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2019年6月15日土曜日

数学外書輪講I(第7回)

[場所1E501(月曜日5限)]

HPに行く

今回は、誰も発表者がいなかったので、線形代数の復習をしました。

(7) 3つのベクトル v_1, v_3  v_3 のうちどの2つをとっても一次独立であるとき、これらは一次 独立か?

これは、ダメです。

{\mathbb R}^2 の場合を考えてみます。
v_1=\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}, v_2=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}, v_3=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix} としてみれば、
どの2つも平行ではないので、1次独立になりますが、
3つの間には、v_3=v_1+v_2 が成り立つのでこれらの間では一次独立ではありません。


(10) 2\times 2 正方行列で対角化できない行列の例をあげよ。


ですが、1年生の授業では、対角化可能条件はやらなかったそうです。
ここでは、対角化可能条件について、まとめておきます。
An 次正方行列とします。\lambda_1,\lambda_2,\cdots, \lambda_r
A の固有値全体とします。また、W_{\lambda_i} を固有値 \lambda_i
固有空間とします。このとき、以下が成り立ちます。


定理
A が対角化できるためには、
n=\sum_{i=1}^r\dim(W_{\lambda_i})
が成り立つことが必要十分である。

(証明)
A が対角化できるとすると、正則行列 P と対角行列 D が存在して、
P^{-1}AP=D となります。P を左からかけて、AP=PD としておきます。
P の第 i 列を p_i とし、D の対角成分を d_1,d_2,\cdots, d_n とします。
i 列だけみると、Ap_i=d_i p_i が成り立ちます。
よって、p_i は固有値 d_i に属する A の固有ベクトルとなります。
また、P は正則であるので、
p_1,\cdots, p_n{\mathbb C}^n の基底となります。
よって、固有値 \lambda_j に対して、\lambda_j=d_i となる i の数を n_j
とします。このとき、そのような p_i を集めることで、
n_j 個の一次独立な W_{\lambda_j} のベクトルが
あることになるので、\dim(W_{\lambda_j})\ge n_j となります。
よって、
n=\sum_{j=1}^r n_j\le \dim(W_{\lambda_j})\le n
である。よって、n= \dim(W_{\lambda_j}) となります。
一方、n=\sum_{j=1}^r\dim(W_{\lambda_j}) が成り立つとします。
このとき、l_j=\dim W_{\lambda_j} として、W_{\lambda_j} の基底を
l_jp_{j,1},\cdots, p_{j,l_j} と取ります。
このとき、 n 個のベクトル p_{1,1},\cdots, p_{1,l_1},p_{2,1},\cdots, p_{2,l_2},\cdots, p_{r,l_r}
を並べると、
これらは、固有ベクトルから、
A(p_{1,1},\cdots, p_{1,l_1},p_{2,1},\cdots, p_{2,l_2},\cdots, p_{r,l_r})=(\lambda_1p_{1,1},\cdots, \lambda_1p_{1,l_1},\cdots, \lambda_rp_{r,l_r})=PD
となります。ここで、D はある対角行列であり、
P=(p_{1,1},\cdots, p_{1,l_1},p_{2,1},\cdots, p_{2,l_2},\cdots, p_{r,l_r})
とします。これらは一次独立であるので、P は正則行列になります。(証明終了)


他に、対角化可能のための十分条件として、以下があります。

定理
n 次正方行列 A の固有多項式の解が重複なく、ちょうどn
存在するとき、A は対角化可能である。

(証明)
A の固有値が重複なく、\lambda_1,\lambda_2.\cdots, \lambda_n
のように存在したとする。このとき、
W_{\lambda_i} には固有ベクトル(non-zero ベクトル)が少なくとも一つ以上あるので、
次元は1以上です。\dim(W_{\lambda_i})\ge 1 となります。
よって、
n\ge\sum_{i=1}^n\dim(W_{\lambda_i})\ge n であるので、
n=\sum_{i=1}^nW_{\lambda_i} となります。つまり、A は対角化可能となります。(証明終了)



