2014年5月29日木曜日

対称群とその自己同型

群とは、大学で初めて習う数学の中で、大変興味深い対象のひとつです。
有限単純群の分類、群の表現、リー群、幾何構造、対称空間など
関係する話題は多く、
現代数学の隅々まで群が行き届いています。
群なしでは数学をすることさえできないくらいです。

筑波大でも群について世界的な研究をしている先生は多くおり、
群の研究を行なおうとするのに最適と思われます。

私は群は大学一年生の線形代数かなにかの授業で習い、
高尚な数学的対象に萌えたのを覚えています。

ところで、$n$次対称群 $S_n$ は$n$点の集合 $[n]:=\{1,2,3,\cdots,n\}$ 上の
全単射をなす自己写像、つまり、
$$S_n=\{f:[n]\to [n]|f:\text{全単射}\}$$
ですが、これは、$[n]$の並び替えというわけで、置換といいます。
$n$点のうち、2点を入れ替え、それ以外を固定する置換を互換といいます。

交代群 $A_n$ (偶数回の互換でかけるもの全体)は部分群をなしています。
これは、非自明な(自分自身と単位元以外にない)正規部分群です。
群$G$ の正規部分群 $H$ とは$H\triangleleft G$と書きますが、
任意の$g$に対して、$gHg^{-1}=H$を満たすものです。

ただ、$A_n$ $(n\ge 5)$ にはさらに、正規部分群がないこともよく知られており、
5次以上の方程式の解の公式が作れないことの理由がここにあります。

置換群の研究は古くから盛んにされています。
(1.)の本によると、20世紀初頭は置換群の研究が代数学の中心をしめていたようです。

ところで、本(1.) は最先端の事柄も載っているが、クラシカルなことも
充実しており、例も豊富でかなり読み応えがある。
特に、閑話休題とされたコラムが格別面白い。
表現論を志すなら一通り読むことをお勧めします。

[閑話休題]
(1)に出ている他の置換群の100年まえの結果として、以下を挙げています。

(a) $n\ge 3$かつ $n\neq 6$ において、交代群 $A_n$ の任意の自己同型は
$S_n$ のある自己同型の制限で得られる.
つまり、$Aut(S_n)\cong Aut(A_n)$ である。

や、

(b) $n\ge 2,\neq 6$ ならば、$S_n$ の自己同型は全て内部自己同型であって、
$Aut(S_n)=S_n$ である。

内部自己同型$Int(G)$とは、 $S_n$ の元 $\tau$ を使って、
$\sigma\mapsto \tau\sigma\tau^{-1}$ となる自己同型全体であり、群をなします。
置換群であれば、全ての元と交換できる元は単位元しかない(中心が自明)ので、
$Int(S_n)\cong S_n$ がなります。

また、

(c) $n=6$ のとき、$|Aut(S_6):Int(S_6)|=2$ であって、
$Aut(A_n)\neq S_6$.
結局自己同型全体は、$S_6$ と位数2の巡回群の半直積になる。

参考文献(1.)や鈴木先生の本(3.)によると、この $n=6$ の例外は有限群論全体に
大きな影響をあたえ、理論を難しくしているらしい。

$n=6$のとき、位数2の元
$\kappa_1=(1,2)(3,4)(5,6),\ \kappa_2=(1,4)(2,5)(3,6),\ \kappa_3=(1,2)(3,5)(4,6)$
$\kappa_4=(1,4)(2,3)(5,6),\ \kappa_5=(1,2)(3,6)(4,5)$

をとると、まず、これらは$S_6$を生成しています。(証明略)

$S_6$ の生成元 $s_1=(1,2),s_2=(2,3),\cdots,s_5=(5,6)$ とし、
写像 $\Gamma:S_6\to S_6$ を、$\Gamma(s_i)=\kappa_i$ を満たすものとすると、

$\Gamma$は実は自己同型を与えています。(証明略)
そのとき、明らかに $\Gamma$ は外部自己同型を与えています.

