2016年6月27日月曜日

線形代数続論演習(第9回)続き

[場所1E103(金曜日3限)]


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線形代数続論演習(第9回の続きです)


ジョルダンブロックの計算の仕方

どんな感じのものを計算すればいいかわかったと思うので、
授業でやった問題をもう一度やっておきます.

A-9-1(1)

$$A=\left(
\begin{array}{ccc}
 -2 & -9 & 0 \\
 1 & 4 & 0 \\
 -2 & -6 & 1 \\
\end{array}
\right)$$

のジョルダンブロックを求めます.固有値は全て$1$ ですので、まず、べきゼロ行列
$B=A-E$ を計算し、基本変形すると、

$$B=\left(
\begin{array}{ccc}
 -3 & -9 & 0 \\
 1 & 3 & 0 \\
 -2 & -6 & 0 \\
\end{array}
\right)\to \left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 3 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$$

となり、$\text{Ker}(B)=\langle\begin{pmatrix}-3\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\rangle$
となります.
次に、$\text{Ker}(B^2)$ を求めます.ここで、$B^2$ をそのまま計算するのは面倒なので、
簡約化した行列に、右から $B$ をかけることにします.
つまり、
$$\left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 3 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
 -3 & -9 & 0 \\
 1 & 3 & 0 \\
 -2 & -6 & 0 \\
\end{array}
\right)=O$$

つまり、$B^2=O$ となることがわかります.つまり、$\text{Ker}(B^2)={\mathbb C}^3$ となります.

まず、$\text{Ker}(B^2)/\text{Ker}(B)$ の基底を求めます.
ここで、商空間の基底ですから、$\text{Ker}(B)$ の補空間の基底を求めれば十分です.
なので、${\bf v}=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}$ とすると、$\text{Ker}(B^2)/\text{Ker}(B)$ の基底は、$\begin{bmatrix}1\\0\\0\end{bmatrix}$

となります.商空間のベクトルはこのブラケットの方のベクトルを用いることにします.

次に、単射

$$\text{Ker}(B^2)/\text{Ker}(B)\to \text{Ker}(B)$$

により、$\text{Ker}(B)$ の基底を求めます.

先ほど作った、${\bf v}$ から、$B{\bf v}=\begin{pmatrix}-3\\1\\-2\end{pmatrix}\in\text{Ker}(B)$

このとき、$\text{Ker}(B)$ のうち、$B{\bf v}$ 以外の基底を求めます.
つまり、$B{\bf v}$ の $\text{Ker}(B)$  の補空間の基底ということですから、

${\bf u}=\begin{pmatrix}-3\\1\\0\end{pmatrix}$ ということになります.
この、${\bf u}$ は補空間であれば何でも良いですが、ここではいちばんわかりやすい
ものを取っています.(基底の中で、いちばん最初のベクトルを取っただけ.)

よって、$\langle B{\bf v},{\bf u}\rangle$ は$\text{Ker}(B)$ の基底となります.よって、
この行列 $B$ のヤング図形は、

となります.つまり、$h_1=2$ で、$h_2=1$ となります.
つまり、この行列の場合、ジョルダンブロックは2つあることになります.
横一列目の2次元 $(B{\bf v},{\bf v})$ と
横二列目の1次元 $({\bf u})$ です.

ここで、$(B{\bf v},{\bf v},{\bf u})$ とおき、できた行列を $P$ とすると、

$$B(B{\bf v},{\bf v},{\bf u})=(B^2{\bf v},B{\bf v},B{\bf u})=(B{\bf v},{\bf v},{\bf u})\left(
\begin{array}{ccc}
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$$
となります.
つまり、$BP=P\left(
\begin{array}{ccc}
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$
です.よって、$P^{-1}BP=\left(
\begin{array}{ccc}
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$ となり、$B=A-E$ を戻せば、
$P^{-1}(A-E)P=P^{-1}AP-E=\left(
\begin{array}{ccc}
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$

なので、
$$P^{-1}AP=\left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 1 & 0 \\
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 1 \\
\end{array}
\right)$$

となります.よって、ジョルダンブロック行列
$\left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 1  \\
 0 & 1
\end{array}
\right)$ と $(1)$

が出てきました.

A-9-1(2)

次の例は
$$\left(
\begin{array}{ccc}
 3 & 1 & -2 \\
 -1 & 1 & 1 \\
 2 & 1 & -1 \\
\end{array}
\right)$$

でした.これも固有値が全て1です.

$$B=A-E=\left(
\begin{array}{ccc}
 2 & 1 & -2 \\
 -1 & 0 & 1 \\
 2 & 1 & -2 \\
\end{array}
\right)$$

であり、簡約化して、$\text{Ker}(B)$ を求めると、

$$B\to \left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 0 & -1 \\
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$$

であり、$\text{Ker}(B)=\langle\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}\rangle$
となります.同じように、$B^2$ を簡約化した行列は、$\left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 0 & -1 \\
 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$

となります.よって、
$\text{Ker}(B^2)=\langle\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\rangle$

となります.
また、行列のサイズは $n=3$ なので、$B^3=O$ となり、$d=3$ です.
つまり、$\text{Ker}(B^3)/\text{Ker}(B^2)$ の基底をまず求めます.
$$\langle\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}\rangle$$
の補空間なので、${\bf v}=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}$ で十分です.

よって、ジョルダンブロックに適した基底は、$(B^2{\bf v},B{\bf v},{\bf v})$
となり、ヤング図形は

となります.$h_1=h_2=h_3=1$ であり、ジョルダンブロックは
一つだけです.
同じように、この基底によって、$B$ を表現すると、

$$P^{-1}BP=\left(
\begin{array}{ccc}
 0 & 1 & 0 \\
 0 & 0 & 1 \\
 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$$

となり、$A$ の表現行列は、

$$P^{-1}AP=\left(
\begin{array}{ccc}
 1 & 1 & 0 \\
 0 & 1 & 1 \\
 0 & 0 & 1 \\
\end{array}
\right)$$

となります.

線形代数続論演習(第9回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は
  • 固有値が一つしかない場合のジョルダンブロック分解
を行いました.
計算の方は、こちらに書きました.

広義固有空間

広義固有空間については、演習ではやりませんでしたが、ここではひとつだけ
定理をかいておきます.

$A$ を正方行列とし、固有多項式$\Phi_A(t)$ を
$$(t-\lambda_1)^{m_1}\cdots(t-\lambda_r)^{m_r}$$
とします.ただし、$\{\lambda_1,\cdots,\lambda_r\}$ を相異なる固有値の集合とします.

このとき、固有空間 $V_{\lambda_i}$ の次元は $m_i$ 以下ですが、
$$V_{(\lambda_i)}=\{{\bf v}|\text{十分大きい $n$ に対して }(A-\lambda_iE)^n{\bf v}=0 \}$$
とおきます.これを広義固有空間といいます.
このとき、以下の定理が成り立ちます.


定理
$V_{\lambda_i}\subset V_{(\lambda_i)}$ であり、固有空間は広義固有空間の部分空間であり、
$$\dim V_{(\lambda_i)}=m_i$$
 となる.


ジョルダンブロックの求め方

広義固有空間に対してジョルダンブロックを求める方法です.
今日は固有値が1つしかない場合を扱いました.

ここでは、固有値はすべて1だとします.

このとき、ケーリーハミルトンの定理から、$A-E$  はべきゼロ行列になります.
つまり、ある正の整数 $n$ があって、$(A-E)^n$ は ゼロ行列になります.
このべきゼロ行列を $B$ とします.

考えたいのは、$E, B, B^2,\cdots $ がどのような行列になるかということですが、

さらに、それらの行列の核つまり、$\text{Ker}(B^i)=\{{\bf v}\in{\mathbb C}^n|B^i{\bf v}=0\}$
がどうなるかということです.

$\text{Ker}(B),\text{Ker}(B^2),\text{Ker}(B^3),\cdots,\text{Ker}(B^d)$ は
部分空間の列として、

$$\text{Ker}(B)\subset\text{Ker}(B^2)\subset\text{Ker}(B^3)\subset\cdots\subset\text{Ker}(B^d)={\mathbb C}^n$$

が成り立ちます.ここで、$d$ とは、$B^{d-1}\neq O$ だが、$B^d=O$ となるような数です.
この部分ベクトル空間の列は、$B^i$ をかけて消えるベクトルは、$B^{i+1}$ かけても消えるということを意味しています.

また、ベクトルに$B$ を掛けるという写像により、

$\text{Ker}(B^{i})\to \text{Ker}(B^{i-1})$ となる線形写像が作れます.

なぜかというと、${\bf v}\in \text{Ker}(B^i)$ とすると、定義から、$B^i({\bf v})=0$ であり、
$B^{i-1}(B{\bf v})=0$ と書き直せ、$B{\bf v}$ は、$\text{Ker}(B^{i-1})$ となるからです.

まとめれば、

$$\text{Ker}(B^{i})\ni {\bf v}\mapsto B{\bf v}\in \text{Ker}(B^{i-1})$$

となります.


