Loading [MathJax]/extensions/TeX/mathchoice.js

2016年7月28日木曜日

線形代数続論演習(第13回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、

  • 単因子論を用いたジョルダン標準形の求め方
でした.ただ、単因子論を真面目にやったわけではなく、単因子論からの帰結で、
このような計算をすれば、ジョルダン標準形がわかるというやり方でした.

単因子論の準備のために、いろいろと必要なことが多いですので、
いちいち説明をすることはできませんでした.

ここでは、もう少し説明をしてみます.

環上の加群
というのは、結合法則を満たし、逆元と単位元を持つ、演算に関して閉じた代数系のことを言います.また、加群というのは、可換性 a\cdot b=b\cdot a を持つ群のことで、その時、群の演算を積ではなく、加法 + によって書きます.ベクトル空間も一種の加群と考えられます.



は、掛け算と足し算の両方の2項演算を持ち、群や体などのように、
ある規則を満たす代数系です.

環には割り算はありませんが、結合性と、分配性(分配法則のこと)が成り立ちます.
足し算に関しては可換性が成り立ちますが、掛け算に関しては可換性は要求しません.掛け算に関して可換性を要求するものは可換環と言います.
また、足し算の単位元である、0元は存在し、掛け算の単位元の1は、
含める場合もあれば含めない場合もあります.
また、環は足し算に関して加法群となります.

詳しくは、プリントを見てください.

だいたいは、整数の性質を一般化した代数系と考えてください.整数には、足し算と掛け算はありますが、割り算は整数の中で答えを出すことはできませんね.
ちなみに体は、実数や複素数を一般化した代数系です.




整数全体は環になり、偶数全体は、掛け算の単位元はありませんが、環という場合もあります.
他の環の例として、多項式環があります.多項式全体のなす集合は、ベクトル空間としての加法群の性質以外に、多項式同士を掛け算をするという環の掛け算としての構造もあります.
行列全体も環になり、行列環と呼ばれます.行列環は非可換環の代表例といえるでしょう.

割り算ができる環のことを体と言います.ただし、0 での割り算ができると考えると、すべての元が  0 となってしまいますので、0 での割り算はできないようにします.
なので、体の公理に割り算は 0 以外でのみできるとなっているのです.


0 でわり算ができるなら、すべての元が 0 になることの証明
0 に逆元が存在するとすると、その逆元を y とすると、
0\cdot y=1 となる.一方任意の元に 0 をかけると、0 となる.
なぜなら、0\cdot x=(0+0)\cdot x=0\cdot x+0\cdot x よって、0\cdot x=0

よって、0\cdot y=1=0 となる.この式に、任意の x をかけることで、x=0
が成り立つ.             \Box

ここで、加群に環が線形に作用している場合を考えます.これを環上の加群といます.
環が R ならば、R-加群とも言います.
つまり、環 R の任意の元 r と、加群 M の任意の元 x に対して、
M\ni x\mapsto r\cdot x\in M
なる作用があります.
加群には本来備わっている、{\mathbb Z} 上の加群の構造があります.
整数 n に対して、整数の作用 n\cdot x
n\cdot x=x+x+\cdots +x\ \ \ \  (\text{$n$ この和})
として定義すれば良いのです.なので、すべての加群は {\mathbb Z}-加群です.
R が体のとき、これは線形代数で出てくるベクトル空間のことです.

ここでは、一般に、環 R が作用している状況を捉えます.

R-作用の線型性から、環 R の任意の元 r と、加群 M の任意の元 x,y に対して、
r\cdot(x+y)=r\cdot x+r\cdot y
なる性質です.R が体でなければ、ベクトル空間のように M にはスカラー倍作用がありません.もちろん整数作用はあります.
作用であるという性質から、
(r\cdot s)\cdot x=r\cdot (s\cdot x)
も成り立ちます.
そろそろ本題に入ります.

ある行列からつくられるある多項式加群

A を正方行列とします.R={\mathbb C}[T] を多項式環とします.
目標は、この正方行列がベクトル空間 V={\mathbb C}^n 上にどのように作用するかということを、V 上の R-加群の構造を求めることで決定することです.
この話は、下にあげた参考文献が元になっています.

この環はベクトル空間 V={\mathbb C}^n に行列の左からの積として次のように作用しています.T を多項式の変数とすると、
T\cdot{\bf v}:=A{\bf v}

なる作用を考えます.{\mathbb C}[T] 全体が線形な作用として、
(a_0T^m+a_1T^{m-1}+\cdots+a_m)\cdot {\bf v}\mapsto (a_0A^m+a_1A^{m-1}+\cdots+a_mE){\bf v}

として拡張します.つまり、A の作用を詳しく調べる代わりに、 a_0T^m+a_1T^{m-1}+\cdots+a_m のような形のもの全体がどのように作用しているのかを調べることで、A の作用の仕方を調べるという見方です.

よって、V は 多項式加群の構造を持ちました.

もう一度やりたいことを言うと、この R 加群の構造を調べることは、行列 A の線形変換としての構造を調べることに一致します.つまり

V 上の一次変換の分類\iff V 上の R 加群の構造の分類
なのです.
この分類という意味は、座標軸をどこに取るかということを加味しないということです.
座標変換の行列を P とすれば、行列の表現行列は
A\to P^{-1}AP
と移り、このような行列の変形では、A を同じものとみなした分類と思っても
構いません.一次変換の分類とはジョルダン標準形の分類のことだったので、ベクトル空間上の、行列から作られる多項式加群とは、ジョルダン標準形を求めることと同値だといえます.


ここで一注
正方行列 A があったとすると、A から R'=\{a_0A^m+a_1A^{m-1}+\cdots+a_mE|a_i\in {\mathbb C}\} なる可換環を考えます.
行列全体は非可換ですが、この集合では、多項式と同じ可換性が成り立ちます.
ただし、関係式(ケーリーハミルトンの公式)がありますので、R' は多項式全体の集合 R とは違います.
この環 R' は、(単項イデアル整域であり)多項式環 R を関係式で割った形をしています.その関係式とは、f(T)R のような関係式です.
つまり、環として、R'=R/f(T)R のような商空間の構造を持っています.
実際この f(T) は行列の最小多項式です.

ここで思うのは、行列のベクトル空間への作用をわざわざ考えなくても、この環R' の構造を調べれば済むのではないか?
ということです.

しかし、上で述べた通り、R' にはせいぜい行列の最小多項式の性質しか持っていません.線形代数続論を学んだ人なら、最小多項式が同じでも、行列が一次変換として
違うものが存在するということは知っていると思います.

例えば、固有値が一つしかない行列を考えます.4次元でジョルダンブロックの次元が、(2,1,1) のものと、(2,2) のものは、最小多項式は、どちらも同じ (t-\lambda)^2 ですが、
線形変換としては違うものになってしまっています.
ジョルダンブロックの構造違うのだから、行列として、いくら共役 X\mapsto P^{-1}XP を取ってみても移りあったりしません.つまり、線形変換として違うということです.

なので、R-加群の構造は、R' そのものより深い情報を含んでいることになります.



また、単項イデアル整域 R の一般論として、有限生成 R-加群は、
R と同型な加群と、f(T) をある多項式としたときに、R/f(T)R なる加群の幾つかの直和に同型です.つまり、R-加群を M とすれば、
M\cong R^r\oplus R/f_1(T)R \oplus \cdots\oplus R/f_r(T)R
となります.
(単項イデアル整域が何かとかはここではやりません.詳しくは、下の参考文献を見てください.)

R^r を free part と言い、R/f_1(T)R \oplus \cdots\oplus R/f_r(T)R の部分を torsion part と言います.
今、V は、有限次元 {\mathbb C} ベクトル空間なので、r=0 でなければなりません.
よって、torsion partのみを考えれば済むことになります.

V に対して、次のような写像が作ることができます.
R^n\overset{\psi}{\to} R^n\overset{\varphi}{\to} V

使いたいことは、環の準同型定理です.

定理(環の準同型定理)
環の全射準同型
G:R_1\to R_2
があったとすると、環同型写像 R_1/\text{Ker}{(G)}\cong R_2 が存在する.

ベクトル空間のときの準同型定理は、ベクトル空間として同型な空間が得られました.ベクトル空間の同型類はその次元でしか特徴がありませんが、環の準同型定理は、環の構造込みで同型写像が得られるのです.

上の写像で、\varphi は、\varphi:(F_1(T),F_2(T),\cdots F_n(T))\mapsto F_1(T)e_1+F_2(T)e_2+\cdots+F_n(T)e_n とします.そのとき、この写像 \varphi は全射写像となります.ここで、e_i{\mathbb C}^n の標準基底です.
しかし、この写像には \text{Ker} が存在します.つまり関係式です.

\text{Ker} は、\psi の Im で特徴づけられており、それは、
\psi=T\cdot E-A

となります.E は単位行列です.この全ての Im が \varphi の Ker であることは {\bf v}\in V とすると、
(T\cdot E-A){\bf v}=T\cdot {\bf v}-A{\bf v}=A{\bf v}-A{\bf v}=0 となるのですぐわかります.
逆は証明がいります.

なので、R^n\to R^nR を成分とする n\times n 行列の Im を決定すればよいことになります.Im がどのような集合になるかということは、再び線形代数ということになります.

やることは、環 R を係数とする行列上の基本変形ということで、いつもより、少し手間ですが、やることは同じです.

R 上の基本変形は、あるベクトルに、他のベクトルの何倍かを足したり、引いたりすることは許されますが、R の元で割ったりすことはできません.体 {\mathbb C} の元で割ることは許されます.



