2016年4月28日木曜日

微積分I演習(第3回)

[場所1E101(水曜日4限)]


    今日は

    • 数列の収束を $\epsilon-N$ 論法を使って示す.
    • 関数の連続性を $\epsilon-\delta$ 論法を使って示す.
    ことを行いました.微積や数学基礎の講義を聞いているだけではどのように示すのか?その意味などわかりませんので、今日は実践演習となったと思います.$\epsilon-N$ の方はみなさんすぐ、解けたと思いますが、$\epsilon-\delta$ の方は少し尻切れになって解く時間がありませんでした.休み明けの授業ではちゃんと取り上げます.

    授業中に言いましたが、数学は、正しいことの積み重ねでできています.
    その積み重ねの最初に来るのが定義です.高校で習ったようななんとなく概念の一つに
    収束と連続があります.この2つは、いくらでも近くに近づくとか、繋がっているとか
    抽象的な言葉でごまかしてきましたが、これも数学とするのなら、定義から積み重なった
    ものでなければなりません.そのため、まずは、収束と連続の定義から始める必要があります.

    また、先週の収束判定定理は、$a_n$ が単調増加で上に有界であれば収束するという"定理"です.なので、収束判定定理は、この数列の収束の定義から証明できるものです.論理的には、この定理を用いれば、定義にわざわざ戻る必要はなくて、使いやすい収束判定定理を用いればよいわけです.今回学ぶものは、収束判定定理に戻らず、本家本元の定義に戻って証明する手法です.

    $\epsilon-N$ 論法

    数列 $a_n$ が $a$ に収束するとは、いくらでも $a_n$ が $a$ に近くなることを定義すればよいわけですが、次のようになります.

    任意の正の実数 $\epsilon>0$に対して、ある $N\in {\mathbb N}$ が存在して、$n\ge N$ なるすべての整数 $n$ に対して、
    $$|a_n-a|<\epsilon$$
    となる.

    これは、前回のブログ(リンク)にも書きました.
    つまり、$a$ のどんなに近くにも、ある一定の $N$ より先の"全て"の $n$ において $a_n$ が
    含まれるということです.

    例えば、
    $$1,\frac11,2,\frac12,3,\frac13\cdots$$
    とすると、$0$ のどんなに近くにも、この数列の元が含まれますが、どんなに $n$ を大きくしてやっても、そこから先、全てが $0$ の近くに含まれるようにはできません.
    なので、この数列は $0$ に収束することはできません.

    この数列が $0$ に収束しないことを証明するには、上の定義の否定の命題が満たさればよいことになります.数列の収束の否定を書きます.

    定義6(数列 $a_n$ が $a$ に収束しないこと)
    ある実数、$\epsilon>0$ に対して、任意の $N$ に対して、$n>N$ なるある整数に対して $|a_n-a|\ge \epsilon$ が成り立つ.

    となります."任意の" と "ある" がひっくり返っていることと、最後の結論が否定されていることに注意してください.


    上の数列にもどって、この数列が $0$ に収束しないことを証明します.
    (証明)
    まず、$\epsilon=1$ とし、任意の $N\in {\mathbb N}$ をとります.そして、$n$ を $n\ge N$ なる奇数をとります.もちろんそのような $n$ は存在します.よって、そのような $n$ に対して、$a_n\ge 1$ ですから、 $|a_n-0|=|a_n|\ge 1=\epsilon$ が成り立つので,
    $a_n$ は $0$ に収束しません.$\Box$


    さて、授業では、数列 $1/n$ が $0$ に収束することを証明しました.数列収束の証明のプロトタイプとなりますので、ここでももう一度やってみます.
    (・・・)で書かれたものは証明の一部ではなく、単なるコメントです.


    証明
    まず、任意に $\epsilon>0$ をとります.(ここで任意にとったものを固定しています.)
    このとき、アルキメデスの原理により、$\frac{1}{\epsilon}<N$ なる整数が存在します.
    (厳密に書く場合は「アルキメデスの原理により」は入れましょう.最初のうちは分かりやすくいれてもよいです.そのうち、省略しても構いません.)

    ここで、$n\ge N$ なる任意の整数 $n$ に対して、
    $|a_n-0|=\frac{1}{n}\le \frac{1}{N}<\epsilon$
    となり、収束の定義により、 $a_n=\frac{1}{n}$ は $0$ に収束します.$\Box$


    途中の $n$ も任意にとって固定しています.最後の $\Box$ は証明終了を意味しますが、つけなければならないこともありません.

    このとき、$\lim_{n\to \infty}\frac1n=0$ もしくは、 $a_n\to 0\ \ (n\to \infty)$ とかきます.

    証明の一番のポイントは、数列によって $N$ をどのようにとるのかを工夫するところでしょう.

    例えば、$a_n=\frac{1}{\log n}\ \ (n=2,3,4,\cdots)$ であったとすると、$e^{1/\epsilon}<N$ などとする必要があります.アルキメデスの原理を使えば、$\epsilon>0$ がどんな値でも必ず $N$ が存在します.



    この定義を使えば、例えば、次の命題を示すことができます.
    これは第3回の演習問題に載せたので理解して誰か発表しても構いません.

    命題7(積の数列の極限)
    $a_n\to a$ かつ $b_n\to b$ のときに、$a_nb_n\to ab$ が成り立つ.

    まず、$b_n\to b$ なる数列 $b_n$ があったときに、$b_n$  は実数上で有界であることを使うとやりやすいです.
    つまり、ある実数 $M$ が存在して、任意の $n\in{\mathbb N}$ に対して、$|b_n|<M$ が成り立つということです.この証明は、数学基礎の方でやっていると思うので省略します.

    (証明)
    仮定として、まず、$a_n\to a$ かつ $b_n\to b$ が成り立つので、任意の $\epsilon_1,\epsilon_2>0$ に対してある、$N_1,N_2\in{\mathbb N}$ が存在して、
    $n_1\ge N_1$ なる任意の整数 $n_1$ と $n_2\ge N_2$ なる任意の整数 $n_2$ に対して、
    $|a_{n_1}-a|<\epsilon_1$ かつ $|b_{n_2}-b|<\epsilon_2$ が成り立ちます.

    次に、$a\neq 0$を仮定します.
    任意の $\epsilon>0$ をとります.さらに、上の仮定において、
    $N_1,N_2$ を、$\epsilon_1=\frac{\epsilon}{2M}$ とした時の $N_1$ と、$\epsilon_2=\frac{\epsilon}{2|a|}$ としたときの $N_2$ をとります.
    さらに、$N=\max\{N_1,N_2\}$ としておけば、
    $n>N$ なる任意の $n$ に対して、三角不等式と仮定を用いることで、
    $|a_nb_n-ab|=|(a_n-a)b_n+a(b_n-b)|<|a_n-a||b_n|+|a||b_n-b|<\frac{\epsilon}{2M}M+|a|\frac{\epsilon}{2|a|}=\frac{\epsilon}{2}+\frac{\epsilon}{2}=\epsilon$
    となります.

