2025年5月31日土曜日

数学リテラシー2(第2回)

[場所:2H101(火曜日15:15〜16:30, 16:45〜18:00)](2025年度)



数学リテラシー2の第1回に引き続き。第2回目を始めます。


論理記号
まず、数学で用いられる論理記号について導入しておきます。

$\forall$ と $\exists$ です。
これは
$\forall$ は「任意の〜」と言う意味で、$\exists$ は「ある〜が存在して」の意味になります。

例えば、

「任意の実数 $x$ に対して $x^2\ge 0$となる」
をこの論理記号で書かくと、

「$\forall x\in {\mathbb R}$ に対して$x^2\ge 0$ となる」
となります。「$\forall x$ なる実数 $x$ に対して$x^2\ge 0$ となる」
と書いてもいいです。

さらに、
「$\forall x\in {\mathbb R}\Rightarrow x^2\ge 0$ 」
のように文章の介入しない論理式だけのような書き方でも同じことが表せます。

また、$\exists$ については以下のような使い方になります。

「ある実数 $x$ が存在して、$x-x^2>0$を満たす」
を、
「$\exists x\in {\mathbb R}$に対して$x-x^2>0$となる」
のように言うことができます。これも、
「$\exists x\in {\mathbb R}$ s.t. $x-x^2>0$」
のようにも書くことができます。
この s.t. はsuch that の略で、「となるような〜」と言うthat 節以降を繋ぐ
接続詞の役割を果たします。

つまり日本語では、$x-x^2>0$ を満たすような実数 $x$ が存在すると言うことができます。
英語では、
There exists a real number $x$ such that $x-x^2>0$ is satisfied.

となり、「$\exists x\in {\mathbb R}$ s.t. $x-x^2>0$」はこれを記号化してシンプルに言ったものになります。
実際、s.t.は単語を略したものなので、論理記号と言うわけではありませんが
論理記号と同等として使ったりします。

例えば、$\exists x\in {\mathbb R}(x-x^2>0)$ のようにカッコを使って
書くことで論理式のようにすることもできます。
意味としては同じものです。

例えば、$\forall$と$\exists$ を組み合わせて、

$\forall x\in {\mathbb R}$ $\exists n\in {\mathbb N}$ s.t. $x<n$
のように言い表せます。
これはアルキメデスの原理と言われる実数の性質になります。 
アルキメデスの原理と言えば、物体の浮力に関する性質もそのように呼ばれますが
それとは関係ありません。

ちなみに、この論理記号の順番を入れ替えて、
 $\exists n\in {\mathbb N}$ $\forall x\in {\mathbb R}$ s.t. $x<n$のように
言うと意味の違う命題になります。
これは、ある自然数 $n$ が存在して、どんな実数 $x$ も $n$ より小さくなると言っていて、
つまり、全ての実数は $n$ 以下だと言うことを主張する命題になります。

論理記号を使うとき、順番を守って書かないといけないということになります。
次に書くパラメータが前のパラメータに依存するからです。

アルキメデスの原理で言う
$\forall x\in {\mathbb R}$ $\exists n\in {\mathbb N}$ s.t. $x<n$
における、$n$ は $x$ に応じて変化します。
$x$が大きくなればそれに応じて $n$ も大きくとらないといけません。

また、否定命題の作り方ですが、

「$\forall x\in {\mathbb R}\Rightarrow x^2\ge 0$ 」 
の否定は、ある $x\in {\mathbb R}$ に対して $x^2<0$ となること
になります。つまり、$\exists x\in {\mathbb R}(x^2<0)$ です。

同様に、$\exists x\in {\mathbb R}(x-x^2>0)$ の否定は
$\forall x\in {\mathbb R}(x-x^2\le 0)$

となり、否定命題を作るには $\exists$ と $\forall$ は交換して、
結論を否定することになります。

つまり、アルキメデスの原理の否定は、
$\exists x\in {\mathbb R}$ $\forall n\in {\mathbb N}$ s.t. $x\ge n$
となります。つまりどんな自然数より大きい実数が存在するということを意味しています。

さて、本題に入ります。

数列の収束について


第2回は数列の収束の定義を行ないました。

数列が収束するというのはどういうことでしょうか?