例えば、ジョルダンブロックが、(2,2) であるような
A=\left( \begin{array}{cccc}  2 & -4 & -1 & -3 \\  -1 & 3 & -1 & 1 \\  -1 & 3 & 1 & 2 \\  2 & -5 & 1 & -2 \\ \end{array} \right)
で計算してみます.

とすると、
T\cdot E-A=\left( \begin{array}{cccc}  T-2 & 4 & 1 & 3 \\  1 & T-3 & 1 & -1 \\  1 & -3 & T-1 & -2 \\  -2 & 5 & -1 & T+2 \\ \end{array} \right)

となり、この行列を、1 列目、1行目に沿って基本変形して簡単にすると、

\left( \begin{array}{cccc}  1 & 0 & 0 & 0 \\  0 & -T^2+5 T-2 & 3-T & T+1 \\  0 & -T & T-2 & -1 \\  0 & 2 T-1 & 1 & T \\ \end{array} \right)

となります.さらに、2列目と2行目に沿って基本変形をしてやると、

\left( \begin{array}{cccc}  1 & 0 & 0 & 0 \\  0 & 1 & 0 & 0 \\  0 & 0 & -(T-1)^2 & 0 \\  0 & 0 & -2 (T-1)^2 & -(T-1)^2 \\ \end{array} \right)

となります.ここで、(T-1)^2 で割りたくなりますが、割ってはいけません.
最後に、(4,3) 成分を払って、3,  4 成分目を -1 倍してやると、

\left( \begin{array}{cccc}  1 & 0 & 0 & 0 \\  0 & 1 & 0 & 0 \\  0 & 0 & (T-1)^2 & 0 \\  0 & 0 & 0 & (T-1)^2 \\ \end{array} \right)

となります.よって、V の加群としての構造は、

R/(T-1)^2R\oplus R/(T-1)^2R\hspace{1cm}(\ast)
となります.

ここで現れた、R/(T-\lambda)^\alpha R の分だけ、A のジョルダンブロックに ジョルダン細胞 J_\alpha(\lambda) が作れます.

この場合は、最初に予告したように、ジョルダン標準形は、
\left(\begin{array}{cc}  1 & 1 \\  0 & 1 \\ \end{array} \right)
の2つ直和になります.

ちなみに、このように順番に1列目、1行目から基本変形をしたとき、最後の (4,4) 成分に現れる多項式は、A の最小多項式になリます.

ジョルダンブロックが、(2,1,1) の例として、

\left( \begin{array}{cccc}  2 & -1 & 2 & 0 \\  -1 & 2 & -2 & 0 \\  -1 & 1 & -1 & 0 \\  2 & -2 & 4 & 1 \\ \end{array} \right)

を挙げておきます.この場合、同じように基本変形をすることで、

\left( \begin{array}{cccc}  1 & 0 & 0 & 0 \\  0 & T-1 & 0 & 0 \\  0 & 0 & T-1 & 0 \\  0 & 0 & 0 & (T-1)^2 \\ \end{array} \right)

が表れるはずです.演習問題として残しておきます.

そのとき、(4,4) 成分は同じ、(T-1)^2 ですが、加群としては、
R/(T-1)R\oplus R/(T-1)R\oplus R/(T-1)^2R\hspace{1cm}(\ast\ast)

となり、(\ast)(\ast\ast) は加群として同型にはなりません.

参考文献

  • 加群十話(代数学入門), 堀田良之 著(朝倉書店すうがくぶっくす)


2016年7月27日水曜日

微積分I演習(第13回)

[場所1E101(水曜日4限)]
HPに行く.

今日は

  • パラメータをを含む関数の積分を
やりました.微分と積分の順序の交換です.
ただ、それを使って解いてくれる人はあまりいませんでしたね.

パラメータを含む関数の積分

パラメータ t のある関数とは、f_t(x) という実数 t に対して一変数関数が決まる
ものですが、これは、単に二変数関数 f(x,t) ということと同じです.
2変数関数は習っていませんが、パラメータ付きの関数を f(x,t) と書くことにします.

また、途中で出てくる偏微分も習っていませんが、ここで簡単に
説明をします.
偏微分 \frac{\partial f(x,t)}{\partial t}  とは、2変数関数 f(x,t) のうち、
変数 x を定数だと思うと、f(x,t) は、t に関する一変数関数となります.その
関数を一変数関数として、普通に微分したものです.

例えば、
f(x,t)=tx なら、\frac{\partial f(x,t)}{\partial t}=x
f(x,t)=e^{tx} なら、\frac{\partial f(x,t)}{\partial t}=xe^{tx}
f(x,t)=\frac{t}{x^2+t^2} なら、\frac{\partial f(x,t)}{\partial t}=-\frac{t^2-x^2}{(x^2+t^2)^2}

このとき、次の定理が成り立ちます


定義25(パラメータを含む関数の積分)
(1) f(x,t) が連続で、
(2) 偏微分 \frac{f(x,t)}{\partial t} が存在し、連続であり、
(3) \frac{\partial f}{\partial t}t によらず、ある(広義積分可能な)関数 \varphi(x) によって\Big|\frac{\partial f}{\partial t}\Big|\le \varphi(x)となるなら、F(t)=\int_a^bf(x,t)dx とおくと、
F'(t)=\int_a^b\frac{\partial f}{\partial t}dx
が成り立ち、F'(t) も連続である.


(1,2) の条件は、2変数関数としての連続性であり、まだ習っていませんので
それに関してはここではやりません.
でてくる関数が連続性や、偏微分可能性は十分に成り立つと仮定しているとします.

この最後の条件 (3) は、広義積分でなければ(閉区間上の積分であれば)、広義積分可能なは入らずいつでも成り立ちます.なので、(3) は広義積分のときに必要な条件です.


授業中にやっていた例をここでもやってみます.
\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}dx
の積分を計算します.そのために、
F(t)=\int_{0}^\infty e^{-tx}\frac{\sin x}x\,dx
を一度考えます.この被積分関数は、連続であり、偏微分可能です.一度 t で偏微分すると、
-e^{-tx}\sin x となります.
今、t\ge t_0 のとき、|e^{-tx}\sin x|\le e^{-tx}\le e^{-t_0x} なので、このとき、t によらず、有界です.

よって、上の定理25を使うことができて、F'(t)=-\int_0^\infty e^{-tx}\sin xdx が成り立ち、実際、これを計算すると、
F'(t)=-\frac{1}{t^2+1} となります.
ゆえに、これを積分することで、F(t)=C-\text{arctan}(t) となります.
ここで、C は積分定数です.

t\to \infty なる極限を考えることで、C を決定します.そのためには、
\lim_{t\to \infty}\int_0^\infty e^{-tx}\frac{\sin x}{x}dx の極限を積分の中に入れる必要があります.

極限と積分の順序を交換することができるための条件もあります.

定義26(極限と積分の順序交換)
十分大きい任意の t に対して、f(x,t)t によらないある関数 \varphi(x) によって|f(x,t)|\le \varphi(x)となり、\int_a^b \varphi(x)dx<\infty であるなら
\lim_{t\to c}\int_a^bf(x,t)dx=\int_a^b\lim_{t\to c}f(x,t)\,dx
が成りたつ.

今、\Big|e^{-tx}\frac{\sin x}{x}\Big|\le \frac{e^{-t_0x}}{x} このとき、この関数は x\to \infty で広義積分可能となります.
また、\Big|e^{-tx}\frac{\sin x}{x}\Big|\le e^{-tx}\le 1 となり x\to 0 においても積分可能となります.

よって、\lim_{t\to \infty}F(t)=\int_0^\infty \lim_{t\to \infty}e^{-tx}\frac{\sin x}{x}dx=0
一方、\lim_{t\to \infty}F(t)=\lim_{t\to \infty}(C-\text{arctan}(t))=C-\frac{\pi}{2}
より、C=\frac{\pi}2 となり、

\int_0^\infty e^{-tx}\frac{\sin x}{x}dx=\frac{\pi}{2}-\text{arctan}(t)=\text{arctan}(\frac{1}{t})
が成り立ちます.

ここまでの証明だと、F(t)t>0 でしか、収束が示されませんが、
本当は、部分積分などをすることで、t\ge 0 でもこの広義積分が収束することが
示せます.そこで、

F(0)=\lim_{t\to 0}\int_0^\infty e^{-tx}\frac{\sin x}{x}dx=\int_0^\infty\lim_{t\to \infty}e^{-tx}\frac{\sin x}{x}dx=\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}dx

一方、F(0)=\frac{\pi}{2} なので、
\int_0^\infty \frac{\sin x}{x}dx=\frac{\pi}{2}
がわかります.

級数の収束について

この前のプリントで13-Bの問題は、すべて有理数の数列を用いて作れという問題がありましたが、

多くの人は、テイラー展開を使って作ると思うのですが、テイラー展開には、収束半径
というものがあります.
テイラー展開
a_0+a_1(x-a)+a_1(x-a)^2+a_2(x-a)^2+\cdots
のような級数を整級数、もしくは、べき級数と言います.
x=a のことを、この整級数展開の中心ということにします.

例えば、一番簡単な整級数として、

\frac{1}{1-x}=1+x+x^2+x^3+\cdots
があります.

これは、左辺の関数を 0 を中心とした整級数としてテイラー展開したもので、剰余項は収束しています.
このイコールは恒等式という意味ですが、少し偏っています.左辺には、x に代入できる実数は、x\neq 1 ですが、右辺に代入できる実数は、|x|<1 と限られているからです.
なので、恒等式というと少し語弊があるかも知れません.

見方としては、左辺の関数を、x=0 の周りで詳しく観察したものが右辺ということです.
なので、左辺は、値はわかりますが、右辺でその値の詳しい成り立ちがわかります.
例えば、近似計算などがわかったり、接線の式がわかったりします.
そして、詳しいことがわかる代わりに、わかる範囲が決められているのです.