(10)を解くには、例えば、次のような行列を考えればよいでしょう。

(証明)
A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}
とすると、A は三角行列ですから、固有値は、対角成分となります。
実際、固有多項式は \det(xE-A)=\det\begin{pmatrix}x&-1\\0&x\end{pmatrix}=x^2
となりますので、この根である 0 が固有値となります。
固有値は 0 だけですので、W_0 を求めればよいことになります。
W_0=\{x|(0\cdot E-A)x=0\}=\{x|Ax=0\} ですが、
x=\begin{pmatrix}x_1\\x_2\end{pmatrix} とすると、
この連立一次方程式は、x_2=0 と同じです。
よって、x_1=c と置けば、
x=\begin{pmatrix}c\\0\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
となるので、W_0 は、
\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}
によって生成されます。
ベクトル空間となります。つまり、W_{0} の次元は1次元となります。
よって、A の次数は2なので、
2\neq 1 であることから、
この行列は対角化できません。(証明終了)


このように固有多項式に重複解が存在する場合、対角化可能かどうかは
多項式からは判断できませんので、実際、連立方程式を解いて、次元を
調べる必要があります。

例えば、同じ x^2 を固有多項式にもつ行列として、ゼロ行列がありますが、
ゼロ行列は明らかに対角行列ですので対角化可能です。

2019年6月6日木曜日

数学外書輪講I(第6回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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定理
\ell\ge 2 かつ 4\le k\le n-4 である場合に
\binom{n}{k}=m^\ell に解がない。

を証明していました。
2k\le n であることを仮定できます。

前回までに、
(1) n\ge k^\ell\ge k^2 であることと、

また、n-j=a_jm^\ell_j のように、\ell 乗とそれ以外と
分けて考えると、
(2) i\neq j であれば、a_i\neq a_j である。
までわかりました。

次に、(3) に入ります。
(3) は次の命題です。

a_0,\cdots, a_{k-1} は、1,2,\cdots, k の並び替えである。

エルデシュいわく、この部分が、証明の「核心」「真髄」と言っています。
確かに、この部分で大分進んだ気がしますね。

a_0,a_1,\cdots, a_{k-1}k! を割ることを示せばよいです。

もし、そうなら、k!=L\cdot a_0\cdots a_{k-1}\ge L\cdot 1\cdot 2\cdots k=Lk!
であり、L=1 となります。

n(n-1)(n-2)\cdots (n-k+1)=a_0a_1a_2 \cdots a_{k-1}m_0^\ell m_{1}^{\ell}m_2^\ell\cdots m_{k-1}^{\ell}
=a_0a_1a_2 \cdots a_{k-1}(m_1 m_2\cdots m_{k-1})^{\ell}=m^\ell k!
m_0m_1\cdots m_{k-1}m の公約数をわることで、
u,v となるとする。つまり、\gcd(u,v)=1 であるとします。
あとは、v=1 であることを示せばよいです。

v に素因数が存在するとして、それを p とします。
ここで、ルジャンドルの定理から、k! の中の 素因数 p は、\sum_{i\ge 1}\lfloor\frac{k}{p^i}\rfloor の分だけかけられています。

一方、n,n-1,\cdots, n-k+1 の間の p^i の倍数が s 個あるとして、
それを、b_1<b_2<\dots<b_s であるとすると、
b_s-b_1=(s-1)p^i であり、
(s-1)p^i=b_s-b_1\le n-(n-k+1)=k-1 であるから、
s\le \frac{k-1}{p^i}+1<\frac{s}{p^i}+1
よって、s\le \lfloor\frac{k}{p^i}\rfloor+1 です。

n,n-1,\cdots, n-k+1 の中の、p^i の倍数の数の総数が、
n(n-1)\cdots (n-k+1) の中の素因数 p の含まれる数であり、それは、
\sum_{i=1}^{\ell-1}\left(\lfloor\frac{k}{p^i}\rfloor+1\right) によって上から評価されます。
よって、
u^\ell の中には、せいぜい、
\sum_{i=1}^{\ell-1}\left(\lfloor\frac{k}{p^i}\rfloor+1\right)-\sum_{i\ge 1}\lfloor\frac{k}{p^i}\rfloor
だけの p が含まれており、
\sum_{i=1}^{\ell-1}\left(\left\lfloor\frac{k}{p^i}\right\rfloor+1\right)-\sum_{i\ge 1}\left\lfloor\frac{k}{p^i}\right\rfloor\le \ell-1
であることがわかります。

