2016年8月8日月曜日

微積分I演習(第15回)

[場所1E101(水曜日4限)]
HPに行く.

今日は、定期試験でした.

5問あり、それぞれ20点ずつの100点満点としました.全体として以下のような成績でした.

平均点:56.1点
最高得点:80点
最低得点:20点
よくできる人もおらず、全く不勉強もおらずという感じで、
最低でも、最後の5問目E、もしくは連続の定義はできていたようでした.

各設問の得点率は、以下のようになりました.

問題ABCDE
得点率(%)87.969.025.017.981.0

感想として、B などの基本的な積分計算もよく間違っている印象でした.

C は、広義積分可能であることを不等式などを使って証明して欲しかったのですが、
その記述をしている人はほとんどおらず、収束性を示した人は皆無でした.

D は、テイラー展開の問題ですが、授業中では、よく知られている関数と、それを組み合わせた関数を展開する方法について重点的に計算させたので、テイラー展開の式を直接使ってやる計算をもう少しさせるべきだったかと思います.2次までテイラー展開を正確に完成させた人は一人もいませんでした.

これらの内容は基本的なので、配付プリントを用いて夏休み中にでも復習しておくことを勧めます.後期からはさらに発展させた内容となりますので、積分計算は完璧にできるようにしておくと良いでしょう.
試験直後に試験解答をホームページに貼り付けましたが、このページには、採点後の感想と少し別解をつけて貼り付けます.

問題-15-A

(1) 任意の正の実数 $\epsilon$ に対してある正の実数 $\delta$ が存在して、任意の $|x-a|<\delta$となる $x$ に対して、$|f(x)-f(a)|<\epsilon$ が成り立つ.
(2) 任意の$\epsilon$に対して$\delta<\min\left\{1,\frac{\epsilon}{3}\right\}$ なる正の実数 $\delta$ に対して、$|x|<\delta$なる任意の $x$ に対して、
$$|f(x)-f(0)|=|2x^2+x|\le |x|(2|x|+1)<3\delta<\epsilon$$
となり、$x=0$ での連続性が言える.


注:定義に関してはよくできていました.(2) の方では、2次関数を解いている人がほとんどで、上記のような $\delta$ を選ぶ方法は簡単なのですが、少数派でした.

問題-15-B

$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{\cos x\,dx}{1+\sin x}=[\log (1+\sin x)]_0^{\frac{\pi}{2}}=\log 2$$
$$\int_0^1x^2\log x\,dx=\left[\frac{x^3}{3}\log x\right]_0^1-\int_0^1\frac{x^2}{3}dx=-\frac{1}{9}$$
ここで、ロピタルの定理から $\lim_{x\to 0}x\log x=\lim_{x\to 0}\frac{\log x}{\frac{1}{x}}=\lim_{x\to 0}\frac{\frac{1}{x}}{-\frac{1}{x^2}}=\lim_{x\to 0}(-x)=0$ が言える.
$$\int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}=\int_0^1\frac{2t\,dt}{t^2+t}=2\int_0^1\frac{dt}{t+1}=2[\log (t+1)]_0^1=2\log 2$$
$$\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3x\,dx=-\int_0^{\frac{\pi}{2}}(1-\cos^2x)(\cos x)'dx=\left[t-\frac{t^3}{3}\right]_0^1=\frac{2}{3}$$

より、各積分値の絶対値を計算すると、$\frac{1}{9}<\frac{2}{3}<\log 2<2\log 2$ であるから、それらが小さい順に積分を並び替えると、
$$\int_0^1x^2\log x\,dx,\ \ \int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^3x\,dx,\ \ \int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{\cos x\,dx}{1+\sin x},\ \ \int_0^1\frac{dx}{x+\sqrt{x}}$$
となる.


注1:$x^2\log x$ の $x\to 0$ での極限が 0 となることがわかっていない人がいました.
注2:なぜか、0.6666より、0.69...の方が小さいと答えている人もいました.

問題-15-C

$0<x<\frac{1}{2}$のとき、
$$\Big|\frac{\sqrt{x}}{\sqrt{x(1-x)}}\Big|= \frac{1}{\sqrt{1-x}}\le \sqrt{2}$$
よって、$\Big|\frac{1}{\sqrt{x(1-x)}}\Big|\le \Big|\frac{\sqrt{2}}{\sqrt{x}}\Big|$ が成り立ち、
$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{\sqrt{2}\,dx}{\sqrt{x}}$ は広義積分可能なので、$\int_0^{\frac{1}{2}}\frac{dx}{\sqrt{x(1-x)}}$ も広義積分可能.

$x=1$ での広義積分可能性は同様なので省略する.

以下、積分値を求める.
$-x^2+x=\frac{1}{4}-(x-\frac{1}{2})^2$ となり、ここで、$x-\frac{1}{2}=\frac{1}{2}\sin t$ とおくと、
$-x^2+x=\frac{1}{4}(1-\sin^2t)=\frac{\cos^2t}{4}$、$dx=\frac{1}{2}\cos t dt$ となり、
$$\int_0^1\frac{dt}{\sqrt{x(1-x)}}=\int_{-\frac{\pi}2}^{\frac{\pi}{2}} dt=\pi$$



注1:広義積分可能性については、何度かやったはずですね.
有限の端での広義積分であるなら、
積分 $\int_0\frac{dx}{x^s}$ $(0<s<1)$ の収束性、

無限区間なら、
$\int^\infty \frac{dx}{x^s}$ ($s>1$) の収束性

と比較するのが一般的です.