ちょうど、関数を顕微鏡で覗いているようなもので、その詳しい様子を調べることができる代わりに、視野は狭まっているというわけです.その視野の半径のことを収束半径
と言います.下でちゃんと定義をします.
中心を少しずつ変えて展開をしてやれば、どの点でも関数を詳しく見ることができます.

収束半径

|x|<1 であれば、上の関数 \frac{1}{1-x} 絶対収束します.

級数 \sum_{n=0}^\infty a_n絶対収束というのは、\sum_{n=0}^\infty |a_n| が収束することを言います.

今の例で言えば、|x|<1 であるとき、|x|=r とすると、

\sum_{n=0}^\infty |x^n|=\sum_{n=0}^\infty r^n=\frac{1}{1-r} となり、
\sum_{n=0}^\infty |x^n| は収束します.(単調増加な有界数列は収束する.)
よって、\sum_{n=0}^\infty x^n は、|x|<1 で絶対収束します.

整級数
\sum_{n=0}^\infty a_n(x-a)^n
収束半径とは、級数が絶対収束するための、展開の中心からの距離の上限
と定義します.記号で書けば、

\sup\left\{r\in{\mathbb R}||x-a|<r\text{ で$\sum_{n=0}^\infty a_n(x-a)^n$ が絶対収束する.}\right\}

となります.

上の例では、|x|<1 では、いつでも絶対収束しますので
収束半径を R とすると、R\ge 1 です.しかし、x=1を代入すると、
1+1+1+\cdots
と右辺は発散し、もちろん、絶対収束しません.

よって、R\le 1 が成り立ちます.

なので、級数
\sum_{n=0}^\infty x^n

の収束半径は、 R=1 とわかります.

収束半径を計算する一つの方法として、展開の中心を a とし、 r=|x-a| としたとき、r<R においては、いつでも絶対収束し、r=R のときに、発散する点(もしくは一般に絶対収束しない点)を見つけられれば、R が収束半径ということになります.

他の例として、

\frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-x^6\cdots

は、|x|<1 で、絶対収束しますが、x=\pm1 を入れると、右辺の級数は、
1-1+1-1+1-\cdots と収束しません.またこの級数は、絶対収束しません.
実際、各項に絶対値をつけた作った数列は、1+1+1+\cdots です.

なので、この収束半径も R=1 となります.
この関数の場合、左辺に、\pm1 を入れた場合、\frac{1}{1+1}=\frac{1}{2} となり、
有限な値になります.つまり、左辺にはどこにも発散する点がないにも関わらず、この等式
\frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-x^6+\cdots
も、|x|<1 でしか成り立ちません.
(収束半径とは一体なんなのか?ということは、関数の定義域を複素数にまで広げると
分かるようになります.もう少し先で習う関数論で答えが出ます.
実は、この関数は、複素数にまで範囲を広げると、x=\pm i において発散する点を見つけることができます.)


13-Bの問題で、\log 5 を有理数の数列で作りなさいという問題がありますが、

多くの間違った解答は次のようになります.
\log(x+1)x0 の近くで、

\log (x+1)=x-\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{3}-\cdots

となりますが、この式に、x=4 を入れてしまうというものです.

そうすると、

\log 5=4-\frac{4^2}{2}+\frac{4^3}{3}-\frac{4^4}{4}+\cdots

となりますが、\log (x+1) という関数の、x=0 を中心としたテイラー展開で
意味があるのは、収束半径内の |x|<1 のときのみです.
それに、有効ではない値 4 を入れてしまっています.
もちろん、この右辺は、収束しませんのでこの等式には意味はありません.

\pi を作る数列を作りなさいという解答も
\arctan(x) の展開で作るというのが一般的であるかもしれませんが、

積分して、\pi になるような関数を持ってきて、それを展開をしても良いでしょう.
例えば、すぐ思いつくものとして、

\int_0^1\sqrt{1-x^2}\,dx=\frac{\pi}{4}
として、左辺は、
\int_0^1\sum_{n=0}^\infty \binom{\frac{1}{2}}{n}(-x^2)^ndx
となります.この級数の収束半径は、1です.
なので、|x|<1 でこの級数は、絶対収束します.
なので、項別微分ができて(収束半径内であれば、項別微積分ができる)、
それぞれの項を積分する形にすることができます.
ただ、x=1 では、収束半径内ではありませんが、交代級数ですので、収束が示せます.



2016年7月19日火曜日

線形代数続論演習(第12回)続き

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

第12回(リンク)の続きです.

群の表現

群の表現とは、群 G に対して、ベクトル空間 V の線形変換全体への群としての準同型写像(群準同型という)
G\to GL(V)
のことを言います.
同値なことですが、Gのベクトル空間 V への線形な G-作用のことです.

例えば、n\times n 行列全体は群ではありませんが、正方行列の可逆元全体(正則行列)は群となります.
なので、線形変換全体への準同型というより、正則行列全体への群準同型写像です.
正則変換全体は、群をなします.

V 上の正則写像を一般線形群といい、GL(V) とかきます.数ベクトル空間の場合は、
GL(n,{\mathbb K}) と書きます.

V を数ベクトル空間とすれば、n\times n 正則行列全体への準同型写像となります.

群の表現とは、群の元をある線形写像とみなす方法のことですので、線形表現ということもありますが、この線形を略して、単に表現と言ったりします.

群の線形表現があると、g\in G に対して、
\varphi_g: V\to V なる線形変換、つまり v\mapsto \varphi_g(v)=g\cdot v と定義される線形変換が
得られます.

また、表現 G\to GL(V) が単射な群準同型であるとき、この表現を忠実表現といいます.
群の元が非自明な元なのに線形変換として、自明に作用する(動かさない)ことがないという意味で、忠実というわけです.

例えば、正則行列 A\in M(n,{\mathbb C}) をとります.
このとき、v\in {\mathbb C}^n に対して、行列の左からの掛け算
v\mapsto A\cdot v
として、線形変換 V\to V が定義できます.

G(A)=\{A^n |n\in {\mathbb Z}\} とおくと、この集合は群となります.

命題
G(A) は、{\mathbb Z}, {\mathbb Z}/n{\mathbb Z} もしくは、ただ一つの元からなる群 \{e\} と同型.


{\mathbb Z} は整数のなす群で、足し算を群の積として考えます.
{\mathbb Z}/n{\mathbb Z} は、\{0,1,2,\cdots,n-1\} からなる群で、足し算を群の
積とし、n-1 を超えたときは、n を幾つか引くことで、\{0,1,2,\cdots, n-1\} の元とすることができます.このような演算は群の定義を満たしています.


例えば、{\mathbb Z}/7{\mathbb Z} は、群の演算として、
1+3=43+4=0, 2+6=1 などのような式が成り立ちます.


上の命題を証明してみます.
\varphi:n\mapsto A^n なる群の準同型写像 {\mathbb Z}\to G(A)
があります.これは、全射な群準同型であることは、すぐわかります.

その核 \text{Ker}(\varphi)=\{n\in{\mathbb Z}|\varphi(n)=E\} は、{\mathbb Z} の部分群となるのですが、{\mathbb Z} の中の部分群は、n{\mathbb Z} つまり、n で割り切れる整数全体と一致します.
その証明は(簡単なので)ここでは省略しますが、それを認め、群準同型定理

定理(準同型定理)
f:G \to H が全射準同型であるとする.
このとき、群準同型
G/\text{Ker}(f)\cong H
が成り立つ.

を使います.

この、G/\text{Ker}(f) は、群による類別による同値類の集合です.
ベクトル空間の商空間と同じようにして、部分群 \text{Ker}(f)\subset G に対して、
g\cdot \text{Ker}(f) の形の G の部分集合によって G の元を全て類別します.
このとき、実は、この類別は、群を定義することができます.
それを商空間と同じようにして、商群と言います.
商群の群の積は、(g\cdot \text{Ker}(f))\cdot (h\cdot \text{Ker}(f))=gh\cdot \text{Ker}(f)
と定義します.

(実は商群を定義するには、ただの部分群だけではダメで、正規部分群
\iff gHg^{-1}=H なる部分群 H\subset G)ではないけません.ただ、ここまで来ると
ちゃんと群論の話をしないといけないのでこれ以上は立ち入りません.
群論の本格的な勉強は後期になると思います.私は担当ではありませんが.
ちなみに、群準同型の核となるような部分群はいつも、正規部分群となります.)

この定理を使うと、G(A)\cong {\mathbb Z}/\text{Ker}(\varphi)
となります.よって、n=0 であれば、左辺は、{\mathbb Z} となりますが、
n=1 とすると、A=E であり、この群はただ一つからなる群(単位元だけからなる単位群
また、n>1 のときは、{\mathbb Z}/n{\mathbb Z} と同型となります.

よって、この写像

\varphi:G(A)\to GL(n,{\mathbb C})
{\mathbb Z}, {\mathbb Z}/n{\mathbb Z} , \{e\} のどれかの群の表現となります.
例えば、A=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&1\\1&0&0\end{pmatrix} とすると、\varphi は、A^3=E となり、A\neq E ですので、G(A)\cong {\mathbb Z}/3{\mathbb Z} の群の表現となります.
これらの群の表現は、真面目に、核を潰しているので、すべて忠実な作用です.


既約表現・可約表現

線形表現 \varphi:G\to GL(V) があるとします.
そのとき、部分空間 W\subset V にその作用が閉じているとします.
つまり、任意の W の元 w に対して G の作用 \varphi_g(w) が再び、W
元となるようなとき、W のことをG-不変部分空間と言います.
つまり、任意の g\in G に対して、線形写像
\varphi_g:W\to W
が定義できることになります.


