Loading [MathJax]/extensions/TeX/mathchoice.js

2018年7月23日月曜日

外書輪講I(第13回)

[場所1E503(月曜日5限)]


現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature 14, 15をやりました。

Miniature 14

内周が g で、最小次数が r となるグラフの中で最小頂点数を
もつグラフの頂点数を n(r,g) とします。

内周が g=2k+1 のとき、
1+r+r(r-1)+r(r-1)^2+\cdots +r(r-1)^{k-1}\le n(r,g)
となります。このイコールが成り立つグラフのことを
Mooreグラフ(ムーアグラフ)といいます。

例えば、内周が5 の場合、ムーアグラフの頂点数は、
1+r+r(r-1)=r^2+1 となります。

内周が偶数 g=2k の場合もありますが、そのときは、
1+r+r(r-1)+r(r-1)^2+\cdots+r(r-1)^{k-2}+(r-1)^{k-1}\le n(r,g)
が成り立ちます。このイコールが成り立つグラフのことを generalized polygon
といいます。

このminiatureでは、内周が5となるムーアグアフの
最小次数 r がスペクトラルグラフ理論により高々3種類に絞られる
という定理について紹介されています。


定理
G が内周が5のムーアグラフであるなら、G の最小次数 r
r\ge 3 であるならば r\in \{3,5,57\} である。


r=3 の場合は、前回も登場したペテルセングラフであり、r=5 の場合は、
ホフマン-シングルトングラフといいます。

r=57 の場合だけ、その存在が未だ保証さていません。
もし存在すれば、頂点数 3250 で、最小次数が 57 で、内周が 5
グラフになります。
もし発見できれば、発見者の名前が付けられて 誰々のグラフということに
なるのではないでしょうか?

ムーアグラフは、正則グラフになることを注意しておきます。
つまり、最小次数とはいえ、すべての頂点で同じ次数を持ちます。


上の定理を証明するには、以下の補題を証明する必要があります。

補題
内周が 5 で、最小次数 r3 以上のムーアグラフの頂点 u,v
が辺で結ばれていないとき、u,v の共通の近傍はちょうど1点である。

この補題はよく考えればわかりますから、省略します。


しかし、この性質が今後定理を証明するのに生きてきます。
また、u,v が隣接しているとき、u,v の共通の近傍は存在しませんので、
ムーアグラフの隣接行列 A の2乗 BB=(b_{ij}) とするとき
b_{ij}=\begin{cases}r&i=j\\1&\{i,j\}\not\in E(G)\\0&\{i,j\}\in E(G)\end{cases}
が成り立ちます。ここで、E(G) はグラフの辺の集合です。
ここで上の補題を使いました。

よって、
B=A^2=rI_n+J_n-I_n-A
が成り立ちます。
この関係式から、r 以外の固有値 \lambda は、\lambda^2+\lambda-(r-1)=0
を満たします。

つまり、固有値 r の固有空間の次元は、1であり、
この2つの解とトレースゼロ条件とランクの式から、
m_1\rho_1+m_2\rho_2+r=0 かつ
m_1+m_2+1=n=r^2+1
となります。

これらの式から、r=3,5,57 しかないことがわかります。

r=57 の場合のデータをもう一度書いておくと、
頂点数 3250
最小次数 57
隣接行列の固有値は、57, 7, -8
その重複度は 1, 1729, 1520
となります。

Miniature 15
{\mathbb R}^d の中へのいくつかの点の埋め込みで、点同士の距離が
2種類のものを求めるとき、その頂点の最大値 n(d)d によって
上から

n(d)\le \frac{1}{2}(d^2+5d+4)
による不等式が成り立つという内容です。

2018年7月21日土曜日

外書輪講I(第12回)

[場所1E503(月曜日5限)]

HPに行く

現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature 13, 14をやりました。

その前に、12で出されている下の主張を詳しく証明してもらいました。

Miniature 12

R を平面上の長方形とする。
その互いに垂直な2辺の長さを a,b とする。
{\mathbb R}{\mathbb Q} 上のベクトル空間とする。
このとき、 f を線形写像 {\mathbb R}\to {\mathbb R} とする。
平面上の長方形から {\mathbb R} への写像 v を、
v(R)=f(a)f(b) として定義する。

