2016年1月30日土曜日

線形代数II演習(第13回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は
  • 対角化可能
  • 最小多項式
  • 直交行列
  • 実対称行列の直交行列による対角化
についてやりました.

行列の対角化可能性

行列が対角化可能とは、ある正則行列 $P$ が存在して、
$P^{-1}AP$ が対角行列になるようにできることです.

定理
$n\times n$ 行列 $A$ が対角化可能であることと、${\mathbb C}^n$ の基底として、$A$ の固有ベクトルからなるものが存在することは同値である.

この定理は、前回の宿題を解くと、自然にわかります.
というのも、もし、$A$ が対角化可能とすると、対角行列 $D$ と、正則行列 $P$ を使って
$P^{-1}AP=D$ となります.

この式に左から $P$ を掛けることによって、$AP=PD$ となります.
$P$ を列ベクトルによる分解をしておくと、$A{\bf p}_i=\alpha_i{\bf p}_i$ となります.

ここで、${\bf p}_i$ は $P$ の第 $i$ 列であり、 $\alpha_i$ は $D$ の $(i,i)$-成分です.

つまり、 ${\bf p}_i$ が固有値 $\alpha_i$ の固有ベクトルであることになります. $P$ は正則行列ですので、$\{{\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\}$ は ${\mathbb C}^n$ の基底ということになります.よって、全て $A$ の固有ベクトルからなる ${\mathbb C}^n$ が作られました.

逆に、 ${\mathbb C}^n$ に $A$ の固有ベクトルからなる基底が存在したとするとします. それを $\{{\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\}$ とすると、それらを列ベクトルとする正方行列を $P$ とすると、$P$ は明らかに正則行列で、 ${\bf p}_i$ たちは固有ベクトルであることから、$A{\bf p}_i=\alpha_i{\bf p}_i$ となります.これらをまとめて、$AP=PD$ となることがわかります.$D$ は $\alpha_i$ を $(i,i)$-成分にもつ対角行列になります.

$\{\alpha_1,\cdots,\alpha_n\}$ を同じ固有値毎にまとめておけば、固有値の集合 $\{\lambda_1,\cdots,\lambda_r\}$ から、固有空間 $W_{\lambda_i}$ の次元の和は、
$\sum_{n=1}\dim W_{\lambda_i}=n$ となります.
任意の固有値 $\lambda_i\neq \lambda_j$ ならば、$W_{\lambda_i}+W_{\lambda_j}=W_{\lambda_i}\oplus W_{\lambda_j}$ となり、
$${\mathbb C}^n=\langle {\bf p}_1,\cdots,{\bf p}_n\rangle \subset W_{\lambda_1}+\cdots+W_{\lambda_r}= W_{\lambda_1}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}\subset {\mathbb C}^n$$
となるので、$W_{\lambda_1}\oplus\cdots\oplus W_{\lambda_r}= {\mathbb C}^n$
がいえ、特に次元を数えると、
$$\sum_{n=1}^r\dim(W_{\lambda_i})=n$$
となります.これは、$A$ が対角化可能の必要十分条件になります.

つまり、

定理
$n\times n$ 行列 $A$ が対角化可能であることと、$\sum_{i=1}^r\dim W_{\lambda_i}=n$ となることは同値である.


なので、$A$ が対角化可能かどうかはその固有空間の次元をチェックすれば済みます.

他の判定条件もあります.

定理
$n\times n$ 行列 $A$ の固有値が丁度 $n$ 個あれば、行列 $A$ は対角化可能.

というのも、$W_{\lambda_i}$ を固有値 $\lambda_1,\cdots,\lambda_n$ の固有値とすると、
$\dim W_{\lambda_i}\ge 1$ であるので、$\sum_{i=1}^n\dim W_{\lambda_i}\le n$ と組み合わせれば、必ず $\sum_{i=1}^n\dim W_{\lambda_i}=n$ が成り立ちます.


ですので、$A$ が対角化可能かどうかは、まずは固有多項式を計算して、それが、相異なる $n$ 個の解を持つかどうかを確かめなければなりません.

丁度 $n$ 個の固有値を持つということは、固有多項式 $\Phi_A(t)$ には2次の因子を含まないということです.つまり、$\Phi_A(t)$ を因数分解をしたときに、その因子として $(t-\alpha)^m\ (m>1)$ となるようなものが現れないということと同じです.


例えば、$\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ とすると、
固有多項式 $\Phi_A(t)$ は $t^2-1$ となり、固有値は $\pm1$ となります.
ゆえに、この行列は対角化可能となります.

実際、固有ベクトルは、$\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ となり、
$P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ とすると、
$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ となります.


最小多項式

正方行列 $A$ に対して、その最小多項式 $M_A(t)$ とは、
$f(A)=O$ となる多項式のうち、最小次数であり、最高次の係数が 1 となるものを言います.そのような多項式は一意に定めることができます.

また、そのような多項式は、$\Phi_A(t)$ の約多項式になっており、$\Phi_A(t)$ の根をその根として含みます.極端なことを言えば、$\Phi_A(t)$ の約多項式だからと言って、$f(x)=1$ のような多項式はあり得ません.どんな行列を入れても $O$ にはならないからです.

ここで、対角化に関して以下のことが知られています.


定理
$A$ が対角化されるための必要十分条件は、$M_A(t)$ が2次以上の因子を含まないことである.

