2015年11月25日水曜日

ベクトル空間の商空間

昨日、手習い塾に行ったら商空間の話をしている学生(1年生)がいました.
線形代数の講義(演習ではない)で商空間を扱ったということでした.
では、演習でも扱ってよいということですね.

ベクトル空間の商空間をどうやって考えるかここで少しまとめておきます.
ただ、教科書に書いてあるようなすっきりとした一般的な書き方ではなく、
くどくどとした説明になってしまいました.
$V/W$ というベクトル空間をある同値類の集合上に入るベクトル空間という見方をして終わります.


先日のブログには、商空間のことをかきました.
その続きのような話です.まずは先日のブログの方を読むとよいかもしれません.

では、つづきを始めます.


商空間の定義

ベクトル空間 $V$ とその部分空間 $W\subset V$ があったときに、
$V/W$ の元を $V$ の中の、$W$ と平行な空間として定義します.
なので、$V/W$ はそのような空間の全体ということになります.
ポイントは、$V$ 全体がそのような空間を敷き詰めてでできているということです.
$W$ の層のようになっています.
トポロジーではそのような構造が局所的に存在するとき、それを葉層構造といいます.

$V/W$ を集合の言葉で書けば、$V/W=\{{\bf v}+W|{\bf v}\in V\}$ となります.

${\bf v}+W$ という書き方に慣れない場合は、
高校のころにやった直線のベクトル表示や、平面のベクトル表示のことを思い出しましょう.

平面上の直線や、空間上の平面は、ベクトル ${\bf a},{\bf r},{\bf r}_1,{\bf r}_2$ を使って、
$${\bf a}+t\cdot{\bf r}\ \ \ (t\in{\mathbb R})$$
$${\bf a}+t_1\cdot{\bf r}_1+t_2\cdot{\bf r}_2\ \ \ (t_1,t_2\in{\mathbb R})$$
のように書き表されていました.
この後半部分で、$t$ を実数全体をとれば、部分ベクトル空間 $\langle {\bf r}\rangle$ が得られるし、$t_1,t_2$ を実数全体をとれば、$\langle {\bf r}_1,{\bf r}_2\rangle$ という部分ベクトル空間を足していることになります.つまり ${\bf a}+W$ という形になりますね.


一般に、${\bf v}+W$ という書き方で、${\bf v}$ を通り、$W$に平行な空間を表します.
これは、一般に部分ベクトル空間ではありません.

この ${\bf v}$ のことを $V/W$ の元 ${\bf v}+W$ の代表元と言いました.

また、 ${\bf v}+W={\bf v}'+W$ (代表元の取替えという)となるためには、
${\bf v}-{\bf v}'\in W$ となることが必要十分であることも前のブログで書きました.

とくに、${\bf v}+W$ が $V$ の部分ベクトル空間になるためには、${\bf v}+W=W$ となっていなければならなりません.部分空間には、${\bf 0}$ が必ず入っていないといけませんから、${\bf 0}$ を代表元と取ればよいわけです.

上に書いたことから、${\bf v}+W$ が部分空間であるためには、つまり原点を通るためには、${\bf v}\in W$ となっていなければなりません.

${\bf v}+W={\bf v}'+W$ のように代表元を取り替えても、"空間"としては同じものです.(表示の仕方が違うだけです.)
$V/W=\{{\bf v}+W|{\bf v}\in V\}$ という書き方には、${\bf v}+W={\bf v}'+W$ となった場合は、空間として同じものなので、$V/W$ の中で同じ元を表しています.集合は、重複して同じものをとることはできません.

そして、$V/W$ のベクトル空間としての和は、
$$({\bf v}_1+W)+({\bf v}_2+W)={\bf v}_1+{\bf v}_2+W$$
であり、スカラー $\lambda$ をかけることは、
$$\lambda({\bf v}_1+W)=\lambda\cdot{\bf v}+W$$
と定義しました.

同値類ということ

同値類というのは、数学でよく出てくる概念です.数学で出てくる空間や集合をいくつかまとめて、それごとに考えていくという考え方です.その一つ一つのことを同値類クラス)といいます.

説明するときは、クラスわけでたとえられることが多いようです.

学校のクラスわけというのは、一学年の学生をあるいくつかのクラスで分けることです.分けることで、そのクラス毎の話をすることができます.そのときは、個々の学生のことは無視して、クラス全体を一つのものとしてみなしています.

この考え方を数学に応用します.

上の商空間の状況において考えてみます.
$V/W$ を、$W$ と平行な空間の束として考えていました.$V/W$ はその束全体の集合です.
ここで、$W$ と平行な空間 ${\bf v}+W$ 上の全ての点を一つのクラスとして $V$ 全体のクラスわけを行います.

つまり、${\bf u}$ が ${\bf v}$ と同じクラスにいるということを、 ${\bf u}-{\bf v}\in W$ となることとして定義するのです.別の言葉でいえば、${\bf u}$ と ${\bf v}$ を通る、$W$ と平行な空間があれば同じ同値類(クラス)とするのです.


クラスにいる学生全体(ベクトル空間の場合は ${\bf v}+W$ の元全体)は、単に、一つのクラスとして考えても、抽象的には同じものです.

また、クラスから代表を一人ずつ選ぶことで、一つのクラスは、クラスの代表を考えることも抽象的には同じことです.つまり、

クラス全体にいる元全体のこと、あるクラスのこと、クラスの代表のこと
は、言い方はそれぞれ微妙に違いますが、そこで指すものは抽象的には同じです.


代表元を用いたベクトル空間の演算

$V/W$ のベクトル空間としての足し算は、実は、${\bf v}_1+W+{\bf v}_2+W$ のようにクラス全体を引き連れて足し算をしなくても、代表元だけの足し算で十分です.
つまり、${\bf v}_1+{\bf v}_2$ のように.

しかし、これでは、$V$ の足し算なのか、$V/W$ の足し算なのかわかりませんので、その違いを伝えるために、 ${\bf v}_1+W$ のことを $[{\bf v}_1]$ と書いたりします.

この記号法を使って、足し算は、
$$[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]$$
スカラー倍は
$$\lambda[{\bf v}_1]=[\lambda{\bf v}_1]$$
となります.

また、代表元を取り替えは、$[{\bf v_1]=[\bf v}_2]$ となって、代表元が変わってもクラスとしては変わらないという式になります.ここで、イコールも $V$ のものと同じものを使っていますが、記号の乱用をしています. $=_{W/V}$ などと、イコールの下にどこで行ったイコールなのかも厳密に書いていくとすると、それはそれで煩雑になりすぎます.

この記号法を使って ベクトルの演算のwell-defined性をチェックすれば、
$$[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]=[{\bf w}_1+{\bf w}_2]=[{\bf w}_1]+[{\bf w}_2]$$
$$\lambda[{\bf v}]=[\lambda{\bf v}]=[\lambda{\bf w}]=\lambda[{\bf w}]$$
となり、演算がうまくいっていることを表しています.


抽象化としての商空間

$V/W$ の最初の説明で、$V/W$ の一つの元はある空間であるような、集合の集合であるとしました.しかし、今、その代表元を取ることで、その空間が一点であるような感覚になったと思います.もしそうでない人は、$V$ の部分空間 $W$ に平行な空間 ${\bf v}+W$ をしゅるしゅると縮めて、代表元 ${\bf v}$ だけにしてください.このとき、$V/W$ を考えるとき、広がりのある空間を考えるのではなく、$W$ 方向を無視した ${\bf v}$ だけの対象とするのです.

この$W$ 方向を無視する、同じとみなす、この考え方(感覚)は抽象化の一種です.


抽象化とは、特定の性質だけを抽出して、ほかを見えなくすることで、
その性質だけが際立つような見方にかえることです.
その結果、その性質に特化した現象が見やすくなったりします.