そのようなG-不変部分空間 W が存在するとき、表現 G\to GL(V)可約と言います.
存在しないとき、そのような表現を既約といいます.

例えば、有限次元ベクトル空間への表現だとしましょう.
このとき、可約ということは、V のある基底が存在して、任意の元 g\in G において、その
基底に関する表現行列が、
\begin{pmatrix}A(g)&B(g)\\O&D(g)\end{pmatrix}
のようなブロック行列の形となるということです.

このような基底は、群の元 g によらないものを取ります.
もし、さらに基底を取り替えて、B(g) の位置の行列もゼロ行列として取れるとき、
表現 G\to GL(V) は、

G\to GL(V_1)G\to GL(V_2) という表現の直和になります.
V_1 上の表現は g\mapsto A(g) となり、V_2 の表現行列は g\mapsto D(g) です.

そのとき、表現の直和もベクトル空間の直和同じ記号 \oplus を用いて、
V_1\oplus V_2
と書かれます.

このような表現は直可約といいます.

G\to GL(V_1) のことを、表現 G\to GL(V)直和因子と言います.
可約だとしても、直可約かどうかわかりません.




例えば、有名な例として、表現
\varphi:{\mathbb Z}\to GL(2,{\mathbb C})
として
\varphi(n)=\begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}とします.
これは、{\mathbb Z}{\mathbb C}^2 への忠実作用であるが、
{}^t(1,0) なるベクトルは、この作用で閉じており、\langle{}^t(1,0)\rangle
{\mathbb C}^2 の不変部分空間となるので、既約表現ではありません.

しかし、どんなに基底を取り替えても、その表現行列を対角的にすることはできません.

というのも、基底を取り替えることは、基底の変換行列 P を使って、表現行列が、A から P^{-1}AP に移るということであり、

例えば、1 の行き先である、\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix} は、
ジョルダンブロックのヤング図形が 横並び □□
となるような標準化しかもちません.対角化不可能なのです.
もし、1次元の直和因子があるとすると、表現行列は対角的になるはずです.

どのような基底を取っても、直和因子を持ち得ません.
よって、直可約ではないことになります.

ここで、次のような定義をしておきます.

定義(完全可約表現)
群の表現 G\to GL(V) が、幾つかの既約表現の直和となるような表現のことを
完全可約表現という.

つまり、ある群の表現 G\to GL(V) が、可約であるとすると、それは完全可約であるということです.
なので、上のような例 \varphi:n\mapsto \begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}
G-不変部分空間は存在するが、それが直和因子とならないので、完全可約
とはなりません.かといって、内部に G-不変部分空間が存在しないわけ
ではありませんので、既約でもありません.

ただし、表現の直和成分を含まないので、このような表現のことを、
直既約表現と言います.

ここでもう一つ、非自明な有名事実を述べておきます.


定理(有限群の表現の完全可約性)
有限群の線形表現はすべて完全可約である.

これ以上やると、線形代数を逸脱しますので、有限群の表現論は
古典的な内容で、後期の代数学の授業で色々と勉強してみてください.

線形代数続論演習(第12回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、

  • 線形代数の演習と
  • 正多面体
  • 群の表現
についてやりました。


多面体・正多面体について

多面体とは有限個の幾つかの面と辺と頂点によって構成された3次元空間に埋め込まれた
連結な立体で以下を満たすものを言います.
  • 面とは平坦な幾つかの多角形の集まりであり、辺は幾つかの線分の集まり、また、頂点とは、幾つかの点の集まりとする.
  • 任意の面は、幾つかの辺(線分)によって囲まれており、
  • 任意の辺は、2つの頂点によって囲まれている.
  • 任意の頂点は、ある辺の片方の先となる
ものをいい、
  • 任意の辺が必ず、2つの面によって共有されている
とき、多面体は閉じていると言います.
ここでは多面体として、閉じたものだけを考えます.

正多面体とは、任意の面が正 n 角形であり、任意の頂点に集まる面の数が頂点に
よらず一定であるようなものです.


オイラーの定理

多面体に対して次のような公式が成り立ちます.

定理(オイラー)
v を頂点の数とし、e を辺の数とし、f を面の数とする多面体
が球面と同相であるとき、
v-e+f=2
が成り立つ

一般に、多面体に含まれる頂点、辺、面に対して計算される、v-e+f の値のことを
オイラー数と言います.
多面体 X のオイラー数を \chi(X) と書くことにします.
このオイラー数の定義は、もちろん球面と同相でなくても定義できます.

このオイラーの定理は、球面と同相な多面体のオイラー数はいつでも2であるということを主張しています.

球面と同相とは、多面体が \{(x,y,z)\in{\mathbb R}^3|x^2+y^2+z^2=1\} に連続的な
全単射で写るということです.たとえば、正多面体は全て球面と同相です.
(同相の定義は、これでは、本当は大分曖昧ですが、本当に分かるようにやりだすと
位相の授業3回分くらいになってしまいます.)

正多面体は角があったりしますが、風船のように膨らませれば、だいたい球面
と同じといえます.風船のように膨らませるような、連続変形を同相というのです.

また、一般の多面体は、球面と同相なような形ばかりとは限りません.

たとえば、ドーナツような形の多面体は球面と同相ではありません.
そのことを証明してみます.
ドーナツのような形の立体のことをドーナツと言わず、トーラスと言います.


トーラスの構成と、多面体の構造、オイラー数
トーラスと同相な多面体をつくってみます.
サイコロ(正六面体)の一つの面から反対の面に向かって四角い穴を貫通させます.
四角い穴は正方形とし、正方形の各辺がサイコロの一つの辺と平行とします.
ちょうどこんな感じです.
上部にカタカナのロのようなピースができますが、これでは、
多面体の構造にはなりませんので、ロを分割して、8個の正方形に区切り、
下部も同じようにしておきます.また、側面の正方形にも辺を加えることで、
下のような正多面体となります.このような多面体を T とおきます.

この多面体の頂点、辺、面の様子を見ていきます.

頂点に関しては、
上部に16個、下部に16個あり、計32個の頂点があります.

辺に関しては、
上部の8個の四角形において24個あります.
下部にも同じ数だけあります.また、側面の辺の数は12個で、
貫通された時にできた四角形の穴には、内側に4個の辺があります.
よって、計64個の辺があります.

面に関しては、
上部の8個の四角形、下部の8個の四角形、
側面の12個の四角形、貫通した穴の内側の側面には4つの四角形があり、
計32個の面があります.

よって、

頂点: v=32
辺:e=64
面:f=32

となります.このとき、上のオイラー数を計算してみると、

\chi(T)=32-64+32=0

となり、この多面体のオイラー数は\chi(T)=0 と計算できます.
上の球面のオイラー数と比べると、面白いことを言っています.
球面と同相な多面体のオイラー数はいつでも 2 ですから、サイコロに穴を開けた多面体は、球面とは同相にはなりえないということが証明できたのです.

位相的に不変な量を用いたこのような考察は、
位相幾何学のちゃんとした証明方法です.

ここで、閉じた多面体のオイラー数の公式として、次の公式が成り立ちます.

中身の詰まった球面のことを球体ということにします.

定理(多面体のオイラー数の公式)
球体に g 個の穴を貫通させてできる立体の表面と同相な多面体 X_g のオイラー数は、
\chi(X_g)=e -v+f=2-2g
となる.

オイラーの公式は、ちょうど、g=0 (球面と同相な多面体)のオイラー数の公式を
言っており、トーラスの例は、g=1 となる例を行っています.

球体に g=1 個の穴を貫通させてできた多面体とは、
ドーナツのような、別の例でいえば、一人乗りの浮き輪の表面のような形です.
g この穴を開けたような多面体とは、g 個の一つ穴空きドーナツの生地を
連結させて、揚げたようなもの、別の例でいえば、g 人乗りの浮き輪の表面のようなものです.

多面体が同相であれば、オイラー数は不変であり、そのオイラー数は、穴の数 g を使って、2-2g として計算できるということになります.

この g のことを、多面体の種数と言います.

このオイラー数は、多面体の同相写像によって不変な量であり、
そのように、同相写像によって不変な多面体の量を(多面体の)位相不変量と言います.
逆に(連結な)多面体の同相類は、このオイラー数によって全て分類されます.

多面体のオイラー数は、2-2g と計算できますが、この値の意味については
実は、多面体のホモロジーがその疑問に答えてくれます.
それについては、ここではしません.

正多面体群

n 多面体を T_n とします.

正多面体群 G(T_n) とは、ユークリッド空間のある位置においた
T_n を動かす群のことを言います.
つまり、正多面体群とは、T_n を動かして、元の T_n の位置にはめ戻す操作
全ての集合です.
ぴったりと頂点が頂点に、辺が辺にハマれば良いのであって、同じ頂点に戻す必要はありません、しかし、全く動かさない方法も中に入れておきます.

G(T_n) は、T_n の動かす道筋考えるのではなく、動かした後の T_n の移動先だけを考えるのです.

例えば、T_4 の一つの頂点は、3つの三角形によって共有されていますが、
その頂点の対面の三角形の重心とその頂点を結ぶ直線を軸とする回転で、0度、120度、240度回転は、元の T_4 の位置にぴったりと動かした T_4 を合わせることができるので、G(T_4) 元となります.また、それらは、相異なる元にもなります.

しかし、動かす方法を変えた、-120度、-240度回転は、それぞれ、240度、120度回転したものと結果同じなので、それらは区別しません.
つまり、群としての動きは、全部で、0度回転、120度回転、240度回転だけ考えれば良い
のです.

