昨日、手習い塾に行ったら商空間の話をしている学生(1年生)がいました.
線形代数の講義(演習ではない)で商空間を扱ったということでした.
では、演習でも扱ってよいということですね.
ベクトル空間の商空間をどうやって考えるかここで少しまとめておきます.
ただ、教科書に書いてあるようなすっきりとした一般的な書き方ではなく、
くどくどとした説明になってしまいました.
V/W というベクトル空間をある同値類の集合上に入るベクトル空間という見方をして終わります.
先日のブログには、商空間のことをかきました.
その続きのような話です.まずは先日のブログの方を読むとよいかもしれません.
では、つづきを始めます.
商空間の定義
ベクトル空間 V とその部分空間 W\subset V があったときに、
V/W の元を V の中の、W と平行な空間として定義します.
なので、V/W はそのような空間の全体ということになります.
ポイントは、V 全体がそのような空間を敷き詰めてでできているということです.
W の層のようになっています.
トポロジーではそのような構造が局所的に存在するとき、それを葉層構造といいます.
V/W を集合の言葉で書けば、V/W=\{{\bf v}+W|{\bf v}\in V\} となります.
{\bf v}+W という書き方に慣れない場合は、
高校のころにやった直線のベクトル表示や、平面のベクトル表示のことを思い出しましょう.
平面上の直線や、空間上の平面は、ベクトル {\bf a},{\bf r},{\bf r}_1,{\bf r}_2 を使って、
{\bf a}+t\cdot{\bf r}\ \ \ (t\in{\mathbb R})
{\bf a}+t_1\cdot{\bf r}_1+t_2\cdot{\bf r}_2\ \ \ (t_1,t_2\in{\mathbb R})
のように書き表されていました.
この後半部分で、t を実数全体をとれば、部分ベクトル空間 \langle {\bf r}\rangle が得られるし、t_1,t_2 を実数全体をとれば、\langle {\bf r}_1,{\bf r}_2\rangle という部分ベクトル空間を足していることになります.つまり {\bf a}+W という形になりますね.
一般に、{\bf v}+W という書き方で、{\bf v} を通り、Wに平行な空間を表します.
これは、一般に部分ベクトル空間ではありません.
この {\bf v} のことを V/W の元 {\bf v}+W の代表元と言いました.
また、 {\bf v}+W={\bf v}'+W (代表元の取替えという)となるためには、
{\bf v}-{\bf v}'\in W となることが必要十分であることも前のブログで書きました.
とくに、{\bf v}+W が V の部分ベクトル空間になるためには、{\bf v}+W=W となっていなければならなりません.部分空間には、{\bf 0} が必ず入っていないといけませんから、{\bf 0} を代表元と取ればよいわけです.
上に書いたことから、{\bf v}+W が部分空間であるためには、つまり原点を通るためには、{\bf v}\in W となっていなければなりません.
{\bf v}+W={\bf v}'+W のように代表元を取り替えても、"空間"としては同じものです.(表示の仕方が違うだけです.)
V/W=\{{\bf v}+W|{\bf v}\in V\} という書き方には、{\bf v}+W={\bf v}'+W となった場合は、空間として同じものなので、V/W の中で同じ元を表しています.集合は、重複して同じものをとることはできません.
そして、V/W のベクトル空間としての和は、
({\bf v}_1+W)+({\bf v}_2+W)={\bf v}_1+{\bf v}_2+W
であり、スカラー \lambda をかけることは、
\lambda({\bf v}_1+W)=\lambda\cdot{\bf v}+W
と定義しました.
同値類ということ
同値類というのは、数学でよく出てくる概念です.数学で出てくる空間や集合をいくつかまとめて、それごとに考えていくという考え方です.その一つ一つのことを同値類(クラス)といいます.
説明するときは、クラスわけでたとえられることが多いようです.
