積分と極限の交換定理について書きます。
積分と極限の交換とは
\lim_{n\to\infty}\int_a^bf_n(x)dx=\int_a^b\lim_{n\to\infty}f_n(x)dx
が成り立つことを言います。
微積分で最初に習う積分と極限の交換のための(十分)条件は、
おそらく、その関数列が一様収束する場合だと思いますが、
関数列が一様収束しなくても積分と極限の交換が成り立つ場合がありますので
下で紹介し、証明します。
一様収束する関数列の積分と極限の順序交換については、
このブログの2016年の微積分II演習のページ(リンク)
に書いていますのでそちらを参照してください。
一様収束の定義もそちらを参照してください。
このページでは基本、大学1年生向け微積分を扱いますので
ルベーグ積分は仮定せずに、リーマン積分の範疇だけで話を進めます。
ルベーグ積分を学んだあとであれば、これらの積分と極限の交換定理は
ルベーグの収束定理から直ちに導かれます。
具体的には下の定理を証明します。
この証明は、小平邦彦著の「解析入門」(岩波基礎数学)の第5章にあり、
「解析入門」によると、Hausdorffの1927年の論文(Beweis eines Satzes von Arzelà)
が元だそうです。(私は論文を読んだわけではありません。)
また、この定理は、解析学のアスコリ=アルゼラの定理(wikipedia)としても一般化されます。
アルゼラの定理
定理(積分と極限の順序交換定理(アルゼラの定理))
f_n を区間 I=[a,b] で定義された連続関数列とし、ある実数 M>0 が存在して、任意の n\in {\mathbb N} と x\in I に対して、|f_n(x)|\le M が成り立つとする。この関数列は I 上で f(x) に各点収束し、(a,b) で連続であるとする。このとき以下の積分と極限の順序交換が成り立つ。
\lim_{n\to \infty}\int_a^bf_n(x)dx=\int_a^b\lim_{n\to \infty}f_n(x)dx
「解析入門」の本文では、f(x) の連続性は、(a,b) ではなく、[a,b] となっていますが
下の証明にあるように、(a,b) でだけの連続であれば成り立ちます。
リーマン積分可能であれば、連続である必要もないのですが、
リーマン可積分の条件などを証明途中で使うのは面倒なので連続関数の積分のみを用いて証明します。もし、不連続点をさらに多く含むような場合を考えたい場合は、上に書いたようにルベーグ積分を勉強して理解することで全て解決されます。
では証明していきます。
(「解析入門」とは、文字など適宜変えた部分がありますのでご了承ください。)
また、証明は少々ですが長いので読む覚悟のある人以外は証明の内容は理解せず、
定理の内容だけ理解して、下の方にある例にまでスキップして使い方だけ
学んでもよいかと思います。
(証明)
|\int_a^bf_n(x)dx-\int_a^bf(x)dx|\le \int_a^b|f_n(x)-f(x)|dx
から、g_n(x)=|f_n(x)-f(x)| とおいたとき、
\lim_{n\to\infty}\int_a^bg_n(x)dx=0\cdots (\ast)
であることを証明すればよいことになります。
f_n(x)は一様有界なので、あるMが存在して、|f_n(x)|<M が成り立ちます。
また、各点の極限をとることで、|f(x)|\le Mが成り立つので、
|g_n(x)|\le |f_n(x)|+|f(x)|\le 2M が成り立ちます。
f_n(x) は各点収束するので、任意の x に対して g_n(x)\to 0 となります。
各点a\le x\le b に対して、数列 g_n(x),g_{n+1}(x),\cdots の上限を
s_n(x) とします。つまり、
s_n(x)=\underset{m\ge n}{\sup}g_m(x)
であり、a\le x\le b に対して
2M\ge s_1(x)\ge s_2(x)\cdots s_n(x)\ge \cdots
したがって、g_n(x)\to 0であるから、
\lim_{n\to \infty}s_n(x)=\limsup_{n\to \infty}g_n(x)=0\cdots(\dagger)
が成り立ちます。
ここで、s_n(x) が連続である場合には下のDiniの定理により、
s_n(x)\to 0は、a\le x\le b で 0を与える関数に
