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2019年5月20日月曜日

総合科目II(第1回)

4/15に行った総合科目II(数学との出会い)
についての内容をまとめておきます。

対称性について
今回は群についての話です。

高校までに習った線対称・点対称を習いますが、
それは数学のどのようなメカニズムによって表されているのでしょうか。
また、いくつかの図形があるときにその対称性をどのように比べることが
できるでしょうか?

例えば、トランプのスートでは、ハート、クローバー、スペードの対称性は
ダイヤの対称性となんとなく異なる対称性があるように思えます。
このような対称性の違いについても群を用いていい表すことができます。

"群論"というのはそのような記述が出来たり比較できたりする
数学の言葉ですが、ここでは、群論自体はやらず、
そのいくつかの例についてやります。

ここで、対称性についての簡単な結論について書いておきます。

結論
ある図形の対称性とはその図形の変換ある数学的対象(図形)のにを表すものである。

あみだくじ
まず、あみだくじを考えます。
なぜ、突然あみだくじを考えたかというと、
あみだくじは、群論の群というものを身近に感じられる対称だからです。
あみだくじから作られる対称群(置換群)というものを使って
さまざまな対称性を記述することができるので、
その基礎として扱います。
対称性がどこに行ったのか、一旦忘れます。

通常あみだくじとは、下のような方法で、n 本の線分に横に何本かの横線を
入れたものです。このとき、上に、1からn までの番号をつけておきます。
下は n=4 の場合です。



上の番号からたどって、横線に出会ったら必ず横線をたどるという
法則で下まで行くことで、番号の対応関係を付けます。
上のようなあみだくじだと、14 に行くことになります。
他も同じようにやると、22 に行き、33 に行きます。

このとき、対応関係をまとめると、
\begin{pmatrix} 1&2&3&4\\ 4&2&3&1 \end{pmatrix} \ \ \ \ (\ast)
となります。
上の数字の下に、その数字が向かう数字が書いてあります。

このとき、違う数字は必ず違う数字に向かっていることがわかります。
これを単射と言います。
また、すべての数字に対して、そこに向かって来る数字が存在します。
これを全射といいます。
単射かつ全射の対応を全単射といいます。
つまり、全単射とは、一対一の関係をいいます。

つまり、数字 \{1,2,\cdots, n\} に対して、\{1,2,\cdots, n\}\to \{1,2,\cdots, n\}
という写像が全単射であるとは、1,2,\cdots n の各数字に対して、
1,2\cdots, n のどれかがただ一つ存在し、他と重ならないようになっている
ものをいうのです。上の対応関係やこのあみだくじの対応関係は
全単射になっています。

このような、1 から n までの全単射全体を置換といいます。
このような全単射全体は、すべて数え上げると n! 個あります。
これは、(\ast) のように、1 から n の並び替え全体と等しいからです。

この n! 個の 1,2,\cdots, n の並び替え、もしくは 1,2,\cdots, n から
1,2,\cdots, n への全単射全体を n 次対称群、もしくは置換群といい、
S_n と書くことにします。

置換の積
置換のもっとも重要な性質は、置換同士の積が存在するということです。
つまり、x,y\in S_n に対して、x\cdot y\in S_n が定義できます。
x に対するあみだくじの上に y に対するあみだくじを重ねることによって
得られるあみだくじに対する置換を x\cdot y と定義すればよいです。
このドット \cdot は省略されますが、わかりにくければ、適宜補って
読んでください。n=3の 場合に考えると
のようになります。

上の積は、
y=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}
x=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}
であるから、

x\cdot y=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}\cdot \begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&3\\1&3&2\end{pmatrix}

となります。この計算は、y の置換をたどって、x の置換をたどることでも
得られます。
つまり、1\to 2\to 12\to 3\to 33\to 1\to 2 から上のような積が得られます。

また、この積は可換ではありません。
つまり、xy=yx は一般には成り立ちません。

上の例でいえば、xy=\begin{pmatrix}1&2&3\\1&3&2\end{pmatrix} であったが、

yx=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}\cdot \begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&3\\3&1&2\end{pmatrix}
となり、確かに異なっています。

注意として、可換ではないということは、どんな x,y に対しても xy= yx
成り立たないということではなく、xy\neq yx となる x,y が少なくとも一つある
ということです。
なので、逆に、可換であるとは、どんな x,y に対しても、xy=yx が成り立たないと
いけません。