つまり、
n(n-1)\cdots (n-k+1)u^\ell/k!=v^\ell
の左辺には、p\ell 個も含まれていないのだから、
右辺が v^\ell であることに反します。
よって、v には素因数 p は含まれていない。
つまり、v=1 であることがわかります。

(4) は、定理の証明を完成させます。

\ell=2 であるとします。
このとき、a_0,a_1,a_2,\cdots a_{k-1} の中に、4 は含まれます。
しかし、a_0,\cdots, a_{k-1} は 2乗因子は含まれないはずだから矛盾します。
よって、そのようなことはありません。

つまり、\ell\ge 3 を仮定してよいことになります。
今、a_{i_1}=1,a_{i_2}=2,a_{i_3}=4 を仮定して、
n-i_1=a_{i_1}m_{i_1}^\ell かつ n-i_2=a_{i_2}m_{i_2}^\ell かつ n-i_3=a_{i_3}m_{i_3}^\ell を満たします。

今、(n-i_2)^2\neq (n-i_1)(n-i_3) を示しましょう。
もし、そうでないとすると、(n-i_2)^2= (n-i_1)(n-i_3) が成り立ちます。

b=n-i_2 とし、n-i_1=b-xb_{i_3}=b+y とすると、
1\le |x|,|y|\le k-1 であり、

b^2=(b-x)(b+y) がなりたつから、(y-x)b=xy となります。
ここで、

|xy|=b|y-x|\ge b>n-k>(k-1)^2\ge |xy|

となり矛盾します。
よって、(n-i_2)^2\neq (n-i_1)(n-i_3) が成り立ちます。
つまり、 m_{i_2}^{2}\neq m_{i_1}m_{i_3} が成り立ちます。

いま、m_{i_2}^2>m_{i_1}m_{i_3} であると仮定しましょう。
そうすると、

2(k-1)n>n^2-(n-k+1)^2>(n-i_2)^2-(n-i_1)(n-i_{3})
=4(m_{i_2}^{2\ell}-(m_{i_1}m_{i_3})^\ell)\ge 4((m_{i_1}m_{i_3}+1)^{\ell}-(m_{i_1}m_{i_3})^\ell]
\ge 4\ell m_{i_1}^{\ell-1}m_{i_3}^{\ell-1}
となり、\ell\ge 3 かつ n>k^\ell\ge k^3>6k であることから、
2(k-1)nm_{i_1}m_{i_3}>4\ell m_{i_1}^{\ell}m_{i_3}^{\ell}=\ell(n-i_1)(n-{i_3})
>(n-k+1)^2>3(n-\frac{n}{6})^2>2n^2

よって、
n<(k-1)m_{i_1}m_{i_3}

が成り立ちます。

m_{i_j}^\ell\le n であるから、
m_{i_j}\le n^{\frac{1}{\ell}}\le n^{\frac{1}{3}} となります。

よって、
n<kn^{\frac{2}{3}} であることから、
n^3<kn^2 より、n<k が成り立つ。
これは、k<n-4 であることに反します。
よって、m_{i_1}^2>m_{i_1}m_{i_3} であることが成り立ちません。
同じように、m_{i_1}^2<m_{i_1}m_{i_3} も成り立ちません。

2019年6月3日月曜日

数学外書輪講I(第5回)

[場所1E501(月曜日5限)]

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Proofs from THE BOOKをみんなで読んでいます。

Chapter 9

今回は、\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6} であることの別証明です。

\zeta(2)=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^2} ですが、級数の収束の定番、
挟み撃ちの原理を用いる方法です。
ある意味直接的で、高校性でも理解できる方法です。

私は、\sin 関数を因数分解したり、フーリエ級数などを
用いる方法しか思いつきませんでした。

\sin y\le y\le \tan y なる不等式を使います。

2乗をしてこの逆数を取ると、

\cot^2 y\le \frac{1}{y^2}\le \text{csc}^2y
となります。

オイラーの公式
e^{inx}=(\cos nx+i\sin nx)^n を用いることで、

\sin nx=\binom{n}{1}\sin x\cos^{n-1}x-\binom{n}{3}\sin^3x\cos^{n-3}x+\cdots
となり、n=2m+1 とし、 (2m+1)x=r\pi とする。ここで、r=1,2,\cdots, m とすると、
0=\binom{2m+1}{1}\sin x\cos^{2m}x-\binom{2m+1}{3}\sin^3x\cos^{2m-1}x+\cdots
となります。
\sin^{2m+1}x で割ることで、
0=\binom{2m+1}{1}\cot^{2m}\frac{r\pi}{2m+1}-\binom{2m+1}{3}\cot^{2m-2}\frac{r\pi}{2m+1}+\cdots +(-1)^m\binom{2m+1}{2m+1}

