位相空間を考える意味は距離空間ではないような連続な空間を
考えることです.
もっといえば、距離がどうしても入らないような空間にも連続性を考えたい
ということがあると思います.
ですが、考える空間はどうしても距離空間になってしまいます.
距離が入らない空間を考える意味ってあるんでしょうか?
ここではそのような空間を考えることはとても豊かなことであることを
説明します.
距離空間であるとするとどんなことが起こるかというと、ざっというと
下のようです.
完全正規とは、全ての閉部分集合 F に対してある連続関数 f があって、
F=f^{-1}(0) となること
全部分正規とは全ての部分集合が正規となることである.
一般に、
完全正規 \Rightarrow 全部分正規 \Rightarrow 正規
可算コンパクトとは可算開被覆は有限部分被覆をもつ.
点列コンパクトとは任意の点列は収束部分点列をもつ.
極限点コンパクトとは任意の無限点列には極限点が存在する.
集合 A の極限点 p とは p を含む任意の開集合に A の元が含まれること.
なので、距離空間以外のものを考えようとすると、上のどれかの条件を壊せばよいわけです.
また、
ウリゾーンの距離化定理
第2可算かつ正規ハウスドルフならば距離化可能
がありますから、まずそれを外すことを考えるのが筋かもしれません.
もちろん第2可算を満たさない距離空間もあるわけですが.
そういうわけで、手っ取り早く非距離空間(距離化できない空間)を考えますと、
教科書で大体でてくるのを言えば、ゾルゲンフライ直線というのがあります.
(ココ) でも少し取り上げました.
ゾルゲンフライ直線 {\Bbb R}_S とは、
半開区間 [a,b) を開基にもつ実数 {\Bbb R} 上の位相です.
下限位相をもつ実数と言ってもよいです.
これは上のどれを壊しているかというと、2番目の可分と第2可算が同値
という所です.
可分であることは {\Bbb R} の中に {\Bbb Q} 稠密可算集合が
存在することから明らかです.
もちろん証明がいらないほど明らかではありません.
第2可算でないことはすぐ分かります.(ただし選択公理は使います.)
実数 a\in {\Bbb R} を任意の取った時に、区間 [a,a+1) の元 a
に対してa を含み [a,a+1) の内部に含まれる開基 \beta の元が存在します.
それを B_a とおけば、 a\neq a' であれば B_a\neq B_{a'} ですね.
それぞれの\inf を取ってください.
つまり、\beta には必ず非可算無限個は開集合が要ることになります.
これは第2可算でないことを意味しています.
そういうわけで、{\Bbb R}_S には距離空間にはならないことが分かります.
普通の {\Bbb R} 上の距離空間の位相よりも大きい位相(開集合の種類が多い)
であることもすぐ分かりますが、開集合が多すぎて距離空間をはみ出した訳です.
普通の感覚では、開集合が少なくなればなるほど距離空間ではいられなくなりそうです.
例えば、{\Bbb R} 上の密着位相は勿論距離空間ではありません.(非ハウスドルフ)
距離空間でいる為にはほどよく開集合が存在することが重要なのでしょうか?
他にも注目すべき性質として、
ところで、このゾルゲンフライ直線 {\Bbb R}_S まだ他にも面白い性質を持っています.
まず、{\Bbb R}_S はハウスドルフであることはすぐわかると思いますが、
実は正規空間でもあります.正規空間の定義は以下のようです.
正規空間
位相空間 X がハウスドルフであり、任意の2つの閉集合 F,G に対して
開集合 U,V が存在して、
F\subset U,G\subset V かつ U\cap V= \emptyset を満たす.
しかし、2つ直積をとったゾルゲンフライ平面 {\Bbb R}_S^2={\Bbb R}_S\times {\Bbb R}_S
は正規ではないのです.
つまり一般に2つの正規空間の直積は再び正規空間にはなりません.
{\Bbb R}_S^2 の開基は [a,b)\times [c,d) となる集合です.
ちなみに、2つのハウスドルフの積はハウスドルフだし、2つの正則空間の積は正則、
また2つのチコノフ空間の積もチコノフ空間です.
正規になるとこの条件が崩れるのです.
その例を与えているのが {\Bbb R}_S^2 でもあるのです.
{\Bbb R}_S は完全正規であることが分かっているので、完全正規を2つ積を取っても
正規ではいられないのです.
また、上に全部分正規という概念があることからわかるように、
正規空間でも部分空間をとるといつでも正規とは限りません.
また、{\Bbb R}_S^2 は同じように可分な空間であるが、
その部分集合 \Delta=\{(x,-x)\in {\Bbb R}_S|x\in {\Bbb R}_S\} は離散位相が入っていますので
非可分空間です.
つまり、部分空間として非可分空間を含む可分空間ということになります.