    よって、$a_nb_n\to ab$ が成り立ちます.

    $a=0$ の場合は、途中の $N_1,N_2$ の取り方として、$\epsilon_1=\frac{\epsilon}{M}$ としておけば、$N_2$ はどんな値でも、同じように証明をすることができます.$\Box$

    途中、証明がトリッキーな(意図的な)感じがしますが、$\epsilon-N$ など、この手の命題の証明は大体いつもこんな感じです.

    $\epsilon-\delta$ 論法

    $\epsilon-\delta$ 論法では関数の連続性を証明することができます.
    まずは、関数の連続性の定義です.

    定義8(関数の連続性)
    関数 $f(x)$ が $x=x_0$ で連続であるとは、
    任意の $\epsilon>0$ なる実数 $\epsilon$ に対して、ある正の実数 $\delta$ が存在して、$|x-x_0|<\delta$ なる任意の $x$ は、 $|f(x)-f(x_0)|<\epsilon$ を満たす.

    $(a,b)$ で、実数上の区間で、$a$ から $b$ までのものを表すことにします.
    ただし、どちらの境界点も含まれないものです.これを開区間といいます.

    定義8の意味することは以下のようになります.
    値域の方で、$f(x_0)$ を中心とした任意の区間 $(f(x_0)-\epsilon,f(x_0)+\epsilon)$ をとってやっても、 $f$ によってその区間に収まるような定義域の方での $x_0$ を中心とした区間 $(x_0-\delta,x_0+\delta)$ が存在するということを意味しています.

    このとき、$(f(x_0)-\epsilon,f(x_0)+\epsilon)$ に収まる点があるというのではなく、$(x_0-\delta,x_0+\delta)$ の全ての点が、$(f(x_0)-\epsilon,f(x_0)+\epsilon)$ に収まるように $\delta$ を選んでこなければならないということです.


    定義8を否定することで、関数の不連続性を示す命題は、次のようになります.

    定義9(関数の不連続性)
    関数 $f(x)$ が $x=x_0$ で連続でないとは、
    ある $\epsilon>0$ なる実数 $\epsilon$ に対して、任意の正の実数 $\delta$ に対して、$|x-x_0|<\delta$ なるある $x$ に対して、 $|f(x)-f(x_0)|\ge\epsilon$ を満たす.

    例えば、
    $$f(x)=\begin{cases}x&x\ge 0\\x-1&x< 0\end{cases}$$
    なる関数を考えてください.グラフを書いてみれば、見るからに連続ではないですが、

    $f(0)=0$ を中心とした区間 $(f(0)-\frac12,f(0)+\frac12)$ を考えると、その区間の間に入ってくる $0$ を中心とした開区間が存在しないことがわかります.
    というのも、$f$ によって、$(-\frac12,\frac12)$ に移ってくる実数は、$0$ もしくは、区間$(0,\frac12)$ ということになります.特に負の数は含まれません.

    一方、 $0$ のどんなに近くの区間、$(-\delta,\delta)$ をとっても、負の数は必ず含まれてしまいます.なので、$f$ によって、そのような値は $(-\frac12,\frac12)$ の幅の中に入れることはできないのです.

    これは、上の関数が不連続であることの説明です.証明に十分なものだけ書けば、下のようになります.

    証明
    $\epsilon=\frac12$ とおく.このとき、$\delta>0$ なる任意の実数をとる.このとき、
    $|x-0|<\delta$ なる $x$ として、$-\delta/2$ を取る.この $x$ は、
    $|f(x)-f(0)|=|-\frac{\delta}{2}-1-0|=\frac{\delta}{2}+1>1$
    となり、 $f(x)$ の不連続性がわかる.$\Box$

    この証明が何を言っているのか、グラフを書きながら考えてみて下さい.

    次は連続である方の証明ですが、授業で取り上げた $y=2x^2$ をもう一度やってみます.

    $y=2x^2$ が $x=1$ で連続であること.
    (証明)
    $\epsilon>0$ を任意にとります.
    このとき、$0<\delta<\frac{-2+\sqrt{4+2\epsilon}}{2}$
    なる実数 $\delta$ をとる.
    $x$ を $|x-1|<\delta$ なる任意の実数とする.
    $|x-1|<\delta$ から、$|x+1|=|x-1+2|<|x-1|+2=\delta+2$ が成り立つ.
    よって、
    $|f(x)-f(1)|=2|x-1||x+1|<2\delta(2+\delta)<\epsilon$ が成り立つ.$\Box$

    この証明もきちんとわかるまで読んでみてください.

    $\delta$ をどうしてそのようにとったのかというと、
    最後の不等式 $2\delta(2+\delta)<\epsilon$ を示すには、
    $\delta$ が $2\delta^2+4\delta-\epsilon<0$ なる正の実数であることを示せばよいことに
    なります.
    これは、$\frac{-2-\sqrt{4+2\epsilon}}{2}<\delta<\frac{-2+\sqrt{4+2\epsilon}}{2}$
    が成り立てばよいですから、そのような $\delta$ を取ったことになるのです.

    本当は、不等式を示すだけならきっちり2次方程式を解く必要ないのですが....
    このページの最後でそのような例も載せます.

    また、途中の $|x+1|\le |x-1|+2$ はいわゆる三角不等式 $|A+B|\le |A|+|B|$ です.
    三角不等式は微積ではよくでてきます.


    上の方程式をきっちりとかなくてもよい方法は以下のようにやります.

    $y=x^3$ は $x=1$ で連続である.
    (証明)
    $\epsilon>0$ を任意にとる。
    $0<\delta<\min\{1,\frac{\epsilon}7\}$ としてとると、
    $|x-1|<\delta$ が成り立つ任意の $x$ に対して、三角不等式を使って、
    $|x^2+x+1|\le |(x-1)^2+3(x-1)+3|\le \delta^2+3\delta+3$ が成り立ち、
    $|x^3-1|=|x-1||x^2+x+1|<\delta(\delta^2+3\delta+3)<7\delta<\epsilon$
    となり、$y=x^3$ は $1$ で連続であることがわかる.$\Box$

    上の $y=2x^2$ のときのように、3次方程式をといておなじようなことをする
    ということは、面倒です.基本、不等式が示せればよいので、このようにしました.
    一応解説をすれば、
    $\delta<\min\{1,\frac{\epsilon}7\}$ としたおかげで、$\delta<1$ かつ $\delta<\frac{\epsilon}{7}$
    が成り立つので、
    $\delta^2+3\delta+3<7$ とできたということです.



