2021年12月24日金曜日

トポロジー入門(第10回)

[場所オンライン(月曜日3限)]


今回は商位相空間と連結性について解説しました。

商位相

まず、次の定義をします。

定義10.1
$(X,\mathcal{O}_X)$、$(Y,\mathcal{O}_Y)$ を位相空間とし、
$f:X\to Y$ を全射とする。
$$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X\Leftrightarrow U\in \mathcal{O}_X$$
が成り立つとき、$f$ は商写像という。

すぐわかることは、商写像なら連続ということです。
上の⇐が $f$ の連続性を意味するからです。
しかし、商写像は全射連続だけではありません。

その条件をまずは見ていきます。
商写像の例として、連続で開な全射があります。

定理10.1
$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ が連続な全射な開写像なら、$f$ は商写像。

(証明) 連続性は仮定されているから、写像であることの$\Rightarrow$ 
を示せばよいです。
$U\in \mathcal{P}(Y)$ に対して、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$
なら、$f$ が開写像であることから $f(f^{-1}(U))=U\in\mathcal{O}_Y$
分かります。
よって、写像の条件の$\Rightarrow$ が分かります。
このことから $f$ は商写像であることがわかります。 $\Box$

商写像の特徴付けをここで与えます。

定理10.3
全射 $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$
が商写像であることとは、
$\mathcal{O}_Y$ が $f$ を連続にする最大の位相であることの
必要十分条件である。


$\mathcal{O}_Y$ が $f$ を連続にする最大の位相であるとは、
$\mathcal{O}$ が $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O})$ を連続とする
任意の位相なら $\mathcal{O}\subset\mathcal{O}_Y$ であることを意味します。


(定理10.3の証明) (十分性) $f$ が商写像であるとします。
このとき、$\mathcal{O}$ を $f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O})$ を連続にする任意の位相なら
$\forall U\in \mathcal{O}$ に対して、$f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$
であることから、商写像の定義から $U\in\mathcal{O}_Y$ が分かります。
ゆえに、$\mathcal{O}\subset\mathcal{O}_Y$ となります。このことから
$\mathcal{O}_Y$ は $f$ を連続にする最大の位相であることが分かります。
(必要性) $\mathcal{O}_Y$ が $f$ を連続にする最大の位相とする。
まず $f$ が連続であることから、商写像の条件の$\Leftarrow$ が成り立つ。
商写像の条件の $\Rightarrow$ を示す。
任意の $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$ に対して、
$\mathcal{O}=\{\emptyset,U,Y\}$ は $Y$ 上の位相であり、$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O})$ は連続である。
ここで、$\mathcal{O}_Y$ は $f$ を連続にする最大の位相であったから $\mathcal{O}\subset \mathcal{O}_Y$ が分かる。
特に、$U\in\mathcal{O}_Y$ である。
よって、これは、$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ が商写像
であることを意味します。$\Box$


ここで、 次の定義をしましょう。
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ と全射 $f:X\to Y$ が存在したとき、
$Y$ 上の $f$ の最小にする位相を $\mathcal{O}_f$ と書くことにします。
このとき、直前の定理から $\mathcal{O}_f$ は 
$(X,\mathcal{O})\to (Y,\mathcal{O}_f)$ が
商写像となるような $Y$ 上の位相ということになります。
そのような位相の一意性もわかることになります。

このとき、$\mathcal{O}_f$は、
$$\{U\subset Y|f^{-1}(U)\in\mathcal{O}_X\}$$
としても定義されます。

このようにして、全射 $f:X\to Y$ を通して、$X$ 上の位相から
$f$ の連続性を通して $Y$ 上の位相を"標準的に"作る唯一の方法があることになります。

この方法を通して、商集合 $X/\sim$ を位相空間にすることができます。
商集合とは、集合 $X$ 上に導入された同値関係$\sim$ 
によって作られる同値類全体の集合のことです。
$\sim$ が同値関係であるとは、$\forall a,b,c\in X$ に対して、
(i) $a\sim a$
(ii) $a\sim b\rightarrow b\sim a$
(iii) $a\sim b$ かつ $b\sim c$ ならば $a\sim c$

を満たす2項関係のことです。
このとき、$C(a)=\{x\in X|a\sim x\}$ として同値類を表します。
この同値類全体の集合 $\{C(a)|a\in X\}$ を商集合といい、
$X/\sim$ と書くのでした。
写像 $p:X\to X/\sim$ を
$a\mapsto C(a)$ として定めたとき、
$p$ を自然な射影といいます。
記号の使い方として、$C(a)$ のことを $[a]$ とかぎかっこを
使って書くことがあります。