$n=6$ のときにだけ、なぜこのような外部自己同型が存在するのか
上手く説明することはできるだろうか?

また、$S_6$には、非自明な $S_5$ の埋め込みがあることもよく
知られており、下のブログ
http://cp4space.wordpress.com/2012/11/24/outer-automorphism-of-s6/
にそのエレガントな方法が書かれています.
絵をここで書くのは面倒なので....
上のリンクの中に書かれている6点と15本からなる辺で
書かれたグラフの辺に図のような5色の配色をしています。

このとき、6角形のいくつかの鏡像はグラフの配色を置換しますが、
グラフの頂点を入れ替える他の変形
(例えば一点を固定するようなものとか)も再びこのグラフの配色が
置換されるものもあります。これらを取っていくと、
6点の置換を使って、5色を入れ替える置換を実現することができます。
つまり、非自明な埋め込み$S_5\hookrightarrow S_6$ が現れます。

自明な埋め込みとは、$n$点のうちの一点を固定する$n-1$点の置換としての
うめこみ、$S_{n-1}\hookrightarrow S_n$ のことです。

幾何的実現する方法としてもあります。
正20面体は12個の頂点を持ちますが、
その対角線は中心を通る6本の線分です。
$A_5$は正20面体群で、20面体を保ちますから、この6本の対角線全体も
保ちます。
6点集合上に、$A_5$ が作用していることになります。
つまり、$A_5\hookrightarrow A_6$がつくれます。

また、他の方法では、$PSL(2,5)$ が$A_5$に同型であることを使って、
${\Bbb F}_5$を体とした射影平面の6点に
一次分数変換で作用することもできます。

このような変な埋め込みがあることも、外部自己同型が
存在するための状況証拠になりうるわけです。
この埋め込みから実際外部自己同型を構成してみせるのは
(少なくとも私には)大変ですが。

置換群の射影表現を線形表現に直すときも$n=6$において、
特殊なことがおこる。(ふたたび(1.)や(2.)をみよ)

まとめると、置換群では$S_6$だけイレギュラーな性質をもつことがわかります。
6人であみだくじをやる時は少々の注意が必要かもしれません。

これは何を意味しているのか?
群について勉強していけばこの辺のことがはっきりとわかるかもしれません。
鈴木先生の言葉どおり、このことが有限単純群の分類にどう影響したのでしょうか?

このような素朴な疑問を解明したくて、群の勉強の動機とするのもよいと思います。
個人的には、4次元の何か構成に使いたいなぁという感じですが...

[参考文献]
  1. 平井武、山下博、表現論入門セミナー, 遊星社
  2. I. Schur , Über die Darstellung der symmetrischen und der alternierenden Gruppe durch gebrochene lineare Substitutionen, ibid., 139(1911), 155-255
  3. 鈴木通夫、群論(上下)、岩波書店

P.S.昨日は、出張で東京に行っていたので手習い塾には行けませんでしたが、
来週は行く予定にしています。

2014年5月26日月曜日

べき乗和の話

先週の手習い塾で学生が言っていたこと.

べき乗和を

$\sigma_m(n)=\sum_{k=1}^nk^m$ とおきます。

このとき、べき乗和の公式は高校数学でもよく知られている.
$\sigma_1(n)=\frac{1}{2}n(n+1)$
$\sigma_2(n)=\frac{1}{6}n(n+1)(2n+1)$
$\sigma_3(n)=\frac{1}{4}n^2(1+n)^2$

ですが、一般に、ベルヌイ数 $B_j$ を用いて、

$\sigma_m(n)=\frac{1}{m+1}\sum_{j=0}^m\binom{m+1}{j}B_jn^{m+1-j}$  (Faulhaber's formula)

となることも知られています.