実は、T_4 の4つの頂点に番号をつけておいて、それらがどこに移るのか?
ということを分類したもの全体が、G(T_4) となります.
つまり、頂点だけ見ていれば、その動かし方が完璧に分かるということを
意味しています.
これは、\{1,2,3,4\} から、\{1,2,3,4\} へのある全単射だとみなしても良いでしょう.
(この場合は、すべての \{1,2,3,4\} 上の全単射が G(T_4) の元とみなすことはできませんが...)

わかることは、G(T_n) は有限集合だということです.

また、動かす方法を合成することで、G(T_n) の積を考えることができます.
T_n の逆の動かし方もありますから、逆元もあります.

つまり、G(T_n) は群だということになります.


群について少し
群については、以前のブログ(リンク)に書きましたが、ここでももう一度紹介します.
群とは、ある集合に2項演算 \cdot が定義されたもので、その演算において集合の中で、閉じている (g,h\in G ならば、g\cdot h\in G が成り立つ)ものを言います.また、次の条件を満たします.、
  • G の任意の元 g,h,k に対して、 (g\cdot h)\cdot k=g\cdot (h\cdot k) が成り立つ.
  • 単位元 e\in G が存在して、任意の g\in G に対して、g\cdot e=e\cdot g=g が成り立つ.
  • 任意の g\in G に対して、逆元 g^{-1} が存在して、g\cdot g^{-1}=g^{-1}\cdot =e となる. 

2つの群 G, H の間の写像 f:G\to H が準同型であるとは、任意の g,h\in G に対して、
f(g)\cdot f(h)=f(g\cdot h)
が成り立つことを言います.
準同型かつ、全単射な写像のことを、同型写像と言い、G\cong H と書きます.
それらは、ベクトル空間の線形写像と、同型写像にあたる対象だと考えれば
良いでしょう.

また、群の位数(サイズ)とは、群の集合としての数のことを言い、|G| もしくは、
\#G などと書きます.




正多面体群の話に戻ると、プリントの問題にも書きましたが実は、

G(T_4)\cong A_4 
G(T_6)\cong S_4
G(T_8)\cong S_4
G(T_{12})\cong A_5
G(T_{20})\cong A_5

となる同型があります.

S_n は、n 次対称群と言い、\{1,2,\cdots, n\} の全単射の
なす群であり、全単射の合成を、群の積と定義されます.
また、位数は、\#S_n=n! となります.(考えてみてください!ヒントは順列です.)
A_n\subset S_n とは、全単射のうち、偶数個の互換によって書かれるもの全体を言います.S_n の互換とは、2つの文字を入れ替え、その他の文字は変えないもの
を言います.
奇数個の互換の積と偶数個の互換の積は、ちょうど同じ数だけありますから、
\#A_n=n!/2 となります.
また、A_nS_n の群の積として、閉じています.
このような部分集合のなす群を部分群と言います.

上の、一つ目の同型は、g\in G(T_4) に対して、4つの頂点 \{1,2,3,4\} の行き先を
\{n_1,n_2,n_3,n_4\} としたときに、 S_4 の元として
\begin{pmatrix}1&2&3&4\\n_1&n_2&n_3&n_4\end{pmatrix}
となるものを対応させることにすることで、
A_4 への同型写像が得られます.この時、奇数個の互換でかけるもの、例えば、(1,2)
(1の頂点と2の頂点を入れ替え、3,4の頂点を動かさない)となる
正四面体群の元は存在しません.1,2の頂点を入れようとすると、どうしても、3,4も入れ替えてしまうはずです.

双対な正多面体

正六面体群と正八面体群、正十二面体群と正二十面体群はそれぞれ同型ですが、
これは偶然ではありません.
実は、頂点と面を入れ替えるような操作があり、それらは互いに関係しあっています.


n 面体を考えます.
一つの頂点に集まっている面の数が x 個とします.

まず、その各面の重心に点をおき、隣り合う面に対して、対応する点どうしを
全て線分で結びます.
結んだ線分は、頂点の周りで正 x 角形を作っているはずです.
正多面体の定義から、x は頂点にはよりませんので線分で囲まれた多角形は、
全て正 x 角形となります.
また、正 n 面体の面の重心から出発する線分は、当然 n 個あります.
つまり、面においた点から出ている辺の数は点によらず一定となります.

x 角形を面とし、頂点(元々正 n 角形の重心)から n 個の
線が出ているような立体は、再び、正多面体となります.
面は正 x 角形でできているので、できた立体は正 x 面体となります.

なので、面においた頂点を辺として結んでできる立体は再び、
頂点の数と、面の数を入れ替えたような、相棒のような正多面体が必ず存在するという
ことになります.
このような正多面体の相棒同士の対応を正多面体の双対と言います.

正四面体の双対は、正四面体自身に戻ります.

正四面体は、面の数が、4つですが、頂点の数も4つですので、それらが
入れ替わっても、結局同じ正四面体が得られるからです.


実際、絵を描くか、正四面体を作ってみて、実験してみてください.


他の G(T_6), G(T_8), G(T_{12}), G(T_{20}) に対する対称群への
同型写像についても、頂点、辺、面、軸(対角線など)などを使って、
示してみてください.


残りの話の続きはこちら(リンク)です.

2016年7月14日木曜日

微積分I演習(第12回)

[場所1E101(水曜日4限)]

今日は
  • ガンマ関数
  • ベータ関数
についてやりました。
ガンマ関数とベータ関数については、このブログ上のこちら(リンク)に書いたことがあります.そちらに少し発展的な内容を書いています.

ガンマ関数

数ある特殊関数の中で、大学生のうちに出てくるもので、最初のものです.
広義積分で定義されているので、だいたい、この機会に紹介されることが多いです.

定義は、以下のようになります.

定義23(ガンマ関数)
s>0 なる実数に対して、
\Gamma(s)=\int_0^{\infty}e^{-x}x^{s-1}dx

積分値によりこの関数が定義づけられていますので、広義積分可能かどうかが問題となります.

s\ge 1 のとき、
e^{-x}x^{s-1}x\to \infty でのみ広義積分になります.

0<s<1 のとき、
e^{-x}\frac{1}{x^{1-s}} は、x\to 0x\to \infty の両方で広義積分となります.

このいずれの広義積分も収束することを示してください
というのが、今回の宿題です.

例えば、簡単なのは、x\to \infty での広義積分において、

|x^2e^{-x}x^{s-1}|\le |e^{-x}x^{s+1}|

であり、まず、x>1 なる x において、|e^{-x}x^{s+1}|\le |e^{-x}x^N| となる自然数 n が存在します.

また、ロピタルの定理を繰り返すことで、
\lim_{x\to \infty}e^{-x}x^{N}=\lim_{x\to \infty}\frac{x^N}{e^x}=\lim_{x\to \infty}\frac{Nx^{N-1}}{e^x}=\cdots=\lim_{x\to \infty}\frac{N!}{e^x}=0

よって、ある実数 M が存在して、x>M なる任意の x において
|x^2e^{-x}x^{s-1}|<C なるC が存在する.

よって、|e^{-x}x^{s-1}|<\frac{C}{x^2} よって、
\frac{C}{x^2}x\to \infty において、広義積分 \int_M^\infty\frac{1}{x^2}dx は収束しますので、

よって、s\ge1 のとき、
\int_0^\infty e^{-x}x^{s-1}dx

は収束します.残りの 0<s<1 についても、同じように収束性が必要です.
そちらは同じように、自力で解答してください.

このガンマ関数の関係式が大事です.
いろいろな、広義積分の値が楽に計算できるという利点があります.


ガンマ関数の関係式

\Gamma(s+1)=\int_0^{\infty}e^{-x}x^sdx=\left[-e^{-x}x^s\right]_0^\infty+\int_0^\infty e^{-x}sx^sdx
=s\cdot\int_0^\infty e^{-x}x^{s-1}dx=s\Gamma(s)

となります.
この部分積分を込みで覚えれば、ガンマ関数の関係式も頭に入るはずです.
よって、
\Gamma(s+1)=s\cdot \Gamma(s)

よって、\Gamma(1)=\int_0^\infty e^{-x}dx=1 自然数 n に対して \Gamma(n)=(n-1)! となります.

この式 \Gamma(s+1)=s\cdot\Gamma(s) から、実数 s>0 における関数から、実数全体への関数とみなすことができます.しかし、s=0,-1,-2,\cdots なる、非正整数の値は発散します.

例えば、s=-\frac{1}{2} の値は、
\Gamma(-\frac{1}{2})=\frac{\Gamma(\frac{1}{2})}{-\frac{1}{2}}=-2\sqrt{\pi}

となります.
また、結果から書いておけば、ガンマ関数 \Gamma(s) は定義できる領域内において解析関数になっています.

その他の関係式も授業中に教えましたが、ここでは証明するのには少し手狭です.
また、どこかで書きたいと思います.
簡単に分かる方法(ガンマ関数の無限積表示)を、こちら(リンク)に証明を書きました.


ベータ関数

ベータ関数の定義は、

定義24(ベータ関数)
a,b>0 なる実数に対して、
B(a,b)=\int_0^1x^{a-1}(1-x)^{b-1}dx

です.この関数も、0<a<1 もしくは、 0<b<1 のとき、広義積分ですが、収束します.
\int_0^{\frac{1}{2}}\frac1{x^s}dx のとき、0<s<1 であれば、この広義積分は収束しますのでこのことが対応します.

ベータ関数は次のようなガンマ関数を用いた等式があります.

B(a,b)=\frac{\Gamma(a)\Gamma(b)}{\Gamma(a+b)}

ですので、ガンマ関数の等式がそのままベータ関数の等式となります.

このベータ関数のこの等式は重積分などを使って証明されますので、1年生の後期に習うと思います.