R の1辺に平行な直線で R を二分したとき、できる長方形を R_1, R_2 とする。
このとき、f の線型性により、v(R)=v(R_1)+v(R_2) が成り立ちます。

一般に、R がいくつかの長方形 R_1,R_2,\cdots, R_n によって
タイリングされているとします。
タイリングとは、R_iR_j に対して、i\neq j となるなら、
R_i\cap R_j は、R_i,R_j の境界のある線分に含まれることをいいます。

主張
このとき、v(R)=\sum_{i=1}^nv(R_i) となります。

これは、v(R)=v(R_1)+v(R_2) の性質だけを使って
証明をすることができます。
証明は授業中にした通りですので、ここでは省略します。
ヒントは、長方形の各辺と平行な直線を使って区切られた長方形の
網目 R=R_{11}\cup\cdots \cup R_{1n}\cup R_{21}\cup\cdots R_{m1}\cup\cdots \cup R_{mn}
によって R がタイリングされている場合について証明することです。

Miniature 13
をやりました。これはスペクトラルグラフ理論の話です。
グラフの隣接行列を使って、グラフの性質を引き出します。
グラフ G に対してその頂点を v_1,v_2,\cdots,v_n とするとき、
隣接行列 A=(a_{ij}) とは、

v_i,v_j が辺で結ばれているとき、a_{ij}=1
となり、そうでなければ、a_{ij}=0 である

として定義される行列です。

また、隣接行列は、自然に実対称行列であって、その主要な性質は、
以下となります。

  • 固有値は全て実数
  • 対角化可能
  • 相異なる固有空間は互いに直交
  • トレース(対角成分の和)はゼロ

ここでの話は、頂点数が 10 のグラフの話です。
前回(リンク) に基礎的な用語については書きました。
K_{10} は、頂点数が 10 の完全グラフです。
ペテルセングラフというのは、頂点数が10で、各辺からは、
3つの辺が存在する(次数が3という)正則グラフです。
また、内周は5です。証明してもらったのは、以下の定理です。


定理
K_{10} を頂点数 10 の完全グラフとします。
ペテルセングラフと同型な3つ部分グラフによって K_{10}
を覆うことができない。

覆うの意味については、前回の外書輪講のページを見てください。

このペテルセングラフの隣接行列は、A^2+A=J_{10}+2I_{10}
を満たすことがわかるのですが、その理由は次のMiniature 14を読むとわかります。
J_{10} はすべての成分が 1 のサイズが 10 の正方行列です。

注意したいのは、この関係式から、A の固有値がわかるということです。
\lambdaA の固有値とし、その固有ベクトルを {\bf v} とすると、
A が次数が3の正則グラフであることから、直ちに、\lambda=3 となることが
できて、その固有ベクトルは、{\bf 1}=(1,1,\cdots,1)^T となります。
また、この固有ベクトルと独立な固有ベクトルは、{\bf 1} に直交し、
{\bf 1}\cdot {\bf v}=0 となります。
とくに、J_{10}{\bf v}={\bf 0} となります。
そのような固有値は、(\lambda^2+\lambda ){\bf v}=2{\bf v} であり、{\bf v}\neq {\bf 0} であるので、\lambda^2+\lambda-2=0 が成り立ちます。
よって、固有値3の固有空間は1次元で、{\bf 1} がその基底となります。
それ以外の固有値は 1-2 となります。

固有値の重複度込みの和は、隣接行列のトレースと言われ、隣接行列の場合
いつもゼロです。
m_1,m_{-2} を 固有値 1,-2 のそれぞれの重複度とすると、
3 の重複度は 1 であるから、m_1-2m_{-2}+3=0 であり、
m_1+m_{-2}=9 がなりたち、この方程式から、m_1=5m_{-2}=4 がわかります。

というわけで、次の補題が証明されます。

補題
ペテルセングラフの隣接行列 A は、1 を固有値にもち、
その固有空間の次元は 5 であり、-3 を固有値にもたない。



また、完全グラフが3つの部分グラフで覆われる時、
J_{10}-I_{10}=A_P+A_Q+Q_R となるペテルセングラフと同型なグラフの隣接行列A_P,A_Q,A_R がでます。
ここで、J_{10}-I_{10}K_{10} の隣接行列です。

