[場所1E103(金曜日3限)]
HPに行く.
今日は、
環は、掛け算と足し算の両方の2項演算を持ち、群や体などのように、
ある規則を満たす代数系です.
環には割り算はありませんが、結合性と、分配性(分配法則のこと)が成り立ちます.
足し算に関しては可換性が成り立ちますが、掛け算に関しては可換性は要求しません.掛け算に関して可換性を要求するものは可換環と言います.
また、環は足し算に関して加法群となります.
詳しくは、プリントを見てください.
だいたいは、整数の性質を一般化した代数系と考えてください.整数には、足し算と掛け算はありますが、割り算は整数の中で答えを出すことはできませんね.
ちなみに体は、実数や複素数を一般化した代数系です.
例
整数全体は環になり、偶数全体は、掛け算の単位元はありませんが、環という場合もあります.
他の環の例として、多項式環があります.多項式全体のなす集合は、ベクトル空間としての加法群の性質以外に、多項式同士を掛け算をするという環の掛け算としての構造もあります.
行列全体も環になり、行列環と呼ばれます.行列環は非可換環の代表例といえるでしょう.
HPに行く.
今日は、
- 単因子論を用いたジョルダン標準形の求め方
でした.ただ、単因子論を真面目にやったわけではなく、単因子論からの帰結で、
このような計算をすれば、ジョルダン標準形がわかるというやり方でした.
単因子論の準備のために、いろいろと必要なことが多いですので、
いちいち説明をすることはできませんでした.
ここでは、もう少し説明をしてみます.
環上の加群
群というのは、結合法則を満たし、逆元と単位元を持つ、演算に関して閉じた代数系のことを言います.また、加群というのは、可換性 $a\cdot b=b\cdot a$ を持つ群のことで、その時、群の演算を積ではなく、加法 $+$ によって書きます.ベクトル空間も一種の加群と考えられます.
環
環上の加群
群というのは、結合法則を満たし、逆元と単位元を持つ、演算に関して閉じた代数系のことを言います.また、加群というのは、可換性 $a\cdot b=b\cdot a$ を持つ群のことで、その時、群の演算を積ではなく、加法 $+$ によって書きます.ベクトル空間も一種の加群と考えられます.
環
環は、掛け算と足し算の両方の2項演算を持ち、群や体などのように、
ある規則を満たす代数系です.
環には割り算はありませんが、結合性と、分配性(分配法則のこと)が成り立ちます.
足し算に関しては可換性が成り立ちますが、掛け算に関しては可換性は要求しません.掛け算に関して可換性を要求するものは可換環と言います.
また、足し算の単位元である、0元は存在し、掛け算の単位元の1は、
含める場合もあれば含めない場合もあります.また、環は足し算に関して加法群となります.
詳しくは、プリントを見てください.
だいたいは、整数の性質を一般化した代数系と考えてください.整数には、足し算と掛け算はありますが、割り算は整数の中で答えを出すことはできませんね.
ちなみに体は、実数や複素数を一般化した代数系です.
例
整数全体は環になり、偶数全体は、掛け算の単位元はありませんが、環という場合もあります.
他の環の例として、多項式環があります.多項式全体のなす集合は、ベクトル空間としての加法群の性質以外に、多項式同士を掛け算をするという環の掛け算としての構造もあります.
行列全体も環になり、行列環と呼ばれます.行列環は非可換環の代表例といえるでしょう.
割り算ができる環のことを体と言います.ただし、$0$ での割り算ができると考えると、すべての元が $0$ となってしまいますので、$0$ での割り算はできないようにします.
なので、体の公理に割り算は $0$ 以外でのみできるとなっているのです.
$0$ でわり算ができるなら、すべての元が $0$ になることの証明
$0$ に逆元が存在するとすると、その逆元を $y$ とすると、
$0\cdot y=1$ となる.一方任意の元に $0$ をかけると、$0$ となる.
なぜなら、$0\cdot x=(0+0)\cdot x=0\cdot x+0\cdot x$ よって、$0\cdot x=0$
ここで、加群に環が線形に作用している場合を考えます.これを環上の加群といます.
環が $R$ ならば、$R$-加群とも言います.
