました。
前回に引き続き、広義積分の収束についての問題を解きました。


比較関数の極限による収束判定法
優関数法とは、ある関数 $f(x)$ を他の関数 $g(x)$ によって
各点において絶対値をとって $|f(x)|\le g(x)$ のように抑えられるときに、

$\int_a^bg(x)dx$ の収束性から $\int_a^bf(x)dx$ がいえるという方法でした。

ここでは、2つの関数の極限によって収束判定する定理を紹介しておきます。

定理
$f(x),g(x)$ が両方正の関数で、$f(x)/g(x)\to k\neq 0,\infty$ を満たすとする。
このとき、

$\int_a^bf(x)dx$ が収束する $\iff$ $\int_a^bg(x)dx$ が収束する
$\int_a^bf(x)dx$ が発散する $\iff$ $\int_a^bg(x)dx$ が発散する

こうすると、次の広義積分が収束するかどうかが簡単にわかります。


例1
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{x-\sin x}{x^4}dx$$
について考えます。

$x=0$ において被積分関数がどのような値になるか求めます。
$$\lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3}=\lim_{x\to 0}\frac{1-\cos x}{3x^2}=\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{6x}=\frac{1}{6}$$
よって、
$$\lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3}\frac{1}{x}=\infty$$
よって、$x=0$ において上の積分が広義積分だということがわかります。

また、$\lim_{x\to 0}\frac{\frac{x-\sin x}{x^4}}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to \infty}\frac{x-\sin x}{x^3}=\frac{1}{6}$
であるから、上の定理から、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{x-\sin x}{x^3}dx$ が収束するかどうかは、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{x}dx$ が収束するかどうかに関わりますが、

$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{x}dx$ は発散しますから、
結局
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{x-\sin x}{x^4}dx$ は発散します。

テイラー展開を用いた広義積分の収束判定

テイラー展開を用いて広義積分の収束判定を行う方法を学びます。

ある点の周りのテイラー展開とは、その関数のその値の近くで主要となっている
項(関数)と残りの項(剰余項関数)に分ける考え方です。
広義積分としてみてみれば、テイラー展開をその広義積分の収束発散に関わる部分と
そうでない部分に分けて考えることができて、本質的な部分の収束発散に
元の広義積分の収束発散が帰着されます。


例2
まず、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log\sin xdx$ 積分可能性について
考えます。

これは、
$$\log x+\log\frac{\sin x}{x}$$
としておくと、$\log\frac{\sin x}{x}$ は、$x=0$ の近くでは無限大に発散しませんので、
$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log\frac{\sin x}{x}dx$ は有限な値です。

また、残された $\log x$ ですが、部分積分により、
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx=\left[x\log x\right]_0^{\frac{\pi}{2}}-\int_0^{\frac{\pi}{2}}dx=\frac{\pi}{2}\log\frac{\pi}{2}-\left[x\right]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi}{2}\log\frac{\pi}{2}-\frac{\pi}{2}$$

となり収束します。
ちなみに、ロピタルの定理から、$\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{x}{\frac1{-x^2}}=\lim_{x\to 0}(-x)=0$
がわかります。

ゆえに、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\log xdx$ は全体として収束するということに
なります。

つまり、広義積分可能となる部分と普通の定積分の部分に分けて考えることで
全体として広義積分可能と結論づけられました。



例3
次に、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{x}{x-\sin x}dx$ の広義積分について考えてみます。
上の方法を用いれば、比較する関数との比の極限を計算してすぐ
発散することはわかると思いますが、ここではテイラー展開を使います。

$x-\sin x=\frac{x^3}{3!}-R_{4}(x)$
のようにかけます。ここで、$R_4(x)$ は $\sin x$ の $x=0$ でのテイラー展開の剰余項で
$R_4(x)=\frac{\sin c}{4!}x^4$ と書けます。
ここで、$c$ は $0<c<x<\frac{\pi}{2}$ となる実数です。