一般の商空間において

ここで、一旦商空間の話をします.
線形写像 $f: V\to V'$ があったとき、それが、商空間同士の写像
$\tilde{f}:V/W\to V'/W'$ を誘導することにします.
誘導するとは、$\tilde{f}$ が $\tilde{f}([{\bf v}])=[f({\bf v})]$ となる写像のことです.

まず、

$W\to W'$ ならば、誘導した写像 $\tilde{f}:V/W\to V'/W'$ が存在する.

が成り立ちます.
誘導できるかどうかはということは、$V/W$ のゼロベクトルが $V'/W'$ のゼロベクトルに移るということです.$V/W$ において $[{\bf v}]$ がゼロベクトルであるとは、
${\bf v}\in W$ であることです.
よって、$W$ の任意の元が $f$ によって、$V'/W'$ のゼロ元つまり $W'$ の元に移ることが必要です.

よって、$f:V\to V'$ であり、$V$ の部分空間 $W$ と $V'$ の部分空間 $W'$ において、
$W\to W'$ があるなら、$V/W\to V'/W'$ が存在することになります.


$f^{-1}(W')\subset W$ なら、誘導した写像が単射

言いかえれば、$f({\bf v})\in W'$ なら、${\bf v}\in W$ であることを意味します.
このとき、$\tilde{f}:V/W\to V'/W'$ は単射になります.

どうしてかというと、$\tilde{f}([{\bf v}])=[f({\bf v})]=0\in V'/W'$ であるとすると、
$f({\bf v})\in W'$ であるが、条件から、${\bf v}\in W'$ となり、$[{\bf v}]=0\in V/W$
となるからです.
要するに、$\tilde{f}([{\bf v}])=0$ ならば $[{\bf v}]=0$ となりますので $\tilde{f}$ は単射です.


ここで、話を元に戻します.

上の写像 $\text{Ker}(B^{i-1})\to \text{Ker}(B^{i-2})$
と、上の包含関係 $\text{Ker}(B^i)\subset\text{Ker}(B^{i+1})$ とから、

$$\text{Ker}(B^2)/\text{Ker}(B)\to \text{Ker}(B)$$
$$\text{Ker}(B^3)/\text{Ker}(B^2)\to \text{Ker}(B^2)/\text{Ker}(B)$$
$$\cdots$$
$$\text{Ker}(B^d)/\text{Ker}(B^{d-1})\to \text{Ker}(B^{d-1})/\text{Ker}(B^{d-2})$$

なる誘導写像が存在することになります.
写像は全て $B$ を掛けるという写像です.つまり、
$$[{\bf v}]\mapsto [B{\bf v}]$$
という写像です.

$B{\bf v}\in \text{Ker}(B^{i-1})$ ならば、$B^{i-1}B{\bf v}=B^i{\bf v}=0$
なので、${\bf v}\in\text{Ker}(B^i)$

となりますので、この写像は全て単射ということになります.
ここで、

$$h_1=\dim (\text{Ker}(B))$$
$$h_2=\dim(\text{Ker}(B^2)/\text{Ker}(B))$$
$$h_3=\dim(\text{Ker}(B^3)/\text{Ker}(B^2))$$
$$\cdots$$
$$h_d=\dim(\text{Ker}(B^d)/\text{Ker}(B^{d-1}))$$

とおきますと、上記の単射性から、
$$h_1\ge h_2\ge h_3\ge\cdots \ge h_d$$
また、上の増大列から、この次元の全ての和は、行列のサイズ $n$
と一致します.

また、この減少列を下のような図形で表します.

この縦の箱の数をそれぞれ数えると $h_i$ であり、一つ一つの箱は、基底の一つのベクトルが対応します.

また、この箱の数を全て足すと行列のサイズ $n$ になります.
${\mathbb C}^n$ の基底をこのような階段状の箱に詰めたものだと考えることができます.

上の単射写像は、右の箱から左の箱への対応に対応しており、単射ということは、右の箱には $B$ の掛け算で、隣の箱が必ず対応するということを意味しています.
しかし、一番左端に来た場合は、次の $B$ の掛け算では消えていしまいます.

上のような箱ならば、横一列目は、左から、
$$B^{d-1}{\bf v}_1,B^{d-2}{\bf v}_1,\cdots, B^2{\bf v}_1,B{\bf v}_1,{\bf v}_1$$

となります.次は同じように、

$$B^{d-1}{\bf v}_2,B^{d-2}{\bf v}_2,\cdots, B^2{\bf v}_2,B{\bf v}_2,{\bf v}_2$$

となり、最後は、

$$B{\bf y}, {\bf y}$$

となります.

このような階段状の箱を並べた図形のことをヤング図形と言います.
ヤング図形は数学の他の場面でも出てきます.

この横一列の部分は一つのジョルダンブロックの基底となります.

例えば、この基底により、$B$ の表現行列がどうなるかというと、

$$B(B^{d-1}{\bf v}_1,B^{d-2}{\bf v}_1,\cdots, B^2{\bf v}_1,B{\bf v}_1,{\bf v}_1)$$
$$=(B^{d-1}{\bf v}_1,B^{d-2}{\bf v}_1,\cdots, B^2{\bf v}_1,B{\bf v}_1,{\bf v}_1)\left(
\begin{array}{ccccc}
 0 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
 0 & 0 & 1 & 0 & 0 \\
 \vdots & \vdots & \ddots & \ddots & 0 \\
 0 & 0 & 0 & 0 & 1 \\
 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\
\end{array}
\right)$$
よって、両辺に $E$ を掛けたものを足して、$A$ にしてみると
$$A(B^{d-1}{\bf v}_1,B^{d-2}{\bf v}_1,\cdots, B^2{\bf v}_1,B{\bf v}_1,{\bf v}_1)$$
$$=(B^{d-1}{\bf v}_1,B^{d-2}{\bf v}_1,\cdots, B^2{\bf v}_1,B{\bf v}_1,{\bf v}_1)\left(
\begin{array}{ccccc}
 1 & 1 & 0 & 0 & 0 \\
 0 & 1 & 1 & 0 & 0 \\
 \vdots & \vdots & \ddots & \ddots & 0 \\
 0 & 0 & 0 & 1 & 1 \\
 0 & 0 & 0 & 0 & 1 \\
\end{array}
\right)$$

目標のジョルダンブロックが出てきました.

次は実際に計算をしてみます.

次の計算ブログに行く



2016年6月26日日曜日

微積分I演習(第9回)

[場所1E101(水曜日4限)]
今日は
  • 積分計算

を行いました.
リーマン積分についてや、リーマン積分可能などの定義については、
授業で行っていますので省略です.
感じとしては、積分可能のほうが、微分可能よりも条件としては緩やかです.
ただし、有限閉区間内ですが.
無限区間や、開区間上の積分はこのあとでやります.
そのような状況では、閉区間内の積分の極限としてえられます.

$$\int f(x)dx$$
を $f(x)$ の原始関数を求める操作を表し、その答えは
$$\int f(x)dx=F(x)+C$$
のようになります.求めた関数 $F(x)$ は原始関数といいます.
それに、積分定数 $C$ がつきます.これは、定数関数を微分すると、$0$ であり、
積分定数だけ関数をずらしても、同じ関数 $f(x)$ の原始関数となるからです.
このような積分を不定積分といいます.

$F(x)$ を $f(x)$ の原始関数とすると、$\int_a^bf(x)dx$ を
$$\int_a^bf(x)dx=[F(x)]_a^b=F(b)-F(a)$$
のように計算したものとします.これを定積分といいます.

ここでは、積分の手法をおさらいしておきます.

部分積分

部分積分とは、$\int_a^bf(x)g(x)dx$ の形の計算で
$$\int_a^bf(x)g(x)dx=[F(x)g(x)]_a^b-\int_a^bF(x)g'(x)dx$$
となります.ここで、$F(x)$ は $f(x)$ の原始関数つまり $F'(x)=f(x)$
となる関数です.

部分積分法は要するに、積の微分法とみなされますが、一般に、

$f(x)g(x)$ のうち
一方を微分していくと積分がやさしくなり、
もう一方を積分していっても積分がやさしくなる

ような積 $f(x)g(x)$ になっている場合に役立ちます.

例えば、$\int_0^{\pi/2}x^2\cos xdx$ のような積分計算では、$x^2$ は
微分し続けると定数にまでなりますので、こちらを微分することになります.
よって、

$$\int_0^{\pi/2}x^2\cos xdx=[x^2\sin x]_0^{\frac{\pi}{2}}-\int_0^{\frac{\pi}{2}}2x\sin xdx$$
$$=(\frac{\pi}{2})^2-2\left([-x\cos x]_0^{\frac{\pi}{2}}-\int_0^{\frac{\pi}{2}}(-\cos x)dx\right)=(\frac{\pi}{2})^2-2[\sin x]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi^2}{4}-2$$

と計算できます.

