2015年4月23日木曜日

結び目の状態和とアレクサンダーコンウェイ多項式

結び目もしくは、絡み目を見て、あるイソトピー不変量を与えてみます.
結び目は成分数が1 のものをいい、絡み目は複数の成分をもつものをいいます.また、成分数を気にしないときは、どちらも合わせて絡み目ということがあります.

絡み目を適当に平面の上に置きます.置いたものは図式というのでした.例えば、前回の三葉結び目の図式を持ってきましょう.


 この図式をみてどんな不変量が取り出せるか?ということですが、ここでは、状態というものを用いて、アレクサンダーコンウェイ多項式という不変量を取り出しましょう.

状態
まず、絡み目に向きを入れておいて、下のような絵を考えます.



図式の上下の交差を無視したものを宇宙とよぶことにします.この用語は下の参考文献に習いました.宇宙に、上のように●と▲の印をつけます.●は隣り合った領域に2つだけおきます.●はどこでもいいですが、最初に決めて固定しておきます.▲は、各交差点に対して一つずつ、その4つの領域のどこか一つおきますが、●のない領域で、全体として、一つの領域に必ず一つの▲をおくというルールを課します.

このような●と▲をおいた絵のことを 状態 と呼ぶことにします.このような状態はこの宇宙にはあと2つあります.



この2つです.これらも状態の条件を満たしていますね.それぞれでてきた順番に$S_1,S_2,S_3$ と
名前を付けることにします.そうすると、$S_1,S_2$ の違いは、宇宙のの中のある線分にそって、上下にある▲を交換してやって得られていることが分かります.また、$S_2,S_3$ も同様です.それらの間の関係を書くと、
$S_1\leftrightarrow S_2\leftrightarrow S_3$
という関係になります.

 この交換をするという操作で、ある宇宙の全ての状態をつなげることができます.つまり、状態をある点とし、交換する操作でその点を結んでやると、一つのグラフ(束)を構成することができるということを意味しています.上の例だと、


となります.

 実は、このグラフにはある意味、極大のものと極小のものがただ一つずつ存在します.そのことは興味深い性質を引き出せるのですが、詳しいことは下のKauffman の参考文献に書いてあります.それに関してはここでは書かないことにします.

交差点と状態和

 宇宙に結び目の上下の情報を入れてやることで、結び目(絡み目)の不変量を取り出しましょう.上の図式の中で、交差点の上下の仕方によって



のような B, W のラベルを与えておきます.それを K と書くことにします.つまり、



ですが、宇宙にこのように B,W のラベルを書くことは、結び目の図式を書くことに対応しています.ラベルと結び目の向きから上下の交差の様子が復元できるからです.このとき、状態 $S$ に対して、
$$\langle K,S\rangle =\sigma(S)B^{x(S)}W^{y(S)}$$
のような、B, W の単項式を与えます.ここで、$x(S)$ は状態 $S$ における、▲が B を指している数、また、$y(S)$ は $S$ の▲が W を指している数です.また、$\sigma(S)$ は$(-1)^{x(s)}$ とします.また、状態の和をとることで、
$$\langle K\rangle =\sum_{S\in{\mathcal S}}\langle K,S\rangle $$
のような B, W の多項式を定義します.正確には、整数係数の多項式 ${\Bbb Z}[W,B]$ の元です.${\mathcal S}$ は状態全体の集合です.このとき、$\langle K\rangle$ は、実は上の●の取り方に依らない多項式になっています.この多項式は、もう少し面白い性質(結び目の局所変形に関するスケイン関係式)を持っていますが、またの機会に説明します.

このとき、$\langle K\rangle$ は結び目(絡み目)のイソトピー不変量にはなっていません.実際、結び目をイソトピーで動かすと、違う量になってしまうことがあります.
ようやく不変量になった!
そこで、$\langle K,S\rangle$ に $W=1/B$ を代入してやります、代数的には、${\Bbb Z}[W,B]/(BW=1)$ をしたことになります.このとき、この制限で得られた多項式は、実は、$W-B$ の多項式になっています.