さらに、wikipediaを調べてみれば、べき乗和 $\sigma_m(n)$の形に関する
ファウルハーバーの面白い定理があります。

$\sigma_m(n)$は $m$ が奇数のときは $\sigma_1(n)$ の多項式になり、
$\sigma_m(n)$は $m$ が偶数の時は $\sigma_2(m)$ で割り切れ、その商は $\sigma_1(m)$ の多項式になる.

ところで、ファウルハーバーは17世紀のドイツの数学者(5 May 1580 – 10 September 1635)で、
この時代にべき乗和を17次まで公式を与えるなど膨大な計算をしていたようです。
同年代では、フェルマー(フランス17 August, 1601 or 1607 – 12 January 1665)がいますが、
もしかしたら2人は交流があったかもしれません。


手習い塾で話していたことは以下のような話です。

$\sigma^2_m(n)=\sum_{k=1}^n\sigma_m(k)$
$\sigma^p_m(n)=\sum_{k=1}^n\sigma^{p-1}_m(k)$ とおきます。

このとき、$\sigma_m^p(n)$ がどのような多項式になるかということが問題ですが、
整数論などではおそらくこのような研究はよくされているようです。

mathematicaなどで計算させてみると、
$\sigma_1^p(n)=\frac{1}{(p+1)!}\prod_{l=0}^{p}(n+l)$
となることがわかります.
つまり、

$\sigma_1^1(n)=\frac{1}{2!}n(n+1)$
$\sigma_1^2(n)=\frac{1}{3!}n(n+1)(n+2)$
$\sigma_1^3(n)=\frac{1}{4!}n(n+1)(n+2)(n+3)$
$\cdots$

となります。つまり、$\sigma_1^m(n)=\binom{m+n}{m+1}$ ですね。
(証明はどうやるのか知りませんが)

他の場合も調べると、
$\sigma_m^p(n)$ は$\sigma_1^p(n)$ で割り切れそうです.
つまり、

$\frac{\sigma_m^p(n)}{\sigma_1^p(n)}$ は多項式のようですが、
どのように書けるでしょうか?

$m=3$ の場合にやってみると、
$\sigma_1^3(n)=1\times \sigma_1^3(n)$
$\sigma_2^3(n)=\frac{1}{5}(2n+3)\times \sigma_1^3(n)$
$\sigma_3^3(n)=\frac{1}{5}(n^2+3n+1)\times \sigma_1^3(n)$
$\sigma_4^3(n)=\frac{1}{35}(2n+3)(2n^2+6n-1)\times \sigma_1^3(n)$
$\sigma_5^3(n)=\frac{1}{14}(n^2+2n-1)(n^2+4n+2)\times \sigma_1^3(n)$
$\sigma_6^3(n)=\frac{1}{210}(2n+3)(5n^4+30n^3+35n^2-30n+2)\times \sigma_1^3(n)$


ところで、上記の
Faulhaber( http://en.wikipedia.org/wiki/Johann_Faulhaber)は、

$\sigma^p_{2m}(n)$ は($N_p:=(n^2+pn)/2$の多項式)$\times \sigma^p_2(n)$ の形をしており、
$\sigma^p_{2m+1}(n)$ は($N_p$の多項式)$\times \sigma^p_1(n)$ の形をしている

のような驚くべき結果を証明しています。
私は詳細は知りませんが下の参考文献(5)にそのシンプルで自然な方法が
詳しく書いてあります。

べき乗和に関しては現代まで多くの研究がされており、
ネットでも探して見ると面白い結果が見つかるのではないでしょうか。

現代のファウルハーバーになるべく、mathematicaでいろいろと実験して探索していけば、
新しい公式が生まれるかもしれませんね。

[参考文献]
  1. J. Faulhaber, Academia Algebrae - Darinnen die miraculosische Inventiones zu den höchsten Cossen weiters continuirt und profitiert werden. A very rare book, but Knuth has placed a photocopy in the Stanford library, call number QA154.8 F3 1631a f MATH
  2. Donald E. Knuth, Johann Faulhaber and Sums of Powers,
  3. A.F.Beardon, Sum of power of Integers, Amer. Math. Monthly 103 (1996), no. 3, 201–213.
  4. Edwards, A. W. F. A quick route to sums of powers. Amer. Math. Monthly 93 (1986), no. 6, 451–455
  5. Knuth Donald, Johann Faulhaber and sums of powers. Math. Comp. 61 (1993), no. 203, 277–294.