注2:後半の積分計算もそれほどできていませんでした.無理関数の中が2次式であるなら、三角関数、もしくは双曲線関数で置換するのが常套です.

問題-15-D

$f'(x)=-\frac{e^x x-e^x+1}{\left(e^x-1\right)^2}$ より、ロピタルの定理を用いて $f'(0)=-\frac{1}{2}$
$f''(x)=\frac{e^x \left(e^x x+x-2 e^x+2\right)}{\left(e^x-1\right)^3}$ より、再びロピタルの定理を用いて $f''(0)=\frac{1}{6}$ となる.
ゆえに、$y=f(x)$の$x=0$ での2次までのテイラー展開は、
$$1-\frac{x}{2}+\frac{x^2}{12}+o(x^2)$$
となる.



テイラー展開の公式に戻らなくても、以下のようにすることもできます.

(別解)
$\frac{1}{1+x}$ の級数展開を応用することで、$x=0$ の十分近くで関数を展開することで、
$$\frac{x}{e^x-1}=\frac{x}{x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots}=\frac{1}{1+\frac{x}{2!}+\frac{x^2}{3!}+\cdots}$$
$$=1-(\frac{x}{2!}+\frac{x^2}{3!}+\cdots)+(\frac{x}{2!}+\frac{x^2}{3!}+\cdots)^2-\cdots$$
$$=1-\frac{x}{2}-\frac{x^2}{6}+\frac{x^2}{4}+o(x^2)$$
$$=1-\frac{x}{2}+\frac{x^2}{12}+o(x^2)$$

とできる.

ただし、
$$\frac{1}{1+x}=1-x+x^2-x^3+x^4+\cdots$$
なる級数展開を用いた.

注 1:分母を展開してそのままの人や、テイラー展開の式に $e^x$ が残ってしまう人などがいました.
注2:多くの人は、微分を実行してロピタルの定理を使うまで合っていましたが、計算が最後までできた人はいませんでした.
注3:この、$o(x^2)$  などの項を残した展開は普段はテイラー展開とは呼ばないかもしれません.物の本には、漸近展開と書いてあるものもあります.テイラー展開は、剰余項を残したものとする言い方もあります.問題によって注意が必要です.今回は、剰余項を書いている人はいませんでした.剰余項についてはあまり演習をしなかったので、理解している人はいないだろうということで、上のような解答も正解にしています.

問題-15-E

ロピタルの定理を用いて、
$$\lim_{x\to 0} \, \frac{x-\sin x}{\sin x (1-\cos x)}=\lim_{x\to 0}\frac{1-\cos x}{\cos x-\cos^2x+\sin^2x}=\lim_{x\to 0}\frac{\sin x}{-\sin x-2\cos x(-\sin x)+2\sin x\cos x}$$
$$=-\lim_{x\to 0}\frac{1}{1-4\cos x}=\frac{1}{3}$$

線形代数続論演習(第14回)

[場所1E103(金曜日3限)]


HPに行く.

定期試験(7/29)を行い、採点を行いました.線形続論の2本柱は、商空間とジョルダン標準形と思われますので、今回もそれらをメインに作問いたしました.

試験は、全部で5問でしたが、最後の2問は選択問題ですので、実質4問ということになります.しかし、保険でどちらも解いている人もいましたが、基本的に時間は足りなかったようですね.配点は以下のようにしました.

14-1 10点
14-2 10-10-10点
14-3 10-10-10-10点
14-4 20点
14-5 20点

平均点:55.2 点
最高得点:100点
最低得点:5点でした.

得点の上位から下位まで万遍なく存在し、ほぼ6割が平均でした.
ただ、今までできていた人でも75分という時間内で全て解き切るのは難しかったのではないでしょうか?

学生は、理解していない部分が浮き彫りになってよかったのではないかと思います.
教える方でも、学生が理解しにくい、いくつかの部分がわかって今後の私の反省材料
となりそうです.特に商空間の扱いに関して基本的なところからこだわって教えるべきだと思いました.

問題毎の正答率は以下のようです.
4,5の選択問題は、最終的に得点として採用した中での比率ではなく、解答用紙に解いた形跡のある人全員の中での割合です.

問題12345
得点率(%)61.179.837.364.069.0

やはり、14-3の商空間の問題の正答率が悪いです.
明らかに、14-4より14-5の方が易しく作ったはず(単なる平方完成で終わる問題)なのに、そちらを選ばず、標準化を2回使わないといけない14-4を選んだ人の方が1.5倍近く多かったです.両問題の配置を逆にしていたらもう少し得点率が違ったかもしれませんね.


それでは問題の解説をしていきます.