一様収束し、\lim_{n\to\infty}\int_a^bs_n(x)dx=0 となります。
そこで、s_n(x) が連続とは限らない場合を考えます。
ここで、
S_n=\underset{h\le s_n}{\sup}\int_a^bh(x)dx
とします。
この上限は、任意のx\in I に対して、h(x)\le s_n(x) を満たすような
連続関数全体に対して上限を取ることを意味します。
そのような h(x) に対して、
\int_a^bh(x)dx\le \int_a^b2Mdx=2M(b-a) であるから、
2M(b-a)\ge S_1\ge S_2\ge \cdots \cdots \ge S_n\ge \cdots
であり、g_n(x)\le s_n(x) であるから、
0\le \int_a^bg_n(x)dx\le S_n
よって、S_n\to 0であることを示せば (\ast) が成り立つことになります。
任意の正数 \epsilon>0 に対して、\epsilon_n=\epsilon/2^nと定義します。
このとき、
\int_a^bh_n(x)dx> S_n-\epsilon_n\cdots (\ast\ast)
となる連続関数 h_n(x) で
h_n\le s_n となるものが存在します。
ここで、k_n(x)=\min\{h_1(x),\cdots ,h_n(x)\}
とおきます。このとき、下の補題を用いれば、k_n(x) も連続関数になります。
そして、明らかに、k_1(x)\ge k_2(x)\ge \cdots \ge k_n(x)\ge \cdots
かつ
k_n(x)\le h_n(x)\le s_n(x) が成り立ち、これから、
\int_a^bk_n(x)dx>S_n-\epsilon_1-\epsilon_2-\cdots-\epsilon_n
が成り立ちます。
実際、
\mu_n(x)=\max\{k_{n-1}(x),h_n(x)\} と定義します。
このとき、\mu_n(x) は I上で連続であり、
(\maxや\minが連続性を保持すること、つまり、f_1(x) と f_2(x) が
連続なら、\max\{f_1(x),f_2(x)\} や \min\{f_1(x),f_2(x)\} が連続であること
は、このページの下の方にある補題からわかります)
\min\{\xi,\eta\}+\max\{\xi,\eta\}=\xi+\eta であるから、
k_n(x)+\mu_n(x)=k_{n-1}(x)+h_n(x)
であり、
\int_a^bk_n(x)dx=\int_a^bk_{n-1}(x)dx+\int_a^bh_n(x)dx-\int_a^b\mu_n(x)dx
ここで、
k_{n-1}(x)\le s_{n-1}(x)
かつ
h_n(x)\le s_n(x)\le s_{n-1}(x)
であるから、
\mu_n(x)\le s_{n-1}(x)
であり、したがって、
\int_a^b\mu_n(x)dx\le S_{n-1} となります。
よって、この不等式と不等式 (\ast\ast) を用いれば、
\int_a^bk_n(x)dx>\int_a^bk_{n-1}(x)dx+S_n-\epsilon_n-S_{n-1}
が成り立ちます。
\int_a^bk_1(x)dx=\int_a^bh_1(x)dx>S_1-\epsilon_1であるから、
この不等式を繰り返すことで、
\int_a^bk_n(x)dx>(S_n-\epsilon_n-S_{n-1})+(S_{n-1}-\epsilon_{n-1}-S_{n-2})+\cdots+(S_{2}-\epsilon_2-S_{1})+\int_a^bk_1(x)dx>S_n-\epsilon_1-\epsilon_2-\cdots-\epsilon_n
となります。
よって、\epsilon_1+\epsilon_2+\cdots+\epsilon_n<\epsilonであるから、
\int_a^bk_n(x)dx>S_n-\epsilon が成り立ちます。
ここで、k_n(x) は連続関数列であり、
k_1(x)\ge k_2(x)\ge k_2(x)\ge \cdots \ge k_n(x)\ge\cdots
であり、0\le k_n(x)\le s_n(x) であるから、
(\dagger) において各 a\le x\le b に対して、k_n(x)\to 0 となります。
つまり、k_n(x) は単調非増加な連続関数であり、恒等的に 0 となる関数に