となります。この式を多項式
\binom{2m+1}{1}t^{m}-\binom{2m+1}{3}t^{m-1}+\cdots+(-1)^m\binom{2m+1}{2m+1}
の零点が、\cot^2\frac{r\pi}{2m+1},\ \ \ r=1,2,\cdots, m であるとみることもできます。
ここで、これらの m 個は互いに異なる実数であることに注意してください。
よって、解と係数の関係により、
\sum_{r=1}^m\cot^2\frac{r\pi}{2m+1}=\frac{\binom{2m+1}{1}}{\binom{2m+1}{3}}=\frac{2m(2m-1)}{6}
が成り立ちます。
同様に、\cot^2x+1=\text{csc}^2x であるから、


\sum_{r=1}^m\text{csc}^2\frac{r\pi}{2m+1}=\frac{2m(2m+2)}{6}
とすることにより、 
\frac{2m(2m+2)}{6}\le \sum_{r=1}^m\left(\frac{2m+1}{r\pi}\right)^2\le \frac{2m(2m+2)}{6}
となります。よって、\frac{(2m+1)^2}{\pi^2} で両辺を割れば、
\frac{2m(2m-2)}{6(2m+1)^2}\pi^2\le \sum_{r=1}^m\frac{1}{r^2}\le \frac{2m(2m+1)}{6(2m+1)^2}\pi^2
が成り立ちます。
よって、m\to \infty のとき、
\sum_{r=1}^\infty \frac{1}{r^2}=\frac{\pi^2}{6}
が成り立ちます。


二項係数は(ほとんど)べきにならないこと

前回のバートランドの仮説の続きで、シルベスターの定理で
以下のものがあります。

定理'(シルベスター)
n\ge 2k なら、n,n-1,\cdots, n-k+1 のどれか少なくとも一つ k より大きい
素因数 p が存在する。

この同値な命題として、下があります。

命題
\binom{n}{k} は、いつも、p>k なる素因数をもつ。

二項係数 \binom{n}{m} がいつ p を割るかという話でした。

目標となるのは、次の定理です。

定理(Erdös [1.])
4\le k\le n-4 かつ、\ell\ge 2  のときに、
\binom{n}{k}=m^\ell となる整数解 (n,m) は存在しない。

(証明)
二項係数の対称性から、n\ge 2k を仮定してもよいです。
そうすると、シルベスターの定理が使えて、\binom{n}{k} には、
p>k となる素因数が少なくとも一つ存在します。
その素因数は、m^\ell を割るので結局、m^\ell には
素因数 p は少なくとも \ell 個( \ell の倍数個でちょうど割れる)入っており、
n,n-1,\cdots, n-k+1 の中の n-i にすべて入っています。

その素因数について、n\ge p^\ell>k^\ell\ge k^2 が成り立つことになります。

ここで、n-j=a_jm_j^\ell のように a_j には \ell 乗因子は
含まれていないように一意に分解できます。

上で議論したことから、a_j には、k より大きい素因数は入っていません。

また、i\neq j ならば、a_i\neq a_j を示します。

もし、i\neq j において、a_i=a_j であるとしたら、
m_i\ge m_j+1 が成り立ち、
k>(n-i)-(n-j)=a_j(m_i-\ell-m_j^\ell)\ge a_j((m_j+1)^\ell-m_j^\ell)
>a_j\ell m_j^{\ell-1}\ge \ell(a_jm_j^{\ell})^{1/2}\ge \ell (n-k+1)^{1/2}\ge \ell(\frac{n}{2}+1)^{1/2}>n^{1/2}

となり、上の不等式と矛盾します。
  1. P. Erdös: On a diophantine equation, J. London Math. 21(1951) 176-178

数学外書輪講I(第4回)

[場所1E501(月曜日5限)]



今回は
ゼータの2 の値が \zeta(2)=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^2}\frac{\pi^2}{6}
であることを証明してもらいました。