また、このように抽象化した集合、$V/W$ の元は普通の空間のようには見えないけれど、ベクトル空間という構造だけは持っていることがわかります.多項式全体や、関数空間など、まだ数ベクトル空間の名残が残っているようなものとは大分ちがいます.

このように、$V/W$ がベクトル空間と思えるのも、数ベクトル空間から、ベクトル空間という性質だけ抜き出して、その性質をもつものを全てベクトル空間と呼ぼうといういわば、概念の抽象化を行ったおかげといえるでしょう.

ベクトル空間の定義の本領発揮というわけです.


商空間を学んだときは、準同型定理が次に重要になるのですが、長くなりすぎるので、またいつか、ブログでかきます.

2015年11月23日月曜日

微積分II演習(第7回)

[場所1E103(金曜日5限)]
HPに行く.

今日は
  • 極値問題その2と
  • 陰関数の定理を行いました.
その前に、ヘッシアンが正の意味を考えます.



まず、偏微分が両方消えている点のことを臨界点といいます.
極値の候補 $f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ の点のことです.
つまり、接平面が $xy$ 平面に平行である場合です.

この条件だけでは、微分が消えているだけなので、
極値かどうかはわかりません.ただ、極値であれば少なくともこの条件が成り立つ必要があります.

ここでは、$f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ という点といわず、臨界点という用語を使っていきたいと思います.

ヘッシアンが正の意味

復習をすると、ヘッシアン $\det(H(a,b))>0$ であるとすると、その臨界点では、極値をもち、$f_{xx}(a,b)>0$ であるとすると、極小点、$f_{xx}(a,b)<0$ とすると、極大点と
なります.これが、前回で紹介した定理です.

このヘッシアンが正条件が極値のための十分条件となるのは、2変数だけのことです.

関数が、ある臨界点で極値であるための”本当の”十分条件は、ヘッセ行列の固有値が全て正か全て負であることです.

つまり、固有値の符号が全て一致していることが極値のための十分条件です.
さらに、全て正であるなら、極小点であり、全て負であるなら極大点なのです.

2変数であれば、ヘッシアンは、ヘッセ行列の固有値の2個の積です.
(ちなみに、ヘッセ行列は実対称行列なので固有値はいつでも実数です.)
つまり、$\kappa_1,\kappa_2$ がヘッセ行列の固有値とすると、
$$\det(H(a,b))=\kappa_1\kappa_2$$
となります.
$\kappa_1,\kappa_2$ の符号が一致しているということを言い換えて、$\kappa_1\kappa_2>0$ という条件、つまり、$\det(H(a,b))>0$ がでてくるのです.

これが、前回の定理でした.$\det(H(a,b))>0$ かつ $\kappa_1>0$ であることが極小点であるための条件で、$\det(H(a,b))>0$ かつ $\kappa_2<0$ が極大点であるための条件となります.

どうして固有値の条件としないのか?という疑問については、極値のための条件が一つの
式でかけるという便利さと、固有値を求めるには2次方程式を解かなければならないので、それよりは、簡単に計算できる判定法として、行列式が正の条件を挙げているわけです.

$f_{xx}(a,b)>0$ の条件は?

さらに、$\det(H(a,b))>0$ であるとき、$f_{xx}(a,b)>0$ の条件は $f_{yy}(a,b)>0$ という条件と同じです.もし、$f_{xx}(a,b), f_{yy}(a,b)$ の正負が一致しないとすると、$\det(H(a,b))>0$ の条件に反するからです.固有多項式を計算すると、

$$\det\begin{pmatrix}t-f_{xx}(a,b)&-f_{xy}(a,b)\\-f_{yx}(a,b)&t-f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}=(t-f_{xx}(a,b))(t-f_{yy}(a,b))-f_{xy}(a,b)^2=t^2-(f_{xx}(a,b)+f_{yy}(a,b))t+f_{xx}(a,b)f_{yy}(a,b)-f_{xy}(a,b)^2$$

であり、高校の頃にやった、

2次方程式の解がどちらも正の場合に、方程式の係数の満たす条件を求めなさい.

という問題が生きてきます.
あのころは、何のためにそのような問題をやったのかわからなかったと思いますが、今、自然とその問題を考えることになります.

今、この固有多項式の解(つまり2つの固有値のこと)がどちらも正であるためには、$y$-切片が $\det(H(a,b))=ad-b^2>0$ ですから、2次関数の軸の条件 $a+d>0$が必要となります.これは、$f_{xx}(a,b)+f_{yy}(a,b)>0$ ということですから、上のことから $f_{xx}(a,b)>0$ がいえます.
つまり、$\det(H(a,b))>0$ なら、

$$f_{xx}(a,b)>0\Leftrightarrow f_{yy}(a,b)>0\Leftrightarrow f_{xx}(a,b)+f_{yy}(a,b)>0\Leftrightarrow \text{固有値がどちらも正}$$

ゆえに、$f_{xx}(a,b)$ の正負によって、極小か極大かわかることになります.


3変数関数の場合

3変数関数の場合 $w=f(x,y,z)$ が極値となるためには、臨界点でのヘッシアン(ヘッセ行列の行列式)の正条件はもはや十分条件ではありません.
ヘッセ行列の固有値が
正負負
としても、ヘッシアンは正になりますが、全ての固有値が正になるわけではないので
極値とはなりません.つまり、この場合、ヘッシアンが正である条件は必要条件でも十分条件でもありません.必要条件でもないというのは、$0$ でも極大点となる場合がありますし、極大点であれば、固有値は全て負なので、ヘッシアンは負です.


極値問題で、ヘッシアンがゼロの場合を考えます.


極値問題その2

ここで扱う極値問題は、臨界点 $(a,b)$ において、ヘッセ行列
$$H(a,b)=\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}$$
の行列式(ヘッシアンと呼ばれる)が $0$ になっているものです.

ヘッシアンがゼロの臨界点のことをのことを、臨界点が退化しているといいます.そうでない場合、$\det(H(a,b))>0$ もしくは、$\det(H(a,b))<0$ の場合は、臨界点が非退化しているといいます.

非退化臨界点である場合は、臨界点の様子がよくわかります.
つまり、固有値が全て正であれば極小であるし、全て負であれば、極大です.
そのほかの場合は、極値ではありません.

退化した臨界点の場合(ヘッシアンがゼロ)


ここでは、退化した場合を考えます.

そのとき、ヘッシアンの行列のランクは2より小さいので、
ランクは1か0です.

ヘッセ行列のランクが1の場合は、2次近似が、
$$f(x,y)=f(a,b)+\frac{1}{2}(\alpha h+\beta k)^2+...$$

となるような場合で、典型的な例は、$z=x^2$ と片方の2次式しかない場合です.
これは、 下のような折り紙を曲げるような形です.この、一番下の点が臨界点です.
この点は、極値ではありません.その点の近くで、水平になっている部分があるからです.

つまり、2次近似の曲がり方が水平方向の部分が1次元あります.
この水平方向での曲がり方は、3次近似以降の曲がり方を決めなければなりません.
それ以外の方向では、曲がり方が上に凸か下に凸となっています.

ヘッセ行列のランクが0の場合は、2次近似が、


$$f(x,y)=f(a,b)+...$$

となって、2次近似が平面になっています.つまり、3次近似以降によってその凹凸が決められます.

ただ、3次近似以降を見て極値かどうかを判定するのは難しいです.
一般論はありますが、それをここで解説するには時間がかかりすぎます.
古典的な結果は幾つかあると思うので、興味のある人は、こちらの記事をみてください.

授業中に紹介した方法では、

極値であることを示すには、臨界点の周りである不等式を見つけること.
極値でないことを示すには、臨界点の周りで、正からも負からも近づく点列(または曲線)を作ること.