各点収束するから、Diniの定理から、k_n(x) は 一様収束し、
\lim_{n\to \infty}\int_a^bk_n(x)dx=0 となります。
よって、\lim_{n\to\infty}S_n\le \epsilon が成り立つので、
\lim_{n\to\infty}S_n=0
が成り立ちます。\Box
Diniの定理
定理(Diniの定理)
閉区間 [a,b] において、連続な関数 f_n(x) を項とする単調非増加な
関数列とする。つまり、a\le x\le b において、
f_1(x)\ge f_2(x)\ge \cdots \ge f_n(x)\ge\cdots
となる関数列とし、連続関数 f(x) に収束するとする。
このとき、f_n(x) は [a,b] で f(x) に一様収束する。
(証明)
g_n(x)=|f_n(x)-f(x)| とするとき、g_n(x) が一様に 0 に収束することを
示せばよいことになります。
仮定から、g_n(x)\le g_{n-1}(x) より、g_n(x) は単調非増加で
0 に収束します。
この関数列が一様収束ではないとします。
このとき、ある正の実数 \epsilon_0 に対して、どんな自然数 n に対しても
m>n と c_n\in [a,b] が存在して、g_m(c_n)>\epsilon_0 が存在します。
ここで、g_n(c_n)\ge g_m(c_n)>\epsilon_0 が成り立つことがわかります。
つまり、g_n(c_n)>\epsilon_0 が成り立ちます。
ここで、ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理により、
c_n には [a,b] において収束する部分列が存在します。
そのような部分列は自然数の単調増加列 n_1<n_2<n_3<\cdots を用いて
c_{n_1},c_{n_2},\cdots, c_{n_j}\cdots であるとし、その極限を c\in[a,b] とすると、
g_n は連続であるから、g_n(c_{n_j})\to g_n(c) となります。
ここで、n_j\ge n なる任意のj に対して g_n(c_{n_j})\ge g_{n_j}(c_{n_j})\ge \epsilon_0
が成り立ちます。g_n の連続性から
g_n(c)\ge \epsilon_0>0 が成り立ち、これは、g_n(x) が 0 に
収束することに矛盾します。(特にg_n(c) は 0 に収束しない。)
ゆえに、g_n(x) は、一様に 0 に収束します。\Box
Diniの定理についての話は、
2015年度の微積分II演習のページ(リンク)
にも書いていますのでご参照ください。
補題
アルゼラの定理の中で出てきている等式をひとつ示しておきます。
補題
実数 \xi,\eta に対して、
\min\{\xi,\eta\}=\frac{1}{2}(\xi+\eta-|\xi-\eta|)である。
(証明)
もし\xi\ge \eta なら、
\frac{1}{2}(\xi+\eta-(\xi-\eta))=\eta となり
もし\xi\le \eta なら、
\frac{1}{2}(\xi+\eta-(-\xi+\eta))=\xi となり
この等式が成り立つ。\Box
同様に、
\max\{\xi,\eta\}=\frac{1}{2}(\xi+\eta+|\xi-\eta|) となります。
とくに、a(x) と b(x) が連続関数であるとすると、
\min\{a(x),b(x)\} や \min\{a(x),b(x)\} も連続関数である。\Box
例
一様収束しないが、一様有界で極限と積分の交換が成り立つ例をいくつか与えます。
(といっても挙げた例はアルゼラの定理を使わなくても交換が成り立つことがわかる
ものばかりでした。何か他に良い例があると思いますが、私は思いつきませんでした。)
例1
[0,1] 閉区間において、
f_n(x)=\begin{cases}2nx&0\le x\le \frac{1}{2n}\\-2nx+2&\frac{1}{2n}\le x\le\frac{1}{n}\\0&\frac{1}{n}\le x\le 1\end{cases}
として定義しますと、この関数列は、恒等的に 0 となる関数に
一様収束しませんが、各点収束します。
また、一様有界な関数列で、[0,1] で連続な関数に収束しますので、
積分と極限の順序交換が成り立ち、