置換積分

これは、$\int_a^bf(g(x))g'(x)dx$ のような積分を $X=g(x)$ とおいて、$dX=g'(x)dx$ と置き換えることで、
$$\int_a^bf(g(x))g'(x)dx=\int_{g(a)}^{g(b)}f(X)dX$$

として計算する方法です.合成関数の微分法をそのまま積分したような形と思えばよいでしょう.
例えば、

$\int_0^{\frac{\pi}{4}}\frac1{\cos x}dx$ のような積分計算で、この場合、
$$\int_0^{\frac{\pi}{4}}\frac{\cos x}{1-\sin^2x}dx=\int_0^{\frac{1}{\sqrt{2}}}\frac{dX}{1-X^2}$$
置換されます.ここで、 $X=\sin x$ とおいておけば、$dX=\cos x dx$ となります.
あとは、有理関数の積分法で、テイラー展開のときにやった、部分分数分解を用いて、
以下のようにします.

$$\frac{1}{2}\int_0^{\frac{1}{\sqrt{2}}}\left(\frac{1}{1-X}+\frac{1}{1+X}\right)dX=\frac{1}{2}[-\log (1-X)+\log(1+X)]_0^{\frac{1}{\sqrt{2}}}$$
$$=\frac{1}{2}\left(-\log(1-\frac{1}{\sqrt{2}})+\log(1+\frac{1}{\sqrt{2}})\right)=\frac{1}{2}\log\frac{\sqrt{2}+1}{\sqrt{2}-1}=\log(1+\sqrt{2})$$
となります.また、$\log(x+\sqrt{1+x^2})=\text{arsinh}(x)$ なので、この値は、$\text{arsinh}(1)$ とも書かれます.
また、$\text{artanh}(x)'=\frac{1}{1-x^2}$ ですので、この積分は、そのまま $\text{artanh}(\frac{1}{\sqrt{2}})$ と書いてもよいでしょう.
つまり、一般に、$\int_{0}^x\frac{dt}{1-t^2}=\text{artanh}(x)=\frac{1}{2}\log\left(\frac{1+x}{1-x}\right)$ となります.

有理関数の積分

前回と同様、有理関数 $\frac{f(x)}{g(x)}$ を積分するには、
$f(x)$ を $g(x)$ で割っておいてそれを部分分数に展開をしてから積分をします.

そのとき、$\frac{1}{(x-a)^n}$ のような項は、
$n>1$ の場合は、
$$\int\frac{1}{(x-a)^n}dx=-\frac1{n-1}\frac{1}{(x-a)^{n-1}}+C$$
であり、
$n=1$ の場合は、
$$\int\frac{1}{x-a}dx=\log(x-a)+C$$
と積分できます.

また、$g(x)$ が複素根を持つ場合、必ず2次多項式までは実数の範囲で分解できますが、
それ以上は実数では分解はできません.
たとえば、それが、$x^2+ax+b$ とします.$x^2$ の係数はわっておけば、1にできます.
つまり、$\int\frac{dx}{x^2+ax+b}$ のような積分を考えます.
特に、この多項式は複素根を持つので、$a^2-4b<0$ となります.

この式を平方完成をして、$(x+\frac{a}{2})^2+\frac{4b-a^2}{4}$ とできますが、
$X=\frac{2}{\sqrt{4b-a^2}}(x+\frac{a}{2})$ とおくと、このしきは、
$\frac{4b-a^2}{4}(X^2+1)$ のようにすることができますので、積分は

$$\int\frac{dx}{x^2+ax+b}=\frac{2}{\sqrt{4b-a^2}}\int\frac{dX}{X^2+1}=\frac{2}{\sqrt{4b-a^2}}\text{arctan}(X)+C=\frac{2}{\sqrt{4b-a^2}}\text{arctan}\left(\frac{2}{\sqrt{4b-a^2}}(x+\frac{a}{2})\right)+C$$
となります.
また、
$\frac{x+1}{x^2+1}$ のように、分子が1次式が残る場合は、
$$\frac{1}{2}\frac{2x}{x^2+1}+\frac{1}{x^2+1}$$
のように、分解して、

$$\frac{1}{2}\log(x^2+1)+\text{arctan}(x)+C$$

となります.
このようにして、実係数の有理関数はこのようにして全て計算することができるようになります.

三角関数の逆関数の積分

他に積分できるものとして、以下のものもあります.
他に、指数関数や三角関数、対数関数などありますが、ここでは省略します.

$$\int\frac{dx}{\sqrt{1-x^2}}=\arcsin x+C$$
$$\int\frac{dx}{\sqrt{1+x^2}}=\text{arcsinh} x+C$$
他に、$\int\sqrt{1-x^2}dx$,  $\int\sqrt{1+x^2}dx$ などもありますが、
これらは、$x=\sin t$ や $x=\sinh t$ などで置換して見てください.
計算することができます.





$\frac{1}{(x+2)(x^2+1)}$ を積分します.
まず、部分分数分解し、積分できる形に直すと、

$$\frac{1}{5}\frac{1}{x+2}-\frac{1}{10}\frac{2x}{x^2+1}+\frac{2}{5}\frac{1}{x^2+1}$$

となります.よって、
この積分は、
$$\int\frac{dx}{(x+2)(x^2+1)}=\frac{1}{5} \text{log}(2+x)-\frac{1}{10} \text{log}(1+x^2)+\frac{2}{5} \text{arctan}(x)$$
となります.

2016年6月21日火曜日

線形代数続論演習(第8回)

[場所1E103(金曜日3限)]


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今日は、
  • 2次形式の分類
  • 2次曲線の分類
を行いました.私も、少し慌てて説明したせいか、よくわからなかったかもしれません.
そして少し面倒くさい感じの章だったので、よく本なども読んでください.
ちなみに、宿題に出した最初の問題は、教科書にある問題と同じです.

2次形式の分類

2次形式とは、$ax^2+2bxy+cy^2$ のような形の式のことです.
ここで、$a,b\in {\mathbb R}$ です.

これは、変数が $x,y$ の場合で、変数が $n$ 個ある場合もそのような式が考えられます.
例えば、3 変数の場合は、$ax^2+by^2+cz^2+2dxy+2eyz+2fzx$ のようになります.

この式は、斉次式とも言います.つまり、それぞれの項が全て同じ次数の式ということです.
この式は、対称行列を使って、

$$\begin{pmatrix}x&y\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}$$

$$\begin{pmatrix}x&y&z\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&d&f\\d&b&e\\f&e&c\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}$$

のように書かれます.このような式は、${\bf x}\in {\mathbb R}^n$ 平面上の関数として考えることができます.
関数の形は、その曲値、曲がり方などがわかると良いですが、正則行列 $P$ を使って、${\bf x}=P{\bf x}'$
のように基底の変換をすることで、関数の形を簡単にします.

この時、関数は、${}^t{\bf x}A{\bf x}$ から、${}^t(P{\bf x}')A(P{\bf x}')={}^t{\bf x}'({}^tPAP){\bf x}$
となります.

このような、${\mathbb R}^n$ の基底を変換してから同じになるような2次形式を同値と言います.

つまり、$A\sim {}^tPAP$ なる同値関係によって対称行列を同じとみなすことになります.
ここでも、同値類の概念が役に立ちます.

非同値な2次形式がどれほどあるか?という問題は、シルベスターの慣性の法則により
符号によって完全に、分類されます.

つまり、
$$\{\text{対称行列}\}/A\sim {}^tPAP\iff \{(p,q)\in{\mathbb Z}_{\ge 0}^2|p+q\le n\}$$
$$A\leftrightarrow \text{sgn}(A)$$
がいえます.

よって、対称行列の符号を計算すれば、その対称行列がどのような行列に同値であるかということがわかることになります.
単なる固有多項式の計算です.

2次曲線の表示と例

2次曲線とは、平面上の曲線で、

$ax^2+2bxy+cy^2+2dx+2ey+f=0$ を満たす解全体のことです.
先ほどの2次形式に比べて、1次の項や、0次の項もあります.

アファイン変換

このような式をアファイン変換というもので分類をしていきいます.
アファイン変換とは、正則変換(可逆な線形変換のこと)と、平行移動を加えた
変換のことです.

つまり、${\bf x}\mapsto P{\bf x}+{\bf d}$ なる変換で、正則変換に加えて、平行移動 ${\bf d}$ も加わっています.

このような変換は、行列で書くと、

$$\begin{pmatrix}{\bf x}\\1\end{pmatrix}\mapsto \begin{pmatrix}P&{\bf d}\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}{\bf x}\\1\end{pmatrix}$$

と書くことができます.つまり、アファイン変換も何らかの正則行列によって
書くことができるということです.アファイン変換の逆もアファイン変換です.

2次曲線・曲面の2次形式としての表示

上の2次曲線を1次元増やしたような書き方をすると、

$$\begin{pmatrix}{}^tx&y&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&b&d\\b&c&e\\d&e&f\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\1\end{pmatrix}=0$$

となります.

一般に、
$$\begin{pmatrix}{\bf x}&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A&{\bf u}\\{}^t{\bf u}&C\end{pmatrix}\begin{pmatrix}{\bf x}\\1\end{pmatrix}=0\hspace{2cm}(\ast)$$

の形をしています.これを2次曲線の2次形式表示ということにします.