$z=W-B$ と置いてやると、$\langle K\rangle$ は$z$ の整数係数多項式になります.
この多項式のことを Alexander-Conway 多項式 (アレクサンダー-コンウェイ多項式)と言います.
記号では $\nabla_K(z)$ とかきます.この多項式は結び目のイソトピー不変量となっているのです.
定理
アレクサンダーコンウェイ多項式 $\nabla_K(z)$ は絡み目(または結び目)のイソトピー不変量である.
もちろんこの定理は明らかではありませんので証明が必要です.証明が知りたければ、やはり、下のKaufman の著書を見るか、結び目の標準的な教科書には載っています.
たとえば上の結び目の場合は、

$\langle K,S_1\rangle=W^2$
$\langle K,S_2\rangle=-BW$
$\langle K,S_3\rangle=B^2$
となるので、$\langle K\rangle=W^2-BW+B^2$ となります.そこで、 $W=1/B$ としてやると、
$W^2+W^{-2}-1$ となり、$z$ の多項式で書くと、$1+z^2$ となります.この多項式は三葉結び目のアレクサンダーコンウェイ多項式です.つまり
$$\nabla_{\text{三葉結び目}}(z)=1+z^2$$
といえます.ロルフセンの記号法を用いれば、
$$\nabla_{3_1}(z)=1+z^2$$
となります.

演習問題
下の結び目のアレクサンダーコンウェイ多項式を計算せよ.


 他にも、多くの結び目がこのページ(ロルフセンテーブル)にも載っていますので、不変量を計算し、いろいろと実験してみると、何かおもしろいことがわかるかもしれません.
  1. Louis, H. Kauffman, Remarks on Formal Knot Theory, http://homepages.math.uic.edu/~kauffman/FKT.pdf
  2. The Rolfsen knot Table, http://katlas.math.toronto.edu/wiki/The_Rolfsen_Knot_Table



2015年4月17日金曜日

素数を数えよう(6)

今日は500から600の間にある素数を数えます.
14個ありますが、それほど減ったようには思えません.
しかしこの間の素数にはとんでもない秘密が隠されていた.
まずは判定法です.

31の倍数の判定法

2けたの31の倍数を覚えましょう.31, 62, 93 です.この93を使えば、3けたの数
abc
が31で割りきれるためには、a の7 倍 に bc を足したものが31で割りきれるかどうかが31で割れるための判定法です.例えば 217 は 2*7+17=14+17=31 となり、もちろん 31で割りきれます.なので、217 も31で割れます.また、小さいところでは、124なんかもすぐ31で割れることがわかりますね.例えば、500代 の31で割れる数は、527 とか、(頭の中では35+27=62 とやっているわけです) また35+58=93 だから、558 なんかも31 で割れるわけですね.


500から600 の間の素数

500代の素数には、もちろんエマープ素数や回文素数は存在しません.
サイクリックなものや入れ替えて素数になるものもそれほどありません.

特徴としてセクシー素数が 7 組も存在します.両側(400代の最大と600代の最小)も含めて
隣り合う素数のペアは全部で 15 個存在するので、この割合はすごいです.2回に1回位はセクシー素数となるということでしょうか.比較のため述べておくと、15のうち双子は 3 つ (521と523、569と571、599と601) しかいませんし、いとこも 499と503 の 組しかありません.
3つ子以上はいません.
そうかと思うと、素数の間が 10, 12, 18 など離れたペアも存在します.

500の近くの素数の分布に関して下にも面白いことをかきました.

では見ていきましょう.

503
ひとつ前の499とはいとこ.次の509とはセクシー素数

509
503とはセクシー.510代はなくて次の素数との間は 12 離れている.

521
次の523とは双子.

523
前の521とは双子.次の素数とは18離れている.

541
次の素数547とはセクシー.

547
47の数字は47,347 に引き続き3回目.次の素数まで10 離れている.

557
次の素数とはセクシー.似た素数 577 がある.

563
63の登場は163, 263,463 に引き続き4回目.次の素数とはセクシー

569
次の素数571とは双子

571
前の素数569とは双子の関係.次の素数とはセクシー.並び変えた157はエマープ素数.