例えば、高校のとき習った公式、\int_a^b(x-a)(x-b)dx=-\frac{(b-a)^3}{6} は、

t=\frac{x-a}{b-a} とおくと、x-a=t(b-a) かつ、x-b=a+t(b-a)-b=(a-b)(1-t)
\int_a^b(x-a)(x-b)dx=(b-a)\int_0^1(b-a)t\cdot (a-b)(1-t)dt
=-(b-a)^3\int_0^1t(1-t)dt=-(b-a)B(2,2)
となります.上の関係式を使えば、
B(2,2)=\frac{\Gamma(2)\Gamma(2)}{\Gamma(4)}=\frac{1}{3!}=\frac{1}{6}

となります.

同じような変形により、a,b を自然数とすると、
\int_A^B(x-A)^{a-1}(x-B)^{b-1}dx=(-1)^{b-1}(B-A)^{a+b-1}B(a,b)
=(-1)^{b-1}(A-B)^{a+b-1}\frac{(a-1)!(b-1)!}{(a+b-1)!}
となります.



実数についてのプリントに問題も出しましたが、特に何も説明しませんでしたので
ここでも省略します.

2016年7月12日火曜日

線形代数続論演習(第11回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、

  • ジョルダン標準形についての演習
を行いました.

ジョルダン標準形について一注

ジョルダン標準形とは、行列に依存した、ある(ジョルダン)基底をとることですが、
その基底の取り方を間違えている人がいます.

例えば、

A=\left( \begin{array}{ccc}  3 & 4 & 4 \\  -2 & -3 & -4 \\  1 & 2 & 3 \\ \end{array} \right)

なる行列は、固有多項式は、(t-1)^3 となる行列です.
この行列のジョルダン基底を求めてみます.

まずやることは、重複度の分だけ
\text{Ker}(A-E)
\text{Ker}((A-E)^2)
\text{Ker}((A-E)^3)

を計算することです.このとき、
これらの連立一次方程式を解くと、

\left\langle\begin{pmatrix}2\\0\\-1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\-1\end{pmatrix}\right\rangle
\left\langle\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\right\rangle
\left\langle\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\right\rangle
となります.これは、(A-E)^2=O であることからこのようになります.
つまり、最小多項式は、(t-1)^2 です.

レポートなどを見ていると、ここで、\begin{pmatrix}2\\0\\-1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\-1\end{pmatrix}
ジョルダン基底のうちの2つとして取っている人がいます.
これはジョルダン基底になるかどうかまだわかりません.

まず、\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E) の基底を取ってください.そうすると、
これは、\text{Ker}((A-E)^2)\text{Ker}(A-E) の補空間の基底をとればよいですから、

\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}
をとれば十分です.これを、{\bf v}_1 とおきます.このベクトルは、ジョルダン基底の一つになるものですが上の2つと合わせても、ジョルダン基底は作れません.

他のべクトルは、このベクトルに A-E をかけて作ってください.
つまり、
{\bf v}_2=(A-E){\bf v}_1=\begin{pmatrix}2\\-2\\1\end{pmatrix}
とおきます.
次に、最後の基底ですが、単射写像

\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E)\to \text{Ker}(A-E)

の像で割った空間の基底をとります.
この像は、(A-E){\bf v}_1=\begin{pmatrix}2\\-2\\1\end{pmatrix}
ですが、このベクトルの\text{Ker}(A-E) での補空間の基底をとります.

そうすると、\begin{pmatrix}2\\0\\-1\end{pmatrix} が補空間の基底としてとれると思います.この
ベクトルを、{\bf u} としたとき、
({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})
が、漸くジョルダン基底となるのです.

実際、
(A-E)({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})=({\bf 0},{\bf v}_2,{\bf 0})

となり、右辺を再び、この基底で書いてみると、

(A-E)({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})=({\bf 0},{\bf v}_2,{\bf 0})=({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})\left( \begin{array}{ccc}  0 & 1 & 0 \\  0 & 0 & 0 \\  0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)
となりますので、E を項を移項して、

A({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})=({\bf 0},{\bf v}_2,{\bf 0})=({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})\left( \begin{array}{ccc}  1 & 1 & 0 \\  0 & 1 & 0 \\  0 & 0 & 1 \\ \end{array} \right)
となります.

ホモロジー

ホモロジーというのは、ここでの演習で出すには余りにも役不足といった感じです.
本当は、ベクトル空間に次数という概念があるような場合でないと全く意味をなしません.
しかし、実際ホモロジーを計算するとき、ほとんど線形代数のようなことをしますので、ここで敢えて名前だけ高級なものにして演習してもらいました.
ホモロジーについてのwikipediaにリンクを貼っておきます.
こちら(リンク)。

ちなみに、ホモロジーというのは、数学を研究するには、知らない人はいないくらい、普通に出てくるものです.元々は、幾何的な立場で、定義されましたが、代数でも解析の文脈でも出てきます.例えば、多面体において、
面の数-辺の数+頂点の数
を計算した時に、どんな多面体でも(正多面体でなくても、一般の多面体に置いても)、2になるということを知っている人がいるかもしれませんが、どうして2になるのか?この2ってなんだろう?という疑問に全て答えてくれるのが、多面体を一般化した単体複体におけるホモロジーという概念です.

3年生以降で習うトポロジーA,Bなどの授業がそれに相当します.

それはさて置き、内容としては、以下のようなものです.


べきゼロ変換
d:V\to V

においてd\circ d=0 つまり、数ベクトル空間では行列の2回積 A^2 がゼロ行列になるような写像とします.

このとき、いつでも、\text{Im}(A)/\text{Ker}(A) となりますので、
\text{Im}(A)/\text{Ker}(A)
のようなベクトル空間を (V,d) のホモロジーといいます.
ここでは、H(V,d) と書くことにします.H(V,d) は一つのベクトル空間の同型類を
表します.

ただの商空間の問題というだけではなく、このホモロジーの基底が
べきゼロ変換のジョルダンブロックにおいて、どのような部分を計算しているかという
ことを整理しておきます.まず、べきゼロ行列が A^2=O となるとき、

ヤング図形は、高々2列のものになります.このとき、
ヤング図形のブロックのどの部分がホモロジーの基底になっているか?というと、

結論から言えば、上のようなヤング図形のうち、黄色の四角がホモロジーの基底となります.
ちなみに、\text{Ker}(A) は、赤と黄色合わせた部分で、赤の部分は、\text{Im}(A) ということになります.なので、
H(V,d)=\text{黄色の部分のベクトルで生成されるベクトル空間}
となります.
 (赤+黄)/(赤)=黄色
と考えても良いです.

微積分I演習(第11回)

[場所1E101(水曜日4限)]

今日は
  • 広義積分の収束判定
についてやりました.
授業で話した内容に訂正があります.配付プリントは訂正してあります.

広義積分の収束について

広義積分とは、
\lim_{c\to b}\int_a^cf(x)dx
であり、この積分が収束するかどうかが問題です.
よく使う方法は、


定理19(広義積分の判定法)
任意のx に対して、|f(x)|\le g(x) であり、広義積分 \int_a^bg(x)dx が収束するなら
\int_a^bf(x)dx も広義積分可能.

この積分判定法は広く使われています.
また、発散の判定法として、次のものもあげておきます.

定理20(広義積分の判定法)
任意の x に対して、|f(x)|\ge g(x) であり、広義積分 \int_a^bg(x)dx が発散するなら
\int_a^bf(x)dx は広義積分は不可能.

例1

\int_0^\infty\frac{dx}{1+x^2}
の広義積分の収束を調べるとします.
そのとき、\frac{1}{1+x^2}\le \frac{1}{x^2} であり、\int_1^c\frac{1}{x^2}dx=[-\frac{1}{x}]_1^c=-\frac{1}{c}+1\to 1
となります.よって、
\int_0^\infty \frac{dx}{1+x^2}=\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}+\int_1^\infty\frac{dx}{1+x^2}
収束します.

例2

広義積分 \int_0^\infty\frac{dx}{\log (x+1)} の収束について考えます.
x\to \inftyx\to 0 の両方の広義積分を考える必要あります.

まず、x\ge 0 において、不等式|\log (x+1)|\le x が成り立ちます.
(\because f(x)=x-\log (x+1) とすると、f'(x)=1-\frac{1}{x+1}=0 ならば、x=0 であり、そのとき、最小.f(1)=0-\log 1=0)

なので、
\frac{1}{|\log (x+1)|}\ge  \frac{1}{x}
となり、広義積分 \int_1^c\frac{dx}{|\log (x+1)|}\ge \int_1^c \frac{dx}{x}\to\infty\ \ (c\to \infty)

よって、無限区間での積分 \int_1^\infty\frac{dx}{\log x} は広義積分可能ではありません.
また、x\to 0 での積分可能性についてですが、

x>0 において、
\frac{1}{|\log (x+1)|}>\frac{1}{x} ですので 、
\int_c^1\frac{dx}{|\log (x+1)|}\ge \int_c^1\frac{dx}{x}=[\log x]_{c}^1
c\to 0 のとき、この積分は収束しません.

よって、
\int_0^\infty \frac{dx}{\log (x+1)}
どちらの極限においても収束しません.


べき関数の広義積分収束性
多くの場合、このような、積分しやすいべき関数の積分に帰着させる場合が多いです.
べき関数の積分の収束を書いておくと、

\int_1^\infty\frac{dx}{x^s}=\begin{cases}\text{広義積分可能:}&s>1\\\text{広義積分不可能:}&s\le 1\end{cases}

となり、有限区間であれば、

\int_0^1\frac{dx}{x^s}=\begin{cases}\text{広義積分可能:}&s<1\\\text{広義積分不可能:}&s\ge 1\end{cases}

となります.特に、\frac{1}{x} という関数は、無限大にでも、x=0 の付近でも、
広義積分は収束しません.