問題-14-1

正規行列の定義とその性質を述べよということですが、答えは、

(定義) 正方行列 $A$ が $A^\ast A=AA^{\ast}$ を満たすこと.ただし、$A^\ast$ は $A$ の転置と複素共役の合成です.
(性質) あるユニタリー行列によって対角化されること.もしくは、同値な条件として固有空間が全体を生成し、各固有空間同士が直交する.

となります.これは、単なる知識問題です.定義ができていても、後半の性質が思い出せなかった人が多かったです.対称行列や、交代行列など十分条件を書いた人は部分点をあげました.

正規行列については授業で定義と性質をわざわざ紹介したので、全員ができると思いましたがそうでもありませんでした.


問題-14-2

ジョルダン標準形の問題は、演習の授業中に何度もやってもらったので、比較的できていたと思います.それでも、ジョルダンブロックを間違えたり、固有空間が 0 ベクトル空間になるなど、ありえない間違いも散見されました.

(解答)
(1) 固有多項式を計算することで、$\Phi_A(t)=(t-1)^4$ となるので、固有値は、 $1$ だけとなる.
(2) $V_1$ を固有空間、$V_{(1)}$ を広義固有空間とすると、
$V_1=\text{Ker}(A-E)=\left\{{\bf x}\in{\mathbb R}^4|\begin{pmatrix}1&2&1&0\end{pmatrix}{\bf x}={\bf 0}\right\}$

となり、この連立一次方程式を求めると、
$$V_1=\left\langle\begin{pmatrix} -2\\1\\0\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix} -1\\0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0\\0\\0\\1\end{pmatrix}\right\rangle$$

となります.また、

$$\begin{pmatrix}1&2&1&0\end{pmatrix}(A-E)=O$$

なので、$V_{(1)}=\text{Ker}((A-E)^2)={\mathbb C}^4$ となる.


(注:固有値が一つしかない時点で、その広義固有空間は全体と一致します.)

(3) $\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E)$ の基底は、 $\text{Ker}(A-E)$ の補空間の基底をがそのまま誘導されるので、${\bf u}_1=\begin{pmatrix}1\\0\\0\\0\end{pmatrix}$ とすると、
$\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E)=\langle [{\bf u}_1]\rangle$ となります.

ここで、$A-E$ の左からの掛け算としての単射写像
$$\varphi:\text{Ker}((A-E)^2)/\text{Ker}(A-E)\to \text{Ker}(A-E)$$
によって、${\bf u}_2=(A-E){\bf u}_1=\begin{pmatrix}1\\-1\\1\\-1\end{pmatrix}$ とすると、$\text{Im}(\varphi)=\langle [{\bf u}_2]\rangle$ となり、${\bf u}_2$ は $\text{Ker}(A-E)$ の一次独立なベクトル、つまり、非ゼロベクトルとなる.また、$\text{Ker}(A-E)/\text{Im}(\varphi)$ の基底は、$\text{Ker}(A-E)$ の ${\bf u}_2$ の補空間の基底なので、
${\bf v}=\begin{pmatrix}-2\\1\\0\\0\end{pmatrix}$, ${\bf w}=\begin{pmatrix}-1\\0\\1\\0\end{pmatrix}$ とすると、

$$\text{Ker}(A-E)/\text{Im}(\varphi)=\langle [{\bf v}],[{\bf w}]\rangle$$

となる.これは、これらのベクトルが一次独立であるから
$$\langle{\bf v},{\bf w},{\bf u}_2\rangle=\text{Ker}(A-E)$$
と同値だが、
このイコールは、右辺の各ベクトルが、左辺のベクトルの一次結合で書け、左辺の各ベクトルが、右辺の各ベクトルの一次結合で書けることが必要十分だが、実際、非自明な部分だけやると、

$\begin{pmatrix}0\\0\\0\\1\end{pmatrix}=-{\bf u}_2-{\bf v}+{\bf w}$ であり、
${\bf u}_2=-\begin{pmatrix}0\\0\\0\\1\end{pmatrix}-{\bf v}+{\bf w}$ となるので、
$\text{Ker}(A-E)/\text{Im}(\varphi)=\langle [{\bf v}],[{\bf w}]\rangle$ がわかる.

よって、
$$P=({\bf u}_2{\bf u}_1{\bf v}{\bf w})$$
とおくと、

$$(A-E)P=P\begin{pmatrix}0&1&0&0\\0&0&0&0\\0&0&0&0\\0&0&0&0\end{pmatrix}$$
がいえ、移項することで、
$$P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&1&0&0\\0&1&0&0\\0&0&1&0\\0&0&0&1\end{pmatrix}$$

と標準化される.
よって、ジョルダン基底は、$\{{\bf u}_2,{\bf u}_1, {\bf v},{\bf w}\}$ となる.


問題-14-3

このような商空間の問題は宿題にも出したことがあるので、比較的易しいのでは?と思ったのですが、そうでもなかったようです.同じような商空間は、代数学の授業でも習うと思いますので、その時にまた改めてやることになるでしょうか.

商空間の扱い方(答案や証明の書き方など)をもう少し重点的にやればよかったと思いました.