$A$ はある $n\times n$ 正方行列で、${\bf v}$ は ${\mathbb R}^n$ のベクトルです.$C$ は定数項ということになります.

この式を上のアファン変換を通して標準形に持っていくことがここでの課題です.


例を通してやってみます.

例1

$x^2-2y^2+2x+2y=0$


$x^2-2y^2+2x+2y=(x+1)^2-2(y-\frac{1}{2})^2-\frac{1}{2}$

ですので、$x'=x+1, y'=y-\frac{1}{2}$ とすれば、
$(x')^2-2(y')^2=\frac{1}{2}$ となり、この2次曲線は、双曲線になることがわかります.

例2

$x^2+xy-y^2+2x=0$

この例は授業中にやったのですが、少し不備があったので、ここでやり直しました.
(そうしたら、かなり複雑になってしまいました.)

行列を使って書くと、
$$(x,y,1)\begin{pmatrix}1&\frac{1}{2}&1\\\frac{1}{2}&-1&0\\1&0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\1\end{pmatrix}=0$$

となります.
ここで、この式を直交変換(ユークリッド変換)を使って変形します.
これは、合同変換とも言います.ここでは、原点中心の回転と原点を通る直線による裏返しです.

直交行列 $P$ は${}^tPP=E$ であるから、この同値は、${}^tPAP=P^{-1}AP$ となることに注意します.

$A=\begin{pmatrix}1&\frac{1}{2}\\\frac{1}{2}&-1\end{pmatrix}$
を変換します.

$A\to {}^tPAP$ をして、対角行列にします.

$A$ の固有値は、$\pm\frac{\sqrt{5}}{2}$ となります.$a=\frac{\sqrt{5}}{2}$ と置くことにすると、固有ベクトルは、
$\begin{pmatrix}1\\2a-2\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\-2a-2\end{pmatrix}$

となります.よって、直交行列を

$$P=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{10-8a}}&\frac{1}{\sqrt{10+8a}}\\\frac{2a-2}{\sqrt{10-8a}}&\frac{-2a-2}{\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}$$

と置くことで、

$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}a&0\\0&-a\end{pmatrix}$
となります.
また、その他の係数は、
$\begin{pmatrix}P^{-1}&0\\0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}A&{\bf x}\\{}^t{\bf x}&f\end{pmatrix}\begin{pmatrix}P&0\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}P^{-1}AP&P^{-1}{\bf x}\\{}^t{\bf x}P&f\end{pmatrix}$

となります.よって、直交変換によって、2次曲線は、

$$\begin{pmatrix}a&0&\frac{1}{\sqrt{10-8a}}\\0&-a&\frac{1}{\sqrt{10+8a}}\\\frac{1}{\sqrt{10-8a}}&\frac{1}{\sqrt{10+8a}}&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}X&{\bf w}\\{}^t{\bf w}&f\end{pmatrix}$$

の形になります.ここで、平行移動をします.(要するに平方完成ですが.)

わざわざ、アフィン変換を使って書くと、

$$\begin{pmatrix}x\\y\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0&-\frac{1}{a\sqrt{10-8a}}\\0&1&\frac{-1}{a\sqrt{10+8a}}\\0&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x'\\y'\\1\end{pmatrix}\hspace{1cm}(\dagger)$$

となります.これを以下示します.

(正則変換なしで)平行移動 ${\bf a}\to {\bf a}+{\bf v}$ だけを書いてみると、
$\begin{pmatrix}E&0\\{}^t{\bf v}&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X&{\bf w}\\{}^t{\bf w}&f\end{pmatrix}\begin{pmatrix}E&{\bf v}\\0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}X&X\cdot{\bf v}+{\bf w}\\{}^t{\bf v}\cdot X+{}^t{\bf w}&{}^t{\bf v}\cdot X\cdot {\bf v}+2{\bf w}\cdot{\bf v}+f\end{pmatrix}$

となるので、$X=\begin{pmatrix}a&0\\0&-a\end{pmatrix}$, ${\bf w}=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{10-8a}}\\\frac{1}{\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}$,
としておけば、$X\cdot {\bf v}+{\bf w}=0$ となる、${\bf v}$ を求めると、

$${\bf v}=-X^{-1}{\bf w}=\begin{pmatrix}-\frac{1}{a\sqrt{10-8a}}\\\frac{1}{a\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}$$

となり、$(\dagger)$ が成り立つのです.

この変換により、定数項は、
$\begin{pmatrix}-\frac{1}{a\sqrt{10-8a}}&\frac{1}{a\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a&0\\0&-a\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-\frac{1}{a\sqrt{10-8a}}\\\frac{1}{a\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}+2\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{10-8a}}\\\frac{1}{\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}\cdot \begin{pmatrix}-\frac{1}{a\sqrt{10-8a}}\\\frac{1}{a\sqrt{10+8a}}\end{pmatrix}=-\frac{5}{4}$

となります.ゆえに、求める2次曲線は、

$\frac{\sqrt{5}}{2}x^2-\frac{\sqrt{5}}{2}y^2-\frac{5}{4}=0$
と同値になります.よって、この例は、双曲線ということになります.

2次曲線の分類

2次形式表示 ($\ast$) の中の $A$ が正則のとき

一般に、最初の2次形式表示の段階で、2次の係数の部分 $A$ が正則であれば、
固有値は、正の数か負の数に分けられ、その数によって、2次曲線の場合は、

(正、正) もしくは、(負、負)なら楕円
(正、負)なら双曲線

となります.(負、負)の場合は、全体にマイナス1倍をかけることで(正、正)の
式に帰着されます.

ただし、特殊な場合、

前者の場合、
$x^2+y^2=0$ の形なら、1点、
$x^2+y^2=c<0$ の形なら、空集合

後者の場合、
$x^2-y^2=0$ の形なら、1点で交わる2直線

の場合がありえます.

2次曲面の場合は、

(正、正、正)もしくは、(負、負、負)なら、楕円面(球面に標準化される)
$(a,b,c,d)$ を全て正の数とすると、
$ax^2+by^2-cz^2=d$ なら、一葉双曲面
$ax^2-by^2-cz^2=d$ なら、二葉双曲面

となります.
これらの2次曲面の名前については、教科書に図入りで乗っているので、
そちらを参照してください.

他のパターンはマイナス1倍をしてやることで、これらのどれかに帰着されます.
もちろん、曲線と同じように、退化したもの(円錐曲面や、空集合)になることはあります.


2次形式表示 ($\ast$) の中の $A$ が非正則のとき

2次形式表示、 $\begin{pmatrix}A&{\bf u}\\{}^t{\bf u}&C\end{pmatrix}$ のうち、$A$ に固有値が $0$ のものがあるとき、直交行列によって対角化してやると、対角成分に $0$ のものが現れます.

このとき、2次形式表示が $\begin{pmatrix}a&0&d\\0&0&e\\d&e&f\end{pmatrix}$
となるとき、平行移動(平方完成)によって、消せるのは、$d$ の部分だけです.
よって2次形式表示は、 $\begin{pmatrix}a&0&0\\0&0&e\\0&e&f\end{pmatrix}$
に帰着します.

$e\neq 0$ であれば、

さらに、2番目の成分 $y$ において、$y$ を $y-\frac{f}{2e}$ に置き換えれば、$f$ の成分も消すことができます.
このとき、2次形式表示は、
$$\begin{pmatrix}a&0&0\\0&0&e\\0&e&0\end{pmatrix}$$

とできます.

これは、$ax^2+2ey=0$ という放物線になります.

同じように、いくつか、一次の項が残っていても、定数項丸ごと消して、1次の項一つにすることができます.

つまり、あるアファイン変換で、

2次形式表示
 $$\begin{pmatrix}a&0&0&0\\0&0&0&b\\0&0&0&c\\0&b&c&f\end{pmatrix}$$

$$\begin{pmatrix}a&0&0&0\\0&0&0&\beta\\0&0&0&0\\0&\beta&0&0\end{pmatrix}$$

と変換することができます.
この変換は、教科書に書いてあるので、そちらを参照してください.


$e=0$ つまり、1次の項が一つも残らなかった場合、

 $\begin{pmatrix}a&0&0\\0&0&0\\0&0&f\end{pmatrix}$

なりますが、この時、これ以上は簡単にならなくて、式としては、

$ax^2+f=0$ や、$ax^2+by^2+f=0$ なるさらに
退化した形になります.

この場合、
状況により、より複雑ですが、
$ax^2+f=0$ をまとめると、$x^2=F$ とかけますが、その時、
$F<0$ なら空集合、
$F=0$ なら一直線、
$F>0$ なら、平行な2直線
となります.


この標準形のための流れ

  1. 直交変換によって、$xy$ の係数を消す.3変数の場合は、$yz,zx$ も消す
  2. 平方完成によって、$x,y$ を消す.場合によっては、$x$ だけを消す. 
  3. 消えなかった一次の係数をまとめる.

その結果、以下の3種類にまとめられます.
${\mathbb R}^n$ の中の2次式の0点集合(2次式$=0$ の集合という意味)
は以下の3種類に分けられます.