注意したいのは、$c$ は定数ではなく、 $x$ の関数になっているという点です。
$c$ は定数ではないので、何か他の定数で評価しておく必要があります。

$$\frac{x}{\frac{x^3}{3!}-\frac{\sin c}{4!}x^4}=\frac{1}{x^2}\frac{1}{\frac{1}{3!}-\frac{\sin c}{4!}x}$$
と変形できて、
$0<c<x<\frac{\pi}{2}$ において、$0<\frac{\sin c}{4!}x<\frac{\pi}{2\cdot 4!}<\frac{1}{3!}$ なので
$$\frac{1}{\frac{1}{3!}-\frac{\sin c}{4!}x}> \frac{1}{\frac{1}{3!}}>3!$$
と有限な値で下から抑えられるので、

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{x}{x-\sin x}dx>3!\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{x^2}dx$$
が言えて、広義積分 $\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{1}{x^2}dx$ は $x=0$ で無限に発散するので、
ゆえに、$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{x}{x-\sin x}dx$ も発散する。

2017年7月11日火曜日

微積分I演習(数学類)(第11回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今回は、

  • 広義積分の収束判定
についてやりました。
広義積分の収束については今年の物理学類のページも参照しておきます。
2017年微積分I演習第11回(物理学類)(リンク)

広義積分の収束判定

広義積分とは、関数が $[a,b)$ 上定義されたもので、$x=b$ において
関数の値が定まらないようなものにおける積分
$$\int_a^bf(x)dx$$
のことです。このような積分のことを広義積分といいます。
この値は、

$$\lim_{c\to b}\int_a^cf(x)dx$$
の極限として定義されます。

この極限が収束するとき、この広義積分は収束するといいます

ただ、$[a,b)$ の内部の任意の閉区間での積分値はいつでも定まっていると
しておきます。

例えば、$b=\infty$ であるような場合、

$$\int_0^\infty\frac{1}{x^2+1}dx$$
は広義積分であり、かつ、この広義積分は収束します。

なぜなら、
$$\lim_{c\to \infty}\int_0^c\frac{1}{x^2+1}dx=\lim_{c\to \infty}\text{Arctan}(c)=\frac{\pi}{2}$$
となるからです。

もちろん値が求められれば収束することはわかりますが、
値がうまく求められないが、収束するかどうかを判定したい場合もあります。
例えば、

$$\int_1^\infty\frac{1}{\sqrt{\log x}}dx$$

を定義から求めようとすると、$\frac{1}{\sqrt{\log x}}$ の不定積分がわからないので
よく分かりません。

このとき、収束性をいう方法はないか?ということです。

ちなみに、この積分の場合、$x=1$ においても、$\log x\to 0\ \ (x\to 1)$ ですので、
両側とも広義積分になっており、$x\to 1$ においては広義積分は収束します。

優関数法

広義積分の収束発散でよく使われるのが、優関数法です。
広義積分 $\int_a^bf(x)dx$ を調べるのに、
$|f(x)|\le g(x)$ を作っておいて、$g(x)$ の広義積分の収束に帰着させるものです。
正しく書けば、

優関数法(収束することの証明)
$[a,b)$ において、$|f(x)|\le g(x)$ を満たすとする。
もし、広義積分 $\int_a^bg(x)dx$ が収束するなら、
広義積分 $\int_a^bf(x)dx$ も収束する。


優関数法(発散することの証明)
$[a,b)$ において、$0\le g(x)\le f(x)$ を満たすとする。
もし、広義積分 $\int_a^bg(x)dx$ が発散するなら、
広義積分 $\int_a^bf(x)dx$ も発散する。




例えば、上の例の $\frac{1}{x^2+1}$ も、$|\frac{1}{x^2+1}|\le x^{-2}$ であり、
$$\int_1^\infty\frac{1}{x^2}dx=\lim_{c\to \infty}\int_1^c\frac{1}{x^2}dx=\lim_{c\to \infty}\left[-x^{-1}\right]_1^c=1$$
であることから、優関数法から、

$$\int_1^\infty\frac{1}{x^2+1}dx$$
も収束し、$[0,1]$ の積分値を加えれば、
$\int_0^\infty\frac{1}{x^2+1}dx$ の広義積分が収束する
ことがわかります。