(解答)
(1)  ${\bf v}_1,{\bf v}_2\in f(x)V$ は、${\bf v}_1=f(x)g_1(x)$ かつ ${\bf v}_2=f(x)g_2(x)$ と書ける.ここで、$g_i(x)$ はある多項式とする.
このとき、${\bf v}_1+{\bf v}_2=f(x)(g_1(x)+g_2(x))$ となり、$g_1(x)+g_2(x)\in V$ であるので、${\bf v}_1+{\bf v}_2\in V$ となる.

また、$\lambda\in {\mathbb R}$ とすると、
$\lambda (f(x)g_1(x))=f(x)(\lambda g_1(x)))$ となり、$\lambda g_1(x)\in V$ なので、$\lambda (f(x)g_1(x))\in V$ となる.
$0\in f(x)V$ であり、$f(x)V$ は空集合でないので、 $f(x)V$ は、$V$ の部分空間である.

(2) $W=V/f(x)V$ の基底は $[1],[x-1],[(x-1)^2]$ であることを示す.

$U=\langle 1,x-1,(x-1)^2\rangle$ とする.
写像 $\pi:V\to W$ を自然な射影 $\pi(s(x))=[s(x)]$とし、その $U$ への制限を $\hat{\pi}:U\to W$ とする.

(単射性) $h(x)\in U$ に対して、$\hat{\pi}(h(x))=[h(x)]=0$ とすると、$h(x)=x(x-1)^2g(x)$ となる $g(x)\in V$ が存在する.

条件から、$h(x)$ は高々 2次以下の多項式だから、$g(x)=0$ でなければならない.よって、$h(x)=0$ となる.よって、$\hat{\pi}$ は単射.

(全射性) 任意の $[k(x)]\in W$ をとる.ここで、$k(x)\in V$ である.
今、$k(x)=f(x)q(x)+r(x)$ とする.ここで、$q(x)$ は $f(x)$ で割ったときの商であり、$r(x)$ は余りとする.このとき、$[k(x)]=[r(x)]$ となり、$r(x)$ は 2次以下の多項式であり、
$r(x)=a_0(x-1)^2+a_1(x-1)+a_2$ となる実数 $a_0,a_1,a_2$ が存在し、

$[k(x)]=[r(x)]=[a_0(x-1)^2+a_1(x-1)+a_2]=a_0[(x-1)^2]+a_1[x-1]+a_2[1]=a_0\hat{\pi}((x-1)^2)+a_1\hat{\pi}(x-1)+a_2\hat{\pi}(1)=\hat{\pi}(a_0(x-1)^2+a_1(x-1)+a_0)=\hat{\pi}(r(x))$

よって、$\hat{\pi}$ は全射である.

これは $\hat{\pi}:U\to W$ は同型写像であることを意味する.
よって、$U$ の基底の像 $[(x-1)^2], [x-1],[1]$ は $W$ において基底となる.

(3) (2) で定めた基底において、$p$ の表現行列を与える.

$p([(x-1)^2])=[(x-1)^3]=[x(x-1)^2-(x-1)^2]=-[(x-1)^2]$
$p([x-1])=[(x-1)^2]$
$p([1])=[x-1]$ となり、表現行列は、
$$(p([(x-1)^2]),p([x-1]),p([1]))=([(x-1)^2],[x-1],[1])\begin{pmatrix}-1&1&0\\0&0&1\\0&0&0\end{pmatrix}$$
と計算される.

(4) $A=\begin{pmatrix}-1&1&0\\0&0&1\\0&0&0\end{pmatrix}$ とすると、固有値は、$0,-1$である.
$\text{rank}(A)=2$ であるから、$\dim \text{Ker}(A)=1$ となる.固有値 $0$ の重複度は $2$ なので、$\dim V_0=\dim \text{Ker}(A)=1$ であるので、固有空間の次元が重複度と一致しないので、$p$ は対角化可能でない.


(注:線形写像 $p$ に即した形に基底をとったために、最後の (4) が易しくなりました.このような基底を取った人はいませんでしたが.) 


問題-14-4

$$A^aB^bC^c=\begin{pmatrix}1&a&ab+c\\0&1&b\\0&0&1\end{pmatrix}$$
であり、
$$ABC=\begin{pmatrix}1&1&2\\0&1&1\\0&0&1\end{pmatrix}$$
であり、$a,b$ が両方 non-zeroであれば、そのジョルダン標準形は同じである.
よって、ジョルダン基底
$$\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\ \begin{pmatrix}0\\\frac{1}{a}\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\-\frac{ab+c}{a^2b}\\\frac{1}{ab}\end{pmatrix}$$
による$A^aB^bC^c$ の標準化とジョルダン基底
$$\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix},\  \begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix},\begin{pmatrix}0\\-2\\1\end{pmatrix}$$
による$ABC$ の標準化は、両方
$$\begin{pmatrix}1&1&0\\0&1&1\\0&0&1\end{pmatrix}$$
となる.
それらを並べてできる行列を それぞれ、$Q, R$ とすると、
$$Q^{-1}A^aB^bC^cQ=R^{-1}ABCR=\begin{pmatrix}1&1&0\\0&1&1\\0&0&1\end{pmatrix}$$
となる.よって、$P=QR^{-1}$ とおくと、
$$P=\left( \begin{array}{ccc}  1 & 0 & 0 \\  0 & \frac{1}{a} & \frac{a b-c}{a^2 b}\\  0 & 0 & \frac{1}{a b} \\ \end{array} \right)$$ が求める $P$ である.

