2025年10月31日金曜日

トポロジーB(第4回)

 今回は単体写像がホモロジーに準同型写像を誘導すること
またへびの補題などを行いました。

HPはこちらになります。



単体写像がホモロジーに写像を誘導すること


単体写像 $f:K\to L$ とは、$K$ の頂点の集合を $S_0$、$L$ の頂点の集合を

$T_0$ とすると、$f_0:S_0\to T_0$ がまず定義されていて、

各 $n$単体 $\langle v_0v_1,\cdots,v_n\rangle\in K$に対して、頂点の集合 $\{f_0(v_0),\cdots,f_0(v_n)\rangle\}$ が

$L$ の何かしらの単体の頂点に"ちょうど"なっているものを言いました。

この時 $f(\sigma)$ をその $L$ の単体とします。一般には $f_0$ は単射とは

限らないので、この単体の次元(この頂点の集合の濃度$-1$)は $n$ 以下であり、ちょうど $n$ になるとは限りません。


まず、単体複体 $K,L$ の実現を $|K|,|L|$ とかくと、単体写像 $f$ から連続写像 $|f|:|K|\to |L|$ を得ることができます。


補題

単体写像 $K\to L$ に対して、連続写像 $|f|:|K|\to |L|$ が誘導できる。


(証明)

$K,L$ が ${\mathbb R}^N$ および ${\mathbb R}^M$ の部分集合として実現されているとして、以下のように連続写像 $|f|:|K|\to |L|$ を定めます。


$\sigma\in K$ に対して、


$|f|_\sigma:|\sigma|\to |f(\sigma)|$ を $x=\sum_{i=0}^nt_iv_i$ としたときに、

$$|f|_\sigma(x)=\sum_{i=0}^nt_if(v_i)$$

として定めます。この写像は一次関数なのでもちろん連続です。


このように $|f|_\sigma$ は $K$ の各単体で定義されますが、$\sigma_1\cap\sigma_2\neq\emptyset$ の時に、各 $\sigma_i$ で定義された連続写像が$\sigma_1\cup\sigma_2$ に拡張することができるのかについて検証します。


$\sigma_1\cap \sigma_2=\sigma_3$ であり、$\sigma_3$ も単体になります

$\sigma_1=\langle v_0\cdots v_n\rangle $

$\sigma_2=\langle v_0\cdots v_kv_{n+1}\cdots v_{n+m}\rangle $

$\sigma_3=\langle v_0\cdots v_k\rangle $


としておきます。ここで $k\le n$ です。


$|f|_{\sigma_1}(x)=\sum_{i=0}^nt_if(v_i)$ 

$|f|_{\sigma_2}(x)=\sum_{i=0}^kt_if(v_i)+\sum_{i=n+1}^{n+m}t_if(v_i)$

$|f|_{\sigma_3}(x)=\sum_{i=0}^kt_if(v_i)$ 

であるから、$|f|_{\sigma_3}$ はそれぞれの連続写像 $|f|_{\sigma_1}$ と $|f|_{\sigma_2}$ を制限して得られており、同値なことに $|f|_{\sigma_3}$ は $|f|_{\sigma_1}$ と $|f|_{\sigma_2}$ に連続に拡張しています。


同様に単体複体 $|K'|$ に定義された 連続関数が単体 $\sigma$ が面 $\tau\prec \sigma$

を共有するとして $|f|_{K'}:|K|\to |L|$ と $|f|_\sigma:|\sigma|\to |L|$ において 

連続であり、面 $\tau$ において、ちょうど制限になるように定義されており、

一意的に $|K'|\cup|\sigma|$ からの連続写像として拡張することができます。


また、同様に $|\sigma|$ の複数の面が $|K|$ と共有している場合も拡張ができます。

ですので、$|K|$ がいくつかの単体を貼り付けてえられていることから、

この拡張を $K$ 全体に広げることで $|K$ 上で連続関数が定義されます。  $\Box$


よって単体写像 $f:K\to L$ はある連続写像 $|f|:|K|\to |L|$ を定義しています。

また、単体写像は チェイン複体に写像を定義しているが、

それはチェイン写像となる。チェイン写像の定義をここでしておく。


定義(チェイン写像)

チェイン複体 $(C_n,\partial_n), (D_n,\partial’_n)$ に対して準同型写像

$f_n:C_n\to D_n$ が任意の $n$ において $\partial’_n\circ f_n=f_{n-1}\circ \partial_n$ を満たすとき、