学校のクラスわけというのは、一学年の学生をあるいくつかのクラスで分けることです.分けることで、そのクラス毎の話をすることができます.そのときは、個々の学生のことは無視して、クラス全体を一つのものとしてみなしています.
この考え方を数学に応用します.
上の商空間の状況において考えてみます.
V/W を、W と平行な空間の束として考えていました.V/W はその束全体の集合です.
ここで、W と平行な空間 {\bf v}+W 上の全ての点を一つのクラスとして V 全体のクラスわけを行います.
つまり、{\bf u} が {\bf v} と同じクラスにいるということを、 {\bf u}-{\bf v}\in W となることとして定義するのです.別の言葉でいえば、{\bf u} と {\bf v} を通る、W と平行な空間があれば同じ同値類(クラス)とするのです.
クラスにいる学生全体(ベクトル空間の場合は {\bf v}+W の元全体)は、単に、一つのクラスとして考えても、抽象的には同じものです.
また、クラスから代表を一人ずつ選ぶことで、一つのクラスは、クラスの代表を考えることも抽象的には同じことです.つまり、
代表元を用いたベクトル空間の演算
V/W のベクトル空間としての足し算は、実は、{\bf v}_1+W+{\bf v}_2+W のようにクラス全体を引き連れて足し算をしなくても、代表元だけの足し算で十分です.
つまり、{\bf v}_1+{\bf v}_2 のように.
しかし、これでは、V の足し算なのか、V/W の足し算なのかわかりませんので、その違いを伝えるために、 {\bf v}_1+W のことを [{\bf v}_1] と書いたりします.
この記号法を使って、足し算は、
[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]
スカラー倍は
\lambda[{\bf v}_1]=[\lambda{\bf v}_1]
となります.
また、代表元を取り替えは、[{\bf v_1]=[\bf v}_2] となって、代表元が変わってもクラスとしては変わらないという式になります.ここで、イコールも V のものと同じものを使っていますが、記号の乱用をしています. =_{W/V} などと、イコールの下にどこで行ったイコールなのかも厳密に書いていくとすると、それはそれで煩雑になりすぎます.
この記号法を使って ベクトルの演算のwell-defined性をチェックすれば、
[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]=[{\bf w}_1+{\bf w}_2]=[{\bf w}_1]+[{\bf w}_2]
\lambda[{\bf v}]=[\lambda{\bf v}]=[\lambda{\bf w}]=\lambda[{\bf w}]
となり、演算がうまくいっていることを表しています.
抽象化としての商空間
V/W の最初の説明で、V/W の一つの元はある空間であるような、集合の集合であるとしました.しかし、今、その代表元を取ることで、その空間が一点であるような感覚になったと思います.もしそうでない人は、V の部分空間 W に平行な空間 {\bf v}+W をしゅるしゅると縮めて、代表元 {\bf v} だけにしてください.このとき、V/W を考えるとき、広がりのある空間を考えるのではなく、W 方向を無視した {\bf v} だけの対象とするのです.
このW 方向を無視する、同じとみなす、この考え方(感覚)は抽象化の一種です.
抽象化とは、特定の性質だけを抽出して、ほかを見えなくすることで、
その性質だけが際立つような見方にかえることです.
その結果、その性質に特化した現象が見やすくなったりします.
また、このように抽象化した集合、V/W の元は普通の空間のようには見えないけれど、ベクトル空間という構造だけは持っていることがわかります.多項式全体や、関数空間など、まだ数ベクトル空間の名残が残っているようなものとは大分ちがいます.
このように、V/W がベクトル空間と思えるのも、数ベクトル空間から、ベクトル空間という性質だけ抜き出して、その性質をもつものを全てベクトル空間と呼ぼうといういわば、概念の抽象化を行ったおかげといえるでしょう.
ベクトル空間の定義の本領発揮というわけです.
商空間を学んだときは、準同型定理が次に重要になるのですが、長くなりすぎるので、またいつか、ブログでかきます.
