2025年10月26日日曜日

トポロジーB(第3回)

 今回は3回目です。

今回は主に単体複体のホモロジーについて行いました。

HPはこちらになります。


単体複体のホモロジーの前に、単体分割について定義を書いておきます。


定義(位相空間の単体分割)

位相空間 $X$ に対して、ある単体複体 $K$ が存在して、ある

同相写像 $f:|K|\to X$ が存在するとき、$(|K|,f)$ は$X$ の単体分割という。 


単体複体(の実現)の位相はユークリッド空間に埋め込まれた

局所的に線形なアフィン空間の和集合として位相が定義されています。


単体複体のホモロジーについて


単体複体のホモロジーの定義の前にチェイン複体の定義をしておきます。


定義(チェイン複体)

アーベル群の列 $\{C_n\}_{n\in {\mathbb Z}}$ と任意の $n$ に対して

準同型写像 $\partial_n:C_n\to C_{n-1}$ が定義されており、

各 $n$ に対して $\partial_{n}\circ \partial_{n+1}=0$を満たすとき、

その対 $(C_n,\partial_n)$ をチェイン複体という。

この $\partial_n$ を境界準同型という。

また、$Z_n(C)=\text{Ker}(\partial_n)$ として定義し、$n$ 次サイクル(もしくは $n$-サイクル)という。

また、$B_n(C)=\text{Im}(\partial_{n+1})$ として定義し、$n$ 次バウンダリ(もしくは$n$-バウンダリ)という。


$Z_n(C)$ も $B_n(C)$ も $C_n$ の部分群であることに注意しておきます。

$\partial_{n}\circ \partial_{n+1}=0$ という条件は、

$\text{Ker}(\partial_{n})\subset \text{Im}(\partial_{n+1})$ が成り立つことと同値になります。


定義(ホモロジー群)

チェイン複体 $(C_n,\partial_n)$  から、商群を

$H_n(C)= \text{Ker}(\partial_{n})/\text{Im}(\partial_{n+1})$ 

とおき、これをチェイン複体の $n$ 次ホモロジー群といいます。


次に、単体複体 $K$ があったときにチェイン複体を定義します。

それにより、上のチェイン複体からホモロジー群を得る操作を施すことで、

単体複体に対してホモロジーを得ることができます。

これを単体複体のホモロジーといいます。


$K$ を単体複体とし、$C_n(K)$ を $K$ に含まれる $n$単体の集合からなる ${\mathbb Z}$ 自由アーベル群とします。

つまり $n$単体の集合を $S_n=\{\sigma_1,\cdots,\sigma_k\}$ とすると、

$$C_n(K)={\mathbb Z}\sigma_1+\cdots+ {\mathbb Z}\sigma_k$$

となります。

$n$単体の有限集合からなる単なる形式和として考えることもできます。

このことからこの元どうしには関係式がないので、この和は直和にもなります。

ここで、$C_n(K)$ の和は係数をベクトルの足し算の要領で足していくだけです。

言うなれば、$C_n(K)$ の $S_n$ の集合を基底として定義される、係数 ${\mathbb Z}$ を

スカラーとするベクトル空間と考えられます。

実際ベクトル空間は体上ですのでベクトル空間ではないのですが…。

正確にはこちらの記事にもあるように ${\mathbb Z}$ 上の加群である ${\mathbb Z}$ 加群

という言い方をします。


問題は境界準同型写像です。

$\sigma=\langle v_0v_1\cdots v_n\rangle$ とすると、

$$\partial_n \sigma= \sum_{i=0}^n(-1)^i\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

ここでハットの意味は、その項を除いて得られる元を意味します。


このようにして境界準同型  $\partial_n$ が定義されます。

この写像が境界準同型であることを証明するには、$\partial_{n-1}\circ \partial_n=0$を確かめる必要があります。


実際、

$$\partial_{n-1}\circ \partial_n(\sigma)=\partial_{n-1}\sum_{i=0}^n(-1)^i\langle v_0 v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

$$=\sum_{i=0}^{i-1}\sum_{j=0}^{i-1}(-1)^{i+j}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_j}\cdots\widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

$$+\sum_{i=0}^{i-1}\sum_{j=i+1}^{n}(-1)^{i+j-1}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots\widehat{v_j}\cdots v_n\rangle$$

$$=\sum_{0\le j<i\le n}(-1)^{i+j}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_j}\cdots\widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

$$+\sum_{0\le i<j\le n}^{n}(-1)^{i+j-1}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots\widehat{v_j}\cdots v_n\rangle=0$$