577
77の登場は277以来2回目.次の素数とは10離れている.557も素数.入れ替えた757は素数.

587
87の登場は487以来2回目.次の素数とはセクシー

593
次の素数とはセクシー.

599
500代最大の素数下2けたが99の素数は199,499 以来3回目.次の素数 601 とは双子.


やはりセクシー多かったっですね.セクシーが2回連なる部分が2箇所もあったのです.
つまり、交差6、項数3の等差数列です.

557, 563, 569
587, 593, 599

その周りもさらに見てみると、奇跡的に 7 個まで全く一緒の並び方!

541 (セクシー) 547 (10離れた) 557 (セクシー) 563 (セクシー) 569 (双子) 571 (セクシー) 577
571 (セクシー) 577 (10離れた) 587 (セクシー) 593 (セクシー) 599 (双子) 601 (セクシー) 607

それに、

577 (10離れた) 587
607 (10離れた) 617

と次まで一緒です.しかし、実は、607 (111番目の素数) と 617(113番目の素数)
の間にも素数が存在します.それは 613 です.ですので、最後の2つは、隣り合う素数とまでは行きません.それらを並べてみると、607 (セクシー) 613 (いとこ) 617 となっています.

ちなみに、623 は素数ではありませんし、. 62-3*2=56 なので7で割れますね.
同じように下に伸ばそうとしても、 569 は素数ですが、539 は素数ではありません.


ばらつきに関して

ばらつきをまとめると、下のようになります.
下1けたで見ると

521 541 571
503 523 563 593
547 557 577 587
509 569 599

のようにほぼばらつきがありません.普通ですね.

次に10ずつまとめてみると、

503 509

521 523

541 547
557
563 569
571 577
587
593 599

となり、確かに上で書いたように、まとまっているところは均等に(間隔6が多い)並んでいますが、
ないところは少し広くなっています.510代と530代の2箇所も間隙が有ることも500代の素数の特徴でしょう.

2015年4月16日木曜日

結び目の科学

結び目という学問があります.筑波大でもその研究者はいますし、日本にも多くの結び目の研究者がいます.結び目というと日常生活でも電話のコードや電気の紐がからまったときに、「結び目ができてしまっているから解かないと....」 などと使ったりしてお馴染みの単語です.そんな日常的なものが数学になるのか?と思うかもしれません.それを研究するとはどういうことか?
お話します.

まずは、数学でいう結び目が何かを話します.
(結び目は数式で表すものでもないので、ちゃんと説明していると文章だらけになってしまいました.)

結び目の定義

まず、結び目とは、空間の中に埋め込まれた円周のことをいいます.埋め込まれたとは、円周自身が空間の中でぶつかったり、どこかでくっついたり、一点に縮んでしまったりしていないことを表します.また、2つの結び目が同じであるとは空間の中で、一方の結び目を、切ったり、切ったものを再びつないだりしないで空間の中で自由に動かしてやってもう一方に押しつけることができるとき、2つの結び目は同じであるといいます.この切ったり貼ったりしない空間の中の操作イソトピー(isotopy)といいます.丁度、絡まってしまったいくつかのアクセサリーを切らずに上手に解いて分離するような操作です.結び目の例として、よくある輪ゴムの形もありますが、一度輪を外して複雑に絡めておいてから再び繋いで出来るものでも構いません.普通、下のような絵がそのような結び目に対応します.


これは三葉結び目と呼ばれており、この結び目をこのように置いたときにちょうどクローバーの葉に似ているためそうよばれています.これは普通の輪ゴム(結ばれていない円周)とはちょっと違うことは直感としてわかると思います.上の言葉を使えば三葉結び目と結ばれていない円周はイソトピーでは移りあわないといいます.ではどのように違うのでしょうか?

ちなみにこのような結び目の絵を図式(diagram)といいます.結び目の線が途中で交わってもその線が上を通っているか、下を通っているかがちゃんとわかるように描かれています.下を通る線は線を一度切って表現するというのは誰が最初に考えたのでしょうか?かなり絵心のある人であることは間違いありません.

