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2015年6月30日火曜日

無限積について

無限積の収束の定義

\prod_{n=1}^\infty(1+a_n)
が収束するとは、p_m=\prod_{n=1}^m(1+a_n) がある、ゼロ ではない値に
収束するときをいいます.

また、無限積が絶対収束するとは

\prod_{n=1}^m(1+a_n)=\exp(\sum_{n=1}^m\log(1+a_n))
であり、この関係を用いて、

左辺が絶対収束することを、右辺の指数の肩の級数
 \sum_{n=1}^\infty\log(1+a_n) が絶対収束するときを言います.


絶対収束の利点は、積の順番を自由に変えることができるということです.

さらに、次の定理があります.

上の形の無限積が絶対収束するための必要十分条件は級数
\sum_{n=1}^\infty a_n
が絶対収束することである.


この定理は定義に戻るよりはとても使いやすいものです.

例えば、無限積
\prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{z^2}{n^2\pi^2}\right)
は絶対収束します.

\sum_{n=1}^\infty \frac{z^2}{n^2\pi^2}
が絶対収束することと上の定理を使えばよいわけです.

ちなみにこの値はちょうど\frac{\sin z}{z} となります.

しかし、無限積はかける順番に関してはシビアです.

例えば、\prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{z^2}{n^2\pi^2}\right)
ではなく、
\left(1-\frac{z}{\pi}\right)\left(1+\frac{z}{\pi}\right)\left(1-\frac{z}{2\pi}\right)\left(1+\frac{z}{2\pi}\right)\cdots
と、かける順番を変えると、上の定理から絶対収束しません.
(この場合掛ける順番を変えたのかどうかよく考えないと分かりません.積の順番の他に、どれが一つ一つの因子なのかも重要な問題です.)

実際、
-\frac{z}{\pi}+\frac{z}{\pi}-\frac{z}{2\pi}+\frac{z}{2\pi}+\cdots
が絶対収束しないからです.

ふたつを組にしてからかけることと順番に一つ一つかけていくことは別な
値を求めようとしているのです.


正確にいえば、この値は収束するかもしれないけど、掛ける順番を好きに変えた時に値が
異なったり収束しなかったりします.

例えば、
\prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{z}{n}\right)\cdot\prod_{n=1}^\infty\left(1+\frac{z}{n\pi}\right)
という順番にしてやると、前者の無限積は 0 に発散し、後者の方の無限積は \infty
発散します.無限積が 0 になることもやはり発散といいます.


ワイエルシュトラスの正則関数の無限積表示

しかし、上の式をさらに変形して
\left\{\left(1-\frac{z}{\pi}\right)e^{\frac{z}{\pi}}\right\}\left\{\left(1+\frac{z}{\pi}\right)e^{-\frac{z}{\pi}}\right\}\left\{\left(1-\frac{z}{2\pi}\right)e^{\frac{z}{2\pi}}\right\}\left\{\left(1+\frac{z}{2\pi}\right)e^{-\frac{z}{2\pi}}\right\}\cdots

としてやります.、(その理由は後で分かります.)
このとき、実は無限積は絶対収束しています.(それがこの変形をした理由です.)

上の定義で a_n に相当する数列の級数が絶対収束すればよいです.
a_n に相当するところは、

\left(1-\frac{z}{m\pi}\right)e^{\frac{z}{m\pi}}-1 であり、
この部分が絶対収束するオーダーであればよいことになります.
O(1/m^2) くらいであればもう十分です.

実際、指数関数のテイラー展開を応用すると

\left(1-\frac{z}{m\pi}\right)e^{\frac{z}{m\pi}}=\left(1-\frac{z}{m\pi}\right)\left(1+\frac{z}{m\pi}+O\left(\frac{1}{m^2}\right)\right)
=1-\left(\frac{z}{m\pi}\right)^2+O\left(\frac{1}{m^2}\right)=1+O\left(\frac{1}{m^2}\right)
より、
\left(1-\frac{z}{m\pi}\right)e^{\frac{z}{m\pi}}=1+O\left(\frac{1}{m^2}\right)
となります.