でした.復習すると、

$f(x,y)=x^4+y^2+3y$ の場合

まず、臨界点を求めると、
$f_x(x,y)=f_y(x,y)=0$ とすると、解は、$(x,y)=(0,-\frac{3}{2})$ となります.
ヘッセ行列を計算すると、
$$\begin{pmatrix}0&0\\0&2\end{pmatrix}$$
となっており、ランクが1の行列となっています.
つまり、$(0,-\frac{3}{2})$ の周りでの2次近似は、ある方向では曲がっているが、ある方向では水平方向になっていることがわかります.

この場合、$f(x,y)$ の$(0,-\frac{3}{2})$ での2次近似は、
$$f(x,y)=-\frac{9}{4}+(y+\frac{3}{2})^2+o(x^2+y^2)$$
となっており、$y$ 方向には、下に凸に曲がっていることがわかります.$x$ 方向には水平です.

3次近似以降で、$x$ 方向で、

下に凸になっていれば、$(0,-\frac{3}{2})$ で極値であるし、  (*)
上に凸であれば、$(0,-\frac{3}{2})$ で極値ではない、また、       (**)
そもそも極大でも極小でなければ、$(0,-\frac{3}{2})$ では極値ではない.(**)

今は、3次近似は、全ての3回偏微分はゼロ $f_{xxx}(0,-\frac{3}{2})=f_{xxy}(0,-\frac{3}{2})=\cdots=0$ なので、2次近似は3次近似にもなります.

よって、4次近似を考えますと、その近似関数そのものがもとの関数になって、
$$f(x,y)=$$
となります.4次近似において $x^4$ という下に凸の関数が出てきましたので、この臨界点が下に凸(つまり極小点)になっています.上の (*) の条件が成り立っているわけですね.

実際、証明するには、

$f(x,y)+\frac{9}{4}=(y+\frac{3}{2})^2+x^4\ge 0$ となり、
$(y+\frac{3}{2})^2+x^4=0$
となるのは、$y=-\frac{3}{2}$ かつ $x=0$ のときだけです.
これは、この点で極値であることを示しています.

(**) のパターンとしては、
$-x^4+y^2+3y$ という関数とすると、4次近似において $-x^4$ という上に凸の関数が出ますので、極値でないことがわかります.授業中に説明した鞍点(馬の背)ということになります.

(***) のパターンとしては、
$x^3+y^2+3y$ という関数だとすると、3次近似において、$x^3$ は原点において、極大でも極小でもないので、結果として、$x^3+y^2+3y$ は $(0,-\frac{3}{2})$ において極小での極大でもありません.また、鞍点でもありません.


$x^3+y^3+x^2+2xy+y^2$ の場合

この場合もやると、$(0,0)$ において退化した臨界点が現れます.
この関数が $(0,0)$ において極値でないことを示すには、$(0,0)$ の近くで、正で近づく点列、また負で近づく点列を見つければよいでしょう.

例えば、 $x=0$ として、$f(0,y)=y^3+y^2=y^2(y+1)$ となりますが、$f(0,y)$ は原点にいくらでも近く正の数をとります.

次の直線 ($y=-x$)と楕円 ($f(x,y)=x^2+y^2-xy+x+y=0$) は、$x^3+y^3+x^2 +2xy+y^2=0$ を満たすものです.
ここで、 $y=-x$ より右側は f(x,y)>0$ であり、この楕円の中も $f(x,y)>0$ となります.
それ以外の点では、負の数です.

ですので、この負の領域から原点に近づけば、いつも負の値のまま原点に近づくことができます.

よって、原点のいくらでも近くに、正の数と負の数が存在するので、原点でこの関数は
極値ではないということになります.

陰関数の定理

陰関数の定理については、去年の解説がこちらにありますのでそちらを参照してください.
ただ、一般的な形で書かれています.

2015年11月22日日曜日

素数を数えよう(7)

今日は、600から699までの素数を数えます.


16個あります.500代は14個でしたので、逆に増えてしまっています.
まだまだ少なくならないぞ、という素数同士の頑なな意志の現れでしょうか?
もちろんエマープ素数も回文素数もいません.

しかし、

双子が3組
三つ子が2組
いとこ素数が3組
セクシー素数が7組

と、密集はしているが、ある程度距離は保っているという印象があります.



判定法です.

37の倍数の判定法
特徴として、3つのゾロ目111や555など
37で割れるという特徴があります.ですので、4桁以上の数が、たとえば、5桁
abcdef
となったとき、3つずつ区切って、abc+def が37で割り切れるかどうかがひとつの判定法となります.
他の判定法は、

abc
のときに、
ab-11*c が37で割れればabcも37で割れる.
もしくは、
3*ab+4*c が37で割れればabcも37で割れる.

などがあります.使い勝手としては、前者でしょうか.


600から699までの素数

さあ覚えていきましょう.



601

110番目の素数.599との双子.この大きな合成数 60 に引きずられて合成数かと
見間違えます.素数61の間に0を入れてできる素数.

607

111番目の素数.607とはセクシー素数.60*の素数は、*=5以外の奇数では、603,609は明らかに3で割れるが、それ以外は全て素数だった.


613

607とともにセクシー素数セクシー素数の2連発!さらに、619ともセクシー素数で3連発.
下二桁が13になる素数は313以来300ぶり.


617

613とはいとこです.次の619とは双子なので、613, 617, 619は3つ子素数となります.
13と同じく、下二桁が17となる素数は317から300ぶり.


619

617に書いたように、613,617,619で3つ子.419から200ぶりに下二桁19の素数.


631

619から12もとんで現れる素数.620代は一つも素数がなかった.630代も他に素数がいなくて、次の素数は10とんでいる.あまり友達が少ない素数.

641

631とは10離れた素数.次の643とは双子.641,643,647 で3つ子.
つまり647とセクシー素数.


643

647とはいとこ.したがって、641,643,647 は3つ子素数.
並び替えると643 でムサシで東京スカイツリーの高さとちょうど同じ.

647

前の647とはいとこ素数.


653

659とはセクシー素数.一つ前の 647 ともセクシー素数.


659

659を逆さまにしても659という対称性の高い素数.さらに、661と双子.この並び、59と61も双子.
*59と*61が双子になるのは、1000までではこの2組だけ.


661

ぞろ目がでてきて少しうれしいがこれも素数.しかし、660代はこれしかないが、659とは仲良し?
次の素数までの間隔は12.

673

677とはいとこ.

677

これもぞろ目がでてくる下二桁にぞろ目がでる600代の素数あこれのみ.次の683まではセクシー素数.

683

次の素数まで8離れている.


691

ベルヌイ数の分子に $B_6=\frac{691}{2730}$ のようにでてくる(ということは$\zeta(12)$ の分子にもでてくる)由緒正しい素数.600代最大の素数.



ばらつきについて

下一桁で見ると、


601,631,641,661,691

613, 643, 673, 653,683

607, 617, 647, 677

619, 659

のようなばらつきがあります.
しかし、10ずつ分けてみれば、


601,607,

613,  617,619,

631,

641,643, 647,

653,659

661,

673,677

683

691

のように、最初と真ん中あたりに偏りがみられます.
しかし、
あまり近い素数は存在しないが、隣同士で12となる箇所が2つもあることなどもあり、
間隔が少し広めになりました.
600台は、セクシー素数7つと多いのも特徴の一つです.
さすが600台というところでしょうか.

線形代数II演習(第7回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は特に新しいことはやりませんでした.
来週は、発表をしてもらおうと思いますので、
線形写像や、表現行列については、次の次の回にやりたいと思います.

一人一人発表を当てたので、次回までに解いて発表してください.

ブログでは次のことを書きます.

商空間

商空間というのはあまり線形代数では扱わないことが多いです.
理解させるのが大変で、それをやるために時間が割かれてしまうので
2年生以降に代数の授業などで行うことになるかと思います.
しかし、線形代数の教科書には書いてあります.

