2019年11月22日金曜日

トポロジー入門(第4回)

[場所1E303,203(月曜日3,4限)]


今日は位相空間に入ったのですが、その前に
前回で残されていた部分をやりました。

定理4.1 $(X,d)$ を距離空間とする。
$A\subset X$ を部分集合とする。
$\bar{A}=\{x|d(x,A)=0\}$である。

(証明) $A’=\{x|d(x,A)=0\}$ と定義します。$\bar{A}=A’$ であることを
示します。
$x\in \bar{A}$ ならば、$\forall \epsilon>0(B_d(x,\epsilon)\cap A\neq \emptyset)$
ですから、$a\in B_d(x,\epsilon)\cap A$ とすると、
$0\le d(x,a)<\epsilon$ が成り立ちます。
よって、$0\le \inf\{d(x,a)|a\in A\}\le d(x,a)<\epsilon$ であり、$\epsilon>0$ は
任意にとることにより、
$\inf\{d(x,a)|a\in A\}=0$ でなければならない。
よって、$x\in A’$ である。
逆に、$x\in A’$ であるとすると、$\forall \epsilon>0$ に対して、
$\epsilon$ は、$\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界にはならないから
ある $a\in A$ が存在して、
$0\le d(x,a)<\epsilon$ となります。
(もし任意の $a\in A$ に対して、$\epsilon\le d(x,a)$ なら、$\epsilon$ は、$\{d(x,a)|a\in A\}$ の下界ということになって $\epsilon>0$ が下界でないということに矛盾します。)

よって、$a\in B_d(x,\epsilon)\cap A$ であるから、$B_d(x,\epsilon)\cap A\neq \emptyset$
となる。よって、$a\in \bar{A}$ であることがわかります。

よって、$\bar{A}=A’$ であることがわかりました。$\Box$

ここからいよいよ位相空間を始めます。

位相空間
定理3.2では距離空間の間の連続写像を定義しました。
そのとき、距離を用いて定義されましたが
そのあと、連続性の条件を、距離を直接使うのではなく、開集合系についての条件として
書き直しました(定理3.2)。
つまり連続性というのは、距離ではなく、開集合が大事だということになります。

このことから、なんらかの開集合の定義があれば、
連続性というのは定義できるのだということが
わかります。
距離空間の定義からくる開集合の性質(I),(II),(III)をもつ集合の
集まりを開集合として定義できないか?
となるのです。そして、次の定義に至ります。

定義4.1
$X$ を集合とする。$\mathcal{O}\subset \mathcal{P}(X)$ が開集合系であるとは
以下を満たすものをいう。
(I) $\emptyset\in \mathcal{O}$ かつ $X\in \mathcal{O}$
(II) $n\in {\mathbb N}$ に対して、$U_1,\cdots,\cap U_n\in \mathcal{O}$ であるとき、$U_1\cap \cdots U_n\in \mathcal{O}$である。
(III) $\{U_\lambda\in \mathcal{O}|\lambda\in \Lambda\}$ であるなら、$\cup_{\lambda\in \Lambda}U_\lambda\in \mathcal{O}$である。
$\mathcal{O}$ を開集合系としたとき、空間と開集合系のペア $(X,\mathcal{O})$
位相空間という。

定義4.2
$(X,\mathcal{O}_X)$, $(Y,\mathcal{O}_Y)$ が位相空間とします。
写像 $f:X\to Y$ が連続であるとは、
$\forall U\in \mathcal{O}_Y$ に対して $f^{-1}(U)\in \mathcal{O}_X$
を満たすものをいう。

次の定理を示しましょう。

定理4.2
$A\in \mathcal{O}\Leftrightarrow \forall a\in A\exists U\in \mathcal{O}(a\in U\subset A)$

この定理は、距離空間の開集合の定義、
$U\subset X\Leftrightarrow \forall x\in U\exists\epsilon>0(B_d(x,\epsilon)\subset U)$ 
を一般の位相空間に拡張したものと考えられます。