よって $(C_n(K),\partial_n)$ はチェイン複体であることがわかりました。

このチェイン複体のホモロジーを取ることで単体複体のホモロジー $H_n(K)$ を

定義することができました。


単体の $-1$ 倍と単体の向き


ここで、単体複体 $K$ の頂点の集合に $\{v_0,\cdots, v_m\}$ のように順番がついていると

します。

そうすることで、$K$ の任意の $k$単体は、$\langle v_0\cdots v_m\rangle$ の面にも

なっていますが、この順番を保ったままそのほかの頂点を除くことで表示

$\langle v_{i_0}v_{i_1}\cdots v_{i_k}\rangle$ と書くことができ、$i_0<i_1<\cdots< i_k$

を満たします。しかし、そのほかの並べ方にも $C_k(K)$ の元として拡張することができます。


どうするかというと、$i_0<i_1<\cdots, i_k$ のほかの並べ方として

$j_0,j_1,\cdots, j_k$ を選んだ時、

$$\langle v_{i_0}v_{i_1}\cdots v_{i_k}\rangle=\text{sgn}\begin{pmatrix}i_0&i_1&\cdots&i_k\\j_0&j_1&\cdots& j_k\end{pmatrix}\langle v_{i_0}v_{i_1}\cdots v_{i_k}\rangle$$

のようにすることで、$-1$ 倍、もしくは $1$ 倍することで拡張します。

ここで$\text{sgn}$ はこの置換による符号になります。

ここで符号の意味としてその$k$単体についている向きと考えることができます。

つまり、$\langle v_0v_1\rangle$ は $v_0$ から $v_1$ へ向かう辺だが、

$\langle v_1v_0\rangle$ のように添え字を逆にしたものは、$v_1$ から $v_0$ へ

向かう辺ということになります。2単体の場合も同様で向きはちょうど2つあるので

$\langle v_0v_1v_2\rangle$ の偶置換の場合にこの単体と同じ向きで、奇置換の場合には

それと反対の向きを持つ 2単体となります。


サイクル $Z_n(K)$ の意味


$Z_n$ の元の意味を考えてみましょう。


$x\in C_1(K)$ に対して、$\sigma_i^1$ を 1単体として、$x=\sum_{i=1}^na_i\sigma_i^1$ とかけるとします。

この和は、いくつかの(向きづけられた)1単体の和と考えられます。

例えば $a_j\sigma_j$ は $a_j>0$ の場合 $\sigma$ の向きの1単体が$|a_j|$ 個ある状態であり、

$a_j<0$ の場合は $-\sigma$ の向きの1単体が $|a_j|$ 個ある状態です。

$\sigma$ と $-\sigma$ の和は相殺して0 になります。

この元がサイクルであるということは $\partial_1x=0$ が成り立つことですが、

$$\partial_1 x=\partial_1\sum_{i=1}^na_i\sigma_i^1= \sum_{i=1}^na_i\partial_1\sigma_i^1 $$