    2016年4月24日日曜日

    線形代数続論演習(第2回)

    [場所1E103(金曜日3限)]


    HPに行く.


    今日は、

    • 表現行列
    • 数列の成すベクトル空間
    を復習しました.また、群、作用なども教えました.

    表現行列

    表現行列とは、ベクトル空間 $V,W$ の間の線形写像 $f:V\to W$ があったときに、$V,W$ の基底を固定したときにできるある行列のことでした.

    一般的な定義などは去年のページ(リンク)をみてください.
    ここでは、授業中にやった具体的な例に対して計算してみます.

    今日は、特に $f$ が $V\to V$ の場合を扱いました.その場合、$f$ の定義域と値域の基底として同じものを取ります.

    A-2-1(2)
    今日配布した問題をもう一度解いてみます.
    $V=\langle \sin\theta,\cos\theta\rangle_{\mathbb R}$
    とします.この下に小さく ${\mathbb R}$ を書いているのは、係数(スカラー)は 実数 ${\mathbb R}$ ですということを明示しています.

    この $V$ に対して、$F:V\to V$ を $f(\theta)\in V$ に対して、 $f(\theta-\pi/4)\in V$ を対応させる写像を考えます.ここで、$V$ の元は一つの関数であることに注意してください.つまり、$\sin\theta$ と $\cos\theta$ の線形和として書ける形の関数です.

    この対応 $F$ は実は線形写像です.
    つまり、
    $F(f(\theta)+g(\theta))=F(f(\theta))+F(g(\theta))$ と $F(\alpha f(\theta))=\alpha F(f(\theta))$ が成り立ちます.

    確認します.$F$ は変数 $\theta$ を一斉に $\theta-\pi/4$ に入れ替えるという変換なので、
    $f(\theta)+g(\theta)\in V$ に対して、$F$ によって $f(\theta-\pi/4)+g(\theta-\pi/4)\in V$ に移ります.つまり、
    $F(f(\theta)+g(\theta))=f(\theta-\pi/4)+g(\theta-\pi/4)$ なので、右辺を書き換えれば、
    $F(f(\theta)+g(\theta))=F(f(\theta))+F(g(\theta))$ が成り立ちます.

    同じように、$\alpha$ をある実数とすると、$F(\alpha f(\theta))=\alpha f(\theta-\pi/4)$ なので、これは $\alpha F(f(\theta))$ と一致します.

    これらのことから、$F$ は $V$ 上の線形写像(同じ空間に戻ってくるので線形変換)となります.

    このとき、$F$ の写像をある基底を用いて、行列に変換します.

    その前に、$V$ が2次元あることを示します.

    $\sin\theta,\cos\theta$ が一次独立であることを示せば、$V$ の定義から、$\sin\theta,\cos\theta$ が $V$ の基底であることはわかります.

    $c_1\sin \theta+c_2\cos\theta=0$ と仮定します.
    授業中でも言いましたが、このイコールは、方程式を表しておらず、恒等式としてのイコールです.先週も言いましたね.つまり、右辺の $0$ は数値ではなく、恒等的に $0$ の関数であると考えてください.

    左辺の関数と右辺の関数が一致すると考えてください.
    そうすると、関数が同じということは、適当に数を代入しても同じということです.

    よって、$0$ を代入すると、$c_2=0$ となります.
    また、$\pi/2$ を代入すると、$c_1=0$ となります.右辺がどちらも $0$ になるのは、右辺の関数が恒等的に $0$ の関数であるからです.

    よって、線形関係式 $c_1\sin \theta+c_2\cos\theta=0$ には非自明なもの($c_1=c_2=0$ でないもの)はありません.
    これは、 $\sin\theta,\cos\theta$ が線形独立であることを言っています.

    結論として、$\sin\theta,\cos\theta$ は $V$ の基底であることを示しています.
    つまり、$\dim(V)=2$ となります.

    ここで、$F$ により、基底がどのように移るかを計算します.

    $F(\sin\theta)=\sin(\theta-\pi/4)=\sin\theta\cos\pi/4-\cos\theta\sin\pi/4=\frac{\sin\theta}{\sqrt{2}}-\frac{\cos\theta}{\sqrt{2}}$
    $F(\cos\theta)=\cos(\theta-\pi/4)=\cos\theta\cos\pi/4+\sin\theta\sin\pi/4=\frac{\sin\theta}{\sqrt{2}}+\frac{\cos\theta}{\sqrt{2}}$

    となりますので、
    $$(F(\sin\theta),F(\cos\theta))=(\sin\theta,\cos\theta)\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\\-\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\end{pmatrix}$$
    となります.このとき、求める表現行列は、
    $$\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\\-\frac{1}{\sqrt{2}}&\frac{1}{\sqrt{2}}\end{pmatrix}$$
    となります.

    表現行列を求めるときは、必ず、基底に対して右からかけるような形にしてください.
    そのためには、
    $(F(\sin\theta),F(\cos\theta))$ のように基底の行き先を横ベクトルの形に書くことになります.

    そこは慣習ですので倣ってください.

    数列からなるベクトル空間

    数列からなるベクトル空間 $s({\mathbb R})$ を考えます.
    $s({\mathbb R})$ は $(a_1,a_2,a_3,\cdots)$ のように実数の列を一つのベクトルとするようなベクトル空間です.

    このとき、この数列全体の集合は、ベクトル空間の構造を持ちます.それは、この数列を、次元が無限次元あるような数ベクトル空間としてみれば極めて自然のことです.

    和として
    $$(a_1,a_2,a_3,\cdots)+(b_1,b_2,b_3,\cdots)=(a_1+b_1,a_2+b_2,a_3+b_3,\cdots)$$
    とし、スカラー倍として、
    $$\alpha\cdot(a_1,a_2,a_3,\cdots)=(\alpha a_1,\alpha a_2,\alpha a_3,\cdots)$$

    とするのです.こうすると、ベクトル空間の構造をもちます.
    ただ、このようにすると、ベクトル空間として、有限次元ではなくなりますので、
    いつも、適当なところでカットして、有限次元の部分空間を考えることが多いです.

    A-2-1(3)
    も、$x_{n+1}=2x_n+3x_{n-1}$ なる漸化式を満たす $s({\mathbb R})$ の部分ベクトル空間 $V$ を考えました.集合の形で書けば、
    $$V=\{(x_n)\in s({\mathbb R})|x_{n+1}=2x_n+3x_{n-1}\}$$
    となります.

    この $V$ は $s({\mathbb R})$ の部分空間であることを示す必要がありますが、ここでは省略します.本当はやるべきですので、これを読んでいて、理解していない人は是非とも確認してください.$(x_n),(y_n)\in V$ なら、$(x_n+y_n)\in V$ であること、$\alpha\in {\mathbb R}$ なら、$\alpha(x_n)=(\alpha x_n)\in V$ を満たすことが必要十分です.