 

2014年5月23日金曜日

5/21に第一回手習い塾(筑波大学数学類)が開かれました.

何人かの学生が部屋(1E403)に来て先生に質問をしていきました.
私の見た限り、5人の先生が来室しました.

学生が何人か勉強をしていました.

とある新入生に、部屋の前の方で、彼が高校のころ考えていたことについて
教えてもらっていました.
数学に意欲的な新入生がおり、大変うれしく思います.

彼は、高校のころに習った、(m項間の線形な)漸化式から一般項を出すという問題を
一般化し、特性方程式に重解をもつ場合も含めて一般項の間に成り立つ関係式
を出したようでした.

T先生は「これはシューア関数と関係がある」とおっしゃって図書館に出ていかれました.

というわけで、シューア関数の定義を復習すると、以下のようになります.
私は専門家ではありませんのでこれ以上はわかりません.

$\alpha_1> \alpha_2> \cdots > \alpha_n\ge0$
となる整数減少列を$\alpha$とおき、
$x^\alpha=x_1^{\alpha_1}x_2^{\alpha_2}\cdots x_n^{\alpha_n}$ とします.

このとき $\delta=(n-1,n-2,\cdots,1,0)$ のような減少列をとり、
$\lambda=\alpha-\delta$ とおくと、$\lambda$ はある分割を与えます.
この引き算は成分同士引きます.
つまり、$\lambda=(\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_n)$ は
$\lambda_1\ge \lambda_2\ge \cdots\ge \lambda_n$ となる狭義減少列.

$a_\alpha=a_\alpha(x_1,x_2,\cdots,x_n)=\sum_{w\in S_n}\epsilon(w)\cdot w(x^\alpha)$
とおくと、この $a_\alpha$ は交代式になります.
ここで、$S_n$ はn 次対称群、$\epsilon(w)$ は $w$ の符号、$w(x^{\alpha})$ は
多項式における、不定元を $S_n$ によって入れ替える作用.

そこで、 $\Delta$ を差積、つまり、$\prod_{i<j}(x_i-x_j)$としておくと、分割$\lambda$に対して、
定まる$s_\lambda=a_{\alpha}/\Delta$をシューア関数といいます.

シューア関数は基本対称式を含むような対称式クラスです.
詳しくは、I.G.MacDonaldのSymmetric Functions and Hall Polynomials

このような高度な議論だけではなく、数学手習い塾では数学に関するあらゆる相談、質問など
どしどし受け付けております.

ちなみに来週は私は出張なので、手習い塾には来られません.
このブログは手習い塾やその他、数学に関する疑問など、学生から受けたものを
書く予定.(まだ続くかどうかわからない.)

教官の皆様も、コーヒーなどもって手習い塾にのぞきに来ていただければと思います.

2014年5月12日月曜日

数学手習い塾のお知らせ

今年度から、筑波大学数学類において、数学の学習サポートとして、数学手習い塾が開塾されます.

時間:水曜日5-6限
期間:春学期、秋学期、期間内(5/21~)
場所:1E403
対象:数学類1.2年生

これは、数学の演習や講義のみならず、数学に関する様々な疑問や質問に答える学習サポートです.院生がメインになって学類生の相談を受けますが、教官もこの部屋に来て、教えることがあります.建前上、数学類1,2年生の学習サポートですが、私もこの部屋に行く予定なので、トポロジー演習の授業、もしくは演習の質問に答えることができます.もちろん、他の質問をしていただいてもかまいません.答えられる範囲で答えます.