$\{f_n\}$ をチェイン写像という。


チェイン写像 $\varphi:C_n\to D_n$ に対して、

ホモロジー上に準同型写像 $\varphi_\ast:H_n(C)\to H_n(D)$ が誘導させることができます。

というのも、


補題

$\varphi$ に対して $\varphi_\ast:H_n(|K|\to H_n(|L|)$ を $\varphi_\ast([x])=[\varphi (x)]$ と

なる定義はwell-definedである。


(証明)

この写像がwell-definedであることは、

$[x]=[x’]$ であるとき、$x-x’\in B_n(C)$ が成り立ち、

$x-x’=\partial_{n+1}\alpha$ となります。

$\varphi(x)-\varphi(x’)=f(\partial_{n+1}\alpha)=\partial’_n\circ f(\alpha)$

となるので、$\varphi(x)-\varphi(x’)\in B_n(D)$ が成り立ちます。

つまり、$[\varphi(x)]=[\varphi’(x)]$ in  $H_n(D)$ が成り立つので

$\varphi_\ast$ がホモロジー上の写像としてwell-definedに定義できたことに

なります。$\Box$ 


ここで単体写像 $f:K\to L$ に対してホモロジー上に、


$$f_\ast(\sigma)=\begin{cases}f(\sigma)&  f(\sigma)\text{ が }n\text{単体}\\0&   f(\sigma)\text{ が }n\text{単体ではない}\end{cases}$$


のように定義して、この写像を線形に拡張することで準同型写像

 $C_n(K)\to C_n(D)$ を得る。


$\sigma=\langle v_0\cdots v_n\rangle \in K$ を $n$単体とするとき、

$f(\sigma)$ が $n$単体であるとき、

$$f\circ \partial_n(\sigma)=f( \sum_{i=0}^n(-1)^i\langle v_0\cdots \hat{v_i}\cdots v_n\rangle)$$

$$=\sum_{i=0}^n(-1)^n\langle f(v_0)\cdots \widehat{f(v_i)}\cdots f(v_n)\rangle\cdots(\ast)$$

となります。ここでハットはその項を除くことを意味しています。

ここで、$f(\sigma)=\langle f(v_0)\cdots f(v_n)\rangle$ であるから、

$$(\ast)=\partial_n’\circ f(\sigma)$$

となります。


$f(\sigma)$ が $n$単体ではないとき、

$i\neq j$ に対して$f(v_i)=f(v_j)$ が成り立つとします。

$$f\circ \partial_n(\sigma)=f( \sum_{i=0}^n(-1)^i\langle v_0\cdots \hat{v_i}\cdots v_n\rangle)$$

$$=(-1)^i\langle f(v_0)\cdots \widehat{f(v_i)}\cdots f(v_j)\cdots f(v_n)\rangle $$

$$+ (-1)^j\langle f(v_0)\cdots f(v_i)\cdots \widehat{f(v_j)}\cdots f(v_n)\rangle $$

ここで第1項目の $f(v_j)$ をハットのついた$f(v_i)$ の位置まで持っていくと、

符号が $(-1)^{j-i-1}$だけ変化するから、

$$=(-1)^{j-1}\langle f(v_0)\cdots f(v_j)\cdots \widehat{ f(v_j)}\cdots f(v_n)\rangle $$

$$+ (-1)^j\langle f(v_0)\cdots f(v_i)\cdots \widehat{f(v_j)}\cdots f(v_n)\rangle $$

となります。よってこの値が0になります。

つまり $\partial_n’\circ f(\sigma)=0$ と同じになるので、

確かにこの場合もチェイン写像の条件を満たします。 


よって単体写像 $f:K\to L$ からホモロジー群への準同型写像

$$f_\ast:H_n(K)\to H_n(L)$$    

が誘導されます。


ヘビ🐍の補題


ヘビといえば、🐍ですが、実際英語でもsnake lemmaと言われます。


補題(ヘビの補題)