そのために、
\int_0^1\int_{0}^1\frac{1}{1-xy}dxdy を計算します。
これは、正方形領域なので、逐次積分を用いることができます。
そのために、展開をしてから逐次積分をします。
\int_0^1\int_{0}^1\frac{1}{1-xy}dxdy=\int_0^1\int_0^1\sum_{i=0}^\infty(xy)^idxdy
=\sum_{i=0}^\infty \int_0^1\int_0^1x^iy^idxdy=\sum_{i=0}^\infty\int_0^1\left[\frac{1}{i+1}x^{i+1}\right]_0^1y^idy
=\sum_{i=0}^\infty\frac{1}{i+1} \left[\frac{1}{i+1}y^{i+1}\right]_0^1=\sum_{i=0}^\infty\frac{1}{(i+1)^2}=\zeta(2)
となります。

一方、正方形領域を原点を中心として、-45度だけ回転させて \sqrt{2} 倍して得られる領域
(ひし形)に変数変換をして計算をする。
x=u-v, y=u+v と置くことで、0\le x\le 1 かつ 0\le y\le 1
0\le v\le u  (0\le u\le \frac{1}{2}) かつ、0\le v\le 1-u (\frac{1}{2}\le u\le 1)
となります。そうすると、

\int_0^1\int_{0}^1\frac{1}{1-xy}dxdy
=4\int_0^{\frac{1}{2}}\int_{0}^u\frac{1}{1-u^2+v^2}dvdu+4\int_{\frac{1}{2}}^1\int_0^u\frac{1}{1-u^2+v^2}dvdu
となり、公式
\int_0^x\frac{1}{a^2-u^2}du=\frac{1}{a}\text{Arctan}(\frac{x}{a})+C
から、

\int_0^1\int_{0}^1\frac{1}{1-xy}dxdy
=4\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{1}{\sqrt{1-u^2}}\text{Arctan}\frac{u}{\sqrt{1-u^2}}dvdu
+4\int_{\frac{1}{2}}^1\frac{1}{\sqrt{1-u^2}}\text{Arctan}\frac{1-u}{\sqrt{1-u^2}}dvdu
ここで、
\left(\text{Arctan}\frac{u}{\sqrt{1-u^2}}\right)'=\frac{1}{1+\frac{u^2}{1-u^2}}\left(\frac{u}{\sqrt{1-u^2}}\right)'
=(1-u^2)\frac{1}{(1-u^2)^{\frac{3}{2}}}=\frac{1}{\sqrt{1-u^2}}
\left(\text{Arctan}\frac{1-u}{\sqrt{1-u^2}}\right)'=\frac{1}{1+\frac{(1-u)^2}{1-u^2}}\left(\frac{1-u}{\sqrt{1-u^2}}\right)'
=\frac{1-u^2}{2-2u}\frac{-1}{(1+u)\sqrt{1-u^2}}
=-\frac{1}{2}\frac{1}{\sqrt{1-u^2}}
であるから、

\int_0^1\int_{0}^1\frac{1}{1-xy}dxdy
=2\left[\left(\text{Arctan}\frac{u}{\sqrt{1-u^2}}\right)^2\right]_0^{\frac{1}{2}}-4\left[\left(\text{Arctan}\frac{1-u}{\sqrt{1-u^2}}\right)^2\right]_{\frac{1}{2}}^1
=2\left(\text{Arctan}\frac{1}{\sqrt{3}}\right)^2+4\left(\text{Arctan}\frac{1}{\sqrt{3}}\right)^2=2\left(\frac{\pi}{6}\right)^2+4\left(\frac{\pi}{6}\right)^2=\frac{\pi^2}{6}
となリます。

よって、\int_0^1\int_{0}^1\frac{1}{1-xy}dxdy=\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6}
であるから、\zeta(2)=\frac{\pi^2}{6}  となる。(証明終了)

上の広義積分と無限和が交換可能であることの正当性は、
以下の定理があるからです。

定理
f_n(x)f(x)(a,b) において広義一様収束するならば、
\int_a^b\lim_{n\to \infty} f_n(x)dx\lim_{n\to \infty}\int_a^bf_n(x)dx
である。

この2次元バージョンです。
ちなみに、広義一様収束の定義や、その例などは、(リンク)
にあります。上の関数列が広義一様収束することはリンクにちょうど同じ
関数があったので省略します。