    まず、$V$ の基底を考えます.
    $V$ の基底が $(a_n)=(1,0,3,6,21,\cdots)$ と $(b_n)=(0,1,2,7,20,\cdots)$ であることを示します.
    この数列がどうして出てきたのかは後でわかると思います.

    任意に上のような漸化式を満たす $(x_n)\in V$ を取ります.
    このとき、$(x_n)-x_1(a_n)-x_2(b_n)$ なる数列を考えます.
    これは、数列 $(x_n),(a_n),(b_n)\in V$ の一次結合ですから、$V$ がベクトル空間であることから、$(x_n)-x_1(a_n)-x_2(b_n)=(x_n-x_1a_n-x_2b_n)$ も $V$ の元ということになります.

    この数列を $(y_n)$ とおくと、実は、$y_1=y_2=0$ が成り立っています.
    確かめれば、
    $y_1=x_1-x_1a_1-x_2b_1=x_1-x_1\cdot 1-x_2\cdot 0=0$ ですし、
    $y_2=x_2-x_1a_2-x_2b_2=x_2-x_1\cdot 0-x_2\cdot 1=0$ です.

    しかし、初項と第2項が $0$ であるとすると、漸化式から、すべての $y_n$ の項も帰納的に $0$ でないといけません.つまり、$(y_n)=(0)$ です.よって、$(x_n)-x_1(a_n)-x_2(b_n)=(0)$ が成り立ち、移項すれば、$(x_n)=x_1(a_n)+x_2(b_n)$ が成り立ちます.

    よって、 $V=\langle (a_n),(b_n)\rangle$ が成り立ちます.
    あとは、$(a_n),(b_n)$ が一次独立であることが必要ですが、
    $c_1(a_n)+c_2(b_n)=(0)$ が成り立つとすると、$(c_1a_n+c_2b_n)=(0)$ より、任意の $n$ に対して、$c_1a_n+c_2b_n=0$ が成り立ちます.
    よって、$n=1,n=2$ をそれぞれ代入すると、 簡単に $c_1=c_2=0$ がわかります.

    これは、$(a_n),(b_n)$ が一次独立であることを示しています.
    よって、$(a_n),(b_n)$ は $V$ の基底であることがわかりました.

    つまり、$V$ は漸化式で決められた数列で、初項と第2項を決めると自動的に第3項以降の数字が決まることになります.また、初項と第2項は自由に決めることができるので、その自由度の分の基底として、最初が  $(1,0,\cdots)$ で始まるものと、$(0,1,\cdots)$ で始まるものを持ってこればよいということになったわけです.

    このとき、線形写像 $F((x_n))=(x_{n+1})$ を考えます.
    この写像は、数列 $(x_n)$ に対して、$n$ 番目に、元の数列 $(x_n)$ の $n+1$ 番目の項を持つ数列を与えよ、というものです.この写像をシフト写像といいます.

    このとき、シフト写像 $F$ の表現行列を求めてみます.
    基本は基底の行き先を調べればよいですから、

    $F(1,0,3,6,21,\cdots)=(0,3,6,21,\cdots)$
    $F(0,1,2,7,20,\cdots)=(1,2,7,20,\cdots)$
    となります.ここで、$(0,3,6,21,\cdots)-3(b_n)$ とすると、この数列は初項と第2項が両方 $0$ なので、数列のすべてが $0$ となります.
    また、$(1,2,7,20,\cdots)-(a_n)-2(b_n)$ を考えると、初項と第2項が両方 $0$ となります.
    よって、この数列が $(0)$ がなりたちます.

    よって、
    $F(1,0,3,6,21,\cdots)=(0,3,6,21,\cdots)=3(b_n)$
    $F(0,1,2,7,20,\cdots)=(1,2,7,20,\cdots)=(a_n)+2(b_n)$
    となり、これをまとめると、

    $$(F(a_n),F(b_n))=((a_n),(b_n))\begin{pmatrix}0&1\\3&2\end{pmatrix}$$
    と計算されます.

    よって、シフト写像 $F$ の表現行列は $\begin{pmatrix}0&1\\3&2\end{pmatrix}$ となります.

    群と作用

    群と作用に関して授業中に話をしました.話をだんだんと抽象化します.
    群についてはこちら(リンク)にも書いています.

    $G$ が群であるとは、$G$ が集合であって、ある規則をみたす演算をもつものを言います.
    演算とは、$g,h\in G$ に対して、$g\cdot h$ なる積が定義されており、その積が再び $G$ の元となるものを言います.つまり、$g\cdot h\in G$ です.このような状態を、ある演算において閉じているといいます.

    この積が以下の性質をみたすものを群といいます.
    (i) $\exists e\in G$ であって、$e\cdot g=g\cdot e=g$ となる.
    (ii) $\forall g\in G$ に対して、ある $g^{-1}$ が存在し、 $g\cdot g^{-1}=g^{-1}\cdot g=e$ となる.
    (iii) 任意の $g,h,k$ に対して、$(g\cdot h)\cdot k=g\cdot(h\cdot k)$ が成り立つ.

    授業では、この (iii) を言い忘れました.
    (i) (ii) は存在すれば、$e,g^{-1}$ はそれぞれ一意に存在します.
    $e$ は単位元、$g^{-1}$ は $g$ の逆元といいます.

    このようなものをみたすものとして、
    $$GL(n,{\mathbb C})=\{A\in M(n,{\mathbb C})|A\text{:正則}\}$$
    とおくと、これは、正則行列全体ですが、群となります.$GL(n,{\mathbb C})$ のことを一般線形群といいます.

    他にも、簡単なところでは、${\mathbb Z}$ は足し算を演算として群になります.
    もちろん、実数 ${\mathbb R}$ も ${\mathbb C}$ も足し算に関して群になっています.

    ベクトル空間 $V$ も足し算に関して群になっていますが、ベクトル空間は、足し算以外にスカラー倍もありますから、ベクトル空間を群としてみると、構造を一つ落としているので、少し損をしていることになります.

    他に、対称群 $S_n$ というのも教えました.
    これは、$\{1,\cdots,n\}$ なる $n$ 個の数に対して、その入れ替えを群の元とするものです.
    つまり、$S_n$ は $\{\sigma:\{1,\cdots,n\}\to \{1,2,\cdots,n\}|f:\text{全単射}\}$ と考えても同じです.このとき、積 $\sigma,\tau\in S_n$ を、写像としての合成 $\sigma\cdot \tau$ として定義します.全単射の写像の積も全単射な写像となりますので、このような積が、$S_n$ の中で閉じていることがわかります.


    $S$ を集合とします.このとき、$G$ を使って、$S$ を動かすことを考えます.つまり、$g\in G$ を使って、$s\in S$ を動かして、$s'$ になったとします.このことを、$s'=g\cdot s$ と書くことにします.つまり、$g$ によって移す先を、左から $g$ をかけるような形で書くのです.

