[場所1E103(水曜日4限)]
HPに行く.
今日は
固有値、固有ベクトル
固有値、固有ベクトルというのは、初めての登場でしょうか.
ここでは、数ベクトル空間の場合にまずやります.
数ベクトル空間の固有、固有ベクトル
$A$を $n\times n$ 行列とします.
${\mathbb C}^n$ のゼロではないベクトル ${\bf v}$ と複素数(一般にスカラー)$\lambda$ が存在して、$A{\bf v}=\lambda{\bf v}$ となるとき、
$\lambda$ を固有値といい、${\bf v}$ を $A$ の($\lambda$ に付随する)固有ベクトルといいます.
移項して考えれば、連立一次方程式
$$(\lambda E-A){\bf v}=0$$
を使って、$\lambda$ ${\bf v}$ を探すという問題になります.
ここまでの最重要ポイントは、${\bf v}\neq 0$ ということです.
このことをお忘れなく.
$\lambda,{\bf v}$ を探すのですが、$(\lambda E-A){\bf v}=0$ であることから、$\lambda E-A$ は正則ではないことが分かります.
もし正則なら、$\lambda E-A$ の逆行列を左からかけて、${\bf v}=0$ となってしまうからです.
行列が正則ではないことの必要十分条件から、 $\det(\lambda E-A)=0$ がなりたちます.
この式の $\lambda$ を $t$ に変えて $\lambda$ を求める式を書いたものを
$\Phi_A(t)=\det(t E-A)$ とかき、$A$ の固有多項式といいます.
つまり固有値は固有多項式の根になり、逆に固有多項式の根は、行列 $A$ の固有値になります.
逆の方は $\lambda$ が根とすれば、$\det(\lambda E-A)=0$ となるので、正則ではない行列から作られる連立一次方程式には、非自明解 (つまり ${\bf v}\neq 0$ となるベクトル) が存在します.
最後の主張は、線形代数をもうすぐ卒業となる人たちならもう証明できますね?
よって、$\lambda$ は $\Phi_A(t)=0$ をとくことで求められます.$\Phi_A(t)$ は $n$ 次多項式です.
そして、$\lambda$ に付随する固有ベクトル ${\bf v}\neq 0$ は連立一次方程式 $(\lambda E-A){\bf v}=0$ を解いて得られます.
固有空間
$\lambda$ を行列 $A$ の固有値とします.つまり、$\det(\lambda E-A)=0$ となる複素数です.
このとき、
$$W_\lambda=\{{\bf v}\in {\mathbb C}^n|(\lambda E-A){\bf v}={\bf 0}\}$$
なる空間を固有空間といいます.
この空間には、ゼロではないベクトルを含みますので、必ず次元は1以上あります.
つまり、$\dim W_{\lambda}\ge 1$ です.
授業中にも言いましたが、$\lambda$ が固有値でなくても、$W_\lambda$ が定義できますが、その場合 $W_{\lambda}$ はゼロベクトルからなるゼロ次元ベクトル空間となります.
計算中 $W_\lambda$ がゼロベクトルからなるものができるとすると、$\lambda$ は固有値ではないか、$W_\lambda$ を求めるところで計算間違いしたかどちらであり、このことは非常に分かりやすい検算方法といえるでしょう.
大抵の場合、一箇所計算ミスをすると $\lambda E-A$ は正則になってしまいますから、たちまち $W_\lambda$ はゼロベクトル空間になってしまいます.
固有値と固有空間が求まりましたので、数ベクトル空間での話は終わりです.
一般の線形変換の固有値、固有ベクトル
一般のベクトル空間 $V$ の間の線形変換 $F:V\to V$ に対しても固有値、固有ベクトルが定義できます.これは授業中でやったものです.
$F({\bf w})=\lambda {\bf w}$ となる非ゼロベクトル ${\bf v}$ を固有ベクトル、$\lambda$ を固有値といいます.
同じように移項して、$(\lambda I-F)({\bf w})=0$ なる $\lambda, {\bf w}$ を求めればよいです.
$I$ は ${\bf u}\mapsto {\bf u}$ となる恒等変換です.
このことから、${\bf w}\in \text{Ker}(\lambda I-F)$ となります.
一般のベクトル空間の核 (Ker) を求めるには、一度基底を使って
$\lambda I-F$ を表現しておく必要があります.
$F({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)A$
と表現しておきます.授業中指摘されましたが、この左辺は
$F({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)=(F({\bf w}_1),\cdots,F({\bf w}_n))$ の意味です。
よって、$\lambda I-F$ の表現行列は、
$\lambda E-A$ となります.つまり、
$$(\lambda I-F)({\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n)=({\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n)(\lambda E-A)$$
です.
${\bf w}\in V$ を上の基底を使って表示したものを
${\bf w}=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$ とします.
ここで、${\bf v}=\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$ とします.
$$(\lambda I-F)({\bf w})=0 \Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}=0$$
を以下証明します.