任意の $n$ に対して短完全系列

$$\begin{CD}0@>>> A_n@>f_n>> B_n@> g_n >> C_n @>>>0\end{CD}$$

がチェイン複体の間のチェイン写像である場合、

任意の $n$ に対してある準同型写像 $\partial_\ast:H_n(C)\to H_{n-1}(A)$ が存在して、

長完全系列

$$\begin{CD}@>>>H_{n+1}(C)@>\partial_\ast>> H_n(A)@>f_{n\ast}>> H_n(B)@>g_{n\ast}>> H_n(C) @>\partial_\ast>>H_{n-1}(A)@>>>\end{CD}$$

が存在する。

この $\partial_\ast$ は連結準同型といます。連結準同型は $C_n\to A_{n-1}$に
well-defined な写像が定義できるのではなく、あくまでホモロジー群の間で初めて
well-definedになる写像となります。

(証明)
この補題を全て証明するのは大変なので、取り合えず $\partial_\ast$ が存在することを
示しておきます。その他にも、
$H_n(A), H_n(B), H_n(C)$ の各場所で完全であることを示す必要があります。

ここで $[c]\in H_n(C)$ をとります。
このとき、$\partial_n^C(c)=0$ が成り立つことと $g_n$ が全射であることから、
$g_n(b)=c$ となる $b\in B_n$ が存在して、$\partial_n^Cg_n(b)=0$ が成り立つので、
可換性から $g_{n-1}\partial^B_n(b)=0$ が成り立ちます。
よって完全性から、$\partial_n^B(b)=f_n(a)$ となる $a\in A_{n-1}$ が存在します。
図式としては次のようになります。

$$\begin{CD}0@>>> A_n@>f_n>> B_n@> g_n >> C_n @>>>0\\ @.@VV \partial^A_{n}V @VV \partial^B_{n}V @VV \partial^C_{n} V \\ 0@>>> A_{n-1}@>f_n>> B_{n-1}@> g_{n-1} >> C_{n-1} @>>>0\end{CD}$$

element chasingにいてはこの可換図式を用いて目で追ってみてください。

そうすると、$[c]$ に対して $a\in A_{n-1}$ を対応させることができました。
このとき、$a\in Z_{n-1}(A)$ である必要がありますが、
実際、$f_{n-1}(a)=\partial^B_n(b)$ であり、この両辺に $\partial_{n-1}^B$ を作用させると、
$\partial^B_{n-1}(f_{n-1}(a))=\partial_{n-1}^B(\partial^B_n(b))=0$ となり、左辺は
$f_{n-2}(\partial^A_{n-1}(a))$であるから、$f_{n-2}(\partial^A_{n-1}(a))=0$ となります。
$f_{n-2}$ は単射であるから、$\partial^A_{n-1}(a)=0$ となって、$a\in Z_{n-1}(A)$
が成り立つことがわかりました。

また、$[c]\mapsto [a]$ がwell-defined であるためには $c$ から $b$をとるときに
一意ではなかったのでそこでとり方によらないことを示す必要があります。

つまり、 $g_n(b)=g_n(b’)=c$ となる $b’\in B_n$を取ったときに、
$f_{n-1}(a’)=\partial_n^B(b’)$ となる $a\in A_{n-1}$ をとり、
$[a]=[a’]$ であることを示せば良いことになります。
このとき、$g_{n}(b-b’)=c-c=0$ であるから、
完全性から $b-b’=f_{n}(\alpha)$ となる $\alpha\in A_n$ が存在します。
ここで、$f_{n-1}(\partial^A_n(\alpha))=\partial_n^B\circ f_n(\alpha)=\partial^B_n(b-b')=f_{n-1}(a-a')$
$f_{n-1}$ は単射であるから、
$\partial^A_n(\alpha)=a-a'$ であるから、
$a-a'\in B_{n-1}(A)$ であるから、よって $[a]=[a']$ となります。

よって $[c]\mapsto [a]$ は $H_n(C)\to H_{n-1}(A)$ の写像が定義できることがわかりました。準同型であることを示すのは易しいので省略します。 

よって、$H_n(C)\to H_{n-1}(A)$ は準同型であることがわかります。

結局のところ連結準同型は $\partial_\ast[c]=[f^{-1}_{n-1}(\partial^B_n(b))]$ として
定義される。ここで $c$ に対して $b$ は $g_n(b)=c$ となる $b$ であれば
どの元でも構わないことになります。

この列が長完全系列であることを示すには、$H_n(A)$, $H_n(B)$, $H_n(C)$ の前後で
$\text{Im}=\text{Ker}$ を示す必要があります。