つまり、環 $R$ の任意の元 $r$ と、加群 $M$ の任意の元 $x$ に対して、
$R$-作用の線型性から、環 $R$ の任意の元 $r$ と、加群 $M$ の任意の元 $x,y$ に対して、
$$r\cdot(x+y)=r\cdot x+r\cdot y$$
なる性質です.$R$ が体でなければ、ベクトル空間のように $M$ にはスカラー倍作用がありません.もちろん整数作用はあります.
作用であるという性質から、
$$(r\cdot s)\cdot x=r\cdot (s\cdot x)$$
も成り立ちます.
そろそろ本題に入ります.
ある行列からつくられるある多項式加群
$A$ を正方行列とします.$R={\mathbb C}[T]$ を多項式環とします.
目標は、この正方行列がベクトル空間 $V={\mathbb C}^n$ 上にどのように作用するかということを、$V$ 上の $R$-加群の構造を求めることで決定することです.
この話は、下にあげた参考文献が元になっています.
この環はベクトル空間 $V={\mathbb C}^n$ に行列の左からの積として次のように作用しています.$T$ を多項式の変数とすると、
$$T\cdot{\bf v}:=A{\bf v}$$
なる作用を考えます.${\mathbb C}[T]$ 全体が線形な作用として、
$$(a_0T^m+a_1T^{m-1}+\cdots+a_m)\cdot {\bf v}\mapsto (a_0A^m+a_1A^{m-1}+\cdots+a_mE){\bf v}$$
として拡張します.つまり、$A$ の作用を詳しく調べる代わりに、 $a_0T^m+a_1T^{m-1}+\cdots+a_m$ のような形のもの全体がどのように作用しているのかを調べることで、$A$ の作用の仕方を調べるという見方です.
よって、$V$ は 多項式加群の構造を持ちました.
もう一度やりたいことを言うと、この $R$ 加群の構造を調べることは、行列 $A$ の線形変換としての構造を調べることに一致します.つまり
座標変換の行列を $P$ とすれば、行列の表現行列は
$$A\to P^{-1}AP$$
と移り、このような行列の変形では、$A$ を同じものとみなした分類と思っても
構いません.一次変換の分類とはジョルダン標準形の分類のことだったので、ベクトル空間上の、行列から作られる多項式加群とは、ジョルダン標準形を求めることと同値だといえます.
ここで一注
正方行列 $A$ があったとすると、$A$ から $R'=\{a_0A^m+a_1A^{m-1}+\cdots+a_mE|a_i\in {\mathbb C}\}$ なる可換環を考えます.
行列全体は非可換ですが、この集合では、多項式と同じ可換性が成り立ちます.
ただし、関係式(ケーリーハミルトンの公式)がありますので、$R'$ は多項式全体の集合 $R$ とは違います.
この環 $R'$ は、(単項イデアル整域であり)多項式環 $R$ を関係式で割った形をしています.その関係式とは、$f(T)R$ のような関係式です.
つまり、環として、$R'=R/f(T)R$ のような商空間の構造を持っています.
実際この $f(T)$ は行列の最小多項式です.
ここで思うのは、行列のベクトル空間への作用をわざわざ考えなくても、この環$R'$ の構造を調べれば済むのではないか?
ということです.
しかし、上で述べた通り、$R'$ にはせいぜい行列の最小多項式の性質しか持っていません.線形代数続論を学んだ人なら、最小多項式が同じでも、行列が一次変換として
違うものが存在するということは知っていると思います.
例えば、固有値が一つしかない行列を考えます.4次元でジョルダンブロックの次元が、(2,1,1) のものと、(2,2) のものは、最小多項式は、どちらも同じ $(t-\lambda)^2$ ですが、
線形変換としては違うものになってしまっています.
ジョルダンブロックの構造違うのだから、行列として、いくら共役 $X\mapsto P^{-1}XP$ を取ってみても移りあったりしません.つまり、線形変換として違うということです.
なので、$R$-加群の構造は、$R'$ そのものより深い情報を含んでいることになります.
