2017年6月15日木曜日

一次独立と一次従属

昨日手習い塾に行きましたら、とある先生のテスト返しが始まり、
多くの人が問題ありとのことで居残りにさせられていました。

その課題というのが、

一次独立と一次従属について

でした。

見た所、行列、数ベクトル空間、ランク、行列式などは学習しており、
一次独立、一次従属、線形結合など授業で既に習っており、そのテストだった模様です。

学生に、
「一次独立って知ってる?」と聞いてみると、

「はい、知っています。習いました。」との答え。

(なるほど。知っているんだな。感心、感心。)
と思って、さらに、

「じゃあ一次独立の定義は知っている?」とさらに聞いてみると、

「一次結合で表したら、その係数がゼロになる」

「何を表すの?」と問うと、

「だからベクトル....」

「どういうベクトル?」

だんだんしどろもどろになってきて、こちらも訳が分からなくなって来たので、
教科書か自分のノートを見返してもらうと、

ベクトル ${\bf v}_1,\cdots,{\bf v}_n$ が
$c_1{\bf v}_1+\cdots +c_n{\bf v}_n={\bf 0}$なら$c_1=c_2=\cdots =c_n=0$

と書いてある文章を指差して、
「これです。」とのことで、そのまま読んでくれました。

しかし、その意味は?と言っても、やはり理解はしていないようです。
つまり、定義がわかるようになるのはただ文章を読むだけではダメなのです。



一次独立であるとはこういうことです。

いくつかのベクトル ${\bf v}_1,\cdots {\bf v}_n$ があったとする。
次のような線形関係式
$$c_1{\bf v}_1+\cdots +c_n{\bf v}_n={\bf 0}$$
を考える。この関係式を満たす係数(スカラーともいう) $c_1,c_2,\cdots, c_n$ が
全てゼロの場合しかないとき、これらのベクトル ${\bf v}_1,\cdots {\bf v}_n$ は
一次独立という。

また一次独立でないとき、それらのベクトルは一次従属という。


まず、最初に理解すべきことは、係数を全てゼロにしてしまえば
この線形関係式はいつでもなりたつということです。
というのも、一般に、ベクトル ${\bf v}$ に対して、$0{\bf v}={\bf 0}$ なので、
$$0{\bf v}_1+0{\bf v}_2+\cdots+0{\bf v}_n={\bf 0}+{\bf 0}+\cdots+{\bf 0}={\bf 0}$$
となり、この場合、上の線形関係式はいつでも成り立ちます。
このような関係のことを自明な関係式といいます。

しかし、それ以外に関係式を満たすような係数 $c_1,c_2,\cdots c_n$ があるのか?
つまりそのような自明な関係の他に関係があるか?ということを問題にしているのです。

つまり、ベクトル ${\bf v}_1,\cdots {\bf v}_n$ が一次独立であるとは、
そのような自明でない関係が全く見つからないことをいうのです。

(例1)
$n=1$ とし、${\bf v}_1={\bf 0}$ とします。このとき、係数として $c_1=1$ などととって
おけば、$1\cdot {\bf 0}={\bf 0}$ となり、
$$c_1{\bf v}_1={\bf 0}$$
だが、$c_1\neq 0$ を満たすようにとれる。
だから、ゼロベクトルは一次独立でいられないので、いつでも一次従属となります。

しかし、${\bf v}_1\neq {\bf 0}$ であるとします。このとき、$c_1{\bf v}_1={\bf 0}$ を満たす
$c_1\neq 0$ を探します。もしあるとすると、
$\frac{1}{c_1}$ をこのベクトルにかけてやって、
$$\frac{1}{c_1}c_1{\bf v}_1={\bf v}_1={\bf 0}$$
となります。しかし、前提として ${\bf v}_1\neq {\bf 0}$ であったので、矛盾します。
ゆえに、そのような $c_1$ は存在しないということになります。
つまり、ゼロベクトルでないベクトル ${\bf v}_1$ は一つのベクトルとして
一次独立であることがわかります。