    このとき、$G$ が $S$ に作用するというのは、
    $g,h\in G$ と任意の $s\in S$ に対して、

    (i) $e\cdot s=s$
    (ii) $h\cdot(g\cdot s)=(h\cdot g)\cdot s$
    が成り立つことです.

    (i) の条件がいることを授業ではいうのを忘れていました.

    例えば、$S_n$ の場合だと、$S=\{1,\cdots,n\}$ に群 $S_n$ が作用します.

    具体的にどうなるかというと、
    $S=\{1,2,3\}$ とします.$\sigma\in S_3$ に対して、$\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}$
    としますと、$\sigma(1)=2$ $\sigma(2)=1$, $\sigma(3)=3$
    となります.他の元に対しても、同じように動かします.
    ここでは、ドットの書き方ではなく、写像らしく、カッコを使いました.

    また、$S_3$ が作用するのは、$\{1,2,3\}$ だけではありません.
    例えば、${\mathbb C}[x_1,x_2,x_3]$ にも作用します.${\mathbb C}[x_1,x_2,x_3]$ は $x_1,x_2,x_3$ からなる ${\mathbb C}$ 係数の多項式全体です.
    $f(x_1,x_2,x_3)\in {\mathbb C}[x_1,x_2,x_3]$ に対して、
    $$\sigma\cdot f(x_1,x_2,x_3)=f(x_{\sigma(1)},x_{\sigma(2)},x_{\sigma(3)})$$
    として定義します.
    $\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}$
    に対して、$\sigma\cdot (x_1^2+x_1x_3+x_2)=x_2^2+x_2x_3+x_1$
    と移ります.

    他にもいろいろと $S_n$ が作用する集合があります.

    どうしてこの話をしているかというと、
    線形写像 $F:V\to V$ は、まさに、$V$ 上に $F$ が作用したことになっているのです.
    ここでは、$F$ だけだと、群になりませんが、$G=\{F^n:V\to V|n\in {\mathbb Z}\}$ としておけば、$G$ は群になります.この $G$ がベクトル空間に作用しているとみることができます.

    今回は長く書きすぎたので、この辺で終わります.

    宿題

    C-1-1
    (1) 割り算について閉じているという言葉の意味は、上記で説明したとおりです.
    (3) 掛け算の写像とは、$a+b\sqrt{2}$ に対して、
    $$r_1+r_2\sqrt{2}\mapsto (a+b\sqrt{2})(r_1+r_2\sqrt{2})$$
    となる写像のことです.

    2016年4月23日土曜日

    微積分I演習(第2回)

    [場所1E101(水曜日4限)]


      今日は

      • 論理の続き
      • 上限、下限、有界の言葉の定義
      • 数列の収束の示し方
      などを行いました.
      数列の収束についての問題は少し残りましたので、次回に、最初に時間を取りますので、やりたい人は、発表してください.

      否定・逆・裏・対偶

      否定
      (Aである)$\Rightarrow $ (Aでない)

      $A\Rightarrow B$ 
      なる命題があったときに、

      とは、$B\Rightarrow A$ なる命題のこと.

      とは、$\bar{A}\Rightarrow \bar{B}$ となる命題のこと.

      対偶
      とは、$\bar{B}\Rightarrow \bar{A}$ となる命題のこと.

      数学では、元の命題 $A\Rightarrow B$ とその対偶は同じ命題として扱う.
      また、逆と裏も対偶の命題なので、同値な命題として扱う.

      十分条件・必要条件

      命題 $A\Rightarrow B$ があったときに、このとき、$A$ のことを、この命題の十分条件、$B$ のことを必要条件という.

      上限・下限



      定義1(上界、下界)
      部分集合 $A\subset {\mathbb R}$ において、任意の $x\in A$ において、$x\le a$ ($a\le x$)なる $a\in{\mathbb R}$ のことを $a$ の上界(下界)という.


      定義2(上に有界、下に有界
      $A$ の上界(下界)が存在するとき、$A$ は上に(下に)有界という.
      $A$ が上に有界かつ下に有界のとき、単に、有界という.


      定義3(上限・下限)
      上界(下界)の最小値(最大値)を上限(下限)という.

      $A$ の上限を $\sup(A)$ とかき、$A$ の下限を $\inf(A)$ とかく.

      $A$ の最大値(最小値)とは、$A$ の元の中で、最大(最小)となる元のことで、
      集合によっては、$A$ が有界だからといって、最大値や最小値となる値があるとは限りません.例えば、$1/n$ なる数列からなる集合は、有界ですが、最小値はありません.

      しかし、この集合は、上限はもちろん、下限も存在します.
      なので、


      上に(下に)有界な集合は、上限(下限)は必ず存在する.


      今日の演習で、$A=\{3-\frac{1}{n}\}$ としたとき、$\sup(A)=3$ であることは、なんとなくわかると思いますが、厳密な証明をつけると次のようになります.

      $\sup(A)=3$ であることの証明

      $a=\sup(A)$ とおいて、$a\le 3$ かつ、$3\le a$ であることを示す.

      $a$ は任意の $n$ において、$3-1/n<3$ であるので、$3$ は $A$ の上界ということになります.$a$ は上界の最小値ですので、$a\le 3$ ということになります.

      逆に、$3\le a$ を示すのに、対偶を取って、$a<3$ であると仮定します.

      このとき、$a<3-1/n<3$ なる整数 $n$ をとることができます.なぜなら、この式は変形すると、$n>\frac{1}{3-a}$ なる自然数をとることができることと同じであり、$a$ は固定された数なので、いくらでも大きい数があるということからわかります.これは教科書の定理には、アルキメデスの原理と書いてあります.12ページの定理1-4です.

      よって、 $\exists\,n$ に対して、$a<3-1/n$ となります.
      これは、$a$ が $A$ の上界に反します.よって、背理法から、$3\le a$ がわかります.

      よって、$a=3$ がいえます.


      数列の収束

      数列が収束するかどうかは、結構難しいです.今日はその途中で終わってしまいました.

      まず、数列が収束することは、実際以下のような定義です.


      定義4(数列の極限)
      数列 $a_n$ が $a$ に収束するとは、
      任意の $\epsilon>0$ に対して、ある整数 $N$ が存在して、$\forall n>N$ に対して、$|a_n-a|<\epsilon$ となること

      つまり、ある極限値に収束するには、その値にいくらでも近くすることができることですが、いくらでも近いところに、数列のある番号から先は全て入っていなければならないということです.

      これは、$\epsilon-N$ 論法などと呼ばれており、きちんと練習をする必要があります.


      ここでは、$\epsilon-N$ 論法は一旦おいておいて数列の収束の判定のために、今日は3つの判定条件を与えました.