高校の頃の定義では、

「$n$ が大きくなると、$a_n$ が限りなく $\alpha$ に近づく」

ときに、数列 $a_n$ は $\alpha$ に収束するといいました。


これはまだちゃんとした数学の定義ではありません。

例をいくつか見てみましょう。


数列 $a_n=\frac{1}{n}$ は、

$1, \frac{1}{2}, \frac{1}{3},\frac{1}{4},\cdots$ のようになり、

この数列はゼロに収束していると直感的に分かるのではないでしょうか。


次の例を見てみます。


$\frac{1}{2}, \frac{2}{3}, \frac{3}{4}, \cdots$ 

この数列は $a_n=\frac{n}{n+1}$ とかけますが、$n$ が大きくなるにつれて、

分母と分子の差 $1$ がだんだん見えなくなってきて、

結果、$1$ に収束するだろうということが感覚的に分かると思います。


次に、数列 $a_n=(-1)^n$ を見てみましょう。

これは、$1$ と $-1$ を交互にとる数列です。この数列はどこかに向かっているというより、

振動しています。このような数列は収束していると言わないわけです。

$n$ を偶数もしくは奇数とすると定値なのでその場合収束していますが、全体としてある一定の値に向かっているわけではなさそうです。


なので、


$n$ が 奇数の場合 $a_n=\frac{1}{n}$ とし、$n$ が偶数の場合 $a_n=1$ となる数列をとってもこの数列は収束していません。


ここで以下の定義をしましょう。


定義 ($\epsilon$-近傍)

$\alpha$ を実数とし、 $\epsilon$ を正の実数とします。このとき、

$$U_\epsilon(\alpha)=\{x\in {\mathbb R}|\alpha-\epsilon<x<\alpha+\epsilon\}$$

とし、これを $\epsilon$-近傍という。


つまり、$\alpha$ から見て、距離が $\epsilon$ 以内に離れた実数全体です。


数列 $a_n$ が $\alpha$ に、収束する場合、$a_n$ のいくつかが $U_\epsilon(\alpha)$ に入らないといけないですが、 $\epsilon$ の値によっては

いくつか外に出ていても $a_n$ は $\alpha$ に収束することができることを観察してください。

例えば、そのいくつかが有限個であるとすると、$n$ がある有限先まで行ったら、

全て $U_\epsilon(\alpha)$ に入っていますね。

また、無限個外に出るとすると、$n$ をどんなに先に進めても必ず $U_\epsilon(\alpha)$ の外に

出てしまうことは当然ですね。これは $a_n$ が $\alpha$ に収束すると言えるでしょうか。

これは限りなく $\alpha$ に向かうというイメージからははずれると思われます。


実際、そのような数列を $a_{n_1}, a_{n_2}, a_{n_2},\cdots$ のように取っていくと、

全て $U_\epsilon(\alpha)$ の外に出ているわけです。

全然近づいている感覚とは違いますね。つまり、全ての $n\in {\mathbb N}$ が一斉に

近づいている訳ではなく、近づく $a_n$ があっても遠ざかっているものも一定数あるという

ことになります。


わかることは、


$U_\epsilon(\alpha)$ に含まれない $a_n$ はたかだか有限個しかない。

同じことだが、十分大きい $n$ に対して必ず $a_n\in U_\epsilon(\alpha)$

に入っている。


十分大きい $n$ に対していつも $a_n\in U_\epsilon(\alpha)$ であることは、

ある $N\in {\mathbb N}$ が存在して、$N$ を超えた自然数 $n$ に対して、

$a_n\in U_\epsilon(\alpha)$ が成り立つことととして数式と論理記号を使って表されます。



つまり、

$\exists N\in {\mathbb N}$ に対して、$\forall n>N\Rightarrow a_n\in U_\epsilon(\alpha)$ となる。


$a_n\in U_\epsilon(\alpha)$ であることは、$|a_n-\alpha|<\epsilon$ と同じことですので


$\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N(|a_n-\alpha|<\epsilon)$ となります。

$\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N\Rightarrow |a_n-\alpha|<\epsilon$ と書いても同じです。


あとは $\epsilon$ の役割です。$\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N(|a_n-\alpha|<\epsilon)$ 

になるかどうかには特に $\epsilon$ には制限がありませんでした。

$\epsilon$ をとり、それを固定して考えたときに

これらが成り立つとしていたことが分かります。

ですので、任意に $\epsilon>0$ をとればよいということになります。


例えば、とる $\epsilon$ を特定の物だけに制限して考えましょう。

数列 $a_n=(-1)^n$ に対して$\epsilon=3$ と取ってしまうと、

「$\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N(|a_n-\alpha|<\epsilon)$」

が成り立ってしまいます。


でも、これでよくて、ある $\epsilon>0$ に対して「$\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N(|a_n-\alpha|<\epsilon)$」 が成り立っていとしても数列が収束するとは言えないことを意味しています。

$\epsilon>0$ を十分大きくすればこの条件は成り立つのは自然にわかるので、十分小さくしても

成り立つか?ということが本質的だということがわかります。


よって、$\epsilon$ が大きくても小さくてもどんな正の実数でも

「$\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N(|a_n-\alpha|<\epsilon)$」

が成り立たなければならないことになります。


まとめると、次のような定義になります。


定義($a_n$ が $\alpha$ に収束する)

 数列 $a_n$ が $\alpha$ に収束するということは、任意の正の実数 $\epsilon$ に対してある自然数 $N$ が存在して $n>N$ を満たす任意の自然数 $n$ に対して$|a_n-\alpha|<\epsilon$ を満たすことである。


