2020年6月2日火曜日

数学リテラシー1(第9回)

[場所:manaba上(火曜日12:00〜)]


今回と次回で、行列式を定義します。
最終的に、次回において行列式を定義しますが、今回は
行列式を定義するために用いる置換について解説しました。
行列式は、$(2,2)$ 行列のときに $\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$
のときに $ad-bc$ として定義していますが、
ここでは、一般の $(n,n)$ 行列のときの行列式を定義します。

$n$ 文字の集合の間の全単射の集合と置換
まず、
$\Omega$ を $n$ 個の数字からなる集合 $\{1,2,\cdots, n\}$ とし、
$S_n=\{\sigma:\Omega\to \Omega|\sigma:\text{全単射}\}$
とおきます。
つまり、$\sigma\in S_n$ は $\Omega$ 上の写像で、全単射なものということです。

ここで全単射というのは、全射かつ単射な写像であったこと思い出してください。
つまり 写像で、逆写像が存在するようなもののことでした。

この集合は$n$ 個の数字をちょうど入れ替えており、
つまり$n$ 個の数字を並べ替える方法全体と一致しています。

この並び替え、つまり、置換が、$S_n$ の元ということです。
つまり、$S_n$ $n$ 個の文字の並び替えの全体の集合といってもよいわけです。

よって $S_n$ に含まれる要素は $n$ 個の数字の順列の数と同じということで、
$S_n$ には、$n!$ 個の元が
含まれることになります。
よって、$S_n$ の元のことをこれから単に置換ということにします。

置換の書き方
置換は、$(2,n)$ 行列を用いて、

$$\begin{pmatrix}1&2&\cdots&n\\\sigma(1)&\sigma(2)&\cdots&\sigma(n)\end{pmatrix}$$
として書き表すことが一般的です。
つまり、置換を写像として考えたとき、縦ベクトルとして、
$i$ とその行先(像)の関係を書いたものということになります。
ですので、
この行列のある縦ベクトルを他の縦ベクトルと入れ替えてできる
$(2,n)$ 行列が表す置換も同じ置換を表すことになります。

例えば、$n=3$ の場合であれば、$S_3$ の元は
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\1&2&3\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\1&3&2\end{pmatrix}$$
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\3&2&1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix},\begin{pmatrix}1&2&3\\3&1&2\end{pmatrix}$$

の3!=6通りとなります。

また、$n$ 個の数字を並び替える集合とは、次のように
$n$ 個の数字をあみだくじによって入れ替えを行ったものと考えることもできます。
これは、上の $S_3$ の置換をあみだくじで書いたものです。

最も左上のあみだくじに対応するものを 恒等置換といいます。恒等置換というのは何も置き換えない置換のことをいいます。 写像でいえば、恒等写像に対応します。

ただし、置換に対して、あみだくじで書く方法はさまざまあります。
これは考えればすぐにわかることですが、たとえば、
のようなあみだを考えれば、このあみだが恒等置換を表すことがわかるでしょう。

置換の積
置換には、積を定義することができます。
あみだくじで言えばあみだくじを縦に並べたもの、
写像の言葉で言えば写像の合成のことです。
例えば、
$$\sigma=\begin{pmatrix}1&2&3\\2&1&3\end{pmatrix}$$

$$\tau=\begin{pmatrix}1&2&3\\3&2&1\end{pmatrix}$$ の積を考えると、
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}$$
のようになります。できた置換は、$\tau\sigma$
と書きます。
この順番は、写像の合成の意味が込められており、この順番に
なっています。

このことをあみだの言葉で言えば、
上に $\tau$、下に $\sigma$ を並べてやることで、

のようになります。このように絵を使ってこの計算をすることができます。
なんとなく、$\tau$ を下に置くのかと勘違いするかもしれませんが、
逆ですので注意してください。

逆置換
逆置換というのは写像の逆写像を取ったものつまり あみだくじの鏡像をとったものとして定義できます。

鏡像というのは水平な線を鏡として得られるようなあみだくじのことです。

例えば、
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\3&1&2\end{pmatrix}$$

の場合ですと、この置換の上と下を入れ替えて、
$$\begin{pmatrix}3&1&2\\1&2&3\end{pmatrix}$$
となり、また、上の行を1,2,3の順にあるように、縦ベクトルを
入れ替えると、
$$\begin{pmatrix}1&2&3\\2&3&1\end{pmatrix}$$
のようになります。

置換の性質をここで おさらいしておきます。
  1. 2つの置換の積を取ることができる。
  2. 任意の置換に対して逆置換が必ず存在すること。
  3. 恒等置換が存在すること。
ということになります。 
実は、この性質は、数学における群論の初歩をやっていることに相当します。
群論というのは、大学では3年生くらいで習う、何かの変換全体の集合を
考える理論です。
置換全体は群の例の一つですが、

群論においては置換全体の集合は $n$ 次対称群と呼ばれます。

数学全般はもちろんのこと、物理や化学でも群論の考えかたを応用した
理論は多いです。
ちなみに、群論を初めて応用したのは、エヴァリスト・ガロア(19世紀の数学者)
で、群論を用いて5次以上の方程式の解に、
その係数の四則演算べき乗根で解けないものが存在することを証明しました。

巡回置換と互換

次に置換 $\sigma\in S_n$ を
$\{i_1,\cdots, i_r\}\subset \Omega$ に対して、
$$i_1\mapsto i_2,\ i_2\mapsto i_3\cdots, i_{r}\mapsto i_1$$
と写し、それ以外では数を変えないものを巡回置換といいます。

そのような巡回置換を $(i_1,i_2,\cdots, i_r)$ のように書きます。
この巡回の長さ $r$ を巡回置換の長さといいます。

特に長さが2の巡回置換のことを互換といいます。
任意の置換 $\sigma\in S_n$ に対して、任意の $i\in \Omega$ に対して、その行先を
順次たどっていけば、必ずもとの $i$ に戻ってくる巡回置換をなしています。

よって、すべての置換は 互いに交わらない巡回置換の積に書くことができます。

また巡回置換は いくつかの互換を使って
$$(i_1,\cdots, i_r)=(i_1,i_{r})\cdots (i_1,i_3)(i_1,i_2)$$
のように書くことができます。
他の書き方として、
$$(i_1,\cdots, i_r)=(i_1,i_{2})(i_2,i_3)\cdots (i_{r-1},i_r)$$
もあります。

これらのことから、全ての置換はいくつかの互換の積によって書き表すことができる
ことになります。

これは、あみだくじを考えれば明らかで、任意の置換はあみだくじですから、

置換をあみだくじによって描いたとき、線を少々ずらすことで、交わりを全て二重点だけにしておくことができます。
各交差点において、数字が互換のようにして
入れ替わり、その合成によって全ての置換を互換の
積に書くことができるということになります。
(このとき、全ての線は上から下に、途中で止まらずに流れていくものとします。)



この横線の数が表示した互換の数に相当します。

例として教科書やスライドにあった次の置換を用いて考えます

$$\begin{pmatrix}1&2&3&4&5&6&7\\4&5&6&7&2&3&1\end{pmatrix}$$
個々の数字をたどっていくことで、
この置換は長さが3の巡回置換 $(1,4,7)$ と長さが2の2つの巡回置換 $(2,5)$ と
$(,6)$ の積に書かれることがわかるでしょう。

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