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2014年12月21日日曜日

線形代数II演習(第9回)

[物理2 クラス対象(金曜日4限)]



今日は計量ベクトル空間をやりました。
  • 計量ベクトル空間の定義
  • 直交補空間の求め方.
計量ベクトル空間とは内積の入ったベクトル空間のことです.
内積と計量は言葉は違いますが同じものです.

高校のころに登場した内積を一般のベクトル空間に入れたいわけです.
目的は、ベクトルの長さを計ったり、直交性を調べたりすることです.

内積の出所はやはりピタゴラスの定理です.

直角三角形の3辺には、
a^2+b^2=c^2
なる関係があります.つまり、直線の長さはその座標のある2次式として記述できるというのです.

実際に 4次元空間において、2点の長さの距離を測った人はいませんが、1辺が1の正方形の対角線の長さが \sqrt{2} や1辺が1の立方体の対角線の長さが \sqrt{3} であることから
容易に想像がつきます.

4次元においては、3次元にもう一つ直交座標を加えて、1辺が1の超立方体の対角線の長さを測ると、3次元の立方体の対角線ともう一つの直交座標を加えてピタゴラスの定理を用いれば、
r^2=(\sqrt{3})^2+1^2=4 より、r=\sqrt{4}=2 となるのです.

このように、ピタゴラスの定理を繰り返し用いることで、原点から (x_1,x_2,\cdots,x_n)\in {\Bbb R}^n までの距離 r
x_1^2+x_2^2+\cdots+x_n^2=r^2
として計算できるのです.


また、2次元のベクトル {\bf u}=(x_1,y_1),{\bf v}=(x_2,y_2) に対して、その2次式
x_1y_1+x_2y_2 は、その2つのベクトルの間の角度に関するになっています.
ベクトル {\bf u}c倍してやると、このc倍になりますし、
{\bf v}c 倍してやってもこのc 倍になります.
なので、{\bf u}{\bf v} の両方のベクトルを長さ1にしてやります.
このを何を意味するのか?

2点 (x_1,x_2),(y_1,y_2) の間の長さはピタゴラスの定理から (x_1-y_1)^2+(x_2-y_2)^2=x_1^2+y_1^2+x_2^2+y_2^2-2x_1y_1-2x_2y_2
がわかりますが、それぞれの点は原点からの長さは 1 なので、
(x_1-y_1)^2+(x_2-y_2)^2=2-2x_1y_1-2x_2y_2
となります.
なので、(0,0),(x_1,x_2),(y_1,y_2) で作られる三角形(3辺の長さが a,b,c )に対して余弦定理を使うと、
\cos\theta=\frac{a^2+b^2-c^2}{2ab}=\frac{1+1-(2-2x_1y_1-2x_2y_2)}{2\cdot 1\cdot1}=x_1y_1+x_2y_2
となります.
つまり、共に長さが 1 のベクトル (x_1,x_2),(y_1,y_2) に対して、
量 x_1y_1+x_2y_2 はその間の角度 \theta\cos\theta を与えることになるのです.

また、(x_1,x_2)=(y_1,y_2) としておけば、上の量は、x_1^2+x_1^2 を表します.
角度が0 であり、ピタゴラスの定理から、この点までの長さの2乗を表します.
この積 x_1y_1+x_2y_2 を内積ということにすれば、内積はピタゴラスの定理を含んでいることになります.

こうして、この式には単なる式ではなく、その幾何的意味を与えることができたのです.
x_1y_1+x_2y_2\Leftrightarrow\text{長さや角度を与える}

数式にこめられた意味を用いて数学者は多くの議論が出来るともいえます.

次なる課題は、一般のベクトル空間に対して、例えば多項式同士の間の距離や連続関数の間の角度や距離をどのように与えればよいのか?ということです.

つまり一般のベクトル空間においても同じように距離を考えられないか?
x_1x_2+y_1y_2 なる式はないのか?しかし、多項式にどのように距離をいれてよいか普通分かりません.距離が自然に考えられないものに無理やりいれているわけですから.

そんなとき、どのようなものが距離や角度になったか、もう一度考え直してみます.
ベクトルの間の角度を測るような x_1x_2+y_1y_2 のような式があれば、距離も自然にできるわけですから、2つのベクトル {\bf u}, {\bf v} の間に何か実数を与えるものがあればよい
それを、
({\bf u}, {\bf v})\in {\Bbb R}
としたのです.
そして、単なる2ベクトルから実数へのベクトルではなくて、{\bf u}{\bf v} に対して一次式になっている.つまり、2つで2次式になっていることがピタゴラスの定理から誘導されていたので、
(i)\ \ \ \ ({\bf u}+{\bf u}',{\bf v})=({\bf u},{\bf v})+({\bf u}',{\bf v})
(ii)\ \ \ \ (c{\bf u},{\bf v})=c({\bf u},{\bf v})
などを満たすこと.

を計量の定義に入れたのです.さらにこの内積からピタゴラスの定理のようなものを得たいとすれば、({\bf u},{\bf u}){\bf u} の"長さ"の2乗になるようにするのです.
それで、(iv)\ \ \ \ {\bf u}\neq {\bf 0} であれば、({\bf u},{\bf u})>0 となるようにする必要があります.

このような (\cdot,\cdot) が与えられれば、これを一般のベクトルにおける距離を与える内積と呼ぼうということです.
自然なものがなければ、内積の性質だけ抜き出して、その性質をもつものは何でも"内積"としましょうとい考え方なのです.
また、x_1y_1+x_2y_2 には対称性がありますので、(iii)\ \ \ \ \ ({\bf u},{\bf v})=({\bf v},{\bf u}) という
性質が含まれています.
x_1y_1+x_2y_2 や一般に、x_1y_1+x_2y_2+\cdots+x_ny_n などは {\Bbb R}^2{\Bbb R}^n 上の標準内積と呼ばれます.
授業中でやった
({\bf u},{\bf v})=2u_1v_1+u_1v_2+u_2v_1+2u_2v_2 は標準的な内積では有りませんが、
内積の性質を持っていました.
この式の謎は、実は
({\bf u},{\bf v})=\begin{pmatrix}u_1&u_2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}v_1\\v_2\end{pmatrix}
と書けることです.つまり、一般に、数ベクトル {\bf u},{\bf v} とある対称行列 A があって、
({\bf u},{\bf v})={}^t{\bf u}A{\bf v} とかけるとすると、上の性質 (i),(ii),(iii) までは成り立ちます.
残りの、ピタゴラスの定理が復活するという (iv) という性質は、この行列 A の性質ということですが、これは、全ての (x_1,x_2)\neq(0,0) に対して、 ({\bf u},{\bf u}) が成り立つ必要があります.これは A正定値という性質です.
このような性質をもつ行列は、例えば、2次元の場合では、\det(A)>0 かつ、対角成分が正の数であることです.一般の場合には、固有値が全て正の数ということで片づけられますが、
固有値についてはこれまであまりやっていないので、この辺で終わることにします.
最後に、
授業中にしゃべっていた、
({\bf u},{\bf v})=\begin{pmatrix}u_1&u_2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}v_1\\v_2\end{pmatrix}
に相当する式は、内積を与えていないことがもうわかりますよね?
この行列 A が正定値でないからです.\det(A)=0 になってしまいますよね?
もっといえば、{\bf u}=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix} とすると、
この式で内積を入れてしまえば、
({\bf u},{\bf u})=\begin{pmatrix}1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}=0
となり、非ゼロベクトルの内積が ゼロになってしまいます.

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