このように、$g(x)$ として、べき関数などの収束発散のはっきりわかっている
関数に帰着させることが常套手段となります。

上に書いた、$\int_1^\infty\frac{1}{\sqrt{\log x}}dx$ の収束発散を調べておきます。
$x\to 1$ においての収束を示します。
$\int_1^e\frac{1}{\sqrt{\log x}}dx$ の広義積分に対して、
$t=\log x$ と置換すると、$\int_0^1\frac{e^tdt}{\sqrt{t}}$ となります。
$0\le t\le 1$ において
$|\frac{e^t}{\sqrt{t}}|\le |\frac{e}{\sqrt{t}}|$ なので、$\frac{1}{\sqrt{t}}$ の積分の収束発散を調べます。そうすると、
$$\int_0^1\frac{1}{\sqrt{t}}dt=\lim_{a\to 0}\int_a^1\frac{1}{\sqrt{t}}dt=\lim_{a\to 0}\left[2\sqrt{t}\right]_a^1$$
$$=\lim_{a\to 0}(2-2\sqrt{a})=2$$
となり、広義積分 $\int_0^1\frac{1}{\sqrt{t}}dt$ が収束し、
$$\int_1^e\frac{1}{\sqrt{\log x}}dx$$
も収束することがわかります。

一方、$x\to \infty$ における収束性は、

$\sqrt{\log x}\le \sqrt{x}$ であるから、
$$0< \frac{1}{\sqrt{x}}\le \frac{1}{\sqrt{\log x}}$$
であり、
$$\int_e^\infty \frac{1}{\sqrt{x}}dx=\lim_{b\to \infty}\int_e^b\frac{1}{\sqrt{x}}dx=\lim_{b\to \infty}\left[2\sqrt{x}\right]_e^b=\infty$$
となり、広義積分 $\int_\frac{1}{\sqrt{x}}dx$ が収束しないので
発散する方の優関数法により、

$$\int_e^\infty\frac{dx}{\sqrt{\log x}}$$
も収束しません。

べき関数の広義積分
べき関数 $\frac{1}{x^s}$ の広義積分の収束発散をまとめておきます。


$s$を正の実数とする。このとき、以下が成り立つ。

$\int_1^\infty\frac{1}{x^s}dx$ が収束することと、$s> 1$ であることは同値。

$\int_0^1\frac{1}{x^s}dx$ が収束することと、$0<s<1$ であることは同値。

関数の極限を用いた収束発散の判定

授業では、他に、関数の極限の振る舞いからその広義積分の収束判定を
行う定理を紹介しました。


定理
関数  $f(x), g(x)>0$ であり、
$$\lim_{c\to b}\frac{f(x)}{g(x)}=k\neq 0,\infty$$
であるとする。
このとき、
$\int_a^bf(x)dx$ が収束する $\iff$ $\int_a^bg(x)dx$ が収束する
$\int_a^bf(x)dx$ が発散する $\iff$ $\int_a^bg(x)dx$ が発散する
がいえる。

数学外書輪講I(第10回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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今回は、

  • フィボナッチ数列(Matousek Miniature 2)
  • 線形代数(Lang)
について発表してもらいました。

フィボナッチ数列
フィボナッチ数列は、
$F_0=0,F_1=1$ かつ、$F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$ $(n\ge 1)$ を満たす数列
のことをいいます。
昨日、手習い塾に行ったら、同じ問題をまさに解いている人がしました。

このような数列を考えるときに、
まず、初項と第二項の数はとりあえず忘れて、$F_{n+2}=F_{n+1}+F_n$ を満たす数列
全てについて考えます。

そうするといいことがあります。

何かというと、

その数列全体は、ベクトル空間になる

ということです。つまり、
$$V=\{(a_n)|a_{n+2}=a_{n+1}+a_n\ (\forall n\ge 0)\}$$
とおくと、この集合 $V$ は、ベクトル空間の構造をもちます。

もう少し詳しく書いておくと、$V$ の一つの元(要素)は $(a_0,a_1,a_2,....)$ なる
一つの数列のこととなります。

つまり、一つの数列をベクトルとするベクトル空間なのです。
足し算は成分ごとに、
$$(a_0,a_1,a_2,....)+(b_0,b_1,b_2,....)=(a_0+b_0,a_1+b_1,a_2+b_2,....)$$
とし、スカラー倍は
$c\in {\mathbb K}$ をスカラーとすると、
$$c(a_0,a_1,a_2,...)=(ca_0,ca_1,ca_2,...)$$
となります。
このようにすると、$V$ がベクトル空間の構造をもちます。