下に描いた関数は、青い線はy=1/xで、この線を境に、この線の下側は、無限区間でも x=0 の近くでも収束していません.y=x において、この関数が対称であることからもわかると思いますが.
一方、この関数より少しでも下側にあるようなべき関数、例えば、橙色の線は、y=1/x^2 ですが、
この関数は、無限区間で広義積分可能で、x=1 から \infty では、全部の面積の和は 1 になります.しかし、0<x<1 では、y=1/x より、上側にあるような関数になってしまっていますので、もちろん、広義積分可能ではありません.

また、緑の関数は、y=1/\sqrt{x} ですが、反対に無限区間では、y=1/x より、上に来ているので、[1,\infty) では、広義積分可能ではありません.また、0<x<1 となる範囲では、y=1/x より下に来ているべき関数なので、積分可能です.




ちなみに、y=1/x より、下に位置する(べき関数とは限らない)関数だからといって積分できるわけではありません.例えば、代表的な関数

y=\frac{1}{x\log (x+1)}

は、xe-1 より大きくなると、明らかに、1/x よりは小さくなりますが、広義積分可能ではありません.

証明は簡単です.

t=\log (x+1) とおくと、
\int_1^c\frac{dx}{x\log (x+1)}=\int_{\log 2}^{\log (c+1)}\frac{e^t}{(e^t-1)t}dt
となりますから、
これらの関数が正の関数であることを考慮すると、

\int_1^c\frac{dx}{x\log (x+1)}=\int_{\log 2}^{\log (c+1)}\frac{e^t}{(e^t-1)t}dt>\int_{\log 2}^{\log (c+1)}\frac{dt}{t}\to \infty
となります.

よってこの積分は収束しません.
ちなみに、この関数は、 Mathematicaに入れてみると、収束判定はしてくれませんね.



授業中で学生の解答を見ていた時、

\int_0^1\frac{dx}{x(1-x)}
の収束判定について、TAは収束すると言っていましたが、
この広義積分は x=0,1 の両方に置いて収束しません.

x=0 においてやると、0<x<1 において、
\frac{1}{|x(1-x)|}=\frac{1}{|x|(1-|x|)}>\frac{1}{|x|}
となり、\frac{1}{|x|}x=0 での広義積分 \int_0^{b}\frac{dx}{x(1-x)} は収束しません.

よって、x=1 においても広義積分はもちろん収束しません.



関数のオーダー(ラージオー)と広義積分の収束について 

関数のオーダー(スモールオー)について、以前やりました.

この授業内の話であれば、こちら(リンク)です.
一般的な話については、こちら(リンク)です.

この前の授業では、ラージオーと広義積分の収束についての関係の話を少しだけしました.
ラージオーは、この授業では初めてで、このブログ内でしたら、こちら(リンク)に
書きました.定義が知りたい人は、上のリンクから辿って定義を確認してください.

しかし、新しい話ではなく、上で書いた話をまとめただけです.
また、授業で行ったことに少し訂正がありますので、それについても書きます.

上の広義積分の収束判定をラージオーを用いて書くと、

定理21(広義積分の判定法)
関数 f(x)f(x)=O(x^{-s})\ \ (x\to \infty) かつ、s>1 であるなら、
\int_a^\infty f(x)dx
広義積分は可能.

となります.授業中の話で訂正すべきところは、この逆は成り立たないということです.

f(x)=O(x^{-s})\ (x\to \infty) で、s\le 1 であっても、収束しないとは限らないということです.

当たり前な例として、

f(x)=1/x^2 としてやると、x\to \infty において、
\frac{1/x^2}{1/x}=\frac{1}{x}\to 0\ \ (x\to \infty) なので、
\frac{1}{x^2}=O(\frac{1}{x})
ですが、上で書いたように、\int_1^\infty\frac{dx}{x^2} は収束します.

もう一つの収束判定法を書いておくと、

定理22(広義積分の判定法)
関数 f(x)(a,b] で定義される関数で、f(x)=O((x-a)^{-s})\ \ (x\to a) かつ、s<1 であるなら、
\int_a^bf(x)dx
広義積分は可能.

ですが、この逆も成り立ちません.


このように、関数本体がどのような関数で抑えられるかわからなくても、関数のオーダーだけで、広義積分の収束を言うことができます.この方法もすっきりしていますが、
結局、不等式を使って関数を作るので、上で書いたこととほとんど同じような手間と思います.

2016年7月6日水曜日

線形代数続論演習(第10回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

今日は、

  • ジョルダン標準形
を求めました.

ジョルダン標準形

ジョルダン標準形とは、任意の正方行列 A に対して、ある正則行列 P に対して、
P^{-1}AP を前回のブログに書いたようたな、ジョルダンブロック行列の和の形に
なることです.

一つのブロック J(\lambda) は、対角成分 (i,i) 成分に固有値 \lambda(i,i+1) 成分に 1
並ぶような正方行列です.

そのような行列を J(\lambda) とすると、
\left( \begin{array}{cccc} J(\lambda_1) & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & J(\lambda_2) & 0\,\cdots & 0 \\ 0 & \cdots\,0 & \ddots & 0 \\ 0 & \cdots & 0 & J(\lambda_n) \\ \end{array} \right)

となるようになります.このとき、J(\lambda_i) は正方行列です.

任意の行列がこのような表現行列を持つということは、説明しませんでしたが、以下のようなことです.


まず、{\mathbb C}^n は広義固有空間の直和に分かれます.

{\mathbb C}^n=\oplus_{\lambda_i:\text{固有値}} V_{(\lambda_i)}

となります.
広義固有空間とは、固有値 \lambda に対して、
十分大きい m に対して、
V_{(\lambda)}=\left\{{\bf v}\in{\mathbb C}^n|(A-\lambda E)^m{\bf v}=0\right\}

となる空間のことです.広義固有空間の中には、普通の固有空間も
部分空間として入っています.つまり、

V_\lambda\subset V_{(\lambda)}

です.もちろん、広義固有空間も次元は正の数です.
次元は、固有多項式の \lambda の指数(解の重複度)の分だけあります.

つまり、\Phi_A(t) において、\lambdam 重根であれば、\dim V_{(\lambda)}=m
となります.

全ての固有値で、V_\lambda= V_{(\lambda)} となるとき、行列は、対角化可能と言います.

ジョルダン標準形の求め方

まず、広義固有空間を求めます.
十分大きい、 m とはどれくらいか?というと、その固有値の重複度くらいです.

例をもって説明をしていきます.


A=\left( \begin{array}{cccc} 1 & 2 & 0 & 1 \\ 1 & -2 & -2 & -2 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ -2 & 6 & 4 & 5 \\ \end{array} \right)

とします.
この行列の固有多項式を求めると、

(t-1)^3(t-2)

となりますので、固有値は、1,2 です.
広義固有空間を求めますが、固有値 2 の解の重複度は 1 ですので、\dim V_{2}\le \dim V_{(2)}=1 ですので、
V_{(2)}=V_2 となり、1次元となります.

その基底を求めると、

V_2=\left\langle\begin{pmatrix}0\\-1\\0\\2\end{pmatrix}\right\rangle

となります.
{\bf w}=\begin{pmatrix}0\\-1\\0\\2\end{pmatrix}

とおきます.

また、固有値 1 の広義固有空間は、その重複度が 3 となりますので、広義固有空間は

V_{(1)}=\{{\bf v}\in{\mathbb C}^4|(A-E)^3{\mathbb v}=0\}

となります.
3乗をいきなり計算するのは面倒なので、
A-E=\left( \begin{array}{cccc} 0 & 2 & 0 & 1 \\ 1 & -3 & -2 & -2 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ -2 & 6 & 4 & 4 \\ \end{array} \right)\to \left( \begin{array}{cccc}1 & -3 & -2 & -2 \\ 0 & 2 & 0 & 1 \\  0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)\to \left( \begin{array}{cccc}1 & -3 & -2 & -2 \\ 0 & 1 & 0 & \frac{1}{2} \\  0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)\to \left( \begin{array}{cccc}1 & 0 & -2 & -\frac{1}{2} \\ 0 & 1 & 0 & \frac{1}{2} \\  0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)=D

\left( \begin{array}{cccc}1 & 0 & -2 & -\frac{1}{2} \\ 0 & 1 & 0 & \frac{1}{2} \\  0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)(A-E)=\left( \begin{array}{cccc} 1 & -1 & -2 & -1 \\0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \\ \end{array} \right)=C

この最後の行列 C のランクは 1 です.
ですので、この行列からなる線形写像の核 \{{\bf v}\in{\mathbb C}^4|C{\bf v}=0\} は3次元あり、丁度 \dim V_{(1)} と一致します.
なので、V_{(1)}=\{{\bf v}\in{\mathbb C}^4|C{\bf v}=0\}=\{{\bf v}\in{\mathbb C}^4|(A-E)^2{\bf v}=0\}=\text{Ker}((A-E)^2)  となります.

V_{(1)}=\left\langle\begin{pmatrix}1\\1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}2\\0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\0\\0\\1\end{pmatrix}\right\rangle

となります.
この3次元のベクトルに対して、前回やったジョルダンブロック分解を行います.
\text{Ker}(A-E)=\{{\bf v}\in{\mathbb C}^4|(A-E){\bf v}=0\}=\{{\bf v}\in{\mathbb C}^4|D{\bf v}=0\}=\left\langle\begin{pmatrix}2\\0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1\\-1\\0\\2\end{pmatrix}\right\rangle

よって
\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E)=\left\langle\begin{bmatrix}1\\1\\0\\0\end{bmatrix}\right\rangle
となります.

