2025年10月13日月曜日

トポロジーB(第2回)

今回は2回目です。

今回は主に単体複体と5項補題についてやりました。

HPはこちらになります。


単体複体について


位相空間に対してホモロジーを定義して計算したいのですが、一般の位相空間で

ホモロジーを定義することは難しく、計算する方法も難しいです。


ですが、単体複体や胞体複体を定義すること理解しやすく

計算もしやすいです。ですが、両者は次の違いがあります。


単体複体・・・定義は理解しやすいが、計算しにくい

胞体複体・・・定義は理解しにくいが、計算しやすい


というわけで、単体複体で定義を理解し、ホモロジーの意味をわかった上で

計算は胞体複体で行うという方法を取ろうと思います。

また、一般の位相空間でのホモロジーについては定義する時間があれば

行いたいと思います。


とりあえず初めに単体複体の定義から始めます。    


定義($n$-単体)

$v_0,v_1,\cdots, v_n\in {\mathbb R}^N$ をとり、

$n$個のベクトル$\vec{v_0v_i}$が一次独立であるとします。

このとき、

$$\sigma=\langle v_0v_1\cdots v_n\rangle =\left\{\sum_{i=0}^nt_iv_i\mid \sum_{i=0}^nt_i=1, t_i\ge 0\right\}$$

$n$-単体といいます。この$n$のことを単体の次元といい、$n$次元であることを特に明記しない場合、単に単体ということもあります。

$\sigma$ が $n$-単体であることを明記するために $\sigma^n$ と書くこともあります。


また、ユークリッド空間の $n$-単体 $\langle v_0v_1\cdots v_n\rangle$ は 

$n$ 点 $v_0,v_1,\cdots, v_n$ の凸包ということになります。


$A\subset {\mathbb R}^N$ の凸包とは、$A$ の2点を含む最小の

凸集合のことで、$A$ を包む最小の凸集合のことを言います。

$A$ が有限集合である場合、$A$ の凸包であることと、その点

が $v_0,v_1,\cdots, v_n$ であるときに

$\left\{\sum_{i=0}^nt_iv_i\mid \sum_{i=0}^nt_i=1, t_i\ge 0\right\}$

であることは同値になります。


単体の例をいくつか    見ていきましょう。


0-単体

最初の例は、0-単体です。

$v_0\in {\mathbb R}$は他の$n$個のベクトルがないので、一次独立条件は成り立っています。

このとき、

$$\langle v_0\rangle=\{a_0v_0\mid a_0=1\}$$

であるからこれは一点集合$\{v_0\}$ということになります。



1-単体

次に、$\vec{v_0v_1}\neq 0$のとき $\langle v_0v_1\rangle$ を見ていきましょう。

$$\langle v_0v_1\rangle=\{a_0v_0+a_1v_1\mid a_0+a_1=1, a_i\ge 0\}$$

であるから、これは、$\{tv_0+(1-t)v_1|0\le t\le 1\}$に一致し、これは

$v_0,v_1$を端点とする線分を意味します。



2-単体

$\vec{v_0v_1},\vec{v_0v_2}$ が 1次独立であるとします。このとき

$$\langle v_0v_1v_2\rangle =\{sv_0+tv_1+(1-s-t)v_2\mid 0\le s,t,1-t-s\}$$

は、$v_0,v_1,v_2$を頂点とする三角形の周と内部になります。



三つ目の例は3次元の単体です。

3-単体

$\vec{v_0v_1}$, $\vec{v_0v_2}$, $\vec{v_0v_3}$ が一次独立であるとき

$$\langle v_0v_1v_2v_3\rangle$$

$$=\{rv_0+tv_1+sv_2+(1-r-s-t)v_3\mid 0\le r,s,t,1-r-s-t\}$$

は、$v_0,v_1,v_2,v_3$を頂点とする四面体の表面と内部になります。


このように単体を定義したものは、自然に三角形や四面体を一般化した

対象であることが分かると思います。

つまり、$n$-単体は四面体の $n$ 次元版といったらよいででしょうか。


続いて、面単体の定義を行います。


定義(面(単体))