このベクトル空間を用いることで、フィボナッチ数列 $(F_n)$ の
一般項を求めることができます。
まず、$V$ の次元は2次元です。
それは、初項と第二項を決めるとフィボナッチ数列が一つ決定することからも
わかりますが、以下のように具体的な2つの基底をとることもできます。

まず、$\alpha,\beta$ をフィボナッチ数列の特性方程式、
$x^2=x+1$ の2つの解とします。
具体的には、$\alpha=\frac{1+ \sqrt{5}}{2},\beta=\frac{1-\sqrt{5}}{2}$ です。

ここで、
$${\bf a}=(\alpha^0,\alpha^1,\alpha^2,...,)$$
$${\bf b}=(\beta^0,\beta^1,\beta^2,...,)$$
とすると、これらは、一次独立となります。
なぜなら、$c_1{\bf a}+c_2{\bf b}={\bf 0}$ とすると、

初項と第二項を比べることで、$c_1+c_2=0$ かつ $c_1\alpha+c_2\beta=0$ となり、
この連立一次方程式を解くことで、$c_1=c_2=0$ が成り立ちます。

よって、$\dim V=2$ となります。

実は、次元が2であることは、$(1,0,1,1,2,...)$ と $(0,1,1,2,3...)$ が基底になっていること
がすぐわかります。

また、${\bf a},{\bf b}$ が一次独立で、$W:=\langle{\bf a},{\bf b}\rangle\subset V$ が
部分ベクトル空間であるので、$\dim(W)=2$ がわかり、$W=V$ がいえます。
この論理展開もラングの教科書の方にもありましたね。


$V$ の構造がわかったところで、$F_0=0, F_1=1$ に話を戻してやります。
そうすると、$(F_n)\in V$ であるから、この数列も、
${\bf a}, {\bf b}$ の一次結合で書けるはずです。
つまり、
$$(F_n)=c_1(\alpha^n)+c_2(\beta^n)$$
となる係数を $c_1, c_2$ が存在します。
成分を見比べて、$c_1+c_2=0$ であり、$c_1\alpha+c_2\beta=1$ となりますが、$c_1(\alpha-\beta)=1$ であることから、$c_1=\frac{1}{\sqrt{5}}$ となります。

つまり、$c_2=\frac{-1}{\sqrt{5}}$ となり、結局、

$$F_n=\frac{1}{\sqrt{5}}\left(\left(\frac{1+\sqrt{5}}{2}\right)^n-\left(\frac{1-\sqrt{5}}{2}\right)^n\right)$$

が成り立ちます。
フィボナッチ数列の漸化式と、初項と第二項からは想像がつかないほど
複雑な数列になりました。


まとめれば、

フィボナッチ数列の一般項を求めるということの裏には、
ある線形代数が隠れていたといえます。

何か計算したい対象があったときに、その対象を
少し広げてやる(一般化してやる)と、その対象がもつ、
基本的な構造が現れることがあります。
今ではベクトル空間だったりしましたが。。。

そうすると、その構造のもつ一般論を用いることで、その対象が
もつ性質や、基本的な記述方法が明らかになり、それを用いて、
再び考察しなおしてみることで、計算しようとしている対象
がより洗練されて求められるということがあります。

今の場合、3項間漸化式をもつ数列とベクトル空間の間に
隠れていたベクトル空間の構造がフィボナッチ数列の記述に
大いに役立つということがわかりました。


練習問題
$$a_{n+3}=2a_{n+2}-a_{n+1}+2a_n$$
$$a_0=0,\ a_1=1,\ a_2=2$$
となる数列の一般項は、
$$\frac{1}{10}\left((-2+i)(-i)^n-(2+i)i^n+2^{n+2}\right)\hspace{1cm}(\ast)$$
のように書ける。