      定理5(収束判定条件)
      1. 単調増加(減少)な数列 $a_n$ で上に(下に)有界な数列は収束する.
      2. 単調増加(減少)な数列 $a_n$ で、$a_n\le b_n$ となり、$b_n$ が上に(下に)有界であれば、$a_n$ は収束する.
      3. 発散する数列 $b_n$ で、任意の $n$ に対して $|b_n|\le |a_n|$ となる数列 $a_n$ は発散する.


      です.授業中では単調減少するほうは何も言っていなかったのでそちらも含める形に直しました.

      1と2は似通っています.実際、1から2はわかると思います.

      級数は、部分和、$s_n=\sum_{k=1}^na_k$ となる数列のことです.級数の収束は、この部分和の数列が収束することです.

      収束するかどうかということと、値が計算できることは別問題で、後者の方はできることはまれですが、前者の方は方針があれば、何とかできる場合が多いです.

      例えば、
      $a_n=\frac{1}{n}$ の収束はすぐ分かると思いますが、
      $a_n=\frac{n+1}{n^2+1}$
      のような数列の場合、一斉に$n$ で割って、
      $\frac{1+\frac{1}{n}}{n+\frac{1}{n}}$
      としてやると、分母は$\infty$ にいき、分子は有限なので$0$に収束することがわかります.
      ただ、手法として、これは、多項式のような場合しか役にたちません.


      この数列が収束することを上記の命題を使ってやりますと、

      まず、単調減少であることは、
      $\frac{n+2}{(n+1)^2+1}-\frac{n+1}{n^2+1}=\frac{(n+2)(n^2+1)-(n+1)((n+1)^2+1)}{((n+1)^2+1)(n^2+1)}=-\frac{n(n+3)}{(n^2+1)(n^2+2n+2)}<0$
      となり、

      $\frac{n+1}{n^2+1}\ge0$ なので下に有界です.

      よって、上の命題から、$a_n=\frac{n+1}{n^2+1}$ は収束します.

      このように多くの場合は不等式を使って収束を示します.

      実際 $0$ に収束することは、別の議論が必要です.


      級数

      級数とは、$\sum_{n=1}^\infty a_n$ なる極限をもつ数列の和のことで、
      級数が収束するというのは、部分和 $\sum_{n=1}^Na_n$ が収束するという意味です.

      例えば、幾何級数 $\sum_{n=1}^\infty ar^n$ は、
      $s_N=\sum_{n=1}^Nar^{n-1}=a\frac{1-r^N}{1-r}$ が成り立ち、$|r|<1$ であれば、これは
      有界であり、

      さらに、$r>0$ であれば、単調増加、なので、収束します.
      また、$r<0$の場合は、
      $|s_N-\frac{a}{1-r}|=\frac{a|r|^N}{1-r}$
      が $0$ に収束することを言う必要があります.

      $\frac{a|r|^N}{1-r}$ は単調減少であり、$0$ 以上なので、収束はします.
      さらに $0$ に収束することを言う必要があります.


      ここで、上の $\epsilon-N$ 論法を用いてみます.
      結論から先に言えば、任意の $\epsilon>0$に対して、$\frac{a|r|^n}{1-r}<\epsilon$ となるように、
      $\frac{|ar^n|}{|1-r|}<\epsilon$ とする必要があります.
      $a,r$ は定数なので割ってやって、$|r|^n<\frac{\epsilon|1-r|}{|a|}$ として、$\log$ をとると、
      $n\log |r|<\log(\frac{\epsilon|1-r|}{|a|})$ であり、$\log|r|<0$であることに注意すると、
      $n>\frac{\log(\frac{\epsilon|1-r|}{|a|})}{\log|r|}$ となります.

      ここで、任意の $\epsilon>0$ に対して、この不等式を満たす $n$ は十分大きくすれば必ずとることができます.(教科書のアルキメデスの原理です)
      また、ある一定数 $N$ を決めておけば、$n>N$ なる全ての $n$ についてこの不等式を満たすこともできます.

      これは、$\frac{|ar^n|}{|1-r|}<\epsilon$ が任意の $\epsilon>0$ に対して成り立つということだから、
      $\frac{a|r|^n}{1-r}\to 0$ がいえます.


      このような議論は来週も授業でやります.
      来週はその辺を攻めてみようと思います.


      演習のプリントで載せた
      $$1+1/2+1/3+1/4+\cdots$$
      は、実は、結果としては、収束しません.

      他の関数と比較してください.


      関数と比較する場合

      収束する場合は、$\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n\sqrt{n}}$の収束を示しました.


      発散することを示すには、例えば、単調減少する関数 $f(x)$ として、

      $a_n\ge f(n)$ となる関数をつくり、、$\sum_{k=1}^Na_k\ge \int_1^{N+1}f(x)dx$ として、
      かつ $\int_{1}^{N+1}f(x)dx$ が計算でき、$\lim_{N\to \infty}$ が発散することがわかれば
      $\sum_{k=1}^Na_k$ の発散が示せます.

      $$1+1/2+1/3+1/4+\cdots$$

      などは上の例はその応用です.


      宿題1-1は、
      (1) は、$1+1/2^2+1/3^2+1/4^2+\cdots$ は収束することを使ってもかまいません.
      (2) は、何とか、正項級数になるようにまとめ、あとは、$1+1/4+1/9+\cdots$ の収束性を使いましょう.


      ちなみに、$1+1/4+1/9+1/16+\cdots$ の収束性ですが、
      $\sum_{k=1}^\infty\frac{1}{n^2}<1+\sum_{k=2}^\infty \frac{1}{n(n-1)}$
      を使って考えてください.



      宿題2-2の問題は、

      ネイピア数の導入のところの範囲だったのですが、
      授業中はやる時間がありませんでした.

      逆数を取れば、$\left(1+\frac{1}{n-1}\right)^n>\left(1+\frac{1}{n}\right)^{n+1}$ を示せばよいです.

      $\left(1+\frac{1}{n}\right)^n$ で割ると、$\left(\frac{n^2}{n^2-1}\right)^n>1+\frac{1}{n}$
      を示せばよいですが、

      あとは、宿題の残りとします.


      宿題2-3 の問題は、

      $\sup,\inf$ の使い方がわかっているかどうかのチェックです.
      できれば、授業でやったような証明を試みてください.

      $\sup(A+B)=a$ であることを示すとします.($a$ は何か数値が入ります.)
      $\sup(A+B)\le a$ かつ、 $\sup(A+B)\ge a$ であることを証明します.

      前者の証明をするには任意の $A+B$ の元が $a$ 以下であることを示されれば、 $a$ が $A+B$ の上界であることがわかります.