恒等置換の存在
置換群の中で最も重要な置換は、単位元です。
つまり、上の書き方でかけば、\begin{pmatrix}1&2&\cdots &n\\1&2&\cdots& n\end{pmatrix}
です。これは、1,2,\cdots, n を並び替えたものが置換だったのですが、
元と同じように並び替える(むしろ並び替えない)方法です。
これも、置換と認めます。
何も置き換えを行わない置換ということです。
その置換は恒等置換といい、e で表すことにします。


逆置換の存在
置換 x\in S_n  があれば、そのあみだくじを逆さにしたものを y とすると、
x\cdot y=e となります。
どうしてそうなるか、自分で考えてみてください。
このように、x\in S_n に対して必ず、かけることで、恒等置換を産む元 y
存在するのです。
このとき、順番を入れ替えた y\cdot  x=e も成り立ちます。

このような x に対して xy=e となる元 y のことを逆置換(逆元)と言いい、
x^{-1} と書き表します。

置換の記述方法と関係式
次に置換群の元を表示する方法を考えます。
あみあくじに帰ると、
全てのあみだくじからあらゆる置換を作れることは上で見た通りです。

あみだくじとは n 本の縦線に対して、いくつかの横線を描いて得られていました。

つまり、\sigma_ii 番目の縦線と i+1 番目の縦線の間の
横線1本分の置換とします。ただし、i=1,\cdots, n-1です。下の例は n=4 の場合です。



全てのあみだくじは、この横線のパターンをいくつか組み合わせてできていますので、例えば、



としたとき、この置換は、\sigma_i と積表示を用いて、
\sigma_3\cdot \sigma_2\cdot \sigma_1\cdot \sigma_2\cdot \sigma_3\cdot \sigma_3\cdot \sigma_1\cdot \sigma_2\cdot \sigma_1
とかけます。

しかし、置換群の積表示は、一意的には決まらなくて、同じ置換を表す異なる積表示があり得ます。

すぐわかるのは、同じ横線を続けて2回引いてやると、
それは、何もしないことと同じです。
つまり、\sigma_i^2=e ということになります。
このような式を置換群の関係式と言います。

他にもこのような関係式が存在して、

以下のようになります。

定理(置換群の標準的な関係式)
置換群の関係式は以下のもので尽きる。
  1. \sigma_i^2=e (i=1,\cdots n)
  2. \sigma_i\sigma_{i+1}\sigma_i=\sigma_{i+1}\sigma_i\sigma_{i+1} (i=1,\cdots, n-2)
  3. \sigma_i\sigma_j=\sigma_j\sigma_i  (|i-j|\ge 2 かつ、1\le i,j\le n-1)
最初のものは上で説明した通りですが、
2番目のものは、それほど明らかではありませんが、図を描いてみるとよくわかります。
一部レポート問題にもしました。
最後のものは、横線を入れるところがある程度遠かったら、どちらを先にやっても
構わないということです。これもあみだくじを描いてみると、納得します。

これによると、n=3 の置換を
\{e,\sigma_1,\sigma_2,\sigma_1\sigma_2\sigma_1,\sigma_1\sigma_2,\sigma_2\sigma_1\}
のように書き下すことができます。

巡回置換表示法

あらゆる置換は、ある数から出発すると、必ず元の数字に戻ってきます。
例えば、
\begin{pmatrix}1&2&3&4&5\\2&3&1&5&4\end{pmatrix}
とすると、1\to 2\to 3\to 14\to 5\to 4
のように、これは、3回回っても戻るものと、2回回って戻るものが含まれています。
そのような置換を(1,2,3)(4,5) のように表すことにします。
つまり置換 (1,2,3) は、
\begin{pmatrix}1&2&3&4&5\\2&3&1&4&5\end{pmatrix}
を表し、置換 (4,5) は、
\begin{pmatrix}1&2&3&4&5\\1&2&3&5&4\end{pmatrix}

を表します。
このように、ある数字から出発して、一周して元の数字に戻るだけの置換、
例えば、(1,2,3)(4,5)巡回置換と言います。
よって、
\begin{pmatrix}1&2&3&4&5\\2&3&1&5&4\end{pmatrix}=(1,2,3)(4,5)
のように表すことができます。
これを、置換の巡回置換表示と言います。
また、(4,5) のように、2つの数字のみ入れ替えて、ほかは入れ替えない巡回置換を
互換といいます。

また、これらの置換 (1,2,3)(4,5) は互いは関係しないサイクルなので、
これらは可換です。つまり、どちらを先に書いても変わりません。
また、(1,2,3) は、(2,3,1) と書いても同じ巡回置換を表します。