(例2)
$n=2$ とし、${\mathbb R}^2$ において ${\bf v}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$ かつ ${\bf v}_2=\begin{pmatrix}-1\\0\end{pmatrix}$ とします。
このとき、${\bf v}_1+{\bf v}_2={\bf 0}$ となります。
つまり、$c_1=c_2=1$ として、$c_1{\bf v}_1+c_2{\bf v}_2={\bf 0}$ となるような
例が作れました。
よって、この2つのベクトル ${\bf v}_1,{\bf v}_2$ は一次従属となります。
さらにいえば、どちらもゼロベクトルではありません。

一般に、2つのベクトル ${\bf v}_1,{\bf v}_2$ が平行であるとき、つまり、
あるスカラー $c$ があって、${\bf v}_2=c{\bf v}_1$ であるなら、それらのベクトルは
一次従属です。
なぜなら、$c{\bf v}_1-{\bf v}_2={\bf 0}$ という線形関係式が作れて、係数 $c,-1$ は当然
どちらもゼロになってない。

一方、${\bf v}_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$ かつ ${\bf v}_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$ としてみます。このとき、
$$c_1{\bf v}_1+c_2{\bf v}_2={\bf 0}$$
なる線形関係式に $(c_1,c_2)=(0,0)$ 以外の解があるかどうかを考えてみます。
上の式を整理すると、
$$\begin{pmatrix}c_1\\c_2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}$$
となるので、$c_1=c_2=0$ となります。
つまり、この関係式から、どちらもゼロという条件が出てしまいます。

これは、自明な関係式以外に関係がないということを表しているのです。

また、2つのベクトルが一次独立であれば、必ず平行にはなりません。
もしそうだとすると、上で書いたように一次従属になってしまうからです。
つまり、

2つのベクトルが一次従属であるとは、
その2つのベクトルが平行であるか、もしくは一方がゼロベクトルであること。

となります。式で書けば、2つのベクトルの線形関係式に全てゼロでない係数をもつものが存在することと言っても同じことなのです。つまり、一次独立であるとは、2つのベクトルが平行でない、全く関係のない方向に向いているということです。平面上の直線のイメージで言えば、一点で交わるものとどこまでいっても交わらないもの(直線として一致しているものも含む)として区別されます。

そして、3つ以上のベクトルが一次独立であるということも、同じように、${\mathbb R}^3$ の元を用いて考えることができます。そのとき、

3つのベクトルが一次従属であるとは
その3つのベクトルが同一平面上にあるか、もしくはその一つがゼロベクトルであること。

となります。

3つの一次独立なベクトルは、例えば、たてよこたかさの3つの全く違う方向を向いたベクトル同士をイメージします。

これでひとまず、一次独立の定義に関する説明は終わります。
定義を知っているというと、教科書の記述を指差すだけではなく、
ここまでの説明を一人でできるようになることを意味します。
そのためには、自分で例を考えたり、いくつか問題を解いてみないといけません。


この先生のテストで出ていた問題の一つをここで解説しておきます。


問題
次の命題は正しいか?
${\bf v}_1, {\bf v}_2,\cdots {\bf v}_n\in {\mathbb R}^m$ が一次独立なら、
$n\le m$ である。


一次独立というベクトルの線形関係式に関する性質のどこからこの不等式が来るのか?
初めてみた人は甚だ疑問に思うかもしれません。

もし分からなければ対偶をとってみます。すると、

$m<n$ ならば、${\bf v}_1, {\bf v}_2,\cdots {\bf v}_n\in {\mathbb R}^m$ は一次従属である。

となります。つまり、空間の次元より多くベクトルを取ってやるといつのまにか
一次従属になってしまうということです。

一次従属のさっきの感覚があれば、例えば、${\mathbb R}$ において、ベクトルとは、原点を通る直線(もしくはゼロ)なので、直線のむかう先は無限の方向、2個以上とると、
どうしたって平行になってしまう。つまり一次従属になってしまいます。