A_P,A_Q,A_R の固有値 3 の固有空間は、 {\bf 1} から生成され、
そのほかの固有空間は、{\bf 1}と直交する9次元部分空間です。
A_PA_Q の固有値 1 の固有空間は、5次元ずつあるので、
9次元の中で、それぞれの固有値1 の固有空間になっている
ゼロでないベクトル {\bf w} が存在することになります。
A_P{\bf w}={\bf w} かつ、A_Q{\bf w}={\bf w}
です。このベクトルを使って、
A_R{\bf w}=(J_{10}-I_{10}-A_P-A_Q){\bf w}=-{\bf w}-{\bf w}-{\bf w}=-3{\bf w}
となります。よって上に書いたことから矛盾となります。

Miniature 14
は、Miniature 13 からのつづきのグラフの話です。

内周が g=2k+1 最小次数(頂点に関して最小の次数)が r のグラフで、
頂点数が 1+r+r(r-1)+\cdots+r(r-1)^{k-1}=\frac{r(r-1)^k-2}{r-2} となるグラフを
Moore グラフといいます。
内周 2k+1 で、最小次数が r のグラフの頂点数は、\frac{r(r-1)^k-2}{r-2}
を下回ることはありません。
つまり、そのようなグラフの頂点はこの値以上となるのです。
それについては、マトウセク

また、この数がちょうど頂点数となるグラフが存在するかどうかは
難しい問題となります。
また、上からのboundを求めることもグラフ理論での興味深い問題の1つですが、
その決定も難しいです。

Miniature 13で出てくるペテルセングラフは、内周が 5 で、最小次数が3の
Mooreグラフとなります。これは、各次数が全て3となる正則グラフにもなっています。

2018年7月17日火曜日

数学類特別セミナーI(第1回)

[場所1E203(金曜日6限)]

HPに行く
スライド

フレッシュマンセミナーの続きの内容についてやりました。
前回は、いくつかの多項式関数の連続性について示しました。
今回は、指数関数の連続性についてやりました。
まずは、下の問題を見ておきましょう。


(例題)
y=e^xx=a で連続であることを示せ。



まず、x=a で関数 f(x) が連続であるとは、
関数 f(x) が下の定義を満たすことをいいます。

(連続関数の定義)
任意の \epsilon>0 に対して、ある \delta>0 が存在して、
|x-a|<\delta が成り立つ任意の x に対して、
|f(x)-f(a)|<\epsilon を満たす。



つまり、値域の点 f(a) のどんなに近く |f(a)-y|<\epsilon にしても、その
その中に、a のある近くの全ての点 |x-a|<\delta が像として入れることができる
ということです。


y=e^xx=a において、連続であることを証明しましょう。

その前に、 |e^x-1|\le e^{|x|}-1 を満たすことを示しましょう。

x\ge 0 とすると、e^{|x|}-1=e^x-1=|e^x-1| となる。
また、x<0 とすると、e^{|x|}-1=e^{-x}-1=-1+\frac{1}{e^x}=e^{-x}(1-e^{x})=e^{-x}|e^{x}-1|\ge |e^x-1|
となる。

(例題の証明)
\forall \epsilon>0 をとります。
今、\delta=\log(1+\epsilon e^{-a}) としましょう。
このとき、|x-a|<\delta となる任意の x に対して
|f(x)-f(a)|=e^a|e^{x-a}-1|\le e^a(e^{|x-a|}-1)<e^a(e^\delta-1)=\epsilon

となるので、x=a において、y=e^x が連続であることがわかる。


授業中では、以下の問題を解いてもらいました。

(問題)
y=e^{x^2}x=a で連続であることを示せ。

以下のように、同じように解くことができます。

(問題の証明)
\forall \epsilon>0 に対して、
\delta=\min\left\{1,\frac{\log(1+e^{-a^2}\epsilon)}{1+2|a|}\right\} とします。
このとき、|x-a|<\delta となる任意の x に対して、
|x+a|\le |x-a|+2|a|\le 1+2|a| を満たします。
よって
|e^{x^2}-e^{a^2}|=e^{a^2}|e^{x^2-a^2}-1|=e^{a^2}|e^{x^2-a^2}-1|\le  e^{a^2}(e^{|x-a||x+a|}-1)
<e^{a^2}(e^{\delta(1+2|a|)}-1)\le \epsilon
となりますので、y=e^{x^2}x=a で連続となります。(証終)