つまり、$M_A(t)=(t-\lambda_1)(t-\lambda_2)\cdots (t-\lambda_r)$ となることです.
ここで、$\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_r$ は固有値の集合です.

例えば、$A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ とすると、$\Phi_A(t)=(t-1)^2$ となります.
上に書いたことから、$M_A(t)$ は $1$ はありえなくて、$t-1$ か $(t-1)^2$ ですが、
最小性のために代入してみると、$M_A(A)=A-E$ は $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}\neq O$ となり、成り立ちません.よって、$M_A(t)=(t-1)^2$ の方が最小多項式ということになります.

つまり、$A$ は対角化できないということになります.

よって、固有値が一つしかないような行列を $A$ とすると、
$A$ が対角化できるための必要十分条件は $A$ がスカラー行列 $\lambda E$ となることです.

(証明)固有値が一つしかないとすると、$\Phi_A(t)=(t-\lambda)^n$ となり、$A$ が対角化できるためには、$M_A(t)=t-\lambda$ であることが必要十分.$t-\lambda$ が最小多項式であるためには、$M_A(A)=A-\lambda E=O$ でなければならないから、$A=\lambda E$ となります.逆に$\lambda E$ は明らかに対角化できます.

実対称行列の対角化

実対称行列 $A$ は実固有値を持ちます.
これは授業中にはコメントしなかったような気がするのでここで書いておきます.

${\mathbb C}^n$ 上の標準内積を、$({\bf x},{\bf y})={}^t{\bf x}\cdot\overline{\bf y}$ とします.
$\lambda$ を$A$ の固有値とします.その固有ベクトルを ${\bf v}$ とします.
このとき、
$\bar{\lambda}({\bf v},{\bf v})=({\bf v},\lambda{\bf v})=({\bf v},A{\bf v})={}^t{\bf v}\cdot\overline{A{\bf v}}={}^t{\bf v}\bar{A}\cdot\bar{\bf v}=({}^t\bar{A}{\bf v},{\bf v})=(A{\bf v},{\bf v})=(\lambda{\bf v},{\bf v})=\lambda({\bf v},{\bf v})$
$({\bf v},{\bf v})$ は $0$ ではないので、両辺をこれで割って、$\lambda=\bar{\lambda}$ となります.つまり $\lambda$ は実数となります.

また、

定理
実対称行列は実固有値をもち、直交行列によって対角化可能.

が成り立ちます.この対称行列の主張は、${\mathbb R}^n$ の正規直交基底として $A$ の固有ベクトルが選べるということです.

直交行列とは、$P{}^tP=E$ となる実行列 $P$のことです.

つまり、$P$ の縦ベクトルもしくは横ベクトルは、${\mathbb R}^n$ の標準内積による正規直交基底になっているものです.

また、直交行列の性質として、$(P{\bf v},P{\bf w})=({\bf v},{\bf w})$ が成り立ちます.
つまり $P$ は長さや角度を変えない線形変換です.
例えば、どこかの軸周りの回転や、ある超平面での折り返し(対象変換)などがこれに相当します.
これらは線形変換です.

${\bf v},{\bf w}$ が相異なる固有値 $\lambda,\mu$ に属する固有ベクトルとします.
$\lambda({\bf v},{\bf w})=(\lambda {\bf v},{\bf w})=(A{\bf v},{\bf w})={}^t(A{\bf v})\cdot {\bf w}={}^t{\bf v}\cdot A{\bf w}=({\bf v},A{\bf w})=({\bf v},\mu{\bf w})=\mu({\bf v},{\bf w})$
となります.

$\lambda-\mu\neq 0$ なので、$({\bf v},{\bf w})=0$ となります.
よって、固有空間同士は直交します.
固有空間から正規直交基底を作ることはグラムシュミットの方法から簡単です.

上の対称行列の主張を説明するには不十分ですが、これ以上はここではやめておきます.


上記の $A=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ は対称行列ですから、固有ベクトルとして、正規直交基底が作れて、直交行列によって対角化されます.

$P=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ でしたが、この縦ベクトルをシュミットの直交化をして正規直交化をすることで、
$P'=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\\\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{2}}\end{pmatrix}$
とすれば、$P'$ は直交行列であり、この $P'$ によって
$(P')^{-1}AP'=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$ となります.

ユニタリー行列による対角化

$A^\ast={}^t\bar{A}$ とします.つまり $\ast$ は転置と共役をとる操作です.
このとき、行列 $U$ がユニタリー行列とは
$U^\ast U=UU^\ast=E$ となるような行列のことです.

また、行列 $A$ がエルミート行列とは、$A^ast=A$ となる行列です.
実は、この行列に関して以下の定理が成り立ちます.

定理
エルミート行列は実数を固有値としてもち、ユニタリー行列によって対角化できる.


ユニタリー行列による対角化についての条件として、
次の定理が成り立ちます.

$AA^\ast=A^\ast A$ となる行列を正規行列といいます.

定理
行列 $A$ がユニタリー行列によって対角化できるための必要十分条件は、$A$ が正規行列であることである.


この定理の証明も普通の線形代数の教科書には載っているので標準的な内容です.
上のように実対称行列やエルミート行列のユニタリー行列による対角化についての主張はこの定理に集約されます.実対称行列やエルミート行列は全て正規行列になっています.

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