2016年4月24日日曜日

線形代数続論演習(第2回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.


今日は、

  • 表現行列
  • 数列の成すベクトル空間
を復習しました.また、群、作用なども教えました.

表現行列

表現行列とは、ベクトル空間 $V,W$ の間の線形写像 $f:V\to W$ があったときに、$V,W$ の基底を固定したときにできるある行列のことでした.

一般的な定義などは去年のページ(リンク)をみてください.
ここでは、授業中にやった具体的な例に対して計算してみます.

今日は、特に $f$ が $V\to V$ の場合を扱いました.その場合、$f$ の定義域と値域の基底として同じものを取ります.

A-2-1(2)
今日配布した問題をもう一度解いてみます.
$V=\langle \sin\theta,\cos\theta\rangle_{\mathbb R}$
とします.この下に小さく ${\mathbb R}$ を書いているのは、係数(スカラー)は 実数 ${\mathbb R}$ ですということを明示しています.

この $V$ に対して、$F:V\to V$ を $f(\theta)\in V$ に対して、 $f(\theta-\pi/4)\in V$ を対応させる写像を考えます.ここで、$V$ の元は一つの関数であることに注意してください.つまり、$\sin\theta$ と $\cos\theta$ の線形和として書ける形の関数です.

この対応 $F$ は実は線形写像です.
つまり、
$F(f(\theta)+g(\theta))=F(f(\theta))+F(g(\theta))$ と $F(\alpha f(\theta))=\alpha F(f(\theta))$ が成り立ちます.

確認します.$F$ は変数 $\theta$ を一斉に $\theta-\pi/4$ に入れ替えるという変換なので、
$f(\theta)+g(\theta)\in V$ に対して、$F$ によって $f(\theta-\pi/4)+g(\theta-\pi/4)\in V$ に移ります.つまり、
$F(f(\theta)+g(\theta))=f(\theta-\pi/4)+g(\theta-\pi/4)$ なので、右辺を書き換えれば、
$F(f(\theta)+g(\theta))=F(f(\theta))+F(g(\theta))$ が成り立ちます.

同じように、$\alpha$ をある実数とすると、$F(\alpha f(\theta))=\alpha f(\theta-\pi/4)$ なので、これは $\alpha F(f(\theta))$ と一致します.

これらのことから、$F$ は $V$ 上の線形写像(同じ空間に戻ってくるので線形変換)となります.

このとき、$F$ の写像をある基底を用いて、行列に変換します.

その前に、$V$ が2次元あることを示します.

$\sin\theta,\cos\theta$ が一次独立であることを示せば、$V$ の定義から、$\sin\theta,\cos\theta$ が $V$ の基底であることはわかります.

$c_1\sin \theta+c_2\cos\theta=0$ と仮定します.
授業中でも言いましたが、このイコールは、方程式を表しておらず、恒等式としてのイコールです.先週も言いましたね.つまり、右辺の $0$ は数値ではなく、恒等的に $0$ の関数であると考えてください.

左辺の関数と右辺の関数が一致すると考えてください.
そうすると、関数が同じということは、適当に数を代入しても同じということです.

よって、$0$ を代入すると、$c_2=0$ となります.
また、$\pi/2$ を代入すると、$c_1=0$ となります.右辺がどちらも $0$ になるのは、右辺の関数が恒等的に $0$ の関数であるからです.

よって、線形関係式 $c_1\sin \theta+c_2\cos\theta=0$ には非自明なもの($c_1=c_2=0$ でないもの)はありません.
これは、 $\sin\theta,\cos\theta$ が線形独立であることを言っています.

結論として、$\sin\theta,\cos\theta$ は $V$ の基底であることを示しています.
つまり、$\dim(V)=2$ となります.

ここで、$F$ により、基底がどのように移るかを計算します.