今、$X$ 上に位相 $\mathcal{O}$ が入っていたとき、
自然な射影 $p:X\to X/\sim$ を通して、$X/\sim$ に
位相を入れることができます。
この時できる $(X/\sim,\mathcal{O}_p)$ を
$X/\sim$ 上の商位相空間($\mathcal{O}_p$ を商位相)といいます。

つまり、$p$ が商写像となるような位相空間を $X/\sim$ 
上に導入したことになります。

例10.4
$({\mathbb R}^2,\mathcal{O}_{d_2})$ 
に、同値関係として、$(x_1,y_1)\sim(x_2,y_2)\leftrightarrow x_1=x_2$
として導入する。自然な射影を $p$ とします。
$(x,y)$ を含む同値類を $[x,y]$ と表すことにします。
このとき、構成される商位相空間 $({\mathbb R}^2/\sim,\mathcal{O}_{d_2,p})$
は $({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ と同相になります。

実際、$\varphi([x,y])=f(x)$ として定義すると
$\varphi:{\mathbb R}^2/\sim\to {\mathbb R}$ は同相になります。
まず写像になることは、$[x,y]=[x',y']$ なら、$\varphi([x,y])=x=x'=\varphi([x',y'])$
であるからです。

単射性は、$\varphi([x,y])=\varphi([x',y'])$ なら、$x=x'$ が成り立ち、
同値関係の定義から $(x,y)\sim (x',y')$ が成り立つので、$[x,y]=[x',y']$
が成り立ちます。
全射性は、$\forall x\in {\mathbb R}$ に対して $z\in {\mathbb R}$ を
任意に選ぶと、$\varphi([x,z])=x$ が得られることからわかります。

同相であることは次の定理の証明に一般化して証明します。

定理10.4
$f:(X,\mathcal{O}_X)\to (Y,\mathcal{O}_Y)$ を商写像とする。
このとき、$f(x)=f(x')\leftrightarrow x\sim x'$ として 
$X$ に同値関係 $\sim$ を導入する。その自然な射影を $p$ とする。
このとき、商位相空間 $(X/\sim,\mathcal{O}_p)$ は 
$(Y,\mathcal{O}_Y)$ と同相である。

(証明) $\varphi:X/\sim\to Y$ を $\varphi([x])=f(x)$ として定義すると
$\varphi$ が写像であることや、全単射であることは上記の例10.4と
同様の証明をすることでわかります。
また、$\varphi([x])=\varphi(p(x))=\varphi\circ p(x)=f(x)$
であることから、$\varphi\circ p=f$ であることもわかります。

$\varphi$ が同相写像であることを示そう。
(連続性)  $U\in \mathcal{O}_Y$ とすると、$p^{-1}(\varphi^{-1}(U))=(\varphi\circ p)^{-1}(U)=f^{-1}(U)$
より、$f$ の連続性から $p^{-1}(\varphi^{-1}(U))\in \mathcal{O}_X$ であることが
わかり、$p$ が商写像であることから$\varphi^{-1}(U)\in \mathcal{O}_{X,p}$
であることが分かります。これは、$\varphi$ が連続であることを意味します。
(開写像性) $V\in \mathcal{O}_{X,p}$ に対して、
$p^{-1}(V)=p^{-1}(\varphi^{-1}(\varphi(V)))=(\varphi\circ p)^{-1}(\varphi(V))=f^{-1}(\varphi(V))$
であり、$p$ が連続であることと $f$ が商写像であることから、$\varphi(V)\in \mathcal{O}_{Y}$
であることがわかります。
これは$\varphi$ が開写像であることを意味します。

全単射な連続な開写像は同相写像であるから、$f$ は同相写像となります。$\Box$

これらのことから、例10.4の写像
$({\mathbb R}^2/\sim,\mathcal{O}_{d_2,p})\to ({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$
は同相写像であることがわかります。

ここで次の定理を用意します。

定理10.5
$f:X\to Y$ を連続写像とする。
このとき、$\tilde{f}:X\to f(X)$ を $\tilde{f}(x)=f(x)$ 
とするとき、$\tilde{f}$ も連続である。