線形代数の講義(演習ではない)で商空間を扱ったということでした.
では、演習でも扱ってよいということですね.
ベクトル空間の商空間をどうやって考えるかここで少しまとめておきます.
ただ、教科書に書いてあるようなすっきりとした一般的な書き方ではなく、
くどくどとした説明になってしまいました.
V/W というベクトル空間をある同値類の集合上に入るベクトル空間という見方をして終わります.
先日のブログには、商空間のことをかきました.
その続きのような話です.まずは先日のブログの方を読むとよいかもしれません.
では、つづきを始めます.
商空間の定義
ベクトル空間 V とその部分空間 W\subset V があったときに、
V/W の元を V の中の、W と平行な空間として定義します.
なので、V/W はそのような空間の全体ということになります.
ポイントは、V 全体がそのような空間を敷き詰めてでできているということです.
W の層のようになっています.
トポロジーではそのような構造が局所的に存在するとき、それを葉層構造といいます.
V/W を集合の言葉で書けば、V/W=\{{\bf v}+W|{\bf v}\in V\} となります.
{\bf v}+W という書き方に慣れない場合は、
高校のころにやった直線のベクトル表示や、平面のベクトル表示のことを思い出しましょう.
平面上の直線や、空間上の平面は、ベクトル {\bf a},{\bf r},{\bf r}_1,{\bf r}_2 を使って、
{\bf a}+t\cdot{\bf r}\ \ \ (t\in{\mathbb R})
{\bf a}+t_1\cdot{\bf r}_1+t_2\cdot{\bf r}_2\ \ \ (t_1,t_2\in{\mathbb R})
のように書き表されていました.
この後半部分で、t を実数全体をとれば、部分ベクトル空間 \langle {\bf r}\rangle が得られるし、t_1,t_2 を実数全体をとれば、\langle {\bf r}_1,{\bf r}_2\rangle という部分ベクトル空間を足していることになります.つまり {\bf a}+W という形になりますね.
一般に、{\bf v}+W という書き方で、{\bf v} を通り、Wに平行な空間を表します.
これは、一般に部分ベクトル空間ではありません.
この {\bf v} のことを V/W の元 {\bf v}+W の代表元と言いました.
また、 {\bf v}+W={\bf v}'+W (代表元の取替えという)となるためには、
{\bf v}-{\bf v}'\in W となることが必要十分であることも前のブログで書きました.
とくに、{\bf v}+W が V の部分ベクトル空間になるためには、{\bf v}+W=W となっていなければならなりません.部分空間には、{\bf 0} が必ず入っていないといけませんから、{\bf 0} を代表元と取ればよいわけです.
上に書いたことから、{\bf v}+W が部分空間であるためには、つまり原点を通るためには、{\bf v}\in W となっていなければなりません.
V/W=\{{\bf v}+W|{\bf v}\in V\} という書き方には、{\bf v}+W={\bf v}'+W となった場合は、空間として同じものなので、V/W の中で同じ元を表しています.集合は、重複して同じものをとることはできません.
そして、V/W のベクトル空間としての和は、
({\bf v}_1+W)+({\bf v}_2+W)={\bf v}_1+{\bf v}_2+W
であり、スカラー \lambda をかけることは、
\lambda({\bf v}_1+W)=\lambda\cdot{\bf v}+W
と定義しました.
同値類ということ
同値類というのは、数学でよく出てくる概念です.数学で出てくる空間や集合をいくつかまとめて、それごとに考えていくという考え方です.その一つ一つのことを同値類(クラス)といいます.
説明するときは、クラスわけでたとえられることが多いようです.
学校のクラスわけというのは、一学年の学生をあるいくつかのクラスで分けることです.分けることで、そのクラス毎の話をすることができます.そのときは、個々の学生のことは無視して、クラス全体を一つのものとしてみなしています.
この考え方を数学に応用します.
上の商空間の状況において考えてみます.