(I)  $\pm x^2_1\pm x_2^2+\cdots\pm x_r^2=f$ ($0<r\le n$)
(II)  $\pm x^2_1\pm x_2^2+\cdots\pm x_r^2=\beta x_{r+1}$    ($0<r<n$)
(III)  $\pm x^2_1\pm x_2^2+\cdots\pm x_r^2=0$      ($0<r\le n$)

となります.

微積分I演習(第8回)

[場所1E101(水曜日4限)]

今日は
  • 連続微分可能関数 ($C^\infty$ 級関数)と微分可能関数、解析関数
  • 有理関数の部分分数分解とそのテイラー展開
  • べき級数から関数を求めること.
についてやりました.

連続微分可能

$n$ 回連続微分可能とは、$n$ 回微分可能であり、$n$ 次の導関数が連続であることです.
わかって欲しいことは、$n$ 回微分できることと、$n$ 回連続微分できることとは別であることです.

$$\text{微分可能関数}\supset C^1\text{ 級関数 }\supset \text{ 2回微分可能関数 }\supset \cdots\supset C^\infty\text{級関数}\supset \text{解析関数} $$

となり、このどれも一致しません.微分可能だが、$C^1$ 級でない関数として、
$$\begin{cases}x^2\sin \frac{1}{x}&x\neq0\\0&x=0\end{cases}$$
があります.他、$C^\infty$ 級関数だが、解析的でない関数として、
$$\begin{cases}e^{-\frac{1}{x}}&x\neq0\\0&x=0\end{cases}$$
があります.

有理関数のテイラー展開

有理関数 $Q(x)$ とは、多項式 $f(x), g(x)$ に対して、
$$Q(x)=\frac{f(x)}{g(x)}$$

となるものです.この関数をテイラー展開をします.
分子の次数が分母の次数より大きいとき、は、$f(x)=g(x)P(x)+R(x)$ と割ってやることで、

$Q(x)=\frac{g(x)P(x)+R(x)}{g(x)}=P(x)+\frac{R(x)}{g(x)}$

となるので、多項式 $P(x)$ はテイラー展開は易しいです.
よって、分子の次数が分母の次数より小さい場合に帰着されます.

そこで、$a\neq b$ に対して、
$\frac{1}{(x-a)(x-b)}=\frac{1}{b-a}\left(\frac{1}{x-a}-\frac{1}{x-b}\right)$
のように分解されます.
このような分解を部分分数分解と言います.

つまり、分母の多項式に異なる根をもつようなものはこのような式変形で
分解できるということです.
よって、3個の積であっても、

$$\frac{1}{(x-a)(x-b)(x-c)}=-\frac{1}{(a-b) (b-c) (x-b)}-\frac{1}{(a-c) (c-b) (x-c)}+\frac{1}{(a-b) (a-c) (x-a)}$$

として分解をすることができます.例えば、2次の項があった場合も、

$$\frac{1}{(x-a) (x-b)^2}=-\frac{1}{(a-b)^2 (x-b)}+\frac{1}{(b-a) (x-b)^2}+\frac{1}{(a-b)^2 (x-a)}$$

として分解できます.分解されたそれぞれの項の係数は、適当に、$A,B,C,,,$ などと文字を置いてやって
求めることができます.

つまり、有理関数は、このような分解によって、すべて、$\frac{1}{(x-a)^n}$ のような形の和に分解できることがわかります.有理関数に2乗因子以上含む場合は、そのような項も出てきます.

例えば、$\frac{x+3}{( x-2) (x-1 ) (1 + x)^2}$ なる関数を考えると、分解として、

$$\frac{5}{9 (x-2)}-\frac{1}{x-1}+\frac{4}{9 (x+1)}+\frac{1}{3 (x+1)^2}$$
が得られます.
求め方は、
$$\frac{A}{x-2}+\frac{B}{x-1}+\frac{C}{x+1}+\frac{D}{ (x+1)^2}$$
と置いて、通分し、係数を比較すると良いです.

$\frac{1}{(x-a)^n}$ となった後は、幾何級数を使います.

$n=1$ の場合は、

$$\frac{1}{x-a}=-\frac{1}{a}\frac{1}{1-\frac{x}{a}}=-\frac{1}{a}\sum_{n=0}^\infty(\frac{x}{a})^n$$

となります.この式を微分することで、

$$-\frac{1}{(x-a)^2}=-\frac{1}{a^2}\sum_{n=0}^\infty (n+1)(\frac{x}{a})^n$$

となり、
$\frac{1}{(x-a)^2}$ のテイラー展開もわかるようになります.
このようにして、$x$ で微分し続ければ、 $\frac{1}{(x-a)^n}$ の展開もわかるようになります.



ちなみに、
上のように、テイラー展開をしておいてからそれを微分したり、積分したり
を項別に行うことは、慎重に行う必要があります.
しかし、解析関数の展開の場合は、その収束半径内でそのような微積分は行えます.
収束半径とは、解析関数の展開において、展開する点から測って、収束が保証される
距離の区間のことです.

今の場合、原点で展開をしていますから、原点中心の区間 $(-a,a)$ のうちで、
この級数が収束する最大の範囲のことです.
例えば、$\frac{1}{1-x}$ は、展開すると、$\sum_{n=0}^\infty x^n$ ですが、この級数が
収束するのは、原点から測って距離1のところ、$(-1,1)$ のところまでです.
それ以上増やそうとすると、$x=1$ の所で、無限大に発散してしまいます.

つまり、この場合の収束半径は $1$ ということになります.
また、この半径は、ちょうど、原点からの距離で $\frac{1}{1-x}$ で定義されない $1$ までの距離と一致しています.
このようなことは、一般になりたちます.

結局、収束半径内であれば、項別微分は自由に行ってよくて、導関数のテイラー展開も得られますが、その収束半径も実は、元の収束半径と同じであることもわかります.
また、収束半径内では、項の順番を入れ替えても良いということは
事実として成り立ちますので、

$\sum_{n=0}^\infty a_nz^n+\sum_{n=0}^\infty b_nz^n=\sum_{n=0}^\infty(a_n+b_n)z^n$

のように和の順番を変えることができます.


話を元に戻しますと、多項式が実根だけを持つ場合は因数分解をして、部分分数に分解することで、テイラー展開が得られますが、複素根を持つ場合は、少し面倒です.

例えば、$\frac{1}{1+x^2}$ のような場合は、上記のように、分解はできませんが、
幾何級数の類似で、

$$\frac{1}{1+x^2}=\sum_{n=0}^\infty(-x^2)^n=\sum_{n=0}^\infty(-1)^nx^{2n}$$

と分解することができます.また、複素数を素直に使えばいいじゃないかと思うかも
しれませんが、実は、使っても上手くいきます.最終的に、下のように、複素数を使わない形にできるのです.

$$\frac{1}{1+x^2}=\frac{1}{2i}\left(\frac{1}{x-i}-\frac{1}{x+i}\right)=\frac{1}{2i}\left(i\sum_{x=0}^\infty(-i)^nx^n+i\sum_{x=0}^\infty i^nx^n\right)=\sum_{n=0}^\infty(-1)^nx^{2n}$$

このようなことをすれば、どのような場合でも、複素根をもつものを
考えれば、分解できるはずですが、複素数の計算もそれはそれで大変になります.

前回の記事にもあったように、$\frac{1}{f(x)}$ として、$f(x)$ が $x^n-1$ を
割るようなものであれば、$\frac{g(x)}{x^n-1}$ として、$1/(x^n-1)$ を幾何級数
の手法を使って分解をします.

そうでもない場合は、やはり大変です.

2016年6月14日火曜日

線形代数続論演習(第7回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、

  • 正規行列とその対角化
  • 射影子
  • 符号
についてやリました.

正規行列

正規行列とは、
$$A^\ast A=AA^\ast$$
が成り立つ行列のことです.
随伴行列 $A^\ast$ は、${}^t\bar{A}$ のことで、実行列の場合は、転置行列と同じです.

正規行列の例としては、

実対称行列 ${}^tA=A$
エルミート行列 $A^\ast=A$
直交行列 ${}^tAA=E$
ユニタリー行列 $A^\ast A=E$
実交代行列 ${}^tA=-A$
歪エルミート行列 $A^\ast=-A$

などがそうです.2次の場合は、実正規行列は、対称か交代ですが、3次以上では、
対称でも交代でも直交でもない実正規行列が存在します.

どのような時に正規行列になるかというと、次のような定理が成り立ちます.


定理
$A$ が正規行列であることはあるユニタリー行列によって、対角化されることと同値である.

ユニタリー行列とは、その縦ベクトルが正規直交行列になることと同値ですので、
この正規行列の条件は、${\mathbb C}^n$ の固有ベクトルとしての基底として、正規直交基底が取れるということです.言い換えれば、固有ベクトル同士が直交しているということで、次のように言い換えることもできます.


定理
$A$ が正規行列であることは、$A$ が対角化可能であり、固有空間 $V_\lambda$ と $V_\mu$ は、$\lambda\neq \mu$ ならば、$V_\lambda\perp V_\mu$ となることと同値である.