また、単項イデアル整域 $R$ の一般論として、有限生成 $R$-加群は、
$R$ と同型な加群と、$f(T)$ をある多項式としたときに、$R/f(T)R$ なる加群の幾つかの直和に同型です.つまり、$R$-加群を $M$ とすれば、
$$M\cong R^r\oplus R/f_1(T)R \oplus \cdots\oplus R/f_r(T)R$$
となります.
(単項イデアル整域が何かとかはここではやりません.詳しくは、下の参考文献を見てください.)
$R^r$ を free part と言い、$R/f_1(T)R \oplus \cdots\oplus R/f_r(T)R$ の部分を torsion part と言います.
今、$V$ は、有限次元 ${\mathbb C}$ ベクトル空間なので、$r=0$ でなければなりません.
よって、torsion partのみを考えれば済むことになります.
$V$ に対して、次のような写像が作ることができます.
$$R^n\overset{\psi}{\to} R^n\overset{\varphi}{\to} V$$
使いたいことは、環の準同型定理です.
定理(環の準同型定理)
環の全射準同型
$$G:R_1\to R_2$$
があったとすると、環同型写像 $R_1/\text{Ker}{(G)}\cong R_2$ が存在する.
ベクトル空間のときの準同型定理は、ベクトル空間として同型な空間が得られました.ベクトル空間の同型類はその次元でしか特徴がありませんが、環の準同型定理は、環の構造込みで同型写像が得られるのです.
上の写像で、$\varphi$ は、$\varphi:(F_1(T),F_2(T),\cdots F_n(T))\mapsto F_1(T)e_1+F_2(T)e_2+\cdots+F_n(T)e_n$ とします.そのとき、この写像 $\varphi$ は全射写像となります.ここで、$e_i$ は${\mathbb C}^n$ の標準基底です.
しかし、この写像には $\text{Ker}$ が存在します.つまり関係式です.
$\text{Ker}$ は、$\psi$ の Im で特徴づけられており、それは、
$$\psi=T\cdot E-A$$
となります.$E$ は単位行列です.この全ての Im が $\varphi$ の Ker であることは ${\bf v}\in V$ とすると、
$(T\cdot E-A){\bf v}=T\cdot {\bf v}-A{\bf v}=A{\bf v}-A{\bf v}=0$ となるのですぐわかります.
逆は証明がいります.
なので、$R^n\to R^n$ の $R$ を成分とする $n\times n$ 行列の Im を決定すればよいことになります.Im がどのような集合になるかということは、再び線形代数ということになります.
やることは、環 $R$ を係数とする行列上の基本変形ということで、いつもより、少し手間ですが、やることは同じです.
環 $R$ 上の基本変形は、あるベクトルに、他のベクトルの何倍かを足したり、引いたりすることは許されますが、$R$ の元で割ったりすことはできません.体 ${\mathbb C}$ の元で割ることは許されます.
例
例えば、ジョルダンブロックが、(2,2) であるような
$$A=\left(
\begin{array}{cccc}
2 & -4 & -1 & -3 \\
-1 & 3 & -1 & 1 \\
-1 & 3 & 1 & 2 \\
2 & -5 & 1 & -2 \\
\end{array}
\right)$$
で計算してみます.
とすると、
$$T\cdot E-A=\left(
\begin{array}{cccc}
T-2 & 4 & 1 & 3 \\
1 & T-3 & 1 & -1 \\
1 & -3 & T-1 & -2 \\
-2 & 5 & -1 & T+2 \\
\end{array}
\right)$$
となり、この行列を、1 列目、1行目に沿って基本変形して簡単にすると、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & -T^2+5 T-2 & 3-T & T+1 \\
0 & -T & T-2 & -1 \\
0 & 2 T-1 & 1 & T \\
\end{array}
\right)$$
となります.さらに、2列目と2行目に沿って基本変形をしてやると、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & -(T-1)^2 & 0 \\
0 & 0 & -2 (T-1)^2 & -(T-1)^2 \\
\end{array}
\right)$$
となります.ここで、$(T-1)^2$ で割りたくなりますが、割ってはいけません.
最後に、(4,3) 成分を払って、3, 4 成分目を $-1$ 倍してやると、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & (T-1)^2 & 0 \\
0 & 0 & 0 & (T-1)^2 \\
\end{array}
\right)$$
となります.よって、$V$ の加群としての構造は、
$$R/(T-1)^2R\oplus R/(T-1)^2R\hspace{1cm}(\ast)$$
となります.