\lim_{n\to\infty}\int_0^1f_n(x)dx=0
が成り立ちます。
例2
[0,1] による関数として
f_n(x)=x^n とします。
このとき、f_n(x) は一様収束しませんが、一様有界で
(0,1) で連続な関数に収束するので、
\lim_{n\to\infty}\int_0^1x^ndx=0
となります。
閉区間に不連続点が有限個あったととき、その関数の積分は
その点を除いて積分してやることで計算したものになります。
なので、例2の関数の各点収束先は、
f(x)=\begin{cases}0&1\le x<1\\1&x=1\end{cases}
ですが、この積分は、f(x)\equiv 0 の積分と等しくなります。
ただ、この例だと、具体的に積分が計算できてしまい、
\int_0^1x^ndx=\frac{1}{n+1} なので、上のアルゼラの定理を
使うまでもないということになります。
積分が計算できるという点では例1もそうですが。
例3
[0,\frac{\pi}{2}]において、
f_n(x)=\sin^nx とすると、
この場合も、一様収束せず、一様有界で、
[0,\frac{\pi}{2}) で0で、x=\frac{\pi}{2} のときに1
となる関数に各点収束します。
よって、この場合も
\lim_{n\to\infty}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx=0
となります。
この積分は、部分積分を繰り返すことで
\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx=\begin{cases}\frac{(n-1)!!}{n!!}&n\text{奇数}\\\frac{(n-1)!!}{n!!}\frac{\pi}{2}&n\text{偶数}\end{cases}
と計算できます。
つまり、アルゼラの定理を使えば、偶奇のどちらにしても
\frac{(n-1)!!}{n!!}\to 0がわかるということになります。
積分と極限の交換とは
\lim_{n\to\infty}\int_a^bf_n(x)dx=\int_a^b\lim_{n\to\infty}f_n(x)dx
が成り立つことを言います。
微積分で最初に習う積分と極限の交換のための(十分)条件は、
おそらく、その関数列が一様収束する場合だと思いますが、
関数列が一様収束しなくても積分と極限の交換が成り立つ場合がありますので
下で紹介し、証明します。
一様収束する関数列の積分と極限の順序交換については、
このブログの2016年の微積分II演習のページ(リンク)
に書いていますのでそちらを参照してください。
一様収束の定義もそちらを参照してください。
このページでは基本、大学1年生向け微積分を扱いますので
ルベーグ積分は仮定せずに、リーマン積分の範疇だけで話を進めます。
ルベーグ積分を学んだあとであれば、これらの積分と極限の交換定理は
ルベーグの収束定理から直ちに導かれます。
具体的には下の定理を証明します。
この証明は、小平邦彦著の「解析入門」(岩波基礎数学)の第5章にあり、
「解析入門」によると、Hausdorffの1927年の論文(Beweis eines Satzes von Arzelà)
が元だそうです。(私は論文を読んだわけではありません。)
また、この定理は、解析学のアスコリ=アルゼラの定理(wikipedia)としても一般化されます。
アルゼラの定理
定理(積分と極限の順序交換定理(アルゼラの定理))
f_n を区間 I=[a,b] で定義された連続関数列とし、ある実数 M>0 が存在して、任意の n\in {\mathbb N} と x\in I に対して、|f_n(x)|\le M が成り立つとする。この関数列は I 上で f(x) に各点収束し、(a,b) で連続であるとする。このとき以下の積分と極限の順序交換が成り立つ。
\lim_{n\to \infty}\int_a^bf_n(x)dx=\int_a^b\lim_{n\to \infty}f_n(x)dx
「解析入門」の本文では、f(x) の連続性は、(a,b) ではなく、[a,b] となっていますが
下の証明にあるように、(a,b) でだけの連続であれば成り立ちます。
リーマン積分可能であれば、連続である必要もないのですが、
リーマン可積分の条件などを証明途中で使うのは面倒なので連続関数の積分のみを用いて証明します。もし、不連続点をさらに多く含むような場合を考えたい場合は、上に書いたようにルベーグ積分を勉強して理解することで全て解決されます。