とりあえず $H_n(A)$ での完全性を示します。
$[c]\in H_{n+1}(C)$ に対して、$f_{n\ast}(\partial_\ast([c]))=f_{n\ast}([f^{-1}_{n}(\partial^B_{n+1}(b))])=[f_nf_n^{-1}(\partial^B_{n+1}(b))]=[\partial^B_{n+1}(b)]=0$
となります。 
また、$f_{n\ast}([a])=0$ とします。この時、$f_n(a)\in \partial^B_n$ であるので、
$f_n(a)=\partial^B_{n+1}(b)$ となる$b\in B_{n+1}$ が存在します。
よって、$a=f^{-1}_n\partial^B_{n+1}(b)$ であるから、
$g_n(b)=c$ とすることで、$[a]=\partial_\ast([c])$ となります。
つまり、$\text{Im}(\partial_\ast)=\text{Ker}(f_\ast)$ となることがわかりました。

とりあえずここまでにしておきます。

2025年10月26日日曜日

トポロジーB(第3回)

 今回は3回目です。

今回は主に単体複体のホモロジーについて行いました。

HPはこちらになります。


単体複体のホモロジーの前に、単体分割について定義を書いておきます。


定義(位相空間の単体分割)

位相空間 $X$ に対して、ある単体複体 $K$ が存在して、ある

同相写像 $f:|K|\to X$ が存在するとき、$(|K|,f)$ は$X$ の単体分割という。 


単体複体(の実現)の位相はユークリッド空間に埋め込まれた

局所的に線形なアフィン空間の和集合として位相が定義されています。


単体複体のホモロジーについて


単体複体のホモロジーの定義の前にチェイン複体の定義をしておきます。


定義(チェイン複体)

アーベル群の列 $\{C_n\}_{n\in {\mathbb Z}}$ と任意の $n$ に対して

準同型写像 $\partial_n:C_n\to C_{n-1}$ が定義されており、

各 $n$ に対して $\partial_{n}\circ \partial_{n+1}=0$を満たすとき、

その対 $(C_n,\partial_n)$ をチェイン複体という。

この $\partial_n$ を境界準同型という。

また、$Z_n(C)=\text{Ker}(\partial_n)$ として定義し、$n$ 次サイクル(もしくは $n$-サイクル)という。

また、$B_n(C)=\text{Im}(\partial_{n+1})$ として定義し、$n$ 次バウンダリ(もしくは$n$-バウンダリ)という。


$Z_n(C)$ も $B_n(C)$ も $C_n$ の部分群であることに注意しておきます。

$\partial_{n}\circ \partial_{n+1}=0$ という条件は、

$\text{Ker}(\partial_{n})\subset \text{Im}(\partial_{n+1})$ が成り立つことと同値になります。


定義(ホモロジー群)

チェイン複体 $(C_n,\partial_n)$  から、商群を

$H_n(C)= \text{Ker}(\partial_{n})/\text{Im}(\partial_{n+1})$ 

とおき、これをチェイン複体の $n$ 次ホモロジー群といいます。


次に、単体複体 $K$ があったときにチェイン複体を定義します。

それにより、上のチェイン複体からホモロジー群を得る操作を施すことで、

単体複体に対してホモロジーを得ることができます。

これを単体複体のホモロジーといいます。


$K$ を単体複体とし、$C_n(K)$ を $K$ に含まれる $n$単体の集合からなる ${\mathbb Z}$ 自由アーベル群とします。

つまり $n$単体の集合を $S_n=\{\sigma_1,\cdots,\sigma_k\}$ とすると、

$$C_n(K)={\mathbb Z}\sigma_1+\cdots+ {\mathbb Z}\sigma_k$$

となります。

$n$単体の有限集合からなる単なる形式和として考えることもできます。

このことからこの元どうしには関係式がないので、この和は直和にもなります。

ここで、$C_n(K)$ の和は係数をベクトルの足し算の要領で足していくだけです。

言うなれば、$C_n(K)$ の $S_n$ の集合を基底として定義される、係数 ${\mathbb Z}$ を

スカラーとするベクトル空間と考えられます。

実際ベクトル空間は体上ですのでベクトル空間ではないのですが…。

正確にはこちらの記事にもあるように ${\mathbb Z}$ 上の加群である ${\mathbb Z}$ 加群

という言い方をします。


問題は境界準同型写像です。

$\sigma=\langle v_0v_1\cdots v_n\rangle$ とすると、

$$\partial_n \sigma= \sum_{i=0}^n(-1)^i\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