ベクトルの直和をとることで、ベクトル空間同士の足し算とみなすことができます.
もちろん普通の足し算とは性質が違います.

商空間とは、ベクトル空間の引き算に相当するような概念です.
補空間というのも、性質の似たような空間ですが、少し違います.

部分空間 $W\subset V$ があったときに、その商空間 $V/W$ と呼ばれるベクトル空間を
作る事ができます.このベクトル空間は、抽象ベクトル空間です.

$V/W$ の定義を書いておくと、

$$V/W=\{{\bf a}+W|{\bf a}\in V\}$$
となります.つまり、$V/W$ の中の元は、${\bf a}+W$ という空間ということです.空間は集合ですから、 $V/W$ は集合の集合です.
ちなみに、この ${\bf a}+W$ の意味は、任意の ${\bf w}\in W$ に対して、
${\bf a}+{\bf w}$ と表される元全体ということです.

例えば、$V={\mathbb R}^2$ として、 $W=\langle {}^t(1,1)\rangle$ とすると、$V/W$ の 元は、$y=x$ と平行な直線全体です.
つまり、45度の傾きの平面上の直線全体を $V/W$ として、$V/W$ の一つの要素が一つの直線です。丁度下のような状況になっています.

この斜めの線一つ一つが $V/W$ の元になっており、それを集めたものが $V/W$ です.
斜めの線は有限で止まっているように見えますが、本当は無限に続く直線 $y=x+a$ です.また、線の間に隙間があるようにも見えますが、その間にも平行な線があり、それらも $V/W$ の元です.

つまり、$L_a=\{(x,x+a)\in{\mathbb R}|x\in{\mathbb R}\}$ とすると、 $V/W=\{L_a|a\in{\mathbb R}\}$ と書くことができます.

なので、特に、${\bf a}=(0,a)$ のようなベクトルとすれば、
$L_a={\bf a}+W$ とかけることになります.
よって、$W$ の基底 ${\bf r}={}^t(1,1)$ を使って書けば、

$${\bf a}+W=\{{\bf a}+t\cdot{\bf r}|t\in {\mathbb R}\}$$
のように書くことができて、やはり、${\bf a}+W$ は直線を表しています.

このとき、$V/W$ のある直線 ${\bf a}+W$ を表す方法はこれだけでなく、
${\bf b}={}^t(1,a+1)$ として、${\bf b}+W$ とすることができます.
つまり、直線として、
$\{(0,a)+t\cdot {\bf r}|t\in{\mathbb R}\}$ と
$\{(1,a+1)+t\cdot {\bf r}|t\in{\mathbb R}\}$ とは
同じですので、
$${\bf a}+W={\bf b}+W$$
となります.直線をベクトルで表示したときに、起点とする点はその直線上であればどこでもよいからです.
よって、このように直線を表すと少し任意性がでてきます.

このように、${\bf a}+W={\bf b}+W$ のようになるためには、${\bf a},{\bf b}$ の
満たす条件としては、${\bf a}-{\bf b}\in W$ が満たされればよいことがわかると思います.
つまり、${\bf a}$ と ${\bf b}$ が同じ直線上にあるためには、
${\bf b}={\bf a}+t_0{\bf r}$ となる実数 $t_0$ が存在すればよいからです.

${\bf a}+W={\bf b}+W$ $\Leftrightarrow$ ${\bf b}-{\bf a}\in W$

がいえます.

特に、${\bf a}\in W$ となるような元であれば、${\bf a}$ をゼロベクトル ${\bf 0}$ と取り替えてよいですから、その場合、${\bf a}+W=W$ となります.

この式でわかるように、もちろん $W$ を両辺から取ってやって、${\bf a}={\bf 0}$ と
やってしまってはいけません.
イコールの意味が普通とは違います.

このように、$V/W$ の元としてとられる ${\bf a}+W$ の ${\bf a}$ のことを代表元
といったりします.

ここで、$V/W$ の集合が何かということがわかったと思いますが、実はこの集合の集合である $V/W$ は抽象ベクトル空間になります.

$V/W$ のベクトル空間の構造

この $V/W$ にベクトル空間の構造を入れます.
つまり、和とスカラー倍を以下のように定義します.

${\bf v}_1+W$ と ${\bf v}_2+W$ に対して、
${\bf v}_1+{\bf v}_2+W$ 
のように和を定義し、また、スカラー倍は、$\lambda\in{\mathbb K}$ に対して、
$\lambda({\bf v}+W)=\lambda\cdot{\bf v}+W$
となります.
この演算がベクトル空間の構造を持つことを確かめる必要があります.

ベクトル空間であることをいうには、8つほどの公理を満たさなければなりませんが、
その前に、この和とスカラー倍がちゃんと一つの元を定めるのかが問題となります.

なぜかというと、上に示したように $V/W$ にはその元の表し方は沢山あります.
別の言葉で問題を整理すれば、

定義が代表元の取り方によった書き方をしている.
しかし、代表元は取り方はいろいろとありうる.
演算を定義するためには、代表元の取り方によらない方法でなければならない.

この問題を克服するには、代表元の取り方によらずに、
この演算が $V/W$ の元を定めている必要があります.

そういうわけで、以下のように代表元を取り替えます.

${\bf v}_1+W={\bf w}_1+W$ と取り替え、
${\bf v}_2+W={\bf w}_2+W$ と取り替えます.
このとき、
$({\bf w}_1+W)+({\bf w}_2+W)={\bf w}_1+{\bf w}_2+W$
となります.これが、
${\bf v}_1+{\bf v}_2+W={\bf w}_1+{\bf w}_2+W$
であることをいうには、上で示しているように、
${\bf w}_1+{\bf w}_2-({\bf v}_1+{\bf v}_2)\in W$
でなければなりません.
今、
${\bf v}_1+W={\bf w}_1+W$ かつ ${\bf v}_2+W={\bf w}_2+W$ 
であることから、 
${\bf w}_1-{\bf v}_1\in W$ かつ 
${\bf w}_2-{\bf v}_2\in W$ 
が成り立ちます.
このことと、$W$ が $V$ が部分空間であることから、

${\bf w}_1-{\bf v}_1+{\bf w}_2-{\bf v}_2\in W$ 

がなりたち、和の順序を並び替えることで、

${\bf w}_1+{\bf w}_2-({\bf v}_1+{\bf v}_2)\in W$

がいえます.

よって、この演算は代表元に取り方によらず $V/W$ の元を決めていることが
わかります.

このように、ちゃんと定義されているということを、 well-defined性といいます.
この well-defined という言葉は、日本語に上手く訳されているのは見たことがありません.
うまい訳語がないので、未だに、well-defined 性などと、英語混じりの日本語となって
いるようです.

この議論を続けて、スカラー倍の well-defined 性についても証明する必要があります.

つまり、代表元を取り替えても

$\lambda({\bf v}+W)=\lambda\cdot {\bf v}+W$
がただ一つ $V/W$ の元を決めているかということです.

それが示されて、初めて、演算自体の定義が終わるのです.
この演算がベクトル空間であることを確かめるためには、この後に、ベクトル空間のもつ8つの公理が満たされていることを示す必要があります.

そうして、ようやく、商空間が自分の手元に実現することができるのです.
スカラー倍の議論、ベクトル空間であるための8つの条件については、
各自で確かめてもらうということにしたいと思います.

トポロジー入門演習(第6回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今日はトポロジー演習を行いました。

相対位相

相対位相が位相となるという問題を2回やりました.

相対位相を定義します.

位相空間 $(X,{\frak T})$ と部分集合 $Y\subset X$ に対して
$${\frak T}\cap Y=\{U\cap Y|U\in \frak{T}\}$$
とすると、${\frak T}\cap Y$ は $Y$ の位相を与えます.