内部自己同型
ここで、\sigma\in S_n を選んで固定します。
このとき、次で定まる写像 f_\sigma:S_n\to S_n を考えます。

x\mapsto \sigma^{-1}x\sigma

つまり、x\in S_n に対して、\sigma^{-1}\cdot x\cdot  \sigma を対応させる、
S_n から S_n への写像です。
この写像は、S_n から S_n への全単射になるのですが、
単射になることを示します。
f_\sigma(x)=f_\sigma(y) であるとすると、\sigma^{-1}x\sigma=\sigma^{-1}y\sigma が成り立ち、両辺に \sigma を左からかけると、x\sigma=y\sigma
となり、\sigma^{-1} を右からかけると、x=y となります。
つまり、f_\sigma(x)=f_\sigma(y) ならば、x=y が成り立ったので、
f_\sigma は単射であることがわかりました。

また、全射性の方はレポートに出しました。
つまり、任意の x\in S_n に対して、f_\sigma(y)=x となる y\in S_n
存在することを言えば良いのですが、
y として、\sigma x\sigma^{-1} とすると、
f_\sigma(\sigma x\sigma^{-1})=\sigma^{-1}\sigma x\sigma^{-1}\sigma=x
となり、f_\sigma(y)=x が成り立つので、f_\sigma が全射であることがわかりました。

全射かつ単射な写像を全単射というのだったから、f_\sigma は全単射であることがわかり
ました。

また、f_\sigma は全単射かつ、
f_\sigma(x\cdot y)=f_\sigma(x)f_\sigma(y) が成り立ちます。
なぜなら、
f_\sigma(x\cdot y)=\sigma^{-1}(xy)\sigma=\sigma^{-1}x\sigma\sigma^{-1}y\sigma=f_\sigma(x)f_\sigma(y)
となるからです。

このように、S_n から S_n への写像で、全単射かつ f_\sigma(x\cdot y)=f_\sigma(x)f_\sigma(y) が成り立つものを同型写像といいます。

この f_\sigma のように、\sigma^{-1}\sigma を左から、また、右から
かけて得られる同型写像のことを内部自己同型と言います。
自己というのは、写像が S_n 自身に戻ってくるので、自己と言います。

また、内部自己同型の特徴として、
以下のものがあります。


定理(内部自己同型による巡回置換表示保存則)
内部自己同型 f_\sigma によって、x\in S_n
巡回置換表示のタイプは変わらない。

巡回置換表示タイプとは、x\in S_n を互いに交わらない巡回置換の積で書いたとき、
(\ast, \ast ,\ast)(\ast,\ast) のような巡回置換の積の形をいいます。
ここで、\ast には、何か数字が入り、例えば、(1,2,3)(4,5) などとなります。

例えば、n=3 の時は、
e
(\ast,\ast)
(\ast,\ast,\ast)
の3種類あり、

n=4の場合は、
e
(\ast,\ast)
(\ast,\ast,\ast)
(\ast,\ast,\ast,\ast)
(\ast,\ast)(\ast,\ast)
の5種類あります。

この巡回置換の積の形が、一般の n について何になるかという
問題を出しましたが、これは分割数 p(n) というものになります。

最後に、置換群について深い定理を述べて終わります。

定理(外部自己同型)
n=6 の時に、自己同型 S_n\to S_n で、
内部自己同型ではないものが存在する。

内部自己同型ではないものをここでは外部自己同型といいます。

どのようなものがそれになるかというと、
g:S_6\to S_6 を、
g((1,2))=(1,2)(3,4)(5,6)
g((2,3))=(1,6)(2,4)(3,5)
g((3,4))=(1,4)(2,3)(5,6)
g((4,5))=(1,6)(2,5)(3,4)
g((5,6))=(1,3)(2,4)(5,6)
とすることで得られます。

このように定めてやったものは、同型になることを示す必要がありますが、
これは、確かめるのは大変すぎるので一部だけを示してもらいました。

この写像が内部自己同型でないことは、上の定理からすぐにわかります。
もし、g が内部自己同型であったとしたら、(1,2) の行先は (1,2) と同じ
タイプの巡回置換表示を持つはずです。
しかし、行先は互換3つの積としてかけているので、
(1,2) とは違うタイプであることが分かります。
これは、上の、内部自己同型による巡回置換表示保存則定理と矛盾しますので、やはり、g が外部自己同型であることが
わかります。

また、驚くべき事実として、
このように外部自己同型が存在するのは n=6 のときのみであることが知られて
おり、n=6 のときも、このような形のみということが証明されています。
なぜ、n=6 のときだけ?という疑問が残りますが、
これは置換群の深い事実だというほかありません。

置換群の外部自己同型については、以前の記事(リンク)にも
書きました。

このような外部自己同型が存在することは、たまに、応用があります。
その話題を第2回の授業で登場させます。

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