問題-14-5

普通に平方完成をしてもすぐできますが、ここでは、直交行列を使って対角化をします.
まず、2次式を
$$\begin{pmatrix}x&y&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-2&1\\-2&1&1\\1&1&3\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\1\end{pmatrix}=0$$
とし、対称行列 $\begin{pmatrix}1&-2\\-2&1\end{pmatrix}$ の直交行列を用いた対角化を応用して、
 $P=\begin{pmatrix}\frac{1}{\sqrt{2}}&-\frac{1}{\sqrt{2}}&0\\\frac1{\sqrt{2}}&\frac1{\sqrt{2}}&0\\0&0&1\end{pmatrix}$
とおく.
$$P^{-1}AP={}^tPAP=\begin{pmatrix}-1&0&\sqrt{2}\\0&3&0\\\sqrt{2}&0&3\end{pmatrix}$$

となるので、この2次曲線は、$-x^2+3y^2+2\sqrt{2}x+3=0$ に合同ということになる.
平方完成をして、$-(x-\sqrt{2})^2+3y^2+5=0$ となり、
$x-\sqrt{2}=X$ とすると、
$-X^2+3y^2+5=0$ となり、この曲線は双曲線であることがわかる.

2016年8月4日木曜日

2人の子供達と話した $n$ つ子の話と分割数、Wedderburn-Etherington数の話

お風呂や夜寝る前は、子供達(兄弟2人)といろんな話をしたりします.
今日もお風呂でこんな話をしていました。

私 「今度、〇〇君のところとかと一緒にご飯食べに行くんだよ。」
 「確か、その子の下の子2人は双子だって聞いたけど。」

下の子(以下(下)) 「うんそうだよ。似ててどっちか区別がつかないんだよ。」

私 「それは一卵性の双子だねー。」

子供達 「・・・」

私 「双子は2種類あるって知ってる?一卵性と二卵性。」

子供達 「ううん。知らない。」

私 「子供は最初、こんなちっさな卵から始まって、それがどんどん分裂して細胞が増えていくことで人間ができるんだけど。」

子供達 「うん。」

私 「一卵性の双子っていうのは、最初、卵が一つで、それが2つになって、それがそれぞれ分裂して、分裂したものがそれぞれ成長して2人ができるんだよ。で、二卵性は・・・」

と言いかけたところで、(下)が、

(下) 「最初から2つの卵で、それぞれが・・・・ってこと?」

と言いました。とても勘が鋭いようです。

私 「そうそう、最初から卵が2つあるわけね。で、それぞれが分裂して、人間が2人できるってわけ。」

さらに続けて、

私 「だから、一卵性は全く同じ人間が2人できることになるんだよ。」

子供達 「でも、兄弟で喧嘩もするんだよ。今日、児童館で(誰々)と(誰々)が兄弟で喧嘩してた。」

私 「そうなんだ。似過ぎてて兄弟で喧嘩になることもあるよね。」

話しているうちに双子ではなくて普通の兄弟の話になってしまいました。
とりあえず、子供達は、双子の仕組みがすぐにわかったようでした。他にも、

私 「DNAって知ってる?」

と聞いてみました。私も生物専攻ではありませんでしたので、DNAを小学生にどうやって説明したら良いか頭の中でよくよく考えながら聞きました。

(下) 「んー、どこかで聞いたことあるような?」

私 「DNAっていうのは、その ...  その人間の作り方が書いてある説明書みたいなものだよ。細胞の中に、その詳しい説明書が書いてあって、それを読むと、この人の手はこうやって作りなさい、とか、髪の毛はこんな感じにしなさい、とか爪はこんな形でお願いしますとか書いてある。で、一卵性の双子は最初の卵が一つだけだから、2人の説明書には同じことが書いてある。だからまったく同じ人間が作れるんだよ。でも、・・・」

2人の兄弟を指して、

私 「君たち2人は、説明書がほんのちょっとだけ違うんだ。(下)のDNAには(下)の髪の毛を作りなさいと書いてあって(上)のDNAには(上)の髪の毛を作りなさいと書いてある、(上)の頭に(下)の髪の毛が生えてきたりはしないんだ。」

子供達 「ふーん」

(下) 「DNAって目で読めるの?」

と聞いてくるので、DNAも顕微鏡で見ようとすれば見れること(本当は、光学顕微鏡では見えなくて、電子顕微鏡でもわずかにしか見えません.またX線回析を行うことでようやくその構造が見えるらしい)、他にもDNAの形が2重螺旋の形をしていることをワトソンとクリックが突き止めてノーベル賞を取ったこと、そのような話は分子生物学と言って、生物学の発見は、新種の虫を発見するだけではないことなど話しました。
一卵性の双子は全く同じ説明書だから、性別も同じであることなど。二卵性は性別が違うこともあるなどの話もしました。