      後者の証明は、$\sup(A+B)<a$ であるとして矛盾を見つけてください.
      $a$ より少しでも小さい正の値が $A$ の和と $B$ の値の和として表せることを示してください.



      まだ、この辺りのことは、理解不足と思われるので、来週の演習で取り上げようと思います.

      2016年4月16日土曜日

      線形代数続論演習(第1回)

      [場所1E103(金曜日3限)]


      HPに行く.


      今日から線形代数続論と続論演習が始まりました.
      この授業では、線形代数IIの復習をしながら、ジョルダン標準形というものを
      学習する授業です.

      授業の最初にも言いましたが、この授業は、

      • 連立一次方程式の解法
      • ベクトル空間の定義
      • 固有値、固有ベクトル
      は知識として仮定されています.


      去年度の反省を生かして、今回は発表する時間を多く設けようと思っています.
      説明とその演習だけで終わってしまう回もあるかと思いますので、その時は直前におしらせします.しばらく復習が続きそうですので、来週もこのままの状態のまま進みます.

      今日は、線形代数の復習として、
      • 連立一次方程式の解き方(一般のベクトル空間の場合も含めて)
      • いくつか言葉の定義.
      など行いました.今回の演習の宿題は基本的には、無説明でできるものばかり(復習ということ)です.

      連立一次方程式の解法

      連立一次方程式が解けないと話にならないので、まずこれから話をしました.
      増岡先生の講義では、ジョルダン標準形による正方行列の分類、ベクトルの一次結合の書き方などを教わったようですね.


      では、連立一次方程式の解き方をここで復習します.

      数ベクトル空間の場合

      連立一次方程式は、通常、
      $$\begin{cases}2x_1+x_2-x_3=0\\x_1+x_2+x_3\end{cases}$$
      のように書かれています.一般には、行列 $A$ に対して、$A{\bf x}=0$ のように書かれます.授業中では、結構単純な形をしてしまったので、ここでは少し複雑にしました.

      よって、このとき、行列を使って書くと、
      $$A=\begin{pmatrix}2&1&-1\\1&1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=0$$
      のように書かれます.この $2\times 3$ 行列の基本変形をします.

      $\begin{pmatrix}2&1&-1\\1&1&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}0&-1&-3\\1&1&1\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&1&1\\0&1&3\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&0&-2\\0&1&3\end{pmatrix}$

      のようになります.ここで、最後の行列ののうち、$\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}$ や $\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$ と $\begin{pmatrix}-2\\3\end{pmatrix}$ に分けて考えます.

      前者(1つ目と2つ目)は、${\mathbb R}^2$ の標準基底の形で、後者(3つ目)はそれらの一次結合の形をしています.この標準基底の数は行列のランクといいます.
      $\text{rank}(A)$ と書きます.$A$ は考えている行列のことです.

      このとき、方程式を
      $$\begin{cases}x_1=2x_3\\x_2=-3x_3\end{cases}$$
      のように整えると、$x_3$ が独立変数で、$x_1,x_2$ が従属変数であることが分かります.
      つまり、解の自由度は、独立変数の数なので、$3-\text{rank}(A)$ ということになります.

      一般には、変数が $n$ 個あれば、 
      $$n-\text{rank}{A}$$
      解の自由度ということになります.
      このランクが線形代数(行列)における最重要概念(増岡先生の言葉通り)です.


      解法に戻れば、解の自由度に適当なパラメータを置くことで、
      $\begin{pmatrix}x_1\\x_2\\x_3\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}2\\-3\\1\end{pmatrix}$
      のようになります.よって、生成系の形で書けば、
      $\{{\bf x}\in {\mathbb R}^3|A{\bf x}={\bf 0}\}=\left\langle \begin{pmatrix}2\\-3\\1\end{pmatrix}\right\rangle$
      とかくことができます.

      ベクトル空間の場合

      授業中にやった問題A-1-4は、前年度の線形代数II演習の定期テストでの問題で、意外にも解けなかった問題(正答率50パーセント程)です.授業中でも詳しくやりました.
      そのとき書いたブログがありますので、コチラの中の問題15-3をみてください.

      ${\mathbb R}[x]_2$ の基底 $1,x,x^2$ を使って
      $f(x)=ax^2+bx+c$
      と書いておきます.

      このとき、方程式 $f(x)-f(1-x)=0$ を書き下すと、

      $2(a+b)x-a-b=0$ となります.
      このとき、方程式と思って、$x$ の値を求めるのではなく、
      このイコール $=$ は多項式として等しいというイコールと考えてください.
      つまり、ベクトル空間のベクトルが等しいというイコールです.

      数ベクトル空間では、$(0,2(a+b),-a-b)=(0,0,0)$ とおなじことです.
      よって、各係数が等しいことになり、$2(a+b)=0$ かつ $a+b=0$ が成り立ちます.

      つまり、この $f(x)-f(1-x)=0$ の連立一次方程式は

      $$a+b=0$$

      となります.
      よって、係数行列は、
      $$\begin{pmatrix}1&1&0\end{pmatrix}$$
      となり、これはすでに簡約化されており、
      上のように整理すると、
      $$a=-b$$
      となります.
      変数は $a,b,c$ の3つあり、解の自由度は、 $3-\text{rank}(A)=2$ となります.
      $b,c$ が独立に動ける変数となり、それらを $c_1,c_2$ とすることで、
      $$\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}=c_1\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}$$
      となり、基底 $x^2,x,1$ を戻すと、
      $$\left\langle(x^2,x,1)\begin{pmatrix}-1\\1\\0\end{pmatrix},(x^2,x,1)\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\right \rangle=\langle -x^2+x,1\rangle$$
      となります.
      これは、$\langle x^2-x,1\rangle$ とかいても同じです.
      $\langle -x^2+x,1\rangle=\langle x^2-x,1\rangle$ ですので、答えはどちらでも構いません.


      (別解)
      また、別解として、$F:{\mathbb R}[x]_2\to {\mathbb R}[x]_2$ なる線形写像を
      $F(f(x))=f(x)-f(1-x)$ として定義したとき、$\text{Ker}{F}$ を考えればよいことになります.

      この線形写像の表現行列を求める.
      $F(1)=0$, $F(x)=x-(1-x)=2x-1$, $F(x^2)=x^2-(1-x)^2=2x-1$
      となるので、
      $$(F(x^2),F(x),F(1))=(x^2,x,1)\begin{pmatrix}0&0&0\\2&2&0\\-1&-1&0\end{pmatrix}$$

      この表現行列を簡約化する.そうすると、
      $\begin{pmatrix}0&0&0\\2&2&0\\-1&-1&0\end{pmatrix}\to \begin{pmatrix}1&1&0\\0&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}$
      よって、
      $\begin{pmatrix}1&1&0\\0&0&0\\0&0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}a\\b\\c\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}$
      となる方程式を解くことになり、同じように、$a=-b$ が得られる.
      あとは、上に書いたようになる.