結ばれていない輪ゴムのような円周も結び目の仲間です.これは一般の感覚と違うかもしれませんが、 0 を数に含めるのと同じような理屈だと思えばきわめて自然です.結ばれていない結び目のことを自明結び目といいます.

結び目の不変量

次に、不変量を説明します、不変量全体の意味としては、ある操作で変形しても変わらない量のことです.結び目でいえば、イソトピーで変形しても変わらない量のことです.

回りくどく書けば、以下のようになります.ある量が、結び目を見たときに計算できたとします.そのとき、勝手なイソトピーで結び目を動かした後に再びその量を計算し直したとしても結局最初に計算した量と一致するとき、その量を結び目不変量といいます.

ある量が不変量であるかどうかは見極めは素朴には大変です.あらゆる動かし方を考えても変わらないことを保証する必要があるからです.結び目不変量は、結び目を動かして、見かけの様子が変わってしまっても、元の状態のことを覚えていなければならないという点で、結び目のいわく言い難い何かの性質を如実に捉えている必要があります.

見ため重視の結び目において、どれほど見かけにとらわれない量がそこから取り出せるかということが大事になのです.やはり大事なものは目に見えないという普遍的事実がここでも適用されるのです.

戻ります.結び目不変量は探すのは大変なので、不変量とならない簡単な例を最初に挙げておきます.

例えば、結び目からある図式を与えたときに、出来る平面上の区画の数を考えましょう.そうすると、上の三葉結び目の図式に対しては一番広い部分も含めて、平面は5個に分かれます.しかしこの5は結び目の不変量とはなりません.というのも、自明な結び目を




のように動かしてやると、左は平面を2個に分けていますが、右は5個に分けています.このくるくると回す操作は輪ゴムを切ったりしない操作(イソトピー)で実現できますので、やはりこの量は不変量とはならないという結論になるわけです.

もちろん結び目を文字通り「見てわかるもの」でなくても結び目から取り出したある性質(および量)がその結び目の空間の中での変形操作によらないものであればよいのです.要するに結び目全体において、イソトピーで移りあう結び目同士は同じ値に行くような関数のようなものだと捉える事ができます.

このように、結び目を不変量を通して見てやると、はっきりと真偽の結論がつけられる話題が提供できるという点で、結び目が科学の一部であることが得られました.

では、結び目不変量はどう作るのでしょうか?(次回)

2015年4月3日金曜日

乗法的関数とゼータ関数

ひとつ前のblogで乗法的関数とメビウスの反転公式について説明しましたのでディリクレ級数やゼータ関数の関係させて書きます.

ディリクレ級数

$f(n)$ を関数とします.
このとき、
$$F(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{f(n)}{n^s}$$
と定義します.これをディリクレ級数と言います.これは関数 $f(n)$ のある意味数論的母関数と呼ぶべきものです.$f(n)$ の全ての値を含んでいるからです.このような級数として最も簡単なものとしてゼータ関数 $\zeta(s)$
$$\zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^s}$$
がありますが、これは定数関数 $\text{id}(n)=1$ に対するディリクレ級数です.
ディリクレ級数は複素平面上の関数であり、その収束域が気になります.
収束域は、 $\text{Re}(s)=:\sigma$ が $\sigma\ge \sigma_0$ なるところで考えることが多く、べき級数での収束半径ならぬ、収束軸 $\{\sigma_0+it|t\in {\Bbb R}\}$ が存在します.その軸より右の領域 $\text{Re}(s)>\sigma$ では、絶対収束や広義一様収束が成り立ちます.
収束域の中では正則な関数となり、解析接続を行えば複素平面上において極以外で正則な関数として振舞うことは普通のべき級数と同じです.
これらは解析的な側面ですが、ここでは数論的な側面について解説します.