そしてお風呂からみんな上がった後、私も、数学者らしく、

私 「双子は2種類あったけど、三つ子は何種類いるかわかる?」

と一般の $n$ つ子に拡張するような話にしてみました。すると、

(下) 「3つ」

とすぐに答えました。下の子は、なんだか直感で答えることが多いようです。そして上の子は実に慎重派で、じっくり考えることが多いです。

(下) 「だって、一つの卵がばぁって分かれて3つになる場合と、1つが2つになってもう1つがそのままの。で3つの卵の場合。」

瞬時に答えた割に、完全に場合分けができていました。そして、

私 「じゃあ四つ子の場合は?」

やっぱりすぐさま、

(下) 「4つじゃないの?」

と言いました。 $n$ つ子の種類は $n$ 個という規則があると思ったでしょうか?
そして(上)も参戦してきました。

(上) 「2つが2,2にわかれる場合と、3,1にわかれる場合があるよ。でも、四つ子や五つ子ってあるの?」

私 「最初が1つの卵の場合はそれが4つになる場合で一通り、最初が卵2つの場合は2,2と3,1の場合があるから二通り。最初が3つの場合は、どれか一つの卵が2つになる場合で一通り。最初が4つの場合は一通り、結局全部で5通り。四つ子や五つ子もごく稀にいるよ。日本でも昔五つ子ちゃんが有名になった例があるよ。」

そして、その後、話は双子とは全く違う有名人の話になったりしました.


ここから少しだけ数学の話。

一般に $n$ つ子の生まれ方の数は?

一般に $n$ つ子の生まれ方は上記の意味で何種類あるのか?
何通りあるか子供達に教えながら、分割数のことを考えていました。

分割数 $p(n)$ とは、自然数 $n$ を自然数の和で書く書き方の数として定義されます.つまり、

$n=3$ ならば、$3$ の和としての書き方は、$1+1+1$、$2+1$、$3$ の三種類なので、
$$p(3)=3$$
となります.
$n=4$ ならば、$4$ の和としての書き方は、$1+1+1+1$、$2+1+1$、$2+2$、$3+1$、$4$ の五種類なので、
$$p(4)=5$$
となります.
これは、ぴったり、 $n$ つ子が生まれるパターンの数と一致します.
つまり、一つ一つの和の成分数が、最初の卵の数と考えるのです.

$n=4$ では、$1+1+1+1$ は、四卵性
                       $2+1+1$ は、三卵性
                       $3+1$, $2+2$ は、二卵性
                       $4$ は一卵性

$p(1)=1$, $p(2)=2$, $p(3)=3$ ときて、この数列が等差数列かと思い $p(4)$ が $4$ かと思ったら、$p(4)=5$ となります.
二卵性の異なるパターンが2種類あってその分1つ増えると考えることもできるでしょうか.

ただ、この方法で行っても、

$p(5)=7$, $p(6)=11$, $p(7)=15$, $p(8)=22$, $p(9)=30$

とどんどん増えていくので、最初の等差数列からはかなり離れていきます.一般に、分割数を忠実に計算する$n$ に関する公式は知られていません.もちろん、どんなに大きい分割数も、真面目に、$n$ が小さい方から計算していけば、いずれ計算できます.

分割数の計算の仕方なんてあるのか?と思うかもしれませんが、
有名なのは、母関数として

$$\sum_{n=0}^\infty p(n)x^n=\prod_{k=1}^\infty\frac{1}{1-x^k}$$
という綺麗な関係式が知られています.ここでは、$p(0)=1$ と定義しています.
この式は、さらにこの恒等式から派生して分割数に付随する他の数列に対しても同じような恒等式が存在します.

分割数はそのものは整数論や組み合わせ論においても現在でも活発に研究されており、多くの研究成果があります.分割数に関するまとまった文献は下の参考文献(1.) をみよ.

前期の線形代数続論演習でもやったように、$n$ 次のべき零行列の線形変換としての分類(ジョルダン標準形のタイプの数)はまさにヤング図形、つまり分割数 $p(n)$ の分だけ存在していました.

分割数は、定義は簡単ですが、その性質は、まったく奥深いものです.
あのラマヌジャンも分割数に関する研究をしています.


卵が分裂して $n$ つ子ができる過程の数を数えたら?

次は、分割数から派生して、卵が分裂して新しく幾つかの卵ができるまでの過程のパターン数も数えてみようと思いました.ここでは、分裂とは、一つの卵が幾つかの卵に分けられて独立な個体となることをいうことにします.とりあえず、簡単のため一卵性の $n$ つ子のでき方の場合だけ考えます.

どういうことかというと、

1個の卵が、いきなり、幾つかに分裂するのではなく、一つの卵は一度に2分裂までしか別れないとルールを決めておきます.その分裂が順を追って幾つかの卵になるとします.また、卵一つ一つには、まだ個性はないとして、対称的な分裂は無視します.また、異なる卵が次の段階でそれぞれ二分裂する早さは気にしないことにします.どちらが早くても同じ分裂とするのです.

