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2015年11月22日日曜日

線形代数II演習(第7回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は特に新しいことはやりませんでした.
来週は、発表をしてもらおうと思いますので、
線形写像や、表現行列については、次の次の回にやりたいと思います.

一人一人発表を当てたので、次回までに解いて発表してください.

ブログでは次のことを書きます.

商空間

商空間というのはあまり線形代数では扱わないことが多いです.
理解させるのが大変で、それをやるために時間が割かれてしまうので
2年生以降に代数の授業などで行うことになるかと思います.
しかし、線形代数の教科書には書いてあります.

ベクトルの直和をとることで、ベクトル空間同士の足し算とみなすことができます.
もちろん普通の足し算とは性質が違います.

商空間とは、ベクトル空間の引き算に相当するような概念です.
補空間というのも、性質の似たような空間ですが、少し違います.

部分空間 W\subset V があったときに、その商空間 V/W と呼ばれるベクトル空間を
作る事ができます.このベクトル空間は、抽象ベクトル空間です.

V/W の定義を書いておくと、

V/W=\{{\bf a}+W|{\bf a}\in V\}
となります.つまり、V/W の中の元は、{\bf a}+W という空間ということです.空間は集合ですから、 V/W は集合の集合です.
ちなみに、この {\bf a}+W の意味は、任意の {\bf w}\in W に対して、
{\bf a}+{\bf w} と表される元全体ということです.

例えば、V={\mathbb R}^2 として、 W=\langle {}^t(1,1)\rangle とすると、V/W の 元は、y=x と平行な直線全体です.
つまり、45度の傾きの平面上の直線全体を V/W として、V/W の一つの要素が一つの直線です。丁度下のような状況になっています.

この斜めの線一つ一つが V/W の元になっており、それを集めたものが V/W です.
斜めの線は有限で止まっているように見えますが、本当は無限に続く直線 y=x+a です.また、線の間に隙間があるようにも見えますが、その間にも平行な線があり、それらも V/W の元です.

つまり、L_a=\{(x,x+a)\in{\mathbb R}|x\in{\mathbb R}\} とすると、 V/W=\{L_a|a\in{\mathbb R}\} と書くことができます.

なので、特に、{\bf a}=(0,a) のようなベクトルとすれば、
L_a={\bf a}+W とかけることになります.
よって、W の基底 {\bf r}={}^t(1,1) を使って書けば、

{\bf a}+W=\{{\bf a}+t\cdot{\bf r}|t\in {\mathbb R}\}
のように書くことができて、やはり、{\bf a}+W は直線を表しています.

このとき、V/W のある直線 {\bf a}+W を表す方法はこれだけでなく、
{\bf b}={}^t(1,a+1) として、{\bf b}+W とすることができます.
つまり、直線として、
\{(0,a)+t\cdot {\bf r}|t\in{\mathbb R}\}
\{(1,a+1)+t\cdot {\bf r}|t\in{\mathbb R}\} とは
同じですので、
{\bf a}+W={\bf b}+W
となります.直線をベクトルで表示したときに、起点とする点はその直線上であればどこでもよいからです.
よって、このように直線を表すと少し任意性がでてきます.

このように、{\bf a}+W={\bf b}+W のようになるためには、{\bf a},{\bf b}
満たす条件としては、{\bf a}-{\bf b}\in W が満たされればよいことがわかると思います.
つまり、{\bf a}{\bf b} が同じ直線上にあるためには、
{\bf b}={\bf a}+t_0{\bf r} となる実数 t_0 が存在すればよいからです.

{\bf a}+W={\bf b}+W \Leftrightarrow {\bf b}-{\bf a}\in W

がいえます.

特に、{\bf a}\in W となるような元であれば、{\bf a} をゼロベクトル {\bf 0} と取り替えてよいですから、その場合、{\bf a}+W=W となります.

この式でわかるように、もちろん W を両辺から取ってやって、{\bf a}={\bf 0}
やってしまってはいけません.
イコールの意味が普通とは違います.

このように、V/W の元としてとられる {\bf a}+W{\bf a} のことを代表元
といったりします.

ここで、V/W の集合が何かということがわかったと思いますが、実はこの集合の集合である V/W は抽象ベクトル空間になります.

V/W のベクトル空間の構造

この V/W にベクトル空間の構造を入れます.
つまり、和とスカラー倍を以下のように定義します.

{\bf v}_1+W{\bf v}_2+W に対して、
{\bf v}_1+{\bf v}_2+W 
のように和を定義し、また、スカラー倍は、\lambda\in{\mathbb K} に対して、
\lambda({\bf v}+W)=\lambda\cdot{\bf v}+W
となります.
この演算がベクトル空間の構造を持つことを確かめる必要があります.

ベクトル空間であることをいうには、8つほどの公理を満たさなければなりませんが、
その前に、この和とスカラー倍がちゃんと一つの元を定めるのかが問題となります.

なぜかというと、上に示したように V/W にはその元の表し方は沢山あります.
別の言葉で問題を整理すれば、

定義が代表元の取り方によった書き方をしている.
しかし、代表元は取り方はいろいろとありうる.
演算を定義するためには、代表元の取り方によらない方法でなければならない.

この問題を克服するには、代表元の取り方によらずに、
この演算が V/W の元を定めている必要があります.

そういうわけで、以下のように代表元を取り替えます.

{\bf v}_1+W={\bf w}_1+W と取り替え、
{\bf v}_2+W={\bf w}_2+W と取り替えます.
このとき、
({\bf w}_1+W)+({\bf w}_2+W)={\bf w}_1+{\bf w}_2+W
となります.これが、
{\bf v}_1+{\bf v}_2+W={\bf w}_1+{\bf w}_2+W
であることをいうには、上で示しているように、
{\bf w}_1+{\bf w}_2-({\bf v}_1+{\bf v}_2)\in W
でなければなりません.
今、
{\bf v}_1+W={\bf w}_1+W かつ {\bf v}_2+W={\bf w}_2+W 
であることから、 
{\bf w}_1-{\bf v}_1\in W かつ 
{\bf w}_2-{\bf v}_2\in W 
が成り立ちます.
このことと、WV が部分空間であることから、

{\bf w}_1-{\bf v}_1+{\bf w}_2-{\bf v}_2\in W 

がなりたち、和の順序を並び替えることで、

{\bf w}_1+{\bf w}_2-({\bf v}_1+{\bf v}_2)\in W

がいえます.

よって、この演算は代表元に取り方によらず V/W の元を決めていることが
わかります.

このように、ちゃんと定義されているということを、 well-defined性といいます.
この well-defined という言葉は、日本語に上手く訳されているのは見たことがありません.
うまい訳語がないので、未だに、well-defined 性などと、英語混じりの日本語となって
いるようです.

この議論を続けて、スカラー倍の well-defined 性についても証明する必要があります.

つまり、代表元を取り替えても

\lambda({\bf v}+W)=\lambda\cdot {\bf v}+W
がただ一つ V/W の元を決めているかということです.

それが示されて、初めて、演算自体の定義が終わるのです.
この演算がベクトル空間であることを確かめるためには、この後に、ベクトル空間のもつ8つの公理が満たされていることを示す必要があります.

そうして、ようやく、商空間が自分の手元に実現することができるのです.
スカラー倍の議論、ベクトル空間であるための8つの条件については、
各自で確かめてもらうということにしたいと思います.

3 件のコメント:

  1. 「例えば、V=R^2として〜」の行にあるW/Vという記載は誤植かと。

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    1. ありがとうございます。直しました。

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    2. 早速のご対応ありがとうございます。
      貴サイトにて具体的なイメージがより明確になりました!

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