[場所:オンライン(月曜日3限)]
今回は、分離公理の後半と、コンパクト空間についての説明を行いました。
前回は分離公理としてハウスドルフ空間を行いました。
基本的に分離公理とは、2つの交わらない部分集合が開集合を使って
分離できるかどうかについての公理でした。
分離するとは、$A,B$ を部分集合として、$A\subset U$ のような
開集合 $U$ が存在して、$A\subset U$ かつ $U\cap B=\emptyset$
となることをいいます。
場合によっては、$B$ の方にも同じように開集合 $V$ が取れ、
$B\subset V$ となり、 $A\cap V=\emptyset$ となります。
この場合、さらに強い分離公理を満たすことになります。
また、さらに、$U,V$ に共通部分が内容に取れることもあり、
このことを、$A,B$ を開集合で分離するともいいます。
分離公理(正則空間・正規空間)
ハウスドルフ空間 ($T_2$ 公理) の次に行う分離公理は、
$T_3, T_4$ 公理です。
定義13.1, 13.3($T_3$-公理、$T_4$-公理)
「$x\in X$ と $x\not\in F$ となる閉集合 $F$
に対して、開集合 $U,V$ が存在して、
$$x\in U,\ F\subset V,\ U\cap V=\emptyset$$
を満たす」を $T_3$-公理という。
「$A\cap B=\emptyset$ を満たす閉集合 $A,B \subset X$
に対して、開集合 $U,V$ が存在して、
$$A\subset U,\ B\subset V,\ U\cap V=\emptyset$$
を満たす」を $T_4$-公理という。
定義13.2,13.4
$T_1$ かつ $T_3$ 公理を満たす空間を正則空間といい、
$T_1$ かつ $T_4$ 公理を満たす空間を正規空間という。
ここで、正則空間の言い換えを与えておきます。
定理13.1
$X$ が $T_3$空間であることと、以下が同値、
$\forall x\in X$ と、$x\in U$ となる開集合 $U$ に対して、
$x\in V\subset \overline{V}\subset U$ となる開集合 $V$ が
存在する。
(証明) ($\Rightarrow$)
$X$ が $T_3$空間とする。
このとき、$x\in U$ となる開集合 $U$ に対して
$x,F=U^c$ は1点とそれを含まない閉集合となるから、$T_3$公理から
$x\in V,F\subset W$ が存在して、$V\cap W=\emptyset$ を満たします。
よって、$x\in V\subset W^c\subset U$ を満たします。
ここで、$W^c$ は閉集合であるから、
$x\in V\subset \overline{V}\subset W^c\subset U$ となります。
つまり、条件が成立することになります。
($\Leftarrow$)
下の条件が成り立ったとします。
このとき、$x\not \in F$ となる閉集合 $F$ に対して、
$x\in F^c=U$ は開集合であり、条件から、$x\in V\subset \overline{V}\subset U$ を
満たす開集合 $V$ が存在します。
このとき、$x\in V$ かつ、$F\subset (\overline{V})^c$ は
$V\cap (\overline{V})^c=\emptyset$ であるから
$x,F$ を開集合によって分離していることになります。
つまり $X$ は $T_3$ 空間であることがわかりました。$\Box$
同じように、以下の定理も成り立ちます。
定理13.2
$T_4$ 空間であることと以下は同値.
$X$ の互いに交わらない閉集合 $F$ と$F\subset G$ を満たす
開集合 $G$ に対して、$F\subset V\subset\overline{V}\subset G$
となる開集合 $V$ が存在する。
このことから、以下の関係が成り立つことがすぐにわかります。
正規空間 $\Rightarrow$ 正則空間 $\Rightarrow$ ハウスドルフ空間
この関係のどの逆も成り立ちません。
まず、次の例があります。
定理13.3
距離位相空間は正規空間。
(証明) $A,B$ を交わらない閉集合とします。
このとき、
$U=\{x|d(x,A)<d(x,B)\}$
$V=\{x|d(x,A)>d(x,B)\}$
とすると、$A\subset U$ かつ $B\subset V$ であり、
定義から $U\cap V=\emptyset$ となります。
$\forall x\in A$ とすると、$d(x,A)=0$ であり
$d(x,B)>0$ となります。
もし $d(x,B)=0$ なら、$x\in \overline{B}=B$ となり矛盾するからです。
また、$U,V$ が開集合であることは、$\varphi(x)=d(x,B)-d(x,A)$ は $\varphi:X\to{\mathbb R}$
となる連続関数となる。
よって $U=\varphi^{-1}((0,\infty))$ となるので、$U,V$ は開集合となる。
よって、$U,V$ は $A,B$ を分離する開集合となります。$\Box$
よって、
距離空間 $\Rightarrow $ 正規空間
となります。
この、逆は成り立ちません。反例は、ゾルゲンフライ直線です。
また、正規空間が成り立つ性質についてまとめておきます。
証明はしません。
定理13.4(ウリゾーンの補題)
位相空間 $X$ において以下は同値。