(略々解)
これも同じように、4項間漸化式から特性方程式
$$x^3=2x^2-x+2$$
を作り、その解 $x=\pm i,2$ から係数を決めて行くことで同じように、
上の公式$(\ast)$を導くことができます。

線形代数
ラングの線形代数では、以下の定理を示してもらいました。

定理
$V$ を体上の有限次元ベクトル空間で、$n$ 個の基底からなるものとする。
$W$ が $V$ の部分空間で、空ではないとする。このとき、$W$ も基底をもち、
その次元は $n$ 以下である。

2017年7月10日月曜日

微積分I演習(物理学類)(第11回)

[場所1E103(金曜日5限)]

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今回は、

  • 広義積分の収束
についてやりました。

広義積分の収束について
広義積分が収束するということは、
$[a,b)$ 上の関数 $f(x)$ において、$\int_a^bf(x)dx$ の値を求めることです。

つまり、通常なら区間の端まで値が求められるような関数を定積分をしますが、
ここでは端で値が定義できないような開区間において関数の積分を考えます。

ですので、例えば、$b=\infty$ であるような場合や、$\lim_{x\to b}f(x)=\infty$
であるような場合が広義積分の対象となります。

また、扱う関数 $f(x)$ は $[a,b)$ 内の任意の閉区間上で値をもち、
積分が可能(リーマン積分可能)とします。

そのとき、広義積分は、
$$\int_a^bf(x)dx=\lim_{c\to b}\int_a^cf(x)dx$$
として定義されます。
つまり、それより幾分か小さい閉区間で積分を計算しておき、その極限として
広義積分を定義します。

例えば、
$$\int_0^\infty e^{-x}dx=\lim_{c\to \infty}\int_0^ce^{-x}dx=\lim_{c\to \infty}\left[-e^{-x}\right]_0^c=\lim_{c\to \infty}(1-e^{-c})=1$$

のように計算されます。

また、値がよく知っている値として求められなくても、
極限が存在するかどうかが知りたい場合があります。
つまり、この極限が収束するかどうかです。
そのよい判別方法として、優関数法というのがあります。

広義積分の収束性としてよく素性の知れた関数 $g(x)$をもってきて、
比べてみるという方法です。


優関数法
$|f(x)|\le g(x)$ であることがわかれば、
$\int_a^bg(x)dx$ が収束するなら、$\int_a^bf(x)dx$ も収束します。
また、

$0<g(x)\le f(x)$ であれば、
$\int_a^bg(x)dx$ が発散するなら、$\int_a^bf(x)dx$ も発散します。


例1
例えば、$\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{e^x+1}dx$ の収束性を知りたいとします。
このとき、

$$|\frac{\sin x}{e^x+1}|\le \frac{1}{e^x+1}\le \frac{1}{e^x}=e^{-x}$$
となり、先ほどの計算から、
$\int_0^\infty e^{-x}dx$ は収束するので、
$\int_0^\infty\frac{\sin x}{e^x+1}dx$ は収束します。


例2
$\int_0^\infty \frac{x^n}{e^x}dx$ なる広義積分も、
$e^{-x}$ の広義積分の可能性に帰着することもできます。

$$\frac{x^n}{e^x}=\frac{x^n}{e^{\frac{x}{2}}}e^{-\frac{x}{2}}$$
と変形します。

また、
$\lim_{x\to \infty}\frac{x^n}{e^{\frac{x}{2}}}=0$ であることは
ロピタルの定理によりわかります。

なので、ある 十分大きい $x_0$ に対して任意の $x>x_0$ において、
$|\frac{x^n}{e^{\frac{x}{2}}}|\le 1$ であるから、

$x>x_0$ において、$|\frac{x^n}{e^x}|\le e^{-\frac{x}{2}}$ となり、
よって、同じように

$\int_{x_0}^\infty e^{-\frac{x}{2}}dx$ は収束するので、

広義積分
$$\int_{x_0}^\infty \frac{x^n}{e^x}dx$$
は収束します。
$\int_0^{x_0}f(x)dx$ は通常の積分として有限な値として計算できるので、