$\sigma^n=\langle v_0v_1\cdots v_n\rangle$ が $n$-単体であるとする。

$m$ 個の点の集合 $\{i_0,\cdots, i_m\}\subset\{0,1,\cdots, n\}$ をとり、

それによってできる$m$-単体 $\tau=\langle v_{i_0},\cdots, v_{i_m}\rangle$ のことを

面単体もしくはといい、$\tau\prec\sigma$ と表します。

英語ではフェイスと言います。


面と言っても、2次元であるわけではなく、

辺(1次元単体)となっているものや四面体になっていることもあります。

頂点のものもあります。$\tau\prec\sigma$ を満たすものということですね。


なので、面は、$\{0,1,\cdots, n\}$ の部分集合の分だけあることになります。

ただ、空集合の時は、単体にはならないので、省きます。

よって、$n$-単体 $\sigma^n$ には $2^{n+1}-1$ 個の面単体が存在することになります。


単体 $\sigma$ の内部 $\mathring{\sigma}$ を

$$\mathring{\sigma}=\langle v_0v_1\cdots v_n\rangle =\left\{\sum_{i=0}^nt_iv_i\mid \sum_{i=0}^nt_i=1, t_i> 0\right\}$$

として定義しておきます。これは $n$-単体を ${\mathbb R}^n$ 埋め込んだときの
${\mathbb R}^n$ の部分集合としての内部と一致します。
また、単体 $\sigma$ の内部の点を $\sigma$ の内点と言います。


$n$-単体の境界 $\partial \sigma=\sigma\setminus \mathring{\sigma}$ とします。

このとき、単体 $\sigma$ の任意の面単体は $\partial\sigma$ の点であり、

$\partial \sigma=\cup\{\tau\mid \tau\prec \sigma,\tau\neq\sigma \}$

ということになります。


次を示すことができます。


補題

任意の $p\in \partial \sigma$ の点は $\sigma$ のある面の内点である。

(証明)

$p$ を含む面単体のうち最小のものを取ることで、$p$ はある面の内部の点になります。

したがってそのような面単体の共通部分を取ることになります。

もし内部の点ではないとすると、その境界の点となり、その境界はさらに

小さい面に含まれていることになり、最小であることに矛盾します。$\Box$


ここで単体複体を定義します。


定義( ${\mathbb R}^N$ での単体複体)

$K=\{\sigma_1,\sigma_2,\cdots, \sigma_n\}$ をユークリッド空間 ${\mathbb R}^N$ の

単体の有限集合としておき、$i\neq j$ のとき $\mathring{\sigma}_i\neq \mathring{\sigma}_j$ であるとする。このとき、

 $\sigma\in K$ かつ $\tau\prec \sigma$ なら $\tau \in K$

を満たすとき $K$ を単体複体という。

$|K|=\cup_{i=1}^n\sigma_n\subset {\mathbb R}^N$ を $K$ の実現という。

また、実現 $|K|$ には、ユークリッド空間の部分空間として
位相空間となります。

また、単体複体 $K$ の表示の仕方で、に含まれる $i$-単体を $S_i$ として、

 $(S_0,S_1,\cdots,S_n)$ のように並べる方法もあります。


また、多面体という用語もあります。


定義(多面体)

$K$ をユークリッド空間の単体複体とする。このとき、$K$ の実現
$$\cup_{\sigma\in K}\sigma$$
多面体と言う。


この条件から $K$ には任意の単体に対してその面は全て入っていることになります。

特に含まれる頂点は全て入っています。

また、次の補題を示しておきます。


補題

$K$ を単体複体とする。

$\sigma,\tau\in K$ のとき、$\sigma\cap \tau\neq \emptyset$ なら

$\sigma\cap \tau\prec \sigma,\tau$ かつ $\sigma\cap \tau\in K$ である。

(証明)

$\sigma=\tau$ の場合は自明。そうでないと仮定します。

$\mathring{\sigma}\cap \mathring{\tau}=\emptyset$ であるから、

$\sigma\cap \tau\neq \emptyset$ ならその共有点は

境界どうし $\partial \sigma, \partial\tau$ の点ということになります。

そのような点 $p\in \sigma\cap \tau$ に対して、$p$ は上の補題から $\sigma$ のある面単体 $\sigma’$ の内点になり、

$\tau$ に対しても、$p$ はある面単体 $\tau’$ があってその内点になります。

そうすると、その面単体は単体複体の最初の条件から $\sigma’=\tau’$ でないといけません。

その面は全て共通部分 $\sigma\cap \tau$ に含まれるから、$\sigma’=\tau’\prec \sigma\cap \tau$ となります。

したがって $\sigma\cap \tau$ はいくつかの単体の和になります。

$\sigma\cap\tau=\sigma_1’\cup\cdots\cup \sigma_k’$ とすると、

$\sigma_{k-1}’,\sigma_k’\subset \sigma\cap \tau$ に対して、$\sigma’_{k-1}$ と $\sigma_k’$ の凸包も