$$=\sum_{i=1}^na_i(v_i-w_i)=0$$

とします。ただし $w_i$ と $v_i$ は 0単体になります。

ここで項 $v_1$ の全ての係数を足して 0 ということは、元 $x$ はある $v_1$ に入ってくる1-単体

と出ていく1-単体の数が等しいということを意味します。

これが各頂点で成り立っていることから、それらを適当につなぎ合わせることで、

端のないいくつかのサイクルを1単体上で作ることができます。

例えば下の図を見てみると、一つの頂点に6つの向きづけられた1単体が

出入りしますが、それらを適当につなぎ合わせることでその頂点の前後で一続きとなるパスが出来上がります。

この操作を下の図でやってみるとこんな感じになります。

ある頂点で6つの辺(1単体)が入ったり出たりしており、出る矢印は3本、

入る矢印も3本です。これらを適当にまとめることで、3本の一続きの矢印になっていますね。この時どの矢印をペアにするかは任意性がありますが、この際どれでもいいです。



これを各頂点で行ってやることで端のない道が出来上がります。辺の総和は有限なので
繋げた道はいつか元の頂点に戻ってきます。
実際は各辺に整数がかけられていてもう少し複雑ですが、その場合も重複した辺を通る
複数の道があると考えることで同じことが成り立ちます。

よって1-サイクル $x$ はいくつかの(一続きの)サイクルの和つまり$x=b_1c_1+b_2c_2+\cdots b_mc_m$ とかけます。ただし $c_i$ は $K$ の 1単体上を進む一続きのサイクルで、$b_i$ はある整数です。
一般に $Z_n(K)$ の任意の $n$-サイクルも $K$ に含まれる $n$単体をつなぎ合わせていって、端のない $n$単体の和からなる $n$ 次元サイクル(一続きのもの)の和として得られています。


例えば2単体 $\langle v_0v_1v_2\rangle$ の境界準同型によって

$$\partial_2 \langle v_0v_1v_2\rangle= \langle v_1v_2\rangle-\langle v_0v_2\rangle+ \langle v_0v_1\rangle$$

$$= \langle v_1v_2\rangle+\langle v_2v_0\rangle+ \langle v_0v_1\rangle $$

そうすると、$v_0,v_1,v_2$を順に向きに沿って一周していることになります。
これは一続きの1-サイクルになります。
しかし、 $\partial_2\langle v_0v_1v_2\rangle$ は1-サイクルのなかでも$\text{Im}(\partial_2)$ のカタチの元であり、つまり1-サイクルが2単体の境界となります。

上で見たように $\partial_n$ は $n$単体(もしくはその和)の境界を取る操作でした。
ですので
$B_1(K)$ の元である1-バウンダリは $n$単体で得られる単体の和の境界ということに
なります。

ここで、ホモロジーを定義するときに、$Z_n(K)/B_n(K)$ としましたが、これは、
$n$-サイクルの元だが、$n$-バウンダリである元の部分を無視するということを意味しています。
ホモロジーの定義は、求めたいのは$n$-サイクルだが、そのうち、
$n$-バウンダリの部分は非本質的だからその部分(部分加群となる)の商加群を
計算しなさいということになっているのです。

上の部分を理解するために以下の例を出しておきます。




この図の(0)を単体複体とします。この三角形の色がついた部分に2単体 $\sigma^2$ が
張っているとします。そのほか4つの0単体に5つの1単体があるとします。
この際、頂点の命名は煩雑になるのでやめておきます。
その代わり、(1)の絵で与えられるサイクルを $c_1$ とし、(2)で与えられるサイクルを
$c_2$ とし、(3) で与えられるサイクルを $c_3$ とします。
この単体複体で与えられるサイクルはこれら $c_1,c_2,c_3$ の一次結合
$a_1c_1+a_2c_2+a_3c_3$ で与えられます。
(どうしてそうなるかについては実際 $\text{Ker}(\partial_1)$ を解かないといけませんが、
ここではこれを認めて進むとします)
ですので、$Z_1(K)={\mathbb Z}c_1+ {\mathbb Z}c_2+ {\mathbb Z}c_3$
となりますが、実は、$c_1=c_2+c_3$ になり関係式があります。
$c_1,c_2,c_3$ の単体を真面目に1単体の和として書くと、左上から右下に走る
対角線のなす1単体が$c_2,c_3$ で向きがちょうど逆なので相殺されて
なくなるからです。
よってこのサイクルは(1) の表すサイクル $c_1$ になるということになります。
よって、上の $Z_1(K)$ を直和の形に書くと、
$$Z_1(K)={\mathbb Z}c_2\oplus {\mathbb Z}c_3$$
となります。