数学外書輪講I(第3回)

[場所1E501(月曜日5限)]


今回は、バートランド仮説
です。

前回で素数は無限個あることはわかったが、
いつ素数が出てくるかということは、一般に予測することは難しいです。
例えば、ある素数と次の素数の差を gap(ギャップ)
ということにします。この用語は素数論の世界では一般的なものでもあります。

ギャップが1の素数の組みは、
2,3
以外ないのはわかりますが、
ギャップが2の素数の組みは、
5,7や11,13
などのようによく出てきます。
ギャップが2の素数の組のことは双子素数とも言います。
双子素数はある程度数が大きくなっても現れることが確認されているので、
双子素数が無限個あることが予想されています(双子素数予想)が、未だ未解決です。

逆に、ギャップがいくらで大きくなるような素数の組があるか、
同じ問題ですが、少なくともある数だけ進んだら必ず素数が現れるかといったら、
それは正しくありません。
THE BOOKにある通り、

N=2\cdot 3\cdot 5\cdots p
のように素数を最初から p まで順番に掛けていって得られる数 N
用意します。
N+2,N+3,N+4,N+5,...,N+p
をとると、これは必ず合成数です。
よって、p はいくらでも大きくできるのだから、
任意の自然数 k に対して、
ギャップが k より大きい素数の組が存在することになります。


バートランド仮説を(一部)証明してもらいました。
この仮説は以下をいいます。
しかしこれは証明されているので定理と書いておきます。

定理
任意の自然数 n\ge 1 に対して、ある素数 p が存在して、n<p\le 2n
となる。

証明は5つのパートに分けられます。
方針は、\binom{2n}{n} の評価をすることで行います。

今回はその内2つをやってもらいました。

(証明)
(1) まずは、n\le 511 において、この定理が成り立つことを示します。
次の数列
2,3,5,7,13,23,43,83,163,317,521
の11個からなる数列を考えましょう。
この数列は素数から作られており、n 番目の数を p_n とします。
この数列は、p_n まで定まったとき、2p_n 以下の素数のうち、最も2p_n
近いものを p_{n+1} とすることで得られています。

n=1の場合は、1<2\le 2 であるから、定理は正しい。
2\le \forall n\le 511 となる任意の整数をとります。
このとき、k=1,2,\cdots,10 のどれかが存在して、p_k\le n<p_{k+1} が成り立ちます。
よって、n<p_{k+1}<2p_{k}\le 2n<2p_{k+1} であるから、
素数 p_{k+1}n2n の間にある素数である。
よって、n\le 511 のときに定理は正しい。


(2) 2 以上の x において \prod_{p\le x}p\le 4^{x-1}
が正しいことを示す。
この左辺の積は x より小さい素数全体の積を表しています。

よって、この不等式は、素数 x=q に対してだけ証明すればよい。

q=2 とする。このとき、2\le 4 であるから明らかに正しい。
ここで、帰納法で示す。
q を奇素数 2m+1 とする。
x\le 2m で正しいとする。

\prod_{p\le  2m+1}p=\prod_{p\le m+1}p\prod_{m+1<p\le 2m+1}p\le 4^m\binom{2m+1}{m}\le 4^m2^{2m}=4^{2m}

となる不等式が証明できれば良い。
\prod_{p\le m+1}p\le 4^m は帰納法の仮定であり、
\prod_{m+1<p\le 2m+1}p\le \binom{2m+1}{m}
であることは、m+1<p\le 2m+1 を満たす素数は、\frac{(2m+1)!}{m!(m+1)!}
分子素因数となり、分母の素因数となるから成り立ちます。
よって、あとは、
\binom{2m+1}{m}\le 2^{2m}
であることがわかれば良い。
\binom{2m+1}{m}\binom{2m+1}{m+1} は同じ整数であり、
2^{2m+1} の2項係数にどちらも現れるので、
2^{2m+1}\ge \binom{2m+1}{m}+\binom{2m+1}{m+1}=2\binom{2m+1}{m}
よって、2^{2m}\ge \binom{2m+1}{m} となる。

後半はまた次の機会です。

数学外書輪講I(第2回)

[場所1E501(月曜日5限)]