よって、実に限れば、次のように言い換えることができます.


定理
$A$ が実固有値を持つ実正規行列であるとは、$A$ が直交行列によって、対角化されることと同値である.


実固有値を持つための十分条件は以下が一般的です.

定理
エルミート行列(もしくは、実対称行列)は実固有値を持つ.


正規行列のユニタリー行列による対角化は、固有空間同士の直交性は保証されているので、空間の中のベクトルを正規直交化すると良いです.

例えば、$A=\begin{pmatrix}1&1&1\\1&1&1\\1&1&1\end{pmatrix}$

とすると、固有値は、$0,3$ で、その固有空間は、
$V_0=\langle\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix}\rangle$
$V_3=\langle\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix}\rangle$
となります.$V_0$ と $V_3$ 同士は直交していますね.

また、$V_0$ の基底は、直交していませんので、直交化すると、

$V_0$ の基底として、さらに正規化してやると、
$\left\{\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}-1\\0\\1\end{pmatrix},\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix}-1\\2\\-1\end{pmatrix}\right\}$

となります.よって、

$U=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{3}}&-\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{6}}\\\frac{1}{\sqrt{3}}&0&\frac{2}{\sqrt{6}}\\\frac{1}{\sqrt{3}}&\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{6}}\end{pmatrix}$

としておけば、$U$ はユニタリー行列であり、$U^{-1}AU$ は$\text{diag}(3,0,0)$ の対角行列となる.


射影子

射影子とそのスペクトル分解は、正規行列の応用の話です.
射影子とは、$P^2=P$ かつ、$P^\ast=P$ を満たす行列のことです.

ある部分ベクトル空間 $W\subset V$ とその直交補空間 $W^{\perp}$ に対して、
$V=W\oplus W^{\perp}\to V$ を、

$x_1\in W$ で、$x_2\in W^{\perp}$ とすると、
$x_1+x_2\mapsto x_1$ となるような線形写像の行列表現 $P$ は、射影子となります.

つまり、その部分空間 $W$ 上のベクトルは、そのままであり、それに直交するベクトルは、すべて0 ベクトルにするということなので、$W$ への直交射影だと思えば良いでしょう.

明らかに、$P^2=P$ が成り立ちます.
また、${\bf x}_1,{\bf y}_1\in W$ ${\bf x}_2,{\bf y}_2\in W^{\perp}$ に対して、

$(P({\bf x}_1+{\bf x}_2),{\bf y}_1+{\bf y}_2)=({\bf x}_1,{\bf y}_1+{\bf y}_2)=({\bf x}_1,{\bf y_1})$
$(P^\ast({\bf x}_1+{\bf x}_2),{\bf y}_1+{\bf y}_2)=({\bf  x}_1+{\bf x}_2,P({\bf y}_1+{\bf y}_2))=({\bf  x}_1,P{\bf y}_1)=({\bf  x}_1,{\bf y}_1)$

よって、あらゆる ${\bf v}\in V$ に対して
$(P{\bf v},{\bf w})=(P^\ast{\bf v},{\bf w})$

がなりたつので、これは、$P=P^\ast$ を意味します.

宿題の第1問は難しいかもしれませんが、

要するに、部分空間同士が直交していることと、射影子同士の積が $0$ であることは同値であるということです.

つまり、$W\perp W'$ であるなら、その射影子 $P,P'$ に対して、
$V$ の任意の元を ${\bf v}={\bf x}_1+{\bf x}_2$ のように分けておいて、
$PP'{\bf v}=P{\bf x}_2=0$ となります.
逆も行います.


$A$ が正規行列であることから、あるユニタリー行列 $U$ によって、$U^{-1}AU$ が対角行列であることがわかります.このことを用いると、任意の正規行列は、

$$A=\lambda_1P_1+\cdots+\lambda_rP_r$$
と変形できます.
ヒントは、対角行列 $D$ を固有値ごとの和に分けられるよう工夫をしてください.

この和の式の意味は、$P_i$ は、ある固有値に付随する固有空間の成分を取り出す操作であり、その固有空間において $\lambda_i$ が $A$ の作用であるということになるのです.

成分を取り出して、再び和を取れば、元のベクトルにもどりますからそれを表した式が、
射影子の和が単位行列であるという

$$E=P_1+\cdots+P_r$$

となります.この式も、上の分解において、$\lambda_i=1$ とおいてやる式を考えれば、自然と出て来ます.

また、この射影子を使ってやると、行列の $n$ 乗や、指数関数など簡単に計算をすることができます.


符号

最後に行列の符号について行いました.
これは定義のみです.
$A$ を実対称行列とします.この時、上で書いたように、$A$ の固有値は全て実数です.ですので、固有値は、正の数か負の数か、$0$ です.その時、

$p$ を正の固有値の固有空間の次元の和(ここでは、固有多項式の正の根の重複度こみの和と一致)とし、

$q$ を負の固有値の固有空間の次元の和(同じように、固有多項式の負の根の重複度こみの和と一致)とします.


この時、$A$ の符号を
$(p,q)$ と書きます.$\text{sgn}(A)$ と書いたりします.

$0$ の固有値の数はここでは数えません.

$A$ が $n\times n$ 行列である時、
$\text{sgn}(A)=(n,0)$ のとき、行列 $A$ は正定値であるといい、$\text{sgn}(A)=(0,n)$ である時、行列 $A$ は負定値であるといいます.

また、$p-q$ のことを、符号数ということもあります.




微積分I演習(第7回)

[場所1E101(水曜日4限)]

今日は、
  • テイラー展開を用いた関数の極限と
  • べき級数展開
を行いました.

テイラー展開を用いた関数の極限

不定形の極限を求めるとき、これまでのようにやれば、ロピタルの定理を用いて計算できますが、今回は、関数の展開を用いて行う方法です.

簡単のため、$x\to 0$ の場合のみ行います.
$$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_mx^m+o(x^m)$$
$$g(x)=b_0+b_1x+b_2x^2+\cdots+b_mx^m+o(x^m)$$

のように展開できたとすると、

$\lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)}=\lim_{x\to 0}\frac{a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_mx^m+o(x^m)}{b_0+b_1x+b_2x^2+\cdots+b_mx^m+o(x^m)}$

となり、
$a_0=a_1=\cdots=a_{k-1}=0$ かつ、$a_k\neq 0$
$b_0=b_1=\cdots=b_{k-1}=0$ かつ、$b_k\neq 0$
であるなら、この極限は
$$\frac{a_k}{b_k}$$
となります.
このように、$f(x),g(x)$ の展開係数が $0$ でないものが現れる部分が同じでないと、$0$ でない値は取り出せません.

上の条件のかわりに、$k-1$ までの係数が全て  $0$ で、$a_k=0$ であり、$b_k\neq 0$ であるなら、関数は $0$ に収束しますし、
$a_k\neq 0$ であり、$b_k=0$ であるなら、関数の値は収束しません.

例の計算に関しては、授業でやった通りです。


べき級数展開

無限回微分可能関数を $C^\infty$ 級関数といいます.
一般に、$n$ 回微分可能であり、$n$ 回微分導関数 が連続であるとき、$C^n$ 級と言います.


テイラーの定理において、$f(x)$ が展開したとき、その剰余項 $R_{n+1}(x)$ が、各点 $x$ において収束するとき関数を解析的といいいます.

一般に、$C^\infty$ 級であっても、解析的とは限りません.

例えば、有名な例に、
$$f(x)=\begin{cases}e^{-\frac{1}{x}}&x\le 0\\0&x<0\end{cases}$$
があります.

この関数は、$x=0$ での任意の $n$ 回微分が $0$ ですが、恒等的に $0$ ではありません.
解析関数は、テイラー展開の主要項の極限によって関数が書けるはずなので、もし、この関数が解析的ならば、原点でのテイラー展開の主要項 $0$ の極限つまり、0 が関数となってしまいます.

しかし、各点で微分ができ、原点で、連続であることも示せます.

つまり、この関数は、テイラー展開をしたときの剰余項そのものの中に全て入ってしまっているのです.

一年生で扱う微積分では、解析的な関数を普通扱います.

しかし、解析的でない $C^\infty$ 級関数は多様体のような曲がった空間の上での微積分をするときに実は必要となります.それは、多様体の講義のときに習うでしょう.


剰余項が収束する議論を用いることで、

$$e^x=1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\cdots=\sum_{n=0}^\infty \frac{x^n}{n!}$$
$$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots =\sum_{m=0}^\infty (-1)^n\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}$$
$$\cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\cdots =\sum_{n=0}^\infty (-1)^n\frac{x^{2n}}{(2n)!}$$

がなりたち、次に重要な関数である、べき関数は、

$$(1+x)^\alpha=\sum_{n=0}^\infty \binom{\alpha}{n}x^n$$

が成り立ちます.2項係数は、
$$\binom{\alpha}{n}=\frac{\alpha(\alpha-1)+\cdots(\alpha-n+1)}{n!}$$
と定義されます.