$(Y,{\frak T}\cap Y)$ を相対位相と言います.

相対位相は部分集合の位相のことですが、
$Y$ において開集合であることと、それが、$X$ において開集合であることとは違います.

例えば、
$X={\mathbb R}^2$ として、
$Y=\{(x,y)\in {\mathbb R}^2|x^2+y^2\le 1\}$ とします.このとき、
$U=Y\cap \{x>0\}=\{(x,y)\in{\mathbb R}^2|x^2+y^2\le 1,x>0\}$ とすると、

定義から、$U$ は $Y$ の開集合です

しかし、この集合の補空間の $x>0$ の部分から $U$ に $x^2+y^2=1$ のある点に近づくようにします.例えば、
$$\left(\frac{1}{\sqrt{2}}+\frac{1}{n},\frac{1}{\sqrt{2}}+\frac{1}{n}\right)$$
なる点列を取ります.
そうすると、$U$ の補空間において収束しませんので、${\mathbb R}^2-U$ は閉集合ではありません.よって、$U$ は $X={\mathbb R}^2$ の開集合ではないということになります.


これは、$Y$ が ${\mathbb R}^2$ が開集合ではないということから由来します.また、部分集合 $Y$ が $X$ の開集合であるなら、$Y$ 上の相対位相において、$Y$ の開集合は、 $X$ の開集合にもなります.また、$X$ の開集合は、$Y$ に制限すれば、$Y$ の開集合になります.

同じように、相対位相において閉集合であるかどうかにおいては、 $Y$ が $X$ の閉集合であれば、 $Y$ の閉集合は $X$ の閉集合になるし、$X$ の閉集合を $Y$ に制限すれば $Y$ 上の閉集合になります.


部分集合がもつ位相は、相対位相だけとは限りません.全体の空間 $(X,{\frak T})$ の位相を無視すれば、いくらでも作ることができます.

例えば、有理数全体の空間 ${\mathbb Q}$ には、離散位相、つまり、${\mathbb Q}$ を並び替えた、 ${\mathbb N}$ の間の全単射
$${\mathbb Q}\to {\mathbb N}$$
がありますが、${\mathbb N}$ 上の離散位相を ${\mathbb Q}$ に持ってくることができます.

これは、${\mathbb Q}\subset {\mathbb R}$ の相対位相としての位相は異なります.
どちらも距離空間ですが、お互い同値ではありません.


遺伝性

遺伝性というのは、位相空間 $(X,{\frak T})$ の性質がその相対位相にも引き継がれるかということです.引き継がれる場合、遺伝性をもつ(遺伝的)といいます.

第一可算(各点において可算近傍基を持つこと)であることは、遺伝的です.
また、第二可算(可算個の開基をもつこと)も遺伝的です.

可分であることは、遺伝的ではありません.
例えば、こちらにあるように、ゾルゲンフライ平面は、可分ですが、その部分集合で、可分とならないような部分空間を作る事ができます.
ですので、可分であることは遺伝的ではないことになります.
可分ではない空間は、${\mathbb R}$ 上の離散空間があります.


平面上の部分集合

${\mathbb R}^2$ 上の部分集合には通常の距離空間を誘導することができます.

例えば、円周 $S^1=\{(x,y)\in{\mathbb R}^2|x^2+y^2=1\}$ には相対位相を入れることができますが、これは ${\mathbb R}\to S^1$ において、$\varphi:{\mathbb R}\ni\theta\mapsto (\cos\theta,\sin\theta)\in {\mathbb R}$ のように
写像をつくると、この $S^1$ 上の集合上の相対位相は、$\varphi$ によって、
${\mathbb R}$ 上の通常の距離位相によって$\varphi$ は連続になります.
つまり、$S^1$ 上の通常の距離位相は相対位相と同相になっています.


このように、平面上に(少なくとも滑らかに)埋め込まれた閉集合は、相対位相と、その
閉集合に入れた通常の距離位相が同相になります.

例えば、連続関数 $y=f(x)$ があったときに、
$$\{(x,f(x))\in{\mathbb R}^2|x\in{\mathbb R}\}\subset {\mathbb R}^2$$

上の相対位相は、${\mathbb R}$ と同相になります.

2015年11月18日水曜日

微積分II演習(第6回)

[場所1E103(金曜日5限)]
HPに行く.

今日は
  • テイラーの定理と
  • 極値問題
についてやりました.
特に重要な、ある2変数関数が極値を持つための(十分)条件についてやりました。
解き方の流れは、高校時代に散々やった1変数関数の極値問題の2変数化
です.

ちなみに、2変数関数のグラフについてはこちら(←)に描いてあります.
昨年行った同じ授業のブログ内容はこちら(←)にあります.

テイラーの定理

テイラーの定理は、関数(ここでは、何回でも微分できる関数)を $n$ 次の項の無限和として書く方法です.つまり、

(関数)=(定数関数)+(1次関数)+(2次関数)+(3次関数)+.......
と書いていくことです.この N次関数の項は、N-1次関数は和として含まれず、丁度 N次関数しか含まれません.つまり、斉次多項式です.

1変数の場合、$x=a$ での展開は、

$$f(x)=f(a)+f'(a)(x-a)+\frac{f''(a)}{2!}(x-a)^2+\frac{f'''(a)}{3!}(x-a)^3+...$$

となりますが、多変数の場合は、$h=x-a, k=y-b$ とおくと、
$$f(x,y)=f(a,b)+f_x(a,b)h+f_y(a,b)k+\frac{1}{2!}(f_{xx}(a,b)h^2+2f_{xy}(a,b)hk+f_{yy}(a,b)k^2)+...$$
となります.
一般項は、$h,k$ の $n$ 次式で、$h^n, h^{n-1}k,h^{n-2}k^2,...k^n$ の和によって以下のように表されます.

このように展開される式のことをテイラー展開といいます.

$n$ 次式の項は、
$$\frac{1}{n!}\sum_{l=0}^n\binom{n}{l}\frac{\partial^n f}{\partial x^l\partial y^{n-l}}(a,b)h^lk^{n-l}\ \ \ \ \ \  (\#)$$
になります.
このように各項の $h,k$ の指数の和が全て等しい式のことを斉次多項式といいます.
たとえば、$h^3+3hk^2+k^3, h^2+hk-k^2$ などです.

上の(#) は $\frac{1}{n!}\left(h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y}\right)^nf$ となります.
つまり、方向微分 $h\frac{\partial}{\partial x}+k\frac{\partial}{\partial y}$ の $n$ 乗を計算していることになり、これは、1変数のテイラーの定理の形とそっくりになります.


関数をテイラー展開の (定数関数)+(1次関数)+(2次関数)+...+(N次式) として表したものをその関数のN次近似式といいます.
2変数関数の $(a,b)$ での1次近似式は、
$$f(a,b)+f_x(a,b)h+f_y(a,b)k$$
であり、2次近似式は、
$$f(a,b)+f_x(a,b)h+f_y(a,b)k+\frac{1}{2}(f_{xx}(a,b)h^2+2f_{xy}(a,b)hk+f_{yy}(a,b)k^2)$$
となります.この2次近似式を使って2変数関数のグラフの凹凸(極値問題)を考えていきます.

極値問題

極値(簡単のため1変数関数)、ある関数 $y=f(x)$ が、ある点 $x=a$ での接線 $L$ が平行であるとします.このとき、その点のある周辺で、$y=f(x)$ のグラフが ($x=a$ を除いて)$L$ の全て上に位置しているとき、極小点といい、 $y=f(x)$ のグラフが ($x=a$ を除いて)$L$ の全て下側にあるとき、極小点といいます.式で書けば、

ある$x=a$ の近くの全ての点 $x$ において、
$f(x)\ge f(a)$ であり、等号成立は $x=a$ のみのとき
$x=a$ は極小点

ある$x=a$ の近くの全ての点 $x$ において、
$f(x)\le f(a)$ であり、等号成立は $x=a$ のみのとき
$x=a$ は極大点

となります.ここでは、関数の2次近似を用いた極点の判定を行います.