$T_4$ 空間である。
互いに交わらない閉集合 $F,G$ に対して、
連続関数 $f:X\to I$ が存在して $f(F)=0$ かつ $f(G)=1$
を満たす。
定理13.5(ウリゾーンの距離化定理)
正規かつ第2可算公理を満たす空間は距離化可能
定理13.6(ティーチェの拡張定理)
$X$ を正規空間とする。
このとき、閉集合 $A\subset X$ に対して
任意の連続関数 $f:A\to X$ に対して連続関数
$\tilde{f}:X\to [0,1]$ が存在して、$\tilde{f}|_A=f$ となる。
ゾルゲンフライ平面 ${\mathbb R}^2_l$
を考えましょう。こちら にてゾルゲンフライ直線、平面についての解説を
書いたことがあったのでリンクをはりました。
ゾルゲンフライ直線の2つの直積としてゾルゲンフライ平面を定義します。
ティーチェの拡張定理を使うと、
${\mathbb R}^2_l$ は正規空間ではないことが分かります。
また、正則空間の2つの直積空間も正則空間
であるから、
${\mathbb R}^2_l$ は正則空間となります。
よって、${\mathbb R}^2_l$ は正則だが、正規な位相空間ということになります。
他にも、ハウスドルフだが、正則空間ではない空間も存在しますが
ここでは紹介しません。
コンパクト空間
次にコンパクト空間について解説します。
$\mathcal{U}\subset \mathcal{P}(X)$ が被覆であるとは、
$\forall x\in X$ に対して、$\exists U\in \mathcal{U}$ となる
ときをいう。
つまり、$X=\cup \mathcal{U}$ のことと同値。
$\mathcal{U}$ が被覆かつ $\mathcal{U}\subset \mathcal{O}$ となるとき、
$\mathcal{U}$ は開被覆という。
$\mathcal{U}$ が被覆かつ $\mathcal{U}\subset \mathcal{C}$ となるとき、
$\mathcal{U}$ は閉被覆という。
また、$\mathcal{U}$ が被覆かつ $|\mathcal{U}|<\infty$ を満たすとき、
有限被覆という。
また、被覆 $\mathcal{U}$ が $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$
を満たす $\mathcal{V}$ が被覆であるとき、部分被覆という。
$\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$ が部分被覆かつ有限被覆であるとき、
有限部分被覆という。
ここでコンパクト空間の定義をしましょう。
定理13.5
位相空間 $(X,\mathcal{O})$ に対して、
$X$ の任意の開被覆 $\mathcal{U}$ に対して、有限部分被覆が存在するとき、
$(X,\mathcal{O})$ はコンパクト空間という。
同様に、 $A\subset X$ がコンパクト集合であることは、
$A$ が部分空間としてコンパクト空間であることである。
言い換えれば、位相空間 $(X,\mathcal{O})$ において、
$\mathcal{U}\subset \mathcal{O}$ が
$A\subset \cup\mathcal{U}$ を満たすとき、有限部分集合 $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$
が存在して、$A\subset \cup\mathcal{V}$ を満たすことをいいます。
コンパクト空間 $X$ に対して、以下の定理が成り立ちます。
定理13.7
$X$ がコンパクト空間であり、
$f:X\to Y$ が連続写像であるとき、$f(X)$ もコンパクトである。
(証明) $\mathcal{U}$ を $f(X)$ の開被覆とする。
$f(X)\subset \cup\mathcal{U}$ を満たすとする。
$\{f^{-1}(U)|U\in \mathcal{U}\}=\mathcal{A}$ は $X$ の開被覆となります。
$X$ のコンパクトであるから、有限集合 $\mathcal{V}\subset\mathcal{U}$
が存在して、$\cup\{f^{-1}(V)|V\in \mathcal{V}\}$ は $X$ の開被覆
となります。
よって、$\mathcal{V}$ は $f(X)$ の開被覆となります。
つまり、$f(X)$ はコンパクトとなります。$\Box$
この定理から、$X$ の任意のコンパクト集合の連続写像による像(つまり連続像)
もコンパクト集合ということになります。
例として、${\mathbb R}$ のコンパクト集合を考えます。
例13.7
$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ のコンパクト集合は有界である。
(証明) $A$ を有界でない集合とします。
$\forall n$ に対して、$U_n=(-n,n)$ とします。
このとき、$\mathcal{U}=\{U_n|n\in {\mathbb N}\}$ は $A$ の開被覆である。
$\mathcal{U}$ の任意の有限集合 $\mathcal{V}\subset \mathcal{U}$ の和集合
は、ある開区間$(-M,M)$ に包まれ、$\cup\mathcal{V}=(-M,M)$ となる。$A$ は有界ではないから、$A\not\subset\cup\mathcal{V}$ となります。