オイラー積展開
 よく知られているゼータ関数のオイラー積展開は
$$\zeta(s)=\prod_{p}\left(1+\frac{1}{p^s}+\frac{1}{p^{2s}}+\cdots\right)=\prod_p\left(1-\frac{1}{p^s}\right)^{-1}$$
ですが、関数 $f(n)$ として、数論的な乗法的関数 $f(n)$ の母関数 $F(s)$ を考えると、
$$F(s)=\prod_p\left(1+\frac{f(p)}{p^s}+\frac{f(p^2)}{p^{2s}}+\cdots\right)$$
のように素数の積の形に直すことができます.$f(n)$ が完全乗法的(つまり、$n,m$ が 互いに素でなくても $f(nm)=f(n)f(m)$ が成り立つ乗法的関数)であれば$\prod_p\left(1-\frac{f(p)}{p^s}\right)^{-1}$ と素数 $p$ の値 $f(p)$ にしか依らない形にまで直すことができます.完全乗法的でない乗法的関数であれば $f(p^n)$ が $n$ によって指数的とは限りませんので、その振舞い方の情報もいるというわけです.例えばメビウス関数 $\mu(n)$ は任意の素数に対して $f(p)=-1$ ですが $f(p^2)$ 以降は消えてしまいます.
大事なことは、乗法的関数は母関数を素数によったなんらかの関数の積の形に直すことができるということです.乗法的でなければ一般には素数によった積に直すこともできません.

母関数の積の母関数
 
 $f(n),g(n)$ に対する母関数を $F(s),G(s)$ とします.このとき、積 $F(s)G(s)$ は
$$F(s)G(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{f(n)}{n^s}\sum_{m=1}^\infty\frac{g(m)}{m^s}=\sum_{n,m=1}^\infty \frac{f(n)g(m)}{(nm)^s}=\sum_{k=1}^\infty\frac{1}{k^s}\sum_{n|k}f(n)g(\frac{k}{n})$$
となります.つまり、$F(s)G(s)$ は
$$F(s)G(s)=\sum_{n=1}^\infty \frac{f\ast g(n)}{n^s}$$
となります.つまり、畳みこみ $f\ast g(n)=\sum_{d|n}f(d)g(\frac{n}{d})$ の母関数になるのです.
このとき、これらの関数は $f(n),g(n)$ が乗法的かどうかは関係ありません.

どうして数論においてディリクレ級数を使うのか?

まず畳みこみの積と関数の積がどうして対応するのか考えます.例えばべき級数展開の場合、$z^n$ と $z^m$ をかけた時には指数法則で $z^{n+m}$ となります.つまり2つのべき級数を掛けてまとめた時には各項は $\sum_{n+m=k}$ となる和が現れます.しかし、ディリクレ級数の場合は、$n^{-s}$ と$m^{-s}$ をかけた時には指数法則は使わず単に $(nm)^{-s}$ とまとめられます.つまり、2つのディリクレ級数をかけると、各項には、$\sum_{nm=k}$ なる和が現れるのです.つまり、$k$ を固定したときに $k$ の約数にわたる和を求めることになるのです.約数倍数に関する話はやはり数論にかかわるはずです.これがディリクレ級数が数論で多く登場する理由です.

話を元に戻します.$f(n)$ のメビウス変換を $g(n)$ とします.つまり、$g(n)=\sum_{d|n}f(d)$ です.
このとき、$f(n), g(n)$ の母関数を $F(s),G(s)$ とすると、上の式を用いれば、$\zeta(s)$ は定数関数 $1$ に関する母関数でしたから、
$$G(s)=F(s)\zeta(s)$$
となります.また、メビウスの反転公式が意味するところは
$$F(s)=G(s)M(s)$$
が言えるのです.ここで、$M(s)=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$ とおきました.
つまり、$\zeta(s)M(s)=1$ となります.
これは、前回の等式
$$\sum_{d|n}1\cdot\mu(\frac{n}{d})=\Delta(n)=\begin{cases}1&n=1\\0&n\neq 1\end{cases}$$
を母関数のレベルでみたものです.$\Delta(n)$ の母関数は $1$ です. よって、
$$\frac{1}{\zeta(s)}=\sum_{n=1}^\infty\frac{\mu(n)}{n^s}$$
成り立ちます.つまりメビウス関数 $\mu(n)$ はゼータ関数の逆数をディリクレ級数展開したときにあらわれる係数だったのです.