定理の中に記述されている
「ある実数 M>0 が存在して、任意の n\in {\mathbb N} と x\in Iに対して、
|f_n(x)|\le M が成り立つ」ことを一様有界といいます。「ある実数 M>0 が存在して、任意の n\in {\mathbb N} と x\in Iに対して、
では証明していきます。
(「解析入門」とは、文字など適宜変えた部分がありますのでご了承ください。)
また、証明は少々ですが長いので読む覚悟のある人以外は証明の内容は理解せず、
定理の内容だけ理解して、下の方にある例にまでスキップして使い方だけ
学んでもよいかと思います。
(証明)
|\int_a^bf_n(x)dx-\int_a^bf(x)dx|\le \int_a^b|f_n(x)-f(x)|dx
から、g_n(x)=|f_n(x)-f(x)| とおいたとき、
\lim_{n\to\infty}\int_a^bg_n(x)dx=0\cdots (\ast)
であることを証明すればよいことになります。
f_n(x)は一様有界なので、あるMが存在して、|f_n(x)|<M が成り立ちます。
また、各点の極限をとることで、|f(x)|\le Mが成り立つので、
|g_n(x)|\le |f_n(x)|+|f(x)|\le 2M が成り立ちます。
f_n(x) は各点収束するので、任意の x に対して g_n(x)\to 0 となります。
各点a\le x\le b に対して、数列 g_n(x),g_{n+1}(x),\cdots の上限を
s_n(x) とします。つまり、
s_n(x)=\underset{m\ge n}{\sup}g_m(x)
であり、a\le x\le b に対して
2M\ge s_1(x)\ge s_2(x)\cdots s_n(x)\ge \cdots
したがって、g_n(x)\to 0であるから、
\lim_{n\to \infty}s_n(x)=\limsup_{n\to \infty}g_n(x)=0\cdots(\dagger)
が成り立ちます。
ここで、s_n(x) が連続である場合には下のDiniの定理により、
s_n(x)\to 0は、a\le x\le b で 0を与える関数に
一様収束し、\lim_{n\to\infty}\int_a^bs_n(x)dx=0 となります。
そこで、s_n(x) が連続とは限らない場合を考えます。
ここで、
S_n=\underset{h\le s_n}{\sup}\int_a^bh(x)dx
とします。
この上限は、任意のx\in I に対して、h(x)\le s_n(x) を満たすような
連続関数全体に対して上限を取ることを意味します。
そのような h(x) に対して、
\int_a^bh(x)dx\le \int_a^b2Mdx=2M(b-a) であるから、
2M(b-a)\ge S_1\ge S_2\ge \cdots \cdots \ge S_n\ge \cdots
であり、g_n(x)\le s_n(x) であるから、
0\le \int_a^bg_n(x)dx\le S_n
よって、S_n\to 0であることを示せば (\ast) が成り立つことになります。
任意の正数 \epsilon>0 に対して、\epsilon_n=\epsilon/2^nと定義します。
このとき、
\int_a^bh_n(x)dx> S_n-\epsilon_n\cdots (\ast\ast)
となる連続関数 h_n(x) で
h_n\le s_n となるものが存在します。
ここで、k_n(x)=\min\{h_1(x),\cdots ,h_n(x)\}
とおきます。このとき、下の補題を用いれば、k_n(x) も連続関数になります。
そして、明らかに、k_1(x)\ge k_2(x)\ge \cdots \ge k_n(x)\ge \cdots
かつ
k_n(x)\le h_n(x)\le s_n(x) が成り立ち、これから、
\int_a^bk_n(x)dx>S_n-\epsilon_1-\epsilon_2-\cdots-\epsilon_n
が成り立ちます。
実際、
\mu_n(x)=\max\{k_{n-1}(x),h_n(x)\} と定義します。
このとき、\mu_n(x) は I上で連続であり、
(\maxや\minが連続性を保持すること、つまり、f_1(x) と f_2(x) が