これは $\mathcal{V}$ は $A$ の被覆ではない。
つまり、$\mathcal{U}$ には有限部分被覆が存在しないことになります。
よって、$A$ はコンパクトではありません。
この対偶をとることで、$A$ がコンパクト集合なら有界ではないということが
成り立ちます。$\Box$
例13.8
$({\mathbb R},\mathcal{O}_{d_1})$ のコンパクト集合は
閉集合である。
$A\subset {\mathbb R}$ をコンパクト集合とする。
$A$ が閉集合でないとする。
$x\in \overline{A}\setminus A$ をとる。
このとき、$\forall \epsilon >0(Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))\cap A\neq\emptyset))$
とする。このとき、
$U_\epsilon=[Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))]^c$
とする。
このとき、$\{x\}=\cap_{\epsilon\in {\mathbb R}_{>0}}Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))$
($X$ がハウスドルフ空間であることと同値の主張になります。こちらを見てください。)
であるから、${\mathbb R}\setminus\{x\}=\cup_{x\in {\mathbb R}_{>0}}U_\epsilon$
となる。
よって、$\mathcal{U}=\{U_\epsilon|\epsilon>0\}$
は $A$ の開被覆となります。
$\mathcal{V}=\{U_{\epsilon_i}|i=1,2,\cdots, n\}$ は
$\mathcal{U}$ の任意の有限部分集合とする。
$\epsilon=\min\{\epsilon_i|i=1,\cdots, n\}$ とする。このとき、
$$(\cup\mathcal{V})^c=\cap_{i=1}^nCl(B_{d_1}(x,\epsilon_i))=Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))$$
よって、$\cup\mathcal{V}=U_\epsilon$ となります。
$Cl(B_{d_1}(x,\epsilon))\cap A\neq \emptyset$ であり、
$A\setminus U_\epsilon\neq\emptyset$ つまり、$A\not\subset\cup\mathcal{V}$ であるから、
$\mathcal{V}$ は $A$ の開被覆にならないので、
$\mathcal{U}$ は有限部分被覆をもたないことになります。
ゆえに $A$ はコンパクトではありません。$\Box$
${\mathbb R}$ のコンパクト集合はどんなものがあるでしょうか。
最後に次の定理を示します。
定理13.8
閉区間 $[0,1]$ はコンパクト集合
(証明) $[0,1]$ がコンパクトでないとする。
$\mathcal{U}$ が $[0,1]$ の開被覆で、どんな有限部分集合も
被覆にならないとする。
$[0,1/2],[1/2,1]$ のうち、どちらかは、有限部分被覆を持ちません。
もし、両方とも部分被覆を持つとすると、
それらを合わせて、$[0,1]$ の有限部分被覆を持つからです。
よって、それを $[a_1,b_1]$ とします。
また、$[a_1,\frac{a_1+b_1}{2}],[\frac{a_1+b_1}{2},b_1]$ のうち、
どちらかは有限部分被覆を持たないことになります。もし持つとすると、
それらを合わせて、$[a_1,b_1]$ の有限部分被覆をもちます。
それを $[a_2,b_2]$ とします。
このようにして、$[a_1,b_1]\supset [a_2,a_2]\supset [a_3,b_3]\supset \cdots $
を作っていきます。
$[a_n,b_n]\supset[a_{n+1},b_{n+1}]$ は、有限部分被覆を持ちません。
このとき、$a_n$ は単調増加であり、$b_n$ は単調減少です。
$0\le a_n\le b_n\le 1$ であるから、数列 $a_n,b_n$ は実数列の条件から
収束します。
$\text{diam}([a_n,b_n])=|a_n-b_n|=\frac{1}{2^n}\to 0$ であるから、
$a_n,b_n$ は同じ実数 $x$ に収束します。
このとき、$x\in U\in \mathcal{U}$ となる開集合 $U$ が存在して、
$x\in B_{d_1}(x,\epsilon)\subset U$ となる $\epsilon$ も存在します。
また、$1/2^n\to 0$ であるから、$1/2^{n}<\epsilon$ となる自然数 $n$ が
存在するから、
$[a_n,b_n]\subset B_{d_1}(x,\epsilon)\subset U$ です。
しかし、$[a_n,b_n]$ は $\mathcal{U}$ の有限部分被覆 $\{U\}$ が
存在することになります。これは、$[a_n,b_n]$ が有限部分被覆が存在しないことに
反します。
ゆえに、$\mathcal{U}$ は有限部分被覆を持つということになり、
$[0,1]$ はコンパクト集合ということになります。$\Box$
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