$F(\sin\theta)=\sin(\theta-\pi/4)=\sin\theta\cos\pi/4-\cos\theta\sin\pi/4=\frac{\sin\theta}{\sqrt{2}}-\frac{\cos\theta}{\sqrt{2}}$
$F(\cos\theta)=\cos(\theta-\pi/4)=\cos\theta\cos\pi/4+\sin\theta\sin\pi/4=\frac{\sin\theta}{\sqrt{2}}+\frac{\cos\theta}{\sqrt{2}}$

となりますので、
$$(F(\sin\theta),F(\cos\theta))=(\sin\theta,\cos\theta)\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\\-\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\end{pmatrix}$$
となります.このとき、求める表現行列は、
$$\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\\-\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\end{pmatrix}$$
となります.

表現行列を求めるときは、必ず、基底に対して右からかけるような形にしてください.
そのためには、
$(F(\sin\theta),F(\cos\theta))$ のように基底の行き先を横ベクトルの形に書くことになります.

そこは慣習ですので倣ってください.

数列からなるベクトル空間

数列からなるベクトル空間 $s({\mathbb R})$ を考えます.
$s({\mathbb R})$ は $(a_1,a_2,a_3,\cdots)$ のように実数の列を一つのベクトルとするようなベクトル空間です.

このとき、この数列全体の集合は、ベクトル空間の構造を持ちます.それは、この数列を、次元が無限次元あるような数ベクトル空間としてみれば極めて自然のことです.

和として
$$(a_1,a_2,a_3,\cdots)+(b_1,b_2,b_3,\cdots)=(a_1+b_1,a_2+b_2,a_3+b_3,\cdots)$$
とし、スカラー倍として、
$$\alpha\cdot(a_1,a_2,a_3,\cdots)=(\alpha a_1,\alpha a_2,\alpha a_3,\cdots)$$

とするのです.こうすると、ベクトル空間の構造をもちます.
ただ、このようにすると、ベクトル空間として、有限次元ではなくなりますので、
いつも、適当なところでカットして、有限次元の部分空間を考えることが多いです.

A-2-1(3)
も、$x_{n+1}=2x_n+3x_{n-1}$ なる漸化式を満たす $s({\mathbb R})$ の部分ベクトル空間 $V$ を考えました.集合の形で書けば、
$$V=\{(x_n)\in s({\mathbb R})|x_{n+1}=2x_n+3x_{n-1}\}$$
となります.

この $V$ は $s({\mathbb R})$ の部分空間であることを示す必要がありますが、ここでは省略します.本当はやるべきですので、これを読んでいて、理解していない人は是非とも確認してください.$(x_n),(y_n)\in V$ なら、$(x_n+y_n)\in V$ であること、$\alpha\in {\mathbb R}$ なら、$\alpha(x_n)=(\alpha x_n)\in V$ を満たすことが必要十分です.

まず、$V$ の基底を考えます.
$V$ の基底が $(a_n)=(1,0,3,6,21,\cdots)$ と $(b_n)=(0,1,2,7,20,\cdots)$ であることを示します.
この数列がどうして出てきたのかは後でわかると思います.

任意に上のような漸化式を満たす $(x_n)\in V$ を取ります.
このとき、$(x_n)-x_1(a_n)-x_2(b_n)$ なる数列を考えます.
これは、数列 $(x_n),(a_n),(b_n)\in V$ の一次結合ですから、$V$ がベクトル空間であることから、$(x_n)-x_1(a_n)-x_2(b_n)=(x_n-x_1a_n-x_2b_n)$ も $V$ の元ということになります.

この数列を $(y_n)$ とおくと、実は、$y_1=y_2=0$ が成り立っています.
確かめれば、
$y_1=x_1-x_1a_1-x_2b_1=x_1-x_1\cdot 1-x_2\cdot 0=0$ ですし、
$y_2=x_2-x_1a_2-x_2b_2=x_2-x_1\cdot 0-x_2\cdot 1=0$ です.