ここでハットの意味は、その項を除いて得られる元を意味します。


このようにして境界準同型  $\partial_n$ が定義されます。

この写像が境界準同型であることを証明するには、$\partial_{n-1}\circ \partial_n=0$を確かめる必要があります。


実際、

$$\partial_{n-1}\circ \partial_n(\sigma)=\partial_{n-1}\sum_{i=0}^n(-1)^i\langle v_0 v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

$$=\sum_{i=0}^{i-1}\sum_{j=0}^{i-1}(-1)^{i+j}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_j}\cdots\widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

$$+\sum_{i=0}^{i-1}\sum_{j=i+1}^{n}(-1)^{i+j-1}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots\widehat{v_j}\cdots v_n\rangle$$

$$=\sum_{0\le j<i\le n}(-1)^{i+j}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_j}\cdots\widehat{v_i}\cdots v_n\rangle$$

$$+\sum_{0\le i<j\le n}^{n}(-1)^{i+j-1}\langle v_0v_1\cdots \widehat{v_i}\cdots\widehat{v_j}\cdots v_n\rangle=0$$


よって $(C_n(K),\partial_n)$ はチェイン複体であることがわかりました。

このチェイン複体のホモロジーを取ることで単体複体のホモロジー $H_n(K)$ を

定義することができました。


単体の $-1$ 倍と単体の向き


ここで、単体複体 $K$ の頂点の集合に $\{v_0,\cdots, v_m\}$ のように順番がついていると

します。

そうすることで、$K$ の任意の $k$単体は、$\langle v_0\cdots v_m\rangle$ の面にも

なっていますが、この順番を保ったままそのほかの頂点を除くことで表示

$\langle v_{i_0}v_{i_1}\cdots v_{i_k}\rangle$ と書くことができ、$i_0<i_1<\cdots< i_k$

を満たします。しかし、そのほかの並べ方にも $C_k(K)$ の元として拡張することができます。


どうするかというと、$i_0<i_1<\cdots, i_k$ のほかの並べ方として

$j_0,j_1,\cdots, j_k$ を選んだ時、

$$\langle v_{i_0}v_{i_1}\cdots v_{i_k}\rangle=\text{sgn}\begin{pmatrix}i_0&i_1&\cdots&i_k\\j_0&j_1&\cdots& j_k\end{pmatrix}\langle v_{i_0}v_{i_1}\cdots v_{i_k}\rangle$$

のようにすることで、$-1$ 倍、もしくは $1$ 倍することで拡張します。

ここで$\text{sgn}$ はこの置換による符号になります。

ここで符号の意味としてその$k$単体についている向きと考えることができます。

つまり、$\langle v_0v_1\rangle$ は $v_0$ から $v_1$ へ向かう辺だが、

$\langle v_1v_0\rangle$ のように添え字を逆にしたものは、$v_1$ から $v_0$ へ

向かう辺ということになります。2単体の場合も同様で向きはちょうど2つあるので

$\langle v_0v_1v_2\rangle$ の偶置換の場合にこの単体と同じ向きで、奇置換の場合には

それと反対の向きを持つ 2単体となります。


サイクル $Z_n(K)$ の意味


$Z_n$ の元の意味を考えてみましょう。


$x\in C_1(K)$ に対して、$\sigma_i^1$ を 1単体として、$x=\sum_{i=1}^na_i\sigma_i^1$ とかけるとします。

この和は、いくつかの(向きづけられた)1単体の和と考えられます。

例えば $a_j\sigma_j$ は $a_j>0$ の場合 $\sigma$ の向きの1単体が$|a_j|$ 個ある状態であり、

$a_j<0$ の場合は $-\sigma$ の向きの1単体が $|a_j|$ 個ある状態です。

$\sigma$ と $-\sigma$ の和は相殺して0 になります。

この元がサイクルであるということは $\partial_1x=0$ が成り立つことですが、

$$\partial_1 x=\partial_1\sum_{i=1}^na_i\sigma_i^1= \sum_{i=1}^na_i\partial_1\sigma_i^1 $$

