2025年11月23日日曜日

トポロジーB(第5回)

今回は単体複体のホモロジーの計算の詳細について
少し復習しました。また、後半では胞体複体について行いました。

ホームページ(レジュメあり)はこちらになります。

単体複体のホモロジーの計算の詳細

詳細というか、代数的な計算、特に商群の計算です。

まず、アーベル群についての復習をしておきます。
そもそも群についての基本的な知識はこれまで(群について)に書きましたので
そちらを見て下さい。
アーベル群の基本定理により、任意の有限生成アーベル群 $G$ は
必ず
$$G\cong {\mathbb Z}^r\times ({\mathbb Z}/n_1{\mathbb Z})\times ({\mathbb Z}/n_2{\mathbb Z})\times \cdots\times ({\mathbb Z}/n_s{\mathbb Z})$$
となる同型写像が存在しています。
何倍かして0になるような元のことをねじれ元といい、
またそのような元からなる群のことをねじれ群ともいいます。
この直積因子の2番目から以降は全てねじれ群です。

有限生成アーベル群は自由アーベル群の部分とねじれ群からなる巡回群の直積の部分
に分かれます。そのことを自由部分ねじれ部分ともいいます。
自由部分の $r$ のことを $G$ 有限生成アーベル群のランクといい、$G$ の同型不変量
になります。
ランク以下のねじれ部分の群の同型類も位相不変量ということになります。
巡回群の直和の書き方には一意性はありませんので書き方次第ですが、
条件を絞った書き方をすればその表示も一意にすることができます。
余り細かいことはだいすうのはなしになってしまうので省略します。

先週の授業では、ホモロジー群 $\text {Ker}(\partial_n)/\text{Im}(\partial_{n+1})$ を
計算するのに、$\text{Ker}(\partial_n)\cong{\mathbb Z}^r$ かつ $\text{Im}(\partial_{n+1})\cong {\mathbb Z}^s$ であるから
$\text{Ker}(\partial_n)/\text{Im}(\partial_{n+1})\cong {\mathbb Z}^{r-s}$ みたいに
説明してしまった部分もあったのですが、実際はそうはならないことを注意して下さい。

例えば、$r=s=1$ の場合でも ${\mathbb Z}$ の ${\mathbb Z}$ の入り方がいろいろあるからです。
例えば、${\mathbb Z}\cong n{\mathbb Z}\subset {\mathbb Z}$ のようにすれば、
${\mathbb Z}$ が部分群として自明でなく入っていますね。この場合、
商群は ${\mathbb Z}/n{\mathbb Z}$ となります。もちろんこの群は0ではありません。

実は自由アーベル群のランクだけ見たら、入り方は無視して考えることはできます。
部分群 ${\mathbb Z}^s\overset{f}{\hookrightarrow} {\mathbb Z}^r$ があったとき、その商群
${\mathbb Z}^r/f({\mathbb Z}^s)$ のランクは $r-s$ になります。