しかし、初項と第2項が $0$ であるとすると、漸化式から、すべての $y_n$ の項も帰納的に $0$ でないといけません.つまり、$(y_n)=(0)$ です.よって、$(x_n)-x_1(a_n)-x_2(b_n)=(0)$ が成り立ち、移項すれば、$(x_n)=x_1(a_n)+x_2(b_n)$ が成り立ちます.

よって、 $V=\langle (a_n),(b_n)\rangle$ が成り立ちます.
あとは、$(a_n),(b_n)$ が一次独立であることが必要ですが、
$c_1(a_n)+c_2(b_n)=(0)$ が成り立つとすると、$(c_1a_n+c_2b_n)=(0)$ より、任意の $n$ に対して、$c_1a_n+c_2b_n=0$ が成り立ちます.
よって、$n=1,n=2$ をそれぞれ代入すると、 簡単に $c_1=c_2=0$ がわかります.

これは、$(a_n),(b_n)$ が一次独立であることを示しています.
よって、$(a_n),(b_n)$ は $V$ の基底であることがわかりました.

つまり、$V$ は漸化式で決められた数列で、初項と第2項を決めると自動的に第3項以降の数字が決まることになります.また、初項と第2項は自由に決めることができるので、その自由度の分の基底として、最初が  $(1,0,\cdots)$ で始まるものと、$(0,1,\cdots)$ で始まるものを持ってこればよいということになったわけです.

このとき、線形写像 $F((x_n))=(x_{n+1})$ を考えます.
この写像は、数列 $(x_n)$ に対して、$n$ 番目に、元の数列 $(x_n)$ の $n+1$ 番目の項を持つ数列を与えよ、というものです.この写像をシフト写像といいます.

このとき、シフト写像 $F$ の表現行列を求めてみます.
基本は基底の行き先を調べればよいですから、

$F(1,0,3,6,21,\cdots)=(0,3,6,21,\cdots)$
$F(0,1,2,7,20,\cdots)=(1,2,7,20,\cdots)$
となります.ここで、$(0,3,6,21,\cdots)-3(b_n)$ とすると、この数列は初項と第2項が両方 $0$ なので、数列のすべてが $0$ となります.
また、$(1,2,7,20,\cdots)-(a_n)-2(b_n)$ を考えると、初項と第2項が両方 $0$ となります.
よって、この数列が $(0)$ がなりたちます.

よって、
$F(1,0,3,6,21,\cdots)=(0,3,6,21,\cdots)=3(b_n)$
$F(0,1,2,7,20,\cdots)=(1,2,7,20,\cdots)=(a_n)+2(b_n)$
となり、これをまとめると、

$$(F(a_n),F(b_n))=((a_n),(b_n))\begin{pmatrix}0&1\\3&2\end{pmatrix}$$
と計算されます.

よって、シフト写像 $F$ の表現行列は $\begin{pmatrix}0&1\\3&2\end{pmatrix}$ となります.

群と作用

群と作用に関して授業中に話をしました.話をだんだんと抽象化します.
群についてはこちら(リンク)にも書いています.

$G$ が群であるとは、$G$ が集合であって、ある規則をみたす演算をもつものを言います.
演算とは、$g,h\in G$ に対して、$g\cdot h$ なる積が定義されており、その積が再び $G$ の元となるものを言います.つまり、$g\cdot h\in G$ です.このような状態を、ある演算において閉じているといいます.

この積が以下の性質をみたすものを群といいます.
(i) $\exists e\in G$ であって、$e\cdot g=g\cdot e=g$ となる.
(ii) $\forall g\in G$ に対して、ある $g^{-1}$ が存在し、 $g\cdot g^{-1}=g^{-1}\cdot g=e$ となる.
(iii) 任意の $g,h,k$ に対して、$(g\cdot h)\cdot k=g\cdot(h\cdot k)$ が成り立つ.

授業では、この (iii) を言い忘れました.
(i) (ii) は存在すれば、$e,g^{-1}$ はそれぞれ一意に存在します.
$e$ は単位元、$g^{-1}$ は $g$ の逆元といいます.