V/W を、W と平行な空間の束として考えていました.V/W はその束全体の集合です.
ここで、W と平行な空間 {\bf v}+W 上の全ての点を一つのクラスとして V 全体のクラスわけを行います.
つまり、{\bf u} が {\bf v} と同じクラスにいるということを、 {\bf u}-{\bf v}\in W となることとして定義するのです.別の言葉でいえば、{\bf u} と {\bf v} を通る、W と平行な空間があれば同じ同値類(クラス)とするのです.
クラスにいる学生全体(ベクトル空間の場合は {\bf v}+W の元全体)は、単に、一つのクラスとして考えても、抽象的には同じものです.
また、クラスから代表を一人ずつ選ぶことで、一つのクラスは、クラスの代表を考えることも抽象的には同じことです.つまり、
クラス全体にいる元全体のこと、あるクラスのこと、クラスの代表のこと
は、言い方はそれぞれ微妙に違いますが、そこで指すものは抽象的には同じです.代表元を用いたベクトル空間の演算
V/W のベクトル空間としての足し算は、実は、{\bf v}_1+W+{\bf v}_2+W のようにクラス全体を引き連れて足し算をしなくても、代表元だけの足し算で十分です.
つまり、{\bf v}_1+{\bf v}_2 のように.
しかし、これでは、V の足し算なのか、V/W の足し算なのかわかりませんので、その違いを伝えるために、 {\bf v}_1+W のことを [{\bf v}_1] と書いたりします.
この記号法を使って、足し算は、
[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]
スカラー倍は
\lambda[{\bf v}_1]=[\lambda{\bf v}_1]
となります.
また、代表元を取り替えは、[{\bf v_1]=[\bf v}_2] となって、代表元が変わってもクラスとしては変わらないという式になります.ここで、イコールも V のものと同じものを使っていますが、記号の乱用をしています. =_{W/V} などと、イコールの下にどこで行ったイコールなのかも厳密に書いていくとすると、それはそれで煩雑になりすぎます.
この記号法を使って ベクトルの演算のwell-defined性をチェックすれば、
[{\bf v}_1]+[{\bf v}_2]=[{\bf v}_1+{\bf v}_2]=[{\bf w}_1+{\bf w}_2]=[{\bf w}_1]+[{\bf w}_2]
\lambda[{\bf v}]=[\lambda{\bf v}]=[\lambda{\bf w}]=\lambda[{\bf w}]
となり、演算がうまくいっていることを表しています.
抽象化としての商空間
V/W の最初の説明で、V/W の一つの元はある空間であるような、集合の集合であるとしました.しかし、今、その代表元を取ることで、その空間が一点であるような感覚になったと思います.もしそうでない人は、V の部分空間 W に平行な空間 {\bf v}+W をしゅるしゅると縮めて、代表元 {\bf v} だけにしてください.このとき、V/W を考えるとき、広がりのある空間を考えるのではなく、W 方向を無視した {\bf v} だけの対象とするのです.
このW 方向を無視する、同じとみなす、この考え方(感覚)は抽象化の一種です.
抽象化とは、特定の性質だけを抽出して、ほかを見えなくすることで、
その性質だけが際立つような見方にかえることです.
その結果、その性質に特化した現象が見やすくなったりします.
また、このように抽象化した集合、V/W の元は普通の空間のようには見えないけれど、ベクトル空間という構造だけは持っていることがわかります.多項式全体や、関数空間など、まだ数ベクトル空間の名残が残っているようなものとは大分ちがいます.
このように、V/W がベクトル空間と思えるのも、数ベクトル空間から、ベクトル空間という性質だけ抜き出して、その性質をもつものを全てベクトル空間と呼ぼうといういわば、概念の抽象化を行ったおかげといえるでしょう.
ベクトル空間の定義の本領発揮というわけです.
商空間を学んだときは、準同型定理が次に重要になるのですが、長くなりすぎるので、またいつか、ブログでかきます.