この3つのサイクルのうち、2-単体のバウンダリになっているのは $c_3$ だけです。
この唯一つの2-単体を$\sigma^2$ と書くと $\partial_2\sigma^2=c_3$ となります。
このとき、$c_3$には向きがついているので、この写像を用いて自然に$\sigma^2$
に向きがつけられることにもなることに注意しておきましょう。

結局 $B_1(K)={\mathbb Z}c_3$ ということですが、
$H_1(K)$ は、$Z_1(K)/B_1(K)$ であり、つまり$Z_1(K)\bmod B_1(K)$ を意味しており、
${\mathbb Z}c_2\oplus {\mathbb Z}c_3$ の中で $B_1(K)={\mathbb Z}c_3$ の部分を
moduloして得られるものということで、
$Z_1(K)/B_1(K)\to {\mathbb Z}c_2$ が同型写像になります。
実際、この写像 $\varphi$ は $x=a_2c_2+a_3c_3\mapsto a_2c_2=:\varphi(x)$ であり、明らかに準同型写像ですが、
もし、$a_2c_2=0$ であるとすると、$a_2=0$ となるから、$x=a_2c_2+a_3c_3=a_3c_3\in B_1(K)$ であり、これは $x\in Z_1(K)/B_1(K)$ において 0 元なります。
これは$\varphi$ が単射であることを意味し、全射性については、
任意の $a_2c_2\in{\mathbb Z}c_2$ において $a_2c_2=\varphi(a_2c_2)$ であるから明らかに成り立ちます。
よって、$H_1(K)\cong {\mathbb Z}c_2\cong {\mathbb Z}$ となります。

ここで、この3つのサイクル $c_1,c_2,c_3$ をまとめてみると、
$c_3$ は $H_1(K)$ においてはゼロになってしまっていますが、
そのほかの $c_1, c_2$ が H_1(K)$ においてゼロではない、つまりホモロジーとして本質的に
意味のあるサイクルとなっているわけです。

気分としては、$c_3$ は何かの境界になっているからその分を除きたいのです。
そうすると、$c_1$ と $c_2$ も意味のあるサイクルだが、$c_1=c_2+c_3$であり、
$c_1-c_2=c_3$ であるから、その差は高々バウンダリくらいしかないことになります。
つまり $c_1\equiv c_2\mod c_3$ ということですね。整数のmod計算を思い出してください。$c_3$ の部分を法として剰余を取ることになります。
同じことですが、$c_1$ は $H_1(K)$ の生成元の代表元であるという言い方もできます。
代表元とは商集合におけるその同値類を代表する元のことをいいました。

この$c_1$ と $c_2$ があるバウンダリをmodして同じになることをホモロガスとも言います。
つまり、使い方としては、$c_1$ と $c_2$ はホモロガスといいます。
また、$c_3$ はゼロとホモロガスなので、$c_3$ はヌルホモロガスともいいます。
(ヌルというのはドイツ語でゼロの意味ですが、
ゼロホモロガスといわずヌルホモロガスというあたり、
ホモロジーの定義にはドイツ人が大きく貢献しているのかもしれません。知らんけど。)

よってこの単体において、1-サイクルとして本質的なものを取り出したところ
1次元ホモロジー群は $c_1$ で生成される ${\mathbb Z}$ と同型な群ということになります。
つまりこの単体複体 $K$ は $c_2$ があらわしているような三角形の周の部分
に2単体を貼り付けたものだからその分を除く(もしくはサイクルの1辺に押し付ける)
などしてなくしてしまってもホモロジーには何も影響がないということになります。

なので $K$ のホモロジーはある2単体の境界部分のホモロジーと同型になります。
つまりこれは円周 $S^1$ (例えば${\mathbb R}^2$ の単位円)と同相ですので、円周の1次ホモロジーと同型になります。
もちろんこれは単体複体が両者同じと言っているわけではなく、あくまでホモロジーが
同型と言っているにすぎません。

このようにホモロジー $H_n(K)=Z_n(K)/B_n(K)$ の定義の意味を深く考えてみることで
ホモロジーの理解が深まります。取りえず今日のところはこの辺で終わります。

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