ここで現れた、$R/(T-\lambda)^\alpha R$ の分だけ、$A$ のジョルダンブロックに ジョルダン細胞 $J_\alpha(\lambda)$ が作れます.
この場合は、最初に予告したように、ジョルダン標準形は、
$$\left(\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
0 & 1 \\
\end{array}
\right)$$
の2つ直和になります.
ちなみに、このように順番に1列目、1行目から基本変形をしたとき、最後の (4,4) 成分に現れる多項式は、$A$ の最小多項式になリます.
ジョルダンブロックが、(2,1,1) の例として、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
2 & -1 & 2 & 0 \\
-1 & 2 & -2 & 0 \\
-1 & 1 & -1 & 0 \\
2 & -2 & 4 & 1 \\
\end{array}
\right)$$
を挙げておきます.この場合、同じように基本変形をすることで、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & T-1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & T-1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & (T-1)^2 \\
\end{array}
\right)$$
が表れるはずです.演習問題として残しておきます.
そのとき、(4,4) 成分は同じ、$(T-1)^2$ ですが、加群としては、
$$R/(T-1)R\oplus R/(T-1)R\oplus R/(T-1)^2R\hspace{1cm}(\ast\ast)$$
となり、$(\ast)$ と $(\ast\ast)$ は加群として同型にはなりません.
参考文献
なので、体の公理に割り算は $0$ 以外でのみできるとなっているのです.
$0$ でわり算ができるなら、すべての元が $0$ になることの証明
$0$ に逆元が存在するとすると、その逆元を $y$ とすると、
$0\cdot y=1$ となる.一方任意の元に $0$ をかけると、$0$ となる.
なぜなら、$0\cdot x=(0+0)\cdot x=0\cdot x+0\cdot x$ よって、$0\cdot x=0$
よって、$0\cdot y=1=0$ となる.この式に、任意の $x$ をかけることで、$x=0$
が成り立つ. $\Box$
ここで、加群に環が線形に作用している場合を考えます.これを環上の加群といます.
環が $R$ ならば、$R$-加群とも言います.
つまり、環 $R$ の任意の元 $r$ と、加群 $M$ の任意の元 $x$ に対して、
$$M\ni x\mapsto r\cdot x\in M$$
なる作用があります.
加群には本来備わっている、${\mathbb Z}$ 上の加群の構造があります.
整数 $n$ に対して、整数の作用 $n\cdot x$ を
$$n\cdot x=x+x+\cdots +x\ \ \ \ (\text{$n$ この和})$$
として定義すれば良いのです.なので、すべての加群は ${\mathbb Z}$-加群です.
環 $R$ が体のとき、これは線形代数で出てくるベクトル空間のことです.
ここでは、一般に、環 $R$ が作用している状況を捉えます.
$$r\cdot(x+y)=r\cdot x+r\cdot y$$
なる性質です.$R$ が体でなければ、ベクトル空間のように $M$ にはスカラー倍作用がありません.もちろん整数作用はあります.
作用であるという性質から、
$$(r\cdot s)\cdot x=r\cdot (s\cdot x)$$
も成り立ちます.
そろそろ本題に入ります.
ある行列からつくられるある多項式加群
$A$ を正方行列とします.$R={\mathbb C}[T]$ を多項式環とします.
目標は、この正方行列がベクトル空間 $V={\mathbb C}^n$ 上にどのように作用するかということを、$V$ 上の $R$-加群の構造を求めることで決定することです.
この話は、下にあげた参考文献が元になっています.
この環はベクトル空間 $V={\mathbb C}^n$ に行列の左からの積として次のように作用しています.$T$ を多項式の変数とすると、
$$T\cdot{\bf v}:=A{\bf v}$$
なる作用を考えます.${\mathbb C}[T]$ 全体が線形な作用として、
$$(a_0T^m+a_1T^{m-1}+\cdots+a_m)\cdot {\bf v}\mapsto (a_0A^m+a_1A^{m-1}+\cdots+a_mE){\bf v}$$
よって、$V$ は 多項式加群の構造を持ちました.