昨年度の授業を思い出すと、1変数関数の極値問題と2変数関数の極値問題を対比させた気がしますが、今年度は特にその辺は強調しませんでした.
ここでもう一度.

1変数関数 $y=f(x)$ の極値を求める.

  1. まず、微分が0の点を求める(極値ならば、接線が $x$ 軸に平行だから微分係数(傾き)は0)
  2. $f'(x)=0$ を解く.
  3. この方程式の解を $x=a$ として、さらに、$f''(a)>0$ ならば、この点で極小点となり、$f'(a)<0$ .ならば、極大点となる.
この最後の条件は、$f'(x)$ が $x=a$ の周りで、負から正に変わるなら極小点、正から負に変わるなら極大点と一般化されます.

つまり、$f''(a)>0$ は極小点であるための十分条件であって、$f''(a)=0$でも極小点を持つことがあります.たとえば、$y=x^4$ とするとき、$f''(0)=0$ ですが、$f'(x)=4x^3$ が$x=0$ の近くで、負から正に変わっているために、ここで極小値となるのです.


2変数関数 $z=f(x,y)$ の極値を求める.
$H=\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}$
とおきます.これはヘッセ行列と呼ばれています.
  1. まず、微分が0の点を求める(極値ならば、接平面$xy$ 平面に平行だから、各微分係数は0)
  2. $f_x(x,y)=f_y(x,y)=0$ を解く.
  3. この方程式の解を $(x,y)=(a,b)$ として、さらに、$\det(H)>0$ ならば、この点は極点となり、さらに、$f_{xx}(a,b)>0$ .ならば、極小点、$f_{xx}(a,b)<0$ ならば極大点となる.
まとめ、さらに情報を追加すると、

定理
$f_x(a,b)=f_y(a,b)=0$ となる点 $(a,b)$ において、
$\det\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}>0$ ならば、
$(a,b)$ において $f(x,y)$ は極値をもち、そのとき、
$f_{xx}(a,b)>0$ ならば極小点(下に凸)
$f_{xx}(a,b)<0$ ならば極大点(上に凸)
となる.さらに、

$\det\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}<0$ であれば、その点 $(a,b)$ は、極点にはなりません.



最後に残った
$\det\begin{pmatrix}f_{xx}(a,b)&f_{xy}(a,b)\\f_{yx}(a,b)&f_{yy}(a,b)\end{pmatrix}=0$ の場合ですが、これは、 $(a,b)$ が極点となることもあれば、そうでないこともあり、この形からすぐに極点かどうかは断言できません.


このようにこれは、2回微分までを使っていますので、関数の2次近似の情報を使っています.
つまり、極点の周辺で関数は、

$$f(a,b)+\frac{1}{2}(f_{xx}(a,b)h^2+2f_{xy}(a,b)hk+f_{yy}(a,b)k^2)$$

のように、展開されており、2次式が剥き出しの状態になっています.
つまりこの関数がこの点の周りでその振る舞いを決めているのは、この2次式ということになります.この2次式の状況が関数の丸さ(曲がり具合)を見ていることになります.


行列の観点からは、$\det(H)>0$ かつ、$f_{xx}(a,b)>0$ とは、その行列 $H$ の固有値(2つ)がどちらも正の数であること(対称行列行列が正定値という)を示しています.また、$\det(H)>0$ かつ、$f_{xx}(a,b)<0$ は行列 $H$ の固有値がどちらも負の数であること(対称行列行列が負定値という)を示しています.
また、$\det(H)<0$ ということは、行列 $H$ の固有値が正負両方現れること(対称行列行列が不定値という)を意味しています.
この固有値は、関数の曲がり具合の元です.

2変数関数の極値における代表的な関数として、

$z=x^2+y^2$, $z=xy$, $z=-x^2-y^2$
があります.

1つ目は、$H=\begin{pmatrix}2&0\\0&2\end{pmatrix}$ となり、重複した固有値 $2$ が現れています.(固有ベクトルは軸方向でその方向での方向微分 $\frac{\partial }{\partial x}$, $\frac{\partial}{\partial y}$ は、2回微分が正の関数です.)
さらに言えば、どの方向も同じ"正の"曲がり方をしており、下に凸になっていることを表しています.

2つ目は、$H=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ となり、固有値 $1,-1$ が現れています.(固有ベクトルは $(1,1), (1,-1)$ ですが、この方向に制限すると、$x^2$、$-x^2$ となり、つまり、方向によって、下に凸になったり、上に凸になったりしています.このような状況では極値とはいえません.

3つ目は、$H=\begin{pmatrix}-2&0\\0&-2\end{pmatrix}$ なり、重複した固有値 $-2$ が現れています.1つ目の全てマイナス1倍になっています.どの方向も $-2$ の曲がり方、つまり上に凸になっています.

グラフはさきほどのリンク(こちら)にあります.

また、最後に、一般に実対称行列の固有値は全て実数になることをコメントしておきます.

2015年11月12日木曜日

線形代数II演習(第6回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は
  • 次元.
  • 直和であることを示すこと.
  • 直和の次元公式
  • 共通部分のベクトル空間を求めること.
をやりました.

次元


有限生成ベクトル空間の次元とは、そのベクトル空間の基底の数のことをいいます.
有限生成でないベクトル空間の次元は、有限でないと言うか、無限次元と言います.

ちなみに、$\{0\}$ もベクトル空間の定義を満たすので、ベクトル空間です.次元は $0$ と定義します.このベクトル空間には基底は存在しません.基底の集合が空集合であるのではなく、基底が定義できません.空集合を使ってもこの一つしかないベクトルを生成できるわけでもないです.空集合が生成できるはずがないので空集合が基底集合というわけでもないです.ですので、この場合、次元は $0$ として定義しておくのです.

ちなみに、このベクトル空間は、すべてのベクトル空間の部分空間に含まれており、任意のベクトル空間の次元が $0$ の部分空間はただ一つです.

また、一般に、

事実
有限生成ベクトル空間において、部分空間 $W\subset V$ があるとき、
$$\dim W\le \dim V$$
がなりたち、等号が成り立つのは、$W=V$ のときに限ります.


よって、次元が $0$ のものと、$\dim(V)$ のものは、部分空間として唯一つ決まります.

直和であることを示すこと


ベクトル空間 $V$ とその部分空間 $V_1,V_2\subset V$ が与えられているとき、

  • $V_1\cap V_2=\{0\}$ 
  • $V=V_1+ V_2$
を満たすとします.このとき、$V_1,V_2$ は $V$ の中で直和であり、
$$V=V_1\oplus V_2$$
とかきます.

先週の補空間の定義と同じだと思った人も多いと思いますが、その通りで、$V$ において、$V_2$ は $V_1$ の補空間になっており、$V_1$ は $V_2$ の補空間になっています.

和および直和の次元公式

$$\dim(V_1+V_2)=\dim(V_1)+\dim(V_2)-\dim(V_1\cap V_2)$$
が成り立ちます.
また、$V_1+V_2$ が直和であるとするとき、$\{0\}$ の次元が $0$ なので、

$$\dim(V_1\oplus V_2)=\dim(V_1)+\dim(V_2)$$
となります.
ですから、補空間の次元というのは、全体の次元からその部分空間の次元を引いたものになります.

まず、$V_1,V_2\subset V$ が全体の直和になるためには、部分空間の次元の和が全体になる必要があります.演習の時間にやったように、
$\dim(V_1)+\dim(V_2)\neq \dim(V)$ であるようなら、それがどのようなベクトル空間であるかに関わらず直和にはなり得ません.