少し遊んでみると、

恒等関数 id の母関数は
$$\sum_{n=1}^\infty\frac{n}{n^s}=\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n^{s-1}}=\zeta(s-1)$$
となります.

$$\zeta(2s)=\prod_{p}\left(1-\frac{1}{p^{2s}}\right)^{-1}$$
ですから、$\zeta(2s)$ は
$$f(n)=\begin{cases}1&n\text{が平方数}\\0&n\text{が平方数ではない}\end{cases}$$
なる完全乗法的関数の母関数となります.よって、
$$\frac{\zeta(s)}{\zeta(2s)}=\frac{\prod_{p}\left(1-\frac{1}{p^{2s}}\right)}{\prod_{p}\left(1-\frac{1}{p^{s}}\right)}=\prod_{p}\left(1+\frac{1}{p^s}\right)=\sum_{n=1}^\infty\frac{|\mu(n)|}{n^s}$$
となり、関数 $|\mu(n)|$ の母関数は$\frac{\zeta(s)}{\zeta(2s)}$ となります.

また、畳みこみの積 $1\ast 1=d$ からただちに
$$\zeta(s)^2=\sum_{n=1}^\infty \frac{d(n)}{n^s}$$
が成り立ちます.

ゼータ関数を微分してやると
$$\zeta(s)'=-\sum_{n=1}^\infty\frac{\log(n)}{n^s}$$
となりますが、$\log(n)$ はフォン-マンゴルト関数 $\Lambda(n)$ のメビウス変換でしたので、逆変換をしてやって
$$\zeta(s)'M(s)=-\sum_{n=1}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s}$$
が成り立ちます.よって、
$$\log(\zeta(s))'=\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)}=-\sum_{n=1}^\infty \frac{\Lambda(n)}{n^s}$$
となります.
よって、数論的関数の母関数の微分は再び数論的関数の母関数にはなりません.

乗法的関数とメビウスの反転公式

ここでは、$n$ は正の整数のことを表すとします.また、$d$ で $n$ の約数、$p$ で任意の素数を表すことにします.オイラー関数 $\varphi(n)$ は $n$ と互いに素な正の整数の個数として定義されます.つまり、
$\varphi(n)=\#\{k\in{\Bbb N}|\gcd(k,n)=1\}$
です.そうすると、$n$までの数を正しく見てやることで
$$n=\sum_{d|n}\varphi(d)$$
が成り立ちます.この和は、$n$を割り切る正の整数 $d$ 全体をわたって足すということを意味します.このオイラー関数は
$$\varphi(n)=n\sum_{p|n}(1-\frac{1}{p})$$
と書き表すことができますので、(数論的な)乗法的関数です.数論的な乗法的関数 $A$ とは、互いに素な $n,m$ があったときに
$$A(nm)=A(n)A(m)$$
が成りたつことをいいます.乗法的関数 $f(n)$ があったときに、基本的かつ重要な性質は、
$$g(n)=\sum_{d|n}f(d)$$
と新しく関数 $g(n)$ を定義しても $g(n)$ が乗法的関数であることです.
これは、互いに素な数の積 $nm$ の中の任意の約数は、$n,m$のそれぞれの約数をいくつか取ってかけて一意的に得られているから当然です.
また、恒等関数 $\text{id}(n)=n$ や定数関数 $1(n)=1$ も明らかに乗法的関数となります.
メビウス関数 $\mu(n)$ は、
$$\mu(n)=\begin{cases}0&n\text{に平方因子が存在する.}\\(-1)^k&n=p_1\cdots p_k\text{ここで、$p_1,\cdots,p_k$ は相異なる素数}\\1&n=1\end{cases}$$
と定義しますと、実はメビウス関数は数論的乗法関数になっています.証明は略します.
このとき、$\sum_{d|n}\mu(d)$ の値は
$$\Delta(n)=\begin{cases}1&n=1\\0&n\neq 1\end{cases}$$
となります.$n=1$ のときは明らかに成り立ち、$n\neq 1$ のときは、素べきの場合をやれば十分ですが、$\sum_{d|p^a}\mu(d)=1+\mu(p)=0$ より、上が成り立ちます.
このとき、有名なメビウスの反転公式を紹介します.
定理(メビウスの反転公式)
$f(n)$を乗法的関数とする.このとき、以下が成り立つ.
$$g(n)=\sum_{d|n}f(n)\Leftrightarrow f(n)=\sum_{d|n}\mu(\frac{n}{d})g(d)$$
この右の右辺を $\mu\ast g(n)=\sum_{d|n}\mu(\frac{n}{d})g(d)$ と書くことにします.
この積 $\ast$ を畳みこみと呼ぶこともあります.つまり、全ての約数に関する和によって得られる関数は
$$(1\ast f)(n)$$
とかくことができます.乗法的関数全体は積 $\ast$ に関して全ての関数のなかで部分可換群をなします.そのとき、$\text{id}$ や $1$ は単位元ではなく、関数 $\Delta$ が単位元となります.