もう一度やりたいことを言うと、この $R$ 加群の構造を調べることは、行列 $A$ の線形変換としての構造を調べることに一致します.つまり
$V$ 上の一次変換の分類$\iff$ $V$ 上の $R$ 加群の構造の分類
なのです.
この分類という意味は、座標軸をどこに取るかということを加味しないということです.座標変換の行列を $P$ とすれば、行列の表現行列は
$$A\to P^{-1}AP$$
と移り、このような行列の変形では、$A$ を同じものとみなした分類と思っても
構いません.一次変換の分類とはジョルダン標準形の分類のことだったので、ベクトル空間上の、行列から作られる多項式加群とは、ジョルダン標準形を求めることと同値だといえます.
正方行列 $A$ があったとすると、$A$ から $R'=\{a_0A^m+a_1A^{m-1}+\cdots+a_mE|a_i\in {\mathbb C}\}$ なる可換環を考えます.
行列全体は非可換ですが、この集合では、多項式と同じ可換性が成り立ちます.
ただし、関係式(ケーリーハミルトンの公式)がありますので、$R'$ は多項式全体の集合 $R$ とは違います.
この環 $R'$ は、(単項イデアル整域であり)多項式環 $R$ を関係式で割った形をしています.その関係式とは、$f(T)R$ のような関係式です.
つまり、環として、$R'=R/f(T)R$ のような商空間の構造を持っています.
実際この $f(T)$ は行列の最小多項式です.
ここで思うのは、行列のベクトル空間への作用をわざわざ考えなくても、この環$R'$ の構造を調べれば済むのではないか?
ということです.
しかし、上で述べた通り、$R'$ にはせいぜい行列の最小多項式の性質しか持っていません.線形代数続論を学んだ人なら、最小多項式が同じでも、行列が一次変換として
違うものが存在するということは知っていると思います.
例えば、固有値が一つしかない行列を考えます.4次元でジョルダンブロックの次元が、(2,1,1) のものと、(2,2) のものは、最小多項式は、どちらも同じ $(t-\lambda)^2$ ですが、
線形変換としては違うものになってしまっています.
ジョルダンブロックの構造違うのだから、行列として、いくら共役 $X\mapsto P^{-1}XP$ を取ってみても移りあったりしません.つまり、線形変換として違うということです.
なので、$R$-加群の構造は、$R'$ そのものより深い情報を含んでいることになります.
また、単項イデアル整域 $R$ の一般論として、有限生成 $R$-加群は、
$R$ と同型な加群と、$f(T)$ をある多項式としたときに、$R/f(T)R$ なる加群の幾つかの直和に同型です.つまり、$R$-加群を $M$ とすれば、
$$M\cong R^r\oplus R/f_1(T)R \oplus \cdots\oplus R/f_r(T)R$$
となります.
(単項イデアル整域が何かとかはここではやりません.詳しくは、下の参考文献を見てください.)
$R^r$ を free part と言い、$R/f_1(T)R \oplus \cdots\oplus R/f_r(T)R$ の部分を torsion part と言います.
今、$V$ は、有限次元 ${\mathbb C}$ ベクトル空間なので、$r=0$ でなければなりません.
よって、torsion partのみを考えれば済むことになります.
$V$ に対して、次のような写像が作ることができます.
$$R^n\overset{\psi}{\to} R^n\overset{\varphi}{\to} V$$
使いたいことは、環の準同型定理です.
定理(環の準同型定理)
環の全射準同型
$$G:R_1\to R_2$$
があったとすると、環同型写像 $R_1/\text{Ker}{(G)}\cong R_2$ が存在する.
ベクトル空間のときの準同型定理は、ベクトル空間として同型な空間が得られました.ベクトル空間の同型類はその次元でしか特徴がありませんが、環の準同型定理は、環の構造込みで同型写像が得られるのです.
上の写像で、$\varphi$ は、$\varphi:(F_1(T),F_2(T),\cdots F_n(T))\mapsto F_1(T)e_1+F_2(T)e_2+\cdots+F_n(T)e_n$ とします.そのとき、この写像 $\varphi$ は全射写像となります.ここで、$e_i$ は${\mathbb C}^n$ の標準基底です.