そうすると、例えば一卵性の四つ子の分裂の過程は、

$$(1)\to (1+1)=((1)+1)\to ((1+1)+1)= (((1)+1)+1)\to (((1+1)+1)+1)=4$$
となるパターンと
$$(1)\to (1+1)=((1)+1)\to ((1+1)+1)=((1+1)+(1))\to ((1+1)+(1+1))=4$$
となるパターンの2つということになります.

つまり、一卵性四つ子の作り方として、1 の足し算の仕方の数と言っても良いし、別の観点からはトーナメント表の書き方の数と言っても良いわけです.しかし、上のルールから、

((1+(1+1))+1) は、 (((1+1)+1)+1) と同じ分裂パターンとなります.
もちろん、(1+(1+(1+1))) や (1+((1+1)+1)) も同じ分裂パターンとみなします.それらは、並べ方が違うだけで、それらの卵を空間において眺めたら分裂の仕方として区別がつかないからです.
それが、対称なものを無視するという意味です.

つまり、上の式で言えば、一般に自然数 $n$ を幾つかの 1 の和で書いたとき、交換法則で得られるものは無視したものと考えても良いでしょう.

交換法則で得られたものを無視しないで数えたものをカタラン数(リンク)と言います.
つまり、カタラン数とは、かっこのつけ方をすべて数えるということになります.
カタラン数は、古くからよく知られ、これも数学の様々な場面に現れます.
今数えたいものは、かっこの付け替えを無視し、グラフとして同じものは同じとみなしたものです.
しかし、ある組み合わせ的対象の数え上げにおいて、情報を落としたもの数えるからといって決して数えやすくなるわけではありません.


また、グラフ理論で言えば、リーフ(leaf)の数が丁度 $n$ である、全二分木(full binary tree)
の同相類(各リーフにはorderが付いていない)といえばよいでしょうか?上の2つの分裂のパターンをbinary tree で描くと下のようになります.

一番先にある4つのノードが四つ子に対応します.一つ一つのノードは、その瞬間の卵だと思えます.

ここで binary tree の用語説明
そもそも tree とは、ある一つの root から生える閉路のないグラフのことで、一つのノードから辺(edge )が下に伸びていくとします.ノードの各段階をレベル(level)といい、あるノードからひとつの辺によって連結されるノードを(child)と言います.子のいないノードのことをリーフ(leaf)と言います.二分木(binary tree) とは、各ノードの子が2つ以下のものを言います.また、全二分木(full binary tree)とは、各ノードの子は0個か2個のどちらかのものを言います.

なので、rootをもつfull binary treeは、頂点として1、2、3価のものしかなく、1価の頂点はリーフであり、2価の頂点はただ1つのrootであり、それ以外はすべて3価の頂点ということになります.まとめれば、ここでやっていることは、連結な1, 2, 3価グラフのうち、ただ一つの2価頂点を持つものを、1価頂点の数でまとめて数え上げるということです.

リーフの数が $n$ であるようなfull binary tree のグラフ(同相類,unordered と言っても良い)を分裂グラフということにします.一卵性五つ子の分裂グラフは下の3つになります.
リーフの数が $n$ の分裂グラフの数を $a(n)$ と定義して実験してみると、
$a(1)=1,a(2)=1,a(3)=1,a(4)=2,a(5)=3,a(6)=6$ まで計算をすることができました.
この数列は簡単に定義できるのできっと知られていると思い、数列百科事典(リンク)で調べながら検索することにしました.
この数列百科事典は望みの整数列を見つけるのにとても便利です.

$n=7,8$ の場合も紙にグラフを全て書いてみました.
$a(7)$ は $10$ 個あり, $a(11)$ は $20$ であることがわかりました.

ただ、逐一このような素朴な書き出し法で書き出していっても、この計算が本当に合っているのか不安だし、このまま続けていって規則がわからないのでは、少し大きい $a(n)$ を求めるには少々不便です.何か良い $a(n)$ の計算方法はないか?と考えました.

考えてみると、最初の root のノードを取り去ることで、分裂グラフが2つの小さな分裂グラフに分けられることに気がつきました.

つまり、リーフが $n$ のfull binary treeをルートのノードで切ってやると、(リーフの和が $n$ となる)2つのfull binary tree が表れます.つまり、全体のfull binary tree の数は、2つのfull binary tree のそれぞれの組み合わせで計算できるということです.

なので、$a(7)$ を計算するには、$a(6)a(1)+a(5)a(2)+a(4)a(3)$ を計算すれば良いということになります.$n$ が奇数のときは左右でリーフの数が違うのでそれぞれのリーフの数の積がそのパターンの tree のパターンの数ということになります.

よって、改めて $a(7)=11$ が得られました.さっき自分で書き出していた個数は10個でしたので、もう一度書き出したグラフを見直してみると、見落としがあることに気がつきました.