連続なら、\max\{f_1(x),f_2(x)\} や \min\{f_1(x),f_2(x)\} が連続であること
は、このページの下の方にある補題からわかります)
\min\{\xi,\eta\}+\max\{\xi,\eta\}=\xi+\eta であるから、
k_n(x)+\mu_n(x)=k_{n-1}(x)+h_n(x)
であり、
\int_a^bk_n(x)dx=\int_a^bk_{n-1}(x)dx+\int_a^bh_n(x)dx-\int_a^b\mu_n(x)dx
ここで、
k_{n-1}(x)\le s_{n-1}(x)
かつ
h_n(x)\le s_n(x)\le s_{n-1}(x)
であるから、
\mu_n(x)\le s_{n-1}(x)
であり、したがって、
\int_a^b\mu_n(x)dx\le S_{n-1} となります。
よって、この不等式と不等式 (\ast\ast) を用いれば、
\int_a^bk_n(x)dx>\int_a^bk_{n-1}(x)dx+S_n-\epsilon_n-S_{n-1}
が成り立ちます。
\int_a^bk_1(x)dx=\int_a^bh_1(x)dx>S_1-\epsilon_1であるから、
この不等式を繰り返すことで、
\int_a^bk_n(x)dx>(S_n-\epsilon_n-S_{n-1})+(S_{n-1}-\epsilon_{n-1}-S_{n-2})+\cdots+(S_{2}-\epsilon_2-S_{1})+\int_a^bk_1(x)dx>S_n-\epsilon_1-\epsilon_2-\cdots-\epsilon_n
となります。
よって、\epsilon_1+\epsilon_2+\cdots+\epsilon_n<\epsilonであるから、
\int_a^bk_n(x)dx>S_n-\epsilon が成り立ちます。
ここで、k_n(x) は連続関数列であり、
k_1(x)\ge k_2(x)\ge k_2(x)\ge \cdots \ge k_n(x)\ge\cdots
であり、0\le k_n(x)\le s_n(x) であるから、
(\dagger) において各 a\le x\le b に対して、k_n(x)\to 0 となります。
つまり、k_n(x) は単調非増加な連続関数であり、恒等的に 0 となる関数に
各点収束するから、Diniの定理から、k_n(x) は 一様収束し、
\lim_{n\to \infty}\int_a^bk_n(x)dx=0 となります。
よって、\lim_{n\to\infty}S_n\le \epsilon が成り立つので、
\lim_{n\to\infty}S_n=0
が成り立ちます。\Box
Diniの定理
定理(Diniの定理)
閉区間 [a,b] において、連続な関数 f_n(x) を項とする単調非増加な
関数列とする。つまり、a\le x\le b において、
f_1(x)\ge f_2(x)\ge \cdots \ge f_n(x)\ge\cdots
となる関数列とし、連続関数 f(x) に収束するとする。
このとき、f_n(x) は [a,b] で f(x) に一様収束する。
(証明)
g_n(x)=|f_n(x)-f(x)| とするとき、g_n(x) が一様に 0 に収束することを
示せばよいことになります。
仮定から、g_n(x)\le g_{n-1}(x) より、g_n(x) は単調非増加で
0 に収束します。
この関数列が一様収束ではないとします。
このとき、ある正の実数 \epsilon_0 に対して、どんな自然数 n に対しても
m>n と c_n\in [a,b] が存在して、g_m(c_n)>\epsilon_0 が存在します。
ここで、g_n(c_n)\ge g_m(c_n)>\epsilon_0 が成り立つことがわかります。
つまり、g_n(c_n)>\epsilon_0 が成り立ちます。
ここで、ボルツァーノ-ワイエルシュトラスの定理により、
c_n には [a,b] において収束する部分列が存在します。
そのような部分列は自然数の単調増加列 n_1<n_2<n_3<\cdots を用いて
c_{n_1},c_{n_2},\cdots, c_{n_j}\cdots であるとし、その極限を c\in[a,b] とすると、
g_n は連続であるから、g_n(c_{n_j})\to g_n(c) となります。