広義積分
$$\int_0^\infty \frac{x^n}{e^x}dx$$
は収束します。

例2の別解
また、$x=0$ で $e^x$ のマクローリン展開をすると、

$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\cdots +\frac{x^n}{n!}+\frac{x^{n+1}}{(n+1)!}+\frac{x^{n+2}}{(n+2)!}+\cdots+$
であり、$x>0$ において $e^x>\frac{x^{n+2}}{(n+2)!}$ が成り立ちます。

ゆえに、$x>0$ において、
$$|\frac{x^n}{e^x}|<\frac{x^n}{\frac{x^{n+2}}{(n+2)!}}=(n+2)!\frac{1}{x^2}$$
であり、

$\int_1^\infty \frac{1}{x^2}dx=1$ であるので、
$\int_1^\infty \frac{x^n}{e^x}dx$ も収束し、
ゆえに、

$\int_0^\infty \frac{x^n}{e^x}dx$ も収束します。



べき関数の収束発散
指数関数の積分と比べるものの他に上のように 
べき関数 $x^s$ の積分と比べる場合もまあまああります。

$\int_1^\infty \frac{1}{x^s}dx$ が収束するのは、$s>1$ であるときでそのときに限ります。
$s=1$ は発散する方に入っており、実際計算すれば、
$\int_1^\infty \frac{1}{x}dx=\lim_{x\to \infty}\log x=\infty$
のように、$\log$ の速さで大きくなるからです。

有限の値で無限に発散する場合も、

$\int_0^1\frac{1}{x^s}dx$ が収束するのは、$0<s<1$ であり、
$s\ge 1$ において、この積分は発散します。

微積分I演習(数学類)(第10回)

[場所1E103(水曜日4限)]

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今回は
  • 無理関数の積分についてやりました。
無理関数の積分

この話題は、今年も物理学類の授業で扱ったので大部分省略します。
2017年微積分I演習(物理学類)(第10回)(リンク)

$\sqrt{a+bx}$ と$x$ で作られる有理関数、例えば

$$\frac{x+(x^2+1)\sqrt{x+2}}{\sqrt{x+2}+1},\frac{\sqrt{x+3}}{1+x+x\sqrt{x+3}}$$

などの関数は、$t=\sqrt{a+bx}$ とおいて、式を整理することで
$t$の有理関数の積分になります。そして、あとは、有理関数の積分に帰着します。
このとき、無理関数の部分は同じもののみだとよいです。


$\sqrt{ax^2+bx+c}$ と $x$ で作られる有理関数の場合は

2次式に実数根を持つ場合は、
$t=\sqrt{\frac{a(x-\beta)}{x-\alpha}}$ としておく。

2次式に虚数根を持つ場合は、
$\sqrt{ax^2+bx+c}=t-\sqrt{a}x$ とおきます。
ただし、$a>0$ です。
このとき、

$$x=\frac{t^2-c}{2\sqrt{a}t+b}$$
$$\frac{dx}{dt}=\frac{2(\sqrt{a}t^2+bt+\sqrt{a}c)}{(2\sqrt{a}t+b)^2}$$
$$\sqrt{ax^2+bx+c}=\frac{\sqrt{a}t^2+bt+\sqrt{a}c}{2\sqrt{a}t+b}$$

となり、全体として、被積分関数は、$t$ の有理関数となります。

また他の変換変換であれば、

$x=\frac{2t}{1-t^2}$ もあり、計算により
$$\sqrt{1+x^2}=\frac{1+t^2}{1-t^2}$$
$$\frac{dx}{dt}=\frac{2(1-t^2)-2t(-2t)}{(1-t^2)^2}=\frac{2(1+t^2)}{(1-t^2)^2}$$
が成り立ちます。

その他の公式について

$$\int_0^x\frac{1}{\sqrt{1-t^2}}dt=\text{Arcsin}(x)$$
$$\int_0^x\frac{1}{\sqrt{1+t^2}}dt=\text{Arsinh}(x)$$
また、
$$\int_0^x\frac{1}{1+t^2}dt=\text{Arctan}(x)$$
であるが、
$$\int_0^x\frac{1}{1-t^2}dt=\frac{1}{2}\log\frac{1+x}{1-x}=\text{Artanh}(x)$$
となります。