なるほど、これは良い方法を見出したと思い、次に、$n=8$ の場合も、もう一度計算しようとしました.まずは、$a(7)a(1)+a(6)a(2)+a(5)a(3)=20$ まで計算します.左右で4,4の場合を考察は別にしてやると、$a(4)=2$ の場合をそれぞれ A,B としてrootの先にくっつけるてやると、左右の対称性は無視しないといけないので、$(A,A), (B,B), (A,B)$ の3パターンしかないことになります.

なので、 さっきの20に3を足して $a(8)=23$ と正しい答えを得ることができました.
やはり、これも先ほど数えた数は、$20$ でしたので、数え損ないが3もあったことになります.

さらに、奇数の $a(9)$ はさっきの方法で計算して、

機械的に、$a(9)=\sum_{k=1}^4a(k)a(9-k)=46$ と算出されました.ここまでくると、手計算では大変だったでしょうね.さっきの数列百科事典での候補は大分絞られてきました.

この計算方法で次々計算しますと、$a(10)=98$, $a(11)=207$, $a(12)=451$ となりました.

この数列と一致する、百科事典に載っている数列は、もう

Wedderburn-Etherington数 (Wedderburn-Etherington numbers)

しかありませんでした.早速wiki(リンク)で調べてみると、果たして思った通りの数列でした.

漸化式も、 $$a(2n-1)=\sum_{k=1}^na(k)a(2n-k-1)$$
$$a(2n)=\frac{a(n)(a(n)+1)}{2}+\sum_{k=1}^{n-1}a(k)a(2n-k)$$
となり、全く同じです.この数は、組み合わせ論や数論では非常によく知られているらしく、性質は、上に述べたようなものでした.



参考文献

  1. George E. Andrew and Kimmo Eriksson, Integer partitions, Cambridge University Press 

2016年8月2日火曜日

微積分I演習(第14回)

[場所1E101(水曜日4限)]
HPに行く.

今日は

  • べき級数の収束半径
について主にやりました.

収束半径

収束半径の定義や、その基本的な内容については、前回のブログ(リンク)に書きましたのでここでは省略します.

ある、べき級数が収束半径 $R$ であるとは、$R$ より小さい任意の $r<R$ において、中心からの半径が $r$ において、級数が絶対収束するものです.

級数 $\sum_{n=0}^\infty a_nx^n$ の収束半径が $R$ とすると、この級数の項別微分 $\sum_{n=0}^\infty na_nx^{n-1}$ の収束半径も $R$ となります.

また、収束半径を求める公式があります.


公式27(収束半径)
級数 $\sum_{n=0}^\infty a_n(x-a)^n$ の収束半径 $R$ は、
$$\frac{1}{R}=\limsup_{n\to \infty}\sqrt[n]{|a_n|}$$
と計算できる.

$\limsup$ は、極限集合の中での最大のものと思ってください.

例えば、$\sum_{n=1}^\infty (-1)^{n-1}\frac{x^n}{n}$ は、$\log(1+x)$ の級数展開ですが、
この収束半径の公式を用いると、
$\sqrt[n]{\frac{1}{n}}=\frac{1}{\sqrt[n]{n}}$
の極限値を求めることになりますが、$a$ を $a>1$ なる実数とすると、
十分大きい自然数 $N$ に対して、$\forall n>N$ に対して、$1\le n<a^n$ となります.

(なぜなら、ロピタルの定理を用いて、$\lim_{n\to\infty}\frac{a^n}{n}=\lim_{n\to \infty}a^n\log a=\infty$ となりますので上のようなことが言えます.)

よって、
$\frac{1}{\sqrt[n]{n}}<\sqrt[n]{a^n}=a$
となり、任意の $1$ より大きい実数 $a$ に対して
$$1\le \sqrt[n]{n}<a$$
がいえる(ある自然数 $N$ が存在して $\forall n>N$ に対してこの不等式が成り立つ)ので、

収束半径 $R$ は、$R=1$ であることが言えます.

また、$\frac{1}{\sqrt[n]{n}}$ の収束先は簡単に下のように書くことができます.
$\lim_{n\to \infty}\log \frac{1}{\sqrt[n]{n}}=\lim_{n\to \infty}\frac{-1}{n}\log n$ となりますが、
ロピタルの定理から、この極限は $\frac{(\log n)'}{n'}$ と同じで、$\frac{\frac{1}{n}}{1}\to 0$ となります.よって、$\frac{1}{\sqrt[n]{n}}\to 1$ ということになります.


この公式だけで収束半径が計算できますが、他にも、授業中に紹介した収束半径を求める以下のような方法もあります.

すべての項 $a_n$ が non-zero であるなら、
$\sum_{n=0}^\infty a_nx^n$ の収束半径は、
$$\frac{1}{R}=\lim_{n\to\infty}\Big|\frac{a_{n+1}}{a_{n}}\Big|$$

と計算できます.

逆に、収束半径の議論から数列の極限がわかることがあります.
簡単な例で言えば、$e^x$ のべき級数展開は、
$$1+x+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\cdots$$
となり、収束半径は無限大ですが、つまり、
$\lim_{n\to \infty}\sqrt[n]{\frac{1}{n!}}$ が $0$ に収束することがわかります.
よって、
$$\sqrt[n]{n!}\to \infty$$
がわかります.