[場所:manaba上(土曜日12:00〜)]
第6回では、直交行列によって対角化できる行列は
対称行列であることを証明しましたが、
その逆が成り立つことを今回は示します。
つまり、
定理
実対称行列は固有値は実数であり、
さらに、ある直交行列によって対角化できる。
です。
今回も、$(2,2)$ 行列しか扱いません。
まず、最初の主張は、$\begin{pmatrix}a&b\\b&c\end{pmatrix}$
の固有多項式を求めると、
$t^2-(a+d)t+ad-b^2$ となり、
この判別式を求めると、
$D=(a+d)^2-4(ad-b^2)=(a-d)^2+4b^2$ となり
この値は正の数または0です。
よって、固有多項式は、2つの実数を解に持つということになります。
(重解を含む。)
もし、重解をもつとすると、$a=d$ かつ $b=0$ であるから、
そのような行列は、スカラー行列 $aE$ ということになります。
ここで、$a$ はある実数で、$aE$ は行列 $\begin{pmatrix}a&0\\0&a\end{pmatrix}$
のことです。
実対称行列の実固有値は $\lambda_1,\lambda_2$ の2つ存在します。
ただし、$\lambda_1=\lambda_2$ の場合も存在します。
そのうちの一つの固有値を $\lambda_1$ とします。
その固有ベクトルは存在し、${\bf v}_1$ とします。
ここで、${\bf v}_1$ は長さが1であるとしておきます。
このとき、$A{\bf v}_1=\lambda_1{\bf v}_1$ となります。
また、${\bf v}_1$ に直交するベクトルを ${\bf v}_2$ とします。
${\bf v}_2$ も長さが1のベクトルであるとしておきます。
このとき、${\bf v}_1,{\bf v}_2$ は、正規直交基底とよばれ、それを
並べてできる $(2,2)$ 行列 $R=({\bf v}_1{\bf v}_2)$ は
直交行列になります。つまり、$^tRR=E$ を満たします。
(ここで注意として、固有ベクトルを取るときには、
長さを1にしたり、直交ベクトルを取る必要はありません。
この話では、直交行列によって行列を対角化するために
このような操作をしています。)
このとき、
$A{\bf v}_2=p{\bf v}_1+q{\bf v}_2$ のように、${\bf v}_1$ と ${\bf v}_2$ の
一次結合で表されます。ここで、$p,q$ は、何か実数です。
そうすると、$A({\bf v}_1{\bf v}_2)=({\bf v}_1{\bf v}_2)\begin{pmatrix}\lambda_1&p\\0&q\end{pmatrix}$
のようにあらわされます。
よって、
このとき、$R=({\bf v}_1{\bf v}_2)$ とすると、
$AR=R\begin{pmatrix}\lambda_1&p\\0&q\end{pmatrix}=RS$
とします。
このとき、$A=RSR^{-1}$ となり、
$A$ が対称行列であることから、全体に転置行列を取ることによって、
$A={}^tA={}^t(RSR^{-1})=R{}^tSR^{-1}$
となり、$AR=R{}^tS=RS$
ですから、$R$ を左からかけて、$S={}^tS$ となります。
つまり、$S$ は対称行列にならなければならないから、$p=0$ ということです。
つまり、$A{\bf v}_2=q{\bf v}_2$ であることから、
${\bf v}_2$ は固有ベクトルであり、$q=\lambda_1$ であるなら
${\bf v}_2$ は$\lambda_1$ の固有ベクトルであり、
$q\neq \lambda_2$ であるなら、${\bf v}_2$ は相異なる固有値を
もち、${\bf v}_2$ はその固有ベクトルということになります。
ゆえに、実対称行列 $A$ は、直交行列 $R$ を用いて、
$R^{-1}AR$ を対角行列にすることができます。
例1
$A=\begin{pmatrix}1&-3\\-3&1\end{pmatrix}$ とすると、
$A$ は実対称行列であることから、直交行列によって対角化されます。
固有値を計算すると、$-2,4$ であり、
それぞれのこゆうベクトルを求めます。
$-2E-A=\begin{pmatrix}-3&3\\3&-3\end{pmatrix}$
ですから、連立一次方程式 $(-2E-A){\bf x}={\bf 0}$ の解として、
$\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$
を選べます。
また、
$4E-A=\begin{pmatrix}3&3\\3&3\end{pmatrix}$
ですから、連立一次方程式 $(4E-A){\bf x}={\bf 0}$ の解として
$\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$
を選べます。
このとき、$\tilde{{\bf v}}_1=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ とし、
$\tilde{\bf v}_2=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$ とすると、
それらは直交していますね。
さらにそれから直交行列を作る場合、長さでわって
${\bf v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$
${\bf v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}$
とすることで、直交行列 $P=({\bf v}_1{\bf v}_2)$ を得る。
例2
ここで、簡単な例で、実対称行列で対角化可能だが、
直交行列でなくても対角化できることを見てみます。
$A$ として単位行列 $E$ を考えれば、
任意の逆行列をもつ行列 $P$ に対して、$P^{-1}AP=E$ ですから
対角化ができています。一般に、逆行列をもつ $P$ といっても
直交行列とは限りません。
次の例をみましょう。
例3
$\begin{pmatrix}3&-1\\2&0\end{pmatrix}$
この行列は、実対称行列ではないので、直交行列によって対角化はできませんが、