また、あらゆるベクトル空間の次元は非負なので、
$\dim(V_1)+\dim(V_2)<\dim(V)$ ならば、$V_1+V_2=V$ も成り立ちません.

$\dim(V_1)+\dim(V_2)= \dim(V)$ であるときに限り、直和かどうかの議論を $V_1,V_2$ の定義に帰って考える意味があります.

そういうわけで、今後そのような場合に、$V_1,V_2\subset V$ が与えられたとき、$V_1\cap V_2=\{0\}$ であるかどうか確かめます.

A-6-2(4)
の続きをやってみます.
$V_1=\langle(1,x,x^2,x^3)\begin{pmatrix}1&1\\1&3\\1&3\\1&2\end{pmatrix}\rangle,V_2=\langle(1,x,x^2,x^3)\begin{pmatrix}0&1\\1&4\\2&3\\0&3\end{pmatrix}\rangle$

$V_1\cap V_2\ni {\bf v}$ は、
${\bf v}=\begin{pmatrix}1&1\\1&3\\1&3\\1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c\\d\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&1\\1&4\\2&3\\0&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}e\\f\end{pmatrix}$

とかけるので、$c,d,e,f$ は、
$\begin{pmatrix}1&1&0&-1\\1&3&-1&-4\\1&3&-2&-3\\1&2&0&-3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}c\\d\\e\\f\end{pmatrix}={\bf 0}$
となるような連立一次方程式を解けばよいことになります.
まず、行列を簡約化すると下のようになります.
$\begin{pmatrix}1&1&0&-1\\1&3&-1&-4\\1&3&-2&-3\\1&2&0&-3\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&0&1\\0&1&0&-2\\0&0&1&-1\\0&0&0&0\end{pmatrix}$
よって、任意のスカラー $c_1$ を用いて
$\begin{pmatrix}c\\d\\e\\f\end{pmatrix}= c_1\begin{pmatrix}-1\\2\\1\\1\end{pmatrix}$
と書けます.
つまり、
$V_1\cap V_2=\langle (1,x,x^2,x^3)\begin{pmatrix}1&1\\1&3\\1&3\\1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}-1\\2\end{pmatrix}\rangle=\langle(1,x,x^2,x^3)\begin{pmatrix}1\\5\\5\\3\end{pmatrix}\rangle=\langle 1+5x+5x^2+3x^3\rangle\neq \{0\} $
ということになります.
よって、2つのベクトル空間 $V_1+V_2$ は直和ではないことがわかります.


また、$V_1+V_2=V$ であるかどうかは、上の事実を使います.

$V_1+V_2$ は当然$V$の部分空間です.

次元公式を使って計算をすると、

$\dim(V_1+V_2)=\dim(V_1)+\dim(V_2)-\dim(V_1\cap V_2)=2+2-1=3$

となって、$\dim(V)=4$ であることから、$V_1+V_2\neq V$ が成り立ちます.


共通部分のベクトル空間を求める方法


今日は、直和であるかどうかの問題でしたが、結局、共通部分のベクトル空間が何か(要するにその基底は何か)という問題でした.

上で行ったのは、

$V_1,V_2$ がどちらも $\langle {\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_n\rangle$ のように、ベクトルで生成する形の場合に求めていましたが、連立一次方程式の形になっているときは、以下のようにします.

$V_1=\{{\bf v}\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}1&-1&0\\2&-1&0\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
$V_2=\{{\bf v}\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}1&0&-1\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
であるとすると、
$V_1\cap V_2=\{{\bf v}\in {\Bbb C}^3|\begin{pmatrix}1&-1&0\\2&-1&0\\1&0&-1\end{pmatrix}{\bf v}=0\}$
と行列を積み上げればよいことになります.
このとき、
$V_1\cap V_2=\{0\}$ であることは、$\det\begin{pmatrix}1&-1&0\\2&-1&0\\1&0&-1\end{pmatrix}\neq 0$
と同値ということになります.

よって、部分空間 $V_1,V_2$ がいくつかのベクトルで生成される形で書かれている場合でも、一度連立一次方程式に直してから考えると、共通部分のベクトル空間は行列を積み上げてから求めることもできます.


宿題C-6-3について


今回の最後の宿題は、いろいろとややこしいので、(おそらく)ひっかかりやすい部分を下で述べておきます.肝心なところは授業中にあまりはっきりとは言えませんでした.

部分空間 $V_1=\langle {\bf v}_1,{\bf v}_2,{\bf v}_2\rangle,V_2=\langle{\bf w}_1,{\bf w}_2\rangle$ が指定され、それぞれ、3次元、2次元です.
全体空間は4次元ですので、次元公式から、$V_1\cap V_2$ の次元は、必ず 1次元以上あることになります.

そのとき、(2) は、部分空間 $V_1,V_2$ の生成ベクトル ${\bf v}_1,{\bf v}_2,{\bf v}_3$ および ${\bf w}_1,{\bf w}_2$ を以下のように直してくださいということです.

たとえば、$V_1\cap V_2$ の次元が 1次元であるとき、
$V_1\cap V_2=\langle f \rangle$ とすると、

$V_1=\langle f,g_1,g_2\rangle$
$V_2=\langle f,g_3\rangle$

の形に直してください.

$V_1\cap V_2$ の次元が 2 の場合は、

$V_1=\langle f_1,f_2,g\rangle$
$V_2=\langle f_1,f_2\rangle$

としてください.

以下1次元の場合とします.
もし、$V_1\cap V_2=\langle f \rangle$ とすると、

$f\in V_1$ かつ、$f\in V_2$
となりますが、要はこのベクトルを延長して、$V_1,V_2$ の基底を作りなさいという問題です.

ここで、延長の仕方を工夫する必要があります.
いつもの単位ベクトルに相当するものを足しても、当然、部分空間 $V_1,V_2$ の外に出てしまうでしょう.
単位ベクトルは、$V_1,V_2$ に入っているとは限りません.

なので、$V_1,V_2$ に入っているベクトルで、基底を延長する必要があります.

そのようなベクトルは、初めの $V_1,V_2$ の定義式のベクトルを使えばよいでしょう.

つまり、$(f,{\bf v}_1,{\bf v}_2,{\bf v}_3)$ や $(f,{\bf w}_1,{\bf w}_2)$ のように
ベクトルを並べておいて、この中から左端から最大個の一次独立なベクトルを選ぶようにすればよいことになります.(正確に言えばこれを行列で表示しておいてから簡約化をする.)

2015年11月6日金曜日

線形代数II演習(第5回)

[場所1E103(水曜日4限)]


HPに行く.

今日は
  • 一次独立なベクトルを拡張して基底にすること、
  • 補空間を求めること、
  • あるベクトル空間を解空間とする連立一次方程式を作ること
をやりました.


一次独立なベクトルを拡張して基底にすること

${\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_k$ を一次独立なベクトルとするとき、
このベクトルを含むようなベクトル空間 $V$ の基底を作ります.

ここでは、数ベクトル空間の場合にやることにします.
そうではない場合は、一度、適当な基底を用いて数ベクトルに直しておけば十分です.

$k$ 個の数ベクトル(縦ベクトル)を並べて、$ n\times k$ 行列を作っておきます.
(このとき、$k\le n$ になっています.$n$ はベクトル空間 $V$ の次元ですが、それより大きい数のベクトルを一次独立なベクトルとして取ることはできません.)

$A=({\bf a}_1\cdots{\bf a}_k)$ とします.

さらに、この行列に単位行列 $E$ を横に並べて、 $B=(AE)$ のように、$n\times (k+n)$ 行列を作っておきます.

後ろに一次独立なベクトルを $n$ 個つけているので、$B$ のランクは $n$ であることを注意しておきます.
$B=({\bf a}_1\cdots {\bf a}_{n+k})$
とします.