{\bf v}_1=\begin{pmatrix}1\\1\\0\\0\end{pmatrix} とします.

{\bf v}_2=(A-E){\bf v}_1=\left( \begin{array}{c} 2 \\ -2 \\ 0 \\ 4 \\ \end{array} \right)

とします.

単射写像は、

\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E)\to \text{Ker}(A-E)
{\bf v}_1\mapsto {\bf v}_2

となりますが、\text{Ker}(A-E)/\langle{\bf v}_2\rangle

の基底は、\begin{bmatrix}2\\0\\1\\0\end{bmatrix}

となります.
ですので、
{\bf u}=\begin{pmatrix}2\\0\\1\\0\end{pmatrix}

とおくと、
V_{(1)}=\langle {\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u}\rangle
(A-E){\bf v}_1={\bf v}_2,\ (A-E){\bf v}_2=0,(A-E){\bf u}=0

となります.
よって、 {\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u} での A-E の表現行列は、

(A-E) ({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})=( {\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}

となります.
よって、

A({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})=( {\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u})\begin{pmatrix}1&1&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}

となります.
ここで、

({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u},{\bf w})
を基底とすると、

A({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u},{\bf w})=({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u},{\bf w})\begin{pmatrix}1&1&0&0\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&2\end{pmatrix}

となり、P=({\bf v}_2,{\bf v}_1,{\bf u},{\bf w}) とおけば、
P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&1&0&0\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&2\end{pmatrix}

のように、ジョルダン標準化されます.

つまり、

ジョルダン標準形を求めるには、広義固有空間ごとに、
前回やったようなジョルダンブロックに分解すれば良いことになります.

2016年7月5日火曜日

微積分I演習(第10回)

[場所1E101(水曜日4限)]

今日は


  • 有理関数の積分
  • 三角関数の積分
  • 広義積分
などを行いました.

有理関数の積分

有理関数の積分は基本です.どんな場合でもできなければなりません.
プリントに書いた積分は、

\int\frac{2x+1}{(x-1)^3}dx=\int\left(\frac{2}{(x-1)^2}+\frac{3}{(x-1)^3}\right)dx=-\frac{2}{x-1}-\frac3{2(x-1)^2}+C

となりますが、この部分分数分解は、
一旦 t=x-1 とおいて、
\int\frac{2(t+1)+1}{t^3}dt=\int(2t^{-2}+3t^{-3})dt=-2t^{-1}-\frac{3}{2}t^{-2}+C
と変形したものと同じです.後で、t=x-1 を入れます.


有理式の扱いまとめ
実数を係数とする多項式 g(x)
g(x)=(x-a_1)^{r_1}\cdots(x-a_n)^{r_n}(x^2+b_1x+c_1)^{s_1}\cdots(x^2+b_sx+c_s)^{s_m}

として、実数係数を持つ1次式 x-a_i と2次式 x^2+b_jx+c_j に分解することができます.
後者の2次式は虚数根をもつとします.

まず、有理式 \frac{f(x)}{g(x)}f(x)g(x) で割ってやることで、f(x) の次数が g(x) の次数を超えないようにしておきます.

そのようなとき、有理式 \frac{f(x)}{g(x)} は、

\sum_{i=1}^r\frac{f_i(x)}{(x-a_i)^{r_i}}+\sum_{j=1}^{s}\frac{f_{r+j}(x)}{(x^2+b_jx+c_j)^{s_j}}

のように分解することができます.ここで、\deg(f_i(x))\le r_i-1 かつ \deg(g_j(x))\le 2s_j-1
となります.

さらに、一つの項は
\frac{f_i(x)}{(x-a_i)^{r_i}}=\sum_{k=1}^{r_i}\frac{d_k}{(x-a_i)^{k}}
ここで、d_k はある実数.
のように分解することができますし、

\frac{f_{j+r}(x)}{(x^2+b_jx+c_j)^{s_j}}=\sum_{k=1}^{s_j}\frac{e_kx+f_k}{(x^2+b_jx+c_j)^{k}}



のようにさらに分解することができます.あとは、

\frac{e_kx+f_k}{(x^2+b_jx+c_j)^{k}}
の部分の積分ですが、一旦置換積分をして、
\frac{EX+F}{(X^2+1)^k}
としておいてから、さらに、

\frac{E}{2}\frac{2X}{(X^2+1)^k}+\frac{F}{(X^2+1)^k}

と分解します.
そして、それぞれは、 \int\frac{2X}{(X^2+1)^k}dX=-\frac{1}{k-1}\frac{1}{(X^2+1)^{k-1}}

となり、後半は、X=\tan t とおくことで、

dX=\frac{1}{\cos^2t}dt となり、

とすると、

\int\frac{dX}{(X^2+1)^k}=\int\frac{1}{(1+\tan^2t)^k}\frac{1}{\cos^2t}dt=\int\cos^{2k-2}tdt
となります.あとは、倍角の公式を使うか、漸化式を使って、計算することができるように
なります.
ちなみに、不定積分 \int \cos^{2n}tdt  は、n<5 までは、以下のようになります.
\int \cos^2tdt=\frac{t}{2}+\frac{1}{4} \sin (2 t) \int\cos^4tdt=\frac{3 t}{8}+\frac{1}{4} \sin (2 t)+\frac{1}{32} \sin (4 t)\ \int\cos^6tdt=\frac{5 t}{16}+\frac{15}{64} \sin (2 t)+\frac{3}{64} \sin (4 t)+\frac{1}{192} \sin (6 t) \int\cos^8tdt=\frac{35 t}{128}+\frac{7}{32} \sin (2 t)+\frac{7}{128} \sin (4 t)+\frac{1}{96} \sin (6 t)+\frac{\sin (8 t)}{1024}


  三角関数の積分

三角関数の積分ですが、\frac{f(\sin t,\cos t)}{g(\sin t, \cos t)} の形の式の場合の計算は、
必ず良く知っている形に帰着させることができます.
ここで、f(x,y),g(x,y)x,y の多項式です.

演習でやっていた、
\int\frac{\sin t}{2+\cos t}dt などは、X=2+\cos t などとおいてやることによって、
\int\frac{1}{X}dX に帰着させることができます.

つまり、
\int\frac{f(\cos t)}{g(\cos t)}\sin tdt の形(や \sin\cos の役割を入れ替えたもの)の積分は、X=\cos t などとおけばよいことになります.

また、\int \sin^ntdt や、先ほどもできた \int\cos^ndt は、漸化式を用いれば計算はすぐにできます.

そうでもないような場合で、手が思いつかないようなときは、
授業中説明をしましたが、

u=\tan\frac{t}{2} とおくというのが常套手段です.

du=\frac{dt}{2\cos^2\frac{t}{2}}=\frac{1}{2}\left(1+\tan^2\frac{t}{2}\right)dt=\frac{1}{2}(1+u^2)dt
となり、
dt=\frac{2du}{1+u^2}
が成り立ちます.また、
\sin t=2\sin \frac{t}{2}\cos \frac{t}{2}=2\tan\frac{t}{2}\cos^2\frac{t}{2}=\frac{2u}{1+u^2}
\cos t=2\cos^2 \frac{t}{2}-1=\frac{2}{1+u^2}-1=\frac{1-u^2}{1+u^2}

\frac{2}{1+u^2}=2\cos^2\frac{t}{2}=1+\cos t

のような変換をすることで、有理関数の積分に帰着させることができます.

例(積分定数は省略します)
\int\frac{1}{\sin t+\cos t}dt=\int\frac{1}{\frac{2u}{1+u^2}+\frac{1-u^2}{1+u^2}}\frac{2du}{1+u^2}
=-2\int\frac{1}{u^2-2u-1}du=-2\int\frac{du}{(u-1+\sqrt{2})(u-1-\sqrt{2})}
=-\frac{1}{\sqrt{2}}\int\left(\frac{1}{u-1-\sqrt{2}}-\frac{1}{u-1+\sqrt{2}}\right)du
=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\frac{u-1-\sqrt{2}}{u-1+\sqrt{2}}=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\frac{(u-1-\sqrt{2})^2}{u^2-2u-1}

=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\frac{u^2-2(1+\sqrt{2})u+3+2\sqrt{2}}{u^2-2u-1}
=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\left(1-\frac{2\sqrt{2}u-4-2\sqrt{2}}{u^2-2u-1}\right)
=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\left(1-\frac{\sqrt{2}\frac{2u}{1+u^2}-(2+\sqrt{2})\frac{2}{1+u^2}}{-\frac{1-u^2}{1+u^2}-\frac{2u}{1+u^2}}\right)
=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\left(1+\frac{\sqrt{2}\sin t-(2+\sqrt{2})(1+\cos t)}{\sin t+\cos t}\right)

=-\frac{\sqrt{2}}{2}\log\left(1+\sqrt{2}-\frac{2(1+\sqrt{2})\cos t+2+\sqrt{2}}{\sin t +\cos t}\right)

広義積分

広義積分は、無限区間の積分や開区間上の積分です.定義は、閉区間上の積分の
極限として計算しましょう.

例えば、

\int_a^\infty f(x)dx=\lim_{b\to \infty}\int_a^bf(x)dx
や、

\int_a^bf(x)dx=\lim_{c\to b-0}\int_a^cf(x)dx

のように定義します.後者は f(x)x=b では定義されていないことが前提です.
このとき、閉区間 [a,c] 上の積分を近づけて [a,b) 上の積分にします.

気をつけることは、定義されている部分から近づくことです.
区間の端に正の意味で近づくのか、負の意味で近づくのか明確にしないと、
値が違ってくることがあります.

次回に広義積分の演習を本格的にやることになります.