$\sigma$, $\tau$ に包まれるから、ある $\sigma_{k-1}’’\prec\sigma,\tau$ となる単体があって、

$\sigma’_{k-1},\sigma’_k\subset \sigma_{k-1}’’$ となる。よって、 和集合として

$\sigma\cap\tau=\sigma_1’’\cup\sigma_2’\cup\cdots\cup  \sigma_k’$

のように一つ減らすことができます。

これを繰り返すことで$\sigma\cap\tau$ は一つの単体にまとめられます。

よって、$\sigma\cap\tau\in K$ となります。$\Box$



上で、ユークリッド空間の中の単体複体を定義しましたが、

抽象的な単体複体を定義することもできます。

$\mathcal{P}_k(S)$ として、集合 $S$ の $k$ 個の部分集合全体とします。


定義(単体複体)

有限集合を $V$ として、$S_0=V$ を頂点集合とする。

$0<k\le n$  となる整数 $k$ に対して、$S_k\subset P_{k+1}(S)$ を

$\sigma \in S_{k}$ に対して、

任意の $|\tau|=\ell+1$ となる $\tau\prec \sigma$ に対して、$\tau\in S_{\ell}$ を満たすとき、

$K=(S_0,S_1,\cdots S_n)$ を単体複体という。

$S_k$ の元を $K$ の頂点集合という。

${\mathbb R}^N$ に $|V|$ 個の頂点集合をとり、$V$ と同一視し、

単体複体 $K$ の$k$-単体 $\sigma\in S_k$ に対して対応する $k+1$ 個の点の凸包を

とる。その和集合として ${\mathbb R}^N$ の単体複体 $K’$ が得られるとき、

その実現 $|K’|$ を $K$ の実現という。


単体複体の例

ここで、いくつかの単体複体の例を挙げます。

  • 一つ目の例
    $K=\{\langle v_0\rangle,\langle v_1\rangle, \langle v_2 \rangle, \langle v_0v_1 \rangle, \langle v_1v_2 \rangle,|v_2v_0 \rangle, \langle v_0v_1v_2 \rangle\}$ は三角形の頂点と辺とただ一つの三角形からなる単体複体となります。単体があればそれの面単体を全て附属させて単体複体を作ることができます。
  • 二つ目の例
    $\sigma= \langle v_0v_1v_2 \rangle,\tau= \langle v_0v_2v_3 \rangle $とするとき、
    $K=\{\langle v_i \rangle \mid (i=0,1,2,3)\}\cup\{\langle v_0v_1 \rangle, \langle v_1v_2 \rangle, \langle v_2v_3 \rangle, \langle v_3v_0 \rangle, \langle v_0v_2 \rangle\}\cup\{\sigma,\tau\}$
    とするとき、これは単体複体になっています。
  • 三つ目の例
    $\sigma= \langle v_0v_1v_2 \rangle,\tau= \langle v_0v_3v_4 \rangle $とします。$v_4$は $\langle v_0v_2 \rangle $
    の中点とします。
    $K=\{\langle v_i \rangle \mid (i=0,1,2,3,4)\}\cup\{\langle v_0v_1 \rangle, \langle v_1v_2 \rangle, \langle v_2v_0 \rangle, \langle v_0v_4 \rangle, \langle v_4v_3 \rangle, \langle v_3v_0 \rangle\}\cup\{\sigma,\tau\}$
    とするとき、これは単体複体になっていません。


定義(単体複体の次元)

単体複体 $K$ の次元として、$\max\{\dim(\sigma)|\sigma\in K\}$ として定義します。


定義(単体複体の骨格)

さらに、単体複体の$m$ 次元以下を

$$K^{(m)}=\{\sigma|\sigma\in K,\dim(\sigma)\le n\}=\cup_{i\le m}S_i$$

として定義して、$K^{(m)}$ を $K$ の $m$-骨格と言います


例を示します。$N$ 次元以下の例を考えたいと思います。

次に、部分複体の定義を行います。


定義(部分複体)

$K$ を単体複体とする。このとき、$L\subset K$ で$L$ がまた単体複体になっているもの

を$K$ の部分複体という。


単体写像の定義もここで行っておきます。


定義(単体写像)

$K, L$ を単体複体とする。単体写像 $\phi$ とは、$\phi:K\to L$ であって、以下を満たすような写像となる。まず、$0$-骨格への制限 $\phi:K^{(0)}\to L^{(0)}$ を定めておき、

それ以外の単体についても以下のように定める。

単体 $\sigma = \langle v_0, v_1, \cdots, v_n\rangle \in K$ が与えられたとき、$\{\phi(v_0)\cdots, \phi( v_n)\}$ が$L$のある単体の頂点の集合となること、

つまり、重複を除いて $\langle \phi(v_0)\cdots\phi(v_n)\rangle$ を考えたとき、それが、$L$ の元であることとなります。



