Yitang Zhang は双子素数予想などに関係する素数分布の分野を発展させたことで、数学者以外の人にも有名になりました.その論文は下の参考文献 (1.) ですが、私は全くの素人ですので、誰でもわかる最初の部分だけ読んでみました.Zhang はその数年前にAnn. of Math. に出版された Goldston, Pintz, Yildirim らの論文 (参考文献(2.))に触発されてそれを改良した形でその結果を導いたようです.その結果とは、
ある $7\times 10^7$ までの整数 a で、隣り合う素数の差がその数 a になるような素数のペアが無限個存在する.
というものです.この結果はこれまでの素数論の研究の中で驚異的なものです.もし上の整数 a が2であるなら、有名な双子素数予想(11,13や41,43などの差が2の素数の組みが無限個存在するだろう)の解決になります.双子素数予想が解決するとか、このように発展するとか、全く夢のようなことなのです.この a が今では600 ほどに縮まっているとのことで、(夢の世界である)双子素数予想の解決にかなり迫っているといわざるをえません.
そもそも Yitang Zhang 以前はある素数同士の差が一定になるような無限個のものがあるかどうかさえ全くわからないような状況でした.Goldston, Pintz, Yildirim の結果もそれに迫るような状況であったようなのですが..(私は専門家ではないので全く読めません.)
では Yitang Zhang の論文の最初の方だけ見てみます.(そもそも数論の論文を眺めたのは初めてな気もします.)
主定理を述べるために記号を導入します.有限個の非負整数集合 $\mathcal{H}$ がadmissible であるとは、任意の素数 $p$ に対して $\mathcal{H}$ の $p$ に関する residue class (余りの類別集合)の数が $p$ より小さいもののことをいいます.例えば、$\{7,11,13,17,19,23\}$ を考えれば、この集合に含まれない素数 $p$ に関しては、 $p$ で割れる数(つまり residue が 0 の数)が入っていないので条件を満たします.$p=7,11,13,17,19$ に関しては数がそもそも6個しかないのでresidue classとしてたらないものが必ず存在します.なのでこの集合は admissible ということになります.
主定理は次です.
主定理(Yitang Zhang)
$\mathcal{H}=\{h_1,\cdots,h_{k_0}\}$ を admissible な $k_0$ 個の非負整数有限集合で $k_0\ge 3.5\times 10^6$ を満たすとする.そのとき、無限個の整数 $n$ が存在して
$$\{n+h_1,n+h_2,\cdots, n+h_k\}$$
には必ず少なくとも2つの素数が存在する.
とくに、隣り合う素数組でその差が7000万以下のものが無限個存在する.
つまり、
$$\limsup_{n\to \infty}(p_{n+1}-p_{n})<7\times 10^7$$
が成り立つ.
ここで、$p_n$ は $n$ 番目の素数とする.
後半の主張は前半のことを使って導くことができます.つまり、$h_1,\cdots,h_{k_0}$ を全て素数として取っておくことである admissible な集合を作ることができます.
さらに、$7\times 10^7$ という数字は
$$\pi(7\times 10^7)>\pi(3,5\times 10^6)+3.5\times 10^6$$
を満たす数字です. 関数 $\pi(x)$ は自然数 $x$ までに存在する素数の数を与えるものです、その意味としては、$7\times 10^7$ 位まで大きく数を取っておけば $3.5\times 10^6$ 以上の数には $3.5\times 10^6$ 個くらいは相異なる素数が取れることを主張しています.なので、定理の最初の主張を認めると無限個の $n$ に対して
$$\{n+h_1,n+h_2,\cdots, n+h_k\}$$
の中に素数が2個は入っていることになります.その素数の差はせいぜい $7\times 10^7$ 位.
だから、$n$ を無限個とればそのような素数の組が無限個取っていけることになります.さらに言えば、$7\times 10^7$ 以下のある数にはその差がその数になる素数の組が無限個存在することになります.なので、もっとラフに見積もれば、隣り合う素数の差が高々$7\times 10^6$ 以下となる無限個の素数の組が存在することになるのです.
このラフさをみてもこの評価が $7\times 10^7$ から下げられそうであることはなんとなくわかります.論文にも書いてあるとおり、ある有限の値を持ってきて評価することが目的なのでもちろんこの値が最良ということはないと書いてあります.確かにその後タオらによってその値が600位まで落とされています.