(証明)
$\Rightarrow$ ですが、$U$ として $A$ 自信をとればよい。
$\Leftarrow$ は、$A\subset X$ が $x\in A\exists U\in \mathcal{O}(x\in U\subset A)$
を満たす $U$ を $U_x$ としておきます。
このとき、$A=\underset{x\in A}\cup U_x$ が成り立ちます。
$A\supset \underset{x\in A}\cup U_x$ かつ $A\subset \underset{x\in A}\cup U_x$ 
が成り立つことを示します。

(というのも、$U_x\subset A$  であることから $\supset$  が成り立ち、
$\forall x\in A$ に対して、$x\in U_x$ であることから、$\subset$ が成り立ちます。
よって、$A=\underset{x\in A}{\cup}U_x$ であり、$A$ は開集合のいくつかの
和集合によって得られるから、$A\in \mathcal{O}$  が
成り立ちます。$\Box$

ここで位相空間の例を与えます。

例1
$X$ を集合とし、$(X,\mathcal{P}(X))$ は位相の条件を満たすので位相空間です。
このような位相空間を離散位相空間といいます。

例2
$X$ を集合とし、$(X,\{\emptyset,X\})$ は位相の条件を満たすので位相空間です。
このような位相空間を密着位相空間といいます。

例3
$(X,d)$ を距離空間とします。$\mathcal{O}_d$ を距離空間の開集合とします。
距離空間の開集合の定義は前回を見てください。
このとき、$(X,\mathcal{O}_d)$ は位相空間としての開集合系の条件を満たすので、
位相空間となります。
このような位相空間を距離位相空間といいます。

ある位相空間 $(X,\mathcal{O})$ がこのように $X$ 上の何かの距離 $d$ からくる
距離位相空間と一致するつまり、$\mathcal{O}=\mathcal{O}_d$ となるとき、
$(X,\mathcal{O})$ は距離化可能であるといいます。

距離の性質をもつ空間を考えたのだから、距離空間が自然に位相空間になることは
わかりますが、距離化可能ではない空間が構成できるのでしょうか。
実際、距離化可能ではない例が存在することを証明します。

例4
$X=\{1,2\}$ とします。$X$ の上に位相空間を考えます。
$\mathcal{P}(X)=\{\emptyset,\{1\},\{2\},X\}$ ですから、この部分集合として
位相を与えるものを考えることで位相空間が構成できます。
まず、(I)から、$\mathcal{O}$ には $\emptyset$ と $X$ は必ずふくまれるので、
$\{1\}$ が含まれるか含まれないか、$\{2\}$ が含まれるか含まれないか
4パターンあります。
そのうち、どちらも含む場合が離散位相空間で、
どちらも含まない場合は密着位相空間です。

$\mathcal{O}=\{\emptyset,\{1\},X\}$ としてやると、これも位相の条件を満たします。
この位相空間は、離散位相空間でも密着位相空間でもないですが、
実際距離化可能ではありません。




定理4.3
$X$ を有限集合とする。$X$ 上の開集合 $\mathcal{O}$
が距離位相空間であるなら、$X$ は離散位相空間である。

そのために次の命題を用意します。

命題
$X$ が離散位相空間であることの必要十分条件は、
$\forall x\in X(\{x\}\in \mathcal{O})$ であることである。

 (証明)$\Rightarrow$ は、離散位相は、$\mathcal{O}=\mathcal{P}(X)$ ですから
当然 $\forall \{x\}\in \mathcal{O}$ が成り立ちます。
$\Leftarrow$ は、$\forall U\in \mathcal{P}(X)$ に対して、
$U=\underset{x\in U}{\cup}\{x\}$ であり、位相の条件(III)から
$U\in \mathcal{O}$ が成り立ちます。