$\Rightarrow$ を証明すると、
$\sum_{d|n}\mu(\frac{n}{d})f(d)=\sum_{d|n}\mu(\frac{n}{d})\sum_{c|d}f(c)$
$f(c)$ ごとにまとめておけば、
$\sum_{c|n}f(c)\sum_{d|\frac{n}{c}}\mu(\frac{n}{d})=\sum_{c|n}f(c)\sum_{\frac{d}{c}|\frac{n}{c}}\mu(\frac{n}{d})$
$$\sum_{\frac{d}{c}|\frac{n}{c}}\mu(\frac{n}{d})=\sum_{b|\frac{n}{c}}\mu(b)=\begin{cases}1&n=c\\0&n\neq c\end{cases}$$
より、$\sum_{d|n}\mu(\frac{n}{d})f(d)=f(n)$ がなりたちます.
逆は略します.
ここでは、乗法的関数の変換 $f(n)\rightarrow g(n)$ をメビウス変換(Möbius transform)、その逆 $f(n)\leftarrow g(n)$ を逆メビウス変換(inverse Möbius transform)ということにします.つまり、メビウス変換は $g=1\ast f$ であり、逆メビウス変換は $f=\mu\ast g$ です.なので、$1\ast \mu=\mu\ast 1=\Delta$ が成り立ちます.

メビウス変換は複素平面上の一次分数変換にも用いますので注意が必要なのですが、状況として用語が被ることはないと思いますのでこのまま続けます.
例えば、先ほどのオイラー関数を $f(n)=\varphi(n)$ とすると、メビウス変換は
$$1\ast \varphi(n)=\text{id}(n)$$
となります.また、恒等変換に対しては、
$$1\ast\text{id}(n)=\sigma(n)=\sum_{d|n}d$$
となります.$\sigma$ は約数の総和の関数です.
定数関数に対しては
$$1\ast 1(n)=d(n)$$
となります.$d(n)$ は約数の個数の関数です.
$d(n)$ は $n=p_1^{n_1}\cdots p_{r}^{n_r}$ と素因数分解しておけば、
$$d(n)=\prod_{i=1}^r(n_i+1)$$
と表すことができますので、乗法的関数であることも確かめられます.

また、フォン-マンゴルト関数 $\Lambda(n)$ を
$$\Lambda(n)=\begin{cases}\log p& n=p^m\\0&n\neq p^m\end{cases}$$
として定義しておきます.$p^m$ は何らかの素数べきのことです.$\Lambda(n)$ は乗法的ではありませんが、
この関数をメビウス変換をすると完全加法的である対数関数 $\log(n)$ になっています.つまり、
$$\log(n)=1\ast\Lambda(n)=\sum_{d|n}\Lambda(d)$$
が成り立ちます.これは$d$ として $n$ に含まれる各素因数のべきについて和をとればいいわけですからすぐわかりますね.

2015年4月2日木曜日

素数を数えよう(5)

今日は401から499までの素数を数えます.
全部で17個あります.301から399までは16個だったのに対してむしろ増えています.
300代で少し散らばったかと思いましたが少し盛り返しました.
3つ子素数が2つ(一部ovelap しているがその差が4,2,4なので4つ子素数ではない)もあって少しばかり子だくさんと言えるでしょう.

