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2016年6月14日火曜日

線形代数続論演習(第7回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、

  • 正規行列とその対角化
  • 射影子
  • 符号
についてやリました.

正規行列

正規行列とは、
A^\ast A=AA^\ast
が成り立つ行列のことです.
随伴行列 A^\ast は、{}^t\bar{A} のことで、実行列の場合は、転置行列と同じです.

正規行列の例としては、

実対称行列 {}^tA=A
エルミート行列 A^\ast=A
直交行列 {}^tAA=E
ユニタリー行列 A^\ast A=E
実交代行列 {}^tA=-A
歪エルミート行列 A^\ast=-A

などがそうです.2次の場合は、実正規行列は、対称か交代ですが、3次以上では、
対称でも交代でも直交でもない実正規行列が存在します.

どのような時に正規行列になるかというと、次のような定理が成り立ちます.


定理
A が正規行列であることはあるユニタリー行列によって、対角化されることと同値である.

ユニタリー行列とは、その縦ベクトルが正規直交行列になることと同値ですので、
この正規行列の条件は、{\mathbb C}^n の固有ベクトルとしての基底として、正規直交基底が取れるということです.言い換えれば、固有ベクトル同士が直交しているということで、次のように言い換えることもできます.


定理
A が正規行列であることは、A が対角化可能であり、固有空間 V_\lambdaV_\mu は、\lambda\neq \mu ならば、V_\lambda\perp V_\mu となることと同値である.


よって、実に限れば、次のように言い換えることができます.


定理
A が実固有値を持つ実正規行列であるとは、A が直交行列によって、対角化されることと同値である.


実固有値を持つための十分条件は以下が一般的です.

定理
エルミート行列(もしくは、実対称行列)は実固有値を持つ.


正規行列のユニタリー行列による対角化は、固有空間同士の直交性は保証されているので、空間の中のベクトルを正規直交化すると良いです.

例えば、A=\begin{pmatrix}1&1&1\\1&1&1\\1&1&1\end{pmatrix}

とすると、固有値は、0,3 で、その固有空間は、
V_0=\langle\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix}\rangle
V_3=\langle\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix}\rangle
となります.V_0V_3 同士は直交していますね.

また、V_0 の基底は、直交していませんので、直交化すると、

V_0 の基底として、さらに正規化してやると、
\left\{\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix},\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix}-1\\2\\-1\end{pmatrix}\right\}

となります.よって、

U=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{3}}&-\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{6}}\\\frac{1}{\sqrt{3}}&0&\frac{2}{\sqrt{6}}\\\frac{1}{\sqrt{3}}&\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{6}}\end{pmatrix}

としておけば、U はユニタリー行列であり、U^{-1}AU\text{diag}(3,0,0) の対角行列となる.


射影子

射影子とそのスペクトル分解は、正規行列の応用の話です.
射影子とは、P^2=P かつ、P^\ast=P を満たす行列のことです.

ある部分ベクトル空間 W\subset V とその直交補空間 W^{\perp} に対して、
V=W\oplus W^{\perp}\to V を、

x_1\in W で、x_2\in W^{\perp} とすると、
x_1+x_2\mapsto x_1 となるような線形写像の行列表現 P は、射影子となります.

つまり、その部分空間 W 上のベクトルは、そのままであり、それに直交するベクトルは、すべて0 ベクトルにするということなので、W への直交射影だと思えば良いでしょう.

明らかに、P^2=P が成り立ちます.
また、{\bf x}_1,{\bf y}_1\in W {\bf x}_2,{\bf y}_2\in W^{\perp} に対して、

(P({\bf x}_1+{\bf x}_2),{\bf y}_1+{\bf y}_2)=({\bf x}_1,{\bf y}_1+{\bf y}_2)=({\bf x}_1,{\bf y_1})
(P^\ast({\bf x}_1+{\bf x}_2),{\bf y}_1+{\bf y}_2)=({\bf  x}_1+{\bf x}_2,P({\bf y}_1+{\bf y}_2))=({\bf  x}_1,P{\bf y}_1)=({\bf  x}_1,{\bf y}_1)

よって、あらゆる {\bf v}\in V に対して
(P{\bf v},{\bf w})=(P^\ast{\bf v},{\bf w})

がなりたつので、これは、P=P^\ast を意味します.

宿題の第1問は難しいかもしれませんが、

要するに、部分空間同士が直交していることと、射影子同士の積が 0 であることは同値であるということです.

つまり、W\perp W' であるなら、その射影子 P,P' に対して、
V の任意の元を {\bf v}={\bf x}_1+{\bf x}_2 のように分けておいて、
PP'{\bf v}=P{\bf x}_2=0 となります.
逆も行います.


A が正規行列であることから、あるユニタリー行列 U によって、U^{-1}AU が対角行列であることがわかります.このことを用いると、任意の正規行列は、

A=\lambda_1P_1+\cdots+\lambda_rP_r
と変形できます.
ヒントは、対角行列 D を固有値ごとの和に分けられるよう工夫をしてください.

この和の式の意味は、P_i は、ある固有値に付随する固有空間の成分を取り出す操作であり、その固有空間において \lambda_iA の作用であるということになるのです.

成分を取り出して、再び和を取れば、元のベクトルにもどりますからそれを表した式が、
射影子の和が単位行列であるという

E=P_1+\cdots+P_r


となります.この式も、上の分解において、\lambda_i=1 とおいてやる式を考えれば、自然と出て来ます.

また、この射影子を使ってやると、行列の n 乗や、指数関数など簡単に計算をすることができます.


符号

最後に行列の符号について行いました.
これは定義のみです.
A を実対称行列とします.この時、上で書いたように、A の固有値は全て実数です.ですので、固有値は、正の数か負の数か、0 です.その時、

p を正の固有値の固有空間の次元の和(ここでは、固有多項式の正の根の重複度こみの和と一致)とし、

q を負の固有値の固有空間の次元の和(同じように、固有多項式の負の根の重複度こみの和と一致)とします.


この時、A の符号を
(p,q) と書きます.\text{sgn}(A) と書いたりします.

0 の固有値の数はここでは数えません.

An\times n 行列である時、
\text{sgn}(A)=(n,0) のとき、行列 A正定値であるといい、\text{sgn}(A)=(0,n) である時、行列 A負定値であるといいます.

また、p-q のことを、符号数ということもあります.




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