4/22から外書輪講の輪講が始まりました。

今回は素数が無限個あることの証明です。

定理
素数は無限個存在する。


まずは以下を示してもらいました。もっとも有名な証明と思います。

(ユークリッドの証明)
素数が有限個とする。

\{p_1,p_2,\cdots, p_n\}
が素数のすべての集合とする。
このとき、
n=p_1p_2\cdots p_n+1 という自然数を考える。
この数 n の任意の素因数を p とする。
pn このどれかになすはずである。
p_1p_2\cdots p_n+1=px とすると、
px-p_1p_2\cdots p_n=1 であり、左辺は p で割り切れる。
よって、右辺も p 割り切れる必要がある。
しかし、1 はこのどの素数の倍数ではないので、矛盾する。(証明終了)


次は微積分を使う証明でした。

(オイラーの証明)
\pi(x)=\#\{p\le x|p:\text{prime}\}
という関数を考える。

まず、関数 \frac{1}{t}1 から x までの積分と、それまでの
短冊領域での面積を比較することで、
\log x\le 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\cdots +\frac{1}{n}
が成り立つ。
\text{(右辺)}\le \sum_{(\ast)}\frac{1}{m}
となります。
ただし、この最後の和の (\ast) の意味は、
1 から n までに登場する素数の倍数となる数 m 全体の和をとること
を意味するとします。
そのような集合には、1から n までの数は含まれているので、
最後の不等式が成り立ちます。

この\sum_{(\ast)} を計算すると、

\sum_{p\in {\mathbb P},p\le x}\sum_{k\ge 0}\frac{1}{p^k}
となります。ここで {\mathbb P} は素数の集合。
よって、

\log x\le \prod_{p\in {\mathbb P},p\le x}\frac{1}{1-\frac{1}{p}}= \prod_{p\in {\mathbb P},p\le x}\frac{p}{p-1}
=\prod_{k=1}^{\pi(x)}\frac{p_k}{p_k-1}
が成り立ちます。
ここで、p_1,p_2,\cdots, p_n は素数を順番に並べた数列。

\frac{p_k}{p_k-1}=1+\frac{1}{p_k-1}\le 1+\frac{1}{k}=\frac{k+1}{k}
となる。
よって、

\log x\le \prod_{k=1}^{\pi(x)}\frac{k+1}{k}=\pi(x)+1
となり、\log x が無限に発散する関数なので、\pi(x) も無限に発散する
関数となる。
つまり、素数は無限個ある。

(証明終了)
証明で登場した \pi(x) は、実数上の実数を値にもつ関数で、
素数が来たら1上がり、それ以外の実数では定数になるような関数です。
一般にこの関数は \pi の字を用いて、\pi-関数と言ったりもします。
この関数の増大度に関する素数定理が有名です。


3人目は、ゴールドバッハの証明です。
これも鮮やかです。

(ゴールドバッハの証明)
フェルマー数を F_n=2^{2^n}+1 と定義する。
このとき、任意の2つのフェルマー数は互いに素であることを示せば良い。

\prod_{k=0}^{n-1}F_k=F_n-2 であることを証明する。
帰納法により証明する。
n=1 の場合は、
F_0=3 かつF_1=5 であるから、
F_0=F_1-2 として成立する。
この式が n まで正しいとする。

\prod_{k=0}^{n}F_k=(\prod_{k=0}^{n-1}F_k)F_n=(F_n-2)F_n
=(2^{2^n}-1)(2^{2^n}+1)=2^{2^{n+1}}-1=F_{n+1}-2
よって、n+1 の場合も正しい。
よって、任意の自然数 n に対して、\prod_{k=0}^{n-1}F_k=F_n-2
が正しい。

もし、n> m として、F_n F_m 公約素因数 p を持つとする。
このとき、F_n-\prod_{k=0}^{n-1}F_k=2 であり、
この左辺は p で割り切れる。
よって、右辺も p で割り切れる。よって p2 でないといけない。
しかし、一般に、フェルマー数は奇数なので 2 を因数に持つことはないので矛盾する。
よって n>m に対して F_n,F_m は公約素因数を持たない。つまり互いに素である。

数列 F_1,F_2,\cdots を求めるたび毎に新しい素数が素因数として現れる。
フェルマー数は無限数列であるので、素数は少なくとも無限個あることがわかる。(証明終了)

数学外書輪講I(第1回)