$(\lambda I-F)({\bf w})=0$ ならば、$\sum_{i=1}^na_i(\lambda I-F)({\bf w}_i)=0$ となり、$(\lambda I-F)({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)(\lambda E-A)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=0$ となります.
今、${\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n$ は基底ですので、$(\lambda E-A)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=0$
がいえるわけです.この議論を逆に辿ることで、上の同値関係
$$(\lambda I-F)({\bf w})=0 \Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}=0$$
がわかります.
よって、
$$\lambda\text{ が }F\text{ の固有値}\Leftrightarrow \lambda\text{ が }A\text{ の固有値}$$
もいえます.
つまり、$F$ の固有値を計算するには、まず線形変換を行列で表現しておいてその行列を使って固有値、固有ベクトルを求め、もう一度基底をつかって戻すということになります.
基底をとったことによる不定性
基底はこちらで適当に選びました.そのことによる不定性はないのか?
という疑問がわくかもしれません.
このことは授業中にも述べたように大丈夫です.
意味としては、基底を別なものに取り替えたときに、固有値や固有ベクトルも別なものに取り替えられないのか?ということです.
基底を正則行列 $P$ を使って $({\bf w}_1',\cdots, {\bf w}_n')=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)P$
のように変換したとき、$F$ の表現行列は、$P^{-1}AP$ となります.
あたらしく ${\bf w}_1',\cdots, {\bf w}_n'$ を基底として $F$ の固有値を求めるとすると、
$\Phi_{P^{-1}AP}(t)$ を求めることになりますが、この多項式は $\Phi_A(t)$ と一致することが
下のようにして直接分かります.
$\Phi_{P^{-1}AP}(t)=\det(t I-P^{-1}AP)=\det(P^{-1}(tI-A)P)$$
$$=\det(P^{-1})\det(tI-A)\det(P)=\det(P)\det(P^{-1})\det(tI-A)$$
$$=\det(P^{-1}P)\det(tI-A)=\det(tI-A)=\Phi_A(t)$
さらに、固有空間も一致することが証明できますが、ここでは省略します.
また、具体例は授業中に述べたのでここでは省略します.
宿題の健闘を祈ります.
訂正
前回の宿題において、B-11-2 がヒントと書きましたが、B-11-2 は間違っておりました.
手習い塾で指摘されました.
正確には $(y_1,\cdots,y_n)=(w_1,\cdots, w_n)P^{-1}$ であることを示せということです.
HPに行く.
今日は
- 固有値、固有ベクトル
- 固有空間
固有値、固有ベクトル
固有値、固有ベクトルというのは、初めての登場でしょうか.
ここでは、数ベクトル空間の場合にまずやります.
数ベクトル空間の固有、固有ベクトル
$A$を $n\times n$ 行列とします.
${\mathbb C}^n$ のゼロではないベクトル ${\bf v}$ と複素数(一般にスカラー)$\lambda$ が存在して、$A{\bf v}=\lambda{\bf v}$ となるとき、
$\lambda$ を固有値といい、${\bf v}$ を $A$ の($\lambda$ に付随する)固有ベクトルといいます.
移項して考えれば、連立一次方程式
$$(\lambda E-A){\bf v}=0$$
を使って、$\lambda$ ${\bf v}$ を探すという問題になります.
ここまでの最重要ポイントは、${\bf v}\neq 0$ ということです.
このことをお忘れなく.
$\lambda,{\bf v}$ を探すのですが、$(\lambda E-A){\bf v}=0$ であることから、$\lambda E-A$ は正則ではないことが分かります.
もし正則なら、$\lambda E-A$ の逆行列を左からかけて、${\bf v}=0$ となってしまうからです.
行列が正則ではないことの必要十分条件から、 $\det(\lambda E-A)=0$ がなりたちます.
この式の $\lambda$ を $t$ に変えて $\lambda$ を求める式を書いたものを
$\Phi_A(t)=\det(t E-A)$ とかき、$A$ の固有多項式といいます.
つまり固有値は固有多項式の根になり、逆に固有多項式の根は、行列 $A$ の固有値になります.
逆の方は $\lambda$ が根とすれば、$\det(\lambda E-A)=0$ となるので、正則ではない行列から作られる連立一次方程式には、非自明解 (つまり ${\bf v}\neq 0$ となるベクトル) が存在します.
最後の主張は、線形代数をもうすぐ卒業となる人たちならもう証明できますね?
よって、$\lambda$ は $\Phi_A(t)=0$ をとくことで求められます.$\Phi_A(t)$ は $n$ 次多項式です.
そして、$\lambda$ に付随する固有ベクトル ${\bf v}\neq 0$ は連立一次方程式 $(\lambda E-A){\bf v}=0$ を解いて得られます.
固有空間
$\lambda$ を行列 $A$ の固有値とします.つまり、$\det(\lambda E-A)=0$ となる複素数です.
このとき、
$$W_\lambda=\{{\bf v}\in {\mathbb C}^n|(\lambda E-A){\bf v}={\bf 0}\}$$
なる空間を固有空間といいます.