ここで、 e^{\pm\frac{z}{m\pi}} をかけることで、1 以外の部分のオーダーを
O(1/m) から O(1/m^2) にしています.
級数の絶対収束のためです.
こうしてやることで、\left(1\mp\frac{z}{n\pi}\right)e^{\pm\frac{z}{n\pi}} 一つ一つが
独立に好き勝手に動かすことができるようになりました.


元に戻ると、無限積 \prod_{m=1}^\infty (1+a_m)a_m の部分が収束級数の 1/m^2 のオーダーなので

この無限積
\left\{\left(1-\frac{z}{\pi}\right)e^{\frac{z}{\pi}}\right\}\left\{\left(1+\frac{z}{\pi}\right)e^{-\frac{z}{\pi}}\right\}\left\{\left(1-\frac{z}{2\pi}\right)e^{\frac{z}{2\pi}}\right\}\left\{\left(1+\frac{z}{2\pi}\right)e^{-\frac{z}{2\pi}}\right\}\cdots
は絶対収束することになります.

つまり積の順番を自由に入れ替えても値は変わりません.
なので、この e^{\frac{\pm z}{m\pi}} の部分を相殺するように、最初に掛けてしまえば、
もとの \prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{z^2}{n^2\pi^2}\right) に一致し、

\prod_{m=1}^\infty \left\{\left(1-\frac{z}{m\pi}\right)e^{\frac{z}{m\pi}}\right\}\left\{\left(1+\frac{z}{m\pi}\right)e^{-\frac{z}{m\pi}}\right\}
=\prod_{m=1}^\infty \left(1-\frac{z^2}{(m\pi)^2}\right)=\prod_{n=1}^\infty\left(1-\frac{z^2}{n^2\pi^2}\right)=\frac{\sin z}{z}

このうまくいっている e^{\pm\frac{z}{m\pi}} の積は、このように収束に関して
大事な項であり、ワイエルシュトラス(Weierstrass)の補正因子といいます.

一般に、\frac{\sin z}{z} のような正則な関数は上のように補正因子を用いた絶対収束する
無限積として書けることが知られています.
これをワイエルシュトラスの因数分解定理 (Weierstrass Factrization Theorem)といいます.

このことはまた関数論などの授業で習ってもらうことにして、

ここでは無限乗積とその収束性について例をあげておきます.


例1

\frac{\sin z}{z}=1-\frac{z^2}{6}+\cdots とテイラー展開できるので、
\frac{\sin \frac{z}{n}}{\frac{x}{n}}=1+O(1/n^2) がいえます.
つまり、この無限積
\prod_{n=1}^\infty \frac{\sin \frac{z}{n}}{\frac{z}{n}}=\frac{\sin z}{z}\cdot\frac{\sin \frac{z}{2}}{\frac{z}{2}}\cdot\frac{\sin \frac{z}{3}}{\frac{z}{3}}\cdots
は絶対収束します.

これらの例は 下の参考文献(1.)に載っています.


例2

昨日書いた記事(コチラ)の例をもってこれば

\sum_{n=1}^\infty\left(1-n\log\frac{2n+1}{2n-1}\right) でしたが、これは

無限積

\prod_{n=1}^\infty\left(n\log\left(\frac{2n+1}{2n-1}\right)\right)
が絶対収束することも示しています.

また、\sum_{n=1}^\infty\left(1-n\log\frac{2n+1}{2n-1}\right)=\log\prod_{n=1}^\infty e\left(\frac{2n+1}{2n-1}\right)^{-n}
から、

\sum_{n=1}^\infty\left(e\left(\frac{2n+1}{2n-1}\right)^{-n}-1\right)
の絶対収束も意味しています.
  1. Whittaker and Watson, A course of modern analysis, Cambridge Mathematical Fibrary

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