400代なのでいつもながら回文やエマープなどは登場しません.
400代まで来ると、もう普通の感覚はなくなります.素数なのかそううじゃないのかの感覚を研ぎ澄ますのはここからが本当の勝負かもしれません.

29の倍数の判定法
小さい方から29, 58,87,116  ..
ですが、3けたの数を
abc
としたときに a, bc とわけて、a の3倍とbc の2倍の差が29で割れるとき、abcは29で割れます.
または、aにbcの9倍を足したときに29で割れるときもabcは29で割れます.2けたで9の数を書けるのは暗算をトレーニングしている人ならすぐですが、普通の人なら少々大変です.
203は29で割れます.58から連想して、406も29で割れますね.
平方数
 平方数を小さい方からまとめておきます.
    1,       4,       9,     16,     25,     36,     49,     64,     81,   100,
121,   144,   169,   196,   225,   256,   289,   324,   361,   400,
441,   484,   529,   576,   625,   676,   729,   784,   841,   900,
961, 1024, 1089, 1156, 1225, 1296, 1369, 1444, 1521, 1600

どの数まで判定したよいか考えましょう.1000のルートは大体31とちょっとということですね.

401から499までの素数


401
前の素数397とはいとこ.

409
109からの久しぶりの下2けたが09の素数.非素数感漂うが、40,9と分割して40-18は7で割れない.4,09と分割して4を2倍、4倍しても17,13で割れるような数が作れないからすぐに 2,3,5,7,11,13,17で割れない.19,23だが、23の2乗は500を超えるので可能性としては19.判定条件はなんだっけ...と考えるが、409-19=390だが、ここには19の因子は明らかにない.よって素数決定.
平方数(4,81,324) の和.次の素数まで10.

419
次の素数 421 と双子.平方数(9,49,361)の和.

421
419 と双子.42,21と割り切れそうな組み合わせだが素数.それぞれの位が1,2,4と2倍ずつされている.しかし、4けたの8421は明らかに21で割れる合成数.平方数(16,81,324) の和.次の素数まで10.

431
次の素数433 と双子.421から10個はなれた素数.一瞬11で割れそうだが、それは341の間違い.

433
431 と双子.439とはセクシー.近くに似たような素数443もある.平方数(9,100,324) の和.

439
443とはいとこ.433とはセクシー.39というのも比較的素数が多かった.139, 239など.

443
449とはセクシー.ぞろ目の一つ手前.433も素数だったことをお忘れなく.しかし343は7の3乗.平方数(1,1,441) の和.

449
443とセクシー.平方数(25,100,324) の和.

457
461といとこ. (457,461,463) は22番目の3つ子素数.平方数(36,196,225) の和.平然とした素数.合成数の気もするし....もう.

461
457といとこ.463と双子.(461,463,467) は23番目の3つ子素数.4と6を入れ替えた641も素数.平方数(4,16,441) の和.

463
467といとこ.どことなく、46,63と合成数から作られているので間違うがれっきとした素数.

467
463といとこ.またしても67のつく素数.67,167,367に引き続き4回目.次の素数まで12離れた.平方数(1,25,441) の和.

479
下2けたが79素数は定番になりつつある.79,179,379 に引き続き4回目の登場.

487
491とはいとこ.忙しいとき、さっさと合成数と思いたいところだが、大事な大事な素数様.

491
91は素数感たっぷりの非素数だったが、491ははれて素数.並び変えた149も素数だった.平方数(1,49,441) の和.

499
400代最大の素数.199,299 に引き続き素数となった.次の素数503とはいとこ.平方数(9,49,441) の和.

全体としてのばらつき

1けたの位でまとめる
401, 421, 431, 461, 491
433, 443, 463
457, 467, 487,
409, 419, 439, 449, 479, 499

9の位がやたら多い.すぐ3で割れると分かる429,459,489と7の倍数の469を除き全て素数.

10ごとまとめると

401, 409,
419,
421,
431, 433, 439,
443, 449,
457,
461, 463, 467,
479,
487,
491, 499

比較的ばらついているように見えるが、唐突に現れる双子、3つ子の連続やいとこなどで、密集地帯もやや存在する.