$$=\sum_{i=1}^na_i(v_i-w_i)=0$$

とします。ただし $w_i$ と $v_i$ は 0単体になります。

ここで項 $v_1$ の全ての係数を足して 0 ということは、元 $x$ はある $v_1$ に入ってくる1-単体

と出ていく1-単体の数が等しいということを意味します。

これが各頂点で成り立っていることから、それらを適当につなぎ合わせることで、

端のないいくつかのサイクルを1単体上で作ることができます。

例えば下の図を見てみると、一つの頂点に6つの向きづけられた1単体が

出入りしますが、それらを適当につなぎ合わせることでその頂点の前後で一続きとなるパスが出来上がります。

この操作を下の図でやってみるとこんな感じになります。

ある頂点で6つの辺(1単体)が入ったり出たりしており、出る矢印は3本、

入る矢印も3本です。これらを適当にまとめることで、3本の一続きの矢印になっていますね。この時どの矢印をペアにするかは任意性がありますが、この際どれでもいいです。



これを各頂点で行ってやることで端のない道が出来上がります。辺の総和は有限なので
繋げた道はいつか元の頂点に戻ってきます。
実際は各辺に整数がかけられていてもう少し複雑ですが、その場合も重複した辺を通る
複数の道があると考えることで同じことが成り立ちます。

よって1-サイクル $x$ はいくつかの(一続きの)サイクルの和つまり$x=b_1c_1+b_2c_2+\cdots b_mc_m$ とかけます。ただし $c_i$ は $K$ の 1単体上を進む一続きのサイクルで、$b_i$ はある整数です。
一般に $Z_n(K)$ の任意の $n$-サイクルも $K$ に含まれる $n$単体をつなぎ合わせていって、端のない $n$単体の和からなる $n$ 次元サイクル(一続きのもの)の和として得られています。


例えば2単体 $\langle v_0v_1v_2\rangle$ の境界準同型によって

$$\partial_2 \langle v_0v_1v_2\rangle= \langle v_1v_2\rangle-\langle v_0v_2\rangle+ \langle v_0v_1\rangle$$

$$= \langle v_1v_2\rangle+\langle v_2v_0\rangle+ \langle v_0v_1\rangle $$

そうすると、$v_0,v_1,v_2$を順に向きに沿って一周していることになります。
これは一続きの1-サイクルになります。
しかし、 $\partial_2\langle v_0v_1v_2\rangle$ は1-サイクルのなかでも$\text{Im}(\partial_2)$ のカタチの元であり、つまり1-サイクルが2単体の境界となります。

上で見たように $\partial_n$ は $n$単体(もしくはその和)の境界を取る操作でした。
ですので
$B_1(K)$ の元である1-バウンダリは $n$単体で得られる単体の和の境界ということに
なります。

ここで、ホモロジーを定義するときに、$Z_n(K)/B_n(K)$ としましたが、これは、
$n$-サイクルの元だが、$n$-バウンダリである元の部分を無視するということを意味しています。
ホモロジーの定義は、求めたいのは$n$-サイクルだが、そのうち、
$n$-バウンダリの部分は非本質的だからその部分(部分加群となる)の商加群を
計算しなさいということになっているのです。

上の部分を理解するために以下の例を出しておきます。




この図の(0)を単体複体とします。この三角形の色がついた部分に2単体 $\sigma^2$ が
張っているとします。そのほか4つの0単体に5つの1単体があるとします。
この際、頂点の命名は煩雑になるのでやめておきます。
その代わり、(1)の絵で与えられるサイクルを $c_1$ とし、(2)で与えられるサイクルを
$c_2$ とし、(3) で与えられるサイクルを $c_3$ とします。
この単体複体で与えられるサイクルはこれら $c_1,c_2,c_3$ の一次結合
$a_1c_1+a_2c_2+a_3c_3$ で与えられます。
(どうしてそうなるかについては実際 $\text{Ker}(\partial_1)$ を解かないといけませんが、
ここではこれを認めて進むとします)
ですので、$Z_1(K)={\mathbb Z}c_1+ {\mathbb Z}c_2+ {\mathbb Z}c_3$
となりますが、実は、$c_1=c_2+c_3$ になり関係式があります。
$c_1,c_2,c_3$ の単体を真面目に1単体の和として書くと、左上から右下に走る
対角線のなす1単体が$c_2,c_3$ で向きがちょうど逆なので相殺されて
なくなるからです。
よってこのサイクルは(1) の表すサイクル $c_1$ になるということになります。
よって、上の $Z_1(K)$ を直和の形に書くと、
$$Z_1(K)={\mathbb Z}c_2\oplus {\mathbb Z}c_3$$
となります。