論理記号だけで表せば、

$\forall \epsilon\in{\mathbb R}_{>0}\exists N\in {\mathbb N}$ s.t. $\forall n>N(|a_n-\alpha|<\epsilon)$


となります。ここで、${\mathbb R}_{>0}$ は正の実数を集めた集合となります。


ではこの定義を使って、数列が収束するかどうかチェックしてみましょう。


例:$a_n=\frac{1}{n}$ が $\alpha=0$ に収束する場合

まず、任意の $\epsilon>0$ を取ります。このとき、条件を満たすように自然数 $N$ が取れればよいのですが、先ほどのアルキメデスの原理により、

$1/\epsilon< N$ を満たすように自然数 $N$ を取っておきます。


すると、$\forall n>N$ を取ると、

$$|\frac{1}{n}-0|=\frac{1}{n}<\frac{1}{N}<\epsilon$$

となることが分かります。


つまりこれで $\frac{1}{n}$ が 0 に収束することが証明できたことになります。

本質的には $1/\epsilon<N$ となる自然数 $N$ が取れたことが重要だったことになります。


どうして $1/\epsilon<N$ が分かったのか?というと、結果からある意味逆算している

からです。

最終的に欲しい不等式 $|a_n-\alpha|<\epsilon$ が満たされるようにするには、

$\frac{1}{n}<\frac{1}{N}<\epsilon$ が成り立てばよいので

最後の不等式を変形して、$1/\epsilon<N$ を得たということになります。


上の例でいえば $a_n=\frac{n}{n+1}$ がありますが、

$a_n=\frac{1}{n}$ とほぼ同じようにできるので省略します。


では他の例もやってみましょう。


例:$a_n=2+\frac{1}{n^2} が $2$ に収束することも見てみましょう。

これもやはり任意に$\epsilon>0$ を取ります。

このとき、$1/\sqrt{\epsilon}<N$ を満たすように取ります。

そうすると、

$$|2+\frac{1}{n^2}-2|=\frac{1}{n^2}<\frac{1}{N^2}<\epsilon$$

となって、数列の収束の定義に合いますね。


例:$a_n=(-1)^n$ が収束しないことも示してみましょう。

上の定義を否定すると、


「ある正の実数 $\epsilon$ に対して任意の自然数 $N$ に対して $n>N$を満たす自然数 $n$ が存在して $|a_n-\alpha|<\epsilon$ を満たす」


ことになります。

つまりある $\epsilon$-近傍 $U_\epsilon(\alpha)$ が存在して、どんなに $N$ をとっても

その近傍から外れる $a_n$ が存在することになり、つまり、

無限個 $U_\epsilon(\alpha)$ に入らない $a_n$ が存在します。


この定義は $a_n$ が $\alpha$ に収束しないことを定義しており、感覚にも合います。

また、どこにも収束しないことをいうには、任意の $\alpha$ に対して

上の性質が成り立つことを言う必要があります。


例えば、$a_n=(-1)^n$ が $1$ に収束しないことを証明するには以下のようになります。


$\epsilon=1$ と取れば、任意に自然数 $N$ をとり、

$N<2n+1$ となる自然数 $2n+1$ が取れます。

(これはアルキメデスの原理を用いて $\frac{N-1}{2}<n$ となる自然数 $n$ が取れるといってもよいと思います。)


そうすると、

$$|(-1)^{2n+1}-1|=|-1-1|=2>1$$

が成り立ち、確かに $1$ に収束しないことがわかります。

ここで奇数を取った理由は、$1$-近傍 $U_1(1)$ から外れる自然数は $a_n=-1$ であり、

それは $n$ が奇数だからです。偶数を取ってしまうと当然 $U_1(1)$ の中に

入ってしまって矛盾が得られません。


同様に $a_n=(-1)^n$ は $-1$ に収束しないことも証明できると思います。

また、$a_n$ が $(-1)^n$ のどちらにも証明できないことを

証明するのはもっと簡単で、

例えば、$a_n$ が 0 に収束しないことは、

$U_1(0)$ をとると、$U_1(0)=(-1,1)$ であり、$1,-1$のどちらも含まないので、

$\forall N$ に対して、どんな $n>N$ をとっても $a_n\not\in U_1(0)$ であるので

$a_n$ が 0に収束しないことが分かります。


もう一問解いておきます。


$a_n=\frac{n+3}{n^2+n}$ が 0 に収束すること示せ。


(解)

$\forall \epsilon>0$ に対して、アルキメデスの原理により $3/\epsilon<N$ となる自然数 $N$ をとれば、

$\forall n>N$ に対して、

$|a_n-0|=\frac{n+3}{n^2+n}<\frac{3n+3}{n^2+n}=\frac{3}{n}<\frac{3}{N}<\epsilon$

が成り立ちます。

よって、$a_n$ は 0 に収束します。

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