ここで、n_j\ge n なる任意のj に対して g_n(c_{n_j})\ge g_{n_j}(c_{n_j})\ge \epsilon_0
が成り立ちます。g_n の連続性から
g_n(c)\ge \epsilon_0>0 が成り立ち、これは、g_n(x) が 0 に
収束することに矛盾します。(特にg_n(c) は 0 に収束しない。)
ゆえに、g_n(x) は、一様に 0 に収束します。\Box
Diniの定理についての話は、
2015年度の微積分II演習のページ(リンク)
にも書いていますのでご参照ください。
補題
アルゼラの定理の中で出てきている等式をひとつ示しておきます。
補題
実数 \xi,\eta に対して、
\min\{\xi,\eta\}=\frac{1}{2}(\xi+\eta-|\xi-\eta|)である。
(証明)
もし\xi\ge \eta なら、
\frac{1}{2}(\xi+\eta-(\xi-\eta))=\eta となり
もし\xi\le \eta なら、
\frac{1}{2}(\xi+\eta-(-\xi+\eta))=\xi となり
この等式が成り立つ。\Box
同様に、
\max\{\xi,\eta\}=\frac{1}{2}(\xi+\eta+|\xi-\eta|) となります。
とくに、a(x) と b(x) が連続関数であるとすると、
\min\{a(x),b(x)\} や \min\{a(x),b(x)\} も連続関数である。\Box
例
一様収束しないが、一様有界で極限と積分の交換が成り立つ例をいくつか与えます。
(といっても挙げた例はアルゼラの定理を使わなくても交換が成り立つことがわかる
ものばかりでした。何か他に良い例があると思いますが、私は思いつきませんでした。)
例1
[0,1] 閉区間において、
f_n(x)=\begin{cases}2nx&0\le x\le \frac{1}{2n}\\-2nx+2&\frac{1}{2n}\le x\le\frac{1}{n}\\0&\frac{1}{n}\le x\le 1\end{cases}
として定義しますと、この関数列は、恒等的に 0 となる関数に
一様収束しませんが、各点収束します。
また、一様有界な関数列で、[0,1] で連続な関数に収束しますので、
積分と極限の順序交換が成り立ち、
\lim_{n\to\infty}\int_0^1f_n(x)dx=0
が成り立ちます。
例2
[0,1] による関数として
f_n(x)=x^n とします。
このとき、f_n(x) は一様収束しませんが、一様有界で
(0,1) で連続な関数に収束するので、
\lim_{n\to\infty}\int_0^1x^ndx=0
となります。
閉区間に不連続点が有限個あったととき、その関数の積分は
その点を除いて積分してやることで計算したものになります。
なので、例2の関数の各点収束先は、
f(x)=\begin{cases}0&1\le x<1\\1&x=1\end{cases}
ですが、この積分は、f(x)\equiv 0 の積分と等しくなります。
ただ、この例だと、具体的に積分が計算できてしまい、
\int_0^1x^ndx=\frac{1}{n+1} なので、上のアルゼラの定理を
使うまでもないということになります。
積分が計算できるという点では例1もそうですが。
例3
[0,\frac{\pi}{2}]において、
f_n(x)=\sin^nx とすると、
この場合も、一様収束せず、一様有界で、
[0,\frac{\pi}{2}) で0で、x=\frac{\pi}{2} のときに1
となる関数に各点収束します。
よって、この場合も
\lim_{n\to\infty}\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx=0
となります。
この積分は、部分積分を繰り返すことで
\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx=\begin{cases}\frac{(n-1)!!}{n!!}&n\text{奇数}\\\frac{(n-1)!!}{n!!}\frac{\pi}{2}&n\text{偶数}\end{cases}
と計算できます。
つまり、アルゼラの定理を使えば、偶奇のどちらにしても
\frac{(n-1)!!}{n!!}\to 0がわかるということになります。
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