しかし、この写像には $\text{Ker}$ が存在します.つまり関係式です.
$\text{Ker}$ は、$\psi$ の Im で特徴づけられており、それは、
$$\psi=T\cdot E-A$$
となります.$E$ は単位行列です.この全ての Im が $\varphi$ の Ker であることは ${\bf v}\in V$ とすると、
$(T\cdot E-A){\bf v}=T\cdot {\bf v}-A{\bf v}=A{\bf v}-A{\bf v}=0$ となるのですぐわかります.
逆は証明がいります.
なので、$R^n\to R^n$ の $R$ を成分とする $n\times n$ 行列の Im を決定すればよいことになります.Im がどのような集合になるかということは、再び線形代数ということになります.
やることは、環 $R$ を係数とする行列上の基本変形ということで、いつもより、少し手間ですが、やることは同じです.
環 $R$ 上の基本変形は、あるベクトルに、他のベクトルの何倍かを足したり、引いたりすることは許されますが、$R$ の元で割ったりすことはできません.体 ${\mathbb C}$ の元で割ることは許されます.
例
例えば、ジョルダンブロックが、(2,2) であるような
$$A=\left(
\begin{array}{cccc}
2 & -4 & -1 & -3 \\
-1 & 3 & -1 & 1 \\
-1 & 3 & 1 & 2 \\
2 & -5 & 1 & -2 \\
\end{array}
\right)$$
で計算してみます.
とすると、
$$T\cdot E-A=\left(
\begin{array}{cccc}
T-2 & 4 & 1 & 3 \\
1 & T-3 & 1 & -1 \\
1 & -3 & T-1 & -2 \\
-2 & 5 & -1 & T+2 \\
\end{array}
\right)$$
となり、この行列を、1 列目、1行目に沿って基本変形して簡単にすると、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & -T^2+5 T-2 & 3-T & T+1 \\
0 & -T & T-2 & -1 \\
0 & 2 T-1 & 1 & T \\
\end{array}
\right)$$
となります.さらに、2列目と2行目に沿って基本変形をしてやると、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & -(T-1)^2 & 0 \\
0 & 0 & -2 (T-1)^2 & -(T-1)^2 \\
\end{array}
\right)$$
となります.ここで、$(T-1)^2$ で割りたくなりますが、割ってはいけません.
最後に、(4,3) 成分を払って、3, 4 成分目を $-1$ 倍してやると、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & (T-1)^2 & 0 \\
0 & 0 & 0 & (T-1)^2 \\
\end{array}
\right)$$
となります.よって、$V$ の加群としての構造は、
$$R/(T-1)^2R\oplus R/(T-1)^2R\hspace{1cm}(\ast)$$
となります.
ここで現れた、$R/(T-\lambda)^\alpha R$ の分だけ、$A$ のジョルダンブロックに ジョルダン細胞 $J_\alpha(\lambda)$ が作れます.
この場合は、最初に予告したように、ジョルダン標準形は、
$$\left(\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
0 & 1 \\
\end{array}
\right)$$
の2つ直和になります.
ちなみに、このように順番に1列目、1行目から基本変形をしたとき、最後の (4,4) 成分に現れる多項式は、$A$ の最小多項式になリます.
ジョルダンブロックが、(2,1,1) の例として、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
2 & -1 & 2 & 0 \\
-1 & 2 & -2 & 0 \\
-1 & 1 & -1 & 0 \\
2 & -2 & 4 & 1 \\
\end{array}
\right)$$
を挙げておきます.この場合、同じように基本変形をすることで、
$$\left(
\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & T-1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & T-1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & (T-1)^2 \\
\end{array}
\right)$$
が表れるはずです.演習問題として残しておきます.
そのとき、(4,4) 成分は同じ、$(T-1)^2$ ですが、加群としては、
$$R/(T-1)R\oplus R/(T-1)R\oplus R/(T-1)^2R\hspace{1cm}(\ast\ast)$$
となり、$(\ast)$ と $(\ast\ast)$ は加群として同型にはなりません.
参考文献
- 加群十話(代数学入門), 堀田良之 著(朝倉書店すうがくぶっくす)