一般に商群をどのように書けばよいか考えます。

2単体 $\sigma^2$ の境界 $\partial \sigma^2$ のホモロジーを求めてみます。
$\sigma^2=\langle v_0v_1v_2\rangle$ とします。
単体について、$\langle v_iv_j\rangle=\langle ij\rangle$ と書くことにします。
そうすると、$\partial\sigma^2$ からなる単体複体を $K$ とすると、
$K=\{\langle \langle 0\rangle ,\langle1\rangle,\langle2\rangle, \langle01\rangle, \langle02\rangle,\langle12\rangle\}$ となります。
この時、チェイン複体
$$\begin{CD}0@<\partial_0<<C_0(K)@<\partial_1<<C_1(K)@<<<0\end{CD}$$
は、
$$\begin{CD}0@<\partial_0<<{\mathbb Z}^3@<\partial_1<<{\mathbb Z}^3@<<<0\end{CD}$$
ですが、$\text{Ker}(\partial_1)$ このアーベル群の基底について $\partial_1$ は ${\mathbb Z}$ 係数の $3\times 3$行列で表現できますが、
その行列を $A$ とすると、
$$\partial_1(\langle01\rangle, \langle02\rangle,\langle12\rangle)=( \langle 0\rangle ,\langle1\rangle,\langle2\rangle)\begin{pmatrix}-1&-1&0\\1&0&-1\\0&1&1\end{pmatrix}$$
であり、
$A=\begin{pmatrix}-1&-1&0\\1&0&-1\\0&1&1\end{pmatrix}$ の行の基本変形をすると、
$$\begin{pmatrix}1&0&-1\\0&1&1\\0&0&0\end{pmatrix}$$
となります。よって、$Ax=0$ となる $x={}^t(c_1,c_2,c_3)$ は、
$c_1=c_3, c_2=-c_3$ となるので、
$x=\begin{pmatrix}c_3\\-c_3\\c_3\end{pmatrix}=c_3\begin{pmatrix}1\\-1\\1\end{pmatrix}$ 
となりますので
$\text{Ker}(\partial_1)=\langle\langle 01\rangle-\langle 02\rangle+\langle 12\rangle\rangle$ となります。
つまり、$\text{Ker}(\partial_1)\cong{\mathbb Z}$ となります。
ちなみに、このKerの生成元は、$\langle 01\rangle+\langle 12\rangle+\langle 20\rangle$
となり、$\sigma^2$ の境界の1単体をある方向に回ってできるサイクルからなります。

よって、$H_1(K)=\text{Ker}(\partial_1)\cong{\mathbb Z}$ となります。

$A=\begin{pmatrix}-1&-1&0\\1&0&-1\\0&1&1\end{pmatrix}$ の列の基本変形をすると、
$$\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\-1&-1&0\end{pmatrix}$$
となります。よって、$B_0(K)$ は $\langle 0\rangle-\langle 1\rangle, \langle 1\rangle-\langle 2\rangle$ によって生成される群になります。
$\partial_0=0$ ですので、$\text{Ker}(\partial_0)=C_0\cong{\mathbb Z}^3$ となります。

$H_0(K)=({\mathbb Z}\langle 0\rangle+{\mathbb Z}\langle 1\rangle +{\mathbb Z}\langle 2\rangle)/(\langle 0\rangle-\langle 1\rangle, \langle 1\rangle-\langle 2\rangle)$
となります。つまり、${\mathbb Z}^3/{\mathbb Z}^2$ となりますが、
実際、${\mathbb Z}^{3-2}$ となるとはこのままでは証明できないので、
以下のようにします。

ここで $\varphi:H_0(K)\to {\mathbb Z}\langle 0\rangle$ を $[\langle i\rangle]\mapsto \langle 0\rangle$ として定義すると、
$\varphi$ は全射準同型であることはわかるので、単射性を示します。
$H_0(K)\ni x=[a_0\langle 0\rangle+a_1\langle 1\rangle+a_2\langle 2\rangle]$ が、$x\in \text{Ker}(\varphi)$ であるとします。
$\varphi(x)=(a_0+a_1+a_2)\langle 0\rangle$ であり、$a_0+a_1+a_2=0$ となります。
よって、
$x=[a_0\langle 0\rangle+a_1\langle 1\rangle+a_2\langle 2\rangle]=[a_0\langle 0\rangle+(-a_0-a_2)\langle 1\rangle+a_2\langle 2\rangle]$
$=[a_0(\langle 0\rangle-\langle 1\rangle)-a_2(\langle 1\rangle-\langle 2\rangle)]\in B_0(K)$
よって $x=0$ であるから $\text{Ker}(\varphi)=0$ となるので、
$\varphi$ は同型写像となります。