このようなものをみたすものとして、
$$GL(n,{\mathbb C})=\{A\in M(n,{\mathbb C})|A\text{:正則}\}$$
とおくと、これは、正則行列全体ですが、群となります.$GL(n,{\mathbb C})$ のことを一般線形群といいます.

他にも、簡単なところでは、${\mathbb Z}$ は足し算を演算として群になります.
もちろん、実数 ${\mathbb R}$ も ${\mathbb C}$ も足し算に関して群になっています.

ベクトル空間 $V$ も足し算に関して群になっていますが、ベクトル空間は、足し算以外にスカラー倍もありますから、ベクトル空間を群としてみると、構造を一つ落としているので、少し損をしていることになります.

他に、対称群 $S_n$ というのも教えました.
これは、$\{1,\cdots,n\}$ なる $n$ 個の数に対して、その入れ替えを群の元とするものです.
つまり、$S_n$ は $\{\sigma:\{1,\cdots,n\}\to \{1,2,\cdots,n\}|f:\text{全単射}\}$ と考えても同じです.このとき、積 $\sigma,\tau\in S_n$ を、写像としての合成 $\sigma\cdot \tau$ として定義します.全単射の写像の積も全単射な写像となりますので、このような積が、$S_n$ の中で閉じていることがわかります.


$S$ を集合とします.このとき、$G$ を使って、$S$ を動かすことを考えます.つまり、$g\in G$ を使って、$s\in S$ を動かして、$s'$ になったとします.このことを、$s'=g\cdot s$ と書くことにします.つまり、$g$ によって移す先を、左から $g$ をかけるような形で書くのです.

このとき、$G$ が $S$ に作用するというのは、
$g,h\in G$ と任意の $s\in S$ に対して、

(i) $e\cdot s=s$
(ii) $h\cdot(g\cdot s)=(h\cdot g)\cdot s$
が成り立つことです.

(i) の条件がいることを授業ではいうのを忘れていました.

例えば、$S_n$ の場合だと、$S=\{1,\cdots,n\}$ に群 $S_n$ が作用します.

具体的にどうなるかというと、
$S=\{1,2,3\}$ とします.$\sigma\in S_3$ に対して、$\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}$
としますと、$\sigma(1)=2$ $\sigma(2)=1$, $\sigma(3)=3$
となります.他の元に対しても、同じように動かします.
ここでは、ドットの書き方ではなく、写像らしく、カッコを使いました.

また、$S_3$ が作用するのは、$\{1,2,3\}$ だけではありません.
例えば、${\mathbb C}[x_1,x_2,x_3]$ にも作用します.${\mathbb C}[x_1,x_2,x_3]$ は $x_1,x_2,x_3$ からなる ${\mathbb C}$ 係数の多項式全体です.
$f(x_1,x_2,x_3)\in {\mathbb C}[x_1,x_2,x_3]$ に対して、
$$\sigma\cdot f(x_1,x_2,x_3)=f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},x_{\sigma(3)})$$
として定義します.
$\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}$
に対して、$\sigma\cdot (x_1^2+x_1x_3+x_2)=x_2^2+x_2x_3+x_1$
と移ります.

他にもいろいろと $S_n$ が作用する集合があります.

どうしてこの話をしているかというと、
線形写像 $F:V\to V$ は、まさに、$V$ 上に $F$ が作用したことになっているのです.
ここでは、$F$ だけだと、群になりませんが、$G=\{F^n:V\to V|n\in {\mathbb Z}\}$ としておけば、$G$ は群になります.この $G$ がベクトル空間に作用しているとみることができます.

今回は長く書きすぎたので、この辺で終わります.

宿題

C-1-1
(1) 割り算について閉じているという言葉の意味は、上記で説明したとおりです.
(3) 掛け算の写像とは、$a+b\sqrt{2}$ に対して、
$$r_1+r_2\sqrt{2}\mapsto (a+b\sqrt{2})(r_1+r_2\sqrt{2})$$
となる写像のことです.

0 件のコメント:

コメントを投稿