対角化は可能です。
この固有値は、$1,2$ であり、それぞれの固有ベクトルは、
$E-A=\begin{pmatrix}-2&1\\-2&1\end{pmatrix}$ ですから、
連立方程式
$(E-A){\bf v}={\bf 0}$ の解として、
${\bf v}_1=\begin{pmatrix}1\\2\end{pmatrix}$が選べます。
また、
$2E-A=\begin{pmatrix}-1&1\\-2&2\end{pmatrix}$ ですから、
連立一次方程式 $(2E-A){\bf x}={\bf 0}$ の解として、
${\bf v}_2=\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}$ をとることができる。
たしかに${\bf v}_1$ と ${\bf v}_2$ は直交しません。
この行列 $A$ は、 $P=\begin{pmatrix}1&1\\2&1\end{pmatrix}$ によって
対角化することはできます。
例4
次に、連立漸化式から数列の一般項を出す方法を考えます。
$$x_1=3,y_1=1$$
$$\begin{cases}x_{n+1}=4x_n+10y_n\\y_{n+1}=-3x_n-7y_n\end{cases}$$
このとき、この漸化式を以下のように行列を用いて考えることができます。
$$\begin{pmatrix}x_{n+1}\\y_{n+1}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}4&10\\-3&-7\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_n\\y_y\end{pmatrix}$$
ここにでてきた $(2,2)$ 行列を $A=\begin{pmatrix}4&10\\-3&-7\end{pmatrix}$
とすると、この式を $\begin{pmatrix}x_{n+1}\\y_{n+1}\end{pmatrix}=A\begin{pmatrix}x_n\\y_n\end{pmatrix}$ とすることができて、この式を繰り返し使うことで、
$$\begin{pmatrix}x_n\\y_n\end{pmatrix}=A^{n-1}\begin{pmatrix}x_1\\y_1\end{pmatrix}$$
をえることができます。
ここで、$A^n$ の求め方は、前回やりましたから、ここで応用できますね。
実際、この行列の固有値は、$-1,-2$ ですから、
固有ベクトルを求めると、
$-E-A=\begin{pmatrix}-5&-10\\3&6\end{pmatrix}$
となりますから、この固有ベクトルは、$\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}$
であり、
$-2E-A=\begin{pmatrix}-6&-10\\3&5\end{pmatrix}$
となりますから、この固有ベクトルは、$\begin{pmatrix}5\\-3\end{pmatrix}$
となります。
よって、$P=\begin{pmatrix}2&5\\-1&-3\end{pmatrix}$ とすると、
$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}-1&0\\0&-2\end{pmatrix}$ となり、
$$A^n=P\begin{pmatrix}(-1)^n&0\\0&(-2)^n\end{pmatrix}P^{-1}=\begin{pmatrix}6(-1)^n-5(-2)^n&10(-1)^n+5(-2)^{n+1}\\3(-1)^{n+1}+3(-2)^n&5(-1)^{n+1}-3(-2)^{n+1}\end{pmatrix}$$
となります。
よって、
$$\begin{pmatrix}x_n\\y_n\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}6(-1)^{n-1}-5(-2)^{n-1}&10(-1)^{n-1}+5(-2)^{n}\\3(-1)^{n}+3(-2)^{n-1}&5(-1)^{n}-3(-2)^{n}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}3\\1\end{pmatrix}$$
$$=\begin{pmatrix}28(-1)^{n-1}-25(-2)^{n-1}\\14(-1)^n+15(-2)^{n-1}\end{pmatrix}$$
のように求めることができます。
まとめと対角化可能性について
実対称行列であることは、
与えます。(さらに、直交行列によっても対角化できますが...)
他に、対角化可能であるためのわかりやすい条件として、
固有値が $n$ 個ある(今の場合、$2$個ある場合です。
つまり、$(2,2)$ 行列の固有値がちょうど2個ある場合、対角化可能です。
どうしてかというと、固有値に対して必ず、固有ベクトルが存在するので、
この場合、2個の固有ベクトルが存在します。
もちろんそれらは平行ではありません。もし平行なら、同じ固有値を持つはずです。
よって、固有ベクトルで作られる行列 $P$ は逆行列をもち、
$P^{-1}AP$ は対角行列になるからです。
よって、$(2,2)$ 行列で対角化されるかどうかわからないのは、固有多項式が重解をもつ場合、つまり、固有多項式が $(t-\lambda)^2$ の形にかける場合ということになります。
もちろん固有多項式が重解だからといって、行列が対角化可能である場合も存在します。
極端な例として単位行列 $E$ を考えてみてください。
この行列の行列式は、$(t-1)^2$ です。
ですから、固有多項式だけみて、最終的に対角化可能であるかどかわかるのは、
それが重解をもたない場合のみです。
しかし、$(2,2)$ 行列で、固有多項式が重解をもち、対角化可能である場合は、
その行列がスカラー行列である場合に限られます。
ですので、
この場合、対角化可能ではない場合というのは、固有多項式が重解をもち、
スカラー行列ではない場合ということになります。
例えば、
$\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ は対角化可能ではありません。
3次以上の正方行列の場合はもう少し複雑です。