この3つのサイクルのうち、2-単体のバウンダリになっているのは $c_3$ だけです。
この唯一つの2-単体を$\sigma^2$ と書くと $\partial_2\sigma^2=c_3$ となります。
このとき、$c_3$には向きがついているので、この写像を用いて自然に$\sigma^2$
に向きがつけられることにもなることに注意しておきましょう。

結局 $B_1(K)={\mathbb Z}c_3$ ということですが、
$H_1(K)$ は、$Z_1(K)/B_1(K)$ であり、つまり$Z_1(K)\bmod B_1(K)$ を意味しており、
${\mathbb Z}c_2\oplus {\mathbb Z}c_3$ の中で $B_1(K)={\mathbb Z}c_3$ の部分を
moduloして得られるものということで、
$Z_1(K)/B_1(K)\to {\mathbb Z}c_2$ が同型写像になります。
実際、この写像 $\varphi$ は $x=a_2c_2+a_3c_3\mapsto a_2c_2=:\varphi(x)$ であり、明らかに準同型写像ですが、
もし、$a_2c_2=0$ であるとすると、$a_2=0$ となるから、$x=a_2c_2+a_3c_3=a_3c_3\in B_1(K)$ であり、これは $x\in Z_1(K)/B_1(K)$ において 0 元なります。
これは$\varphi$ が単射であることを意味し、全射性については、
任意の $a_2c_2\in{\mathbb Z}c_2$ において $a_2c_2=\varphi(a_2c_2)$ であるから明らかに成り立ちます。
よって、$H_1(K)\cong {\mathbb Z}c_2\cong {\mathbb Z}$ となります。

ここで、この3つのサイクル $c_1,c_2,c_3$ をまとめてみると、
$c_3$ は $H_1(K)$ においてはゼロになってしまっていますが、
そのほかの $c_1, c_2$ が H_1(K)$ においてゼロではない、つまりホモロジーとして本質的に
意味のあるサイクルとなっているわけです。

気分としては、$c_3$ は何かの境界になっているからその分を除きたいのです。
そうすると、$c_1$ と $c_2$ も意味のあるサイクルだが、$c_1=c_2+c_3$であり、
$c_1-c_2=c_3$ であるから、その差は高々バウンダリくらいしかないことになります。
つまり $c_1\equiv c_2\mod c_3$ ということですね。整数のmod計算を思い出してください。$c_3$ の部分を法として剰余を取ることになります。
同じことですが、$c_1$ は $H_1(K)$ の生成元の代表元であるという言い方もできます。
代表元とは商集合におけるその同値類を代表する元のことをいいました。

この$c_1$ と $c_2$ があるバウンダリをmodして同じになることをホモロガスとも言います。
つまり、使い方としては、$c_1$ と $c_2$ はホモロガスといいます。
また、$c_3$ はゼロとホモロガスなので、$c_3$ はヌルホモロガスともいいます。
(ヌルというのはドイツ語でゼロの意味ですが、
ゼロホモロガスといわずヌルホモロガスというあたり、
ホモロジーの定義にはドイツ人が大きく貢献しているのかもしれません。知らんけど。)

よってこの単体において、1-サイクルとして本質的なものを取り出したところ
1次元ホモロジー群は $c_1$ で生成される ${\mathbb Z}$ と同型な群ということになります。
つまりこの単体複体 $K$ は $c_2$ があらわしているような三角形の周の部分
に2単体を貼り付けたものだからその分を除く(もしくはサイクルの1辺に押し付ける)
などしてなくしてしまってもホモロジーには何も影響がないということになります。

なので $K$ のホモロジーはある2単体の境界部分のホモロジーと同型になります。
つまりこれは円周 $S^1$ (例えば${\mathbb R}^2$ の単位円)と同相ですので、円周の1次ホモロジーと同型になります。
もちろんこれは単体複体が両者同じと言っているわけではなく、あくまでホモロジーが
同型と言っているにすぎません。

このようにホモロジー $H_n(K)=Z_n(K)/B_n(K)$ の定義の意味を深く考えてみることで
ホモロジーの理解が深まります。取りえず今日のところはこの辺で終わります。