なので、$\alpha$ が自然数のときは、普通の2項展開の式ですが、

それ以外の場合は、次のようになります.$\alpha$ が無理数の場合でもできますが、
その場合、上の公式以上に簡単にまとめられるわけではありませんので、

$\alpha$ が有理数の場合に行います.

$\alpha=\frac{1}{2}$ のときは、

$\binom{\frac{1}{2}}{n}=\frac{\frac{1}{2}(\frac{-1}{2})(\frac{-3}{2})\cdots (\frac{2n-3}{2})}{n!}=(-1)^{n-1}\frac{1\cdot 3\cdot 5\cdots(2n-3)}{2^nn!}=(-1)^{n-1}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}$

$\sqrt{1+x}=\sum_{n=0}^\infty(-1)^{n-1}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}x^n$

また、似たような級数展開として、

$\alpha=-\frac{1}{2}$ のときは、

$\binom{-\frac{1}{2}}{n}=\frac{\frac{-1}{2}(\frac{-3}{2})(\frac{-5}{2})\cdots (\frac{2n-1}{2})}{n!}=(-1)^{n}\frac{1\cdot 3\cdot 5\cdots(2n-1)}{2^nn!}=(-1)^{n}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}$

$\frac{1}{\sqrt{1+x}}=\sum_{n=0}^\infty(-1)^{n}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}x^n$

$(-1)!!$ の計算は、
$1\cdot(-1)!!=1!!=1$ なので、$(-1)!!=1$ となります.

ゆえに、微分をして、(さらに項別に微分をしてやることで)
$\sqrt{1+x}=(\sum_{n=0}^\infty(-1)^{n-1}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}x^n)'=\frac{1}{2}\sum_{n=1}^\infty(-1)^{n-1}\frac{(2n-3)!!}{(2n-2)!!}x^{n-1}$
$=\frac{1}{2}\sum_{n=0}^\infty(-1)^{n}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}x^{n}=\frac{1}{2}\frac{1}{\sqrt{1+x}}$

が成り立ち、項別微分に対して上手く行っていることがわかります.


有理関数のテイラー展開

まず、次のような分数関数は

$$\frac{1}{1-x}=\sum_{n=0}^\infty x^n$$
と展開されます.

また、$\frac{1}{a-x}$ なる関数の場合も、

$$\frac{1}{a}\frac{1}{1-\frac{x}{a}}=\frac{1}{a}\sum_{n=0}^\infty\left(\frac{x}{a}\right)^n=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{a^{n+1}}x^n$$
として展開されます.


また一般の分数関数 $\frac{1}{f(x)}$ の場合でも、
$f(x)$ を一次の積に分解して、$\frac{1}{f(x)}$ を $\frac{1}{a-x}$ の部分分数に分解します.
この操作は、この授業の後半で積分を計算するときによく出てきます.

例えば、

$\frac{1}{x^2-1}=\frac{1}{2}\left(\frac{1}{x-1}-\frac{1}{x+1}\right)$
としておくことで、$\frac{1}{a-x}$ の形に直すことができます.

また、実数の意味で一次の積に分解されなくても、
$\frac{1}{1+x^2}=\sum_{n=0}(-x^2)^n=\sum_{n=0}^\infty(-1)^nx^{2n}$

のようにすることはできます.
他にも、$f(x)=x^2+x+1$ としたときは

$$\frac{1}{1+x+x^2}=\sum_{n=0}^\infty (-x-x^2)^n=\sum_{n=0}^\infty (-x)^n(x+1)^n$$
$$=\sum_{n=0}^\infty\sum_{k=0}^n(-1)^n\binom{n}{k}x^{n+k}=\sum_{n=0}^\infty\sum_{k=0}^n(-1)^{n-k}\binom{n-k}{k}x^n$$

となります.このように、級数展開をしていけば、どんな場合でも同じように
行うことができます.ただ、式が複雑になると、展開係数もそれにつれて
複雑になっていきます.


しかし、上の場合はもう少しうまく処理すれば簡単に展開をすることができます.
実際、この関数は、$\frac{x-1}{x^3-1}$ と同じですから、
$$\frac{1}{1+x+x^2}=(1-x)\sum_{n=0}^\infty x^{3n}=\sum_{n=0}^\infty(x^{3n}-x^{3n+1})$$
つまり、$\frac{1}{1+x+x^2}=\sum_{n=0}^\infty a_nx^n$ とすると、
$$a_n=\begin{cases}1&n=0\bmod 3\\-1&n=1\bmod 3\\0&n=2\bmod 3\end{cases}$$
となります.また、上で書いたことから、次のような2項係数の関係式

$$\sum_{k=0}^{3n}(-1)^{3n-k}\binom{3n-k}{k}=1$$
$$\sum_{k=0}^{3n+1}(-1)^{3n+1-k}\binom{3n+1-k}{k}=-1$$
$$\sum_{k=0}^{3n+2}(-1)^{3n+2-k}\binom{3n+2-k}{k}=0$$

が成り立つということもわかります.

近似値の計算

関数の近似値の計算をテイラー展開などを用いると行うことができます.
例えば、$\sin \frac{1}{10}$ は、$\sin x$ の展開式
$$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\frac{x^9}{9!}+\cdots$$
を使います.この式の4項目くらいまで、$\frac{1}{10}$ を入れておけば、その誤差は、

$$|\frac{10^{-9}}{9!}-\frac{10^{-11}}{11!}\cdots|<\frac{10^{-9}}{9!}\sum_{i=0}^\infty10^{-2i}=\frac{10^{-9}}{9!}\frac{1}{1-\frac1{100}}$$
となり、$\frac{100}{9!\cdot 99}$ は $2.7\times 10^{-6}$ くらいですので、

この誤差は、$10^{-14}$ には少なくとも収まります.

$\frac{1}{10}$ を代入した値、$\sin\frac{1}{10}$ は大体、

$$\frac{1}{10}-\frac{1}{6000}-\frac{1}{12000000}+\frac{1}{50400000000}
$$
なので、大体
$0.099833416646825396825$

くらいとなります.実際の$\sin\frac{1}{10}$ の値を比べてみると、

$\sin\frac{1}{10}=0.099833416646828152307...$
となるので、確かに小数第14桁まで合っています.

2016年6月6日月曜日

線形代数続論演習(第6回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、
  • 計量同型と、
  • 固有値、固有ベクトル、対角化可能
について行いました.
どの話題も以前の復習なのですが、皆さんよく理解しているようでした.

計量同型

計量同型については、前回のブログ(リンク)に書きましたので、省略します.

計量同型について説明をしましたが、その同型の作り方まではあまり深く説明しませんでした.
今回の宿題にもなっています.
同型の作り方は、以前やりました.つまり、基底が両者にあって、基底を基底に移せば、同型写像が一つ作れることになります.しかし、ここでは、単なる同型写像の作り方ではなく、計量同型の作り方ですから、基底に付加的な条件をつけて同じように行えばよいことになります.

結論を言えば、2つのベクトル空間 $V,W$ に同じ数だけの正規直交ベクトル場あれば、正規直交ベクトルを正規直交ベクトルに一対一に移すなら、それは計量同型になります.

固有値、固有ベクトル、固有空間、対角化可能

これらについて一気にやりました.
一般のベクトル空間上の線形変換についても適当に基底を用いて、対応する表現行列に対して同じようにできますので、ここでは、行列の場合にやります.

行列 $A$ に対して、ある複素数 $\lambda$ と、ゼロベクトルでない、${\bf v}$ に対して、
$$A{\bf v}=\lambda{\bf v}$$
が成り立つとき、$\lambda$ を $A$ の固有値といい、${\bf v}$ のことを固有ベクトルといいます.
よって、この式を左辺に移すことで、
$$(\lambda E-A){\bf v}=0$$
となるので、これを連立一次方程式として考えれば、行列 $\lambda E -A$ は正則ではなくなります.これを式で表せば、$\det(\lambda E-A)=0$ となり、この左辺の多項式 $\Phi_A(t)$ を固有多項式といいます.
逆に、$\det(\lambda E-A)=0$ を満たす $\lambda$ は固有値の条件を満たし、つまり、固有値になります.よって、行列 $A$ の固有値は全て、
$$\det(\lambda E-A)=0$$
の解になっています.

また、$\lambda$ を固有値とすると、非自明なベクトル空間
$$V_\lambda=\{{\bf v}\in {\mathbb C}^n|(\lambda E-A){\bf v}=0\}$$
が作られ、この空間のことを固有空間というのでした.

また、その次元に関して、$\lambda$ を固有値としたとき、

$$0<\dim V_{\lambda}\le m_\lambda$$

が成り立ちます.ここで、$m_\lambda$ は、固有多項式の、$\lambda$ の重複度とします.
つまり、

$$\Phi_A(t)=\prod_{\lambda:\text{固有値}}(t-\lambda)^{m_\lambda}$$

が成り立ちます.

対角化可能条件

固有値を用いて、行列が対角化可能( $\overset{\text{def}}{\Leftrightarrow}\exists P$: 正則 かつ $P^{-1}AP$ が対角行列)かどうかを判定をすることができます.
対角化可能な行列のことを、半単純ともいいます.スカラー行列のことを単純行列といいます.