積をとっても正規が保たれないということは、ゾルゲンフライの1947年の仕事です。
下の参考文献の (1) は S がパラコンパクトなら S\times Sもそうかというデュドネの
問題に対する答え(否定的解答)です.
パラコンパクトとは任意の開被覆に対して局所有限な開細分となる被覆をもつことです.
開細分被覆
{\mathcal V} が開被覆 {\mathcal U} の開細分であるとは、任意のU\in {\mathcal U}
に対してある V\in {\mathcal V} が存在して、V\subset U となること.
局所有限な被覆 {\mathcal U} とは、任意の点 p に対して、\{U\in {\mathcal U}|p\in U\}
が有限集合であること.
分かっていることはパラコンパクトなハウスドルフ空間は正規です.
よって、パラコンパクトな {\Bbb R}_S の2つの直積 {\Bbb R}_S^2 は
正規ではないのでもちろんパラコンパクトではありません.
よって、正規、パラコンパクトは積をとる操作では保たれない.
が分かります.
このように、距離空間と全く違う性質をもつ空間に出会えるのも距離を入れない
連続な空間(位相空間)を考えたおかげと言えると思います.
位相空間の概念の論理関係を一つ一つ考えていくと、必ずそれを満たさない
狭間の空間が存在します.
つまり、一般位相空間やその概念を考えることは大変貴重で意味深いことなのです.
参考文献の(2) が大変便利です.
距離空間を太陽系とすれば、太陽系を脱して少し軌道を外れていくと
たちまちおかしな空間に出会います.
位相空間の満たすべき定義はたった3つですがその中に
果てしない宇宙への旅が含まれているかと思うと位相空間の定義に
改めて感激せざるをえません
[参考文献]
考えることです.
もっといえば、距離がどうしても入らないような空間にも連続性を考えたい
ということがあると思います.
ですが、考える空間はどうしても距離空間になってしまいます.
距離が入らない空間を考える意味ってあるんでしょうか?
ここではそのような空間を考えることはとても豊かなことであることを
説明します.
距離空間であるとするとどんなことが起こるかというと、ざっというと
下のようです.
- 第1可算公理を満たす.
- 可分であることと第2可算であることとリンデレーフであることは同値
- f:(X_1,{\mathcal O}_1)\to (X_2,{\mathcal O}_2) でX_1 が距離空間なら f が点列連続であることと連続が同値.
- 距離空間の任意の積空間も距離空間
- 距離空間の任意の部分空間も距離空間
- ハウスドルフ
- 分離公理 T_3,T_4 を満たす.
- 完全正規および全部分正規
- コンパクト、可算コンパクト、点列コンパクト、極限点コンパクトが全て同値.
完全正規とは、全ての閉部分集合 F に対してある連続関数 f があって、
F=f^{-1}(0) となること
全部分正規とは全ての部分集合が正規となることである.
一般に、
完全正規 \Rightarrow 全部分正規 \Rightarrow 正規
可算コンパクトとは可算開被覆は有限部分被覆をもつ.
点列コンパクトとは任意の点列は収束部分点列をもつ.
極限点コンパクトとは任意の無限点列には極限点が存在する.
集合 A の極限点 p とは p を含む任意の開集合に A の元が含まれること.
なので、距離空間以外のものを考えようとすると、上のどれかの条件を壊せばよいわけです.
また、
ウリゾーンの距離化定理
第2可算かつ正規ハウスドルフならば距離化可能
がありますから、まずそれを外すことを考えるのが筋かもしれません.
もちろん第2可算を満たさない距離空間もあるわけですが.
そういうわけで、手っ取り早く非距離空間(距離化できない空間)を考えますと、
教科書で大体でてくるのを言えば、ゾルゲンフライ直線というのがあります.
(ココ) でも少し取り上げました.
ゾルゲンフライ直線 {\Bbb R}_S とは、
半開区間 [a,b) を開基にもつ実数 {\Bbb R} 上の位相です.
下限位相をもつ実数と言ってもよいです.
これは上のどれを壊しているかというと、2番目の可分と第2可算が同値
という所です.
可分であることは {\Bbb R} の中に {\Bbb Q} 稠密可算集合が
存在することから明らかです.
もちろん証明がいらないほど明らかではありません.
第2可算でないことはすぐ分かります.(ただし選択公理は使います.)
実数 a\in {\Bbb R} を任意の取った時に、区間 [a,a+1) の元 a
に対してa を含み [a,a+1) の内部に含まれる開基 \beta の元が存在します.
それを B_a とおけば、 a\neq a' であれば B_a\neq B_{a'} ですね.
それぞれの\inf を取ってください.
つまり、\beta には必ず非可算無限個は開集合が要ることになります.
これは第2可算でないことを意味しています.