      宿題でも同じような問題を作りましたので、どちらのやり方でも良いので、
      同じようにやってください.

      今回の宿題について

      (1-1)
      は巾零行列の固有多項式を求める問題ですが、固有多項式の解はすべて固有値ですから、
      問題は、巾零行列の固有値がすべて 0 であることを示せば良いことになります.

      (1-2)
      上でやったようなやり方をしてください.

      (1-3)
      (1) は帰納法を使うかしてください.
      (2) は基底であるための必要十分条件は同じプリントの(まとめ)の1-2をよく読んで適用してください.

      2016年4月13日水曜日

      微積分I演習(第1回)

      [場所1E101(水曜日4限)]
      今日は
      • 論理記号
      • 集合の書き方
      について演習を行いました.
      まだ微積分の講義が始まっていないので、記号などの紹介で終わりました.
      来週からは、関数などでてくる予定です.

      宿題を出しましたので解いて、来週までに出してください.

      論理記号

      論理記号について最初に紹介をしました.
      $\forall$ と
      $\exists$
      です.この2つは、数学では必ず出てきます.

      意味は、「任意の・・・」と「ある・・・が存在して〜」
      となります.

      英語で言えば、 For all .... と There exists....

      ということです.「ある・・・が存在して〜」というのは日本語として少し不器用な感じがするのは、英語をそのまま順番通りに訳したからです.なめらかな日本語にする場合は、
      「〜となる・・・が存在する.」となります.

      論理を使って数学について書く場合は、英語式ですので、存在するものを最初に持ってきます.なので、

      $\exists x$ に対して、$x^2=m$ を満たす.
      となります.

      これをなめらかな日本語に直せば、「$x^2=m$ を満たす $x$ が存在する」
      となります.

      任意の偶数に対してという場合には、
      $\forall n\in 2{\mathbb Z}$ と書くことができます.
      今日は $\forall n\in$偶数 のように書いている人もいましたが、これもぎりぎりセーフでしょうか.

      さらに条件が細かい場合、
      任意の 7 で割って 2余る偶数に対して、

      と言いたい場合はそのまま地の文のまま書くか、
      $S=\{n\in2{\mathbb Z}|\exists m, n=7m+2\}$
      として、$\forall n\in S$ とかくかです.

      最初は慣れないかもしれませんが、使っていく中で覚えていきましょう.

      例題などは、授業中で紹介した通りです.



      集合の書き方

      集合は、授業中示した通り、2通りあって、要素(元のこと)を書き並べる
      $$\{a,b,c,d,.....,u,v,w,x,y,z\}$$
      のように要素を全て列挙する方法と、
      $$\{x\in X|\text{$x$ の満たす条件}\}$$
      のように書く方法と2通りあります.縦棒の右側に満たすべき条件を書いて下さい.
      左もある意味条件ですが、属している集合をざっくりと指定しています.

      要素の数が有限個しかない場合は、1つ目のようにすることができますが、
      そうでない場合は、2つ目の方法を取るしかありません.

      例えば、例題にあったように、
      2 次方程式 $x^2+ax+b=0$ が異なる 2 つの正の実数解をもつための $(a,b)$ の満たす集合. 

      の場合、もちろん $(a,b)$ の取りうる点 $(a,b)$ の数は無限個ありますから、

      $\{(a,b)\in {\mathbb R}^2|.....\}$

      となるわけです.ここで、${\mathbb R}^2$ の意味は授業中述べた通りで、実数の2つのペアの集合のことです.つまり、平面と同一視されます.よく慣れ親しんだ$xy$-平面と思ってよいです.

      縦棒の後に満たすべき条件を書きます.正の実数解を持つのだから、
      判別式が正の数で、$y$切片が正、軸が正となるのだから、
      $$\{(a,b)\in {\mathbb R}^2|a^2-4b>0,a<0,b>0\}$$
      となります.集合の書き方としては、
      $$\{(a,b)|a,b\in {\mathbb R},a^2-4b>0,a<0,b>0\}$$
      と書いても大丈夫です.普通の丸括弧で元をくくって並べると、慣例としてその元たちの組みとした集合を表すからです.

      また、
      授業中に言ったように、条件式を書き並べる場合、$\cap$ を書く必要はありません.単なるコンマで大丈夫です.

      $m$ の倍数の集合 $I_m$ を集合として表す場合、

      $I_m=\{n\in{\mathbb Z}|\exists k\in {\mathbb Z}, n=km\}$

      とかいてもよいですが、単に条件式を書き並べるという意味では、
      $I_m=\{n\in{\mathbb Z}|k\in {\mathbb Z}, n=km\}$
      もしくは
      $I_m=\{n\in{\mathbb Z}|n=km, k\in {\mathbb Z}\}$
      などと書いても大丈夫です.

      また、高校で、$\bmod$ を習っているということなので、それを使っても大丈夫です.
      今日解いてくれた人は
      $$I_m=\{n\in {\mathbb Z}|n\equiv 0(\bmod m)\}$$
      のように書いてくれましたね.

       今日あまり、言いませんでしたが、イコール $=$ は集合として等しい場合ににのみ用いてください.例えば、
      $(a,b,c)={\mathbb R}^3$ とは書きません.
      かならず、$(a,b,c)\in {\mathbb R}^3$ と書いてください.


      元であること・部分集合であること

      ある $T$ が集合 $S$ の元であること.
      ある集合 $T$ が集合 $T$ の部分集合であることは異なることです.

      両者はそれぞれ、
      $T\in S$ と
      $T\subset S$ と書き、数学をやる上では明確に区別しています.混同しないようにしましょう.

      数学が進んでくると混同しやすくなります.
      $I_m$ を$m$ の倍数の全体の集合とします.

      ${\mathbb Z}$ の中で、$I_3$ は、$I_m\subset {\mathbb Z}$ ですが、
      $3$ は、$3\in {\mathbb Z}$ です.$3$ は $I_3$ の元でもありますから、$3\in I_3$ と書くことができます.
      $I_5\in {\mathbb Z}$ のようには書かないようにお願いします.

      $I_3\cap I_2$ は一つの集合を表します.
      つまり、
      $I_3\cap I_2=\{n\in{\mathbb Z}|n\equiv 0\bmod 3, n\equiv0\bmod 2\}$
      となり、証明は必要(今日の宿題)ですが、
      これは、$\{n\in{\mathbb Z}|n\equiv 0\bmod 6\}$
      となります.

      宿題1-2の証明は、集合のイコールの示し方を思い出してください.
      $A=B$ であることを示すには、$A\subset B$ かつ、$B\subset A$ を満たすことを示せばよいのです.

      宿題1-1(1)の問題は、$a$ の符号に気をつけて場合分けしてみて下さい.