定理(対角化可能性判定1)
$n\times n$ 正方行列 $A$ が対角化可能であるための必要十分条件は、
$$\sum_{\lambda:\text{固有値 }}\dim V_{\lambda}=n$$
となることである.


この定理を使うことで、行列が対角化可能であるかを判定できます.
この条件は、行列 $A$ の任意の固有値 $\lambda$ に対して、$\dim V_{\lambda}=m_\lambda$
が成り立っていることとも同値です.
さらに、この条件は、ベクトル空間の基底として、固有ベクトルを選ぶことができることと同値です.つまり、


定理(対角化可能性判定2)
$n\times n$ 正方行列 $A$ が対角化可能であるための必要十分条件は、${\mathbb C}^n$ の基底  ${\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n$ で、$A{\bf v}_i=\lambda_i{\bf v}_i$ となるようなものが存在する.


勿論判定可能な条件としては、1の方が優れています.
判定条件2を踏まえれば、
$P=({\bf v}_1\cdots{\bf v}_n)$ として、基底を並べてやると、
$P^{-1}AP=\text{drag}(\lambda_1,\cdots,\lambda_n)$
となります.この $\text{drag}(\lambda_1,\cdots,\lambda_n)$ は、$(i,i)$ 成分が $\lambda_i$ となるような対角行列のことです.

微積分I演習(第6回)

[場所1E101(水曜日4限)]
今日は、 
  • テイラー展開と
  • ランダウの記号の演習を行いました。
テイラー展開


定理18(テイラー)
n 回微分可能関数 $f(x)$ は、$x=a$ において、
$f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^{n}+o((x-a)^{n})$
となる.

この定理は、任意の $n$回微分可能間関数が、ある多項式と、$o((x-a)^n)$ (授業では、すごく小さくなる部分とした)に分解できることを示しています.

ランダウの記号のところを
もう一度説明すると、

$o((x-a)^n)$ は、$x=a$ において(絶対値)が小さくなる関数であるが、 その小さくなり方が、$(x-a)^n$ よりも小さくなるということです.式で書けば、$o((x-a)^n)$ の部分を $g(x)$でかけば、


$f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\cdots \frac{f^{(n-1)}(a)}{(n-1)!}(x-a)^{n}+g(x)$

であり、

$$\lim_{x\to a}\frac{g(x)}{(x-a)^n}=0$$

となります.

また、$o((x-a)^n)$ の部分は剰余項とよばれ、$f(x)$ の式できちんと書くこともできます.
剰余項の以外の多項式の部分をここでは主要項と呼ぶことにします.

演習でもやりましたが、主要項を求めるとき、ランダウの記号の以下の性質を使うと便利です.
  • $\alpha\neq 0$なる実数の時、$\alpha o(x^n)=o(x^n)$
  • $x^mo(x^n)=o(x^{n+m})$  ($n\ge 0$, $-n<m$)
  • $o(x^m)o(x^n)=o(x^{n+m})$  ($n,m\ge 0$)
  • $m\le n$ならば、$o(x^m)+o(x^n)=o(x^m)$
例1
$e^x\sin x$ の5 次までの主要項を求めるには、


$e^x=1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+o(x^4)$

と、

$\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+o(x^5)$ を使って、


$e^x\sin x=\left(1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+o(x^4)\right)\left(x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+o(x^5)\right)$


となり、これを展開します.
ここで、
$o(x^4)$ に $x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+o(x^5)$ を掛けたものは
上の公式から、全て $o(x^5)$ にまとめられます.
なぜなら、$x^m$ で、$m\ge 1$ であるとすると、$x^mo(x^4)=o(x^{m+4})$ であり、(上の
公式の2つ目の式から)それらの和を取ると、その指数の最小でまとめられるので、
$o(x^5)$ になるからです.
同様に、
$o(x^5)$ に $1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+o(x^4)$ を掛けたものは、
$o(x^5)$ に全てまとめられます.
よって、この積は、
$$e^x\sin x=\left(1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}\right)\left(x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}\right)+o(x^5)$$
となります.この中で、$x^6$ 以上の項を全て $o(x^5)$ に吸収させてやると(式としては、そのまま消してやればよい)、
$$e^x\sin x=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}+x^2-\frac{x^4}{3!}+\frac{x^3}{2}-\frac{x^5}{2\cdot 3!}+\frac{x^4}{3!}+o(x^5)$$
$$=x+x^2+\frac{x^3}{3}-\frac{x^5}{30}+o(x^5)$$
例2

また、$e^{\cos x}$ のように他の関数の合成になっている場合も、
4次の項くらいまで求めるとすると、

$f(x)=e^x$ として、$f^{(n)}(1)=e$なので、

$$e^x=e+e(x-1)+\frac{e(x-1)^2}{2!}+o((x-1)^2)\ \ (x\to 1)$$
と、
$$\cos x=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}+o(x^4)$$
と展開しておいて、代入して、$x\to 1$ を $x\to 0$ に直すと、

$e^{\cos x}=e+e(\cos x-1)+\frac{e(\cos x-1)^2}{2}+o((\cos x-1)^2)\ \ (x\to 0)$

$$\frac{o((\cos x-1)^2)}{x^4}=\frac{o((\cos x-1)^2)}{(\cos x-1)^2}\frac{(\cos x-1)^2}{x^4}$$

となりますが、$\frac{(\cos x-1)^2}{x^4}=\left(\frac{\cos x-1}{x^2}\right)^2$ なので、
$\lim_{x\to 0}\frac{\cos x -1}{x^2}=\lim_{x\to 0}\frac{-\sin x}{2x}=-\frac{1}{2}$
より、
$\lim_{x\to 0}\frac{(\cos x-1)^2}{x^4}=\left(-\frac{1}{2}\right)^2=\frac{1}{4}$

よって、

$$\frac{o((\cos x-1)^2)}{x^4}=0\cdot \frac{1}{4}=0$$

となり、
$o((\cos x-1)^2)=o(x^4)$ となります.

このことから、

$e^{\cos x}=e+e(-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}+o(x^4))+\frac{e}{2}\left(-\frac{x^2}{2!}+o(x^4)\right)^2+\frac{x^4}{4!}+o(x^4)\ \ (x\to 0)$
$=e-\frac{e}{2}x^2+\frac{e}{6}x^4+o(x^4)$

と計算できます.


べき関数のテイラー展開

他に知っておくべく展開は、$(1+x)^{\alpha}$ の展開です..


この展開も、$n$ 回微分を計算すればよいですが、以下のようになります.

$$(1+x)^\alpha=\sum_{k=0}^n\binom{\alpha}{k}x^k+o(x^n)$$

ここで、$\binom{\alpha}{n}=\frac{\alpha(\alpha-1)\cdots(\alpha-n+1)}{n!}$
と定義します.

$\alpha$ が自然数のときは、普通の2項定理ですが、
そうでないときも、この式は有効です.

例3

$\alpha=-1$ の場合、

$\binom{-1}{n}=\frac{(-1)(-2)\cdots(-n)}{n!}=\frac{(-1)^nn!}{n!}=(-1)^n$


となり、
$(1+x)^{-1}=\sum_{k=0}^n(-1)^kx^k+o(x^n)=\sum_{k=0}^n(-x)^k+o(x^n)$

となります.


例4

$\alpha=\frac{1}{2}$ の場合、

$\binom{\frac{1}{2}}{n}=\frac{(\frac{1}{2})(-\frac{1}{2})\cdots(-\frac{2n-3}{2})}{n!}=\frac{(-1)^{n-1}(2n-3)!!}{2^nn!}=(-1)^{n-1}\frac{(2n-3)!!}{(2n)!!}$


となります.この2重階乗の意味は授業で話したとおり.

よって、

$(1+x)^{\frac{1}{2}}=\sum_{k=0}^n(-1)^{k-1}\frac{(2k-3)!!}{(2k)!!}x^k+o(x^n)$

となります.
ここで、2重階乗の定義から、$n\cdot (n-2)!!=n!!$ なので、
$2\cdot 0!!=2!!=2$ より、$0!!=1$
$1\cdot (-1)!!=1!!=1$ より、$(-1)!!=1$
$(-1)\cdot (-3)!!=(-1)!!=1$ より、$(-3)!!=-1$
となります.よって、$\sqrt{1+x}$ の主要項は、
$$1+\frac{1}{2}x-\frac{x^3}{8}+\frac{x^3}{16}+o(x^3)$$
となります.

剰余項

剰余項とは、テイラー展開をしたときの、主要項を除いた余りの部分、つまり、$o((x-a)^n)$ の
部分のことをいいます. 
その部分を $R_{n+1}(x)$ とすると、$R_{n+1}(x)$ は、
$f$ が $n+1$ 回微分可能であれば、
$$R_{n+1}(x)=\frac{f^{(n+1)}(a+\theta(x-a))}{(n+1)!}(x-a)^{n+1}$$
とかけます.

ここで、$\theta$ は $0<\theta<1$ なる実数であり、定数ですが、$n,x,a$ に依存した定数ということに注意しておきます.