2018年7月9日月曜日

外書輪講I(第11回)

[場所1E503(月曜日5限)]


現在外書輪講では、Matousekの33-Miniaturesをみんなで読んでいます。
今回は、Miniature -11, 12, 13をやりました。

Miniature-11
は行列の検算ついての話でした。

2つの n\times n 行列を掛けるには、通常では O(n^3) の手間がかかります。
その計算の確かめる確率的な方法があります。
この方法だと、O(n^2) のオーダーくらいの手間です。

たとえば、{\bf x}\in \{0,1\}^n を適当に(確率 1/2^n )持ってくるとき、
AB とその計算結果を C としたとき、AB{\bf x}C{\bf x}
計算して、値が違えば、間違えているということがわかります。

この方法だと、ベクトルに行列を掛け算して得られる手間だけ、つまり
O(n^2) の手間で検算ができることになります。

このMiniature の中に次の主張が含まれています。


AB\neq C であるとき、この手法を使えば、少なくとも確率1/2で AB\neq C
を見出せる。


 D=C-AB として、D がゼロ行列でないとします。
このとき、{\bf x}\in \{0,1\}^n を同確率で選ぶ時、
D{\bf x}\neq 0 となる確率は、少なくとも 1/2 であることを示せばよいです。

今、D=(d_{kl}) とし、{\bf y}=D{\bf x} とし
{\bf y}=(y_1,\cdots, y_n)^T とします。

d_{kl}\neq 0 とします。
このとき、D{\bf x}=d_{k1}x_1+\cdots+d_{kn} とします。
今、l=n としてもかまいません。
y_n=d_{k1}x_1+\cdots+d_{kn}x_n=S+d_{kn}x_n とします。
x_1,\cdots, x_{n-1} を固定して、x_n を確率1/2で0か1を出すとします。

よって、S は固定されており、SS+d_{kn} のどちらかは 0 ではないので、
そのどちらかで y_n\neq 0 が検出できます。
つまり、D\neq 0 が検出できます。
x_1,\cdots, x_{n-1} が動いても同じ状況なので、
確率は少なくとも1/2でy_n\neq 0 かつ、{\bf y}\neq 0 つまり、D\neq O が検出できます。

Miniature 12
この話は、{\mathbb Q} 上のベクトル空間 {\mathbb R} を用いることで、
次の幾何学的な定理を示します。

定理
x を無理数とします。1,x を辺に持つ長方形 R に対して、この長方形を
任意の有限個の正方形によって埋め尽くすことができない。


という内容です。ここで、有限個の正方形 Q_1,Q_2,\cdots, Q_n
によって埋め尽くすとは、
R=Q_1,Q_2,\cdots, Q_n かつ、i\neq j に対して、Q_i\cap Q_j が、
Q_i, Q_j の境界に含まれる。
ということを指します。

(証明)
有限個の正方形 Q_1,Q_2,\cdots, Q_n によって R を埋め尽くすとします。
Q_i の辺の長さを s_1,s_2,\cdots, s_n とします。

このとき、V1,x,s_1.\cdots, s_n によって生成されれているベクトル空間
とします。

x が無理数なので、1,x は一次独立であり、
線形写像 f:V\to {\mathbb R}f(1)=1, f(x)=-1
を満たすものが存在します。

例えば、b_1,b_2,\cdots, b_kV の基底とし、b_1=1, b_2=x とすることができます。
f(b_i)=0, i\ge 3 とすればよいのです。
s_1,s_2,\cdots, s_n1,x{\mathbb Q} 上の1次結合となる可能性は
あるので、改めて、f(s_1) の行き先を自由に決めることはできるかどうかわかりません。
s_1 が有理数なら、f(s_1)=s_1 となります。