単体写像の例

最後に、単体写像の具体例をいくつか挙げます。

  • $\sigma=\langle v_0\cdots v_n\rangle$ が与える単体複体を $K$ とし、その面単体 $\tau=\langle v_0\cdots v_m\rangle$ が与える単体複体を $L$ とします。そのとき、$i:L\to K$ を包含写像 $i(v_i)=v_i$ ($i=0,\cdots、 m$)とすると、$i$ は単体写像になります。
  • $\sigma= \langle v_0v_1v_2\rangle $ とし、$K=\{\sigma, \langle v_0v_1\rangle, \langle v_0v_2\rangle, \langle v_1v_2\rangle, \langle v_0\rangle, \langle v_1\rangle, \langle v_2\rangle\}$ かつ $L=\{\langle v_0v_1\rangle, \langle v_0v_2\rangle, \langle v_1v_2\rangle, \langle v_0\rangle, \langle v_1\rangle, \langle v_2\rangle\}$ とするとき、$\varphi:K\to L$ を頂点について恒等写像であるとすると、単体写像になりません。単体 $\sigma$ の行き先として、$L$ にその3頂点を張る2-単体がないからです。
  • 上と同じ $K,L$ に対して逆に、$L\to K$ として0-単体において恒等写像とすると、単体写像になります。
  • 上と同じ $K$ と $L$ に対して、$\varphi(v_0)=v_0$, $\varphi(v_1)=v_0$, $\varphi(v_2)=v_1$ としても単体写像になります。


完全系列と5項補題


$$\begin{CD}A @>f>> B @>g>> C\end{CD}$$

が$B$ において、$f,g$ に関して完全であるとは、$\text{Ker}(g)=\text{Im}(f)$ が成り立つことを言います。

また、


$$\begin{CD}A_0 @>h_0>> A_1 @>h_1>> A_2  @>{\cdots}>>  A_{n-1}  @>{h_{n-1}}>> A_n\end{CD}$$

完全系列であるとは、任意の$i=1,2,\cdots, n-1$ について $A_i$ において、$h_{i-1},h_i$ に関して完全であることをいいます。

特に

$$\begin{CD}0 @>>> A_1 @>h_1>> A_2  @>{h_2}>>  A_{3}  @>>> 0\end{CD}$$

の形の完全系列を短完全系列と言います。
それより長い完全系列のことは長完全系列と言います。



5項補題の証明を行いました。


5項補題とは以下の補題です。


補題(5項補題)

次の上段と下段が完全系列であり、その間の準同型が次の可換図式で得られているとする。

$$\begin{CD}A_1@>h_1>>  A_2  @>h_2>> A_3@>h_3>> A_4 @>h_4>>A_5\\ @VVf_1V \circlearrowright @VVf_2V \circlearrowright  @VVf_3V  \circlearrowright @VVf_4V \circlearrowright  @VVf_5V  \\A_1’  @>h_1’>>  A_2’  @>h_2’>>  A_3’   @>h_3’>> A_4’ @>h_4’>> A_5’\end{CD}$$


このとき、$f_1,f_2,f_4,f_5$ が同型なら、$f_3$ も同型である。

ここでは $f_3$ の単射性だけ証明しておきます。


可換であるとは、$f_{i+1}h_i=h_i’f_i$ が成り立つことです。

つまり、$A_i$ から $A’_{i+1}$ への2通りの準同型の道がどちらも同じ写像になっていると言っても

同じことになります。そのとき、その四角形の中に$\circlearrowright$ を書きます。 



(単射性の証明)

$x_3\in A_3$ が $f_3(x_3)=0$ を仮定する。

このとき、$h_3’f_3(x_3)=0$ であり、可換性から $f_4h_3(x_3)=0$ となります。

このとき、$f_4$ の単射性から、$h_3(x_3)=0$ となります。

ここで、上段の完全性から、$x_3=h_2(x_2)$ となる$x_2\in A_2$ が存在し、

$h’_2f_2(x_2)=f_3h_2(x_2)=f_3(x_3)=0$ であるから、下段の完全性から

$f_2(x_2)=h_1’(x_1’)$ となる$x_1’\in A_1’ $ が存在する。

故に、$h_1$ の全射性から、$x_1’=f_1(x_1)$ となる$x_1\in A_1$ が存在する。

よって、$h_1’f_1(x_1)=f_2(x_2)=f_2h_1(x_1)$ であるから $f_2$ の単射性から

$x_2=h_1(x_1)$ である。よって、$h_2h_1(x_1)=h_2(x_2)=x_3であり、

上段の完全性から $h_2h_1(x_1)=0$ である。

よって$x_3=0$ であるから $f_3$ が単射となる。


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