この空間には、ゼロではないベクトルを含みますので、必ず次元は1以上あります.
つまり、$\dim W_{\lambda}\ge 1$ です.
授業中にも言いましたが、$\lambda$ が固有値でなくても、$W_\lambda$ が定義できますが、その場合 $W_{\lambda}$ はゼロベクトルからなるゼロ次元ベクトル空間となります.
計算中 $W_\lambda$ がゼロベクトルからなるものができるとすると、$\lambda$ は固有値ではないか、$W_\lambda$ を求めるところで計算間違いしたかどちらであり、このことは非常に分かりやすい検算方法といえるでしょう.
大抵の場合、一箇所計算ミスをすると $\lambda E-A$ は正則になってしまいますから、たちまち $W_\lambda$ はゼロベクトル空間になってしまいます.
固有値と固有空間が求まりましたので、数ベクトル空間での話は終わりです.
一般の線形変換の固有値、固有ベクトル
一般のベクトル空間 $V$ の間の線形変換 $F:V\to V$ に対しても固有値、固有ベクトルが定義できます.これは授業中でやったものです.
$F({\bf w})=\lambda {\bf w}$ となる非ゼロベクトル ${\bf v}$ を固有ベクトル、$\lambda$ を固有値といいます.
同じように移項して、$(\lambda I-F)({\bf w})=0$ なる $\lambda, {\bf w}$ を求めればよいです.
$I$ は ${\bf u}\mapsto {\bf u}$ となる恒等変換です.
このことから、${\bf w}\in \text{Ker}(\lambda I-F)$ となります.
一般のベクトル空間の核 (Ker) を求めるには、一度基底を使って
$\lambda I-F$ を表現しておく必要があります.
$F({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)A$
と表現しておきます.授業中指摘されましたが、この左辺は
$F({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)=(F({\bf w}_1),\cdots,F({\bf w}_n))$ の意味です。
よって、$\lambda I-F$ の表現行列は、
$\lambda E-A$ となります.つまり、
$$(\lambda I-F)({\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n)=({\bf w}_1\cdots,{\bf w}_n)(\lambda E-A)$$
です.
${\bf w}\in V$ を上の基底を使って表示したものを
${\bf w}=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$ とします.
ここで、${\bf v}=\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}$ とします.
$$(\lambda I-F)({\bf w})=0 \Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}=0$$
を以下証明します.
$(\lambda I-F)({\bf w})=0$ ならば、$\sum_{i=1}^na_i(\lambda I-F)({\bf w}_i)=0$ となり、$(\lambda I-F)({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)(\lambda E-A)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=0$ となります.
今、${\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n$ は基底ですので、$(\lambda E-A)\begin{pmatrix}a_1\\a_2\\\vdots\\a_n\end{pmatrix}=0$
がいえるわけです.この議論を逆に辿ることで、上の同値関係
$$(\lambda I-F)({\bf w})=0 \Leftrightarrow (\lambda E-A){\bf v}=0$$
がわかります.
よって、
$$\lambda\text{ が }F\text{ の固有値}\Leftrightarrow \lambda\text{ が }A\text{ の固有値}$$
もいえます.
つまり、$F$ の固有値を計算するには、まず線形変換を行列で表現しておいてその行列を使って固有値、固有ベクトルを求め、もう一度基底をつかって戻すということになります.
基底をとったことによる不定性
基底はこちらで適当に選びました.そのことによる不定性はないのか?
という疑問がわくかもしれません.
このことは授業中にも述べたように大丈夫です.
意味としては、基底を別なものに取り替えたときに、固有値や固有ベクトルも別なものに取り替えられないのか?ということです.
基底を正則行列 $P$ を使って $({\bf w}_1',\cdots, {\bf w}_n')=({\bf w}_1,\cdots, {\bf w}_n)P$
のように変換したとき、$F$ の表現行列は、$P^{-1}AP$ となります.
あたらしく ${\bf w}_1',\cdots, {\bf w}_n'$ を基底として $F$ の固有値を求めるとすると、
$\Phi_{P^{-1}AP}(t)$ を求めることになりますが、この多項式は $\Phi_A(t)$ と一致することが
下のようにして直接分かります.
$\Phi_{P^{-1}AP}(t)=\det(t I-P^{-1}AP)=\det(P^{-1}(tI-A)P)$$
$$=\det(P^{-1})\det(tI-A)\det(P)=\det(P)\det(P^{-1})\det(tI-A)$$
$$=\det(P^{-1}P)\det(tI-A)=\det(tI-A)=\Phi_A(t)$
さらに、固有空間も一致することが証明できますが、ここでは省略します.
また、具体例は授業中に述べたのでここでは省略します.
宿題の健闘を祈ります.
訂正
前回の宿題において、B-11-2 がヒントと書きましたが、B-11-2 は間違っておりました.
手習い塾で指摘されました.
正確には $(y_1,\cdots,y_n)=(w_1,\cdots, w_n)P^{-1}$ であることを示せということです.
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