本文に戻ると、この定理を証明するためにすべきことは、$x$を実数として、
$$S_1=\sum_{n\sim x}\lambda(n)^2$$
と
$$S_2=\sum_{n\sim x}\sum_{i=1}^{k_0}\theta(n+h_i)\lambda(n)^2$$
の値を比較、評価するということです.ここで、上と同じ、$\mathcal{H}=\{n+h_i|i=1,\cdots k_0\}$ です.さらに、記号の約束ですが、$\sum_{n\sim x}$ は $x\le n\le 2x$ の範囲で $n$ に関する和をとることを意味します.また、
$$\theta(n)=\begin{cases}\log(n)&n:\text{prime}\\0&n:\text{not prime}\end{cases}$$
ですが、$\lambda(n)$は$\mathcal{H}$ や $x$ に依る関数ですが、この取り方がある意味重要で、Goldston, Pintz, Yildirim らの取ったものをやや改良しなければなりません.なんというか、このような技術的(というか細かい)と言える部分で本質的な違いが出てくるのはとても恐ろしいことだと思います.なので数論は普通の人間では手がつけられないのです.
キーポイントは適当に $\lambda(n)$ をとってこれば、$S_2-(\log 3x)S_1>0$ が成り立つことです.そうすると、十分大きい $n$ に対して $\mathcal{H}$ には必ず $2$ 個以上は素数が存在します.というのも、もしどんなに $n$ を大きくしても $\mathcal{H}$ の中に素数が1つ以下であるとすると、
$$\log(3x)S_1<S_2<\sum_{n\sim x}\log(n+h_j)\lambda(n)^2=\log(2x+h_j)S_1$$
が成り立ちます.$h_1,\cdots,h_{k_0}$ は定数ですから、$x$ を十分大きくしておけば $h_j$ をどんなものに選んでおいても $\log(2x+h_j)<\log(3x)$ が成り立つはずです.
というわけで矛盾なわけですね.
あとは、$S_2-\log(3x)S_1>0$ が適当な$\lambda(n)$ のもと示されればよいことになります.
Reference:
ある $7\times 10^7$ までの整数 a で、隣り合う素数の差がその数 a になるような素数のペアが無限個存在する.
というものです.この結果はこれまでの素数論の研究の中で驚異的なものです.もし上の整数 a が2であるなら、有名な双子素数予想(11,13や41,43などの差が2の素数の組みが無限個存在するだろう)の解決になります.双子素数予想が解決するとか、このように発展するとか、全く夢のようなことなのです.この a が今では600 ほどに縮まっているとのことで、(夢の世界である)双子素数予想の解決にかなり迫っているといわざるをえません.
そもそも Yitang Zhang 以前はある素数同士の差が一定になるような無限個のものがあるかどうかさえ全くわからないような状況でした.Goldston, Pintz, Yildirim の結果もそれに迫るような状況であったようなのですが..(私は専門家ではないので全く読めません.)
では Yitang Zhang の論文の最初の方だけ見てみます.(そもそも数論の論文を眺めたのは初めてな気もします.)
主定理を述べるために記号を導入します.有限個の非負整数集合 $\mathcal{H}$ がadmissible であるとは、任意の素数 $p$ に対して $\mathcal{H}$ の $p$ に関する residue class (余りの類別集合)の数が $p$ より小さいもののことをいいます.例えば、$\{7,11,13,17,19,23\}$ を考えれば、この集合に含まれない素数 $p$ に関しては、 $p$ で割れる数(つまり residue が 0 の数)が入っていないので条件を満たします.$p=7,11,13,17,19$ に関しては数がそもそも6個しかないのでresidue classとしてたらないものが必ず存在します.なのでこの集合は admissible ということになります.
主定理は次です.
主定理(Yitang Zhang)
$\mathcal{H}=\{h_1,\cdots,h_{k_0}\}$ を admissible な $k_0$ 個の非負整数有限集合で $k_0\ge 3.5\times 10^6$ を満たすとする.そのとき、無限個の整数 $n$ が存在して
$$\{n+h_1,n+h_2,\cdots, n+h_k\}$$
には必ず少なくとも2つの素数が存在する.