そういうわけで、{\Bbb R}_S には距離空間にはならないことが分かります.
普通の {\Bbb R} 上の距離空間の位相よりも大きい位相(開集合の種類が多い)
であることもすぐ分かりますが、開集合が多すぎて距離空間をはみ出した訳です.
普通の感覚では、開集合が少なくなればなるほど距離空間ではいられなくなりそうです.
例えば、{\Bbb R} 上の密着位相は勿論距離空間ではありません.(非ハウスドルフ)
距離空間でいる為にはほどよく開集合が存在することが重要なのでしょうか?
他にも注目すべき性質として、
- {\Bbb R}_S は完全不連結.つまり、繋がっているように見える {\Bbb R}_S の各々の点の連結成分は各点のみです.実数に下限位相を入れただけでみんなバラバラの成分になってしまいます.
- 一点は閉集合ですが、一点が開集合となる離散位相よりは弱い位相です.
- 任意のコンパクト部分集合は可算集合かつ(ユークリッド空間上)疎集合(nowhere dense)
- {\Bbb R}_S はリンデレーフ.
- \sigma-コンパクトではない
ところで、このゾルゲンフライ直線 {\Bbb R}_S まだ他にも面白い性質を持っています.
まず、{\Bbb R}_S はハウスドルフであることはすぐわかると思いますが、
実は正規空間でもあります.正規空間の定義は以下のようです.
正規空間
位相空間 X がハウスドルフであり、任意の2つの閉集合 F,G に対して
開集合 U,V が存在して、
F\subset U,G\subset V かつ U\cap V= \emptyset を満たす.
しかし、2つ直積をとったゾルゲンフライ平面 {\Bbb R}_S^2={\Bbb R}_S\times {\Bbb R}_S
は正規ではないのです.
つまり一般に2つの正規空間の直積は再び正規空間にはなりません.
{\Bbb R}_S^2 の開基は [a,b)\times [c,d) となる集合です.
ちなみに、2つのハウスドルフの積はハウスドルフだし、2つの正則空間の積は正則、
また2つのチコノフ空間の積もチコノフ空間です.
正規になるとこの条件が崩れるのです.
その例を与えているのが {\Bbb R}_S^2 でもあるのです.
{\Bbb R}_S は完全正規であることが分かっているので、完全正規を2つ積を取っても
正規ではいられないのです.
また、上に全部分正規という概念があることからわかるように、
正規空間でも部分空間をとるといつでも正規とは限りません.
また、{\Bbb R}_S^2 は同じように可分な空間であるが、
その部分集合 \Delta=\{(x,-x)\in {\Bbb R}_S|x\in {\Bbb R}_S\} は離散位相が入っていますので
非可分空間です.
つまり、部分空間として非可分空間を含む可分空間ということになります.
積をとっても正規が保たれないということは、ゾルゲンフライの1947年の仕事です。
下の参考文献の (1) は S がパラコンパクトなら S\times Sもそうかというデュドネの
問題に対する答え(否定的解答)です.
パラコンパクトとは任意の開被覆に対して局所有限な開細分となる被覆をもつことです.
開細分被覆
{\mathcal V} が開被覆 {\mathcal U} の開細分であるとは、任意のU\in {\mathcal U}
に対してある V\in {\mathcal V} が存在して、V\subset U となること.
局所有限な被覆 {\mathcal U} とは、任意の点 p に対して、\{U\in {\mathcal U}|p\in U\}
が有限集合であること.
分かっていることはパラコンパクトなハウスドルフ空間は正規です.
よって、パラコンパクトな {\Bbb R}_S の2つの直積 {\Bbb R}_S^2 は
正規ではないのでもちろんパラコンパクトではありません.
よって、正規、パラコンパクトは積をとる操作では保たれない.
が分かります.
このように、距離空間と全く違う性質をもつ空間に出会えるのも距離を入れない
連続な空間(位相空間)を考えたおかげと言えると思います.
位相空間の概念の論理関係を一つ一つ考えていくと、必ずそれを満たさない
狭間の空間が存在します.
つまり、一般位相空間やその概念を考えることは大変貴重で意味深いことなのです.
参考文献の(2) が大変便利です.
距離空間を太陽系とすれば、太陽系を脱して少し軌道を外れていくと
たちまちおかしな空間に出会います.
位相空間の満たすべき定義はたった3つですがその中に
果てしない宇宙への旅が含まれているかと思うと位相空間の定義に
改めて感激せざるをえません
[参考文献]
- R.H. Sorgenfly, On the topological product of paracompact spaces, Bull. Amer. Math. Soc. 53, (1947). 631–632.
- Lynn Arthur Steen and J. Arthur Seebach, Jr. Counterexamples in topology, Reprint of the second (1978) edition.Dover Publications, Inc., Mineola, NY, 1995. xii+244 pp