もしくは、$\varphi':C_0(K)\to {\mathbb Z}\langle 0\rangle$ を$\varphi'(\langle i\rangle)=\langle0\rangle$
とすると、$\varphi'$ は全射準同型であるから同じように、$\text{Ker}(\varphi)=B_0(K)$ 
であり、準同型定理から、$H_0(K)=C_0(K)/B_0(K)\cong {\mathbb Z}\langle 0\rangle\cong{\mathbb Z}$ となります。
このことから、$H_0(K)$ の生成元は$\langle 0\rangle$ からなることがわかります。
$\langle 0\rangle$ はサイクルだが、何か1単体の境界とはならないクラスになります。
また、
$\langle 1\rangle=\langle 0\rangle+(\langle 1\rangle -\langle 0\rangle)$
$\langle 2\rangle=\langle 0\rangle-(\langle 0\rangle -\langle 1\rangle)-(\langle 1\rangle -\langle 2\rangle)$
でとなります。$[\langle i\rangle]$ を $[i]$ という書き方にすると、
$[1]=[0]-[\langle 0\rangle -\langle 1\rangle]=[0]$
$[2]=[0]-[\langle 0\rangle -\langle 1\rangle]-[\langle 1\rangle -\langle 2\rangle]=[0]$
であるから、$H_0(K)$ の生成元は $0,1,2$ を同一視して得られる元 
からなるものになります。それを代表して$[0]$ となります。
つまり、$H_0(K)={\mathbb Z}[0]$ となります。$\Box$

0次のホモロジーは基本的にはその点で生成されるホモロジーで、弧状連結成分の
点は同一視されて成分ごとに1次元になります。
つまり、単体複体の弧状連結成分の個数を $c(K)$ とすると、
$H_0(K)\cong {\mathbb Z}^{c(K)}$ となります。

胞体複体

次に胞体複体についての定義をあたえます。
その前に、空間の接着について定義しようと思います。

定義
$X,Y$ を位相空間とし、空間対 $(X,A)$ に対して、$\varphi:A\to Y$ を連続写像とする。
$\pi:Y\sqcup X\to Y\sqcup X/{\sim}$ を$x\sim\varphi(x)$として得られる同値関係を入れたもの
$Y\sqcup X/{\sim}=Y\cup_\varphi X$ とし、$Y$ に$(X,A)$ を $\varphi$によって
貼り付けて得られる空間という。

このとき、次の定理が成り立ちます。

定理
$X,Y$ をハウスドルフ空間とする。コンパクト空間 $A$ との空間対 $(X,A)$ において、$A$ のレトラクトとなる開集合$A\subset U$ が存在するとする。この時、連続写像 $\varphi:A\to Y$ によって得られる空間 $Z=Y\cup_\varphi X$ もハウスドルフである。

ここで、$U$ が $A\subset U$ においてレトラクトとは、ある連続写像 $r:U\to A$ が存在して、$r|_A=\text{id}_A$ となることをいいます。

証明
$x,y\in X-A$ であるとすると、$X-A$ の開集合は $Y\cup_\varphi X$ でも開集合であるから
$X$ のハウスドルフ性から、$x,y$ を分離する開集合が存在します。

$x,y\in \pi(Y)$ である場合、$Y$ がハウスドルフなので、$Y$ の開集合 $U_1,U_2$ が存在し、
$x\in U_1$ かつ $y\in U_2$ かつ $U_1\cap U_2=\emptyset$ が成り立ちます。
この $U_1, U_2$ は $Y$ の開集合ですが、$Z$ の開集合とはまだいえないので議論が必要です。
そこで、$(\varphi\circ r)^{-1}(U_1), (\varphi\circ r)^{-1}(U_2)\subset X$ は $X$ の開集合で、
$(\varphi\circ r)^{-1}(U_1)\cap(\varphi\circ r)^{-1}(U_2)=\emptyset$ ですので、
$V_1=(\varphi\circ r)^{-1}(U_1)\sqcup U_1, V_2=(\varphi\circ r)^{-1}(U_2)\sqcup U_2\subset X\sqcup Y$ は $X\sqcup Y$ において交わらない開集合になります。
また、任意の$p\in Z$ に対して、$\pi^{-1}(p)$ が $V_1,V_2$ においても包まれるか
共有点を持たないかどちらかなのでファイバーを集めた形、つまり
$\pi^{-1}(A_1),\pi^{-1}(A_2)$ の形をしています。商写像であることから、
$A_1,A_2\subset Z$ は開集合です。
また、$x\in A_1$ かつ $y\in A_2$ かつ $A_1\cap A_2\emptyset$ が成り立つから
この場合$x,y$ を分離する開集合が存在することになります。