この写像を用いて、上の定理を示します。
R を辺の長さが a,b の長方形とします。
このとき、v:\{\text{長方形}\}\to {\mathbb R}
v(R)\to f(a)f(b) と定義します。

このとき、
v(R)=f(1)f(x)=-1=\sum_{i=1}^n(Q_i)=\sum_{i=1}^nf(s_i)^2\ge 0
となり矛盾します。

ここで、示さなければならないのは、Q_1,\cdots, Q_n
R を埋め尽くしているとすると、v(R)=\sum_{i=1}^n(Q_i) となることです。

Miniature 13
は、グラフ理論の話ですが、途中まででした。

内容は、以下となります。

定理
K_{10} を頂点数 10 の完全グラフとします。
ペテルセングラフを P とすると、K_{10}
P と同型な 3個の部分グラフによって覆うことができない。

ここで、グラフ G がその部分グラフ G_1,\cdots ,G_n で覆うとは、
G_1,\cdots ,G_nG の部分グラフで、G_1,\cdots,G_n
の辺集合の和集合は、ちょうど G の辺集合と一致します。
つまり、それらは、お互いに重複はありません。

ペテルセングラフについては、ここにリンクを貼っておきます。
リンクではピーターセンとなっていますが、どっちの発音が正しいのかは
知りません。

完全グラフ K_n とは、どの2つの頂点も辺で結ばれるものをいいます。
頂点 v に対して、v に1つの辺でつながる頂点全体の集合を v
近傍といい、その個数を次数といいます。
G正則グラフとは、G の各頂点の次数が一定のグラフのことをいいます。

また、G内周とは、G に含まれる最小のサイクル(閉路)
の辺の数のことをいいます。

うえの定理を証明するのには、スペクトラルグラフ理論を用います。
スペクトラルグラフ理論で活躍するのは、隣接行列です。
隣接行列 A=(a_{ij}) を以下で定義します。

グラフ G の頂点の個数を n とし、G の頂点に 1,2,\cdots, n の名前をつける。
An\times n 行列であって、
a_{ij}=\begin{cases}1&i,j\text{が辺で結ばれる}\\0&\text{上記以外}\end{cases}
としたものをいいます。

ペテルセングラフは頂点数が10で、次数が3の正則グラフです。
なので、ペテルセングラフの辺の数は、10\times 3/2=15 であり、
K_{10} の辺の数は、\binom{10}{2}=45 すので、 ペテルセングラフで
K_{10} を覆えるとすると、3つということになります。


次数が r の正則グラフの隣接行列の固有値の絶対値の最大は
ちょうど r ということが知られています。

2018年7月2日月曜日

フレッシュマンセミナー(第10回)

[場所1E202-203(金曜日6限)]

HPに行く
スライド

今回は、イプシロンエヌ論法とイプシロンデルタ論法についてやりました。

イプシロン-エヌ論法

数列 a_na に収束することを \epsilonN を使って、以下のように定義します。


任意の \epsilon>0 に対してある自然数 N が存在し、
n>N なる任意の自然数 n に対して、
|a_n-a|<\epsilon
が成り立つとき、
\lim_{n\to \infty}a_n=a
とかく。


つまり、数列 a_na に収束するということは、
ある番号から先は全て任意に決めた a の近くの範囲 (a-\epsilon,a+\epsilon) の中に
入っているということです。
確かに、このような定義だと、数列の収束をうまく言い表していますね。


これにより、数列 a_n が収束するかどうかを調べることができます。
a_n=\frac{1}{n}a_n=\frac{1}{1+e^n} a_n=\sqrt{n+1}-\sqrt{n}
などを解いてもらいました。
解き方などは、上のスライドを見てください。

a_{n+1}=1+\frac{1}{a_n} かつ a_1=1 を満たす数列が
a=\frac{1+\sqrt{5}}{2} に収束することを示しましょう。
\frac{\sqrt{5}-1}{2}=\frac{1}{a} を用いると、

|a_{n+1}-a|=|1+\frac{1}{a_n}-\frac{1+\sqrt{5}}{2}|=\frac{1}{a_n}|a_n(\frac{\sqrt{5}-1}{2})-1|
=\frac{1}{a_na}|a_n-a|<\frac{1}{a}|a_n-a|
となります。
よって、この不等式を用いることで、

|a_n-a|<\frac{1}{a^{n-1}}|a_1-a|=\frac{1}{a^n} となります。

今、\epsilon>0 を任意に取ります。
このとき、N=\lceil -\log_a\epsilon\rceil とすると、
a^N>a^{-\log_a\epsilon}>1/\epsilon

n>N となる任意の n に対して、
|a_n-a|<\frac{1}{a^n}<\frac{1}{a^N}<\epsilon
となるので、\epsilon-N 論法により、
数列 a_na に収束する。