また、平面の場合でも、3個以上取ってしまうと、2個までが平行でなくても、
3つのベクトルが同一平面上にあるわけだから一次従属なってしまう。

どうやらこの命題は正しそうです。

しかし、一般にどうやって証明をするのか?
もちろん、使えるのは一次独立などの定義や、ベクトルの演算のみ。

${\bf e}_i$ を ${\mathbb R}^m$ の元で、$i$ 番目が $1$ で、他が $0$ となる基本ベクトル
とします。つまり、${\bf e}_1,\cdots, {\bf e}_m$ だけあります。

このとき、${\bf v}_j=\sum_{k=1}^ma_{kj}{\bf e}_k$ のように書くことができます。
$a_{kj}$ は ${\bf v}_j$ の第 $k$ 成分ということです。

そうすると、上の関係式は、
$$c_1{\bf v}_1+\cdots +c_n{\bf v}_n=c_1\sum_{k=1}^ma_{k1}{\bf e}_k+\cdots +c_n\sum_{k=1}^ma_{kn}{\bf e}_k$$
$$=\sum_{i=1}^m\left(\sum_{j=1}^nc_ja_{ij}\right){\bf e}_i={\bf 0}$$
となり、$A=(a_{ij})$ とすると、
$$A\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}={\bf 0}\ \ \ (\ast)$$
となります。
ここで、$A$ は $ij$ 成分が $a_{ij}$ となる行列です。

このとき、問題は、この連立一次方程式に自明な解 $\begin{pmatrix}0\\0\\\vdots\\0\end{pmatrix}$ 以外に解を持つか?
という問題を考えます。(今はそれ以外に解をもつことを示したい。)

条件は、$m<n$ なのでこの行列が横長であることです。

つまり、連立一次方程式 $(\ast)$ を解けばよいのです。

連立一次方程式の解き方は、係数行列 $A$ に行列の(行の)基本変形をしていき、
階段行列にしたあと、パラメータのある部分とそうでない部分に分けられ
完全に解を与えるというものです。
このブログでも何回か書いてきました。
例えば、

2016年線形代数続論演習第1回(リンク)
2014年線形代数II演習第5回(リンク)
です。(よくみたら、最近3年は線形代数Iの方の授業はしていませんでした。)


つまり、係数行列 $A$ を基本変形をして、下のような階段行列 $B$ をえることができます。
$B$ を縦ベクトルの集まりとして、
$$B=({\bf b}_1{\bf b}_2\cdots {\bf b}_n)$$
として書いた時に。そのいくつか $\{{\bf b}_{i_1},\cdots, {\bf b}_{i_r}\}$ が
${\mathbb R}^m$ の基本ベクトルになっており、それ以外の縦ベクトルは、
その基本ベクトルの一次結合で書ける。

そのような行列 $B$ まで基本変形で変形していけるのです。

${\mathbb R}^m$ には基本ベクトルはたかだか $m$ 個しかありませんので、
必然的に、$r\le m$ です。

今、$m<n$ であるとすると、特に、$r<n$ であり、縦ベクトルは全部で
$n$ 個あるので、それ以外の基本ベクトルの一次結合でかけるようなベクトル
${\bf b}_k$ が存在します。

つまり、${\bf b}_k=c_{i_1}{\bf b}_{i_1}+\cdots +c_{i_r}{\bf b}_{i_r}$ となります。
よって、$\{{\bf b}_k,{\bf b}_{i_1},\cdots, {\bf b}_{i_r}\}$ は一次従属だということになります。

よって、$\{{\bf b}_1,{\bf b}_2,\cdots, {\bf b}_m\}$ も一次従属となり、
$c_1{\bf b}_1+c_2{\bf b}_2+\cdots+ c_m{\bf b}_m={\bf 0}$ なる全てゼロでない係数
$c_1,\cdots, c_n$ が存在します。
よって、$B\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}={\bf 0}$ に自明でない解が
存在し、とくに、$(\ast)$ にも自明でない解が存在することになります。

これは、元に戻って ${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots ,{\bf v}_n$ が一次従属であることが証明されました。

つまり、$m<n$ ならば、${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots ,{\bf v}_n$ が一次従属であることになり、元の命題に直せば、
${\bf v}_1,{\bf v}_2,\cdots ,{\bf v}_n$ が一次独立ならば、$n\le m$ が成り立つ。

よって命題は正しい。

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