この行列 $B$ を簡約化すると、必ず、その中に、$n$ 個の一次独立な縦ベクトル(標準基底になるようなベクトル)が得られます.そのような列のことを先頭列といいました.
簡約化を

$$(AE)\to \cdots \to C=({\bf c}_1\cdots{\bf c}_{k+n})$$

とします.
簡約化された行列 $C$ は階段行列で、最初から、一次独立なベクトルを順にとっていますから、最初の $k$ 個の数ベクトル ${\bf c}_1,\cdots,{\bf c}_{k}$ が必ず、先頭列になっています.さらに、後半の $n$ 個の縦ベクトルの中から $n-k$ 個の先頭列 ${\bf c}_{i_1},\cdots,{\bf c}_{i_{n-k}}$ を見つけることができます.

よって、${\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_k$ に加えて、${\bf a}_{i_1},\cdots,{\bf a}_{i_{n-k}}$ を付け加えることによって、基底として、

$${\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_k,{\bf a}_{i_1},\cdots,{\bf a}_{i_{n-k}}$$
を作ることができます.

補空間の基底を求めること

部分ベクトル空間が与えられているとき、その補空間(の基底)を与えます.

補空間は、まだ講義の方では説明していないと思いますが、以下の定義を満たすものです.

$W\subset V$ をベクトル空間 $V$ の部分空間とします.
$W'$ が $W$ の補空間であるとは、以下を満たすものです.
  • $W\cap W'=\{{\bf 0}\}$ かつ、
  • $W+W'=V$ であること.
$W+W'$ とは、$\{w+w'\in V|w\in W,w'\in W'\}$ なる $V$ の部分空間のことです.


ここでは、部分空間 $W$ として、幾つかのベクトルが生成している形として
与えられているとします.



ところで、部分空間の与えられ方は、大体、以下の2種類が考えられます.
  • 連立一次方程式が与えられている.
  • 生成するベクトルが与えられている.

後者のほうではまず、やることはありませんが、前者の場合は、一度方程式を解いて、生成するベクトル(大体基底のことが多い)としておく必要があります.



部分ベクトル空間があるいくつかのベクトルで生成していると仮定します.さらに、数ベクトル空間ではない場合は、ある基底を使って数ベクトルに直しておきます.

$W=\langle {\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_k\rangle$
となったときに、$A=({\bf a}_1\cdots{\bf a}_k)$ として、基底の拡張をします.
これは上で説明したとおりです.

そうすると、${\bf a}_1,\cdots,{\bf a}_k$ 以外に出てくる一次独立なベクトルたちが、$W'$ として生成しているベクトルということになります.

具体例の計算は授業中に幾つかやったので省略します.


ベクトル空間を連立一次方程式の解空間とみなす

あるベクトル空間 $W\subset V$ (この際、数ベクトル空間でよい)を連立一次方程式の解空間とみなすことを考えます.


まず、連立一次方程式を解く(数ベクトル空間の場合に)ということは、

$Ax=0$ なるベクトル $x$  ⇒ $x=c_1{\bf v}_1+\cdots+c_k{\bf v}_k$ なる表示を与える.
という書き換えを行うことです.

ここでやりたいことは、逆の操作、
$x=c_1{\bf v}_1+\cdots+c_k{\bf v}_k$ なるベクトル ⇒ $Ax=0$ なる連立一次方程式を与える.
をすることです.
例を使って行います.
$$\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix},\begin{pmatrix}4\\5\\6\end{pmatrix}$$
で生成される部分ベクトル空間 $W$ があったときに、$W$ の満たす連立一次方程式を求めることを考えます.このベクトルをまとめて作った $3\times 2$ 行列の転置行列は、
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix}$$
です.この行列を簡約化します.すると、
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&2&3\\0&-3&-6\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&2&3\\0&1&2\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&-1\\0&1&2\end{pmatrix}$$
となり、$W$ は、$\langle \begin{pmatrix}1\\0\\-1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\1\\2\end{pmatrix}\rangle$
と書くことができます.よって、$x_1=c,x_2=d$ とすると、$x_3=-c+2d$ となり、$c,d$ に代入して、移項することで、$x_1-2x_2+x_3=0$ が得られます.この式が $W$ を決めている連立一次方程式ということになります.
このとき、先頭行に対応するところに、文字、$c,d$ を置いたことに注意してください.
先頭行ではない行の分だけ、関係式(つまり連立一次方程式)が出てくることになります.

つまり、
$$\langle\begin{pmatrix}1\\2\\3\end{pmatrix},\begin{pmatrix}4\\5\\6\end{pmatrix}\rangle=\left\{{\bf v}\in {\mathbb C}^3|\begin{pmatrix}1&-2&1\end{pmatrix}{\bf v}=0\right\}$$
となります.

最終的に、$A=\begin{pmatrix}1&-2&1\end{pmatrix}$ とおくとき、
$$A{\bf v}=0$$
が求める連立一次方程式となります.

慣れてこれば、一度転置してからもう一度転置しなおすということはしないで済むかもしれません.

2015年11月4日水曜日

トポロジー入門演習(第5回)

[場所1E103(月曜日4限)]

HPに行く.

今日は可算公理について説明しました.

第一可算公理は、各点において可算個の近傍基を持つことです.

近傍系とは、各点の近傍を全て集めたものですが、近傍基とは、その中でいくらでも小さくできるものを集めたものでした.正確な定義は第4回(←こちら)にも書きました.

近傍基は近傍系の部分集合なのですが、近傍として役目(いくらでも小さい近傍が中に入っているようにする)を満たすものをいいます.


次に可算公理をまとめておきます.

第一可算公理(可算近傍基)
各点において可算個の近傍基をもつ.

注意点は、各点において可算個でよいという点です.

第二可算公理(可算開基)
開基として可算個のものが取れる.

この公理は各点ごとに可算ではなく、開基全てを集めてきても高々可算個しかないということです.

第一可算公理と第二可算公理は、位相空間に定義される位相的性質です.
なので、ある位相空間が第一可算公理を満たす、とか
ある位相空間が第二可算公理を満たすなどの使い方をします。

可分
ある位相空間に稠密な可算部分集合が存在することをいいます.

つまり、閉包をとると全体集合となる可算個の部分集合が存在するということです.



開基は各点においていくらでも小さいものが含まれないといけませんから、開基を $\beta$ として、${\mathcal U}(x)=\{B\in \beta|x\in B\}$ とすると、この集合は $x$ の近傍基となります.さらに、これは可算集合の部分集合ですから、可算個です.よって、第二可算なら第一可算ということが成り立ちます.
従って、第二可算公理は、第一可算公理よりかなり強い要請だということもわかると思います.

また、重要なこととして、可分な距離空間は第二可算公理を満足します.
可算稠密部分集合の各点において、距離をいくらでも小さくできるように可算個の近傍基をとることは簡単です.つまり、そのような近傍基を全て集めてきたものはそのような位相空間の開基となるのです.


そういうわけで、実数上の通常の距離空間は、第二可算公理を満足します.
しかし、ゾルゲンフライ直線( $\{[a,b)|a,b\in{\mathbb R}\}$ を開基とする実数上の位相空間)は、可算個の開基をもつことができません.(授業中にも少しヒントのようなものを出しました.)よって、この空間は可分でもありますから、距離空間と見なせないことになります.どうしても距離の構造を入れることができない位相空間のことを距離化不可能位相空間といいます.そうではないものは距離化可能な位相空間といいます.
ゾルゲンフライ直線や平面については、こちらの記事(←)に以前書きました.

ゾルゲンフライ直線とは違って、
$\beta=\{[a,b)|a\in{\mathbb Q},b\in{\mathbb Q}\}$ を開基とするような ${\mathbb R}$ 上の位相空間はもちろん第二可算公理を満足しますが、可分で、第二可算公理を満足する通常の距離空間より強い位相を作る事ができます.