イプシロン-デルタ論法
関数の連続性についての話もやりました。

関数 y=f(x)x=a において連続であることは、



任意の \epsilon に対して、ある \delta が存在して、
|x-a|<\delta を満たす任意の x に対して、|f(x)-f(a)|<\epsilon を満たす



となります。
つまり、値域の f(a) の(どんなに縮めた)近くの領域 |f(x)-f(a)|<\epsilon に対しても、
そこに入って来る a の近くの領域 |x-a|<\delta がある。
ただし、|x-a|<\delta の全ての x |f(x)-f(a)|<\epsilon に入って
こなければなりません。

つまり、連続ではないというのは、ある程度 \epsilon で狭めた
f(a) の近くの領域には、|x-a|<\delta となる x で、
|f(x)-f(a)|<\epsilon に全て入ってこれないものが存在することを言います。

例えば、

f(x)x の符号を与える関数とします。
つまり、x>0 なら、f(x)=1x=0 なら f(x)=0、かつ、x<0 なら f(x)=-1
とします。

このとき、x=0 で、この関数が不連続であることを示します。
感覚としては明らかですが。

\epsilon=1/2 としましょう。
このとき、|y-0|<1/2 において、いかなる \delta>0
対しても、|x-0|<\delta となる x が存在して、その像 y
|y|<1/2 にすることができないものが存在します。
例えば、x>0 ならば、f(x)=1 ですから、|f(x)|<1/2 にすることができません。
x<0 でもそうです。

ですので、この関数は不連続となります。


次に、\epsilon-\delta 論法を用いて関数が連続であることを示してみましょう。

(証明)
y=x^2x=a で連続であることを示します。
まず、\epsilon>0 を任意に取ります。

次に、\delta=\min\left\{1,\frac{\epsilon}{1+2|a|}\right\} とします
|x-a|<\delta となる x を任意に取ります。
このとき、

|x+a|\le |x-a+2a|\le |x-a|+2|a|\le \delta+2|a|\le 1+2|a|

となります。よって、
|f(x)-f(a)|=|x-a||x+a|< \delta(1+2|a|)\le \epsilon
となるので、
f(x)x=a で連続となります。


この証明はわかるけれども、何をしているかわからないという人のために
書いておきます。

|f(x)-f(a)| は、|x-a|<\delta\delta が小さくなるに従って、
小さくなっていかなければならないが、
|x-a||x+a|と分けたことで、小さくなる部分 |x-a| とそうでもない部分 |x+a|
が明確になる。|x-a|<\delta となる x を任意にとったとき、

|x+a| はそれほど大きくはならない。しかし、|x-a| の部分はどんどん小さくできる。

実際、任意に与えた \epsilon に対してそれよりは小さくできる。

連続性を示すには、\epsilon に対して、\delta をどれほど小さくとっておけばよいか?
が問題でした。

いきなり、\delta として、\delta=\min\left\{1,\frac{\epsilon}{1+2|a|}\right\}
としていますが、これはいきなり思いつくのではなく、

最後の式から、\delta(1+2|a|)\le \epsilon を満たすように、\delta を取っておけばよい
ことがわかるので、
\delta\le \frac{\epsilon}{1+2|a|} とすればよいということがわかります。

証明の途中で |x+a| がそれほど大きくならないことを示すために、
|x+a|\delta の評価式が入っていると少し面倒なので、
\delta\le 1 を使いました。\delta\le 2 でもかまいません。
結局、そのどちらよりも小さくしておけばよいのだから、
\delta=\min\left\{1,\frac{\epsilon}{1+2|a|}\right\} としたわけです。