[場所1E501(月曜日5限)]



4/15日は、外書輪講のガイダンスを行いました。
今回選んだ本は、去年使っていた
Matousek33-miniatures
Martin Aigner: Gunter M. ZieglerProofs fro THE BOOK

で、どちらも有名な本で、日本語訳も出ています。

ここでは、一つ目を33-miniaturesといい、二つ目をTHE BOOK
略すことにします。

この授業では、セミナー形式をとっており、指定された内容の場所をわかりやすく、
聴衆に説明してもらうという授業です。

今回は最初ということで、昨年と同様、線形代数の問題をいくつか解いてもらいました。

(1) 正方行列 A,B  に対して \text{rank}(A\cdot B)\le \text{rank}(A) であることを示せ。


 (解答) 行列 A に正則行列 P を左からかけることで P\cdot A=(a_1\cdots a_n) 
としたとき、a_{i_1}=e_1,\cdots, a_{i_r}=e_r が標準基底ベクトル 
(e^t_i=(0,\cdots, 0,1,0,\cdots 0) i-成分目が 1 でその他が 0 である。)
になっており、その他の a_j はこれら、e_1,\cdots, e_r の一次結合でかける。

ここで、r=\text{rank}(A) とすると、r\times n 行列 A_1

P\cdot A=\begin{pmatrix}A_1\\O\end{pmatrix} 
とすることができる。
P\cdot A\cdot B= \begin{pmatrix}A_1\\O\end{pmatrix}B=\begin{pmatrix}B_1\\O\end{pmatrix}
となります。

ここで、B_1 r\times n 行列。

よって、\text{rank}(A\cdot B)=\text{rank}(B_1)\le r であるので、
\text{rank}(A\cdot B)\le \text{rank}(A) となります。

(5) v_1,v_2,\cdots, v_n\in V \dim(V)=n のベクトルとする。このとき、これらが一次独立であれば、v_1,v_2,\cdots, v_n は基底であることを示せ。

v_1,v_2,\cdots, v_n が基底であるとは、それが1次独立であり、
V のすべての元がそれらの1次結合でかけることだから、
この後半を示せばよい。

w_1,\cdots, w_n\subset V を基底とする。
v_i=\sum_{i=1}^nc_{ji}w_j とする。
このとき、\sum_{i=1}^n c_iv_i=\sum_{j=1}^n(\sum_{i=1}^nc_ic_{ji})w_j=0 
とすると,1次独立性から、\sum_{i=1}^nc_ic_{ji}=0 であり、
C=(c_{ij}) とすると、
C\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}=0 となる。
この連立一次方程式は、自明な解以外にないことになる。

このとき、もし、\text{rank}(C)=r<n とするとき、
ある正則行列 P が存在して、P\cdot C=\begin{pmatrix}C_1\\O\end{pmatrix}
となります。ここで C_1r\times n 行列。

よって、P\cdot C\begin{pmatrix}c_1\\c_2\\\vdots\\c_n\end{pmatrix}=0 となる。
C_1(c_1\cdots c_n) とすると、n 個のベクトル c_1,\cdots c_n は、
c_{i_1}=e_{1},\cdots,c_{i_r}=e_r であり、その他のベクトルはこれらの1次結合
でかけるから、特に、
c_n=\gamma_1c_{i_1}+\cdots+\gamma_r c_{i_r}
となります。ここで、f_kk=i_j となるとき、f_k=\gamma_j とし、k=n のとき、k=-1 それ以外で k=0 となるベクトルを f={}^t(f_1,f_2,\cdots f_n) とおくと、
fCf=0 となる解であり、f\neq 0 であるので、 Cx=0 の解に非自明解が
存在することと矛盾する。

よって、r=n つまり、C\text{rank}(C)=n であるから、C は正則である。
C^{-1}=(d_{ij}) とすると、
w_i=\sum_{i=1}^n d_{ij}v_i となり、すべての v\in {\mathbb C}^n の元は
w_1,\cdots, w_n の1次結合でかけ、各 w_iv_j の1次結合で書けるので、
任意の v\in {\mathbb C}^nv_i の1次結合で書ける。

つまり、v_1,\cdots, v_nV の1次結合である。

(3) 2次元ベクトル空間 V の任意の3つのベクトルは一次従属であることを示せ。

も同じように証明できます。