次に、$x,y\in Z$ のうち片方だけ $X-A$ にいる場合を考えます。
この場合、 $x\in X-A$ とします。

この時2つの状況(i), (ii)にわけます。

(i) $y\in Y-\pi(A)$ の時、
$\pi(A)$ がコンパクトであり、ハウスドルフ空間 $Y$ の中で $\pi(A)$ は閉集合であるから
$Y-\pi(A)$ は開集合となります。$Y-\pi(A)$ は $Z$ の中でも開集合であるので、
$X-A$ も $Z$ において開集合であるから、$x,y$ を分離する開集合
$Y-\pi(A)$ と$X-A$ が取れます。

(ii) $y\in \pi(A)$ である場合、
$x\in X-A$ であり、$x$ と $A$ はハウスドルフ空間の中の1点とコンパクト集合なので、
開集合で分離できます。(こちらのページの定理14.4)
$A$ と $x$ を分離する開集合を $U_1,U_2$ とし、$A\subset U_1$ かつ $x\in U_2$ かつ $U_1\cap U_2=\emptyset$ とします。
よって、$\pi(Y\cup U_1)$  と $U_2$ は$ Z$ の開集合であり、$x,y$ を分離する開集合となります。

よって、$A$ がコンパクトであり、$U\to A$ となるレトラクトとなる開集合 $U$
が存在する場合、$X,Y$ がハウスドルフなら$Y\cup_\varphi X$ もハウスドルフとなります。 $\Box$

例えば、$(X,A)=(D^n,S^{n-1})$ の場合、そのような条件を満たします。
この時、$S^{n-1}$ は $D^n$ の境界の球面です。
その場合、切除公理から、

$H_n(Y\cup_{\varphi} D^n,Y)\cong H_n(D^n,S^{n-1})$ となります。

胞体分割の定義をここで与えておきます。

定義
$X^{(0)}$ を有限個の点とし、$X^{(0)}$ に有限個の $(D^1,S^0)$ を貼りつける。
それを $(D^1_i,S^0_i)$ $(i=1,\cdots, k_0)$ とし、
その貼り付け写像を $\varphi_i^{(1)}:S^0_i\to X^{(0)}$ とする。この貼り付け写像によって
得られる空間を $X^{(1)}=X^{(0)}\cup_{\sqcup_{i=1}^{k_1} \varphi_i^{(1)}}D^1_i$ とする。
もし$X^{(n-1)}$ が定義されたとすると、$(D^n,S^{n-1})$ に同相な $k_n$ 個のペア
$(D^n_i,S^{n-1}_i)$ $i=1,\cdots, k_n$ に対して、
連続写像 $\varphi^{(n)}_i:S^{n-1}_{i}\to X^{(n-1)}$ に対して、
その写像によって貼り付けて得られる空間 $X^{(n-1)}\cup_{\sqcup_{i=1}^{k_n}\varphi_i^{(n)}}D^n_i$ を $X^{(n)}$ とする。
この$X^{(n)}$ を胞体複体という。
$\mathring{D}^m_i\hookrightarrow X$ は同相
埋め込みになりますが、この像を $e^m_i$ と書き、$m$胞体という。
この時、
$$X=\cup_{i=1}^{k_0}e^0_i\cup_{i=1}^{k_1}e^1_{i}\cup\cdots\cup_{i=1}^{k_n} e^n_{i}$$
のような分割が成り立ちます。これを $X$ の胞体分割という。

ここで、$\mathring{D}^m$ は $m$ 次元円盤 $D^m$ の内部を意味します。
$$X=\cup_{i=1}^{k_0}e^0_i\cup_{i=1}^{k_1}e^1_{i}\cup\cdots\cup_{i=1}^{k_n} e^n_{i}$$
のように書くと貼り付け写像のデータがないのですが、そのデータを省略して
明示的に書く方法になっています。本来は貼り付け写像が決まらないと
この胞体の組み合わせだけでは位相構造は決まりません。