この定理は、連続写像の終域を像に縮めた写像も連続であることを
主張しています。ここで、$f(X)$ の位相は $Y$ からくる相対位相と
考えます。証明は易しいのでここでは省略します。

例10.5
${\mathbb S}^1=\{(x,y)\in {\mathbb R}^2|x^2+y^2=1\}$ とおきます。
$f:{\mathbb R}\to {\mathbb S}^1$ を$f(\theta)=(\cos\theta,\sin\theta)$ とします。
${\mathbb S}^1\subset{\mathbb R}^2$ の相対位相は、
${\mathbb R}$ 上の同値関係 $\theta\sim \theta'\leftrightarrow \theta_1-\theta_2\in 2\pi{\mathbb Z}$
によって得られる商位相空間と同相となります。

(証明)
$\tilde{f}:{\mathbb R}\to {\mathbb R}^2$ を$\tilde{f}(\theta)=f(\theta)$
として得られるものとします。
$\tilde{f}$ は連続となります。$\mathcal{O}_{d_2}$ は $\mathcal{O}_{d_1}$
の2つの直積位相になるので、
$\tilde{f}:{\mathbb R}\to {\mathbb R}^2$ が連続であるためには、
$\text{pr}_1\circ \tilde{f}(\theta)=\cos\theta$
$\text{pr}_2\circ \tilde{f}(\theta)=\sin\theta$
が連続であることが必要十分ですが、$\cos\theta$ や $\sin\theta$ は
連続関数なので $\tilde{f}$ は連続写像であることが分かります。
上の定理10.5から $f$ は連続となることがわかります。
$U\in \mathcal{O}_{d_1}$ とすると、$U=\cup_{\lambda\in \Lambda}(a_\lambda,b_\lambda)$
のように開区間の和集合になります。
$f(U)=\cup_{\lambda\in \Lambda}f((a_\lambda,b_\lambda))=\cup_{\lambda\in \Lambda}(f(a_{\lambda}),f(b_{\lambda}))$
$\{(\cos\theta,\sin\theta)|a<\theta<b\}$ が ${\mathbb S}^1$
の相対位相の開基となるので、$f(U)\in \mathcal{O}_{d_2,{\mathbb S}^1}$ となります。
よって、$f$ は全射連続開写像であるから$f$ は商写像になります。
よって、$f$ によって得られる同値関係は、
$f(\theta)=f(\theta')\leftrightarrow (\cos\theta,\sin\theta)=(\cos\theta',\sin\theta')\leftrightarrow \theta_1-\theta_2\in 2\pi{\mathbb Z}$
が成り立ちます。
ゆえに、${\mathbb R}$ に $\theta_1\sim\theta_2\leftrightarrow \theta_1-\theta_2\in 2\pi{\mathbb Z}$ であるように
いれた同値関係による商位相空間 $({\mathbb R}/\sim,\mathcal{O}_p)$
は相対位相空間 $({\mathbb S}^1,\mathcal{O}_{d_2,{\mathbb S}^1})$ 
に$\varphi$ を介して同相になります。
つまり、
$$\varphi:({\mathbb R}/\sim,\mathcal{O}_p)\to ({\mathbb S}^1,\mathcal{O}_{d_2,{\mathbb S}^1})$$
は同相になります。$\Box$

連結性
次に連結性に入りましたが、定義のみで終わりました。

定義10.3
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ が空でも $X$ でもない
開集合 $U,V$ を用いて $X= U\sqcup V$ と表せないとき
$X$ は連結という。
$X$ が連結ではないとき、$X$ は非連結という。

ここで、$\sqcup$ は交わりのない和集合を意味します。
連結性は、「表せないとき」ということを条件としており、
理解がしずらいです。
ですので少し次のように言い換えましょう。

定理10.6
$X$ が連結であるとは、$X$ の開かつ閉集合は $X$ もしくは $\emptyset$ 
のみであることと同値である。

(証明) $X$ が不連結であるとすると、空でも、$X$ でもない 開集合
$U,V\subset X$が存在して
$X=U\cup V$ が成り立ちます。このとき、$U^c=V$ は開集合であるから
$U$ は開かつ閉集合となります。
よって、空でも $X$ でもない開かつ閉集合が存在します。
空集合と $X$ は開かつ閉集合であるから、
この否定は、空もしくは $X$ ではない開かつ閉集合が存在しないとき連結性を
意味することになります。$\Box$

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