とくに、隣り合う素数組でその差が7000万以下のものが無限個存在する.
つまり、
$$\limsup_{n\to \infty}(p_{n+1}-p_{n})<7\times 10^7$$
が成り立つ.
ここで、$p_n$ は $n$ 番目の素数とする.
後半の主張は前半のことを使って導くことができます.つまり、$h_1,\cdots,h_{k_0}$ を全て素数として取っておくことである admissible な集合を作ることができます.
さらに、$7\times 10^7$ という数字は
$$\pi(7\times 10^7)>\pi(3,5\times 10^6)+3.5\times 10^6$$
を満たす数字です. 関数 $\pi(x)$ は自然数 $x$ までに存在する素数の数を与えるものです、その意味としては、$7\times 10^7$ 位まで大きく数を取っておけば $3.5\times 10^6$ 以上の数には $3.5\times 10^6$ 個くらいは相異なる素数が取れることを主張しています.なので、定理の最初の主張を認めると無限個の $n$ に対して
$$\{n+h_1,n+h_2,\cdots, n+h_k\}$$
の中に素数が2個は入っていることになります.その素数の差はせいぜい $7\times 10^7$ 位.
だから、$n$ を無限個とればそのような素数の組が無限個取っていけることになります.さらに言えば、$7\times 10^7$ 以下のある数にはその差がその数になる素数の組が無限個存在することになります.なので、もっとラフに見積もれば、隣り合う素数の差が高々$7\times 10^6$ 以下となる無限個の素数の組が存在することになるのです.
このラフさをみてもこの評価が $7\times 10^7$ から下げられそうであることはなんとなくわかります.論文にも書いてあるとおり、ある有限の値を持ってきて評価することが目的なのでもちろんこの値が最良ということはないと書いてあります.確かにその後タオらによってその値が600位まで落とされています.
本文に戻ると、この定理を証明するためにすべきことは、$x$を実数として、
$$S_1=\sum_{n\sim x}\lambda(n)^2$$
と
$$S_2=\sum_{n\sim x}\sum_{i=1}^{k_0}\theta(n+h_i)\lambda(n)^2$$
の値を比較、評価するということです.ここで、上と同じ、$\mathcal{H}=\{n+h_i|i=1,\cdots k_0\}$ です.さらに、記号の約束ですが、$\sum_{n\sim x}$ は $x\le n\le 2x$ の範囲で $n$ に関する和をとることを意味します.また、
$$\theta(n)=\begin{cases}\log(n)&n:\text{prime}\\0&n:\text{not prime}\end{cases}$$
ですが、$\lambda(n)$は$\mathcal{H}$ や $x$ に依る関数ですが、この取り方がある意味重要で、Goldston, Pintz, Yildirim らの取ったものをやや改良しなければなりません.なんというか、このような技術的(というか細かい)と言える部分で本質的な違いが出てくるのはとても恐ろしいことだと思います.なので数論は普通の人間では手がつけられないのです.
キーポイントは適当に $\lambda(n)$ をとってこれば、$S_2-(\log 3x)S_1>0$ が成り立つことです.そうすると、十分大きい $n$ に対して $\mathcal{H}$ には必ず $2$ 個以上は素数が存在します.というのも、もしどんなに $n$ を大きくしても $\mathcal{H}$ の中に素数が1つ以下であるとすると、
$$\log(3x)S_1<S_2<\sum_{n\sim x}\log(n+h_j)\lambda(n)^2=\log(2x+h_j)S_1$$
が成り立ちます.$h_1,\cdots,h_{k_0}$ は定数ですから、$x$ を十分大きくしておけば $h_j$ をどんなものに選んでおいても $\log(2x+h_j)<\log(3x)$ が成り立つはずです.
というわけで矛盾なわけですね.
あとは、$S_2-\log(3x)S_1>0$ が適当な$\lambda(n)$ のもと示されればよいことになります.
Reference:
- Yitang Zhang, Bounded gaps between primes, Ann. of Math. 179 (2014), 1121-1174
- D. A. Goldston, J. Pintz, and C. Y. Y ildirim, Primes in tuples. I, Ann. of Math. 170(2009) 819-862