上の定理4.2を証明をしましょう。
(証明)$X$ が有限集合とし、その上の距離空間を考えます。
$\delta=\min\{d(x,y)|x,y\in X,x\neq y\}$ をとります。
$X$ の有限性から$\delta>0$ が成り立ちます。
このとき、$B_d(x,\delta/2)=\{x\}$ であることがわかります。

故に、任意の1点は開集合ですから、上の命題から、$X$ 上のこの位相は
離散位相空間となります。

よって例4の位相空間 $(\{1,2\},\{\emptyset,\{1\},\{1,2\}\})$ は
距離空間とは一致しないことになります。

このようにして、距離空間を見本にして距離空間を一般化した位相空間
を定義しましたが、距離空間とは違う空間を位相空間として取り入れることが
できたことになります。

最後に次の例を考えます。

例5
距離空間 $({\mathbb R}^2,d_M)$ と $({\mathbb R}^2,d_2)$ を
$d_2({\bf x},{\bf y})=\sqrt{(x_1-y_1)^2+(x_2-y_2)^2}$ と定義し一方、
$d_M({\bf x},{\bf y})=\sum_{i=1}^2|x_i-y_i|$ と定義します。
ここで、${\bf x}=(x_1,x_2)$, ${\bf y}=(y_1,y_2)$ です。
このとき、この2つの距離が決める距離位相空間は一致します。
つまり、$\mathcal{O}_{d_M}=\mathcal{O}_{d_2}$ となります。

(証明) $U\in \mathcal{O}_{d_M}$ とします。
$\forall x\in U$ に対して $x\in B_{d^2}(x,\epsilon)\subset U$ となる $\epsilon>0$ が
存在します。また、$x\in B_{d_M}(x,\epsilon)\subset B_{d_2}(x,\epsilon)$ が成り立ちます。
なぜなら、$\forall z\in B_{d_M}(x,\epsilon)$ とし、$z=(z_1,z_2)$ とすると、
$(|z_1-x_1|+|z_2-x_2|)^2-((z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2)=2|z_1-x_1||z_2-x_2|\ge 0$
が成りたつからです。

よって、
$$\epsilon\ge |z_1-x_1|+|x_2-x_2|\ge \sqrt{(z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2}$$
が成り立ち、$z\in B_{d_2}(x,\epsilon)$ となり、$B_{d_M}(x,\epsilon)\subset B_{d_2}(x,\epsilon)$ となります。
よって、$\mathcal{O}_{d_2}\subset \mathcal{O}_{d_M}$ が成り立ちます。

一方、$U\in \mathcal{O}_{d_M}$ に対して、
$\forall x\in U$ に対して $B_{d_M}(x,\epsilon)$ となる$\epsilon>0$ が存在し、
$B_{d_M}(x,\epsilon)\subset U$ が成り立ちます。
このとき、$B_{d_2}(x,\frac{\epsilon}{\sqrt{2}})\subset B_{d_M}(x,\epsilon)$ が成り立ちます。
なぜなら、$\forall z\in B_{d_2}(x,\epsilon)$ とすると、
$$2((z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2)-(|z_1-x_1|+|z_2-x_2|)^2$$
$$=(z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2-2|z_1-x_1||z_2-x_2|$$
$$\ge (|z_1-x_1|-|z_2-x_2|)^2\ge 0$$
が成りたつからです。

よって、
$$\frac{\epsilon}{\sqrt{2}}\ge \sqrt{(z_1-x_1)^2+(z_2-x_2)^2}\ge\frac{1}{\sqrt{2}}(|z_1-x_1|+|z_2-x_2|)$$
が成り立つので、$z\in B_{d_M}(x,\epsilon)$
よって、$U\in \mathcal{O}_{d_M}$ が成り立ちます。
つまり、$\mathcal{O}_{d_2}\subset \mathcal{O}_{d_M}$ となり、

$\mathcal{O}_{d_2}=\mathcal{O}_{d_M}$ が成り立ちます。$\Box$

このようにして、違う距離でも同じ距離位相空間になってしまう例があります。

0 件のコメント:

コメントを投稿